説明

トルクリミッタ

【課題】紙さばき部等において用いられるトルクリミッタにおいて、紙さばきに必要なトルクを発生させる付勢手段と、紙送りのためのニップ圧を生じさせるための付勢手段を統合することにより組込み作業の簡略化を図ることである。
【解決手段】側板部材2に一対の傾斜面12、12からなるクサビ形凹部13を設け、その側板部材2に嵌合された回転体3に前記クサビ形凹部13に嵌合するクサビ形凸部19を設け、前記クサビ形凹部13と凸部19の嵌合により相互の傾斜面12、18相互を接触させ、前記側板部材2を固定部材1のガイドアーム6、6にスライド自在に取付け、付勢手段となる重錘4を該側板部材2に取付け、その重錘4によって前記側板部材2を介して回転体3と給送ローラ21との間にニップ圧を生じさせると同時に前記傾斜面12、18間にラジアル力を生じさせるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複写機やプリンタ等の事務機器に用いられるトルクリミッタに関し、低コスト化、コンパクト化を図ったものであり、主として紙さばき部に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
事務機器の紙さばき部は、給送ローラに対し所要のニップ圧で押し付けられた従動ローラを有し、その従動ローラは固定ドラムに嵌合されるとともに、その固定ドラムの外径面と従動ローラの内径面との間にコイルばねが介在される。そのコイルばねの一端部が従動ローラの内径面に係合され、他端部側が固定ドラムの周りに所定の緊縛力で巻き付けられる。前記の従動ローラ、コイルばね及び固定ドラムによってトルクリミッタが構成され、1枚の紙を送り出す場合は、給送ローラから紙を介して従動ローラに伝達される駆動トルクがコイルばねの緊縛力で定まる設定トルク値より大きいため、従動ローラが設定トルクで回転し紙を送り出す。紙が2枚以上送り込まれた場合は、紙相互間で滑りが生じるため給送ローラから従動ローラに伝わる駆動トルクに比べトルクリミッタの設定トルク値の方が大きくなって従動ローラは回転せず、給送ローラに接した1枚の紙のみが送り出される(特許文献1)。
【0003】
一方、一般的なトルクリミッタにおいてコンパクト化に適したものとして、内部部材に嵌合した外部部材の外径面に所要の縮径方向の弾性を有するスリット入りのスリーブ又はコイルばねを嵌合し、そのばね力により内部部材と外部部材の摺接面に所要のラジアル力を負荷し、両部材の相対回転により所要のトルクを発生させるようにしたものが従来から知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平8−2726号公報(図2、段落0022)
【特許文献2】特開2003−156066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に示された紙さばき部に用いられるトルクリミッタは、紙をさばくためのトルクを発生させるコイルばねが必要となるほか、従動ローラを兼用している関係上給送ローラとの間に所定のニップ圧を発生させるためのコイルばねも必要となる。このため、これらのばねをそれぞれ独立に組込む必要が生じ、作業性が阻害される問題がある。
【0005】
また、特許文献2に示されたトルクリミッタは、内部部材は通常金属製の軸で形成されるとともに、外部部材は合成樹脂で形成されているので、トルク発生部となる摺接面の摩擦係数は1以下であるため、所要のトルクを得るには外部部材の外径面に装着する弾性体のばね力を大きくする必要がある。このため、装着する弾性体の数を多くしたり、ばねの線径を大きくしたりする必要があり、その結果弾性体の組込み性が悪くなる問題がある。
【0006】
