説明

トランス

【課題】簡易な構造によって容易に沿面距離を確保して、製品の低背化を図ることが可能になる大電流対応のトランスを提供する。
【解決手段】導体が絶縁性樹脂7、11に覆われてなる1次コイル1および2次コイル10が、同軸的に隣接して配置されるとともに、これら1次および2次コイルの外周に、磁路を形成するコア3が配置されてなり、2次のコイル10は、平角線5が面内方向において環状に形成された導体が、インサート成形によって絶縁性樹脂11に鋳包まれてなり、かつ1次コイル1およびコア3との対向面に、導体5の板面5bに至る開口部13が周方向に間隔をおいて複数形成されるとともに、少なくともコア3との対向面の開口部13は、対向面側の内法寸法が導体5の板面5b側の内法寸法よりも大きくなるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車用等として用いられる大電流仕様のトランスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車載用DC−DCコンバータ内に組み込まれる電圧変換用のメイントランス等の大電流トランスは、その1次および/または2次コイルとして、電気抵抗が低く、かつ放熱性に優れる平角線(導体)をエッジワイズ巻きしたものなどが用いられており、当該導体を絶縁性樹脂によって囲繞して、その外周に磁路を形成する各種形状のコアを配置することによって構成されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1においては、銅板を打ち抜いてなる略U型1ターンコイルを積層したもの、あるいは平角銅線の幅広平面を積層しながら巻回したエッジワイズコイルからなる1次コイルおよび2次コイルを、各々当該コイルの端子引出側面を除く外周側面に側壁を有する絶縁性を備えた枠状箱型ケースに収納した大電流トランスが開示されている。
【0004】
ところで、上記従来の大電流トランスにあっては、1次コイルおよび2次コイルを、各々絶縁性を有する枠状箱形ケースに収納しているために、当該枠状箱形ケースの形状が複雑になり、その製造が難しくなるとともに、総じて部品点数が多くなって、組立にも手間を要するという問題点がある。
【0005】
そこで、本発明者等は、先に図4〜図7に示すような、大電流トランスを試作した。
このトランスは、同軸的に積層された1次コイル1および2次コイル2と、これら1次および2次コイル1、2を間に挟んで対向配置されることにより磁路を形成する一対のコア3とから概略構成されたものである。
【0006】
ここで、1次コイル1は、平角線(導体)4が絶縁シートを間に介して円環状にエッジワイズ巻きされたものであり、2次コイル2は、平板素材が打ち抜き加工されることにより、平角線(導体)5が面内方向において略1ターンする円環状に形成されるとともに、両端の端子接続部5aを除いてインサート成形により絶縁性樹脂6に鋳包まれることにより形成されたものである。
【0007】
また、コア3は、1次コイル1または2次コイル2の端面と対向する平板部3aの中央に、1次コイル1または2次コイル2の開口部内に挿入される円柱部3bが立設されるとともに、両側部に1次コイル1または2次コイル2の外周面と対向する側壁部3cが立設された略E型コアである。
【0008】
そして、1次コイル1は、絶縁性樹脂からなるカバー7内に収納されて、コア3内に組み込まれている。このカバー7は、コア3の平板部3aとの間に介装される円環状の端面板7aと、各々コア3の円柱部3bおよび側壁部3cとの間に介装される円筒状の側壁7b、7cとが一体成形されたもので、1次コイル1の端子接続部1aの延出部分には開口が形成されている。
【0009】
上記構成からなるトランスによれば、厚肉の平角線5の外周にインサート成形により絶縁性樹脂6を一体成形することによって2次コイル2を形成しているために、確実に当該2次コイルの絶縁性を確保することができるとともに、部品点数が少なくなり、かつ組立も容易になるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−223320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、上記構成からなるトランスにおいては、2次コイル2を成形する際に、図5(b)に示すように、予めインサート金型内において、平角線5を円周方向の複数箇所において上下から支持ピンPによってキャビティ内の所定位置に支持した状態で、絶縁性樹脂6を射出している。このため、成形後の2次コイル2における1次コイル1およびコア3の平板部3aとの対向面2aには、それぞれ当該対向面2aから平角線5の板面5bに至る複数の開口部8が形成されている。
