説明

トルクセンサ及びこれを備えた電動パワーステアリング装置

【課題】トルクセンサの高い信頼性を確保しながら磁気バランスのバラツキを抑制することができるトルクセンサ及びこれを備えた電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】回転軸に生じるトルクに応じて互いに逆方向にインピーダンスが変化する複数対の検出コイル13a,13b,14a、14bを有するトルク検出部10と、前記複数対の検出コイルのそれぞれに抵抗体を直列接続して構成される複数組のブリッジ回路と、該複数組のブリッジ回路のそれぞれに交流信号を印加し、当該複数組のブリッジ回路の差分信号に基づいて検出トルクを演算する複数組のトルク演算部とを備え、前記トルク検出部10の周囲に磁気シールド部材18a,18bを配置し、該磁気シールド部材の少なくとも一部が当該トルク検出部を支持する磁気シールド機能を有するハウジング5aに一体成形されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸に発生するトルクを非接触で検出するトルクセンサ及びこれを備えた電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電動パワーステアリング装置に適用されるトルクセンサとして、特許文献1に記載されたトルクセンサが知られている。このトルクセンサは、回転軸に生じるトルクに応じて互いに逆方向にインピーダンスが変化する1対の検出コイル及び抵抗でなるブリッジ回路を2系統設けて、これらブリッジ回路を冗長的に接続している。これにより、以上を容易に検出可能にするとともに、検出回路の一方で異常を生じても、他方の検出回路からのトルク信号によって操舵アシストを継続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−267045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載のトルクセンサにあっては、それぞれがコイルヨークに内装された4つのコイルが軸方向に沿って配列される構成となっている。そのため、個々のコイルに作用する磁気バランスのバラツキが生じてしまうという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、トルクセンサの高い信頼性を確保しながら磁気バランスのバラツキを抑制することができるトルクセンサ及びこれを備えた電動パワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を解決するために、本発明の一の形態に係るトルクセンサは、回転軸に生じるトルクに応じて互いに逆方向にインピーダンスが変化する複数対の検出コイルを有するトルク検出部と、前記複数対の検出コイルのそれぞれに抵抗体を直列接続して構成される複数組のブリッジ回路と、該複数組のブリッジ回路のそれぞれに交流信号を印加し、当該複数組のブリッジ回路の差分信号に基づいて検出トルクを演算する複数組のトルク演算部とを備え、前記トルク検出部の周囲に磁気シールド部材を配置し、該磁気シールド部材の少なくとも一部が当該トルク検出部を支持する磁気シールド機能を有するハウジングに一体成形されていることを特徴としている。
【0006】
また、本発明の他の形態に係るトルクセンサは、前記磁気シールド部材は、前記トルク検出部の軸方向の両端部に個別に配置され、両磁気シールド部材の一方が前記ハウジングに一体形成されていることを特徴としている。
さらに、本発明の他の形態に係るトルクセンサは、前記トルク検出部は、軸方向に並設された一対のヨークを有し、前記一方のヨークに前記複数対の検出コイルの対となる一方のコイルが内装され、他方のヨークに前記複数対の検出コイルの対となる他方のコイルが内装されていることを特徴としている。
【0007】
また、本発明の他の形態に係るトルクセンサは、前記一対のヨークのそれぞれに、内装する各検出コイルの巻き始め及び巻き終わりが接続された接続コネクタが配設されていることを特徴としている。
また、本発明の一の形態に係る電動パワーステアリング装置は、上記の何れかの構成を有するトルクセンサを備え、該トルクセンサの検出トルクに基づいてステアリング機構に伝達する操舵補助トルクを発生する電動モータを駆動して操舵補助制御を行う操舵補助制御部を有することを特徴としている。
【0008】