そこで、この発明は、トルク発生のためのコイルばねと、ニップ圧を得るためのコイルばねを一つの付勢手段にまとめ、またトルク発生部における摩擦係数を大きくすることにより前記付勢手段の付勢力を小さくできるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、この発明においては、側板部材と、その側板部材に嵌合された回転体と、前記側板部材と回転体の摺接面に所定のラジアル力を発生させる付勢手段とからなるトルクリミッタにおいて、前記側板部材は軸方向に一定の間隔をおいて対向し相互に逆向きに傾斜した一対の傾斜面からなるクサビ形凹部を有し、前記回転体は該クサビ形凹部に嵌合するクサビ形凸部を有し、前記クサビ形凹部と凸部の嵌合により相互の傾斜面相互を接触させて前記の摺接面を形成し、前記側板部材を固定部材に対し前記回転体の径方向にスライド自在に取付け、前記付勢手段により該側板部材に対し径方向の付勢力を付与した構成とした。
【0008】
上記の構成によると、前記付勢手段による付勢力により前記回転体を所要のニップ圧で給送ローラに押圧し、その反力で前記摺接面にラジアル力を発生させることができる。
【0009】
なお、前記の付勢手段は重錘であっても良いが、ばねであってもよい。重錘の場合は配置関係において方向性があるが、ばねの場合はそのような方向性はない。
【0010】
また、前記回転体又は側板部材のいずれか一方を分割体の組み合せにより構成し、その分割状態で組み合せ、前記回転体と側板部材を結合一体化させる構成を採ることができる。具体的には、前記側板部材が軸方向の左右に2分された側板部材分割体よりなり、前記回転体と側板部材の結合一体化手段が、前記各側板部材分割体に前記回転体のクサビ形凸部内径の小径部より小径の連結穴が形成されるとともに各側板部材分割体の対向内面に形成された傾斜面相互間で前記のクサビ形凹部が形成され、前記回転体のクサビ形凸部を該クサビ形凹部間に嵌合して組み合わせ、前記クサビ形凸部内径の小径部に遊嵌した連結ピンの両端部を両側の側板部材分割体の連結穴に圧入する構造を採ることができる。上記のような分割構造をとると、回転体と側板部材とを容易に組み合わせることができる。
【0011】
なお、前記側板部材と回転体の摺接面において、回転体側の摺接面が側板部材側の摺接面より摩耗し易い素材により形成することが望ましい。また、この場合において、前記回転体のクサビ形凸部のクサビ角αと、前記側板部材のクサビ凹部のクサビ角α’の関係に一定の差をもたせた関係、例えばα<α’の大きさ関係にあるように形成した構成をとることもできる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明によると、紙さばき部に用いられる場合において、トルクリミッタとしての機能、即ち紙さばきに要するトルクを発生させるための付勢手段と、給送ローラの従動ローラとして紙送りに要するニップ圧を発生させるための付勢手段が兼用されるため構造が簡単になる。またその付勢手段は回転体の外側に設けられ、内部に組込む必要がないことと相まって付勢手段の組込み作業が簡略化される。また、トルク発生のための摺接面がクサビ形凹部とクサビ形凸部との嵌合によって構成されるので、軸に平行な摺接面の場合に比べ大きな摩擦係数が得られる利点がある。
【0013】
また、固定部材、側板部材、回転体及び付勢手段がユニット化されるので、複写機等への取付けが簡単になる効果もある。なお、前記の側板部材又は回転体のいずれか一方を分割体で構成すると、側板部材と回転体の組み合わせによる一体化構造が容易である。なお、回転体のクサビ形凸部のクサビ角αと、前記側板部材のクサビ凹部のクサビ角α’の関係に一定の差がある大きさ関係に形成しておくと、使用開始当初は点接触が摺接面の回転中心側で生じ、摺接面の摩耗の進行に応じて接触点が外径側に広がって面接触に移行して行くため、所定のトルクを長期にわたり発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下にこの発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1及び図2に示した実施形態1のトルクリミッタは、固定部材1、側板部材2、回転体3、及び付勢手段としての一対の重錘4、4からなる。固定部材1は装置の固定部に取付けるための取付け穴5、5が設けられ、さらに該固定部材1の下面に一対のガイドアーム6、6が下向きに平行に設けられる。各ガイドアーム6は下端から上端にわたりスリット7が設けられ、下端に抜け止め用のつば8が設けられる。
