説明

トリクロロシランの製造法におけるシリコンと触媒材料の予備調製

シリコンと塩化水素、又はシリコンの存在下で四塩化ケイ素と水素、及び触媒を反応させることによってトリクロロシランを製造する方法。シリコンと触媒は一緒に積層され、反応の前に粒度を低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2007年8月29日出願の米国仮特許出願第60/968,679号、発明の名称“トリクロロシランの製造法におけるシリコンと触媒材料の予備調製(Silicon and Catalyst Material Preparation in a Process for Producing Trichlorosilane)”に基づく本出願である。前記仮出願は引用によって本明細書に援用する。
マイクロフィッシュ付録
適用なし
政府の特許権
適用なし
本発明は、トリクロロシランの製造法に関し、さらに詳しくは、一部はラミネーションによるトリクロロシランの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、混合シラン原料から高純度トリクロロシラン(TCSと略す)を製造する分野に関する。
TCSは、エレクトロニクス及び接着剤用の各種シランの製造に使用される有益な中間生成物である。特に高純度グレードのTCSは、ソーラー及びエレクトロニクスグレードの多結晶シリコンの製造(副産物として四塩化ケイ素が生成する)における使用を含め、エレクトロニクス産業で使用されている。
【0003】
シリコンと塩化水素から又はシリコン及び塩化水素の存在下で四塩化ケイ素と水素から比較的低温で高純度TCSを製造する一般的方法は、多数の特許、例えば米国特許第4,117,094号及び4,424,198号、並びにカナダ特許公開第1,162,028号 A-1などから公知である。
【0004】
TCSに至る反応の選択性に対する補助剤としてのアルカリ塩の使用は、米国特許第5,871,705号などから知られている。当業界ではしばらくの間、この反応のために粉末銅触媒が使用されていた。シリコンを四塩化ケイ素、水素、及び必要であれば塩化水素と反応させるために、粉末銅、又は銅金属、金属ハロゲン化物、及び鉄、アルミニウム又はバナジウムの臭化物又はヨウ化物の混合物の使用が報告されている。例えば、ケミカル・アブストラクツ CA101,no.9576d,1984及びケミカル・アブストラクツ CA109,no.57621b,1988参照。
【0005】
酸化銅触媒は、シリコン上への触媒のなるべく均一な分配を提供することによって反応速度を改良するために、0.01mm未満の粒度に粉砕することが知られている。また、金属塩化物などのような、さらに効果的であろう触媒は、関連粒子の所要細末度が得られないために一般的に使用されないことも知られている。
【0006】
例えばドイツ特許公開第41 04 422号 A1から知られているように、シリコンは塩化水素と、又は四塩化ケイ素は水素と、圧力を使用しない流動床中で、低級脂肪族飽和ジカルボン酸の銅塩、特にシュウ酸銅の存在下で反応しうる。
【0007】
トリクロロシランは通常、流動床で製造されることが当業者には知られている。そのような流動床を銅触媒及び/又は銅を含有する触媒混合物と共に使用することには欠点がある。なぜならば、小さい触媒粒子は流動床から頻繁に搬出されてしまうからである。この結果、製造過程で所望のトリクロロシランの収率が著しく低下し、新規及び/又は追加の触媒を導入しなければならなくなる。このようにして触媒を失うことは、特に銅触媒を使用する場合、銅触媒は比較的高価なので、追加の経済コストをもたらすことになる。
【0008】
当該技術分野で求められているのは、それぞれ高い反応速度及び高い空時収率を特徴とするトリクロロシランの製造法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,117,094号
【特許文献2】米国特許第4,424,198号
【特許文献3】カナダ特許第1,162,028号
【特許文献4】米国特許第5,871,705号
【特許文献5】独特許公開第4104422号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ケミカル・アブストラクツ CA101,no.9576d,1984
【非特許文献2】ケミカル・アブストラクツ CA109,no.57621b,1988
【発明の概要】
【0011】
本発明は、シリコンと触媒の緊密接触を提供することによる触媒とシリコンの有益な予備調製を提供する。それによって関連する反応を少量で起こすことが可能となり、それによって反応器収率の、大きさについての要件が減るほか、望ましくない副産物の収量も実質的に減少する。さらに、反応を少量で起こせるということは下流の精製装置のサイズ要件も縮減される。
【0012】
