説明

トンネルの湧水処理方法および湧水処理構造

【課題】排水型トンネルにおいて、比較的簡易な構造により地山側からの湧水を広範囲にわたって集水し、坑外へ速やかに排出することができるトンネルの湧水処理方法および湧水処理構造を提供する。
【解決手段】山岳トンネル工法等によるトンネル1の全断面掘削後、トンネル掘削面1aの全周に吹付けコンクリート(一次覆工)2を施工し、トンネル底部のインバート部における吹付けコンクリート2の上の中央位置に中央排水管(中央排水工)3をトンネル軸方向に沿って設置し、吹付けコンクリート2の内面に全周にわたって防水シート(全面防水工)4を敷設し、中央排水管3は全面防水シート4の下に位置するようにし、地山側からの湧水を全面防水シート4により一次覆工2を介して中央排水管3に導水し、中央排水管3から坑外へ排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル、あるいは地下空洞、余裕深度処分・TRU(超ウラン元素)廃棄物などの放射性廃棄物処分施設における湧水処理方法および湧水処理構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現行のトンネルの湧水処理方法は、坑内の漏水を防止するために、一般的に、一次覆工(吹付けコンクリート)の内面と二次覆工の背面との間に、防水工として防水シートを敷設し、二次覆工背面の湧水を集水して、インバート部の横断排水管を介してトンネル軸方向に沿う中央排水工に導水し、中央排水工を通して自然流下により坑外に排出する排出型を採用している。湧水を速やかに排水することで、二次覆工背面の水圧を低減させて、二次覆工のひび割れ発生を防止している。
【0003】
また、本発明に関連する先行技術文献として特許文献1〜10がある。特許文献1の発明は、一次覆工と二次覆工との間に防水シート等の防水層を介在させたトンネル止水構造において、防水層と二次覆工とを互いに接着したものである。特許文献2の発明は、導水材が直接貼り付けられたトンネル掘削内壁面に吹付けコンクリート層を形成したものである。特許文献3の発明は、一次覆工コンクリートに張設される不透水性シートと透水性シートを積層してなる防水シートに裏面排水材を取付けたものである。特許文献4の発明は、一次覆工コンクリートの内面に防水シートを敷設し、この防水シートの内面側に二次覆工コンクリートを打設し、この打設時に排気注入ホースによりウォーターバリアのリブ間のエアを抜き、注入材充填孔により二次覆工コンクリートと防水シートとの間の隙間に注入材を充填するものである。
【0004】
特許文献5の発明は、シールドトンネルの一次覆工であるセグメントの内面を合成樹脂により被覆し、合成樹脂とセグメントとの間にストリング状のドレーン材を設けたものである。特許文献6の発明は、一次覆工と止水シートとの間に設けられる排水用部材であり、目の細かい不織布が目の荒い立体状編物の片面側にニードルパンチで一体化されたものである。引用文献7の発明は、シールドトンネルのセグメント継ぎ手目地の内表面に帯状の導水材を張り付けて連続導水路を形成し、この一次覆工内表面に樹脂吹付層を塗布施工するものである。特許文献8の発明は、トンネル内壁面に吹付けコンクリートにより一次覆工を形成し、その内面に繊維材料を含むと透水性コンクリートを吹付けて透水層を形成し、その内面に防水材料を吹付けて遮水層を積層形成するものである。特許文献9の発明は、トンネルの一次覆工の表面に設けられた防水シートの下部に折り返し状の流末処理用シートを取付け、これにジョイントボックスを取付け、このボックスに横断排水材を連結したものである。特許文献10の発明は、通水層と不透水層を有するシートを地山に展張し、通水層に冷却水を通しながら覆工コンクリートを形成するものである。
【特許文献1】特開2004−183338号公報
【特許文献2】特開2003−262097号公報
【特許文献3】特開2002−129898号公報
【特許文献4】特開2000−337096号公報
【特許文献5】特開平11−173093号公報
【特許文献6】特開平10−196296号公報
【特許文献7】特開平9−72197号公報
【特許文献8】特開平9−4393号公報
【特許文献9】特開平7−189597号公報
【特許文献10】特開平5−195696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来の排水型トンネルの場合、中央排水工をインバートの下部に設置すると、地山を傷めて、将来、地下水によるインバートや覆工の背面の洗掘による空洞化や周辺地山の不安定化を生じる恐れがある。また下面からの湧水による膨圧時に中央排水工が破損する可能性がある。
【0006】
また、従来の排水型トンネルの場合、中央排水工をインバートの上部に設置すると、下面からの湧水を排水することが困難である。そのため、インバート下面に大きな水圧が外力として加わり、覆工やインバートのひび割れの発生原因となり、トンネル本体へ悪影響を及ぼす可能性がある。
