説明

トリスアゾ化合物、インク組成物、記録方法及び着色体

【課題】水媒体に対する溶解性が高く、高濃度水溶液及びインクを長期間保存した場合でも安定であり、印字された画像の濃度が非常に高く、高濃度溶液を印字した場合でもその画像にブロンズ現象を起こさず、印字された画像の堅牢性、特に耐光性と耐オゾンガス性に優れた黒色の記録画像を与える黒色インク用色素化合物とそのインク組成物の提供。
【解決手段】下記式(1)で表されるトリスアゾ化合物、その互変異性体又はその塩


(式(1)中、nは0又は1、R1は置換されても良いC1−C4アルキル基、カルボキシ基など、R2はスルホ基、カルボキシ基など、R3乃至R5はそれぞれ独立に水素原子、置換されても良いC1−C4アルキル基、置換されても良いC1−C4アルコキシ基などをそれぞれ表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリスアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はその塩、これらを含有するインク組成物及びそれらにより着色された着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のカラー記録方法の中でも代表的な方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法は、インクの小滴を発生させこれを種々の被記録材料(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものである。この方法は、記録ヘッドと被記録材とが直接接触しないため音の発生が少なく静かである。また小型化、高速化が容易という特徴のため近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。従来、万年筆、フェルトペン等のインク及びインクジェット記録インクとしては、水溶性色素を水性媒体中に溶解した水性インクが使用されている。これらの水性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく、一般に水溶性有機溶剤が添加されている。そしてこれらのインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求される。また使用される水溶性色素には、特に水への溶解度が高いこと、インクに添加される水溶性有機溶剤への溶解度が高いことが要求される。更に、記録により形成される画像には耐水性、耐光性、耐オゾンガス性、耐湿性等の画像堅牢性や、高発色であること、ブロンズ現象を生じないこと等が求められている。
【0003】
これらのうちで、耐オゾンガス性とは、空気中に存在する酸化作用を持つオゾンガスなどが記録紙中で色素に作用し、印刷された画像を変退色させるという現象に対する耐性のことである。オゾンガスの他にも、この種の作用を持つ酸化性ガスとしては、NOx、SOx等が挙げられる。これらの中でもオゾンガスは、インクジェット記録画像の変退色現象を促進させる主原因物質とされている。写真画質インクジェット専用紙の表面に設けられるインク受容層には、インクの乾燥を早めまた高画質でのにじみを少なくするために、多孔性白色無機物等の素材を用いているものが多い。このような記録紙上でオゾンガスによる変退色が顕著に見られる。この酸化性ガスによる変退色現象はインクジェット画像に特徴的なものであるため、耐オゾンガス性の向上はインクジェット記録方法における最も重要な課題の1つとなっている。
【0004】
光に対する記録画像の劣化の指標としては、大別して2種類の指標がある。1つは記録画像の印字濃度の低下の程度を指標とするものであり、他の1つは記録画像の色相の変化の程度を指標とするものである。
印字濃度の低下は記録画像の退色として、また、色相の変化は記録画像の変色として、それぞれ観察される。
記録画像を高品質な状態で長期に保存するために、光に対しても印字濃度の低下や、色相の変化を生じにくい、耐光性に優れた色素の開発が求められている。
【0005】
今後、インクジェット記録方法を用いた印刷方法の使用分野を拡大すべく、インクジェット記録により得られる記録画像には、耐光性、耐オゾンガス性、耐湿性、耐水性の更なる向上が強く求められている。
【0006】
ブロンズ現象とは、色素の会合やインクの吸収不良等を原因とし、被記録材の表面上で色素が金属片状になり、ぎらつく現象のことを言う。この現象が起こると光沢性、印字品位、印字濃度の全ての点で劣るものとなる。また、近年では銀塩写真に近い風合いを持つ記録媒体として、インクジェット専用紙の1つである光沢紙が多く使用されている。このような光沢紙上でブロンズ現象が発生すると、記録画像の光沢感にバラツキが生じ、画像の風合いを著しく損ねてしまう。このような観点から、ブロンズ現象を生じない色素が強く望まれている。
【0007】
種々の色相のインクが種々の色素から調製されているが、それらのうち黒色インクはモノカラー及びフルカラー画像の両方に使用される重要なインクである。これら黒色インク用の色素として今日まで多くのものが提案されているが、市場の要求を充分に満足する製品を提供するには至っていない。
提案されている色素の多くはアゾ色素であり、そのうちC.I.Food Black2等のジスアゾ色素については、画像の光学濃度が低い、耐水性や耐湿性が不良である、耐光性及び耐ガス性が十分でない等の問題がある。また、化合物中に存在する共役系を延ばしたポリアゾ色素については、一般に水溶性が低く記録画像が部分的に金属光沢を有するブロンズ現象が発生しやすい上、耐光性や耐ガス性が十分でないこと等が知られている。
アゾ色素と同様に数多く提案されているアゾ含金色素は、耐光性の良好なものも知られている。しかしながら、この色素は一般に重金属イオンを含むため、生物や環境への安全性が懸念され、さらに耐オゾンガス性が極めて弱いことが知られている。
【0008】
近年最も重要な課題となっている耐オゾンガス性について改良された黒色インクジェットインクに用いられる化合物(黒色色素)としては、例えば特許文献1及び2に記載の化合物が挙げられる。これらの化合物は耐オゾンガス性が市場要求を十分に満たすものではなく、耐光性に関しても十分ではない。
本発明の化合物と同様に、その分子内にピラゾリル基を有するトリスアゾ化合物は特許文献3〜7に開示されている。しかしながら、特許文献3〜7に開示されているトリスアゾ化合物も耐オゾンガス性や耐光性が市場要求を十分には満たしていない。
特許文献8、特許文献9には優れた耐オゾンガス性を有するとされる、黒色インクジェット記録インクに用いるトリスアゾ化合物が開示されているが、本願発明の構造は開示されておらず、更なる改善が市場命題とされている。
【0009】
【特許文献1】特開2003−183545号公報
【特許文献2】特開2003−201412号公報
【特許文献3】特開平10−195320号公報
【特許文献4】米国特許出願2001/0027734号公報
【特許文献5】特開2002−265809号公報
【特許文献6】国際公開2007/017631号パンフレット
【特許文献7】特表2007−517082号公報
【特許文献8】国際公開2005/054374号パンフレット
【特許文献9】特開2009−84346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、水溶解性に優れ、インク組成物を製造する過程でのメンブランフィルターによるろ過性が良好であり、また、ブロンズ現象を生じにくく、耐光性に極めて優れた記録画像を与える化合物又はその塩と、その化合物を含有するインクジェット記録用の黒色インク組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前記したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のトリスアゾ化合物が前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させたものである。即ち本発明は、(1)
下記式(1)で表されるトリスアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩、
【化1】

