説明

トレッドが水素化熱可塑性エラストマーを含むタイヤ

本発明は、トレッドが、SBRおよび/またはBRのような少なくとも1種のジエンエラストマー、シリカおよび/またはカーボンブラックのような少なくとも1種の補強用充填剤および10phrよりも多い、好ましくは15phrよりも多い水素化スチレン熱可塑性エラストマーを含むゴム組成物を含むことを特徴とするタイヤに関する。
この組成物は、生状態において低下した粘度を有し、低下した転がり抵抗性を示すと共に良好なレベルの湿潤グリップ性を保持するタイヤのトレッドを得ることを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッド、およびジエンエラストマーと熱可塑性エラストマーとをベースとし、そのようなタイヤトレッドの製造において使用することのできるゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
知られている通り、タイヤは、高耐摩耗性、低転がり抵抗性および高湿潤グリップ性のような多くのしばしば相反する技術的条件を満たさなければならない。
特に転がり抵抗性とグリップ性の観点からのこの諸性質の妥協点は、近年において、特に乗用車用に意図する省エネ型の“グリーンタイヤ”に関連して、補強用として説明されている特定の無機充填剤によって、特に、補強力の点で通常のタイヤ級カーボンブラックと拮抗し得る“HDS”(Highly Dispersible Silica)と称する高分散性シリカによって主として補強されているという特徴を有する新規な弱ヒステリシスゴム組成物の使用によって改良し得ていた。
【0003】
しかしながら、タイヤトレッドの転がり抵抗性を、他の性質、特に、湿潤グリップ特性を損なうことなく低下させることは、依然としてタイヤ設計者の不変の大きな関心事である。
【発明の概要】
【0004】
調査研究中に、本出願法人は、ジエンエラストマー、特定のTPSエラストマーおよび補強用充填剤をベースとし、低下した転がり抵抗性を示すと共に良好なレベルの湿潤グリップ性を保持しているタイヤトレッドを得ることを可能にするゴム組成物を見出した。
即ち、本発明は、トレッドが、少なくとも1種のジエンエラストマー、少なくとも1種の補強用充填剤および10phrよりも多い水素化スチレン熱可塑性エラストマーを含むゴム組成物を含むことを特徴とするタイヤに関する。
【0005】
本発明のタイヤは、特に、乗用車;SUV車(スポーツ用多目的車);二輪車(特にオートバイ);航空機;並びに、バン類、重量車両(即ち、地下鉄列車、バス、重量道路輸送車(トラック、トラクター、トレーラー)、または農業用車両および土木機械のような道路外車両)、或いは他の輸送または操作用車両から選ばれる産業用車両に装着することを意図する。
【0006】
本発明およびその利点は、以下の説明および実施例を考慮すれば容易に理解し得るであろう
【発明を実施するための形態】
【0007】
I. 使用する測定および試験法
本発明に従うタイヤにおいて使用するゴム組成物は、硬化前後において、以下で示すようにして特性決定する。
I‐1. ムーニー可塑度
フランス規格NF T 43‐005 (1991年)に記載されているような振動(oscillating)稠度計を使用する。ムーニー可塑度測定は、次の原理に従って実施する:生状態(即ち、硬化前)の組成物を100℃に加熱した円筒状チャンバー内で成形する。1分間の予熱後、ローターが試験標本内で2回転/分で回転し、この運動を維持するための仕事トルクを4分間の回転後に測定する。ムーニー可塑度(ML 1+4)は、“ムーニー単位”(MU、1MU = 0.83ニュートン.メートル)で表す。
【0008】
I‐2. 引張試験
これらの引張試験は、弾性応力および破断点諸特性の測定を可能にする。特に断らない限り、これらの試験は、1988年9月のフランス規格 NF T 46‐002に従って実施する。2回目の伸びにおいて(即ち、測定自体において予測する伸長度への順応サイクル後に)、“公称”割線モジュラス(即ち、MPaでの見かけ応力)を、10%の伸び(M10で示す)および100%伸び(M100で示す) において測定する。これらの引張測定は、全て、フランス規格NF T 40‐101 (1979年12月)に従い、標準の温度(23±2℃)および湿度(50±5%相対湿度)条件下に実施する。
【0009】
I‐3. ショアA硬度
硬化後の組成物のシュアA硬度は、規格ASTM D 2240‐86に従って評価する。
【0010】
I‐4. 動的特性
動的特性は、規格ASTM D 5992‐96に従って、粘度アナライザー(Metravib VA4000)において測定する。単純な交互正弦剪断応力に10Hzの周波数で供した加硫組成物のサンプル(厚さ4mmおよび400mm2の断面積を有する円筒状試験片)の応答を、0.7MPaの一定応力での温度掃引中に記録する。0℃において観察されたtan(δ)の値(即ち、tan(δ)0℃)および40℃において観察されたtan(δ)の値(即ち、tan(δ)40℃)を記録する。
当業者にとっては周知の通り、tan(δ)0℃の値は、湿潤地面上でのグリップ性に対するポテンシャルを代表することを思い起すべきである:tan(δ)0℃が高いほど、グリップ性は良好である。tan(δ)40℃の値は、材料のヒステリシス、ひいては、転がり抵抗性を代表する:tan(δ)40℃が低いほど、転がり抵抗性は低い。
【0011】
II. 発明を実施する条件
本発明に従うタイヤのトレッドは、少なくとも1種のジエンエラストマー、少なくとも1種の補強用充填剤および10phrよりも多い水素化スチレン熱可塑性(“TPS”)エラストマーを含むゴム組成物を含む。
“phr”は、総エラストマー(従って、上記水素化TPSエラストマーを含む)の100質量部当りの質量部を意味する。
【0012】
本説明においては、特に明確に断らない限り、示すパーセント(%)は、全て質量%である。さらにまた、“aとbの間”なる表現によって示される値の間隔は、いずれも、aよりも大きくからbよりも小さいまでに及ぶ値の範囲を示し(即ち、限界値aとbを除く)、一方、“a〜b”なる表現によって示される値の範囲は、いずれも、aからbまでに及ぶ値の範囲を意味する(即ち、厳格な限定値aおよびbを含む)。
【0013】
II‐1 ジエンエラストマー
本発明に従うタイヤのトレッドは、少なくとも1種のジエンエラストマーを含むという本質的な第1の特徴を有するゴム組成物を含む。
ここで、“ジエン”タイプのエラストマー(または“ゴム”、これら2つの用語は同義とみなす)は、知られている通り、ジエンモノマー(共役型であり得るまたはあり得ない2個の炭素‐炭素二重結合を担持するモノマー)に少なくとも一部由来する1種以上のエラストマー(即ち、ホモポリマーまたはコポリマー)を意味するものと理解すべきであることを思い起すべきである。
【0014】
