説明

トランス部品

【課題】巻線間の磁気結合の効率が良く、周波数特性の良好なトランス部品を提供することにある。
【解決手段】トランス部品100は、磁性コア10と、磁性コア10の巻芯部10aに巻回された第1乃至第4の巻線11〜14を備えている。同一ターンにおける、第1の巻線11と第3の巻線13の線径方向の距離と、第1の巻線11と第4の巻線14の線径方向の距離と、第2の巻線12と第3の巻線13の線径方向の距離と、第2の巻線12と第4の巻線14の線径方向の距離は実質的に等しい。このように、同一ターンにおける一次側巻線と二次側巻線との距離が実質的に等しいことから、高い磁気結合を得ることができ、良好な周波数特性を得ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルストランス等のトランス部品に関し、特に、トランス部品の巻線構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インターネット、LAN(Local Area Network)等の通信分野における通信の高速化・大容量化の流れは加速している。その背景には、伝送信号のデジタル化に伴う新たな伝送方式やIC(集積回路)の多岐にわたる開発がある。その中でも通信用のパルストランス(広帯域伝送トランス)は通信システムに必要不可欠な電子デバイスのひとつであり、通信技術の飛躍的進化に対応した特性が要求されている。
【0003】
図17は、従来のパルストランス500の構成の一例を示す略外観斜視図である(特許文献1参照)。
【0004】
図17に示すように、このパルストランス500は、トロイダルコア41に一次側巻線42及び二次側巻線43が巻回された構造を有している。一次側巻線42は第1及び第2の巻線11、12からなり、第1の巻線11の一端11aは一次側巻線42の一方の入力端子を構成すると共に、第1の巻線11の他端11bと第2の巻線12の一端12aとが結線されて一次側巻線42の中点を構成しており、第2の巻線12の他端12bは一次側巻線42の他方の入力端子を構成している。また、二次側巻線43は第3及び第4の巻線13、14からなり、第3の巻線13の一端13aが二次側巻線43の一方の出力端子を構成すると共に、第3の巻線13の他端13bと第4の巻線14の一端14aとが結線されて二次側巻線43の中点を構成しており、第4の巻線14の他端14bは二次側巻線43の他方の出力端子を構成している。
【0005】
しかしながら、トロイダルコア41への巻線作業は非常に煩雑であり、自動化が困難であるという問題がある。また、巻線同士の結線によって複雑な配線状態となるため、特性のばらつき、信頼性の低下といった問題がある。また、複雑な配線状態となるため、製品の小型化が困難であるという問題もある。
【0006】
一方、巻線作業が容易な磁性コアとしてドラムコアが知られている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、ドラムコアを用いた場合であっても、巻線方法によっては巻線間の磁気結合が不十分となり、良好な周波数特性が得られないことがあった。
【特許文献1】特開平7−161535号公報
【特許文献2】特開2003−100531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、通信の高速化・大容量化に伴い、パルストランスにも飛躍的進化が要求されている。パルストランスは、信号の広帯域伝送特性が良好であり、且つコモンモードノイズを十分に遮断できることが望ましい。そのためには、周波数特性を向上させ、高周波デジタル信号波形の再現性が高いことが必要となる。
【0008】
したがって、本発明の目的は、巻線間の磁気結合の効率が良く、周波数特性の良好なトランス部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、同一ターンにおける各巻線の位置関係が周波数特性に影響を与えることを見出した。本発明は、このような技術的知見に基づきなされたものである。
【0010】
すなわち、本発明の上記目的は、一次側巻線を構成する第1及び第2の巻線と、二次側巻線を構成する第3及び第4の巻線と、第1乃至第4の巻線が巻回された磁性コアとを備え、同一ターンにおける、第1の巻線と第3の巻線の線径方向の距離と、第1の巻線と第4の巻線の線径方向の距離と、第2の巻線と第3の巻線の線径方向の距離と、第2の巻線と第4の巻線の線径方向の距離とが実質的に等しいことを特徴とするトランス部品によって達成される。