(式(1)中、
nは0又は1であり、
1は、カルボキシ基;C1−C8アルコキシカルボニル基;C1−C4アルキル基;C1−C8アルコキシカルボニル基若しくはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキル基;フェニル基;又は、置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するを有するフェニル基;を表し、
2はハロゲン原子;スルホ基;又は、カルボキシ基;を表し、
3乃至R5はそれぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;ヒドロキシ基;スルホ基;カルボキシ基;スルファモイル基;カルバモイル基;C1−C4アルキル基;C1−C4アルコキシ基;置換基として、ヒドロキシ基、C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するC1−C4アルコキシ基;モノC1−C4アルキルアミノ基;置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するモノC1−C4アルキルアミノ基;ジC1−C4アルキルアミノ基;置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される基を有するジC1−C4アルキルアミノ基;C1−C4アルキルカルボニルアミノ基;置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するC1−C4アルキルカルボニルアミノ基;モノC1−C4アルキルウレイド基;置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するモノC1−C4アルキルウレイド基;フェニルアミノ基;置換基として、ハロゲン原子、C1−C4アルキル基、ニトロ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するフェニルアミノ基;ベンゾイルアミノ基;置換基として、ハロゲン原子、C1−C4アルキル基、ニトロ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するベンゾイルアミノ基;フェニルスルホニルアミノ基;又は、置換基として、ハロゲン原子、C1−C4アルキル基、ニトロ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するフェニルスルホニルアミノ基;をそれぞれ表し、
6乃至R8はそれぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;カルボキシ基;スルホ基;ニトロ基;ヒドロキシ基;カルバモイル基;スルファモイル基;C1−C4アルキル基;C1−C4アルコキシ基;置換基として、ヒドロキシ基、C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するC1−C4アルコキシ基;C1−C4アルキルスルホニル基;置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するC1−C4アルキルスルホニル基;フェニルスルホニル基;又は、置換基として、ハロゲン原子、C1−C4アルキル基、ニトロ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するフェニルスルホニル基;をそれぞれ表す。)、
(2)
nが1であり、
1が、カルボキシ基;C1−C4アルキル基;又は、フェニル基;であり、
2が、ハロゲン原子;スルホ基;又はカルボキシ基であり、
3がスルホ基を有するC1−C4アルコキシ基であり、
4が水素原子であり、
5がC1−C4アルキル基であり、
6乃至R8がそれぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;カルボキシ基;スルホ基;C1−C4アルコキシ基;又は、C1−C4アルキルスルホニル基;であり、且つ、少なくともR6乃至R8のいずれか1つが水素原子以外の基である前記(1)に記載のトリスアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩、
(3)
nが1であり、
1がカルボキシ基であり、
2がスルホ基であり、
3がスルホ基を有するC1−C4アルコキシ基であり、
4が水素原子であり、
5がC1−C4アルキル基であり、
6乃至R8がそれぞれ独立に、水素原子;スルホ基;又は、C1−C4アルコキシ基であり、且つ、少なくともR6乃至R8のいずれか1つが水素原子以外の基である、
前記(1)に記載のトリスアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩、
(4)
nが1であり、
1がカルボキシ基であり、
2がスルホ基であり、
3がスルホ基を有するC1−C4アルコキシ基であり、
4が水素原子であり、
5がC1−C4アルキル基であり、
6乃至R8がそれぞれ独立に、水素原子;スルホ基;又は、C1−C4アルコキシ基であり、且つ、R6乃至R8のいずれか1つが水素原子、残りの2つの一方がスルホ基、他方がC1−C4アルコキシ基である、
前記(1)に記載のトリスアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩、
(5)
前記(1)乃至(4)のいずれか一項に記載のトリスアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はその塩を色素として少なくとも1種類含有する水性インク組成物、
(6)
さらに水溶性有機溶剤を含有する前記(5)に記載のインク組成物、
(7)
記録信号に応じて前記(5)又は(6)に記載のインク組成物の液滴を吐出させて、被記録材に付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法、
(8)
被記録材が情報伝達用シートである前記(7)に記載のインクジェット記録方法、
(9)
情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有するシートである前記(8)に記載のインクジェット記録方法、
(10)
前記(5)又は(6)に記載のインク組成物を含む容器を装填したインクジェットプリンタ、
(11)
a)前記(1)乃至(4)のいずれか一項に記載のトリスアゾ化合物又はその塩、b)前記(5)又は(6)に記載のインク組成物、又は、
c)前記(7)に記載のインクジェット記録方法、のいずれかにより着色された着色体、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のトリスアゾ化合物又はその塩は水溶解性に優れるため、インク組成物を製造する過程でのメンブランフィルターによるろ過性が良好である。また、本発明のトリスアゾ化合物を含有するインク組成物により、ブロンズ現象を生じにくく、耐光性に極めて優れた記録画像を与えるインクジェット記録用ブラックインクを提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、以下の本明細書においては煩雑さを避けるため、本発明のトリスアゾ「化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩」の全てを含めて、「化合物」と簡略化して記載する。
本発明のトリスアゾ化合物は、水溶性の黒色色素、すなわち黒色染料であり、前記式(1)で表される。
本発明の化合物は互変異性体を有し、この互変異性体としては、式(1)の化合物以外に下記式(2)から(4)等が考えられる。これらの互変異性体も本発明に含まれる。
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
(前記式(2)乃至式(4)中、n、及びR1〜R8は、前記式(1)におけるのと同じ意味を有する。)
【0018】
前記式(1)中、nは0又は1であり、1であるのが好ましい。
【0019】
前記式(1)中、R1におけるC1−C8アルコキシカルボニル基としては、直鎖、分岐鎖及び環状のものが挙げられ、直鎖及び分岐鎖のものが好ましい。
炭素数の範囲としては通常C1−C8、好ましくはC1−C6、より好ましくはC1−C4の範囲が挙げられる。
具体例としては例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n−プロポキシカルボニル、n−ブトキシカルボニル、n−ペンチルオキシカルボニル、n−ヘキシルオキシカルボニル、n−ヘプチルオキシカルボニル、n−オクチルオキシカルボニル等の直鎖のもの;イソプロポキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、sec−ブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、2,2−ジメチルプロポキシカルボニル、イソペンチルオキシカルボニル、sec−ペンチルオキシカルボニル、2−メチルブチルオキシカルボニル等の分岐鎖のもの;シクロプロピルメチルオキシカルボニル、シクロブチルメチルオキシカルボニル、シクロペンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル等の環状のもの;等が挙げられる。
【0020】
1におけるC1−C4アルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。その具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチルといった直鎖のもの;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチルといった分岐鎖のもの;が挙げられる。
これらの中ではメチル、エチル、t−ブチルが好ましく、メチルが特に好ましい。
【0021】
1におけるC1−C8アルコキシカルボニル基若しくはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキル基としては、前記「R1におけるC1−C4アルキル基」が、C1−C8アルコキシカルボニル基若しくはカルボキシ基で置換されたものが挙げられる。
具体例としては、メトキシカルボニルメチル、エトキシカルボニルエチル、n−ブトキシカルボニルメチル、n−オクチルオキシカルボキシエチル等のC1−C8アルコキシカルボニル基で置換されたもの;カルボキシメチル、2−カルボキシエチル、3−カルボキシプロピル、等のカルボキシ基で置換されたもの;等が挙げられる。
これらの中では、カルボキシ基を有するC1−C4アルキル基が好ましい。
【0022】
1における、置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するフェニル基としては、これらの基を通常1乃至3つ、好ましくは1又は2つ有するものが挙げられる。具体例としては、2−ヒドロキシフェニル、3−ヒドロキシフェニル、4−ヒドロキシフェニル等のヒドロキシ基を有するもの;2−スルホフェニル、3−スルホフェニル、4−スルホフェニル、2,4−ジスルホフェニル、3,5−ジスルホフェニル等のスルホ基を有するもの;2−カルボキシフェニル、3−カルボキシフェニル、4−カルボキシフェニル、3,5−ジカルボキシフェニル等のカルボキシ基を有するもの;及び、2−ヒドロキシ−5−スルホフェニル等の複数の種類の基を有するもの;等が挙げられる。
【0023】
前記のうち、R1としては、カルボキシ基;C1−C8アルコキシカルボニル基;C1−C4アルキル基;カルボキシ基を有するC1−C4アルキル基;又は、フェニル基が好ましい。
より好ましいものとして、カルボキシ基;C1−C4アルキル基;又は、フェニル基;が挙げられる。
中でもカルボキシ基が特に好ましい。
【0024】
式(1)中、R2としてはスルホ基又はカルボキシ基が好ましく、中でもスルホ基が特に好ましい。
【0025】
3乃至R5におけるC1−C4アルキル基としては、前記「R1におけるC1−C4アルキル基」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
【0026】
3乃至R5におけるC1−C4アルコキシ基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。その具体例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシといった直鎖のもの;イソプロポキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、t−ブトキシといった分岐鎖のもの;等が挙げられる。これらの中ではメトキシ及びエトキシが好ましく、メトキシが特に好ましい。
【0027】
3乃至R5における、置換基として、ヒドロキシ基、C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するC1−C4アルコキシ基としては、前記「R3乃至R5におけるC1−C4アルコキシ基」が置換基として、前記の基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するものが挙げられる。該置換基の置換数は通常1又は2つ、好ましくは1つである。