ジエンエラストマーは、2つのカテゴリー、即ち、“本質的に不飽和”または“本質的に飽和”に分類し得る。用語“本質的に不飽和”とは、一般に、共役ジエンモノマーに少なくとも部分的に由来し、15%(モル%)よりも多いジエン起源(共役ジエン)単位量を有するジエンエラストマーを意味するものと理解されたい;従って、ブチルゴムまたはEPDMタイプのジエンとα‐オレフィンのコポリマーのようなジエンエラストマーは、上記の定義には属さず、特に“本質的に飽和”のジエンエラストマー(常に15%未満である、低いまたは極めて低いジエン起原単位量)と称し得る。“本質的に不飽和”のジエンエラストマーのカテゴリーにおいては、用語“高不飽和”ジエンエラストマーとは、特に50%よりも多いジエン起源(共役ジエン)の単位量を有するジエンエラストマーを意味するものと理解されたい。
【0015】
これらの定義を考慮すれば、“本発明に従う組成物において使用することのできるジエンエラストマー”なる表現は、さらに詳細には、下記を意味するものと理解されたい:
(a) 4〜12個の炭素原子を有する共役ジエンモノマーを重合させることによって得られる任意のホモポリマー;
(b) 1種以上の共役ジエンを他のジエンまたは8〜20個の炭素原子を有する1種以上のビニル芳香族化合物と共重合させることによって得られる任意のコポリマー;
(c) 例えば、エチレンと、プロピレンと、特に1,4‐ヘキサジエン、エチリデンノルボルネンまたはジシクロペンタジエンのような下記のタイプの非共役ジエンモノマーとから得られるエラストマーのような、エチレンと、3〜6個の炭素原子を有するα‐オレフィンとを、6〜12個の炭素原子を有する非共役ジエンモノマーと共重合させることによって得られる3成分コポリマー;および、
(d) イソブテンとイソプレンのコポリマー(ブチルゴム)、さらにまた、このタイプのコポリマーのハロゲン化形、特に、塩素化または臭素化形。
【0016】
本発明は任意のタイプのジエンエラストマーに当てはまるけれども、当業者であれば、本発明は、好ましくは、特に上記のタイプ(a)または(b)の本質的に不飽和のジエンエラストマーによって使用すること理解するであろう。
【0017】
以下は、共役ジエンとして特に適している:1,3‐ブタジエン;2‐メチル‐1,3‐ブタジエン;例えば、2,3‐ジメチル‐1,3‐ブタジエン、2,3‐ジエチル‐1,3‐ブタジエン、2‐メチル‐3‐エチル‐1,3‐ブタジエンまたは2‐メチル‐3‐イソプロピル‐1,3‐ブタジエンのような2,3‐ジ(C1〜C5アルキル)‐1,3‐ブタジエン;アリール‐1,3‐ブタジエン;1,3‐ペンタジエン;および2,4‐ヘキサジエン。以下は、例えば、ビニル芳香族化合物として適している:スチレン;オルソ‐、メタ‐およびパラ‐メチルスチレン;“ビニルトルエン”市販混合物;パラ‐(tert‐ブチル)スチレン;メトキシスチレン;クロロスチレン;ビニルメシチレン;ジビニルベンゼンおよびビニルナフタレンである。
【0018】
上記コポリマーは、99質量%と20質量%の間のジエン単位および1質量%と80質量%の間のビニル芳香族単位を含み得る。上記エラストマーは、使用する重合条件、特に、変性剤および/またはランダム化剤の存在または不存在並びに使用する変性剤および/またはランダム化剤の量に依存する任意のミクロ構造を有し得る。これらのエラストマーは、例えば、ブロック、ランダム、序列または微細序列エラストマーであり得、分散液中または溶液中で調製し得る。これらのエラストマーは、カップリング剤および/または星型枝分れ化剤(star‐branching agent)或いは官能化剤によってカップリングしおよび/または星型枝分れ化し或いは官能化し得る。カーボンブラックとカップリングさせるには、例えば、C‐Sn結合を含む官能基、または、例えばアミノベンゾフェノンのようなアミノ化官能基を挙げることができる;シリカのような補強用無機充填剤とカップリングさせるには、例えば、シラノール官能基またはシラノール末端を有するポリシロキサン官能基(例えば、FR 2 740 778号、US 6 013 718号およびWO 2008/141702号に記載されているような)、アルコキシシラン基(例えば、FR 2 765 882号またはUS 5 977 238号に記載されているような)、カルボキシル基(例えば、WO 01/92402号またはUS 6 815 473号、WO 2004/096865号またはUS 2006/0089445号に記載されているような)、或いはポリエーテル基(例えば、EP 1 127 909号、US 6 503 973号、WO 2009/000750号またはWO 2009/000752号に記載されているような)を挙げることができる。また、他の官能化エラストマーの例としては、エポキシ化タイプのエラストマー(SBR、BR、NRまたはIRのような)も挙げることができる。
【0019】
以下が、適している:ポリブタジエン、特に、4%と80%の間の1,2‐単位含有量(モル%)を有するポリブジエンまたは80%よりも多いシス‐1,4‐単位含有量(モル%)を有するポリブタジエン;ポリイソプレン;ブタジエン/スチレンコポリマー、特に、0℃と−70℃の間、特に−10℃と−60℃の間のTg (ガラス転移温度、ASTM D3418に従って測定)、5質量%と60質量%の間、特に20質量%と50質量%の間のスチレン含有量、4%と75%の間のブタジエン成分1,2‐結合含有量(モル%)および10%と80%の間のトランス‐1,4‐結合含有量(モル%)を有するコポリマー;ブタジエン/イソプレンコポリマー、特に、5質量%と90質量%の間のイソプレン含有量および−40℃〜−80℃のTgを有するコポリマー;または、イソプレン/スチレンコポリマー、特に、5質量%と50質量%の間のスチレン含有量および−5℃と−50℃の間のTgを有するコポリマー。ブタジエン/スチレン/イソプレンコポリマー類の場合、5質量%と50質量%の間、特に10質量%と40質量%の間のスチレン含有量、15質量%と60質量%の間、特に20質量%と50質量%の間のイソプレン含有量、5質量%と50質量%の間、特に20質量%と40質量%の間のブタジエン含有量、4%と85%の間のブタジエン成分1,2‐単位含有量(モル%)、6%と80%の間のブタジエン成分トランス‐1,4‐単位含有量(モル%)、5%と70%の間のイソプレン成分1,2‐+3,4‐単位含有量(モル%)および10%と50%の間のイソプレン成分トランス‐1,4‐単位含有量(モル%)を有するコポリマー、および、さらに一般的には、−5℃と−70℃の間のTgを有する任意のブタジエン/スチレン/イソプレンコポリマーが特に適している。
【0020】
要するに、本発明に従う組成物のジエンエラストマーは、好ましくは、ポリブタジエン(“BR”と略記する)、合成ポリイソプレン(IR)、天然ゴム(NR)、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらエラストマーの混合物からなる高不飽和ジエンエラストマーの群から選択する。そのようなコポリマーは、さらに好ましくは、ブタジエン/スチレンコポリマー(SBR)、イソプレン/ブタジエンコポリマー(BIR)、イソプレン/スチレンコポリマー(SIR)およびイソプレン/ブタジエン/スチレンコポリマー(SBIR)からなる群から選択する。