【0011】
本発明によれば、同一ターンにおける一次側巻線と二次側巻線との距離が均一であることから、流れる信号に位相のずれがほとんど生じない部分において磁気結合を高めることが可能となる。これにより、トランスの周波数特性の向上を図ることができる。
【0012】
本発明においては、同一ターンにおいて、第1の巻線と第3の巻線とが接触し、第1の巻線と第4の巻線とが接触し、第2の巻線と第3の巻線とが接触し、第2の巻線と第4の巻線とが接触していることが好ましい。これによれば、同一ターンにおける一次側巻線と二次側巻線との距離を最も短くすることが可能となる。これにより、より高い磁気結合を得ることが可能となる。
【0013】
本発明において、同一ターンにおける第1の巻線と第2の巻線との線径方向の距離は、同一ターンにおける第1の巻線と第3の巻線との線径方向の距離よりも遠いことが好ましい。この場合、同一ターンにおける第3の巻線と第4の巻線との線径方向の距離は、同一ターンにおける第1の巻線と第3の巻線との線径方向の距離と実質的に等しくても構わない。或いは、同一ターンにおける第1の巻線と第2の巻線との線径方向の距離は、同一ターンにおける第3の巻線と第4の巻線との線径方向の距離と実質的に等しくても構わない。前者の場合、巻回作業が容易になるという利点があり、後者の場合、磁気結合のバランスがより均一化するという利点がある。
【0014】
本発明においては、第1乃至第4の巻線が同一ターン数を有し、第1の巻線と第2の巻線との結線部分が一次側巻線の中点を構成し、第3の巻線と第4の巻線との結線部分が二次側巻線の中点を構成することが好ましい。また、2ターン目以降においては、第1の巻線が前ターンの第4の巻線に接触し、第3の巻線が前ターンの第2の巻線に接触することが好ましい。
【0015】
本発明のトランス部品は、第1及び第2の巻線層からなる2層の巻線層を備え、第1の巻線層は、第1の巻線と第4の巻線とのバイファイラ巻きにより構成され、第2の巻線層は、第3の巻線と第2の巻線とのバイファイラ巻きにより構成されていることが好ましい。この構成によれば、巻線の線長のばらつきを抑えることができ、インダクタンスのばらつきが少ないトランス部品を実現することができる。
【0016】
本発明のトランス部品は、第1及び第2の巻線層からなる2層の巻線層を備え、磁性コアの巻芯部の半分の領域においては、第1の巻線層に第1及び第4の巻線がバイファイラ巻きされ、第2の巻線層に第3及び第2の巻線がバイファイラ巻きされている一方、巻芯部の残り半分の領域においては、第1の巻線層に第2及び第3の巻線がバイファイラ巻きされ、第2の巻線層に第1及び第4の巻線がバイファイラ巻きされていることもまた好ましい。外周側の巻線の線長は内周側の巻線よりも長くなるが、この構成によれば、巻線部分の線長のばらつきを抑えることができ、インダクタンスのばらつきが少ないトランス部品を実現することができる。
【0017】
本発明のトランス部品は、磁性コアを搭載するプリント基板上に形成された第1及び第2の配線パターンをさらに備えることが好ましく、第1の巻線と第2の巻線との結線がプリント基板上の第1の配線パターンを介して行われ、第3の巻線と第4の巻線との結線がプリント基板上の第2の配線パターンを介して行われることが好ましい。これによれば、トランス部品がプリント基板上に実装されるだけで、トランス部品を構成するコイルの端部同士が接続導体パターンを介して接続されるので、予めワイヤ同士を結線する作業が不要となり、巻線作業を容易にすることができる。また、配線状況も簡素化されるため、特性のばらつき、信頼性の低下といった問題を解消することができ、製品の小型化も可能となる。
【0018】