【0015】
側板部材2は円柱状の軸を軸方向に2分割した一方の分割体の形状をなし(図3参照)、その中間部に小径部9が形成され、小径部9と大径部11の間に相互に反対方向に傾斜した傾斜角αの傾斜面12、12が形成される。この一対の傾斜面12、12とそれらの間の小径部9の部分をクサビ形凹部13と称する。各大径部11にはその平坦面に対し垂直方向のガイド穴14が設けられ、その径は前記のガイドアーム6に対しスライド可能に嵌合される大きさに形成される。
【0016】
前記の回転体3は、回転体本体3aの外径面にゴムスリーブ15を嵌着してあり、またその回転体本体3aの内径面の中央部分に小径部16が形成されるとともに、その両側の大径部17、17との間に相互に反対向きに傾斜した傾斜角αの傾斜面18、18が形成される。この一対の傾斜面18、18とそれらの間の小径部16の部分をクサビ形凸部19と称する。クサビ形凸部19と前記のクサビ形凹部13は相互に嵌合し、両者の傾斜面12、18が相互に密着し摺接面を形成する。クサビ形凸部19とクサビ形凹部13との嵌合を可能とするために、例えば、回転体本体3aを軸線を含む分割面10で2分割したものを用いるとよい。その場合は、2分割した分割体で側板部材2を挟み込んで嵌合させ、その後にゴムスリーブ15を被覆すると一体化され、外見上側板部材2を回転体3に貫通させた状態となる。ゴムスリーブ15だけで回転体本体3aの分割面からの分離を防止できないときは、回転体本体3aの分割面に圧入ダボを設けたり、両端部をC型リング等で締め付けたりする構造をとることができる。
【0017】
前記のようにして側板部材2を前記回転体3の内部に貫通させた状態において、側板部材2の前記ガイド穴14、14の部分を含む両端部が回転体3の両端部の外側に露出する。なお、側板部材2は、その対向一対の傾斜面12、12により、回転体3の両端の傾斜面18を両側から挟持するものであるため、「側板部材」の部品名を付けた。
【0018】
前記の重錘4、4は前記ガイド穴14と同径のガイド穴14’を有し、前記側板部材2の平坦面上においてそのガイド穴14’を側板部材2のガイド穴14に合致させて載置又は接合され、スリット7を狭める方向に縮径されたガイドアーム6に各ガイド穴14、14’を挿通させる。これらのガイド穴14、14’はつば8の存在により抜け出すことが防止され、これによって、固定部材1、側板部材2、回転体3及び重錘4、4がそれぞれユニット化される。
【0019】
ユニット化された状態で、側板部材2はガイドアーム6、6に沿って上下方向にスライド自在であり、またその側板部材2と回転体3は相対的に移動可能な状態にある。
【0020】
ユニット化された前記のトルクリミッタは、例えば複写機の紙さばき部において固定部材1を複写機本体に固定するとともに、回転体3のゴムスリーブ15を給送ローラ21の外径面にその上方から押し当てると、回転体3と給送ローラ21の接触面に重錘4、4の重量で定まるニップ圧が生じる。これと同時に、側板部材2のクサビ形凹部13と回転体3のクサビ形凸部19とが相互に嵌合し、両方の傾斜面12、18相互間の摺接面に所定のラジアル力が付与され、そのラジアル力に応じたトルクが発生する。
【0021】
前記の摺接面の1点Pにおいて発生するトルクTは「T=μ/sinα・r・F」で表わされる。ここに、μは軸方向と平行な平面の場合の摩擦係数、αは傾斜面12、18の傾斜角(=クサビ角)、rは点Pの半径、Fは重錘4、4によって付与されるラジアル力である。ちなみに、傾斜角がゼロの場合のトルクT’は「T’=μ・r・F」で表わされる。上記の各式から明らかなように、T>T’である。
【0022】
給送ローラ21に駆動トルクが加えられ、1枚の紙が送り込まれると、その駆動トルクが前記回転体3の傾斜面12、18において発生するトルク値より大きいときは回転体3が従動回転して紙を送り出す。紙が2枚以上送り込まれると、紙間で滑りが生じ回転体3に加わる駆動トルクは傾斜面12、18における発生トルクより小さいため、回転体3は回転することがなく、給送ローラ21に接した1枚の紙のみが送り出される。