また、本発明の一の形態に係る電動パワーステアリング装置は、上記の何れかの構成を有するトルクセンサを備え、該トルクセンサの検出トルクに基づいてステアリング機構に伝達する操舵補助トルクを発生する電動モータを駆動して操舵補助制御を行う操舵補助制御部と、前記トルクセンサの複数のトルク演算部から出力される複数の検出トルクに基づいて前記トルクセンサのトルク検出部の異常を判定する異常判定部とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数対の検出コイルを有するトルク検出部の周囲に磁気シールド部材を配置し、この磁気シールド部材の少なくとも一部が磁気シールド機能を有するハウジングに一体形成されているので、複数対のコイルでトルク検出部を構成する際に生じ易くなる磁気バランスのバラツキを防止することができ、トルク検出感度を安定させることができる。また、磁気シールド部材の一部がハウジングと一体成形されているので、部品点数を低減できるとともに、組付工数を低減して、製造コストを低減することができる。
上記効果を有するトルクセンサを電動パワーステアリング装置に搭載したので、トルクセンサの複数の検出トルクに基づいてトルク検出部の異常を判定することが可能となり、信頼性の高い電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す電動パワーステアリング装置の主要部を示す断面図である。
【図2】第1の実施形態に適用し得るトルクセンサの構成を示す斜視図である。
【図3】センサシャフト部の表面の凸条と円筒部材の窓配置を説明する図である。
【図4】トルクと検出コイルのインダクタンスとの関係を示す特性線図である。
【図5】第1の実施形態に適用し得るトルク演算回路を示すブロック図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に適用し得るトルクセンサの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る電動パワーステアリング装置の主要部を示す断面図であり、図2は、本発明に係るトルクセンサの構成を示す斜視図である。
図1において、5は電動パワーステアリング装置を構成する磁気シールド機能を有する例えばアルミニウム又はアルミニウム合金で形成されたハウジングであって、このハウジング5は入力軸側ハウジング部5aと出力軸側ハウジング部5bとに2分割された構造を有する。入力軸側ハウジング部5aの内部には、入力軸1が軸受6aによって回転自在に支持されている。また、出力軸側ハウジング部5bの内部には出力軸2が軸受6b及び6cによって回転自在に支持されている。
【0012】
そして、入力軸1及び出力軸2は入力軸1の内部に配設されたトーションバー3を介して連結されている。
入力軸1、トーションバー3及び出力軸2は同軸に配置されており、入力軸1とトーションバー3とはピン結合し、また、トーションバー3と出力軸2とはスプライン結合している。図1において、入力軸1の突出端には、図示されていないステアリングホイールが一体的に取り付けられている。また、出力軸2には入力軸1とは反対側にピニオン軸2aが一体的に形成されており、ピニオン軸2aはラック4と噛合して公知のラックアンドピニオン式ステアリング機構を構成している。
【0013】
また、出力軸2には、これと同軸で且つ一体に回転するウォームホイール7が固着されており、図示されていない電動モータで駆動されるウォーム8と出力軸側ハウジング部5b内で噛合している。ウォームホイール7は金属製のハブ7aに合成樹脂製の歯部7bが一体的に固定されている。電動モータの回転力は、ウォーム8及びウォームホイール7を介して出力軸2に伝達され、電動モータの回転方向を適宜切り換えることにより、出力軸2に任意の方向の操舵補助トルクが付与される。
【0014】
次に、図1及び図2を参照して入力軸1及び出力軸2間のトルクを検出するトルクセンサTSを構成するトルク検出部10の構成を説明する。トルク検出部10は入力軸1に形成されたセンサシャフト部11と、入力軸側ハウジング部5aの内側に配置された2対の検出コイル13a,13b及び14a,14bと、両者の間に配置された円筒部材12から構成される。
入力軸1には磁性材料で構成されたセンサシャフト部11が形成されており、センサシャフト部11の表面には、軸方向に延びた複数(図2の例では9個)の凸条11aが円周方向に沿って等間隔に形成されており、凸条11aの間には凸条11aの幅t1よりも幅広の溝部11bが形成されている。
【0015】
また、センサシャフト部11の外側には、センサシャフト部11に接近して導電性で且つ非磁性の材料、例えばアルミニウムで構成された円筒部材12がセンサシャフト部11と同軸に配置されており、円筒部材12の延長部12eは出力軸2の端部2eの外側に固定されている。
円筒部材12には、前記したセンサシャフト部11の表面の凸条11aに対向する位置に、円周方向に等間隔に配置された複数個(図2では9個)の長方形の窓12aからなる第1の窓列と、前記第1の窓列から軸方向にずれた位置に、前記窓12aと同一形状で、円周方向の位相が異なる複数個(図2では9個)の長方形の窓12bからなる第2の窓列とが設けられている。
【0016】