本発明のトランス部品は、ドラムコアを収納する樹脂カバーをさらに備え、第1乃至第4の巻線は、樹脂カバーを介してドラムコアに巻回されることが好ましい。この場合、第1乃至第4の巻線のいずれかと接する樹脂カバーの角部は面取りされていることが特に好ましい。ドラムコアを樹脂カバーに収納した場合には、樹脂カバーの底面にこれらの端子電極対を形成することができる。そのため、ドラムコアに端子電極対を形成する必要はなくなり、ドラムコアの絶縁コーティングも不要となる。また、樹脂カバーが有する板バネ性が巻線に対して作用することから、巻線を常に適度に張った状態にすることができ、巻崩れにくい状態にすることができる。さらに、樹脂カバーであれば面取り加工が容易であり、樹脂カバーの角部を面取りすることで巻線の損傷を防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明のトランス部品は、同一ターンにおける一次側巻線と二次側巻線との距離が均一であることから、巻線間の磁気結合の効率を高めることができ、周波数特性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の好ましい第1の実施形態によるトランス部品100の外観構造を示す略斜視図である。また、図2は、トランス部品100の底面の構造を示す略底面図である。
【0022】
図1及び図2に示すように、トランス部品100は、棒状の巻芯部10aを有する磁性コア10と、磁性コア10に巻回された第1乃至第4の巻線11〜14とを備えている。第1乃至第4の巻線11〜14は、同一ターン数を有している。
【0023】
本実施形態の磁性コア10は、ドラムコア10Aと、ドラムコア10Aの上部に取り付けられた板状コア10Bとで構成されている。ドラムコア10Aは、棒状の巻芯部10aと、巻芯部10aの両端部にそれぞれ設けられた鍔部10b、10cとを備え、これらが一体化された構造を有している。板状コア10Bはドラムコア10Aと別体であり、鍔部10b、10cの上面に固定されている。こうして、ドラムコア10A及び板状コア10Bは一つの閉磁路を構成している。特に限定されるものではないが、磁性コア10の材料としてはMn−Zn系フェライトを用いることができる。また、磁性コア10の表面にはパラキシリレン等の絶縁コーティングが施されていることが好ましい。
【0024】
ドラムコア10Aの鍔部10b、10cの底面には、第1乃至第4の端子電極対21a、21b〜24a、24bが形成されている。そして、第1の巻線11の両端部11a、11bは第1の端子電極対21a、21bにそれぞれ接続されており、第2の巻線12の両端部12a、12bは第2の端子電極22a、22bにそれぞれ接続されており、第1の巻線13の両端部13a、13bは第3の端子電極23a、23bにそれぞれ接続されており、第1の巻線14の両端部14a、14bは第4の端子電極24a、24bにそれぞれ接続されている。
【0025】
一方、プリント基板30上にはトランス部品100の実装領域30Xが設けられており、トランス部品100の実装領域30X内には第1乃至第4のランドパターン対31a、31b〜34a、34dが設けられている。第1乃至第4のランドパターン対31a、31b〜34a、34dは、上述した第1乃至第4の端子電極対21a、21b〜24a、24bにそれぞれ対応している。さらに、トランス部品100の実装領域30Xには、第1及び第2の導体パターン35、36が形成されている。第1の導体パターン35はランドパターン31bとランドパターン32aとを短絡しており、第2の導体パターンはランドパターン33bとランドパターン34aとを短絡している。これにより、トランス部品100の実装時には、第1の巻線11と第2の巻線12の端部同士が第1の導体パターン35を介して結線され、第3の巻線13と第4の巻線14の端部同士が第2の導体パターン36を介して結線される。
【0026】
図3は、プリント基板30に搭載した状態におけるトランス部品100の等価回路図である。
【0027】
図3に示すように、磁性コア10の巻芯部10aに巻回された第1乃至第4の巻線11〜14のうち、第1及び第2の巻線11、12がトランス部品100の一次側巻線15Aを構成しており、第3及び第4の巻線13、14がトランス部品100の二次側巻線15Bを構成している。第1の巻線11の一端11aは、一次側巻線15Aの一方の端子を構成しており、第1の巻線11の他端11bと第2の巻線12の一端12aは結線されて一次側巻線15Aの中点を構成しており、第2の巻線12の他端12bは一次側巻線15Aの他方の端子を構成している。また、第3の巻線13の一端13aは、二次側巻線15Bの一方の端子を構成しており、第3の巻線13の他端13bと第4の巻線14の一端14aは結線されて二次側巻線15Bの中点を構成しており、第4の巻線14の他端14bは二次側巻線15Bの他方の端子を構成している。