【0012】
そして、当該開口部8においては、2次コイル2の導体5が露出しているために、図7に示すように、1次コイル1およびコア3との間に、所定の沿面距離Lを確保する必要があり、この結果低背化を図る上での支障となる。
【0013】
そこで、2次インサート成形によって上記開口部8を塞いだり、あるいは絶縁シート等を設置したりすることにより、絶縁性を確保して、低背化を図ることも考えられるが、製造工程や部品点数の増加を招き、製造コストが嵩むという問題点が生じる。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、製造工程や部品点数の増加を招くことなく、簡易な構造によって容易に沿面距離を確保して、製品の低背化を図ることが可能になる大電流対応のトランスを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、それぞれ導体が絶縁性樹脂に覆われてなる1次コイルおよび2次コイルが、同軸的に隣接して配置されるとともに、これら1次および2次コイルの外周に、磁路を形成するコアが配置されてなるトランスにおいて、上記1次および2次のコイルの少なくとも一方は、平角線が面内方向において環状に形成された上記導体が、インサート成形によって上記絶縁性樹脂に鋳包まれてなり、かつ他方のコイルおよび上記コアとの対向面に、上記導体の板面に至る開口部が周方向に間隔をおいて複数形成されるとともに、少なくとも上記コアとの対向面の上記開口部は、上記対向面側の内法寸法が上記導体の板面側の内法寸法よりも大きくなるように形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記開口部が、上記対向面側に横断円形状の大径部が形成され、かつ上記導体の板面側に当該大径部よりも内径の小さな断面円形状の小径部が形成されることにより、上記大径部と小径部との間に、円環状の段部が形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1または2に記載の発明によれば、1次コイルおよび/または2次コイルを、平角線からなる導体をインサート成形によって絶縁性樹脂で鋳包むことによって形成するとともに、その少なくともコアとの対向面に形成される開口部を、対向面側の内法寸法が上記導体の板面側の内法寸法よりも大きくなる形状としているために、上記導体の露出面から開口部の内壁を伝って上記対向面に至る沿面距離を、図7に示した沿面距離Lよりも大きく確保することができる。
【0018】
特に、請求項2に記載の発明においては、上記沿面距離が、小径部の軸線方向長さ寸法、段部の径方向の長さ寸法および大径部の軸線方向長さ寸法の和になるために、確実に長い沿面距離を確保することができる。
【0019】
この結果、製造工程や部品点数の増加を招くことなく、簡易な構造によって容易に所定の沿面距離を確保することができる。これにより、当該1次コイルおよび/または2次コイルの厚さ寸法を小さくして、製品の低背化を図ることが可能になる。また、上記厚さ寸法を減じることにより、インサート成形において必要とされる絶縁性樹脂の量も低減することができ、一層のコストダウンを図ることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るトランスの一実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】図1の2次コイルを示すもので、(a)は平面図、(b)はそのA−A線視断面図である。
【図3】図1の要部(図6のB−B線視相当)の断面図である。
【図4】本発明者等の試作によるトランスを示す分解斜視図である。
【図5】図4の2次コイルを示すもので、(a)は平面図、(b)はそのA−A線視断面図である。
【図6】図4の平面図である。
【図7】図6のB−B線視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1〜図3は、本発明に係るトランスの一実施形態を示すものであり、このトランスが図4〜図7に示したものと相違する点は、2次コイルの構造にある。このため、図1〜図3において、図4〜図7に示したものと同一構成部分については、同一符号を付してその説明を簡略化する。
【0022】
