説明

トリコテセン系マイコトキシンの摂取を判定する方法

【課題】家畜によるカビ毒の摂取を判定するための方法及び手段を提供すること。
【解決手段】家畜由来のサンプルを調製するステップ、及び該サンプル中の遺伝子の発現を検出するステップを含む、家畜のトリコテセン系マイコトキシンの摂取を判定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜によるトリコテセン系マイコトキシンの摂取を判定するための方法及び手段を提供する。具体的には、本発明は、遺伝子の発現を検出することによって家畜のトリコテセン系マイコトキシン摂取を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜管理の問題として、カビ毒がある。2006年は、母豚約12万1700頭から1年間で約253万頭が生まれ、出荷頭数は約197万頭であった。すなわち約56万頭が死亡したと推定される。この死亡原因としては、オーエスキー病や流行性下痢、繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)、サーコウイルス感染症のような症状と言われているが、原因は確定していなく、カトリーナ被害を受けカビ毒に汚染されたトウモロコシが、2006年にかけて輸入され家畜被害を増加させたと考えられている。
【0003】
「カビ毒」とは、カビ(糸状菌類)の産生する二次代謝産物で、ヒトあるいは家畜・魚類など高等動物に対して急性若しくは慢性の生理的あるいは病理的障害を与える物質群に与えられた総称である。
【0004】
麦類に赤カビ病を起こすFusarium graminearum は「カビ毒」を産生する代表的な植物病原菌である。赤カビ病菌の産生する毒素で最も重要なものがデオキシニバレノール(DON)である。このDONは発ガン性はないが、悪心・嘔吐・腹痛・めまい・下痢・頭痛等の諸症状を伴う中毒症(急性毒性)を引き起こす急性毒性があることは昔からよく知られていた。ただし、世界的に見ても死亡例は報告されていない。しかし、現在問題になっているのは、こうした高濃度の汚染による中毒症ではない。より低濃度の汚染でも、長期間摂取していると成長抑制、体重低下や免疫力低下等ヒトの体に影響を及ぼすことが明らかになってきたからである。赤カビ病に関係のある「カビ毒」にはDON以外に、ニバレノール(NIV)、T-2トキシン(T-2)、ゼアラレノンが知られている。
【0005】
トリコテセン類(trichothecenes)はこのようなマイコトキシンの1種であり、セスキテルペンに属する約100種のカビ系毒素の総称である。トリコテセンは主に、植物のカビ、例えばムギ赤カビ病の原因菌として知られるFusarium graminearum、F. sporotrichioides、F. poae、F. equisetiなどのフザリウム属の菌により生産される。トリコテセンの生物活動を引き起こす最も重要な構造上の特徴は、12,13-エポキシ環、ヒドロキシ基、アセチル基である。一連の化合物はトリコテセン核に付く官能基により分類され、構造上の特徴から3つのグループに分けられる。このうちタイプA(T-2トキシン、HT-2トキシン、ジアセトキシスカーペノール)及びタイプB(デオキシニバレノール、ニバレノール、3-及び15-アセチルデオキシニバレノール)がヒトや家畜に重篤な中毒を引き起こし、無脊椎動物、植物にも影響を及ぼす。体内に取り込まれる経路は、皮膚及び粘膜などからの経皮浸潤、粉塵の吸入による気管支及び肺への取り込み、含有する食物摂食の三経路がある。そしてトリコテセン系マイコトキシンは、タンパク質合成や核酸合成を阻害する作用を有しており、骨髄、胃腸管の粘膜上皮、皮膚、生殖細胞などの細胞の分裂が盛んな組織では、細胞への毒性を強く発揮する。胃腸管の曝露は、食欲不振、吐き気、嘔吐、水様あるいは血性の下痢、腹痛などを起こすことがある。どの経路の曝露でも、吸収されたトリコテセン系マイコトキシンは、全身症状として、脱力、ふらつき、運動失調、めまいなどを起こすことがある。致命的な場合には、頻脈、低体温、低血圧、ショックを起こすことがあり、血球減少や出血、敗血症を起こすこともある。死亡は、曝露から数分後のこともあれば、何日もたってから起こることもある。例えばT-2マイコトキシンの致死量は、経口摂取の場合、体重70kgの男性において約35mg(0.5mg/kg)である。
【0006】
またアフラトキシンは、Aspergillus flavusなどのカビにより生成されるカビ毒(マイコトキシン)の1種であり、紫外線の照射によって青色や緑色の蛍光を発する。B1、B2、G1、G2、M1などの14種類ほどあり、なかでもアフラトキシンB1の毒性は最も強いことが知られている。例えば日常的に1日3〜4μg以上のアフラトキシン(B1)を摂取し続けている地域住民の肝臓癌発生率について有意な増加が示唆されている。アフラトキシンは、300ppbで家畜に被害を与えるとされており、家畜規制値は20ppbである。
【0007】
上述のように、カビ毒は、直接家畜の生死に影響を与えるばかりではなく、食肉中に残留し、ヒトへの健康にも影響を与えることから問題となっている。カビ毒は、通常の調理や加工の温度(100℃から210℃)や時間(60分以内)では、完全に分解することはできない。そのため、ゆでる、炒める、炊飯などのごく一般的な調理方法でカビ毒は、50%から80%は残存する。
【0008】