その具体例としては例えば、2−ヒドロキシエトキシ、2−ヒドロキシプロポキシ、3−ヒドロキシプロポキシ等のヒドロキシ基を有するもの;メトキシエトキシ、エトキシエトキシ、n−プロポキシエトキシ、イソプロポキシエトキシ、n−ブトキシエトキシ、メトキシプロポキシ、エトキシプロポキシ、n−プロポキシプロポキシ、イソプロポキシブトキシ、n−プロポキシブトキシ等のC1−C4アルコキシ基を有するもの;2−ヒドロキシエトキシエトキシ等のヒドロキシC1−C4アルコキシ基を有するもの;3−スルホプロポキシ、4−スルホブトキシ等のスルホ基を有するもの;カルボキシメトキシ、2−カルボキシエトキシ、3−カルボキシプロポキシ等のカルボキシ基を有するもの;等が挙げられる。
これらの中ではスルホ基を有するC1−C4アルコキシ基が特に好ましい。
【0028】
3乃至R5におけるモノC1−C4アルキルアミノ基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。
その具体例としては、メチルアミノ、エチルアミノ、n−プロピルアミノ、n−ブチルアミノ等の直鎖のもの;イソプロピルアミノ、イソブチルアミノ、sec−ブチルアミノ、t−ブチルアミノ等の分岐鎖のもの;等が挙げられる。
【0029】
3乃至R5における、置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するモノC1−C4アルキルアミノ基としては、前記「R3乃至R5におけるモノC1−C4アルキルアミノ基」が、置換基として、前記の基より成る群から選択される少なくとも1種類の基を有するものが挙げられる。該ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基の置換数は通常1又は2、好ましくは1である。
その具体例としては、2−ヒドロキシエチルアミノ、3−ヒドロキシプロピルアミノ、4−ヒドロキシブチルアミノ等のヒドロキシ基を有するもの;2−スルホエチルアミノ、3−スルホプロピルアミノ、4−スルホブチルアミノ等のスルホ基を有するもの;カルボキシメチルアミノ、2−カルボキシエチルアミノ、3−カルボキシプロピルアミノ、4−カルボキシブチルアミノ等のカルボキシ基を有するもの;等が挙げられる。
これらの中では、スルホ基若しくはカルボキシ基を有するモノC1−C4アルキルアミノ基が好ましい。より好ましくは、スルホ基を有するモノC1−C4アルキルアミノ基が挙げられる。
【0030】
3乃至R5におけるジC1−C4アルキルアミノ基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。
その具体例としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジ−n−プロピルアミノ、ジ−n−ブチルアミノ等の直鎖のもの;ジイソプロピルアミノ、ジ−sec−ブチルアミノ等の分岐鎖のもの;等が挙げられる。
【0031】
3乃至R5における、置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するジC1−C4アルキルアミノ基としては、前記「R3乃至R5におけるジC1−C4アルキルアミノ基」が、置換基として、前記の基より成る群から選択される少なくとも1種類の基を有するものが挙げられる。該ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基の置換数は、1つの「C1−C4アルキル」に対して通常1又は2、好ましくは1である。
また、該「C1−C4アルキル」部分は同一でも異なっていても良い。
その具体例としては、2,2’−ジヒドロキシジエチルアミノ、3,3’−ジヒドロキシジプロピルアミノ、4,4’−ジヒドロキシジブチルアミノ等のヒドロキシを有するもの;2,2’−ジスルホジエチルアミノ、3,3’−ジスルジプロピルホアミノ、4,4’−ジスルホジブチルアミノ、N−メチル−N−2−スルホエチルアミノ等のスルホ基を有するもの;ビス(カルボキシメチル)アミノ、2,2’−ジカルボキシジエチルアミノ、3,3’−ジカルボキシジプロピルアミノ、4,4’−ジカルボキシジブチルアミノ等のカルボキシ基を有するもの;等が挙げられる。
【0032】
3乃至R5における、C1−C4アルキルカルボニルアミノ基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。その具体例としては、メチルカルボニルアミノ(アセチルアミノ)、エチルカルボニルアミノ、n−プロピルカルボニルアミノ、n−ブチルカルボニルアミノといった直鎖のもの;イソプロピルカルボニルアミノ、イソブチルカルボニルアミノ、sec−ブチルカルボニルアミノ、t−ブチルカルボニルアミノといった分岐鎖のもの;等が挙げられる。
具体例の中ではメチルカルボニルアミノ(アセチルアミノ)が好ましい。
【0033】
3乃至R5における、置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するC1−C4アルキルカルボニルアミノ基としては、前記「R3乃至R5におけるC1−C4アルキルカルボニルアミノ基」が、置換基として、前記の基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するものが挙げられる。該置換基の置換数は通常1又は2つ、好ましくは1つである。
その具体例としては、ヒドロキシメチルカルボニルアミノ、2−ヒドロキシエチルカルボニルアミノ、3−ヒドロキシプロピルカルボニルアミノ、4−ヒドロキシブチルカルボニルアミノ等のヒドロキシ基を有するもの;3−スルホプロピルカルボニルアミノ、4−スルホブチルカルボニルアミノ等のスルホ基を有するもの;2−カルボキシエチルカルボニルアミノ、3−カルボキシプロピルカルボニルアミノ等のカルボキシ基を有するもの;等が挙げられる。
【0034】
3乃至R5におけるモノC1−C4アルキルウレイド基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。該C1−C4アルキルの置換位置は特に制限されないが、「N’」に置換するのが好ましい。
本明細書において、「モノC1−C4アルキルウレイド基」とは、「C1−C4アルキルNH−CO−NH−」基又は「H2N−CO−N(C1−C4アルキル)−」基を意味し、R3乃至R5が結合するベンゼン環において、該ベンゼン環に直接結合する窒素原子を「N」、この窒素原子とカルボニル(CO)基を介して結合する窒素原子を「N’」として記載する。従って、該C1−C4アルキルの置換位置としては、前者の「C1−C4アルキルNH−CO−NH−」基の場合が「N’」、後者の「H2N−CO−N(C1−C4アルキル)−」基の場合が「N」である。
その具体例としては、N’−エチルウレイド、N’−プロピルウレイド、N’−ブチルウレイド等の直鎖のもの;N’−イソプロピルウレイド、N’−イソブチルウレイド、N’−sec−ブチルウレイド、N’−t−ブチルウレイド等の分岐鎖のもの;等が挙げられる。
【0035】
3乃至R5における、置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するモノC1−C4アルキルウレイド基としては、前記「R3乃至R5におけるモノC1−C4アルキルウレイド基」が置換基として、前記の基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するものが挙げられる。該置換基の数は通常1又は2つ、好ましくは1つである。該置換基の位置は特に制限されないが、同一の炭素原子に窒素原子とヒドロキシ基とが置換しないものが好ましい。
その具体例としては、N’−2−ヒドロキシエチルウレイド、N’−3−ヒドロキシプロピルウレイド等のヒドロキシ基を有するもの;N’−2−スルホエチルウレイド、N’−3−スルホプロピルウレイド等のスルホ基を有するもの;N’−カルボキシメチルウレイド、N’−2−カルボキシエチルウレイド、N’−3−カルボキシプロピルウレイド、N’−4−カルボキシブチルウレイド等のカルボキシ基を有するもの;等が挙げられる。
【0036】
3乃至R5における、置換基として、ハロゲン原子、シアノ基、C1−C4アルキル基、C1−C4アルコキシ基、スルホ基、カルボキシ基、スルファモイル基、及びカルバモイル基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するフェニルアミノ基としては、置換基としてこれらの基を1乃至3つ、好ましくは1又は2つ有するものが挙げられる。置換基を複数有するとき、その種類は同一でも異なっていても良く、同一であるものが好ましい。
置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、及び臭素原子が挙げられ、塩素原子が好ましい(特に断りの無い限り、本構成を「置換基としてのハロゲン原子」と以下の明細書中では記載する)。
置換基としてのC1−C4アルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチルといった直鎖のもの;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチルといった分岐鎖のもの;が挙げられる。メチル及びt−ブチルが好ましく、メチルがより好ましい(特に断りの無い限り、本構成を「置換基としてのC1−C4アルキル基」と以下の明細書中では記載する)。
置換基としてのC1−C4アルコキシ基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。具体例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシといった直鎖のもの;イソプロポキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、t−ブトキシといった分岐鎖のもの;が挙げられ、メトキシが好ましい(特に断りの無い限り、本構成を「置換基としてのC1−C4アルコキシ基」と以下の明細書中では記載する)。
3乃至R5における、置換基として、前記の基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するフェニルアミノ基の具体例としては、2−クロロフェニルアミノ、3−クロロフェニルアミノ、4−クロロフェニルアミノ、2,3−ジクロロフェニルアミノ、2,4−ジクロロフェニルアミノ、2,5−ジクロロフェニルアミノ、2,6−ジクロロフェニルアミノ、2−フルオロフェニルアミノ、3−フルオロフェニルアミノ、4−フルオロフェニルアミノ等のハロゲン原子を有するもの;
2−シアノフェニルアミノ、3−シアノフェニルアミノ、4−シアノフェニルアミノ等のシアノ基を有するもの;2−メチルフェニルアミノ、3−メチルフェニルアミノ、4−メチルフェニルアミノ、2−エチルフェニルアミノ、3−エチルフェニルアミノ、4−エチルフェニルアミノ、2−プロピルフェニルアミノ、3−プロピルフェニルアミノ、4−プロピルフェニルアミノ、2−イソプロピルフェニルアミノ、3−イソプロピルフェニルアミノ、4−イソプロピルフェニルアミノ、2−ブチルフェニルアミノ、3−ブチルフェニルアミノ、4−ブチルフェニルアミノ、2−sec−ブチルフェニルアミノ、3−sec−ブチルフェニルアミノ、4−sec−ブチルフェニルアミノ、2−t−ブチルフェニルアミノ、3−t−ブチルフェニルアミノ、4−t−ブチルフェニルアミノ、2,3−ジメチルフェニルアミノ、2,4−ジメチルフェニルアミノ、2,5−ジメチルフェニルアミノ、2,6−ジメチルフェニルアミノ、3,4−ジメチルフェニルアミノ、3,5−ジメチルフェニルアミノ、2,6−ジエチルフェニルアミノ、2−エチル−6−メチルフェニルアミノ、2,6−ジイソプロピルフェニルアミノ、5−イソプロピル−2−メチルフェニルアミノ、2−t−ブチル−6−メチルフェニルアミノ、2,4,6−トリメチルフェニルアミノ等のC1−C4アルキル基を有するもの;2−メトキシフェニルアミノ、3−メトキシフェニルアミノ、4−メトキシフェニルアミノ、2−エトキシフェニルアミノ、3−エトキシフェニルアミノ、4−エトキシフェニルアミノ、2−プロポキシフェニルアミノ、3−プロポキシフェニルアミノ、4−プロポキシフェニルアミノ、2−イソプロポキシフェニルアミノ、3−イソプロポキシフェニルアミノ、4−イソプロポキシフェニルアミノ、2−ブトキシフェニルアミノ、3−ブトキシフェニルアミノ、4−ブトキシフェニルアミノ、2−sec−ブトキシフェニルアミノ、3−sec−ブトキシフェニルアミノ、4−sec−ブトキシフェニルアミノ、2−t−ブトキシフェニルアミノ、3−t−ブトキシフェニルアミノ、4−t−ブトキシフェニルアミノ、2,3−ジメトキシフェニルアミノ、2,4−ジメトキシフェニルアミノ、2,5−ジメトキシフェニルアミノ、2,6−ジメトキシフェニルアミノ、3,4−ジメトキシフェニルアミノ、3,5−ジメトキシフェニルアミノ、3,4,5−トリメトキシフェニルアミノ等のC1−C4アルコキシ基を有するもの;2−スルホフェニルアミノ、3−スルホフェニルアミノ、4−スルホフェニルアミノ、2,4−ジスルホフェニルアミノ、2,5−ジスルホフェニルアミノ、3,5−ジスルホフェニルアミノ等のスルホ基を有するもの;2−カルボキシフェニルアミノ、3−カルボキシフェニルアミノ、4−カルボキシフェニルアミノ、2,4−ジカルボキシフェニルアミノ、2,5−ジカルボキシフェニルアミノ、3,4−ジカルボキシフェニルアミノ、3,5−ジカルボキシフェニルアミノ等のカルボキシ基を有するもの;2−スルファモイルフェニルアミノ、3−スルファモイルフェニルアミノ、4−スルファモイルフェニルアミノ等のスルファモイル基を有するもの;2−カルバモイルフェニルアミノ、3−カルバモイルフェニルアミノ、4−カルバモイルフェニルアミノ等のカルバモイル基を有するもの;2−カルボキシ−4−クロロフェニルアミノ、2−カルボキシ−5−クロロフェニルアミノ、4−クロロ−3−スルホフェニルアミノ、2−クロロ−4−スルホフェニルアミノ、2−カルボキシ−4−スルホフェニルアミノ、2−カルボキシ−5−スルホフェニルアミノ等の、置換基として、前記の基より成る群から選択される複数種類の基を有するもの;等が挙げられる。