【0028】
図4は、トランス部品100の巻線構造の詳細を示す略断面図であり、図5は、同一ターン部分Xを拡大した模式図である。
【0029】
図4に示すように、磁性コア10の巻芯部10aには第1乃至第4の巻線11〜14が巻回されるが、これらは2層構造を有している。第1及び第4の巻線11、14は磁性コア10の巻芯部10aに単層整列巻きされており、1層目の巻線層を構成している。また、第3及び第2の巻線13、12は第1の巻線層の上に単層整列巻きされ、2層目の巻線層を構成している。すなわち、第1及び第4の巻線11、14が1層目(内周側)にバイファイラ巻きされ、第3及び第2の巻線13、12が2層目(外周側)にバイファイラ巻きされている。「バイファイラ巻き」とは2本の巻線を一緒に巻くことによって巻線間の磁気結合を向上させる巻回方式のことをいう。
【0030】
図4及び図5に示すように、同一ターンにおける第1乃至第4の巻線11〜14は、第1の巻線11が第3及び第4の巻線13、14と接触し、第2の巻線12が第3及び第4の巻線13、14と接触する位置関係を有している。これにより、同一ターンにおける、第1の巻線11と第3の巻線13の線径方向の距離L13と、第1の巻線11と第4の巻線14の線径方向の距離L14と、第2の巻線12と第3の巻線13の線径方向の距離L23と、第2の巻線12と第4の巻線14の線径方向の距離L24とは、実質的に等しくなる。ここで、巻線の距離とは、図5に示すように、巻線の中心部を基準とした距離を指している。
【0031】
本実施形態においては、2層目の巻線13、12は、1層目の巻線11、14との間に形成される窪みに嵌り込むように配置されるので、第3及び第2の巻線13、12の線径方向の位置は、第1及び第4の巻線11、14と半ピッチずれている。したがって、同一ターンにおいて第1の巻線11と第2の巻線12とは接触せず、第1の巻線11と第2の巻線12の線径方向の距離L12は、同一ターンにおける第3の巻線13と第4の巻線14の線径方向の距離L34よりも長い。一方、同一ターンにおいて第3の巻線13と第4の巻線14とは接触しており、第3の巻線13と第4の巻線14の線径方向の距離L34は、上述した距離L13、L14、L23、L24と等しい。
【0032】
このように、本実施形態のトランス部品100によれば、同一ターンにおける一次側巻線と二次側巻線との距離L13、L14、L23、L24が実質的に等しく、同一ターンにおいてこれらが接触していることから、各巻線の磁気結合の効率を高めることができ、トランスの周波数特性の向上を図ることができる。また、1層目の巻線11、14の間に形成される窪みをガイドとして、2層目の巻線13、12を巻回することができることから、巻回作業を容易に行うことが可能となる。
【0033】
図6は、比較例によるトランス部品600の巻線構造を示す略断面図であり、図7は、同一ターン部分Xを拡大した模式図である。図6及び図7に示す例は、第1及び第3の巻線11、13からなる一対の巻線を1層目とし、第2及び第4の巻線12、14からなる一対の巻線を2層目としている。
【0034】
図6及び図7に示す例では、同一ターンにおける一次側巻線と二次側巻線との距離は、L13、L23、L24については実質的に等しいものの、距離L14についてはこれらよりも長くなっている。つまり、同一ターンにおける一次側巻線と二次側巻線との距離が一部不均一となり、磁気結合に僅かなアンバランスが生じてしまう。
【0035】
これに対し、実施形態によるトランス部品100では、上述の通り、同一ターンにおける一次側巻線と二次側巻線との距離L13、L14、L23、L24が実質的に等しいことから、より高い磁気結合を得ることができ、良好な周波数特性を得ることが可能となる。
【0036】
図8は、本発明の第2の実施形態によるトランス部品200の巻線構造を示す略断面図であり、図9は、同一ターン部分Xを拡大した模式図である。
【0037】
図8及び図9に示すように、このトランス部品200は、2層目に設けられた第2及び第3の巻線13、12が1層目に設けられた第1及び第4の巻線11、14の直上にそれぞれ配置された巻線構造を有している。これにより、第1の実施形態によるトランス部品100と同様、第1の巻線11が第3及び第4の巻線13、14と接触し、第2の巻線12が第3及び第4の巻線13、14と接触している。また、同一ターンにおける、第1の巻線11と第3の巻線13の線径方向の距離L13と、第1の巻線11と第4の巻線14の線径方向の距離L14と、第2の巻線12と第3の巻線13の線径方向の距離L23と、第2の巻線12と第4の巻線14の線径方向の距離L24とは、実質的に等しい。