そのため、家畜によるカビ毒の摂取を判定したり、食品又は飼料中に存在するカビ毒を検出することが必要である。例えば、T細胞と検体とを接触させて、T細胞において誘導されるアポトーシスを定量することにより、食品又は飼料中に存在するトリコテセン系マイコトキシンを検出する方法が報告されている(特許文献1)。また、検出対象の毒性物質(例えばトリコテセン系マイコトキシン)に対する抗体を用いて、試料中の毒性物質の存在を検出する方法が報告されている(特許文献2〜4)。しかしながら、飼育中の未病状態の家畜からカビ毒自体を検出するのは非常に困難であるため、家畜によるカビ毒の摂取を直接的かつ効率的に判定するための方法及び手段は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−245211号公報
【特許文献2】特開平8−240583号公報
【特許文献3】特開2005−508395号公報
【特許文献4】国際公開WO01/018196号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、家畜によるカビ毒の摂取を判定するための方法及び手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、ブタにおいて、トリコテセン系マイクロトキシン(T-2トキシン)の摂取に応答して発現が変化する遺伝子を同定することに成功し、家畜におけるその遺伝子の発現を検出することによって、家畜のトリコテセン系マイクロトキシンの摂取を判定することができるという知見を得、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の(1)及び(2)である。
(1)以下のステップを含む、家畜のトリコテセン系マイコトキシンの摂取を判定する方法:
家畜由来のサンプルを調製するステップ、及び
該サンプル中の遺伝子の発現を検出するステップであって、該遺伝子が表1〜11に示される少なくとも1つの遺伝子である、上記ステップ。
【0013】
上記(1)の方法において、トリコテセン系マイコトキシンは、例えばT-2トキシンである。また上記(1)の方法において、家畜としては、例えばブタが挙げられる。またサンプルとしては血液サンプルが挙げられる。
【0014】
具体的には、上記(1)の方法においては、以下:
(1)AK233732、AK233953及びAK233712;
(2)AK235308、AK235358、AK234497、AK236587、AK235439、AK235558、AK236453、AK236133、AK234566、AK235700、AK236388、AK234842、AK236122、AK234117、AK234315、AK234750、AK235762、AK234353、AK236550、AK234369、AK234582、AK235764、AK235595及びAK234784;
(3)AK236976、AK236995、AK236895及びAK237010;
(4)AK240438、AK240579、AK240091、AK240429、AK240605、AK240062、AK240017、AK240093及びAK240185;
(5)AK231784、AK231862、AK232204、AK231616及びAK231643;
(6)AK237738、AK237167、AK237664、AK237469、AK237490、AK237589、AK237191、AK237763、AK237501、AK237515及びAK237427;
(7)AK237898、AK237851、AK238358及びAK237853;
(8)AK238450、AK238464、AK238497、AK238480及びAK238532;
(9)AK239237、AK239662、AK239504、AK238869及びAK238726;
(10)AK231277、AK231450、AK231469、AK231461、AK231321及びAK231383;並びに
(11)AK233541、AK232256、AK233021、AK232744、AK232332、AK233423、AK232681、AK233381、AK233138、AK233059、AK232376、AK232355、AK232938、AK232380、AK232277、AK233295、AK232597、AK232727及びAK233084
からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現を検出する。ここで、(1)、(3)〜(7)及び(9)〜(11)の各群より少なくとも1つの遺伝子と、(2)又は(8)のいずれかの群より少なくとも1つの遺伝子(すなわち、少なくとも10の遺伝子)を選択して、その発現を検出することが好ましい。
【0015】
上記(1)の方法において、遺伝子の発現の検出は、例えば、プライマーDNAを用いてサンプル中の遺伝子のmRNA若しくはそれに対応するcDNAを鋳型とした増幅反応を行い、増幅産物を検出することにより、あるいはプローブDNAを、該サンプル中の該mRNA若しくはそれに対応するcDNAと接触させ、該プローブDNAと該mRNA若しくはcDNAとの反応を検出することにより行うことができる。あるいはまた、遺伝子の発現の検出は、遺伝子によりコードされるポリペプチドに対する抗体と、サンプル中の該ポリペプチドとを接触させ、該ポリペプチドと該抗体との反応を検出することにより行ってもよい。
【0016】
(2)家畜由来のサンプルにおいて、表1〜11に示した遺伝子の発現を検出するための手段を含むことを特徴とする、家畜のトリコテセン系マイコトキシン摂取を判定するためのキット。