円筒部材12の外周は、同一規格の検出コイル13a、14a及び13b、14bが捲回されたヨーク15a及び15bで包囲されている。即ち、検出コイル13a、14a及び13b、14bは円筒部材12と同軸に配置され、検出コイル13a及び14aは窓12aからなる第1の窓列部分を包囲し、検出コイル13b及び14bは窓12bからなる第2の窓列部分を包囲する。ヨーク15a及び15bは入力軸側ハウジング部5aの内部に固定され、検出コイル13a、14a及び13b、14bの出力線はヨーク15a及び15bに形成されたコネクタ16を介して入力軸側ハウジング部5aの内部に配置された回路基板17に接続されている。
【0017】
そして、図2に示すように、ヨーク15aの軸方向における入力軸側と、ヨーク15bの軸方向における出力軸側とにそれぞれ例えばアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されるリング状の磁気シールド部材18a及び18bが配置されている。ここで、本実施形態では、入力軸1側の磁気シールド部材18aが入力軸側ハウジング部5aと一体成形されている。また、他方の磁気シールド部材18bは入力軸側ハウジング部5aの内周面に形成された雌ねじ部に螺合される。
【0018】
図3(a)及び(b)は出力軸2側から見たセンサシャフト部の表面の凸条と円筒部材の窓配置を説明する図で、図3(a)は、基準位置(トーションバー3が捩れていない状態)におけるセンサシャフト部11の表面の凸条11aと円筒部材12における第1の窓列の窓12aとの位置関係を示し、図3(b)は基準位置(トーションバー3が捩れていない状態)におけるセンサシャフト部11の表面の凸条11aと円筒部材12における第2の窓列の窓12bとの位置関係を示す図である。
【0019】
この実施例では、窓12a及び12bがそれぞれ9個設けられているので、第1の窓列の窓12a及び第2の窓列の12bは、それぞれ円周方向に角度θ=360/9=40度ずつずれていることになる。
窓12a、12bの角度aは窓12a、12bのない部分の角度bよりも小さく設定(a<b)され、凸条11aの角度cは溝部11bの角度dよりも小さく設定(c<d)される。これは、検出コイルのインピーダンスの変化を急峻にするためである。
【0020】
図3(a)及び(b)から明らかなように、トーションバー3が捩れていない状態、即ち操舵トルクが零(0)の状態では、窓12aの円周方向の幅の中央部にセンサシャフト部11の凸条11aの円周方向の一方の端部が位置し、窓12bの円周方向の幅の中央部に凸条11aの円周方向の他方の端部が位置するように、窓12a及び12bの円周方向の幅と凸条11aの幅、及び窓12a及び12bとの円周方向の相対位置関係が設定される。即ち、凸条11aに対する窓12aと12bとの円周方向の位置関係は互いに逆になっている。
操舵系が直進状態にあって操舵トルクが零である場合はトーションバー3には捩れが発生せず、入力軸1と出力軸2とは相対回転しない。したがって入力軸1の側にあるセンサシャフト部11の表面の凸条11aと、出力軸2の側にある円筒部材12との間にも相対回転が生じない。
【0021】
一方、ステアリングホイールを操作して入力軸1に回転力が加わると、その回転力はトーションバー3を経て出力軸2に伝達される。このとき、出力軸2には舵輪と路面との間の摩擦力や出力軸2に結合されているステアリング機構のギヤの噛み合い等の摩擦力が作用するため、入力軸1と出力軸2との間を結合するトーションバー3に捩れが発生し、入力軸1の側にあるセンサシャフト部11の表面の凸条11aと出力軸2の側にある円筒部材12との間に相対回転が生じる。
【0022】
円筒部材12に窓がない部位では、円筒部材12は導電性で且つ非磁性材で構成されていることから、検出コイル13及び14に交流電流を流して交番磁界を発生させると、円筒部材12の外周面にコイル電流と反対方向の渦電流が発生する。この渦電流による磁界とコイル電流による磁界とを重畳すると、円筒部材12の内側の磁界は相殺される。
円筒部材12に窓が形成されている部位では、円筒部材12の外周面に発生した渦電流は、窓12a及び12bによって外周面を周回できないため、窓12a及び12bの端面に沿って円筒部材12の内周面側に回り込み、内周面をコイル電流と同方向に流れ、また隣の窓12a及び12bの端面に沿って外周面側に戻り、ループを形成する。つまり、検出コイル内側に渦電流のループを、円周方向に周期的に配置した状態が発生する。コイル電流による磁界と渦電流による磁界とは重畳され、円筒部材12の内外には、円周方向に周期的に強弱変化する磁界と、中心に向かうほど小さくなる半径方向に勾配を持った磁界が形成される。円周方向の周期的な磁界の強弱は、隣り合う渦電流の影響を受ける窓12a及び12bの中心で強く、そこからずれるに従い弱くなる。
【0023】