【0021】
特定の実施態様によれば、上記ジエンエラストマーは、主として(即ち、50phrよりも多くにおいて)、SBR単独である(エマルジョン中で調製したSBR (“ESBR”)または溶液中で調製したSBR (“SSBR”)のいずれか)。
もう1つの特定の実施態様によれば、上記ジエンエラストマーは、SBR/BRブレンド(混合物)である。
他の可能性ある実施態様によれば、上記ジエンエラストマーは、SBR/NR (またはSBR/IR)、BR/NR (またはBR/IR)、またはSBR/BR/NR (またはSBR/BR/IR)ブレンドである。
【0022】
SBR (ESBRまたはSSBR)エラストマーの場合、特に、例えば20質量%と35質量%の間の量の中程度のスチレン含有量または、例えば35質量%〜45質量%の高スチレン含有量、15%と70%の間のブタジエン成分ビニル結合含有量、15%と75%の間のトランス‐1,4‐結合含有量(モル%)および−10℃と−55℃の間のTgを有するSBRを使用する;そのようなSBRは、有利には、好ましくは90%(モル%)よりも多いシス‐1,4‐結合を有するBRとの混合物として使用し得る。
【0023】
もう1つの特定の実施態様によれば、上記ジエンエラストマーは、イソプレンエラストマーである。用語“イソプレンエラストマー”は、知られているとおり、イソプレンホモポリマーまたはコポリマー、換言すれば、可塑化または解凝固されていてもよい天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(IR)、各種イソプレンコポリマーおよびこれらエラストマーの混合物からなる群から選ばれるジエンエラストマーを意味するものと理解されたい。イソプレンコポリマーのうちでは、特に、イソブテン/イソプレンコポリマー(ブチルゴム;IIR)、イソプレン/スチレンコポリマー(SIR)、イソプレン/ブタジエンコポリマー(BIR)またはイソプレン/ブタジエン/スチレンコポリマー(SBIR)が挙げられる。このイソプレンエラストマーは、好ましくは、天然ゴムまたは合成シス‐1,4‐ポリイソプレンである;これらの合成ポリイソプレンのうちでは、好ましくは90%よりも多い、より好ましくは98%よりも多いシス‐1,4‐結合量(モル%)を有するポリイソプレンを使用する。
【0024】
本発明のもう1つの好ましい実施態様によれば、上記ゴム組成物は、−70℃と0℃の間のTgを示す1種以上の“高Tg”ジエンエラストマーと、−110℃と−80℃の間の、より好ましくは−105℃と−90℃の間のTgを示す1種以上の“低Tg”ジエンエラストマーとのブレンドを含む。高Tgエラストマーは、好ましくは、S‐SBR、E‐SBR、天然ゴム、合成ポリイソプレン(95%よりも多くのシス‐1,4‐構造量(モル%)を示す)、BIR、SIR、SBIRおよびこれらのエラストマー混合物からなる群から選ばれる。低Tgエラストマーは、好ましくは、少なくとも70%に等しい量(モル%)に従うブタジエン単位を含む;低Tgエラストマーは、好ましくは、90%よりも多いシス‐1,4‐構造量(モル%)を示すポリブタジエン(BR)からなる。
【0025】
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、上記ゴム組成物は、例えば、30phrと90phrの間、特に40phrと90phrの間の量の高Tgエラストマーを低Tgエラストマーとのブレンドとして含む。
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、本発明に従う組成物のジエンエラストマーは、90%よりも多いシス‐1,4‐構造体量(モル%)を示すBR (低Tgエラストマーとして)と1種以上のS‐SBRまたはE‐SBR (高Tgエラストマーとして)のブレンドを含む。
本発明に従う組成物は、単独のジエンエラストマーまたは数種のエラストマーの混合物を含み得る。
【0026】
II‐2. 水素化TPSエラストマー
本発明に従うタイヤのトレッドは、10phrよりも多い水素化スチレン熱可塑性エラストマーを含むという他の本質的な特徴を有するゴム組成物を含む。
【0027】
先ず第1に、スチレン熱可塑性エラストマー(“TPS”エラストマーとも称する)は、スチレン系ブロックコポリマーの形で存在する熱可塑性エラストマーであることを思い起すべきである。これらの熱可塑性エラストマーは、熱可塑性ポリマーとエラストマーの中間の構造を有し、知られている通り、軟質エラストマー配列、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレンまたはポリ(エチレン/ブチレン)が結合した硬質ポリスチレン配列からなる。これらのTPSエラストマーは、多くの場合、1つの軟質セグメントが結合した2つの硬質セグメントを有するトリブロックエラストマーである。硬質および軟質セグメントは、線状に、星型または枝分れ型で配置し得る。また、これらのTPSエラストマーは、1つの軟質セグメントに結合した1つの硬質セグメントを有するジブロックエラストマーでもあり得る。典型的には、これらのセグメントまたはブロックの各々は、最少でも5個よりも多い、一般的には10個よりも多い基本単位(例えば、スチレン/イソプレン/スチレンブロックコポリマーにおけるスチレン単位とイソプレン単位)を有する。
【0028】
また、不飽和TPSコポリマーは、エチレン系不飽和を有する、即ち、炭素‐炭素二重結合(共役型または非共役型)を含むTPSコポリマーを意味するものと理解すべきであることを思い起すべきである。飽和TPSコポリマーは、何らのエチレン系不飽和(即ち、何らの炭素‐炭素二重結合)も含まないTPSコポリマーを意味するものと理解されたい。
【0029】
知られている通り、また、定義によれば、本特許出願においては、“水素化”TPSエラストマーは、部分的にまたは完全に水素化されている、即ち、不飽和TPSエラストマーの部分的または完全水素化によって得られるエラストマーである。
好ましい実施態様によれば、上記水素化TPSエラストマーは、スチレンブロックとジエンブロックを含む不飽和TPSコポリマーに由来し、これらのジエンブロックは、特に、イソプレンまたはブタジエンブロックである。
【0030】
もう1つの好ましい実施態様によれば、上記TPSコポリマーは、スチレン/ブタジエン(SB)、スチレン/イソプレン(SI)、スチレン/ブタジエン/ブチレン(SBB)、スチレン/ブタジエン/イソプレン(SBI)、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレン(SBBS)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)およびスチレン/ブタジエン/イソプレン/スチレン(SBIS)の各ブロックコポリマー、並びにこれらのコポリマーの混合物からなる群から選ばれる。