具体的には、上記(2)のキットは、以下:
(1)AK233732、AK233953及びAK233712;
(2)AK235308、AK235358、AK234497、AK236587、AK235439、AK235558、AK236453、AK236133、AK234566、AK235700、AK236388、AK234842、AK236122、AK234117、AK234315、AK234750、AK235762、AK234353、AK236550、AK234369、AK234582、AK235764、AK235595及びAK234784;
(3)AK236976、AK236995、AK236895及びAK237010;
(4)AK240438、AK240579、AK240091、AK240429、AK240605、AK240062、AK240017、AK240093及びAK240185;
(5)AK231784、AK231862、AK232204、AK231616及びAK231643;
(6)AK237738、AK237167、AK237664、AK237469、AK237490、AK237589、AK237191、AK237763、AK237501、AK237515及びAK237427;
(7)AK237898、AK237851、AK238358及びAK237853;
(8)AK238450、AK238464、AK238497、AK238480及びAK238532;
(9)AK239237、AK239662、AK239504、AK238869及びAK238726;
(10)AK231277、AK231450、AK231469、AK231461、AK231321及びAK231383;並びに
(11)AK233541、AK232256、AK233021、AK232744、AK232332、AK233423、AK232681、AK233381、AK233138、AK233059、AK232376、AK232355、AK232938、AK232380、AK232277、AK233295、AK232597、AK232727及びAK233084
からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝この発現を検出するための手段を含む。ここで、(1)、(3)〜(7)及び(9)〜(11)の各群より少なくとも1つの遺伝子と、(2)又は(8)のいずれかの群より少なくとも1つの遺伝子(すなわち、少なくとも10の遺伝子)を選択して、それらの遺伝子の発現を検出するための手段を含むことが好ましい。
【0017】
上記(2)のキットにおいて、遺伝子の発現を検出するための手段としては、例えば、該遺伝子の塩基配列又は該塩基配列に対し相補的な配列における少なくとも15個の連続する塩基からなるプライマーDNA又はプローブDNAが挙げられる。あるいは、遺伝子の発現を検出するための手段としては、該遺伝子によりコードされるポリペプチドに対する抗体又は抗体フラグメントを用いることもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、家畜によるトリコテセン系マイコトキシンの摂取を簡便かつ効率的に判定することができる。従って、本発明は、家畜の管理及び飼育、家畜の死因の推定、並びに家畜を利用した食品又は飼料の製造などの分野で有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明は、家畜のトリコテセン系マイコトキシンの摂取を判定する方法に関し、具体的には、家畜由来のサンプルにおける特定の遺伝子の発現を検出することを特徴とする。カビ毒の1種であるトリコテセン系マイコトキシンは、タンパク質の合成や核酸の合成を阻害する作用を有し、特に骨髄、胃腸管の粘膜上皮、皮膚、生殖細胞などの細胞の分裂が盛んな組織に対して細胞毒性を強く発揮する。そのため、本発明者は、生殖細胞(卵巣及び精巣)、骨髄(単核球)、並びに胃腸管に関与し血中に検出されるmRNA及びそれらをコードするタンパク質を検出することにより、家畜によるトリコテセン系マイコトキシンの摂取を判定することができると考えた。具体的には、(i)タンパク質合成、(ii)核酸合成、(iii)骨髄、胃腸間の粘膜上皮、皮膚及び生殖細胞における発現、(iv)血球減少、(v)顆粒球減少、(vi)出血、(vii)下痢、(viii)発熱に関連する遺伝子の発現が、トリコテセン系マイコトキシン摂取に応答して変化するか否かを検討することによって、トリコテセン系マイコトキシン摂取に応答して発現が変化する遺伝子を同定した。
【0020】
検出対象の具体的な遺伝子の名称(GenBankのアクセッション番号で表す)、遺伝子の機能、塩基配列及びアミノ酸配列のアクセッション番号を、表1〜11にまとめる。表1はリンパ節に関連する遺伝子を、表2は卵巣に関連する遺伝子を、表3は末梢血単核球に関連する遺伝子を、表4は子宮に関連する遺伝子を、表5は肺に関連する遺伝子を、表6は脾臓に関連する遺伝子を、表7は気管に関連する遺伝子を、表8は精巣に関連する遺伝子を、表9は胸腺に関連する遺伝子を、表10は腸に関連する遺伝子を、表11は肝臓に関連する遺伝子をそれぞれ示す。なお、表中、「遺伝子ID」にはGenBankアクセッション番号を示し、「bioDBnet ID」にはbiological DataBase network(http://biodbnet.abcc.ncifcrf.gov/)の登録番号を示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
【表5】

