説明

トルクレンチ

【課題】 副目盛を読み取り易くして副目盛のトルク値合わせを容易化し、また調整リングを悪戯しても回し難くして、設定トルク値を勝手に変更できないようにする。
【解決手段】 締め付けトルク設定用の調整ネジ1の回転操作で主目盛2a付きのスライド部2を、軸方向Dに沿ってグリップ3内で移動自在に形成する。調整ネジ1の操作端部1aに、調整ネジ1と一体状に回転する調整リング8を同心状に外装する。この調整リング8の外周面8bに、副目盛8cを付す。上記の調整リング8を、グリップ3の基端3aから露出する。この調整リング8の外周面8bを、グリップ3の軸方向Dに沿って手前側に向かってテーパーに形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は手動式のトルクレンチに関し、更に詳しくはトルク値を予め設定できるプリセット型のトルクレンチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種のトルクレンチとしては、例えば締め付けトルク設定用の調整ネジの回転操作で主目盛付きのスライド部が軸方向に沿ってグリップ内で移動自在に形成され、上記の調整ネジの操作端部に、調整ネジと一体状に回転する調整リングが同心状に外装され、この調整リングの外周面に副目盛が付されているものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ところでこの種のレンチは、予めトルク値を設定して使用するものであるから、トルク値の設定作業を容易化でき、しかも設定済みのトルク値を悪戯により勝手に変更できないよう形成されているのが望ましい。
しかるに従来品は、副目盛を、グリップに形成した小さな窓から覗いて読み取る構造であったから、副目盛のトルク値合わせが不便で、使い勝手が悪い、という問題点があった。
而して副目盛の読み取りを容易化するため、上記の調整リングを、単にグリップの基端から露出させたのでは、調整リングを悪戯され、回されるおそれがある。調整リングは、上記の通り、この種の従来品の場合、調整ネジと一体状に形成されている。従って調整リングが悪戯されると、設定したトルク値が狂い、結局、締め付け状態の信頼性の低下を招くことになる。
【特許文献1】特開2000−280184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑み、提案されたものである。
従って本発明の解決しようとする技術的課題は、副目盛を読み取り易くして副目盛のトルク値合わせを容易化でき、また調整リングを悪戯しても回し難くして、設定トルク値を勝手に変更できないよう形成したトルクレンチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するため、次のような技術的手段を採る。
即ち本発明は、図1等に示されるように、締め付けトルク設定用の調整ネジ1の回転操作で主目盛2a付きのスライド部2が軸方向Dに沿ってグリップ3内で移動自在に形成され、上記の調整ネジ1の操作端部1aに、調整ネジ1と一体状に回転する調整リング8が同心状に外装され、この調整リング8の外周面8bに副目盛8cが付されているトルクレンチであって、上記の調整リング8がグリップ3の基端3aから露出され、この調整リング8の外周面8bがグリップ3の軸方向Dに沿って手前側に向かってテーパーに形成されていることを特徴とする(請求項1)。
【0006】
ここで、手前側とは、グリップ3を握ったとき作業者の手元になる側を意味する。本発明の場合、調整リング8の外周面8bの傾斜角度、調整リング8の径、及び軸方向Dの幅(調整リング8の厚さ)は、任意である。調整リング8の外周面8bの傾斜角を大きくして勾配をきつくすると、手指が滑り易くなるため、調整リング8を悪戯しても回される危険がない。また調整リング8の軸方向Dの幅(厚さ)を大きくすると、副目盛8cを大きく表示できるから、副目盛8cの読み取りが楽になる、という利点がある。
【0007】
また本発明のトルクレンチは、グリップ3の基端3aに切り欠き11が、主目盛2aの覗き窓10と軸方向Dに沿った同一直線上に位置決めされて形成され、グリップ3で覆われているレンチ本体5の、切り欠き11に対応する表面位置に、副目盛8cのトルク値を、切り欠き11を通して視認して読み取るための目印12が形成されているのが好ましい(請求項2)。
なぜならこれによると、主目盛2aと副目盛8cのトルク値を、目線を軸方向Dに沿って移動することで直ぐに読むことができるからである。またこれによると、目印12以外のレンチ本体5の基端の箇所はグリップ3でカバーされるため、体裁も良いからである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のトルクレンチは、このように調整リングをグリップの基端から露出させ、調整リングの外周面を、グリップの軸方向に沿って手前側に向かってテーパーに形成しているものである。
従って本発明の場合は、調整リングの外周面に付された副目盛を、従来品のように窓から一々覗くことなく直ぐに視認でき、しかも副目盛を大きく表示することができるから、これによれば副目盛を読み取り易くなり、副目盛のトルク値合わせを容易化できる。