さらに好ましい実施態様によれば、上記水素化TPSは、スチレン/イソプレン/スチレンブロックを含む不飽和TPSコポリマーに由来し、さらに、例えば、ブタジエンブロックを含み得る。
【0031】
本発明のもう1つの好ましい実施態様によれば、上記TPSエラストマーのスチレン含有量は、5%と50%の間の量である。上記の最低値よりも低いと、上記エラストマーの熱可塑性が実質的に低下するリスクが存在し、一方、推奨する最高値よりも高いと、上記組成物の弾力性が悪影響を受け得る。これらの理由により、スチレン含有量は、より好ましくは10%と40%の間の量である。
【0032】
上記TPSエラストマーの数平均分子量(Mnで示す)は、好ましくは50000g/モルと500000g/モルの間、より好ましくは75000g/モルと450000g/モルの間である。この分子量は、立体排除クロマトグラフィー(SEC)により、既知の方法で測定する。サンプルを、約1g/lの濃度でテトラヒドロフラン中に前以って溶解する;その後、溶液を、0.45μmの有孔度を有するフィルター上で、注入前に濾過する。使用する装置は、“Waters Alliance”クロマトグラフィーラインである。溶出溶媒はテトラヒドロフランであり、流量は0.7ml/分であり、系の温度は35℃であり、分析時間は90分である。商品名“Styragel”を有する直列の4本のWatersカラムセット(“HMW7”、“HMW6E”および2本の“HT6E”)を使用する。ポリマーサンプル溶液の注入容量は、100μlである。検出器は、“Waters 2410”示差屈折計であり、クロマトグラフデータを使用するするその関連ソフトウェアは、“Waters Millennium”システムである。算出した平均モル質量を、ポリスチレン標準によって得られた較正曲線と対比する。
【0033】
上記ゴム組成物は、好ましくは、15phrよりも多い水素化TPSエラストマーを、好ましくは16phrと50phrの間の量の、例えば、18〜40phrのそのようなエラストマーを含む。上記の最低値よりも少ないと、得られる技術的効果が不十分であるリスクが存在し、上記最高値よりも多いと、グリップ性が悪影響を受けるリスクが存在する。
上述したエラストマーのような不飽和TPSに由来する水素化TPSエラストマーは、周知であり、また商業的に入手可能であり、例えば、品名“Hybrar”の7000シリーズとしてKuraray社から販売されている。
【0034】
II‐3. 補強用充填剤
タイヤの製造において使用することのできるゴム組成物を補強するその能力について知られている任意のタイプの補強用充填剤、例えば、カーボンブラックのような有機充填剤、シリカのような補強用無機充填剤、或いはこれら2つのタイプの充填剤の混合物、特に、カーボンブラックとシリカの混合物を使用することができる。
【0035】
全てのカーボンブラック類、特に、“タイヤ級”ブラック類がカーボンブラックとして適している。特に、後者のうちでは、例えば、N115、N134、N234、N326、N330、N339、N347またはN375ブラック類のような100、200または300シリーズの補強用カーボンブラック類(ASTM級)、或いは、目的とする用途次第では、より高級シリーズのブラック類(例えば、N660、N683またはN772)が挙げられる。カーボンブラックは、例えば、マスターバッチの形で、イソプレンエラストマー中に既に混入させていてもよい(例えば、出願 WO 97/36724号またはWO 99/16600号を参照されたい)。
カーボンブラック以外の有機充填剤の例としては、出願 WO‐A‐2006/069792号、WO‐A‐2006/069793号、WO‐A‐2008/003434号およびWO‐A‐2008/003435号に記載されているような官能化ポリビニル芳香族有機充填剤を挙げることができる。
【0036】
用語“補強用無機充填剤”は、本特許出願においては、定義によれば、カーボンブラックに対比して“白色充填剤”、“透明充填剤”としても或いは“非黒色充填剤”としてさえも知られており、それ自体単独で、中間カップリング剤以外の手段によることなく、タイヤの製造を意図するゴム組成物を補強し得る、換言すれば、通常のタイヤ級カーボンブラックとその補強役割において置換わり得る任意の無機または鉱質充填剤(その色合およびその天然または合成起原の如何にかかわらない)を意味するものと理解すべきである;そのような充填剤は、一般に、知られている通り、その表面でのヒドロキシル(‐OH)基の存在に特徴を有する。
【0037】
補強用無機充填剤を使用する物理的状態は、粉末、マイクロビーズ、顆粒、ビーズまたは任意の他の適切な濃密形のいずれの形状であれ、重要ではない。勿論、“補強用無機充填剤”なる用語は、種々の補強用無機充填剤、特に、以下で説明するような高分散性シリカ質および/またはアルミナ質充填剤の混合物も意味することを理解されたい。
【0038】
シリカ質タイプの鉱質充填剤、特に、シリカ(SiO2)、またはアルミナ質タイプの鉱質充填剤、特に、アルミナ(Al2O3)は、補強用無機充填剤として特に適している。使用するシリカは、当業者にとって既知の任意の補強用シリカ、特に、共に450m2/g未満、好ましくは30〜400m2/gのBET表面積とCTAB比表面積を示す任意の沈降または焼成シリカであり得る。高分散性沈降シリカ(“HDS”)としては、例えば、Degussa社からのUltrasil 7000およびUltrasil 7005シリカ類;Rhodia 社からのZeosil 1165MP、1135MPおよび1115MPシリカ類;PPG社からのHi‐Sil EZ150Gシリカ;Huber社からのZeopol 8715、8745または8755シリカ類;および、出願 WO 03/16837号に記載されているような高比表面積を有するシリカ類が挙げられる。
使用する補強用無機充填剤は、特にシリカである場合、好ましくは45m2/gと400m2/gの間、より好ましくは60m2/gと300m2/gの間のBET表面積を有する。
【0039】
好ましくは、総補強用充填剤(カーボンブラックおよび/またはシリカのような補強用無機充填剤)の含有量は、20phrと200phrの間、より好ましくは30phrと150phrの間の量である;最適量は、知られている通り、目的とする特定の用途に応じて異なる:例えば、自転車タイヤに関して期待される補強レベルは、継続的に高速で走行することのできるタイヤ、例えば、オートバイタイヤ、乗用車用タイヤ、または重量車両のような実用車用タイヤに関して要求されるレベルよりも勿論低い。
本発明の好ましい実施態様によれば、30phrと150phrの間、より好ましくは50phrと120phrの間の量の無機充填剤、特に、シリカと、任意成分としてのカーボンブラックを含む補強用充填剤を使用する;カーボンブラックは、存在する場合、好ましくは20phrよりも少ない、より好ましくは10phrよりも少ない(例えば、0.1phrと10phrの間の)含有量で使用する。
【0040】