【0038】
一方、トランス部品200では、同一ターンにおいて第1の巻線11と第2の巻線12とは接触せず、第3の巻線13と第4の巻線14とは接触していない。このため、第1の巻線11と第2の巻線12の線径方向の距離L12と、同一ターンにおける第3の巻線13と第4の巻線14の線径方向の距離L34は互いに等しく、いずれも上述した距離L13、L14、L23、L24よりも長い。
【0039】
このように、本実施形態によるトランス部品200では、一次側巻線と二次側巻線との距離L13、L14、L23、L24が互いに等しいだけでなく、一次側巻線同士の距離L12と二次側巻線同士の距離L34とが互いに等しい。このため、第1の実施形態によるトランス部品100と比べ、磁気結合のバランスをより均一化させることが可能となる。
【0040】
図10は、本発明の第3の実施形態によるトランス部品300の巻線構造を示す略断面図である。
【0041】
図10に示すように、このトランス部品300は、図1に示したトランス部品100の第4の巻線14の位置と第3の巻線13の位置とを入れ替えた点に特徴を有している。つまり、第1の巻線11と第3の巻線13が1層目にバイファイラ巻きされ、第4の巻線14と第2の巻線12が2層目にバイファイラ巻きされた巻線構造を有している。その他の構成については第1の実施形態と同様であることから、同一の構成要素に同一の符号を付して説明を省略する。
【0042】
本実施形態においても、同一ターンにおける一次側巻線と二次側巻線との距離L13、L14、L23、L24が実質的に等しいことから、トランス部品100と同様、高い磁気結合を得ることができ、良好な周波数特性を得ることが可能となる。
【0043】
図11は、本発明の第4の実施形態によるトランス部品400の巻線構造の詳細を示す略断面図である。
【0044】
図11に示すように、このトランス部品400の特徴は、磁性コア10の巻線領域が巻芯部10aの軸方向(長手方向)の中間位置(Y−Y線)を境界にして2つの領域に分かれており、各領域における巻線構造がそれぞれ異なる点にある。
【0045】
まず、巻芯部10aの半分の領域(第1の巻線領域)S1においては、1層目(内周側)に第1及び第4の巻線11、14がバイファイラ巻きされ、2層目(外周側)に第3及び第2の巻線13、12がバイファイラ巻きされている。つまり、この部分においては、第1の実施形態によるトランス部品100と同じ巻回パターンを有している。
【0046】
一方、巻芯部10aの残り半分の領域(第2の巻線領域)S2においては、1層目に第2及び第3の巻線12、13がバイファイラ巻きされており、2層目に第1及び第4の巻線11、14がバイファイラ巻きされている。つまり、1層目と2層目が入れ替えられた巻回パターンを有している。
【0047】
このように、上下の巻線層を中間位置で入れ替えた場合、第1及び第4の巻線11、14の巻線部分の線長と第2及び第3の巻線の巻線部分の線長が実質的に同一となることから、各巻線のインダクタンスを一致させることができると共に、各巻線間をバランス良く結合させることができる。
【0048】
図12は、本発明の第5の実施形態によるトランス部品700の外観構造を示す略斜視図であり、図13は、トランス部品700の分解斜視図である。また、図14は、図1のA−A線に沿ったトランス部品の断面図である。
【0049】
図12及び図13に示すように、このトランス部品700は、ドラムコア10Aを収納するための樹脂カバー16を備える点を特徴としている。その他の構成要素は第1の実施形態によるトランス部品100と略同様であるため、同一の構成要素に同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0050】
樹脂カバー16はポリイミドなどの非磁性絶縁性樹脂によって作られている。樹脂カバー16は巻芯部16aを備えており、その両端には鍔部16b,16cが設けられている。樹脂カバー16はドラムコア10Aよりも一回り大きく、ドラムコア10Aを収容可能に構成されている。図12は、ドラムコア10Aを樹脂カバー16内に収容した状態を示している。