【0007】
本発明は、このような課題を解決すべくなされたもので、その目的は、排水型トンネルにおいて、比較的簡易な構造により地山側からの湧水を広範囲にわたって集水し、坑外へ速やかに排出することができるトンネルの湧水処理方法および湧水処理構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る発明は、トンネル掘削後の地山側からの湧水を坑外へ排出するトンネルの湧水処理方法であり、トンネル全断面掘削後にトンネル掘削面の全周に一次覆工(吹付けコンクリート等)を施工し、トンネル底部における一次覆工の上に中央排水工(中央排水管など)を設置し、一次覆工の内面に全周にわたって全面防水工(防水シート等)を敷設し、中央排水工は全面防水工の下に位置するようにし、地山側からの湧水を全面防水工により一次覆工を介して中央排水工に導水し、中央排水工から坑外へ排出することを特徴とするトンネルの湧水処理方法である。トンネル底部の中央排水工および防水工は下部埋め戻し工で覆うのが好ましい。必要に応じて、下部埋め戻し工より上の部分の防水工は二次覆工で覆う。
【0009】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載のトンネルの湧水処理方法において、中央排水工は、多数の孔が穿設された有孔管(ヒューム管や高密度ポリエチレン管など)と、この有孔管の周囲に配置される砕石と、この砕石を包含する吸出し防止材から構成されていることを特徴とするトンネルの湧水処理方法である。
【0010】
本発明の請求項3に係る発明は、トンネル掘削後の地山側からの湧水を坑外へ排出するためのトンネルの湧水処理構造であり、トンネル掘削面の全周に施工される一次覆工(吹付けコンクリート等)と、トンネル底部における一次覆工の上に設置される中央排水工(中央排水管など)と、一次覆工の内面に全周にわたって敷設され、中央排水工がその下に配置される全面防水工(防水シート等)と、トンネル底部における防水工の上に施工される下部埋め戻し工(埋め戻し材やコンクリートなど)から構成されていることを特徴とするトンネルの湧水処理構造である。必要に応じて、下部埋め戻し工より上の部分の防水工は二次覆工で覆う。
【0011】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項3に記載のトンネルの湧水処理構造において、中央排水工は、多数の孔が穿設された有孔管(ヒューム管や高密度ポリエチレン管など)と、この有孔管の周囲に配置される砕石と、この砕石を包含する吸出し防止材から構成されていることを特徴とするトンネルの湧水処理構造である。
【0012】
本発明において、トンネルには、地下空洞、余裕深度処分埋設施設・TRU廃棄物処分施設などの放射性廃棄物処分施設の処分坑道などを含むものであり、この場合、二次覆工を施工しない場合も考えられる。 以上のような本発明において、従来の中央排水工をインバートの下部に設置する場合に対して、インバート部の一次覆工の上に中央排水工を設置することで、地山を傷める心配が無くなり、将来の地下水によるインバートや覆工の背面の洗掘による空洞化や周辺地山の不安定化を防止することができる。また、下面からの湧水による膨圧時に中央排水工が破損する可能性も無くなる。
【0013】
従来の中央排水工をインバートの上部に設置する場合に対して、防水工を全周にわたって中央排水工を覆うように設置することで、下面からの湧水を一次覆工(吹付けコンクリート)を介して中央排水工に導水して排水することができ、インバート下面に大きな水圧が外力として加わり、覆工やインバートにひび割れが発生するのを防止することができる。また、横断排水管を省略することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、次のような効果が得られる。
(1) トンネル底部の一次覆工の上に中央排水工を設置し、一次覆工の内面に全周にわたって中央排水工を覆うように全面防水工を施工するようにしたため、地山側からの湧水を全面防水工により一次覆工を介して中央排水工に導水し、中央排水工から坑外へ排出することができ、地山を傷めることが無く、湧水による膨圧により中央排水工が破損することもなく、また広範囲にわたって湧水を集水することが可能となり、空洞へかかる水圧を低減させて覆工やインバートのひび割れの発生を防ぐことができ、トンネルや施設の安全性や品質の向上につながる。
(2) 中央排水工と全面防水工とからなる比較的簡易な構造であり、従来の横断排水管を省略することができ、作業性の向上やコストの低減等を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を図示する実施の形態に基づいて説明する。この実施形態は、余裕深度処分埋設施設の処分坑道の湧水処理に適用したものである。図1、図2は、本発明の湧水処理構造の一例を示す断面図、部分拡大断面図である。
【0016】