補強用無機充填剤をジエンエラストマーにカップリングさせるためには、知られている通り、無機充填剤(その粒子表面)とジエンエラストマー間に化学的および/または物理的性質の満足し得る結合を付与することを意図する少なくとも二官能性のカップリング剤(または結合剤)、特に、二官能性オルガノシランまたはポリオルガノシロキサン類を使用する。
特に、例えば、出願 WO 03/002648号(またはUS 2005/016651号)およびWO 03/002649号(またはUS 2005/016650号)に記載されているような、その特定の構造によって“対称形”または“非対称形”と称するシランポリスルフィド類を使用する。
【0041】
下記の一般式(I)に相応する“対称形”のシランポリスルフィドは、下記の定義に限定されることなく、特に適している:

(I) Z‐A‐Sx‐A‐Z

[式中、xは、2〜8 (好ましくは2〜5)の整数であり;
Aは、2価の炭化水素基(好ましくはC1〜C18アルキレン基またはC6〜C12アリーレン基、特にC1〜C10、特にC1〜C4アルキレン基、特にプロピレン)であり;
Zは、下記の式の1つに相応する:
【化1】

(式中、R1基は、置換されていないかまたは置換されており、互いに同一かまたは異なるものであって、C1〜C18アルキル、C5〜C18シクロアルキルまたはC6〜C18アリール基(好ましくはC1〜C6アルキル、シクロヘキシルまたはフェニル基、特にC1〜C4アルキル基、特にメチルおよび/またはエチル)を示し;
R2基は、置換されていないかまたは置換されており、互いに同一かまたは異なるものであって、C1〜C18アルコキシルまたはC5〜C18シクロアルコキシル基(好ましくは、C1〜C8アルコキシルおよびC5〜C8シクロアルコキシル基から選ばれた基、より好ましくはC1〜C4アルコキシル基、特にメトキシルおよびエトキシルから選ばれた基)を示す)]。
【0042】
上記式(I)に相応するアルコキシシランポリスルフィドの混合物、特に、商業的に入手可能な通常の混合物の場合、“x”指数の平均値は、好ましくは2と5の間の、より好ましくは4に近い分数である。しかしながら、本発明は、例えば、アルコキシシランジスルフィド(x = 2)によっても実施し得る。
【0043】
さらに詳細には、シランポリスルフィドの例としては、例えば、ビス(3‐トリメトキシシリルプロピル)またはビス(3‐トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド類のようなビス((C1〜C4)アルコキシル(C1〜C4)アルキルシリル(C1〜C4)アルキル)ポリスルフィド類(特に、ジスルフィド、トリスルフィドまたはテトラスルフィド類)が挙げられる。特に、これらの化合物のうちでは、式 [(C2H5O)3Si(CH2)3S2]2を有するTESPTと略称するビス(3‐トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、または式 [(C2H5O)3Si(CH2)3S]2を有するTESPDと略称するビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドを使用する。また、好ましい例としては、特許出願WO 02/083782号(または、US 2004/132880号)に記載されているような、ビス(モノ(C1〜C4)アルコキシルジ(C1〜C4)アルキルシリルプロピル)ポリスルフィド類(特に、ジスルフィド、トリスルフィドまたはテトラスルフィド類)、特に、ビス(モノエトキシジメチルシリルプロピル)テトラスルフィドも挙げられる。
【0044】
アルコキシシランポリスルフィド類以外のカップリング剤としては、特に、特許出願WO 02/30939号(またはUS 6 774 255号)およびWO 02/31041号(またはUS 2004/051210号)に記載されているような、二官能性POS (ポリオルガノシロキサン)類またはヒドロキシシランポリスルフィド(上記式(I)において、R2 = OH)、または、例えば、特許出願WO 2006/125532号、WO 2006/125533号およびWO 2006/125534号に記載されているような、アゾジカルボニル官能基を担持するシランまたはPOS類が挙げられる。
本発明に従うゴム組成物においては、カップリング剤の含有量は、好ましくは4phrと12phrの間、より好ましくは4phrと8phrの間の量である。
【0045】
当業者であれば、もう1つの性質、特に、有機性を有する補強用充填剤を、この補強用充填剤がシリカのような無機層によって被覆されているか或いはその表面に、官能部位、特にヒドロキシルを含み、該充填剤と上記エラストマー間の結合を形成させるためのカップリング剤の使用を必要とすることを条件として、この項で説明する補強用無機充填剤と等価の充填剤として使用し得ることを理解されたい。
【0046】
II‐4. 各種添加剤
また、本発明に従うタイヤのトレッドのゴム組成物は、例えば、顔料;オゾン劣化防止ワックス、化学オゾン劣化防止剤、酸化防止剤のような保護剤;上述した以外の可塑剤;疲労防止剤;補強用樹脂;メチレン受容体(例えば、フェノール・ノボラック樹脂)またはメチレン供与体(例えば、HMTまたはH3M);イオウまたはイオウ供与体および/または過酸化物および/またはビスマレイミドのいずれかをベースとする架橋系;加硫促進剤および加硫活性化剤のような、トレッドの製造を意図するエラストマー組成物において一般的に使用する通常の添加剤の全部または1部も含む。
【0047】
また、これらの組成物は、カップリング剤以外に、カップリング活性化剤、無機充填剤の被覆用の薬剤、或いは、ゴムマトリックス中での充填剤の分散を改善し且つ組成物の粘度を低下させることによって、知られている通り、生状態における組成物の加工性を改善することのできるより一般的な加工助剤も含有し得る;これらの薬剤は、例えば、アルキルアルコキシシランのような加水分解性シラン類;ポリオール類;ポリエーテル類;第一級、第二級または第三級アミン類;または、ヒドロキシル化または加水分解性ポリオルガノシロキサン類である。
【0048】
1つの好ましい実施態様によれば、本発明のゴム組成物は、さらに、可塑剤も含む。好ましくは、この可塑剤は、固体の炭化水素系樹脂、液体可塑剤またはこれら2つの混合物である。
可塑剤の含有量は、好ましくは5phrと50phrの間、より好ましくは10phrと40phrの間、例えば、15phrと35phrの間の量である。
【0049】
本発明の第1の好ましい実施態様によれば、この可塑剤は、そのTgが0℃よりも高い、好ましくは+20℃よりも高い炭化水素樹脂である。
当業者にとっては既知であるように、“樹脂”なる名称は、本特許出願においては、定義によれば、オイルのような液体可塑剤化合物とは対照的に、周囲温度(23℃)において固体である熱可塑性化合物に対して使用される。
【0050】
好ましくは、上記熱可塑性炭化水素可塑化用樹脂は、下記の特徴の少なくともいずれか1つを有する:
・20℃よりも高い、より好ましくは30℃よりも高いTg;
・400g/モルと2000g/モルの間、より好ましくは500g/モルと1500g/モルの間の数平均分子量(Mn);