円筒部材12の内側には、磁性材料からなるセンサシャフト部11が同軸に配置されており、その凸条11aは、窓12a及び12bと同じ周期で配置されている。磁界中に置かれた磁性体は磁化して磁束を生じるが、磁束の量は飽和するまでは磁界の強さに応じて大きくなる。このため、円筒部材12により円周方向の周期的な磁界の強弱と中心に向かうほど小さくなる半径方向に勾配を持った磁界とにより、センサシャフト部11に発生する磁束は、円筒部材12とセンサシャフト部11との相対的な位相により増減する。磁束が最大となる位相は、円筒部材12の窓12a及び12bの中心とセンサシャフト部11の凸条11aの中心とが一致した状態で、磁束の増減に応じて検出コイル13及び14のインダクタンスも増減し、略正弦波状に変化する。
【0024】
トルクが作用しない状態では、インダクタンスが最大となる位相(窓12a及び12bと凸条11aの中心とが一致している位相)に対して、センサシャフト部11の凸条11aの中心は凸条11aの中心角cの1/2だけずれた位置に設定されているから、トルクが作用してトーションバー3が捩れ、センサシャフト部11と円筒部材12との間に位相差が生じると、2つの検出コイル13a,13b及び14a,14bのインダクタンスは、一方が増加し他方が減少する。
【0025】
図4は操舵トルクTと検出コイル13a(又は14a)及び13b(又は14b)のインダクタンスの変化との関係を示す特性線図で、横軸は操舵トルクT、縦軸はインダクタンスLを示す。右操舵トルク発生時は、図3(a)及び(b)においてセンサシャフト部11が反時計方向に回転するから、図4に示すように、操舵トルクTが増大するにつれ検出コイル13a(又は14a)のインダクタンスL13は増加し、検出コイル13b(又は14b)のインダクタンスL14は減少する。
【0026】
また、左操舵トルク発生時は、図3(a)及び(b)においてセンサシャフト部11が時計方向に回転するから、図4に示すように操舵トルクTが増大するにつれ検出コイル13a(又は14a)のインダクタンスL13は減少し、検出コイル13b(又は14b)のインダクタンスL14は増加する。
図4のインダクタンスL13、L14の特性は比例して出力される電圧にそのまま置き換えることができ、インダクタンスL13、L14の特性を電圧に置き換えると、検出コイル13aの検出電圧、検出コイル13bの検出電圧と操舵トルクTとの関係になり、両検出電圧の交点である中立電圧が本実施形態では2.5Vとなるように調整されている。この電圧クロス特性から検出コイル13aの検出電圧と検出コイル13bの検出電圧との合計値は2.5+2.5=5.0Vとなる。
【0027】
図5は、回路基板17に搭載されるトルク演算回路20のブロック図である。
トルク検出部10の一対の検出コイル13a及び13bを使用して第1のトルクを検出する第1トルク検出系統と、一対の検出コイル14a及び14bを使用して第2のトルクを検出する第2トルク検出系統とを構成するように同一構成を有する2組のトルク演算部21A及び21Bを備えている。
【0028】
なお、トルク演算部21A及び21Bに所定周波数の交流信号を出力する交流信号源200と、トルク演算部21A及び21Bからそれぞれ出力されるメイントルク及びサブトルクが入力されるノイズフィルタ202及びノイズフィルタ202から出力されるフィルタ出力を操舵補助用電動モータ31を操舵補助制御するコントロールユニット30に出力するコネクタ203はトルク演算部21A及び21Bに対して共通に設けられている。また、コネクタ203に入力される電源及び基準電源がノイズフィルタでフィルタ処理されて電源電圧V及び基準電圧Vrefとして交流信号源200とトルク演算部21A及び21Bとに供給される。
【0029】
ここで、交流信号源200は、所定周波数の交流信号を発生する発振部201と、この発振部201から出力される交流信号を電流増幅してトルク演算部21A及び21Bに供給する電流増幅部211A及び211Bを備えている。
トルク演算部21Aは、一対の検出コイル13a及び13bの一端が互い接続されて接地され、他端に抵抗R1a及びR1bが直列に接続され、これら抵抗R1a及びR1bの他端を互いに接続した構成を有するブリッジ回路210Aを備えている。
【0030】
同様に、トルク演算部21Bは、一対の検出コイル14a及び14bの一端が互い接続されて接地され、他端に抵抗R2a及びR2bが直列に接続され、これら抵抗R2a及びR2bの他端を互いに接続した構成を有するブリッジ回路210Bを備えている。
これらブリッジ回路210A及び210Bでは、入力軸1にトルクが作用していない状態では、検出コイル13a及び13bの両端に表れる電圧がそれぞれ等しくなるように、つまり差分電圧が0となるように予め抵抗R1a、R1b及びR2a、R2bの抵抗値が調整されている。