本発明のその他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲を検討することにより、当業者には明らかとなろう。
本発明の態様を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、以下の記載に示される構成要素の構成及び配列の詳細に制限されないことは当然理解されるべきである。本発明は他の態様も可能であり、様々な方法で実施又は実行できる。また、本明細書中で使用されている表現及び用語は、説明を目的としたものであるので、制限とみなされるべきではない。本明細書において、「含む(including, comprising)」及びその変形は、その後に掲載されている項目及びその等価物のほか、追加の項目及びその等価物も包含するものとする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の様々な例示的態様は、シリコンからトリクロロシランを製造するための様々な種類の方法と共に使用できるだけでなく、おそらくはその他の方法とも共に使用できる。例えば、本発明は、シリコンを塩化水素と反応させる方法において、又はシリコン及び所望により塩化水素の存在下で四塩化ケイ素を水素と反応させる方法において使用できる。
【0014】
本発明の様々な例示的態様において、シリコンと一つ又は複数の触媒を加圧によって一緒に積層し、結晶構造を混ぜ合わせると、本方法の次の反応における選択性を改良するという明白な結果が得られる。本発明を使用することにより、従来の類似法に従うよりも実質的に少ない触媒で済むと考えられる。
【0015】
本発明の様々な例示的態様に従って使用されるシリコンと触媒のラミネートは、例えばシリコンを所望の触媒と一緒にプレス機で加圧することによって製造できる。シリコンと触媒はプレス機に一緒に又は逐次的に供給される。本明細書で所望されるシリコン/触媒ラミネートの製造にはローラープレスが効果的であることが分かった。
【0016】
シリコンを所望の触媒と一緒に加圧する好適な態様において、シリコンは好ましくは金属シリコン(metallurgical silicon)である。
適切な触媒は、例えば、銅触媒及び/又は鉄触媒である。好適な銅触媒は、例えば銅又は銅化合物である。好適な銅化合物は、酸化数1又は2の銅を含有する酸化銅、塩化銅、例えば塩化銅(I)又は塩化銅(II)などである。好適な鉄触媒は、例えば鉄又は鉄化合物である。好適な鉄化合物は例えば塩化鉄などである。さらに詳しくは、鉄化合物は塩化鉄(II)及び塩化鉄(III)である。
【0017】
銅触媒及び/又は鉄触媒と更なる触媒活性成分との混合物を使用することも可能である。そのような触媒活性成分は、例えば金属ハロゲン化物、例えばアルミニウム、バナジウム又はアンチモンの塩化物、臭化物又はヨウ化物である。
【0018】
シリコンと触媒を一緒に積層した後、得られたシリコン/触媒ラミネートは、次に好ましくはミルでサイズを縮小される。粒度を低減するための例示的装置は、例えば、ハンマーミル、ローラーミル又はボールミルなどである。その他のタイプのミル及び/又は破砕機も使用できる。粒度の低減は、例えば、得られたシリコン/触媒混合物が約5mm未満、好ましくは約0.001mm〜約1.0mm、さらに好ましくは約0.2mm〜約0.6mmの平均粒度を有するように実施される。
【0019】
粒度を低減するための装置は、ミル粉砕中の装置自体の磨砕によって生じる粒子が、シリコン/触媒混合物に更なる触媒活性材料を提供するように選ばれた材料で構成されるのが望ましい。装置のための適切な組成物は、例えば、銅、鉄、及びこれらの金属と相互との又は他の金属、例えば真鍮又はブロンズとの合金である。他の材料で作られている装置も適切である。例えば、粒度を低減するための装置は、炭化タングステンのようなセラミックコーティングを含むこともできる。
【0020】
好ましくは、加圧及び粒度の低減は、実質的に酸素のない雰囲気中で実施される。そのような工程を実質的に酸素のない雰囲気中で実施することにより、各シリコン粒子上への酸化物層の形成が実質的に防止される。酸化物層が存在すると、触媒とシリコンとの間の直接接触が実質的に妨げられるので、トリクロロシランを製造するための反応の触媒作用が不良になりうる。
【0021】
実質的に酸素がない雰囲気は、例えば、加圧又は粒度低減時に不活性ガス又は水素を添加することによって達成できる。不活性ガスは、例えば窒素及び/又はアルゴンである。塩化水素も、本方法の次の段階の反応物なので、塩化水素の漏洩危険性を削減するための適切な対策が提供されれば、使用可能である。
【0022】