【0023】
次に、図4及び図5に示した実施形態2は、前記の重錘4、4に代えてコイルばね4’、4’を用いたものである。各コイルばね4’は、ガイドアーム6に嵌合され、その上端部が固定部材1に押し当てられるとともに、下端部が側板部材2の上面に係合され、該側板部材2を介して回転体3と給送ローラ21との間にニップ圧を生じさせるとともに、クサビ形凹部13とクサビ形凸部19の摺接面にラジアル力を生じさせる。この場合は、図示のように、固定部材1、回転体3が上部にあって給送ローラ21が下部にあるような配置で使用できるほか、その上下関係を逆にした配置の場合でも使用することができる。前記の重錘4の場合は上下方向の位置関係に制限を受けるが、コイルばね4’の場合はそのような制限を受けないからである。その他の構成及び作用・効果は前記の場合と同様である。
【0024】
次に、図6から図8に示した実施形態3のトルクリミッタは、前記の実施形態1と同様に付勢手段として一対の重錘4、4を用いたものであり、その大部分の構成が共通するが、相違する点は回転体本体3aは分割構造になっていない点、側板部材2が軸方向に分割分離され左右一対の対称形をなす側板部材分割体2a、2aと両者を連結一体化する連結ピン22とからなる点である。その他の構成は実施形態1と同一である。
【0025】
前記の一対の側板部材分割体2a、2aは、図8に示したように、それぞれ円柱体23とその外面の中心より下方において該円柱体23の円弧を含む半月形の断面形状を持った支持板部24とからなる。各円柱体23は回転体本体3aの内径面の大径部17に所要の径方向すき間をおいて嵌合される径に形成され、その中心に連結穴25が設けられる。前記支持板部24の平坦面は前記の連結穴25の下端と一致する高さ関係に形成される。支持板部24にはガイド穴14が設けられる。また、円柱体23の内端面には、連結穴25の周りにおいて傾斜面26が形成される。その傾斜面26は回転体本体3aの内面に形成された傾斜面18と同じ傾斜角(=クサビ角)αを有し、各側板部材分割体2aの傾斜面26間でクサビ形凹部13が形成される。前記円柱体23の連結穴25は、回転体本体3aの中心部に形成されるクサビ形凸部19の内径面の小径部16よりさらに小径に形成される。前記の連結ピン22はその連結穴25に圧入される径に形成される。
【0026】
前記の一対の側板部材分割体2a、2aと回転体3とを連結一体化する場合は、先に回転体3の中心穴の小径部16に遊嵌し、左右の大径部17から回転体3の両側に突き出した連結ピン22の両端部にそれぞれ側板部材分割体2a、2aを圧入し、その傾斜面26を回転体3側の傾斜面18に押し当てる。これによりクサビ形凹部13にクサビ形凸部19を嵌合させる。
【0027】
前記のようにして組み合わされ一体化された回転体3、一対の側板部材分割体2a、2aでなる側板部材2、連結ピン22、一対の重錘4、4及び固定部材1が組み合わされユニット化される。そのユニット化は、各側板部材分割体2a、2aの支持板部24の平坦面にそれぞれ重錘4を載せるとともに、それらのガイド穴14、14’に固定部材1のガイドアーム6を嵌入することにより行う。
【0028】
前述の実施形態1の場合と同様に、ユニット化された状態で、一対の側板部材分割体2a、2aからなる側板部材2はガイドアーム6、6に沿って上下方向にスライド自在であり、またその側板部材2と回転体3は相対的に移動可能な状態にある。
【0029】
ユニット化された前記のトルクリミッタは、例えば複写機の紙さばき部において固定部材1を複写機本体に固定するとともに、回転体3のゴムスリーブ15を給送ローラ21の外径面にその上方から押し当てると、回転体3と給送ローラ21の接触面に重錘4、4の重量で定まるニップ圧が生じる。これと同時に、側板部材2のクサビ形凹部13と回転体3のクサビ形凸部19とが相互に嵌合し、両方の傾斜面26、18相互間の摺接面に所定のラジアル力が付与され、そのラジアル力に応じたトルクが発生する。
【0030】