そして、ブリッジ回路210A及び210Bの抵抗R1a、R1bの接続点及び抵抗R2a、R2bの接続点がそれぞれ交流信号源200の電流増幅部211A及び211Bに個別に接続されて、交流電圧信号Vosc1及びVosc2が入力される。
【0031】
また、トルク演算部21Aは、ブリッジ回路210Aの検出コイル13a及び13bの両端に表れる電圧信号が入力されるとともに、交流電圧信号Vosc1が入力されたメイン増幅・全波整流部212Aと、このメイン増幅・全波整流部212Aから出力される整流信号が入力されるメイン平滑・中立調整部213Aを有する。ここで、メイン増幅・全波整流部212Aでは、検出コイル13a及び13bの両端に表れる電圧信号の差分信号Vdefを算出し、この差分信号Vdefを増幅するとともに、整流して整流信号をメイン平滑・中立調整部213Aに出力する。また、メイン平滑・中立調整部213Aでは、メイン増幅・全波整流部212Aから入力される整流信号を平滑化するとともに、中立電圧を調整してトルク検出信号としてノイズフィルタ202に出力する。そして、ノイズフィルタ202でフィルタ処理されたトルク検出信号がコネクタ203を介してメイントルク検出信号Tm1として操舵補助制御を行うコントロールユニット30に出力される。
【0032】
また、トルク演算部21Aは、ブリッジ回路210Aの検出コイル13a及び13bの両端に表れる電圧信号が入力されるとともに、交流電圧信号Vosc1が入力されたサブ増幅・全波整流部214Aと、このサブ増幅・全波整流部214Aから出力される整流信号が入力されるサブ平滑・中立調整部215Aを有する。ここで、サブ増幅・全波整流部214Aでは、検出コイル13a及び13bの両端に表れる電圧信号の差分信号Vdefを算出し、この差分信号Vdefを増幅するとともに、整流して整流信号をサブ平滑・中立調整部215Aに出力する。また、サブ平滑・中立調整部215Aでは、サブ増幅・全波整流部214Aから入力される整流信号を平滑化するとともに、中立電圧を調整してトルク検出信号としてノイズフィルタ202に出力する。そして、ノイズフィルタ202でフィルタ処理されたトルク検出信号がコネクタ203を介してサブトルク検出信号Ts1として操舵補助制御を行うコントロールユニット30に出力される。
【0033】
さらに、トルク演算部21Aは、前述した特許文献1に記載されているように、交流電圧信号Vosc1及びサブ増幅・全波整流部214Aから出力されるブリッジ回路210Aの差分信号Vdefに基づいて検出コイル13a又は13bと抵抗R1a又はR1bとの接触不良等をブリッジ回路210Aの差分電圧Vdefの変化で検出するとともに、基準電圧Vrefに対する位相ずれに基づいて回路系の異常を検出し、異常を検出したときに異常信号AB1を出力する。すなわち、監視部216Aでは、印加した交流信号の波形と、ブリッジ回路の差分電圧Vdefの波形との位相差を検出し、位相差が所定値を超えたときに検出コイル13a,13b、抵抗R1a,R1b若しくは回路210Aが異常であると判定して異常信号AB1を出力する。
【0034】
この監視部216Aから出力される異常信号AB1はサブ平滑・中立調整部215Aに供給され、このサブ平滑・中立調整部215Aでは、異常信号AB1が入力されると、出力するトルク検出信号を0Vに設定する。これにより、メイントルク信号との図4に示す電圧クロス特性のバランスが崩れることにより、コントロールユニット30が故障を検出することができる。このため、コントロールユニット30で操舵補助用電動モータ31の駆動に使用するメイン側のメイン平滑・中立調整部213Aには異常信号AB1は入力されない。
同様に、トルク演算部21Bでも、トルク換算部21Aと同様の構成および機能を有するメイン増幅・全波整流部212B、メイン平滑・中立調整部213B、サブ増幅・全波整流部214B、サブ平滑・中立調整部215B及び監視部216Bを備えている。
【0035】
コントロールユニット30は、図5に示すように、トルクセンサTSからメイントルク検出信号Tm1、Tm2及びサブトルク検出信号Ts1、Ts2が入力されている。このコントロールユニット30は、入力されたメイントルク検出信号Tm1、Tm2及びサブトルク検出信号Ts1、Ts2に基づいて信号監視を行う異常判定部32と、メイントルク検出信号Tm1、Tm2に基づいて操舵補助制御を行って操舵補助用電動モータ31を駆動制御する操舵補助制御部33とを備えている。
【0036】
異常判定部32は、メイントルク検出信号Tm1及びTm2が所定値(例えば0.3V)以下か否かで断線や地絡を検出し、所定値(例えば4.7V)以上か否かで天絡を検出する。また、サブトルク検出信号Ts1及びTs2が所定値(例えば0.3V)以下か否かで断線や地絡を検出するとともに、トルク演算回路20の自己診断を行い、所定値(例えば4.7V)以上か否かで天絡を検出する。さらに、メイントルク検出信号Tm1、Tm2とサブトルク検出信号Ts1、Ts2の各加算値が所定値(例えば5.3V)以上若しくは所定値(例えば4.7V)以下か否かで、図4に示す電圧クロス特性から外れる異常を検出する。