【0051】
樹脂カバー16の鍔部16bの底面には4つの端子電極21a〜24aが形成されており、鍔部16cの底面には4つの端子電極21b〜24b(端子電極21b〜23bは不図示)が形成されている。ドラムコア10A及び板状コア10Bは、上述の通り、Mn−Zn系フェライトの焼結体によって作られているので、透磁率が高い反面、固定抵抗が低く導電性を有している。よって、ドラムコア10Aの鍔部10b、10cの底面に端子電極対(21a、21b)〜(24a、24b)を直接形成することはできず、ドラムコア10Aの表面にパラキシリレン等の絶縁コーティングを施す必要がある。しかし、ドラムコア10Aを樹脂カバー16に収納する場合には、ドラムコア10Aに端子電極対を形成する必要はなくなり、樹脂カバー16の鍔部16b,16cの底面にこれらの端子電極対を形成することができる。また、各端子電極21a〜24a,21b〜24bと巻線11〜14との結線状態は、図3に示した通りである。
【0052】
図13に示すように、ドラムコア10Aの収納状態でもその鍔部10b,10cの一部は樹脂カバー16上に露出している。これは、ドラムコア10Aの鍔部10b,10cの高さが樹脂カバー16の鍔部16b,16cの内側の高さよりも高いためである。これに対し、ドラムコア10Aの巻芯部10aの高さは、樹脂カバー16の巻芯部16aの内側の高さよりも低く、したがってドラムコア10Aの巻芯部10aは樹脂カバー16の巻芯部10a内に完全に収納されている。
【0053】
樹脂カバー16の巻芯部16aの角部16dはラウンド状に面取りされていることが好ましい。巻芯部16aには巻線11〜14が巻回されるが、巻芯部16の角部16dが直角である場合には巻線を傷つけるおそれがある。ドラムコア10Aの巻芯部10aの角部を研磨してラウンド面を形成することも考えられるが、磁性材料の焼結体のR加工は容易ではなく、角部が大きく欠けるおそれがある。しかし、樹脂カバー16は樹脂材料からなり、角部のR加工が極めて容易である。こうした加工によって巻芯部16aの角部16dをラウンドさせた場合には、巻線が傷つくことがない。したがって、信頼性の高いトランス部品を実現することができる。なお、角部16dの面取りはラウンド面に限らず平面であっても構わない。
【0054】
樹脂カバー16の巻芯部16aに巻回される第1乃至第4の巻線11〜14の位置関係は図4、図8、図10又は図12に示した通りであり、いずれのパターンを採用しても良い。巻線11〜14を樹脂カバー16の巻芯部16aに巻回した場合には、図14に示すように、樹脂カバー16の垂直片16eが有する板バネ性が巻線に対して作用する。よって巻線を適度な力で巻回することで巻線を常に適度に張った状態にすることができ、巻崩れにくい状態にすることができる。
【0055】
図15は、トランス部品の挿入損失(信号減衰特性)を示すグラフであり、横軸は周波数(MHz)、縦軸は信号の減衰量(dB)をそれぞれ示している。また、図16は、トランス部品のコモンモードノイズ減衰特性を示すグラフであり、横軸は周波数(MHz)、縦軸はノイズの減衰量(dB)をそれぞれ示している。図15及び図16において、グラフPは図4に示した第1の実施形態によるトランス部品100の測定結果であり、グラフPは図6に示した参考例によるトランス部品600の測定結果であり、グラフPは第1乃至第4の巻線11〜14を1本の撚り線とした場合(図示せず)の測定結果である。
【0056】
図15に示すように、第1の実施形態によるトランス部品100の信号減衰特性は、参考例によるトランス部品600よりも良好であり、高周波帯域まで信号の減衰が少ないことが分かる。カットオフ周波数(−3dB低下)について着目すると、グラフPのカットオフ周波数fc1は約520MHz、グラフPのカットオフ周波数fc2は約181MHz、グラフPのカットオフ周波数fc3は約270MHzとなっている。このように、本発明によれば、従来のバイファイラ巻線構造(P)や撚り線構造(P)よりも挿入損失が少なく、特に高周波での信号減衰量が少ないトランス部品を実現することができる。
【0057】