シリコン/触媒混合物は、本発明に従って水素、四塩化ケイ素及び必要であれば塩化水素と反応させる前に、例えば塩化水素と、又は塩化水素及び水素と予備反応させることができる。本発明の例示的態様に従って使用されるシリコン/触媒混合物は、約25重量ppm〜約10重量パーセント、好ましくは約40重量ppm〜約1重量パーセントの触媒(金属塩化物として計算)の濃度を有する。前記重量パーセントはシリコン/触媒混合物の総重量を基にしている。より高い触媒濃度を使用することも可能である。本方法において、アルカリ金属塩触媒は方法の下流でより高い濃度になり、シリコン及び鉄及び銅含有触媒は方法の上流でより高い濃度になるように、触媒を積層することができる。
【0023】
所望により、二次的なアルカリ金属又はアルカリ金属ハロゲン化物を、一次触媒の濃度の約5%〜約100%の濃度で加えることができる。
反応は、例えば、約200℃〜約800℃の温度で実施される。反応は、例えば0〜4MPa(絶対圧)の圧力で実施される。
【0024】
本発明の例示的態様による反応のための反応器の選択は、反応条件下で反応器が適切な安定性を示し、出発材料の相互の接触を可能にするものであれば、重要でないと考えられる。本方法は、例えば流動床反応器、固定床反応器又は機械撹拌反応器で実施できる。各床に所望の触媒組成物を有する二元触媒床を使用し、所望により中間の水素又は塩化水素を二つの触媒床の間に注入できる固定床反応器が使用できる。
【0025】
本発明の例示的態様による反応中、塩化水素を追加することができる。塩化水素の量は広く変動しうる。好ましくは、塩化水素の量は、塩化水素対シリコンのモル比、約0〜4:1、好ましくは約0.6:1〜約1.1:1が得られるように添加される。
【0026】
本発明の別の態様による反応中、反応における水素対四塩化ケイ素のモル比は、例えば、約1:4〜4:1である。1.1:1〜2:1のモル比が好適である。反応中、塩化水素を追加でき、塩化水素の量は広く変動しうる。好ましくは、塩化水素の量は、塩化水素対四塩化ケイ素のモル比、約0〜4:1、好ましくは約0.6:1〜約1.1:1が得られるように添加される。
【0027】
本明細書中の例示的態様に従って製造されたトリクロロシランは、例えば、シラン、ソーラーグレード(太陽電池級)又はエレクトロニクスグレードのポリシリコン結晶、又はその組合せの製造に使用できる。そこでは、本発明の例示的態様は、本明細書中に記載の方法に従って得られたトリクロロシランを基にしたシラン及び/又はポリシリコン結晶の製造法にも関する。
【0028】
好ましくは、本発明の方法は、ソーラー又はエレクトロニクスグレードのポリシリコン結晶のための一般的方法に組み込むことができる。
本発明による本方法は、例えば“Economics of Polysilicon Process,Osaka Titanium Co.,DOE/JPL 1012122(1985),57−78”に具体的に示されているような、トリクロロシランを製造する工程;トリクロロシランを不均化してシランを得る工程;シランを精製して高純度シランを得る工程;及びシランを流動床反応器中で熱分解し、得られた超高純度シリコンを流動床を形成するシリコン粒子上に堆積させる工程を含む、ポリシリコン結晶を製造するための多段階式の一般的方法に組み込むことができる。
【0029】
別の適用において、本発明は、上記のようにトリクロロシランを合成し、その後トリクロロシランを蒸留によって単離し、未反応の四塩化ケイ素及び所望により本方法の何らかの未反応水素をリサイクルする工程;トリクロロシランを水素の存在下で分解して高純度シリコンを得る工程を含む、シラン及び/又はソーラー又はエレクトロニクスグレードのポリシリコン結晶を製造するための方法に組み込むことができる。トリクロロシランの分解は通常500℃を超える温度で起こる。
【0030】
さらに別の適用において、本発明は、上記のようにトリクロロシランを合成し、その後生成したトリクロロシランを蒸留によって単離し、未反応の四塩化ケイ素、及び所望により本方法の何らかの未反応水素をリサイクルする工程;トリクロロシランを、アルカリ触媒、好ましくはアミノ基を含む触媒上で、ジクロロシラン及びモノクロロシランの中間段階を通ってシラン及び四塩化ケイ素に不均化し(二つの装置又は一つの装置で実施される)、高沸点成分として提供される生成した四塩化ケイ素を第一の反応エリアにリサイクルする工程;前の工程で得られた純度のシランを使用する、又は該シランを意図する目的のために必要な純度が達成されるまで、好ましくは蒸留によって、特に好ましくは圧力下の蒸留によって精製する工程を含む、シラン及び/又はソーラー又はエレクトロニクスグレードのポリシリコン結晶を製造するための方法に組み込むことができる。シランを熱分解して高純度シリコンを得ることもできる。シランの分解は通常500℃を超える温度で起こる。
【0031】
電気的に加熱された高純度シリコンロッド上での熱分解のほかに、別の適切な方法は、超高純度シリコン粒子を含む流動床での熱分解である。ソーラーグレードの高純度シリコンが所望の場合、流動床の使用は特に望ましい。この目的のために、トリクロロシランは水素ガスとモル比1:0〜1:10で混合できる。
【0032】