【0037】
3乃至R5における、置換基として、ハロゲン原子、C1−C4アルキル基、ニトロ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するベンゾイルアミノ基としては、これらの置換基を1乃至3つ、好ましくは1又は2つ有するものが挙げられる。置換基を複数有するとき、その種類は同一でも異なっていても良く、同一であるものが好ましい。また置換基の置換位置は特に制限されないが、該ベンゾイルアミノ基におけるベンゼン環上に置換するのが好ましい。
置換基としてのハロゲン原子としては、前記「置換基としてのハロゲン原子」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
置換基としてのC1−C4アルキル基としては、前記「置換基としてのC1−C4アルキル基」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。中でもメチルが特に好ましい。
その具体例としては、2−クロロベンゾイルアミノ、4−クロロベンゾイルアミノ、2,4−ジクロロベンゾイルアミノ等のハロゲン原子を有するもの;2−メチルベンゾイルアミノ、3−メチルベンゾイルアミノ、4−メチルベンゾイルアミノ、2,4,6−トリメチルベンゾイルアミノ等のC1−C4アルキル基を有するもの;2−ニトロベンゾイルアミノ、4−ニトロベンゾイルアミノ、3,5−ジニトロベンゾイルアミノ等のニトロ基を有するもの;2−スルホベンゾイルアミノ、3−スルホベンゾイルアミノ、4−スルホベンゾイルアミノ等のスルホ基を有するもの;2−カルボキシベンゾイルアミノ、4−カルボキシベンゾイルアミノ、3,5−ジカルボキシベンゾイルアミノ等のカルボキシ基を有するもの;等が挙げられる。
【0038】
3乃至R5における、置換基として、ハロゲン原子、C1−C4アルキル基、ニトロ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するフェニルスルホニルアミノ基としては、これらの置換基を1乃至3つ、好ましくは1又は2つ有するものが挙げられる。置換基を複数有するとき、その種類は同一でも異なっていても良く、同一であるものが好ましい。また置換基の置換位置は特に制限されないが、該フェニルスルホニルアミノ基におけるベンゼン環上に置換するのが好ましい。
置換基としてのハロゲン原子としては、前記「置換基としてのハロゲン原子」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
置換基としてのC1−C4アルキル基としては、前記「置換基としてのC1−C4アルキル基」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
また置換基の置換位置は特に制限されないが、該フェニルスルホニルアミノ基におけるベンゼン環上に置換するのが好ましい。
その具体例としては、2−クロロフェニルスルホニルアミノ、4−クロロフェニルスルホニルアミノ等のハロゲン原子を有するもの;2−メチルフェニルスルホニルアミノ、4−メチルフェニルスルホニルアミノ、4−t−ブチルフェニルスルホニルアミノ等のC1−C4アルキル基を有するもの;2−ニトロフェニルスルホニルアミノ、3−ニトロフェニルスルホニルアミノ、4−ニトロフェニルスルホニルアミノ等のニトロ基を有するもの;3−スルホフェニルスルホニルアミノ、4−スルホフェニルスルホニルアミノ等のスルホ基を有するもの;3−カルボキシフェニルスルホニルアミノ、4−カルボキシフェニルスルホニルアミノ等のカルボキシ基を有するもの;等が挙げられる。
【0039】
前記のうち、R3乃至R5としては、水素原子;置換基として、ヒドロキシ基、C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するC1−C4アルコキシ基;又は、C1−C4アルキル基;が好ましい。
より好ましいものとして、水素原子;スルホ基を有するC1−C4アルコキシ基;又は、C1−C4アルキル基;が挙げられる。
【0040】
式(1)における好ましいR3乃至R5の組み合わせとしては、R3が、置換基として、ヒドロキシ基、C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するC1−C4アルコキシ基、R4が水素原子、R5がC1−C4アルキル基である組み合わせが挙げられる。
より好ましいものとしては、R3がスルホ基を有するC1−C4アルコキシ基、R4が水素原子、R5がC1−C4アルキル基である組み合わせが挙げられる。
【0041】
前記式(1)中、R6乃至R8におけるC1−C4アルキル基としては、前記「R1におけるC1−C4アルキル基」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
【0042】
6乃至R8におけるC1−C4アルコキシ基としては、前記「R3乃至R5におけるC1−C4アルコキシ基」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
【0043】
6乃至R8における、置換基として、ヒドロキシ基、C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するC1−C4アルコキシ基としては、前記「R3乃至R5における、置換基として、ヒドロキシ基、C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するC1−C4アルコキシ基」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
【0044】
6乃至R8におけるC1−C4アルキルスルホニル基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。
その具体例としては、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、n−ブチルスルホニルといった直鎖のもの;イソプロピルスルホニル、イソブチルスルホニル、sec−ブチルスルホニル、t−ブチルスルホニルといった分岐鎖のもの;が挙げられる。
【0045】
6乃至R8における、置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するC1−C4アルキルスルホニル基としては、前記「R6乃至R8におけるC1−C4アルキルスルホニル基」が、置換基として、前記の基を有するものが挙げられる。該置換基の置換数は通常1又は2つ、好ましくは1つである。
その具体例としては、2−ヒドロキシエチルスルホニル、3−ヒドロキシプロピルスルホニル等のヒドロキシ基を有するもの;2−スルホプロピルスルホニル、3−スルホプロピルスルホニル、4−スルホブチルスルホニル等のスルホ基を有するもの;カルボキシメチルスルホニル、2−カルボキシエチルスルホニル、3−カルボキシプロピルスルホニル等のカルボキシ基を有するもの;等が挙げられる。
【0046】
6乃至R8における、置換基として、ハロゲン原子、C1−C4アルキル基、ニトロ基、スルホ基及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するフェニルスルホニル基としては、これらの置換基を1乃至3つ、好ましくは1又は2つ有するものが挙げられる。置換基を複数有するとき、その種類は同一でも異なっていても良く、同一であるものが好ましい。
置換基としてのハロゲン原子としては、前記「置換基としてのハロゲン原子」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
置換基としてのC1−C4アルキル基としては、前記「置換基としてのC1−C4アルキル基」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
その具体例としては、2−クロロフェニルスルホニル、4−クロロフェニルスルホニル等のハロゲン原子を有するもの;2−メチルフェニルスルホニル、4−メチルフェニルスルホニル、2,4−ジメチルフェニルスルホニル、4−t−ブチルフェニルスルホニル等のC1−C4アルキル基を有するもの;2−ニトロフェニルスルホニル、4−ニトロフェニルスルホニル等のニトロ基を有するもの;3−スルホフェニルスルホニル、4−スルホフェニルスルホニル、3,5−ジスルホフェニルスルホニル等のスルホ基を有するもの;2−カルボキシフェニルスルホニル、4−カルボキシフェニルスルホニル、3,5−ジカルボキシフェニルスルホニル等のカルボキシ基を有するもの;等が挙げられる。
【0047】
式(1)における好ましいR6乃至R8としては、水素原子;ハロゲン原子;カルボキシ基;スルホ基;C1−C4アルコキシ基;又は、C1−C4アルキルスルホニル基;が挙げられる。
また、式(1)における好ましいR6乃至R8の組み合わせとしては、R6乃至R8がそれぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;カルボキシ基;スルホ基;C1−C4アルコキシ基;又は、C1−C4アルキルスルホニル基;であり、且つ、少なくともR6乃至R8のいずれか1つが水素原子以外の基である組み合わせが挙げられる。
より好ましい組み合わせとしては、R6乃至R8がそれぞれ独立に、水素原子;スルホ基;又は、C1−C4アルコキシ基であり、且つ、少なくともR6乃至R8のいずれか1つが水素原子以外の基である組み合わせが挙げられる。
特に好ましい組み合わせとしては、R6乃至R8のいずれか1つが水素原子、残りの2つの一方がスルホ基、他方がC1−C4アルコキシ基である組み合わせが挙げられる。
【0048】
6乃至R8の置換位置については特に制限されないが、ベンゾチアゾール環における硫黄原子を1位、窒素原子を3位として、
6乃至R8のうち2つが水素原子、残りの1つが水素原子以外の基のとき、水素原子以外の基が6位;R6乃至R8のうち1つが水素原子、残りの2つが水素原子以外の基のとき、水素原子以外の基が4位及び6位、5位及び6位、又は、6位及び7位;に、それぞれ置換するのが好ましい。
特に好ましくは、R6乃至R8のうち1つが水素原子、残りの2つが水素原子以外の基のときであり、このとき、水素原子以外の基が5位及び6位、又は、6位及び7位;に、それぞれ置換するものが挙げられる。
【0049】
前記式(1)から(4)の置換基について記載した好ましいもの同士を組み合わせた化合物はより好ましく、より好ましいもの同士を組み合わせた化合物はさらに好ましい。さらに好ましいもの同士、好ましいものとより好ましいものとの組み合わせ等についても同様である。
【0050】
特に限定されるものではないが、前記式(1)で表される本発明の化合物の好適な具体例の1つとして、下記表1乃至4に記載した化合物等が挙げられる。
各表においてスルホ基及びカルボキシ基などの酸性官能基は、便宜上、遊離酸の形で記載する。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
前記式(1)で表されるトリスアゾ化合物の塩は、無機又は有機の陽イオンの塩である。そのうち無機塩の具体例としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩が挙げられ、好ましい無機塩は、リチウム、ナトリウム、カリウムの塩及びアンモニウム塩であり、又、有機の陽イオンの塩としては例えば下記式(5)で表される4級アンモニウムイオンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また遊離酸、その互変異性体、及びそれらの各種の塩の混合物であってもよい。例えばナトリウム塩とアンモニウム塩の混合物、遊離酸とナトリウム塩の混合物、リチウム塩、ナトリウム塩及びアンモニウム塩の混合物など、任意の組み合わせの混合物として用いても良い。塩の種類によって溶解性などの物性値が異なる場合も有り、必要に応じて適宜塩の種類を選択すること;複数の塩などを含む場合にはその比率を変化させること;等の手法により、目的に適う物性を有する混合物を得ることもできる。
【0056】
【化5】