【0037】
そして、操舵補助制御部33では、上記異常判定部32によって異常が検出されない正常状態では、メイントルク検出信号Tm1を用いて操舵補助電流指令値を演算し、演算した操舵補助電流指令値と、操舵補助用電動モータ31に供給するモータ電流の検出値との偏差を例えばPD制御処理して操舵補助電圧指令値を算出し、算出した操舵補助電圧指令値に基づいてモータ駆動回路34を制御する駆動信号を形成し、この駆動信号をモータ駆動回路34に出力する。
ここで、サブトルク検出信号Ts1、Ts2はトルクセンサの異常監視に利用されるのみで、操舵補助用電動モータ31の駆動には利用されない。
【0038】
異常判定部32で、トルクセンサTSの第1トルク検出系統(トルク演算部21A及びブリッジ回路210A)の異常が判定された場合に、第2トルク検出系統(トルク演算部21B及びブリッジ回路210B)が正常であるときには、第1トルク検出系統のメイントルク検出信号Tm1に代えて第2トルク検出系統のメイントルク検出信号Tm2を用いて操舵補助制御部33で操舵補助制御を継続する。
さらに、異常判定部32で、第1トルク検出系統及び第2トルク検出系統の双方の異常が判定された場合には、操舵補助制御部33で、正常な過去トルク値を使用して操舵補助用電動モータ31を駆動し、操舵補助トルクを徐々に減少させるトルク漸減処理を行い、安全に操舵補助制御を停止させるフェールセーフモードに移行する。
【0039】
次に、上記実施形態の動作を説明する。
先ず、電動パワーステアリング装置のハウジング5にトルクセンサTSを組付けるには、上述した図2に示すように、入力軸側ハウジング部5aが、入力軸1側に磁気シールド部材18aが一体成形された構成を有する。このため、入力軸側ハウジング部5aの入力軸1側端部からトルク検出部10を挿通することはできないので、出力軸2側からトルク検出部10を挿通する。このとき、ヨーク15a及び15bにそれぞれ形成されたコネクタ16を入力軸側ハウジング部5aの回路基板装着部に開口する連通孔5cに対向させる。そして、ヨーク15a及び15bにそれぞれ形成されたコネクタ16に連通孔5cを通じて外部導出コネクタ19を接続する。
【0040】
その後、入力軸側ハウジング部5aの出力軸2側端面から磁気シールド部材18bを内周面に形成した雌ねじ部に螺合させながら挿入し、その先端をトルク検出部10のヨーク15bの出力軸2側端面に当接させて強固に締付ける。これにより、ヨーク15a及び15bが入力軸側ハウジング部5aに円周方向に回ることなく装着される。
そして、トルク検出部10のヨーク15a及び15bの装着後又はその前に、入力軸側ハウジング部5aに軸受6aを介してトーションバー3を内装した入力軸1を回転自在に支持する。
【0041】
その後、入力軸側ハウジング部5aの開放端面に、ウォームホイール7を装着した出力軸2を軸受6b及び6cで回転自在に保持し、ウォームホイール7にウォーム8を噛合させ、出力軸側ハウジング部5bを装着する。このとき、出力軸2に装着された円筒体12が出力軸側ハウジング部5bの開放端面より突出しているので、この円筒体12をヨーク15a及び15bの内周側に所定ギャップを保って挿入する。一方、トーションバー3のセレーション軸部が入力軸側ハウジング部5aより突出しているので、このセレーション軸部を出力軸2のセレーション孔部に結合させるように入力軸1を回動させて調整しながら入力軸側ハウジング部5a及び出力軸側ハウジング部5bを連結して、ハウジング5が一体化される。
【0042】
その後、ヨーク15a及び15bのコネクタ16に連結された外部導出用コネクタ19に形成された接続ピンを図示しないスルーホールに挿通するように回路基板17を装着し、この回路基板17に接続ピンを例えば半田付けすることにより、回路基板17に形成された印刷配線を通じて搭載されたトルク演算回路20に接続される。
このように、トルク検出部10を構成するヨーク15a及び15bの軸方向両端に磁気シールド部材18a及び18bが配置され、入力軸側ハウジング部5a自体も磁気シールド機能を有するので、ヨーク15a及び15bに配置された検出コイル13a、14a及び13b、14bが確実に磁気シールドされ、磁気バランスのバラツキを防止することができ、トルク検出感度を安定させることができる。
【0043】
しかも、一方の磁気シールド部材18aが入力軸側ハウジング部5aと一体成形されているので、2つの磁気シールド部材18a及び18bを個別に配置する場合に比べて、部品点数を低減できるとともに、組付工数を低減して、製造コストを低減することができる。また、一体成形された磁気シールド部材18aによってヨーク15a及び15bの位置決めを行うことができ、ヨーク15a及び15bの取り付け精度を向上させることができる。