また、図16に示すように、第1の実施形態によるトランス部品100のコモンモードノイズ減衰特性は、測定周波数のほぼ全域において参考例によるトランス部品600よりもノイズ減衰量が大きいことが分かる。例えば、100MHzにおけるノイズ減衰量について着目すると、グラフPのノイズ減衰量は−18.2dB、グラフPのノイズ減衰量は−13.4dB、グラフPのノイズ減衰量は−13.4dBとなっている。このように、本発明によれば、参考例によるバイファイラ巻線構造(P)や撚り線構造(P)よりもノイズ減衰特性が良好なトランス部品を実現することができる。
【0058】
以上の結果から、信号の減衰が最も小さく、ノイズの減衰が最も大きいのは本発明によるトランス部品であることが分かる。
【0059】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加えることが可能であり、それらも本発明の範囲に包含されるものであることは言うまでもない。
【0060】
例えば、上記実施形態においては、プリント基板30上の第1の導体パターン35を介して第1の巻線11と第2の巻線12とを結線し、また第2の導体パターン36を介して第3の巻線13と第4の巻線14とを結線しているが、本発明はこのような構成に限定されるものではなく、巻線11、12同士、或いは巻線13、14同士を直接的に結線しても構わない。
【0061】
また、上記実施形態においては、磁性コア10としてドラムコア10Aを用いているが、本発明はドラムコアに限定されるものではなく、トロイダルコアやその他のコア形状を用いてもよい。
【0062】
また、上記実施形態においては、第1乃至第4の端子電極対21a、21b〜24a、24bに対して、第1乃至第4の巻線11〜14を順に接続しているが、巻線と端子電極との接続関係は特に限定されるものではなく、目的に応じて自由に接続して構わない。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、本発明の好ましい第1の実施の形態によるトランス部品100の外観構造を示す略斜視図である。
【図2】図2は、トランス部品100の底面の構造を示す略底面図である。
【図3】図3は、プリント基板30に搭載した状態におけるトランス部品100の等価回路図である。
【図4】図4は、トランス部品100の巻線構造を示す略断面図である。
【図5】図5は、図4に示す同一ターン部分Xを拡大した模式図である。
【図6】図6は、参考例によるトランス部品600の巻線構造を示す略断面図である。
【図7】図7は、図6に示す同一ターン部分Xを拡大した模式図である。
【図8】図8は、本発明の第2の実施形態によるトランス部品200の巻線構造を示す略断面図である。
【図9】図9は、図8に示す同一ターン部分Xを拡大した模式図である。
【図10】図10は、本発明の第3の実施形態によるトランス部品300の巻線構造を示す略断面図である。
【図11】図11は、本発明の第4の実施形態によるトランス部品400の巻線構造を示す略断面図である。
【図12】図12は、本発明の第5の実施形態によるトランス部品700の外観構造を示す略斜視図である。
【図13】図13は、トランス部品700の分解斜視図である。
【図14】図14は、図12のA−A線に沿ったトランス部品700の断面図である。
【図15】図15は、トランス部品の挿入損失(信号減衰特性)を示すグラフである。
【図16】図16は、トランス部品のノイズ減衰特性を示すグラフである。
【図17】図17は、ドラムコアを用いた従来の巻線構造を示す略断面図である。
【符号の説明】
【0064】
10 磁性コア
10A ドラムコア
10B 板状コア
10a ドラムコアの巻芯部
10b、10c ドラムコアの鍔部
11 第1の巻線
11a 第1の巻線の一端
11b 第1の巻線の他端
12 第2の巻線
12a 第2の巻線の一端
12b 第2の巻線の他端
13 第3の巻線
13a 第3の巻線の一端
13b 第3の巻線の他端
14 第4の巻線
14a 第4の巻線の一端
14b 第4の巻線の他端
15A 一次側巻線
15B 二次側巻線
16 樹脂カバー
16a 樹脂カバーの巻芯部
16b,16c 樹脂カバーの鍔部
16d 樹脂カバーの巻芯部の角部
16e 樹脂カバーの巻芯部の垂直片
21a、21b 第1の端子電極対
22a、22b 第2の端子電極対
23a、23b 第3の端子電極対
24a、24b 第4の端子電極対
30 プリント基板
30X 実装領域
31a、31b 第1のランドパターン対
32a、32b 第2のランドパターン対
33a、33b 第3のランドパターン対