【0026】
【表6】

【0027】
【表7】

【0028】
【表8】

【0029】
【表9】

【0030】
【表10】

【0031】
【表11】

【0032】
表1〜11に列挙される遺伝子は、後述する実施例において、トリコテセン系マイコトキシンの1種であるT-2トキシンに応答して、その発現が5倍以上増加したものである。そのため、表1〜11に列挙される遺伝子の少なくとも1つの遺伝子の発現を検出することで、家畜によるトリコテセン系マイコトキシンの摂取を判定することができるが、2つ以上の遺伝子を組み合わせて遺伝子の発現を検出することによって、個体差による影響を低減したり、より信頼性をもった判定を行うことが可能となる。例えば、1つの表に列挙される遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子と、他の表に列挙される遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子とを組み合わせる。好ましくは、表1に列挙される遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子と、表2又は表8に列挙される遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子と、表3に列挙される遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子と、表4に列挙される遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子と、表5に列挙される遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子と、表6に列挙される遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子と、表7に列挙される遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子と、表9に列挙される遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子と、表10に列挙される遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子と、表11に列挙される遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子とを組み合わせて、トリコテセン系マイコトキシン摂取を判定することができる。好ましくは、AK233732(表1)、AK235308(表2)又はAK238450(表8)、AK236976(表3)、AK240438(表4)、AK231784(表5)AK237738(表6)、AK237898(表7)、AK239237(表9)、AK231277(表10)及びAK233541(表11)のうち少なくとも3つの遺伝子の組み合わせを選択する。より好ましくは、AK233732(表1)、AK235308(表2)又はAK238450(表8)、AK236976(表3)、AK240438(表4)、AK231784(表5)AK237738(表6)、AK237898(表7)、AK239237(表9)、AK231277(表10)及びAK233541(表11)の遺伝子の組み合わせを選択する。
【0033】
上述の通り、表1〜11に列挙される遺伝子は家畜によるトリコテセン系マイコトキシン摂取に応答してその発現が変化するため、家畜由来のサンプルにおいて、この遺伝子に対応するmRNA、ポリペプチド及び/又は抗体を検出し、この遺伝子の発現を検出することによって、家畜によるトリコテセン系マイコトキシンの摂取を判定することが可能となる。
【0034】
本発明においては、まず家畜由来のサンプルを調製する。使用するサンプルは、トリコテセン系マイコトキシンの摂取を判定しようとする家畜に由来するサンプルであれば特に限定されるものではなく、遺伝子の発現を検出するための手段の種類に応じて適宜選択される。例えば組織又は細胞サンプル(卵巣、精巣、骨髄、胃腸管等の組織又は細胞等)、生体液サンプル(血液、血清、血漿、尿、髄液腹水、唾液等)などが挙げられ、採取の容易性の点から、血液、血清又は血漿などをサンプルとして用いることが好ましい。
【0035】
また判定の対象となる家畜は、一般的な家畜動物であれば特に限定されるものではなく、例えばブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギなど、さらにはこれらの家畜動物の交配により作出される動物である。また本発明により、その他の哺乳動物、例えば霊長類(ヒト、サル、チンパンジーなど)、ペット用動物(イヌ、ネコなど)、実験動物(マウス、ラットなど)などにおけるトリコテセン系マイコトキシンの摂取も判定可能である。
【0036】
続いて、サンプル中の遺伝子の発現を検出する。ここで、遺伝子の発現を検出する手段としては、
(a)遺伝子に基づいて設計されたプローブDNA又はプライマーDNA、あるいは
(b)遺伝子によりコードされるポリペプチドに対する抗体
が挙げられる。以下、これらの手段について詳述する。
【0037】
本発明においては、遺伝子のDNAの全部若しくは一部の配列又はその相補配列を含むプライマーDNA又はプローブDNAを用いて、遺伝子の発現を検出することができる。具体的には、該プライマーDNA又はプローブDNAは、サンプル中に発現している遺伝子のmRNA又は該mRNAに対応するcDNAと特異的に結合することができるため、その結合に基づいてサンプル中の遺伝子の発現を検出することが可能である。
【0038】
プライマーDNA及びプローブDNAは、遺伝子の塩基配列に基づいて、公知のプログラムにより容易に設計することができる。プライマーとして実質的な機能を有するDNAの長さとしては、10塩基以上が好ましく、さらに好ましくは15〜50塩基であり、さらに好ましくは20〜30塩基である。またプローブとして実質的な機能を有するDNAの長さとしては、20塩基以上が好ましく、さらに好ましくは30〜60塩基であり、さらに好ましくは50〜60塩基である。
【0039】
本発明において用いることができる具体的なプローブDNAとしては、例えば表12〜22に示される塩基配列(配列番号1〜380)を有するものが挙げられる。表12〜22には、検出対象の遺伝子1つにつき4種の代表的なプローブの配列が示されている。
【0040】
【表12】

