説明

トレッド用ゴム組成物およびそれを用いたトレッドを有する空気入りタイヤ

【課題】地球に優しく、将来の石油の供給量の減少に備え、石油資源由来の原材料を主成分とするトレッド用ゴム組成物およびそれを用いたトレッドを有する空気入りタイヤと比較しても、さらに、ドライグリップ性能に優れたトレッド用ゴム組成物およびそれを用いたトレッドを有する空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に対して、生分解性プラスチックを0.5〜15重量部含有するトレッド用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド用ゴム組成物およびそれを用いたトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤのトレッド用ゴム組成物には、優れたゴム強度(破断強度、破断時伸びなど)を示す天然ゴム(NR)に加えて、グリップ性能を改善するためにスチレンブタジエンゴム(SBR)や石油系レジンなどを配合し、さらに、耐候性および補強性を改善するためにカーボンブラックが使用されてきた。
【0003】
しかし、近年、環境問題が重視されるようになり、CO2排出の規制が強化され、さらに、石油資源は有限であり、供給量が年々減少していることから、将来的に石油価格の高騰が予測され、SBRやカーボンブラックなどの石油資源由来の原材料の使用には限界がみられる。そのため、将来石油が枯渇した場合を想定し、NR、シリカ、炭酸カルシウムなどのような石油外資源を主成分とするトレッド用ゴム組成物が検討されている。
【0004】
特許文献1には、所定の石油外資源を用いたトレッド用ゴム組成物を用いたトレッドを有することで、タイヤ中の石油外資源比率を上昇させ、従来のタイヤと比較しても遜色ない特性を有するエコタイヤが開示されているが、石油資源を主成分とするトレッド用ゴム組成物を有するタイヤと比較して、ドライグリップ性能を向上させるものではなく、いまだ改善の余地がある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−63206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、地球に優しく、将来の石油の供給量の減少に備え、石油資源由来の原材料を主成分とするトレッド用ゴム組成物およびそれを用いたトレッドを有する空気入りタイヤと比較しても、さらに、ドライグリップ性能に優れたトレッド用ゴム組成物およびそれを用いたトレッドを有する空気入りタイヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ジエン系ゴム100重量部に対して、生分解性プラスチックを0.5〜15重量部含むトレッド用ゴム組成物に関する。
【0008】
前記生分解性プラスチックは、ポリヒドロキシブチレート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、酢酸セルロースおよびキトサン/セルロース/デンプン・複合材からなる群から選ばれる少なくとも1種の生分解性プラスチックであることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、前記トレッド用ゴム組成物を用いたトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ジエン系ゴムに生分解性プラスチックを所定量含有することにより、地球環境に配慮し、将来の石油の供給量の減少に備えることができ、石油資源を主成分とするトレッド用ゴム組成物およびそれを用いたトレッドを有する空気入りタイヤと比較しても、さらに、ドライグリップ性能を向上させたトレッド用ゴム組成物およびそれを用いたトレッドを有する空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴムおよび生分解性プラスチックを含有する。
【0012】
前記ジエン系ゴムとしては、特に制限はなく、たとえば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)など、通常タイヤ工業に用いられるものがあげられるが、グリップ性能、転がり抵抗および耐摩耗性をバランスよく向上させることができるという理由から、NR、ENR、BRおよびSBRからなる群から選ばれる少なくとも1種のゴムが好ましい。
【0013】
SBRの結合スチレン量は、10重量%以上が好ましく、15重量%以上がより好ましい。SBRの結合スチレン量が10重量%未満では、グリップ性能が低下する傾向がある。また、SBRの結合スチレン量は、50重量%以下が好ましく、45重量%以下がより好ましい。SBRの結合スチレン量が50重量%をこえると、硬度が過度に上昇し、グリップ性能が低下する傾向がある。
【0014】
SBRを含有する場合、ジエン系ゴム中のSBRの含有率は、30重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることがより好ましく、50重量%以上であることがさらに好ましい。SBRの含有率が30重量%未満であると、グリップ性能が低下する傾向がある。また、SBRの含有率は90重量%以下であることが好ましく、80重量%以下であることがより好ましい。SBRの含有率が90重量%をこえると、耐摩耗性が悪化する傾向がある。
【0015】
BRとしては、従来タイヤ工業で使用される一般的なものを使用することができる。
【0016】
BRを含有する場合、ジエン系ゴム中のBRの含有率は10重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましい。BRの含有率が10重量%未満であると、耐摩耗性が悪化する傾向がある。また、BRの含有率は、70重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましく、50重量%以下であることがさらに好ましい。BRの含有率が60重量%をこえると、グリップ性能が低下する傾向がある。
【0017】
NRとしては、TSR20、RSS♯3などのゴム工業において一般的に使用されているものでよい。
【0018】
NRを含有する場合、NRの含有率は、10重量%以上であることが好ましく、15重量%以上であることがより好ましい。NRの含有率が、10重量%未満であると、耐摩耗性の悪化、低温脆化温度が高くなる傾向がある。また、NRの含有率は、70重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましい。NRの含有率が、70重量%をこえると、グリップ性能が低下する傾向がある。
【0019】