次に、図9から図11に示した実施形態4のトルクリミッタは、前述の実施形態3と同様に側板部材2を左右一対の側板部材分割体2a、2aにより構成し、回転体3のクサビ形凸部19の小径部16に遊嵌した連結ピン22の両端部に前記側板部材分割体2a、2aを圧入することによって、回転体3、一対の側板部材分割体2a、2aからなる側板部材2及び連結ピン22を一体化し、それぞれの傾斜面26、18相互を摺接させるようにしている点で共通する。
【0031】
前記の実施形態3の場合と相違する点は、重錘4、4に代えてコイルばね4’、4’を用いた点、固定部材1の位置を上下逆にして回転体3の下方に設け、ガイドアーム6、6が上向きになるように設置した点、及び給送ローラ21が回転体3の上部に接して配置される点である。なお、各側板部材分割体2aは、円柱体23の外端面に小径の円柱体24’が同心状態に設けられたものであり、これらに連結穴25が貫通状態に形成されるとともに、径方向にガイド穴14が形成される。
【0032】
各コイルばね4’は、各ガイドアーム6に嵌合され、その下端部が固定部材1に押し当てられるとともに、上端部が側板部材分割体2a、2aの下面に係合され、該側板部材分割体2a、2aを介して回転体3と給送ローラ21との間にニップ圧を生じさせるとともに、クサビ形凹部13とクサビ形凸部19の傾斜面26、18の摺接面にラジアル力を生じさせる。
【0033】
なお、上下の配置は前記実施形態2の場合と同様に固定部材1が上位となるような配置でもよい。
【0034】
以上の各実施形態において、回転体3と側板部材2(側板部材分割体2aを含む。)との摺接面は、使用期間の経過に伴い摩耗を生じるが、回転体3側の摺接面を含む部分を樹脂製、側板部材2の摺接面を含む部分を金属製とするように、前者を相対的に摩耗し易い素材で形成することにより、摩耗時において回転体3のみを交換するようにすると便利である。
【0035】
また、回転体3のクサビ形凸部19のクサビ角と、側板部材分割体2aのクサビ形凹部13のクサビ角は、いずれも同一の角度αに設定したものを示している。このような大きさ関係は製作誤差のない理想的な場合である。しかし、実際上は製作誤差が発生するため、接触部分の摩耗等により、早期にクサビ形凸部19とクサビ形凹部13の入り込みが少なくなり発生トルクの低下をもたらす可能性がある。
【0036】
このため、図12(a)に示したように、使用の当初は回転体3側のクサビ形凸部19のクサビ角αと、側板部材分割体2aのクサビ形凹部13のクサビ角α’の関係をα<α’の関係に設定する場合がある。このように設定しておくと、使用当初ニップ圧により食い込んだ状態では接触点が回転中心側にあり(図12(a)参照)、摩耗の進行により徐々に接触点が外径側に広がって面接触に移行して行くため(図12(b)の摩耗範囲S参照)、当初から面接触させている場合に比べ、トルク発生時間を長時間維持すること、即ち、所定のトルクを長期にわたり発生させることができる。
【0037】
なお、前記の場合、クサビ角αの公差はマイナス公差とし、クサビ角α’の公差はプラス公差とすることが望ましい。前記のα<α’の関係を確実に維持できるようにするためである。
【0038】
また、図13(a)(b)に示したように、回転体3と側板部材分割体2aのクサビ形凸部19とクサビ形凹部13の傾斜の方向が前記と逆の場合(回転体3の傾斜面18が外方に突き出す方向に傾斜し、側板部材分割体2a側の傾斜面26が同じ方向に凹入するように傾斜している。)が形成される場合でも同様のトルク発生機構が構成される。この場合は、図示のように、α>α’の関係に設定され、前記と同様に、接触点が徐々に外径側に広がって行くため(図13(b)の摩耗範囲S参照)、トルク発生時間を長時間維持することができる。この場合の各クサビ角α、α’の公差は、クサビ角αをプラス公差とし、クサビ角α’をマイナス公差とすることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は実施形態1の断面図、(b)は(a)図の一部拡大断面図
【図2】実施形態1の右側面図
【図3】実施形態1の分解斜視図
【図4】実施形態2の断面図
【図5】図4の右側面図
【図6】実施形態3の断面図
【図7】図6の右側面図
【図8】実施形態3の分解斜視図