34a、34b 第4のランドパターン対
35 第1の導体パターン
36 第2の導体パターン
41 トロイダルコア
42 一次側巻線
43 二次側巻線
100 トランス部品
200 トランス部品
300 トランス部品
400 トランス部品
500 従来のトランス部品(パルストランス)
600 参考例によるトランス部品(パルストランス)
X 同一ターン部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次側巻線を構成する第1及び第2の巻線と、二次側巻線を構成する第3及び第4の巻線と、前記第1乃至第4の巻線が巻回された磁性コアとを備え、
同一ターンにおける、前記第1の巻線と前記第3の巻線の線径方向の距離と、前記第1の巻線と前記第4の巻線の線径方向の距離と、前記第2の巻線と前記第3の巻線の線径方向の距離と、前記第2の巻線と前記第4の巻線の線径方向の距離とが実質的に等しいことを特徴とするトランス部品。
【請求項2】
同一ターンにおいて、前記第1の巻線と前記第3の巻線とが接触し、前記第1の巻線と前記第4の巻線とが接触し、前記第2の巻線と前記第3の巻線とが接触し、前記第2の巻線と前記第4の巻線とが接触していることを特徴とする請求項1に記載のトランス部品。
【請求項3】
同一ターンにおける前記第1の巻線と前記第2の巻線との線径方向の距離は、同一ターンにおける前記第1の巻線と前記第3の巻線との線径方向の距離よりも遠いことを特徴とする請求項1又は2に記載のトランス部品。
【請求項4】
同一ターンにおける前記第1の巻線と前記第2の巻線との線径方向の距離は、同一ターンにおける前記第3の巻線と前記第4の巻線との線径方向の距離と実質的に等しいことを特徴とする請求項3に記載のトランス部品。
【請求項5】
前記第1乃至第4の巻線が同一ターン数を有し、前記第1の巻線と前記第2の巻線との結線部分が前記一次側巻線の中点を構成し、前記第3の巻線と前記第4の巻線との結線部分が前記二次側巻線の中点を構成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のトランス部品。
【請求項6】
第1及び第2の巻線層からなる2層の巻線層を備え、前記第1の巻線層は、前記第1の巻線と前記第4の巻線とのバイファイラ巻きにより構成され、前記第2の巻線層は、前記第3の巻線と前記第2の巻線とのバイファイラ巻きにより構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のトランス部品。
【請求項7】
第1及び第2の巻線層からなる2層の巻線層を備え、前記磁性コアの巻芯部の半分の領域においては、前記第1の巻線層に前記第1及び第4の巻線がバイファイラ巻きされ、前記第2の巻線層に前記第3及び第2の巻線がバイファイラ巻きされている一方、前記巻芯部の残り半分の領域においては、前記第1の巻線層に前記第2及び第3の巻線がバイファイラ巻きされ、前記第2の巻線層に前記第1及び第4の巻線がバイファイラ巻きされていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のトランス部品。
【請求項8】
前記磁性コアがドラムコアを含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のトランス部品。
【請求項9】
前記磁性コアを搭載するプリント基板上に形成された第1及び第2の配線パターンをさらに備え、
前記第1の巻線と前記第2の巻線との結線が前記プリント基板上の前記第1の配線パターンを介して行われ、
前記第3の巻線と前記第4の巻線との結線が前記プリント基板上の前記第2の配線パターンを介して行われることを特徴とする請求項8に記載のトランス部品。
【請求項10】
前記ドラムコアを収納する樹脂カバーをさらに備え、
前記第1乃至第4の巻線は、前記樹脂カバーを介して前記ドラムコアに巻回されることを特徴とする請求項8又は9に記載のトランス部品。
【請求項11】
前記第1乃至第4の巻線のいずれかと接する前記樹脂カバーの角部が面取りされていることを特徴とする請求項10に記載のトランス部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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