【0044】
さらに、ヨーク15a及び15b内に装着される検出コイル13a、14a及び13b、14bがそれぞれ窓12a及び12bに対向するので、ヨーク内の検出コイル同士のトルクに対するインダクタンス特性が同一となり、ヨークを共用することができ、4つの検出コイル毎にヨークを形成する場合に比較して軸方向長さを短くすることができる。
このようにして、電動パワーステアリング装置の組立が完了し、この電動パワーステアリング装置を車両の操舵系に装着し、入力軸1の突出端にステアリングホイールを装着するとともに、ラック4を例えばタイロッドを介して転舵輪に連結することにより、ステアリングホイールを操舵したときの操舵トルクに応じた操舵補助トルクを操舵補助用電動モータ31で発生することができる。
【0045】
このとき、コントロールユニット30の異常判定部32で、トルクセンサTSの第1のトルク検出系統が正常であるときには、この第1のトルク検出系統のトルク演算部21Aのメイン増幅・全波整流部212A及びメイン平滑・中立調整部213Aで演算されるメイントルク検出信号Tm1に基づいて操舵補助制御が行われてモータ駆動回路33が制御され、このモータ駆動回路33から出力されるモータ電流で操舵補助用電動モータ31が駆動され、操舵トルクに応じた操舵補助トルクが発生させる。
【0046】
一方、異常判定部32で第1のトルク検出系統が異常であると判定されたときには、第2のトルク検出系統が正常である状態では、操舵補助制御部33で、トルク演算部21Bのメイン増幅・全波整流部212B及びメイン平滑・中立調整部213Bで演算されたメイントルク検出信号Tm2に基づいて操舵補助制御が継続されてモータ駆動回路33が制御され、このモータ駆動回路33から出力されるモータ電流で操舵補助用電動モータ31が駆動され、操舵トルクに応じた操舵補助トルクを発生させる。
【0047】
さらに、異常判定部32で、第1のトルク検出系統及び第2のトルク検出系統の双方が異常である判定されたときには、操舵補助制御部33で、正常な過去トルク値を使用して操舵補助用電動モータ31を駆動し、操舵補助トルクを徐々に減少させるトルク漸減処理を行い、安全に操舵補助制御を停止させるフェールセーフモードに移行する。
このように、トルクセンサTSに2つのトルク検出系統を設けているので、一方のトルク検出系統に異常が発生しても、操舵補助制御を正常に継続することができる。
【0048】
しかも、トルクセンサTSが前述した構成を有するので、複数の検出トルクに基づいてトルク演算部の異常を判定することが可能となり、信頼性の高い電動パワーステアリング装置を提供することができる。
なお、上記第1の実施形態においては、ヨーク15a及び15bにコネクタ16を設ける場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ヨーク15a及び15bから直接接続ピンを突出させ、入力軸側ハウジング部5aの開放端部側に接続ピンを挿通するスリットを形成するようにしてもよい。
【0049】
次に、本発明の第2の実施形態を図6について説明する。
この第2の実施形態では、トルク検出部10のヨーク15a及び15bの軸方向両端に配置した磁気シールド部材18a及び18bのうち出力軸2側の磁気シールド部材18bを入力軸側ハウジング部5aに一体成形し、入力軸1側の磁気シールド部材18aを入力軸側ハウジング部5aに螺合させるようにしたものである。したがって、前述した図2との対応部分には同一符号を付し、その詳細説明はこれを省略する。
この第2の実施形態では、トルク検出部10のヨーク15a及び15bの入力軸側ハウジング部5aに対する挿入方向が軸受6a側から行うことを除いては前述した第1の実施形態と同様であるので、前述した第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0050】
なお、上記第1及び第2の実施形態においては、トルクセンサTSのトルク検出部10の2つのヨーク15a及び15bにそれぞれ2つの検出コイル13a、14a及び13b、14bを内装する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、3つ以上の検出コイルを内装して3対以上の検出コイルとすることもできる。この場合には、検出コイルの対数に応じてトルク演算回路20のトルク演算部の数を増加させればよく、より信頼性の高いトルクセンサを提供することができる。