・3よりも低い、好ましくは2よりも低い多分散性指数(PI) (注:PI = Mw/Mn、Mwは質量平均分子量である)。
さらに好ましくは、この炭化水素可塑化用樹脂は、上記の好ましい特徴の全てを示す。
【0051】
上記炭化水素樹脂のマクロ構造(Mn、MwおよびPI)は、立体排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定する:溶媒 テトラヒドロフラン;温度 35℃;濃度 1g/l;流量 1ml/分;注入前に0.45μmの有孔度を有するフィルターにより濾過した溶液;ポリスチレン標準によるムーア(Moore)較正;直列の3本“Waters”カラムセット(“Styragel”HR4E、HR1およびHR0.5);示差屈折計(“Waters 2410”)およびその関連操作ソフトウェア(“Waters Empower”)による検出。
【0052】
上記炭化水素樹脂は、脂肪族または芳香族或いは脂肪族/芳香族タイプであり得、即ち、脂肪族および/または芳香族モノマーをベースとし得る。これらの樹脂は、天然または合成であり得、さらに、オイル系であり得るまたはあり得ない(そうである場合、石油樹脂の名称でも知られている)。
【0053】
例えば、スチレン;α‐メチルスチレン;オルソ‐、メタ‐およびパラ‐メチルスチレン;ビニルトルエン;パラ‐(tert‐ブチル)スチレン;メトキシスチレン;クロロスチレン;ビニルメシチレン;ジビニルベンゼン、ビニルナフタレン、およびC9留分(または、より一般的には、C8〜C10留分)に由来する任意のビニル芳香族モノマーが、芳香族モノマーとして適している。好ましくは、ビニル芳香族モノマーは、スチレンまたはC9留分(または、より一般的には、C8〜C10留分)に由来するビニル芳香族モノマーである。好ましくは、ビニル芳香族モノマーは、当該コポリマー中では、モル画分として表したとき少量モノマーである。
【0054】
特に好ましい実施態様によれば、上記可塑化用炭化水素樹脂は、シクロペンタジエン(CPDと略記する)またはジシクロペンタジエン(DCPDと略記する)のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペン/フェノールのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C5留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C9留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、およびこれらの樹脂の混合物からなる群から選ばれる;これらの炭化水素樹脂は、単独で或いは液体可塑剤、例えば、MESまたはTDAEオイルと組合せて使用し得る。
【0055】
用語“テルペン”は、この場合、知られている通り、α‐ピネンモノマー、β‐ピネンモノマーおよびリモネンモノマーを包含する;好ましくは、リモネンモノマーを使用する;この化合物は、知られている通り、3種の可能性ある異性体の形で存在する:L‐リモネン(左旋性鏡像体)、D-リモネン(右旋性鏡像体)或いはジペンテン、即ち、右旋性鏡像体および左旋性鏡像体のラセミ体。上記可塑化炭化水素樹脂のうちでは、α‐ピネン、β‐ピネンまたはジペンテンのホモ‐またはコポリマー樹脂或いはポリリモネン樹脂が挙げられる。
【0056】
上記の好ましい樹脂は、当業者にとって周知であり、また、商業的に入手可能であり、例えば、下記に関しては市販されている:
・ポリリモネン樹脂:DRT社から品名“Dercolyte L120”(Mn=625g/モル;Mw=1010g/モル;PI=1.6;Tg=72℃)として、またはArizona Chemical Company社から品名“Sylvagum TR7125C”(Mn=630g/モル;Mw=950g/モル;PI=1.5;Tg=70℃)として;
・C5留分/ビニル芳香族コポリマー樹脂、特に、C5留分/スチレンまたはC5留分/C9留分コポリマー樹脂:Neville Chemical Company社から品名“Super Nevtac 78”、“Super Nevtac 85”または“Super Nevtac 99”として、Goodyear Chemicals社から品名“Wingtack Extra”として、Kolon社から品名“Hikorez T1095”および“Hikorez T1100”として、またはExxon社から品名“Escorez 2101”および“ECR 373”として;
・リモネン/スチレンコポリマー樹脂:DRT社から品名“Dercolyte TS 105”として、またはArizona Chemical Company社から品名“ZT115LT”および“ZT5100”として。
【0057】
また、他の好ましい樹脂の例としては、フェノール変性α‐メチルスチレン樹脂がある。これらのフェノール変性樹脂を特性決定するためには、“ヒドロキシル価”(規格ISO 4326に従って測定し、mg KOH/gで表す)と称する数値を使用することを思い起すべきである。α‐メチルスチレン樹脂、特に、フェノールで変性した樹脂は、当業者にとって周知であり、また、商業的に入手可能であり、例えば、Arizona Chemical Company社から、品名“Sylvares SA 100”(Mn=660g/モル;PI=1.5;Tg=53℃);“Sylvares SA 120”(Mn=1030g/モル;PI=1.9;Tg=64℃);“Sylvares 540”(Mn=620g/モル;PI=1.3;Tg=36℃;ヒドロキシル価=56mg KOH/g);および“Sylvares 600”(Mn=850g/モル;PI=1.4;Tg=50℃;ヒドロキシル価=31mg KOH/g)として販売されている。
【0058】
本発明のもう1つの好ましい実施態様によれば、上記可塑剤は、“低Tg”可塑剤と称する20℃で液体である、即ち、定義によれば、−20℃よりも低い、好ましくは−40℃よりも低いTgを示す可塑剤である。
芳香族性または非芳香族性いずれかの増量剤オイル、即ち、ジエンエラストマーに対するその可塑化特性について知られている任意の液体可塑剤を使用し得る。特に適しているのは、ナフテン系オイル(特に、水素化ナフテン系オイル)、パラフィン系オイル、MESオイル、TDAEオイル、エステルまたはエーテル可塑剤、ホスフェートおよびスルホネート可塑剤、並びにこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる液体可塑剤である。
特に、エステル可塑剤のうちでは、ホスフェート、トリメリテート、ピロメリテート、フタレート、1,2‐シクロヘキサンジカルボキシレート、アジペート、アゼレート、セバケート、グリセリントリエステル、およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる化合物を使用し得る。
【0059】
II.5. ゴム組成物の製造