【図9】実施形態4の断面図
【図10】図9の右側面図
【図11】実施形態4の断面図
【図12】(a)、(b)はクサビ角に差のある場合の例の説明図
【図13】(a)、(b)はクサビ角に差のある場合の他の例の説明図
【符号の説明】
【0040】
1 固定部材
2 側板部材
2a 側板部材分割体
3 回転体
3a 回転体本体
4 重錘
4’ コイルばね
5 取付け穴
6 ガイドアーム
7 スリット
8 つば
9 小径部
10 分割面
11 大径部
12 傾斜面
13 クサビ形凹部
14、14’ ガイド穴
15 ゴムスリーブ
16 小径部
17 大径部
18 傾斜面
19 クサビ形凸部
21 給送ローラ
22 連結ピン
23 円柱体
24 支持板部
24’ 円柱体
25 連結穴
26 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側板部材と、その側板部材に嵌合された回転体と、前記側板部材と回転体の摺接面に所定のラジアル力を発生させる付勢手段とからなるトルクリミッタにおいて、前記側板部材は軸方向に一定の間隔をおいて対向し相互に逆向きに傾斜した一対の傾斜面からなるクサビ形凹部を有し、前記回転体は該クサビ形凹部に嵌合するクサビ形凸部を有し、前記クサビ形凹部と凸部の嵌合により相互の傾斜面相互を接触させて前記の摺接面を形成し、前記側板部材を固定部材に対し前記回転体の径方向にスライド自在に取付け、前記付勢手段により該側板部材に対し径方向の付勢力を付与したことを特徴とするトルクリミッタ。
【請求項2】
前記付勢力により前記回転体を所要のニップ圧で給送ローラに押圧し、その反力で前記摺接面にラジアル力を発生させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項3】
前記付勢力が重錘により付与され、前記固定部材から下向きに延びたガイドアームに前記側板部材を上下方向にスライド自在に嵌合し、前記重錘を該側板部材に固定したことを特徴とする請求項1又は2に記載のトルクリミッタ。
【請求項4】
前記付勢力がばねにより付与され、前記固定部材から径方向に延びたガイドアームに前記側板部材をスライド自在に嵌合し、前記ばねを前記固定部材と側板部材との間に介在させたことを特徴とする請求項1又は2に記載のトルクリミッタ。
【請求項5】
前記回転体又は側板部材のいずれか一方を分割体の組み合せにより構成したことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【請求項6】
前記側板部材が軸方向の左右両側に2分された側板部材分割体の組み合わせにより構成され、前記回転体と側板部材の結合一体化手段が、前記各側板部材分割体に前記回転体のクサビ形凸部内径の小径部より小径の連結穴が形成されるとともに各側板部材分割体の対向内面に形成された傾斜面相互間で前記のクサビ形凹部が形成され、前記回転体のクサビ形凸部を該クサビ形凹部間に嵌合して組み合わせ、前記クサビ形凸部内径の小径部に遊嵌した連結ピンの両端部を両側の側板部材分割体の連結穴に圧入する構造でなることを特徴とする請求項5に記載のトルクリミッタ。
【請求項7】
前記側板部材と回転体の摺接面において、回転体側の摺接面が側板部材側の摺接面より摩耗し易い素材により形成されたことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【請求項8】
前記回転体のクサビ形凸部のクサビ角αと、前記側板部材のクサビ凹部のクサビ角α’の大きさ関係に一定の差を持たせたことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のトルクリミッタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−162055(P2006−162055A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41041(P2005−41041)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】