【0057】
式(5)中、Z1、Z2、Z3、Z4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基及びヒドロキシアルコキシアルキル基よりなる群から選択される基を表す。
式(5)におけるZ1、Z2、Z3、Z4のアルキル基の具体例としてはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチルなどが挙げられる。
ヒドロキシアルキル基の具体例としてはヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシC1−C4アルキル基が挙げられる。
ヒドロキシアルコキシアルキル基の例としては、ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、2−ヒドロキシエトキシプロピル、4−ヒドロキシエトキシブチル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等ヒドロキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキル基が挙げられ、これらのうちではヒドロキシエトキシC1−C4アルキルが好ましい。
特に好ましいものとしては水素原子;メチル;ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシC1−C4アルキル基;ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、2−ヒドロキシエトキシプロピル、4−ヒドロキシエトキシブチル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等のヒドロキシエトキシC1−C4アルキル基;が挙げられる。
【0058】
式(5)として好ましい化合物のZ1、Z2、Z3、及びZ4の組み合わせの具体例を下記表1に示す。
【0059】
【表5】

【0060】
前記式(1)で表される化合物は、例えば次のような方法で合成することができる。下記式(6)乃至(11)において適宜使用される、n、R1乃至R8は、いずれも前記式(1)におけるのと同じ意味を有する。
なお、各工程における化合物の構造式は便宜上、遊離酸の形で表すものとする。
下記式(6)で表される化合物を常法によりジアゾ化し、これと下記式(7)で表される化合物を常法によりカップリング反応させ下記式(8)で表される化合物を得る。
【0061】
【化6】