本発明のタイヤのトレッドにおいて使用する組成物は、適切なミキサー内で、例えば、当業者にとって周知の2つの連続する製造段階、即ち、110℃と190℃の間、好ましくは130℃と180℃の間の最高温度までの高温で熱機械的に加工または混練する第1段階(“非生産”段階と称する)、並びに、その後の典型的には110℃よりも低い、例えば、40℃と100℃の間の低めの温度で機械加工する第2段階(“生産”段階と称する)を使用して製造し、この仕上げ段階において架橋系を混入する。
【0060】
そのような組成物の製造方法は、例えば、下記の段階を含む:
・ジエンエラストマー中に、第1段階(“非生産”段階)において、少なくとも1種の補強用充填剤および10phrよりも多い水素化TPSエラストマーを混入し、全てを、110℃と190℃の間の最高温度に達するまで熱機械的に混練する段階(例えば、1回以上の工程で);
・混ぜ合せた混合物を100℃よりも低い温度に冷却する段階;
・その後、第2段階(“生産”段階)において、架橋系を混入する段階;
・全てを110℃よりも低い最高温度まで混練する段階。
【0061】
例えば、上記非生産段階は、1回の熱機械的段階で実施し、その間に、最初の工程において、全ての必須ベース成分(ジエンエラストマー、10phrよりも多い水素化TPSエラストマー、補強用充填剤)を標準の密閉ミキサーのような適切なミキサー内に導入し、その後、例えば1〜2分間混練した後の第2の工程において、架橋系を除いた他の添加剤、必要に応じてのさらなる充填剤被覆剤または加工助剤を導入する。この非生産段階における総混練時間は、好ましくは、1分と15分の間である。
そのようにして得られた混合物を冷却した後、架橋系を、低温(例えば、40℃と100℃の間の温度)に維持した開放ミルのような開放ミキサー内で混入する。その後、混ぜ合せた混合物を、数分間、例えば、2分と15分の間の時間混合する(生産段階)。
【0062】
適切な架橋系は、好ましくは、イオウと、一次加硫促進剤、特に、スルフェンアミドタイプの促進剤とをベースとする。この加硫系に、各種既知の加硫活性化剤または二次加硫促進剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、グアニジン誘導体(特にジフェニルグアニジン)等を添加し、上記第1非生産段階中および/または上記生産段階中に混入する。イオウ含有量は、好ましくは、0.5phrと3.0phrの間の量であり、また、一次促進剤の含有量は、好ましくは、0.5phrと5.0phrの間の量である。
【0063】
(一次または二次)促進剤としては、イオウの存在下にジエンエラストマーの加硫促進剤として作用し得る任意の化合物、特に、チアゾールタイプの促進剤およびその誘導体、チウラムおよびジチオカルバミン酸亜鉛タイプの促進剤を使用することができる。これらの促進剤は、さらに好ましくは、2‐メルカプトベンゾチアジルジスルフィド(“MBTS”と略記する)、N‐シクロヘキシル‐2‐ベンゾチアゾールスルフェンアミド(“CBS”と略記する)、N,N‐ジシクロヘキシル‐2‐ベンゾチアゾールスルフェンアミド(“DCBS”と略記する)、N‐tert‐ブチル‐2‐ベンゾチアゾールスルフェンアミド(“TBBS”と略記する)、N‐tert‐ブチル‐2‐ベンゾチアゾールスルフェンイミド(“TBSI”と略記する)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(“ZBEC”と略記する)およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる。好ましくは、スルフェンアミドタイプの一次促進剤を使用する。
【0064】
その後、そのようにして得られた最終組成物を、例えば、特に実験室での特性決定のためのシートまたはプラークの形にカレンダー加工するか、或いは、押出加工して、例えば、トレッドを製造するのに使用するゴム形状要素を形成させる。
本発明は、生状態(即ち、硬化前)および硬化状態(即ち、架橋または加硫後)双方の上述したタイヤに関する。
【0065】
III. 本発明の典型的な実施態様
III‐1. 組成物の製造
以下の試験の手順は、次の通りである:ジエンエラストマー、水素化TPSエラストマー、補強用充填剤(シリカおよび/またはカーボンブラック)および加硫系を除く各種他の成分を、出発容器温度がほぼ60℃である密閉ミキサーに連続して導入する(最終充填度:約70容量%)。その後、熱機械加工(非生産段階)を、165℃の最高“落下”温度に達するまで、全体でおよそ3〜4分間継続する1工程で実施する。
【0066】
そのようにして得られた混合物を回収し、冷却し、次いで、イオウとスルフェンアミドタイプの促進剤とを30℃のミキサー(ホモフィッシャー)内で混入し、全てを適切な時間(例えば、5分と12分の間の時間)混合する(生産段階)。
そのようにして得られた組成物を、その物理的または機械的性質を測定するためのゴムのプラーク(2〜3mmの厚さ)または微細シートの形にカレンダー加工するか、或いはトレッド形状に押出加工する。
【0067】
III‐2. 試験
以下の試験は、本発明に従うタイヤのトレッドの改良、即ち、グリップ性を損なうことなく転がり抵抗性を低下させたことを、対照トレッドと比較して実証する。
そのために、トレッド用の2通りのゴム組成物、即ち、本発明に従う組成物(以下C.2で示す)と本発明に従わない組成物(対照、以下C.1で示す)を上述したようにして製造した。
これらの組成物の配合(phr、即ち、総エラストマー(即ち、水素化TPSエラストマーを含む)の100質量部当りの質量部での)は、下記の表1に示している。
【0068】
組成物C.1は、SBRとBRをベースとし、乗用車用のグリーンタイヤトレッドの製造において通常使用される当業者にとっての参照組成物である。
組成物C.2は、SBRおよびBRと、水素化TPSエラストマーとをベースとする。従って、この組成物C.2は、対照組成物C.1と、20phrのSBRを20phrの水素化TPSエラストマーで置換えたことにおいてのみ異なる。
組成物C.1およびC.2は、双方とも、炭化水素系樹脂(ポリリモネン樹脂)と液体可塑剤(MESオイル)の混合物を含む可塑剤を含む。
【0069】
硬化(加硫)前後の各組成物の性質は、下記の表2に要約している。
先ずは第1に、組成物C.2は、対照組成物C.1のムーニー粘度値よりも実質的に低いムーニー粘度値を示しており、生状態における組成物の加工性の改良を証明していることに注目されたい。
さらにまた、組成物C.1およびC.2は、硬化後、剛性(ショア硬度)と、10%歪みおよび100%歪みでのモジュラスとにおいて等価の性質示していることにも注目されたい。
【0070】
最後に、本発明に従うタイヤの組成物C.2は、下記の値も示していることに注目されたい:
一方の、対照組成物C.1の湿潤グリップポテンシャルと同等の湿潤グリップポテンシャルを例証している対照組成物C.1のtan(δ)0℃値と同等のtan(δ)0℃値;
他方の、特に、当業者にとっては材料のヒステリシスの、ひいてはタイヤの転がり抵抗性の低下と同義である対照組成物C.1のtan(δ)40℃値よりも低いtan(δ)40℃値。