【0051】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、入力軸側ハウジング部5aに一体成形されていない磁気シールド部材18a又は18bを入力軸側ハウジング部5aに形成した雌ねじ部に螺合する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、磁気シールド部材18a又は18bを入力軸側ハウジング部5aに嵌合させるようにしたり、別途固定部材を設けるようにしたりしてもよい。
【0052】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、コントロールユニット30側に異常判定部32を設けた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、トルク演算回路20側に異常判定部32を設け、この異常判定部32の異常判定結果をコントロールユニット30に通知するようにしてもよい。
また、上記第1及び第2の実施形態においては、本発明によるトルクセンサTSを電動パワーステアリング装置に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、電動パワーステアリング装置以外にも回転軸のトルクを検出する場合に本発明によるトルクセンサTSを適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1…入力軸、2…出力軸、3…トーションバー、5…ハウジング、5a…入力軸側ハウジング部、5b…出力軸側ハウジング部、7…ウォームホイール、8…ウォーム、TS…トルクセンサ、10…トルク検出部、11…センサシャフト、12…円筒部材、13a,13b,14a,14b…検出コイル、15a,15b…ヨーク、16…コネクタ、17…回路基板、18a,18b…磁気シールド部材、19…接続コネクタ、20…トルク演算回路、21A,21B…トルク演算部、30…コントロールユニット、31…操舵補助用電動モータ、32…異常判定部、33…操舵補助制御部、34…モータ駆動回路、200…交流信号源、201……発振部、202…ノイズフィルタ、203…コネクタ、210A,210B…ブリッジ回路、211A,211B…電流増幅部、212A,212B…メイン増幅・全波整流部、213A,213B…メイン平滑・中立調整部、214A,214B…サブ増幅・全波整流部、215A,215B……サブ平滑・中立調整部、216A,216B…監視部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に生じるトルクに応じて互いに逆方向にインピーダンスが変化する複数対の検出コイルを有するトルク検出部と、前記複数対の検出コイルのそれぞれに抵抗体を直列接続して構成される複数組のブリッジ回路と、該複数組のブリッジ回路のそれぞれに交流信号を印加し、当該複数組のブリッジ回路の差分信号に基づいて検出トルクを演算する複数組のトルク演算部とを備え、
前記トルク検出部の周囲に磁気シールド部材を配置し、該磁気シールド部材の少なくとも一部が当該トルク検出部を支持する磁気シールド機能を有するハウジングに一体成形されていることを特徴とするトルクセンサ。
【請求項2】
前記磁気シールド部材は、前記トルク検出部の軸方向の両端部に個別に配置され、両磁気シールド部材の一方が前記ハウジングに一体形成されていることを特徴とする請求項1に記載のトルクセンサ。
【請求項3】
前記トルク検出部は、軸方向に並設された一対のヨークを有し、前記一方のヨークに前記複数対の検出コイルの対となる一方のコイルが内装され、他方のヨークに前記複数対の検出コイルの対となる他方のコイルが内装されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のトルクセンサ。
【請求項4】
前記一対のヨークのそれぞれに、内装する各検出コイルの巻き始め及び巻き終わりが接続されたコネクタが配設されていることを特徴とする請求項3に記載のトルクセンサ。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のトルクセンサを備え、該トルクセンサの検出トルクに基づいてステアリング機構に伝達する操舵補助トルクを発生する電動モータを駆動して操舵補助制御を行う操舵補助制御部を有することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のトルクセンサを備え、該トルクセンサの検出トルクに基づいてステアリング機構に伝達する操舵補助トルクを発生する電動モータを駆動して操舵補助制御を行う操舵補助制御部と、前記トルクセンサの複数のトルク演算部から出力される複数の検出トルクに基づいて前記トルクセンサのトルク検出部の異常を判定する異常判定部とを有することを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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