また、ENRとしては、市販のENRを用いてもよいし、NRをエポキシ化して用いてもよい。NRをエポキシ化する方法としては、とくに限定されるものではないが、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法などの方法を用いて行うことができる。過酸法としてはたとえば、NRに過酢酸や過蟻酸などの有機過酸を反応させる方法などがあげられる。
【0020】
ENRのエポキシ化率は、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましい。ENRのエポキシ化率が、5モル%未満であると、ゴム組成物に対する改質効果が小さい傾向がある。また、ENRのエポキシ化率は、80モル%以下であることが好ましく、60モル%以下であることがより好ましい。ENRのエポキシ化率が、80モル%をこえると、ポリマー成分がゲル化する傾向がある。
【0021】
ENRを含有する場合、ENRの含有率は、10重量%以上であることが好ましく、15重量%以上であることがより好ましい。ENRの含有率が、10重量%未満であると、耐摩耗性能が低下する傾向がある。また、ENRの含有率は、70重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましい。ENRの含有率が、70重量%をこえると、グリップ性能が低下する傾向がある。
【0022】
前記生分解性プラスチックは、使用状態では従来のプラスチックと同等の機能を有し、使用後に廃棄されたときは土中や海水中の微生物により分解され、最終的に水と二酸化炭素になるプラスチックのことをいい、とくに限定されるわけではないが、ポリヒドロキシブチレート(三菱ガス化学(株)製のビオグリーンなど)、ポリ乳酸(Cargill−Dow製のNatureWorks、(株)島津製作所製のラクティー、三井化学(株)製のレイシアなど)、ポリカプロラクトン(ダイセル化学工業(株)製のセルグリーン、UCC製のTONEなど)、ポリブチレンサクシネート(昭和高分子(株)製のビオノーレ、三菱ガス化学(株)製のユーペック、(株)日本触媒製のルナーレSE、DuPont製のBiomax、BASF製のEcoflexなど)、ポリビニルアルコール((株)クラレ製のポパール、日本合成化学工業(株)製のゴーセノール、アイセロ化学(株)製のドロンVAなど)、ヤシの殻入りコンパウンド((株)サンコーワイズ製のワイズパーム)、酢酸セルロース(ダイセル化学工業(株)製のセルグリーンPCA、Planet P製のLunareZT、帝人(株)製のセルロースアセテートなど)、キトサン/セルロース/デンプン・複合材(アイセロ化学(株)製のドロンCCなど)などがあげられる。なかでも、加工性およびゴム成分中への分散性を向上させることができるという理由から、ポリヒドロキシブチレートおよび/またはポリ乳酸が好ましく、ポリヒドロキシブチレートまたはポリ乳酸がより好ましい。
【0023】
生分解性プラスチックの含有量は、ジエン系ゴム100重量部に対して、0.5重量部以上、好ましくは2重量部以上である。生分解性プラスチックの含有量が0.5重量部未満であると、ドライグリップ性能の改善効果を得ることができない。また、生分解性プラスチックの含有量は15重量部以下、好ましくは10重量部以下である。生分解性プラスチックの含有量が15重量部をこえると加工性が悪化する。
【0024】
本発明のトレッド用ゴム組成物には、さらに、シリカ、カーボンブラックなどの補強剤を含有することができる。
【0025】
シリカとしては、とくに制限はなく、湿式法または乾式法により調製されたものを用いることができる。
【0026】
シリカのBET比表面積は(BET)は50m2/g以上であることが好ましく、80m2/g以上であることがより好ましい。シリカのBET比表面積が50m2/g未満では、シリカを含有することによる補強効果が得られにくい傾向がある。また、シリカのBET比表面積は300m2/g以下であることが好ましく、250m2/g以下であることがより好ましい。シリカのBET比表面積が300m2/gをこえると、シリカの分散性が低下し、さらに、加工性が著しく低下する傾向がある。
【0027】
シリカを含有する場合、シリカの含有量は、ジエン系ゴム100重量部に対して、10重量部以上であることが好ましく、20重量部以上であることがより好ましい。シリカの含有量が10重量部未満では、グリップ性能および転がり抵抗の両立をともに向上させにくい傾向がある。また、シリカの含有量は100重量部以下であることが好ましく、80重量部以下であることがより好ましい。シリカの含有量が100重量部をこえると、ムーニー中の粘度が著しく増大し、加工性が低下する傾向がある。
【0028】
シリカを含有する場合、シリカとともにシランカップリング剤を併用することができる。
【0029】
シランカップリング剤としては特に制限はなく、従来タイヤ工業においてシリカと併用して用いられるものとすることができ、たとえば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ポリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ポリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ポリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ポリスルフィドなどがあげられ、これらのシランカップリング剤は1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0030】
シリカおよびシランカップリング剤を含有する場合、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100重量部に対して、1重量部以上であることが好ましく、3重量部以上であることがより好ましい。シランカップリング剤の含有量が1重量部未満であると、シランカップリング剤を含有することによる耐摩耗性の改善効果が低下する傾向がある。また、シランカップリング剤の含有量は、20重量部以下であることが好ましく、15重量部以下であることがより好ましい。シランカップリング剤の含有量が20重量部をこえると、耐摩耗性の改善効果が減少し、高コストになる傾向がある。
【0031】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、70m2/g以上であることが好ましく、90m2/g以上であることがより好ましい。カーボンブラックのN2SAが70m2/g未満では、充分な補強効果が得られない傾向がある。また、カーボンブラックのN2SAは、250m2/g以下であることが好ましく、200m2/g以下であることがより好ましい。カーボンブラックのN2SAが250m2/gをこえると、ムーニー粘度が増大し、加工性が著しく低下する傾向がある。