また本発明品は、調整リングの外周面が傾斜しているため、手指をかけても滑って調整リングを悪戯し難いものである。従ってこれによれば、悪戯によって設定トルク値を勝手に変更されるおそれもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1等において、1は締め付けトルク設定用の調整ネジであり、2は主目盛2a付きのスライド部である。このスライド部2は、調整ネジ1の回転操作で軸方向Dに沿ってグリップ3内で移動自在に形成されている。4は、調整ネジ1を案内するプラグである。このプラグ4は、レンチ本体5内に固定されている。6はコイルバネであり、7は鋼球である。コイルバネ6は、調整ネジ1が回されてスライド部2が例えば前方に移動すると、圧縮するものである。
【0010】
8は、調整ネジ1と一体状に回転する調整リングである。この調整リング8は、上記の調整ネジ1の操作端部1aに外装され、調整ネジ1に同心状に固定されている。調整ネジ1の操作端部1aは、調整リング8から突き出さないよう、調整リング8の凹段差部8a内に納められ、操作端部1aを勝手に回すことができないよう形成されている。またこの操作端部1aは、回転操作工具9(図3参照)としての六角レンチの先が係合するよう、端面に六角孔1bが形成されると共に、この実施形態ではソケットレンチによっても回転可能になるよう、軸方向Dと直交する断面が、ほぼ歯車状(多角形状)に形成されている。
【0011】
また調整リング8は、外周面8bに副目盛8cが、この実施形態では数値と共に付されている。調整リング8は、ゴム製のグリップ3の基端3aから露出され、外周面8bは、グリップ3の軸方向Dに沿って手前側(作業者の手元の側)に向かってテーパーに形成されている。また調整リング8は、グリップ3の基端3a側の直径が、グリップ3の基端3aの直径とほぼ同一に選定されると共に、外周面8bがグリップ3の周面に連ねられ、グリップ3と調整リング8とに、デザイン上、外観上の統一感が生まれるよう、形成されている。なおグリップ3には、主目盛2aに対応する位置に、覗き窓10が形成されている。
【0012】
また11は、グリップ3の基端3aに形成されている切り欠きである。この切り欠き11は、主目盛2aの覗き窓10と共に、軸方向Dに沿った同一直線上に位置決めされ、グリップ3の周方向の位置を合わせて形成されている。12は、副目盛8cのトルク値を、切り欠き11を通して視認して読み取るための目印である。この目印12は、グリップ3で覆われているレンチ本体5の、上記の切り欠き11に対応する表面位置に形成されている。この実施形態の場合、目印12は、レンチ本体5の表面位置に円形の窪みが形成されると共に、この窪みが赤色の塗料で着色されることにより形成されている。
【0013】
次に本発明のトルクレンチの使用例を説明する。
本発明の場合、作業者は、図3に示されるように、回転操作工具9としての例えば六角レンチの先を、調整ネジ1の操作端部1aの六角孔1bに嵌合させ、この種のレンチを用いて調整ネジ1を回転させ、トルク値を設定する。調整リング8は、上記の通り、調整ネジ1と一体化している。従って調整ネジ1が回されると、調整リング8は調整ネジ1と一緒に回転する。そこで作業者は調整ネジ1を回し、主目盛2aは覗き窓10から、副目盛8cは切り欠き11を通して目印12を見ながら、任意のトルク値を設定するものである。
【0014】
而して本発明は、調整リング8の外周面8bが傾斜面状に形成されている。従って作業者が、ボルトやナットの締め付け時にグリップ3を握ってレンチ本体5を回しても、手と調整リング8の外周面8bとの間に摩擦抵抗は殆ど生じない。それ故本発明品の場合、締め付け操作時に調整リング8を回転させることはない。また本発明は、調整リング8がグリップ3の基端3aから露出している。従ってこれによれば、調整リング8の外周面8bに付されている副目盛8cを読み取り易くなり、また従来品のように、副目盛8cをグリップ3に形成した窓から覗いてみる場合に比べ、副目盛8cの大きさに制限を受けることがない。それ故これによると、副目盛8cを大きく表示することができ、その分、トルク値の設定作業を容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のトルクレンチの好適な一実施形態を示し、図2のI−I線における要部拡大断面図である。
【図2】同上トルクレンチの側面図である。
【図3】同上トルクレンチの使用状態を示す要部斜視図である。
【符号の説明】
【0016】
1 調整ネジ
1a 操作端部
2 スライド部
2a 主目盛
3 グリップ
3a 基端
4 プラグ
5 レンチ本体
6 コイルバネ
7 鋼球
8 調整リング
8a 凹段差部
8b 外周面
8c 副目盛
9 回転操作工具
10 覗き窓
11 切り欠き
12 目印
D 軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締め付けトルク設定用の調整ネジの回転操作で主目盛付きのスライド部が軸方向に沿ってグリップ内で移動自在に形成され、上記の調整ネジの操作端部に、調整ネジと一体状に回転する調整リングが同心状に外装され、この調整リングの外周面に副目盛が付されているトルクレンチであって、上記の調整リングがグリップの基端から露出状に設けられ、この調整リングの外周面がグリップの軸方向に沿って手前側に向かってテーパーに形成されていることを特徴とするトルクレンチ。
【請求項2】
請求項1記載のトルクレンチであって、グリップの基端に切り欠きが、主目盛の覗き窓と軸方向に沿った同一直線上に位置決めされて形成され、グリップで覆われているレンチ本体の、切り欠きに対応する表面位置に、副目盛のトルク値を、切り欠きを通して視認して読み取るための目印が形成されていることを特徴とするトルクレンチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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