【0041】
【表13】




【0042】
【表14】

【0043】
【表15】


【0044】
【表16】

【0045】
【表17】


【0046】
【表18】

【0047】
【表19】

【0048】
【表20】

【0049】
【表21】

【0050】
【表22】



【0051】
上述のように設計したプライマーDNA及びプローブDNAは、当業者に公知の方法に従って調製することができる。さらに、当業者には周知のように、プライマーDNA又はプローブDNAには、アニーリング又はハイブリダイズする部分以外の配列、例えばタグ配列などの付加配列が含まれていてもよく、上述したプライマーDNA又はプローブDNAにそのような付加配列が付加されたものも本発明において用いることができる。
【0052】
家畜由来のサンプルにおける遺伝子の発現を検出するためには、上記プライマーDNA及び/又はプローブDNAをそれぞれ増幅反応又はハイブリダイゼーション反応において用い、その増幅産物又はハイブリッド産物を検出する。
【0053】
サンプルとしては、血液、血液細胞(単核球等)、細胞又は組織(卵巣、精巣、骨髄、胃腸管組織など)を対象とすることができる。また増幅反応又はハイブリダイゼーション反応を行う場合には、通常は、サンプルからmRNA又は該mRNAに対応するcDNAを調製する。mRNA及びcDNAは、当技術分野で周知の方法を適宜使用して抽出することができる。例えば、RNAを抽出する場合には、グアニジン-塩化セシウム超遠心法、ホットフェノール法、又はチオシアン酸グアジニウム-フェノール-クロロホルム(AGPC)法などを利用することができる。cDNAは、公知の逆転写酵素を利用して調製することができる。以上のように調製したサンプルを用いて、以下に示す増幅反応及び/又はハイブリダイゼーション反応を行う。
【0054】
1つの方法では、プライマーDNAを用いてmRNA又はcDNAを鋳型とした増幅反応を行い、その特異的増幅反応を検出することにより、サンプル中の遺伝子の発現の検出を行うことができる。増幅手法としては、特に限定されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法の原理を利用した公知の方法を挙げることができる。増幅は、増幅産物が検出可能なレベルになるまで行う。PCRの最適条件は、当業者であれば容易に決定することができる。またRT-PCR法では、まず、mRNAを鋳型として、逆転写酵素反応によりcDNAを作製し、その後、作製したcDNAを鋳型として一対のプライマーを用いてPCR法を行う。なお、増幅手法として競合PCR法やリアルタイムPCR法等の定量的PCR法などを採用することにより、定量的な検出が可能となる。
【0055】
上記増幅反応後に特異的な増幅反応が起こったか否かを検出するには、増幅反応により得られる増幅産物を特異的に認識することができる公知の手段を用いることができる。例えば、アガロースゲル電気泳動法等を利用して、特定のサイズの増幅断片が増幅されているか否かを確認することにより、特異的な増幅反応を検出することができる。
【0056】
あるいは、増幅反応の過程で取り込まれるdNTPに、放射性同位体、蛍光物質、発光物質などの標識体を作用させ、この標識体を検出することができる。放射性同位体としては、32P、125I、35Sなどを用いることができる。また蛍光物質としては、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、スルホローダミン(SR)、テトラメチルローダミン(TRITC)などを用いることができる。また発光物質としてはルシフェリンなどを用いることができる。これら標識体の種類や標識体の導入方法等に関しては、特に制限されることはなく、従来公知の各種手段を用いることができる。例えば標識体の導入方法としては、放射性同位体を用いるランダムプライム法が挙げられる。
【0057】
標識したdNTPを取り込んだ増幅産物を観察する方法としては、上述した標識体を検出するための当技術分野で公知の方法であればいずれの方法でもよい。例えば、標識体として放射性同位体を用いた場合には、放射活性を、例えば液体シンチレーションカウンター、γ-カウンターなどにより計測することができる。また標識体として蛍光を用いた場合には、その蛍光を蛍光顕微鏡、蛍光プレートリーダーなどを用いて検出することができる。
【0058】
以上のようにして特異的な増幅反応が検出された場合には、サンプル中に目的の遺伝子が発現していることとなる。
【0059】
また別の方法では、プローブDNAを用いてサンプルに対するハイブリダイゼーション反応を行い、その特異的結合(ハイブリッド)を検出することにより、遺伝子の発現を検出することもできる。
【0060】
ハイブリダイゼーション反応は、プローブDNAが遺伝子に由来するmRNA又はcDNAのみと特異的に結合するような条件、すなわちストリンジェントな条件下で行う必要がある。
【0061】
ハイブリダイゼーションを行う場合には、プローブDNAに蛍光標識(フルオレセイン、ローダミンなど)、放射性標識(32Pなど)、ビオチン標識等の適当な標識を付加することができる。従って、本発明においては、好ましくは、標識を付加したプローブを用いる。
【0062】
標識化プローブDNAを用いた検出は、サンプル又はそれから調製したmRNA若しくはcDNAとプローブDNAとをハイブリダイズ可能なように接触させることを含む。「ハイブリダイズ可能なように」とは、上述したストリンジェントな条件下にて特異的な結合が起こる環境(温度、塩濃度)において、ということである。具体的には、サンプル又はmRNA若しくはcDNAをスライドグラス、メンブラン、マイクロタイタープレート等の適当な固相に固定化し、標識を付加したプローブDNAを添加することにより、あるいは標識化プローブDNAを適当な固相に固定化し、サンプル又はmRNA若しくはcDNAを添加することにより、プローブDNAとサンプル又はmRNA若しくはcDNAとを接触させてハイブリダイゼーション反応を行い、ハイブリダイズしなかったプローブDNA又はサンプル等を除去した後、サンプル又はmRNA若しくはcDNAとハイブリダイズしているプローブDNAの標識を検出する。標識が検出された場合には、サンプル中に目的の遺伝子が発現していることとなる。