図1に示すように、山岳トンネル工法等によるトンネル1の全断面掘削後、トンネル掘削面1aの全周に吹付けコンクリート(一次覆工)2を施工し、トンネル底部のインバート部における吹付けコンクリート2の上の中央位置に中央排水管(中央排水工)3をトンネル軸方向に沿って設置し、吹付けコンクリート2の内面に全周にわたって全面防水シート(全面防水工)4を敷設し、中央排水管3は全面防水シート4の下に位置するようにする。
【0017】
防水シート4は、通常用いられる土木工事用シートであり、緩衝材と一体型のものを用いる。中央排水管3は、掘削後の湧水量から断面を決定し(例えば径300mm程度)、ヒューム管や高密度ポリエチレン管等からなる有孔管を用いる。この中央排水管3の周囲には砕石5を配置して有孔管の目詰まりを防止し、この砕石5は吸出し防止材6で包含し、土砂等の吸出しを防止する。
【0018】
中央排水管3および防水シート4の施工後、下部埋め戻し材によるインバート部7を施工し、インバート部以外の防水シート4の内面に二次覆工コンクリート8を打設する。地下空洞、余裕深度処分埋設施設・TRU廃棄物処分施設などの放射性廃棄物処分施設の場合、坑内は埋め戻されるため、二次覆工を施工しない場合も考えられる。従来の横断排水管は省略することができる。
【0019】
以上のように、一次覆工2の内面と二次覆工8の背面と間に防水シート4を全周にわたって敷設することで、二次覆工背面および下面からの広い範囲の湧水を集水して、中央排水管3を通して自然流下によって速やかに坑外へ排出することができる。
【0020】
インバート部の一次覆工2の上に中央排水管3を設置することで、地山を傷める心配が無くなり、将来の地下水によるインバートや覆工の背面の洗掘による空洞化や周辺地山の不安定化を防止することができる。また、下面からの湧水による膨圧時に中央排水管3が破損する可能性も無くなる。
【0021】
防水シート4を全周にわたって中央排水管3を覆うように設置することで、下面からの湧水を一次覆工(吹付けコンクリート)2を介して中央排水管3に導水して排水することができ、インバート下面に大きな水圧が外力として加わり、覆工やインバートにひび割れが発生するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るトンネルの湧水処理構造の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1のインバート部における部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1…トンネル
1a…トンネル掘削面
2…吹付けコンクリート(一次覆工)
3…中央排水管(中央排水工)
4…全面防水シート(全面防水工)
5…砕石
6…吸出し防止材
7…下部埋め戻し材によるインバート部
8…二次覆工コンクリート(二次覆工)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル掘削後の地山側からの湧水を坑外へ排出するトンネルの湧水処理方法であり、トンネル全断面掘削後にトンネル掘削面の全周に一次覆工を施工し、トンネル底部における一次覆工の上に中央排水工を設置し、一次覆工の内面に全周にわたって全面防水工を敷設し、中央排水工は全面防水工の下に位置するようにし、地山側からの湧水を全面防水工により一次覆工を介して中央排水工に導水し、中央排水工から坑外へ排出することを特徴とするトンネルの湧水処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のトンネルの湧水処理方法において、中央排水工は、多数の孔が穿設された有孔管と、この有孔管の周囲に配置される砕石と、この砕石を包含する吸出し防止材から構成されていることを特徴とするトンネルの湧水処理方法。
【請求項3】
トンネル掘削後の地山側からの湧水を坑外へ排出するためのトンネルの湧水処理構造であり、トンネル掘削面の全周に施工される一次覆工と、トンネル底部における一次覆工の上に設置される中央排水工と、一次覆工の内面に全周にわたって敷設され、中央排水工がその下に配置される全面防水工と、トンネル底部における防水工の上に施工される下部埋め戻し工から構成されていることを特徴とするトンネルの湧水処理構造。
【請求項4】
請求項3に記載のトンネルの湧水処理構造において、中央排水工は、多数の孔が穿設された有孔管と、この有孔管の周囲に配置される砕石と、この砕石を包含する吸出し防止材から構成されていることを特徴とするトンネルの湧水処理構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−200141(P2006−200141A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10422(P2005−10422)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】