【0062】
【化7】

【0063】
【化8】

【0064】
得られた式(8)の化合物を常法によりジアゾ化した後、これと下記式(9)で表される化合物を常法によりカップリング反応させ下記式(10)で表される化合物を得る。
【0065】
【化9】

【0066】
【化10】

【0067】
得られた式(10)の化合物を常法によりジアゾ化した後、これと下記式(11)で表される化合物を常法によりカップリング反応させる事により式(1)で表される本発明のトリスアゾ化合物を得ることができる。
【0068】
【化11】

【0069】
なお、式(11)で表される化合物は、市販品として購入できるものもあり、また当業者であれば公知の方法で合成することも可能である。
【0070】
前記式(6)の化合物のジアゾ化はそれ自体公知の方法で実施される。たとえば硫酸、酢酸もしくは燐酸中、例えば−5〜20℃、好ましくは5〜10℃の温度でニトロシル硫酸を使用して実施される。式(6)の化合物のジアゾ化物と式(7)の化合物とのカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水又は水性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは10〜30℃の温度で実施される。式(6)の化合物と式(7)の化合物とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0071】
式(8)の化合物のジアゾ化もそれ自体公知の方法で実施される。たとえば塩酸、硫酸のような無機酸存在下、水又は水性有機媒体(水と水溶性有機溶剤との混合物等)中、例えば−5〜40℃、好ましくは5〜30℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(8)の化合物のジアゾ化物と式(9)の化合物のカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水又は水性有機媒体中、例えば−5〜50℃、好ましくは10〜30℃の温度ならびに弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱酸性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH6〜10で実施される。ジアゾ化反応液が酸性であるため、またカップリング反応の進行により反応系内は更に酸性化してしまうため、前記のpH値への調整を塩基の添加によって行うのが好ましい。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウム等の酢酸塩、アンモニア又は有機アミン等が使用できる。式(8)と(9)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0072】
式(10)の化合物のジアゾ化もそれ自体公知の方法で実施される。たとえば塩酸、硫酸のような無機酸存在下、含む水又は水性有機媒体(水と水溶性有機溶剤との混合物等)中、例えば−5〜40℃、好ましくは10〜30℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(10)の化合物のジアゾ化物と式(11)の化合物のカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水又は水性有機媒体中、例えば−5〜50℃、好ましくは10〜30℃の温度ならびに弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱酸性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH6〜10で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、前記と同じものが使用できる。式(10)と(11)の化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0073】
本発明の式(1)で示されるトリスアゾ化合物を所望の塩とするには、カップリング反応後、所望の無機塩又は有機の陽イオンの塩を反応液に添加することにより塩析するか、或いは塩酸など鉱酸の添加により遊離酸の形で単離し、これを水、酸性の水又は水性有機媒体などを必要に応じ用いて洗浄することにより無機塩を除去後、水性の媒体中で所望の無機又は有機の塩基により中和することで対応する塩の溶液とすることが出来る。ここで酸性の水とは、例えば硫酸、塩酸などの鉱酸や酢酸などの有機酸を水に溶解し、酸性にしたものをいう。また水性有機媒体とは、水を含有する水と混和可能な有機物質及び水と混和可能ないわゆる有機溶剤などをいい、具体例としては後述する水溶性有機溶剤などが挙げられるが、通常溶剤として分類されない有機物質であっても水と混和可能なものであれば必要に応じて使用することが可能である。この通常溶剤として分類されない有機物質の例としては、尿素や糖類などを挙げることができる。無機塩の例としては塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等アルカリ金属塩、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム等のアンモニウム塩が挙げられ、有機の陽イオンの塩の例としては、前記した式(10)で表される有機アミンのハロゲン塩等が挙げられる。無機の塩基の例としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などが挙げられ、有機の塩基の例としては、有機アミン、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの前記した式(5)で表される4級アンモニウム類等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0074】
本発明のインク組成物について説明する。本発明の前記式(1)で表されるトリスアゾ化合物を含む水性インク組成物は、セルロースからなる材料を染色することが可能である。また、その他カルボンアミド結合を有する材料にも染色が可能で、皮革、織物、紙の染色に幅広く用いることができる。一方、本発明の化合物の代表的な使用法としては、液体の媒体に溶解してなるインク組成物が挙げられる。
【0075】
前記式(1)で示される本発明のトリスアゾ化合物を含む反応液、例えば後述する実施例1(3)における塩化ナトリウムで塩析する前の反応液などは、インク組成物の製造に直接使用する事が出来る。しかし、まずこれを乾燥、例えばスプレー乾燥させて単離するか;塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム等の無機塩類を添加することによって塩析するか;塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸を添加刷ることによって酸析するか;あるいは前記した塩析と酸析を組み合わせた酸塩析すること;等によって本発明のトリスアゾ化合物を単離し、これを用いてインク組成物を調製することもできる。
【0076】
本発明のインク組成物は、その総質量に対して、本発明の式(1)で示されるトリスアゾ化合物を通常0.1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜8質量%含有し、残部は水を主要な媒体とする組成物である。本発明のインク組成物には、さらに水溶性有機溶剤を例えば0〜50質量%、インク調製剤を例えば0〜10質量%含有していても良い。水溶性有機溶剤は、該インク組成物における色素の溶解、乾燥の防止、粘度の調整、浸透の促進、表面張力の調整、消泡等の効果を期待して使用され、該インク組成物中に10〜50質量%程度含有することが好ましい。また、所望により調色等の目的で他の色素を含んでも良い。なお、インク組成物のpHとしては、保存安定性を向上させる点で、pH5〜11が好ましく、pH7〜10がより好ましい。また、インク組成物の表面張力としては、25〜70mN/mが好ましく、25〜60mN/mがより好ましい。さらに、インク組成物の粘度としては、30mPa・s以下が好ましく、20mPa・s以下がより好ましい。本発明のインク組成物のpH、表面張力は後記するようなpH調整剤、界面活性剤で適宜調整することが可能である。
【0077】
本発明のインク組成物は、前記の式(1)で示されるトリスアゾ化合物を、必要に応じて他の調色用等の色素と共に、水又は水溶性有機溶剤(水と混和可能な有機溶剤)に溶解し、必要に応じインク調製剤を添加したものである。色味のないニュートラルな黒色インク組成物を調整する目的などにより、本発明の黒色色素に、他の調色用色素などを適宜加えてもよい。このインク組成物をインクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合、本発明のトリスアゾ化合物としては、金属陽イオンの塩化物、硫酸塩等の無機不純物の含有量が少ないものを用いるのが好ましい。その無機不純物含有量の目安は、おおよそ色素の総質量に対して1質量%以下程度である。下限は検出機器の検出限界以下、すなわち0質量%で良い。無機不純物の少ない本発明のアゾ化合物を製造するには、例えば逆浸透膜による通常の方法又は本発明のアゾ化合物の乾燥品あるいはウェットケーキをメタノール等のC1〜C4のアルコール及び水の混合溶媒中で撹拌し、析出物を濾過分離して、乾燥するなどの方法で脱塩処理すればよい。
【0078】
前記インク組成物の調製において用いうる水溶性有機溶剤の具体例としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール又は第三ブタノール等のC1−C4アルカノール;N,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン又はN−メチルピロリジン−2−オン等のラクタム;1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン又は1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の環式尿素類;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール又はジチオジグリコール等のC2〜C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ又はポリ−アルキレングリコール又はチオグリコール;グリセリン又はヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)トリエチレングリコールモノメチルエーテル又はトリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのC1−C4アルキルエーテル;γ−ブチロラクトン又はジメチルスルホキシド等があげられる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0079】
前記インク組成物の調製において適宜用いられるインク調製剤は、例えば防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、色素溶解剤、酸化防止剤及び/又は界面活性剤などがあげられる。以下にこれらの薬剤について説明する。
【0080】
防黴剤の具体例としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩等が挙げられる。これらはインク組成物中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
【0081】
防腐剤の例としては、例えば有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系又は無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物の具体例としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオキシド系化合物の具体例としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤の具体例として、ソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、及び酢酸ナトリウム、アーチケミカル社製、商品名プロクセルRTMGXL(S)やプロクセルRTMXL−2(S)等が挙げられる。
なお、本明細書において、上付きの「RTM」は、登録商標を意味する。
【0082】
pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずに、インクのpHを例えば5〜11の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。その具体例としては、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミンなどのアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(アンモニア水);あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;ケイ酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム等の無機塩基などが挙げられる。
【0083】
キレート試薬の具体例としては、例えばエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム又はウラシル二酢酸ナトリウムなどがあげられる。
【0084】
防錆剤の具体例としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグルコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール又はジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどがあげられる。
【0085】
水溶性紫外線吸収剤の例としては、例えばスルホ化したベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ−ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物又はトリアジン系化合物が挙げられる。
【0086】
水溶性高分子化合物の具体例としては、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン又はポリイミン等があげられる。
【0087】
色素溶解剤の具体例としては、例えばε−カプロラクタム、エチレンカーボネート又は尿素などが挙げられる。
酸化防止剤の例としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。前記有機系の褪色防止剤の例としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類又は複素環類等が挙げられる。
【0088】
界面活性剤の例としては、例えばアニオン系、カチオン系、ノニオン系などの公知の界面活性剤が挙げられる。
アニオン界面活性剤の例としてはアルキルスルホン酸塩、アルキルカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸及びその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリルスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸又はジオクチルスルホ琥珀酸塩などが挙げられる。
カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体又はポリ4−ビニルピリジン誘導体などがある。
両性界面活性剤の具体例としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、又はイミダゾリン誘導体などがある。
ノニオン界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどのアセチレングリコール系、その他の具体例として例えば、日信化学社製、商品名サーフィノール104、105、82、465、オルフィンSTGなどが挙げられる。
これらのインク調製剤は、単独もしくは混合して用いられる。
【0089】
本発明のインク組成物は前記各成分を任意の順序で混合、撹拌することによって得られる。得られたインク組成物は、所望により、狭雑物を除く為にメンブランフィルター等で濾過を行ってもよい。また、インク組成物としての黒の色味を調整するため、本発明の式(1)で示されるトリスアゾ化合物以外に、種々の色相を有する他の色素を混合してもよい。その場合は、他の色相を有する黒色や、イエロー、オレンジ、ブラウン、スカーレット、レッド、マゼンタ、バイオレット、ブルー、ネイビー、シアン、グリーン、その他の色の色素を混合して用いることができる。
【0090】
本発明のインク組成物は、各種分野において使用することができるが、筆記用水性インク、水性印刷インク、情報記録インク等に好適であり、インクジェット用インクとして用いることが特に好ましく、後述する本発明のインクジェット記録方法において好適に使用される。
【0091】
次に、本発明のインクジェット記録方法について説明する。本発明のインクジェット記録方法は、前記本発明のインク組成物を用いて記録を行うことを特徴とする。本発明のインクジェット記録方法においては、前記インク組成物を含有してなるインクジェット用インクを用いて受像材料に記録を行うが、その際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
公知の方法、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式;ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式);電気信号を音響ビームに変えインクに照射し、その放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式;インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット、すなわちバブルジェット(登録商標)方式;等を採用することができる。
なお、前記インクジェット記録方法には、フォトインクと称する、インク中の色素濃度(色素含有量)の低いインクを、小さい体積で多数射出する方式;実質的に同じ色相でインク中の色素濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式;及び無色透明のインクを用いる方式なども含まれる。
【0092】
本発明の着色体は前記式(1)で表される本発明の化合物又はこれを含有するインク組成物により着色されたものであり、より好ましくはインクジェットプリンタを用いるインクジェット記録方法により、本発明のインク組成物によって着色されたものである。
着色されうるものとして特に制限はないが、例えば紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等が挙げられる。
このうち情報伝達用シートとしては、表面処理されたもの、具体的には紙、合成紙、フィルム等の基材にインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層は、例えば前記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工すること;又は多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックスなどのインク中の色素を吸収し得る多孔性白色無機物を、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に前記基材表面に塗工すること;などにより設けられる。
このようなインク受容層を設けた情報伝達用シートは、通常インクジェット専用紙(フィルム)、光沢紙(フィルム)等と呼ばれる。市販品として入手できる前記専用紙の代表的な例としては、キヤノン(株)製、商品名 写真用紙・光沢プロ「プラチナグレード」、写真用紙・光沢ゴールド、;セイコーエプソン(株)製、商品名 写真用紙クリスピア(高光沢)、写真用紙(光沢)、フォトマット紙;日本ヒューレット・パッカード(株)製、商品名 アドバンスフォト用紙(光沢);ブラザー(株)製、商品名 プレミアムプラスグロッシィフォトペーパー;等がある。なお、普通紙も当然利用でき、具体的にはキヤノン(株)製、商品名 PBペーパーGF500;セイコーエプソン(株)製、商品名 両面上質普通紙;等が挙げられるが、本発明のインク組成物の用途としては、これらの専用紙等に限られるものではない。
【0093】
前記の情報伝達用シートのうち、特に多孔性白色無機物を表面に塗工したシートに記録した画像は、オゾンガスによって変退色が大きくなることが知られている。しかし本発明のインク組成物は耐オゾンガス性が優れているため、このような被記録材へインクジェット記録した際に、特に大きな効果を発揮する。
【0094】
本発明のインクジェット記録方法で情報伝達用シート等の被記録材に記録するには、例えば前記のインク組成物を含有する容器をインクジェットプリンタの所定の位置にセットし、通常の方法で被記録材に記録すればよい。
本発明のインクジェット記録方法は、本発明の黒色インク組成物と、例えば公知のマゼンタ、シアン、イエロー、及び必要に応じて、グリーン、ブルー(又はバイオレット)及びレッド(又はオレンジ)などの各色のインク組成物とを併用することもできる。
各色のインク組成物は、それぞれの容器に注入され、その各容器を本発明の黒色インク組成物を含有する容器と同様にインクジェットプリンタの所定の位置にセットしてインクジェット記録に使用される。
【0095】
本発明の化合物は水溶解性に優れ、この化合物を含有する高濃度水溶液及びインク組成物は長期間保存しても結晶の析出、物性の変化、及び色相の変化等も生じないため、貯蔵安定性が良好である。また、本発明のトリスアゾ化合物は、合成が容易且つ安価であるなどの特徴を有する。
また、本発明の化合物を含有するインク組成物は黒色を呈し、各種の記録用途、例えば筆記用具やインクジェット記録用のインク、特に後者の用途に好適に用いられる。被記録材として普通紙にも当然使用できるが、特にインクジェット専用紙や光沢紙に記録した画像の印字濃度が高く、またブロンズ現象を極めて生じにくく、インクジェット記録に適した色相を有する。また、その記録画像の耐水性、耐光性、耐オゾンガス性、及び耐湿性等の各種堅牢性、特に耐光性が非常に高く、光による記録画像の変退色を極めて起こしにくいという特徴を有する。
また、本発明のインク組成物をインクジェット記録に使用した場合、ノズル付近におけるインク組成物の乾燥による固体析出が非常に起こりにくく、噴射器(インクヘッド)を閉塞することもない。本発明のインク組成物は、連続式インクジェットプリンタを用い、比較的長い時間間隔においてインクを再循環させて使用する場合;又はオンデマンド式インクジェットプリンタにより断続的に使用する場合;等のいずれにおいても、物理的性質の変化を起こさない。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
本文中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準である。
又、下記の各式において、スルホ及びカルボキシなどの官能基は遊離酸の形で表記するものとする。
また以下に記載するpH値及び反応温度は、いずれも反応系内における測定値を示す。
また合成した化合物の最大吸収波長(λmax)はpH5〜8の水溶液中で測定し、測定した化合物については実施例中に測定値を記載した。
なお合成した本発明のトリスアゾ化合物は、いずれも水に対して100g/L以上の溶解度を示した。
【0097】
実施例1
(工程1)
2−アミノ−6−メトキシベンゾチアゾール5.0部を15%発煙硫酸16部中に15〜25℃でゆっくり添加した。添加後、同温度で2時間撹拌した後、60部の氷水中に約10分間で滴下した。析出した結晶を濾取し、乾燥して、下記式(12)の化合物6.4部を得た。
【0098】
【化12】