【0063】
また、標識の濃度を指標とすることにより、定量的な検出も可能となる。標識化プローブDNAを用いた検出方法の例としては、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等を挙げることができる。
【0064】
あるいは、家畜由来のサンプル中に発現された、検出対象の遺伝子によりコードされるポリペプチドは、該ポリペプチドに対する抗体と結合することができるため、そのような抗体を用いてサンプル中のポリペプチドとの反応を検出することによって、該サンプルにおける遺伝子の発現を検出することができる。
【0065】
検出対象の遺伝子によりコードされるポリペプチドに対する抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であり、完全な分子、及びFab、F(ab')2、Fvフラグメント等が含まれる。このような抗体は、例えばポリクローナル抗体の場合には、検出対象の遺伝子によりコードされるポリペプチドやその一部断片を免疫原として動物を免疫した後、血清から得ることができる。あるいは、上記の真核細胞用発現ベクターを注射や遺伝子銃によって、動物の筋肉や皮膚に導入した後、血清を採取することによって作製することができる。動物としては、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ニワトリなどが用いられる。
【0066】
また、モノクローナル抗体は、公知のモノクローナル抗体作製法(「単クローン抗体」、長宗香明、寺田弘共著、廣川書店、1990年; "Monoclonal Antibody" James W. Goding, third edition, Academic Press, 1996)に従い作製することができる。
【0067】
抗体を作製するために使用するポリペプチド又はその一部断片も、当技術分野で公知の方法、例えば化学合成法及び組換え手法を用いて、作製することができる。
【0068】
また抗体には、標識物質によって標識化された抗体も含まれる。そのような標識化抗体に使用する標識としては、酵素、放射性同位体又は蛍光色素を使用することができる。酵素は、代謝回転数が大きいこと、抗体と結合させても安定であること、基質を特異的に着色させる等の条件を満たすものであれば特段の制限はなく、通常の酵素免疫アッセイ(EIA)に用いられる酵素、例えば、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコース-6-リン酸化脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素等を用いることもできる。また、酵素阻害物質や補酵素等を用いることもできる。これら酵素と抗体との結合は、マレイミド化合物等の架橋剤を用いる公知の方法によって行うことができる。基質としては、使用する酵素の種類に応じて公知の物質を使用することができる。例えば酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、3,3',5,5'-テトラメチルベンジシンを、また酵素としてアルカリフォスファターゼを用いる場合には、パラニトロフェノール等を用いることができる。
【0069】
酵素を用いる場合には、酵素作用によって分解して発色する基質を加え、基質の分解量を光学的に測定することによって酵素活性を求め、これを結合抗体量に換算し、標準値との比較から抗体量が算出される。
【0070】
放射性同位体としては、125Iや3H等の通常のラジオイムノアッセイ(RIA)で用いられているものを使用することができる。放射性同位体を用いる場合には、放射性同位体の発する放射線量をシンチレーションカウンター等により測定する。
【0071】
蛍光色素としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)等の通常の蛍光抗体法に用いられるものを使用することができる。蛍光色素を用いる場合には、蛍光光度計や蛍光顕微鏡を組み合わせた測定装置によって蛍光量を測定すればよい。
【0072】
さらにまた、標識化抗体には、マンガンや鉄等の金属を結合させたものも含まれる。このような金属結合抗体を体内に投与し、MRI等によって金属を測定することによって、血液中のポリペプチドの存在、すなわち目的の遺伝子の発現を検出することができる。
【0073】
抗体を用いて家畜由来のサンプル中のポリペプチドの発現を検出し、トリコテセン系マイコトキシン摂取を判定する場合には、家畜由来のサンプル中に、検出対象の遺伝子によりコードされるポリペプチドが存在するか否かを試験する。また、サンプルとしては、検出対象の遺伝子によりコードされるポリペプチドが発現されるサンプルであれば特に限定されるものではなく、血液、血液細胞(単核球等)、細胞又は組織(卵巣、精巣、骨髄、胃腸管組織など)を対象とすることができる。
【0074】
抗体を用いて遺伝子の発現を検出する方法の1つは、抗体とサンプル中のポリペプチドとの結合を固相系において試験する方法である。この固相系における方法は、極微量のポリペプチドの検出と操作の簡便化のため好ましい方法である。すなわちこの固相系の方法は、抗体(一次抗体)を固相(樹脂プレート、メンブレン、ビーズ等)に固定化し、この固定化抗体にサンプル中のポリペプチドを結合させ、非結合ポリペプチドを洗浄除去した後、プレート上に残った抗体+ポリペプチド結合体に標識化抗体(二次抗体)を結合させ、この二次抗体のシグナルを検出する方法である。この方法は、いわゆる「サンドイッチ法」と呼ばれる方法であり、マーカーとして酵素を用いる場合には、「ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)」として広く用いられている方法である。一次抗体と二次抗体は、両方ともモノクローナル抗体を用いることもでき、あるいは、一次抗体と二次抗体のいずれか一方をポリクローナル抗体とすることもできる。