本発明を少なくとも一つの態様に関して記載してきたが、本発明は、本開示の精神及び範囲内でさらに変形することが可能である。従って、本願は、本発明の一般的原理を使用するそのあらゆる変形、使用、又は適応をカバーするものとする。さらに、本願は、本発明が関係する技術分野において公知又は習慣的実施の範囲内に入るような本開示からの逸脱で、添付の特許請求の範囲の制限内に入るようなものもカバーするものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリクロロシランの製造法であって、該方法は、
シリコンを一つ又は複数の触媒と一緒に積層する工程;
シリコンと一つ又は複数の触媒の粒度を低減する工程;及び
一つ又は複数の触媒の存在下でシリコンを塩化水素と反応させるか、又はシリコン及び一つ又は複数の触媒の存在下で四塩化ケイ素を水素と反応させる工程
を含む方法。
【請求項2】
積層がローラープレスで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
粒度の低減が約5mm未満の粒度をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
粒度の低減が約0.001mm〜約1.0mmの粒度をもたらす、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
粒度の低減が約0.2mm〜約0.6mmの粒度をもたらす、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
粒度の低減がミル内で行われ、該ミルは該ミルから摩擦によって削られた粒子が所望反応の触媒作用に貢献する材料を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ミルが炭化タングステンで被覆されている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
一つ又は複数の触媒が、鉄、銅、酸化鉄、酸化銅、鉄塩、銅塩、及びそれらの組合せからなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
アルカリ金属塩、アルカリ金属ハロゲン化物、又はそれらの組合せの形態の二次触媒が存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
一つ又は複数の触媒と二次触媒が、アルカリ金属塩の形態の二次触媒は下流で重い濃度であり、シリコンと一つ又は複数の触媒は上流で重い濃度であるように積層される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
約200〜約800℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
約0〜約4MPa絶対圧の圧力で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
一つ又は複数の触媒が、水素、塩化水素、窒素、又はそれらの組合せの雰囲気下で導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
一つ又は複数の触媒が、水素、塩化水素、窒素、又はそれらの組合せの雰囲気下で粒度を低減される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
製造されたトリクロロシランがソーラーグレード又はエレクトロニクスグレードの多結晶シリコンを製造するのに使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
塩化水素対四塩化ケイ素のモル比が約0〜4:1、好ましくは約0.6:1〜約1.1:1となるように塩化水素を追加することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
水素対四塩化ケイ素のモル比が約1:4〜4:1、好ましくは約1.1:1〜2:1である、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2010−537935(P2010−537935A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523154(P2010−523154)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/074788
【国際公開番号】WO2009/029791
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510054566)ダイナミック・エンジニアリング,インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】