【0032】
カーボンブラックを含有する場合、カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100重量部に対して、5重量部以上であることが好ましく、10重量部以上であることがより好ましい。カーボンブラックの含有量が15重量部未満であると、グリップ性能および耐摩耗性が低下し、する傾向がある。また、カーボンブラックの含有量は、120重量部以下であることが好ましく、100重量部以下であることがより好ましい。カーボンブラックの含有量が100重量部をこえると、分散性および加工性が著しく低下する傾向がある。
【0033】
本発明のトレッド用ゴム組成物には、さらに、アロマオイルなどの可塑剤、老化防止剤、硫黄および加硫促進剤を含有することができる。
【0034】
本発明のトレッド用ゴム組成物には、前記ジエン系ゴム、生分解性プラスチック、および充填剤以外にも、従来よりタイヤ工業で使用される配合剤、たとえば、可塑剤、老化防止剤、硫黄、加硫促進剤、酸化亜鉛、ステアリン酸などを、必要に応じて適宜配合することができる。
【0035】
本発明のトレッド用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤは、通常の方法で製造することができる。すなわち、必要に応じて前記配合剤を配合した本発明のトレッド用ゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのトレッドの形状にあわせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形し、他のタイヤ部材とともに貼りあわせることにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより本発明の空気入りタイヤを得る。
【0036】
このように、本発明のトレッド用ゴム組成物を用いて本発明の空気入りタイヤを製造することで、本発明の空気入りタイヤを地球に優しく、将来の石油の供給量の減少に備えることができるエコタイヤとすることができる。
【実施例】
【0037】
実施例にもとづいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0038】
つぎに、実施例および比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
スチレンブタジエンゴム(SBR):日本ゼオン(株)製のN9520(結合スチレン量:35.0重量%)
ブタジエンゴム(BR):宇部興産(株)製のBR150B
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックSA(N2SA:137m2/g)
シリカ:デグッサ社製のウルトラシールVN3(BET:175m2/g)
アロマオイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−140
生分解性プラスチック(1):三菱ガス化学(株)製のビオグリーン(ポリヒドロキシブチレート)
生分解性プラスチック(2):三井化学(株)製のレイシア(ポリ乳酸)
ステアリン酸:日本油脂(株)製
亜鉛華:三井金属鉱業(株)製
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6c(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
硫黄:鶴見化学工業(株)製
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0039】
実施例1〜6および比較例1〜2
表1に示す配合処方にしたがい、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を、16Lバンバリーミキサーを用いて、ゴム排出温度150℃でベース練りをし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に、硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、70℃の条件下で5分間混練りし、未加硫ゴム組成物を得た。さらに、得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに貼りあわせ170℃の条件下で15分間プレス加硫し、実施例1〜6および比較例1〜2の空気入りタイヤを得た。
【0040】
(加工性)
オープンロールにおける混練り工程にて、ロールに対する未加硫ゴム組成物の巻きつきなどを目視にて評価した。
【0041】
(硬度)
製造したタイヤのトレッドゴムから所定のサイズの試験片を切りとり、JIS K 6253「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」に準じてスプリング式タイプAにて室温での硬度を測定した。
【0042】
(ドライグリップ性能)
製造した空気入りタイヤを試験用の車に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースにて60〜140km/hの速度でハンドルを切ったときの操縦安定性をテストドライバーが評価した。
【0043】
前記試験の評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対して、生分解性プラスチックを0.5〜15重量部含むトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
生分解性プラスチックは、ポリヒドロキシブチレート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、酢酸セルロースおよびキトサン/セルロース/デンプン・複合材からなる群から選ばれる少なくとも1種の生分解性プラスチックである請求項1記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のトレッド用ゴム組成物を用いたトレッドを有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2007−224253(P2007−224253A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50342(P2006−50342)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】