【0075】
また別の方法は、抗体とポリペプチドとの結合を液相系において行う方法である。例えば、標識化抗体とサンプルとを接触させて標識化抗体とサンプル中に含まれるポリペプチドを結合させ、この結合体を上記と同様の方法で分離し、標識シグナルを同様の方法で検出する。
【0076】
液相系の別の方法は、抗体(一次抗体)とサンプルとを接触させて一次抗体とサンプル中に含まれるポリペプチドを結合させ、この結合体に標識化抗体(二次抗体)を結合させ、この三者の結合体における標識シグナルを検出する。あるいは、さらにシグナルを増強させるために、非標識の二次抗体を先ず抗体+ポリペプチド結合体に結合させ、この二次抗体に標識物質を結合させるようにしてもよい。このような二次抗体への標識物質の結合は、例えば二次抗体をビオチン化し、標識物質をアビジン化しておくことによって行うことができる。あるいは、二次抗体の一部領域(例えば、Fc領域)を認識する抗体(三次抗体)を標識し、この三次抗体を二次抗体に結合させるようにしてもよい。なお、一次抗体と二次抗体は、両方ともモノクローナル抗体を用いることもでき、あるいは、一次抗体と二次抗体のいずれか一方をポリクローナル抗体とすることもできる。液相からの結合体の分離は上記と同様とすることができる。
【0077】
反応後のシグナルの検出は、例えば、ウエスタンブロット分析を採用することができる。あるいは、ポリペプチド+抗体+標識化抗体の結合体を、公知の分離手段(クロマト法、塩析法、アルコール沈殿法、酵素法、固相法等)によって分離し、標識化抗体のシグナルを検出するようにしてもよい。
【0078】
あるいは、免疫組織化学染色法(例えば免疫染色法)又は免疫電顕法のように、遺伝子発現のin situ検出のために、抗体を組織学的に用いることも可能である。in situ検出は、家畜から組織学的サンプルを切除し(組織のパラフィン包埋切片など)、それに標識した抗体を接触させることにより実施しうる。
【0079】
以上のようにして、サンプル中の遺伝子の発現を検出する。続いて、対象の家畜由来サンプル中の遺伝子の発現を、標準の遺伝子発現レベルと比較する。標準の遺伝子発現レベルは、トリコテセン系マイコトキシンを摂取していない家畜のサンプルから得られる。具体的な判定基準は、そのような標準的な遺伝子発現レベルと比較して、10%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは100%以上変化している場合である。例えば、トリコテセン系マイコトキシン摂取に応答して遺伝子の発現が増大する遺伝子の場合には、標準的な遺伝子発現レベルと比較して、少なくとも5倍、好ましくは少なくとも5.5倍、さらに好ましくは少なくとも6倍、最も好ましくは少なくとも10倍の増大は、対象の家畜がトリコテセン系マイコトキシンを摂取したと判定することができる。
【0080】
本発明により判定の対象となるのはトリコテセン系マイコトキシンの摂取である。そのようなトリコテセン系マイコトキシンは、共通骨格をもつ50種以上のマイコトキシンのグループであり、限定するものではないが、T-2トキシン、HT-2、デオキシニバレノール、ニバレノール、フザレノンX、ロリディンA、ベルカリンA等を含む。
【0081】
また本発明は、家畜由来のサンプルにおいて上記遺伝子の発現を検出するための手段を含むことを特徴とする、家畜のトリコテセン系マイコトキシン摂取を判定するためのキットに関する。このようなキットには、遺伝子の発現を検出するための手段(プライマーDNA、プローブDNA、抗体など)のほか、遺伝子発現を検出するために使用される、当技術分野で公知の各種成分(例えばバッファー、サンプル処理用試薬、標識化抗体など)が含まれてもよい。
【0082】
本発明のキットを用いることによって、上述した家畜によるトリコテセン系マイコトキシンの摂取を容易かつ簡便に行うことができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を示して本発明についてさらに詳細かつ具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。
【0084】
[実施例1]
4ヶ月齢の雄ブタ(Clawn miniature pig)5頭を用い、T-2トキシンの投与実験を行った。投与量は5mg/Kgをジメチルスルホキサイド5mlに溶解し、カプセルに封入後、直接経口投与した。
【0085】
投与前、並びに投与の4時間後、8時間後及び16時間後に、頸動脈より採血をし、一部は一般生化学検査用に分取し、残りはPAX gene RNA採血管(QIAGEN inc)に採取して冷凍(-20℃)保存した。
【0086】
PAX gene RNA採血管に保存した血液は、PAX gene blood RNA Kitを用いて、プロトコールに従ってRNAを精製した。調製したRNAは、Bioanalyzer(アジレント社製)を用いて、純度を検定した。次に精製したRNA 10μgから、Invitrogen社のSuperScript(tm) Double Stranded cDNA Synthesis kitを用いて、二本鎖cDNAを生成した。さらに、Cy3ラベル化ランダムプライマーを用いてランダムプライム反応によりサンプルの増幅・標識を行ない、エタノール沈殿による精製後、ハイブリダイゼーションを16〜20時間行った。洗浄後、スキャナーにてイメージ画像を取得し、解析を行った。検出用マイクロアレイに搭載しているプローブの長さは60mer/プローブ、生物種はSus scrofa、データソースはNCBI、搭載遺伝子は17253遺伝子/マイクロアレイであり、4プローブ/遺伝子となっている。このアレイはロッシュ社が使用しているものであり(ニンブルジェン製)、解析は委託した。
【0087】
T-2トキシンに応答してその発現が変化した遺伝子として、コントロールに比べてその発現が5倍以上誘導された遺伝子を選択した。この時、t-testでp値が0.05以上の遺伝子はカットした。選択された遺伝子とその発現量を表23〜33にまとめた。
【0088】
【表23】