【0071】
要するに、スチレン/ブタジエンコポリマーまたはポリブタジエンのようなジエンエラストマーと推奨する含有量での水素化TPSエラストマーとの組合せ使用は、一方では生状態の組成物の粘度を低下させそれによって組成物の加工性を増進させることを、他方では、湿潤グリップ性を損なうことなく、タイヤ用のトレッドとして使用するこれらの組成物の転がり抵抗性を低下させることを可能にしている。
【0072】
表1

(1) SSBR溶液(乾燥SBRとして表した含有量:25%のスチレン、58%の1,2‐ポリブタジエン単位および22%のトランス‐1,4‐ポリブタジエン単位) (Tg = −21℃);
(2) 4.3%の1,2‐、2.7%のトランス‐1,4‐、93%のシス‐1,4‐を含むBR (Tg = −106℃);
(3) 水素化TPS、Kuraray社からの“Hybrar 7311”;
(4) シリカ (Rhodia社からの“Zeosil 1165 MP”);
(5) カップリング剤、TESTP (Degussa社からの“Si69”);
(6) カーボンブラック N234;
(7) MESオイル(Shell社からの“Catenex SNR”)とポリリモネン樹脂 (DRT社からの“Dercolyte L120”)の混合物;
(8) N‐(1,3‐ジメチルブチル)‐N‐フェニル‐パラ‐フェニレンジアミン (Flexsys社からのSantoflex 6‐PPD)
(9) DPG = ジフェニルグアニジン (Flexsys社からの“Perkacit DPG”);
(10) 酸化亜鉛 (工業級;Umicore社);
(11) ステアリン(stearine) (Uniquema社からの“Pristerene”);
(12) N‐シクロヘキシル‐2‐ベンゾチアゾールスルフェンアミド (Flexsys社からのSantocure CBS)。
【0073】
表2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドが、少なくとも1種のジエンエラストマー、少なくとも1種の補強用充填剤および10phrよりも多い水素化スチレン熱可塑性(“TPS”)エラストマーを含むゴム組成物を含むことを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記ジエンエラストマーが、ポリブタジエン(BR)、合成ポリイソプレン(IR)、天然ゴム(NR)、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選ばれる、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
水素化TPSエラストマーの含有量が、15phrよりも多い、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
水素化TPSエラストマーの含有量が、16phrと50phrの間の量である、請求項3記載のタイヤ。
【請求項5】
前記水素化TPSエラストマーが、スチレンブロックとジエンブロックとを含む不飽和TPSコポリマーに由来する、請求項1〜4のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項6】
前記ジエンブロックが、イソプレンブロックまたはブタジエンブロックである、請求項5記載のタイヤ。
【請求項7】
前記不飽和TPSコポリマーが、スチレン/ブタジエン(SB)、スチレン/イソプレン(SI)、スチレン/ブタジエン/ブチレン(SBB)、スチレン/ブタジエン/イソプレン(SBI)、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレン(SBBS)、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)およびスチレン/ブタジエン/イソプレン/スチレン(SBIS)の各ブロックコポリマー、並びにこれらのコポリマーの混合物からなる群から選ばれる、請求項6記載のタイヤ。
【請求項8】
前記ゴム組成物が、可塑剤をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項9】
可塑剤の含有量が、5phrと50phrの間の量である、請求項8記載のタイヤ。
【請求項10】
前記可塑剤が、ガラス転移温度(Tg)が0℃よりも高い熱可塑性炭化水素樹脂である、請求項8または9記載のタイヤ。
【請求項11】
前記熱可塑性炭化水素樹脂が、シクロペンタジエン(CPDと略記する)またはジシクロペンタジエン(DCPDと略記する)のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペン/フェノールのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C5留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C9留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、およびこれらの樹脂の混合物からなる群から選ばれる、請求項10記載のタイヤ。
【請求項12】
前記可塑剤が、20℃で液体であり、−20℃よりも低いガラス転移温度(Tg)を有する、請求項8または9記載のタイヤ。
【請求項13】
前記液体可塑剤が、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、MESオイル、TDAEオイル、エステル可塑剤、エーテル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、請求項12記載のタイヤ。
【請求項14】
前記ゴム組成物が、請求項10または11記載の炭化水素樹脂と、請求項12または13記載の液体可塑剤を含む、請求項8または9記載のタイヤ。
【請求項15】
前記補強用充填剤が、カーボンブラック、シリカ、またはカーボンブラックとシリカの混合物を含む、請求項1〜14のいずれか1項記載のタイヤ。

【公表番号】特表2013−510939(P2013−510939A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539286(P2012−539286)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067468
【国際公開番号】WO2011/061145
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(512068547)コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン (169)
【出願人】(508032479)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (499)
【Fターム(参考)】