このトランスの2次コイル10も、平板素材が打ち抜き加工されることにより、平角線(導体)5が面内方向において略1ターンする円環状に形成されるとともに、両端の端子接続部5aを除いてインサート成形により絶縁性樹脂11に鋳包まれることにより形成されたものである。ただし、図2(b)に示すように、この2次コイル10は、上記インサート成形時に、平角線5を上下から支持する複数本の支持ピンP´として、平角線5の支持部p2の外径寸法が基端部p1よりも小さい寸法のものが用いられている。
【0023】
これにより、成形された2次コイル10においては、その外周面であって、かつ1次コイル1およびコア3との対向面12に、それぞれ支持ピンP´の形状が転写された形状の開口部13が形成されている。すなわち、当該開口部13は、対向面12側に支持ピンP´の基端部p1に対応した横断円形状の大径部13aが形成され、かつ平角線5の板面5b側に支持ピンP´の支持部p2に対応した、上記大径部11aよりも内径の小さな断面円形状の小径部13bが形成されている。
【0024】
そして、これら大径部13aと小径部13bとの間には、円環状の段部13cが形成されている。
【0025】
以上の構成からなるトランスにおいては、2次コイル10を、平角線からなる導体5をインサート成形によって絶縁性樹脂11で鋳包むことによって形成するとともに、上記インサート成形時に、その1次コイル1およびコア3との対向面12に形成される開口部13を、支持ピンP´の形状に対応した大径部13aと小径部13bとの間に段部13cを有する形状に形成している。
【0026】
このため、図3に示すように、1次コイル1およびコア3との間の沿面距離L1が、小径部13bの軸線方向長さ寸法と、段部13cの径方向の長さ寸法と、大径部13aの軸線方向長さ寸法との和になり、よって図4〜図7に示したものの沿面距離Lよりも確実に長い沿面距離を確保することができる。
【0027】
この結果、製造工程や部品点数の増加を招くことなく、簡易な構造によって容易に所定の沿面距離L1を確保することができ、よって従来よりも2次コイル10における絶縁性樹脂11の厚さ寸法を小さくして、製品の低背化を図ることができる。また、上記厚さ寸法を減じることにより、インサート成形において必要とされる絶縁性樹脂11の量も低減することができ、一層のコストダウンを図ることもできる。
【0028】
なお、上記実施形態においては、2次コイル10のみをインサート成形によって形成する場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、1次コイル側あるいは1次コイルと2次コイルの双方をインサート成形によって形成する場合にも、同様に適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
車載用DC−DCコンバータ内に組み込まれる電圧変換用のメイントランス等の大電流トランスとして利用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 1次コイル
3 コア
4、5 平角線(導体)
5b 板面
10 2次コイル
6、11 絶縁性樹脂
12 対向面
13 開口部
13a 大径部
13b 小径部
13c 段部
沿面距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ導体が絶縁性樹脂に覆われてなる1次コイルおよび2次コイルが、同軸的に隣接して配置されるとともに、これら1次および2次コイルの外周に、磁路を形成するコアが配置されてなるトランスにおいて、
上記1次および2次のコイルの少なくとも一方は、平角線を面内方向に屈曲して環状に形成された上記導体が、インサート成形によって上記絶縁性樹脂に鋳包まれてなり、かつ他方のコイルおよび上記コアとの対向面に、上記導体の板面に至る開口部が周方向に間隔をおいて複数形成されるとともに、少なくとも上記コアとの対向面の上記開口部は、上記対向面側の内法寸法が上記導体の板面側の内法寸法よりも大きくなるように形成されていることを特徴とするトランス。
【請求項2】
上記開口部は、上記対向面側に横断円形状の大径部が形成され、かつ上記導体の板面側に当該大径部よりも内径の小さな断面円形状の小径部が形成されることにより、上記大径部と小径部との間に、円環状の段部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のトランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−164914(P2012−164914A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25859(P2011−25859)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】