【0089】
【表24】

【0090】
【表25】

【0091】
【表26】

【0092】
【表27】

【0093】
【表28】

【0094】
【表29】

【0095】
【表30】

【0096】
【表31】

【0097】
【表32】

【0098】
【表33】

【0099】
また、血液の一般生化学検査を行った。検査した一般生化学検査項目は、以下の通りである:
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)
アルカリホスファターゼ
γグルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)
尿素窒素
クレアチニン
ナトリウム
クロール
カリウム
総蛋白
白血球数
赤血球数
血色素量
ザーリー
色素指数
ヘマトクリット
平均赤血球容積(MCV)
平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)
平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)
血小板
アルブミン
【0100】
上記の一般生化学検査はすべて当技術分野で公知の手法により行った。この結果を表34にまとめる。表34の数値は、T2トキシン投与前及びT2トキシン投与後8時間の各個体の血液データ、平均値、投与前後のt検定を行った場合のp値の結果を表す。
【0101】
【表34】

【0102】
T2トキシン投与前と投与後8時間で有意(p<0.05)に変化した項目は、尿素窒素、クレアチニン、白血球数、赤血球数、ヘマトクリット、血色素量、ザーリーである。これらの結果より、T-2トキシンを摂取したブタにおける腎臓障害、炎症、脱水症状、出血等の症状が推察されるが、このようなデータからトリコテセン系マイコトキシンを含むカビ毒の摂取を判定することは困難である。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明により、家畜によるトリコテセン系マイコトキシンの摂取を簡便かつ効率的に判定することができる。従って、本発明は、家畜の管理及び飼育、家畜の死因の推定、並びに家畜を利用した食品又は飼料の製造などの分野で有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0104】
配列番号1〜380:DNA(人工配列、合成オリゴヌクレオチド)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜由来のサンプルを調製するステップ、及び
該サンプル中の遺伝子の発現を検出するステップであって、該遺伝子が以下:
(1)AK233732、AK233953及びAK233712;
(2)AK235308、AK235358、AK234497、AK236587、AK235439、AK235558、AK236453、AK236133、AK234566、AK235700、AK236388、AK234842、AK236122、AK234117、AK234315、AK234750、AK235762、AK234353、AK236550、AK234369、AK234582、AK235764、AK235595及びAK234784;
(3)AK236976、AK236995、AK236895及びAK237010;
(4)AK240438、AK240579、AK240091、AK240429、AK240605、AK240062、AK240017、AK240093及びAK240185;
(5)AK231784、AK231862、AK232204、AK231616及びAK231643;
(6)AK237738、AK237167、AK237664、AK237469、AK237490、AK237589、AK237191、AK237763、AK237501、AK237515及びAK237427;
(7)AK237898、AK237851、AK238358及びAK237853;
(8)AK238450、AK238464、AK238497、AK238480及びAK238532;
(9)AK239237、AK239662、AK239504、AK238869及びAK238726;
(10)AK231277、AK231450、AK231469、AK231461、AK231321及びAK231383;並びに
(11)AK233541、AK232256、AK233021、AK232744、AK232332、AK233423、AK232681、AK233381、AK233138、AK233059、AK232376、AK232355、AK232938、AK232380、AK232277、AK233295、AK232597、AK232727及びAK233084
からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子である、上記ステップ
を含む、家畜のトリコテセン系マイコトキシンの摂取を判定する方法。
【請求項2】
トリコテセン系マイコトキシンがT-2トキシンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
家畜がブタである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
サンプルが血液サンプルである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
(1)、(3)〜(7)及び(9)〜(11)の各群より少なくとも1つの遺伝子と、(2)又は(8)のいずれかの群より少なくとも1つの遺伝子とが選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
遺伝子の発現の検出が、プライマーDNAを用いてサンプル中の遺伝子のmRNA若しくはそれに対応するcDNAを鋳型とした増幅反応を行い、増幅産物を検出することにより、あるいはプローブDNAを、該サンプル中の該mRNA若しくはそれに対応するcDNAと接触させ、該プローブDNAと該mRNA若しくはcDNAとの反応を検出することにより行われる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
遺伝子の発現の検出が、遺伝子によりコードされるポリペプチドに対する抗体と、サンプル中の該ポリペプチドとを接触させ、該ポリペプチドと該抗体との反応を検出することにより行われる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
家畜由来のサンプルにおいて、以下:
(1)AK233732、AK233953及びAK233712;
(2)AK235308、AK235358、AK234497、AK236587、AK235439、AK235558、AK236453、AK236133、AK234566、AK235700、AK236388、AK234842、AK236122、AK234117、AK234315、AK234750、AK235762、AK234353、AK236550、AK234369、AK234582、AK235764、AK235595及びAK234784;
(3)AK236976、AK236995、AK236895及びAK237010;
(4)AK240438、AK240579、AK240091、AK240429、AK240605、AK240062、AK240017、AK240093及びAK240185;
(5)AK231784、AK231862、AK232204、AK231616及びAK231643;
(6)AK237738、AK237167、AK237664、AK237469、AK237490、AK237589、AK237191、AK237763、AK237501、AK237515及びAK237427;
(7)AK237898、AK237851、AK238358及びAK237853;
(8)AK238450、AK238464、AK238497、AK238480及びAK238532;
(9)AK239237、AK239662、AK239504、AK238869及びAK238726;
(10)AK231277、AK231450、AK231469、AK231461、AK231321及びAK231383;並びに
(11)AK233541、AK232256、AK233021、AK232744、AK232332、AK233423、AK232681、AK233381、AK233138、AK233059、AK232376、AK232355、AK232938、AK232380、AK232277、AK233295、AK232597、AK232727及びAK233084
からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現を検出するための手段を含むことを特徴とする、家畜のトリコテセン系マイコトキシン摂取を判定するためのキット。
【請求項9】
(1)、(3)〜(7)及び(9)〜(11)の各群より少なくとも1つの遺伝子と、(2)又は(8)のいずれかの群より少なくとも1つの遺伝子とが選択される、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
遺伝子の発現を検出するための手段が、該遺伝子の塩基配列又は該塩基配列に対し相補的な配列における少なくとも15個の連続する塩基からなるプライマーDNA又はプローブDNAである、請求項8又は9に記載のキット。
【請求項11】
遺伝子の発現を検出するための手段が、該遺伝子によりコードされるポリペプチドに対する抗体又は抗体フラグメントである、請求項8又は9に記載のキット。

【公開番号】特開2011−172488(P2011−172488A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36769(P2010−36769)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】