【0099】
(工程2)
50%硫酸20部に実施例1(工程1)で得られた式(12)の化合物3.2部を50%硫酸20部に懸濁し、撹拌下、5〜10℃で40%ニトロシル硫酸4.7部を約10分間で滴下することによりジアゾ懸濁液を得た。
一方、水30部に前記式(13)の化合物2.9部、スルファミン酸0.4部、次いで水酸化ナトリウムを加えてpH5.0〜5.5とすることにより水溶液を得た。
得られた水溶液に前記のジアゾ懸濁液を反応温度20〜30℃、約10分間で滴下した。
滴下終了後、同温度で2時間撹拌し、水酸化ナトリウムを加えてpH0.7〜1.2にした後に析出固体を濾取することにより、下記式(14)の化合物を含むウェットケーキ11.8部を得た。
なお下記式(13)の化合物は、特開2004−083492号に記載の方法で得た。
【0100】
【化13】

【0101】
【化14】

【0102】
(工程3)
水30部に下記式(15)の化合物2.7部次いで水酸化ナトリウムを加えてpH7.5〜8.0とすることにより水溶液を得た。
一方、撹拌下、実施例1(工程2)で得られた式(14)の化合物を含むウェットケーキを水110部に懸濁し、水酸化ナトリウムを加えてpH6.0〜6.5とすることにより水溶液を得た。
得られた水溶液に35%塩酸2.6部、次いで反応温度15〜20℃で40%亜硝酸ナトリウム水溶液2.0部を約5分間で滴下することにより、ジアゾ懸濁液を得た。
得られたジアゾ懸濁液を、先に得られた式(15)の化合物を含む水溶液に、反応温度20〜30℃、20分間で滴下した。この間、反応系内に炭酸ナトリウムを加えてpH値を7.0〜8.0に保持した。
滴下終了後、同温度で2時間撹拌し、塩化ナトリウムの添加により塩析し、析出した固体を濾取することにより、下記式(16)の化合物を含むウェットケーキ16.9部を得た。
【0103】
【化15】

【0104】
【化16】

【0105】
(工程4)
水30部に3,5−ジスルホアニリン12.7部、35%塩酸18.3部、次いで反応温度0〜5℃で40%亜硝酸ナトリウム水溶液9.1部を約5分間で滴下することにより、ジアゾ液を得た。一方、撹拌下、アセチルこはく酸ジメチルに水9部、次いでエタノール2部を加え懸濁させた後、先に得られたジアゾ液を反応温度10〜20℃、15分で滴下した。滴下後、反応系内に酢酸ナトリウムを加えてpH値を7.0〜8.0に保持した。滴下終了後、同温度で2時間撹拌し、反応系内に水酸化ナトリウムを加えてpH13.0〜13.5、15〜20℃で2時間撹拌後、35%塩酸を加えpH0〜0.5、5〜10℃で2時間撹拌し、析出した結晶を濾取し、下記式(17)の化合物10.9部を得た。
【0106】
【化17】

【0107】
(工程5)
水30部に実施例1(工程4)で得られた式(17)の化合物2.5部次いで水酸化ナトリウムを加えてpH7.5〜8.0とすることにより水溶液を得た。
一方、撹拌下、実施例1(工程3)で得られた式(16)の化合物を含むウェットケーキ全量を水150部に溶解し、35%塩酸3.5部、次いで反応温度20〜25℃で40%亜硝酸ナトリウム水溶液1.5部を約5分間で滴下することにより、ジアゾ液を得た。
得られたジアゾ液を、先に得られた式(17)の化合物を含む水溶液に、反応温度20〜30℃、30分間で滴下した。この間、反応系内に炭酸ナトリウムを加えてpH値を7.0〜8.0に保持した。
滴下終了後、同温度で2時間撹拌し、塩化ナトリウムを添加して塩析し、析出した固体を濾取することにより、ウェットケーキ40.8部を得た。得られたウェットケーキを水180部に溶解し、メタノール250部を添加して晶析し、析出した固体を濾取することによりウェットケーキを得た。更に、得られたウェットケーキを水180部に溶解し、塩化リチウム22部を添加し、メタノール200部を添加して晶析し、析出した固体を濾取することによりウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを再度、水80部に溶解し、メタノール200部を添加して晶析し、析出した固体を濾取し、乾燥することにより本発明の下記式(18)の化合物7.0部をリチウム塩として得た。なお、この化合物は、前記表1におけるNo.2の化合物と表2におけるNo.11の化合物の混合物である。
λmax:606.5nm
【0108】
【化18】

【0109】
実施例2
(A)インクの調製
下記する各成分を混合することにより黒色の本発明のインク組成物を得た後、0.45μmのメンブランフィルターで夾雑物を濾別した。得られたインク組成物を、以下「インク」という。
また水はイオン交換水を使用した。インク調製時において、インクのpHは水酸化リチウムにてpH7〜9に調整し、その後イオン交換水を加えることにより総量100部とした。なお、下記表6中における界面活性剤は、日信化学株式会社製、商品名サーフィノール104PG50を用いた。
【0110】
【表6】

【0111】
表6において、前記実施例2で得られた化合物を含有する本発明の水性黒色インクは、貯蔵中、沈殿分離を生じることなく、また長期間の保存後においても物性の変化は生じなかった。
【0112】
比較例1
比較対象の黒色色素として、下記式(19)の色素を用いる以外は、実施例2と同様にして比較用のインクを調製した。このインクを用いて行った下記各種の試験を比較例1とする。尚、下記式(19)の化合物は実施例1(工程4)において3,5−ジスルホアニリン12.7部の代わりに、3,5−ジカルボキシアニリン9.1部を用い、(工程4)及び(工程5)を行い、得た。
【0113】
【化19】

【0114】
(B)インクジェット記録
前記で得られたインクを使用し、Canon社製インクジェットプリンタ、商品名 PIXUS iP4500 により、EPSON社製光沢紙、商品名 写真用紙クリスピア(高光沢)、にインクジェット記録を行った。
印刷の際は、100%、80%、60%、40%、20%、10%濃度の6段階の階調が得られるように画像パターンを作り、濃黒色〜淡黒色のグラデーションの記録物を得て、これを試験片として以下の評価試験を実施した。
【0115】
(C)記録画像の評価
実施例2、及び比較例1のインクを用いて得られた各記録画像は、試験前後の画像の濃度変化を測定することで評価を行った。
記録画像の濃度変化は、GRETAG−MACBETH社製の測色機、商品名 SpectroEye を用い、試験前の記録画像の反射濃度D値が1.0に最も近い階調部分を測色することにより測定した。測色する際は、いずれも濃度基準にDIN NB、視野角2°、光源D65の条件で行なった。本試験では、いずれの試験片も60%濃度階調部が反射濃度D値が1.0に近い部分であった。
具体的な試験方法は下記の通りである。
【0116】
(D)耐光性試験
実施例2、及び比較例1のインクを用いて得られた各記録画像は、印刷後24時間自然乾燥し、スガ試験機(株)社製、商品名 低温キセノンウェザオメーターXL75を用いて、10万Lux照度、湿度60%RH、温度24℃の条件で前記の各記録画像に対して168時間照射を行った。
【0117】
1)Dk残存率
耐光試験後の各試験片について、前記の測色システムを用いて測色し各画像の色素の残存率を(試験後の反射濃度Dk値/試験前の反射濃度Dk値)×100(%)の式で求めた。試験結果は、以下の基準で評価し、結果を表7に示す。なお、表7中の括弧内の数値は得られた残存率の数値を記載した。
A:残存率:55%以上。
B:残存率:45%以上で55%未満。
C:残存率:45%未満。
2)色差ΔE
耐光試験後の各試験片について、前記の測色システムを用いてCIEのL*、a*、b*を測色し、各画像の試験前後での色差ΔEを求めた。試験結果は、以下の基準で評価した。なお、色差は小さい方が、光に対する色相の変化が小さいことを示し、品質として優れる。結果を表7に示し、表中の括弧内の数値は得られた色差ΔEの数値を記載した。
A:ΔEが25未満。
B:ΔEが25以上で30未満。
C:ΔEが30以上。
3)ブロンズ性
ブロンズ性の評価は、最も印刷濃度が濃い部分、すなわち100%濃度階調部において、ブロンズ現象が発生しているかを目視にて判別した。評価結果は、以下の基準で評価した。結果を表7に示す。
A:ブロンズ現象が発生していない。
C:目視にてブロンズ現象がみられる。
【0118】
【表7】

【0119】
表7の結果より明らかなように、実施例2の記録画像と比較例1の画像は、耐光性について明らかな差が生じ、本発明のインクが優れていることが明らかである。すなわち、耐光試験後のDk濃度の残存率が高く、さらに試験後の色変化が少ないため光に対する退色性が向上している。また、比較例1の記録画像がブロンズしているのに対して、実施例2の画像はブロンズを生じず、発色の部分でも優れた結果を示すことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明のアゾ化合物を含有するインク組成物は各種の記録用、特にインクジェット記録用のブラックインク液として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるトリスアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩、
【化1】

(式(1)中、
nは0又は1であり、
1は、カルボキシ基;C1−C8アルコキシカルボニル基;C1−C4アルキル基;C1−C8アルコキシカルボニル基若しくはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキル基;フェニル基;又は、置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するを有するフェニル基;を表し、
2はハロゲン原子;スルホ基;又は、カルボキシ基;を表し、
3乃至R5はそれぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;ヒドロキシ基;スルホ基;カルボキシ基;スルファモイル基;カルバモイル基;C1−C4アルキル基;C1−C4アルコキシ基;置換基として、ヒドロキシ基、C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するC1−C4アルコキシ基;モノC1−C4アルキルアミノ基;置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するモノC1−C4アルキルアミノ基;ジC1−C4アルキルアミノ基;置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される基を有するジC1−C4アルキルアミノ基;C1−C4アルキルカルボニルアミノ基;置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するC1−C4アルキルカルボニルアミノ基;モノC1−C4アルキルウレイド基;置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するモノC1−C4アルキルウレイド基;フェニルアミノ基;置換基として、ハロゲン原子、C1−C4アルキル基、ニトロ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するフェニルアミノ基;ベンゾイルアミノ基;置換基として、ハロゲン原子、C1−C4アルキル基、ニトロ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するベンゾイルアミノ基;フェニルスルホニルアミノ基;又は、置換基として、ハロゲン原子、C1−C4アルキル基、ニトロ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するフェニルスルホニルアミノ基;をそれぞれ表し、
6乃至R8はそれぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;カルボキシ基;スルホ基;ニトロ基;ヒドロキシ基;カルバモイル基;スルファモイル基;C1−C4アルキル基;C1−C4アルコキシ基;置換基として、ヒドロキシ基、C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するC1−C4アルコキシ基;C1−C4アルキルスルホニル基;置換基として、ヒドロキシ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するC1−C4アルキルスルホニル基;フェニルスルホニル基;又は、置換基として、ハロゲン原子、C1−C4アルキル基、ニトロ基、スルホ基、及びカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種類の基を有するフェニルスルホニル基;をそれぞれ表す。)。
【請求項2】
nが1であり、
1が、カルボキシ基;C1−C4アルキル基;又は、フェニル基;であり、
2が、ハロゲン原子;スルホ基;又はカルボキシ基であり、
3がスルホ基を有するC1−C4アルコキシ基であり、
4が水素原子であり、
5がC1−C4アルキル基であり、
6乃至R8がそれぞれ独立に、水素原子;ハロゲン原子;カルボキシ基;スルホ基;C1−C4アルコキシ基;又は、C1−C4アルキルスルホニル基;であり、且つ、少なくともR6乃至R8のいずれか1つが水素原子以外の基である請求項1に記載のトリスアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩。
【請求項3】
nが1であり、
1がカルボキシ基であり、
2がスルホ基であり、
3がスルホ基を有するC1−C4アルコキシ基であり、
4が水素原子であり、
5がC1−C4アルキル基であり、
6乃至R8がそれぞれ独立に、水素原子;スルホ基;又は、C1−C4アルコキシ基であり、且つ、少なくともR6乃至R8のいずれか1つが水素原子以外の基である、
請求項1に記載のトリスアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩。
【請求項4】
nが1であり、
1がカルボキシ基であり、
2がスルホ基であり、
3がスルホ基を有するC1−C4アルコキシ基であり、
4が水素原子であり、
5がC1−C4アルキル基であり、
6乃至R8がそれぞれ独立に、水素原子;スルホ基;又は、C1−C4アルコキシ基であり、且つ、R6乃至R8のいずれか1つが水素原子、残りの2つの一方がスルホ基、他方がC1−C4アルコキシ基である、
請求項1に記載のトリスアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はそれらの塩。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のトリスアゾ化合物若しくはその互変異性体、又はその塩を色素として少なくとも1種類含有する水性インク組成物。
【請求項6】
さらに水溶性有機溶剤を含有する請求項5に記載のインク組成物。
【請求項7】
記録信号に応じて請求項5又は請求項6に記載のインク組成物の液滴を吐出させて、被記録材に付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法。
【請求項8】
被記録材が情報伝達用シートである請求項7に記載のインクジェット記録方法。
【請求項9】
情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有するシートである請求項8に記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
請求項5又は請求項6に記載のインク組成物を含む容器を装填したインクジェットプリンタ。
【請求項11】
a)請求項1乃至4のいずれか一項に記載のトリスアゾ化合物又はその塩、b)請求項5又は請求項6に記載のインク組成物、又は、
c)請求項7に記載のインクジェット記録方法、のいずれかにより着色された着色体。

【公開番号】特開2012−12511(P2012−12511A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150804(P2010−150804)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】