説明

トンネル掘進機の解体方法

【課題】 従来の解体方法で要した作業坑工事を無くして、工期短縮、工費縮減が図れるTBMの解体方法を提供する。
【解決手段】 岩盤内の本坑到達点まで掘進完了したTBM10を、到達点から前方に向けて掘進させて漸拡部2を設ける。次いで、漸拡部2に連なる解体坑上半すり付け部範囲を掘進させ、TBM10掘進後に建て込まれた支保部分から漸拡部2と解体坑1の上半すり付け部とを切り拡げ掘削する。TBM10を上半支保工の建て込み間隔に等しい1掘進長分だけ掘進させる作業と、その後方で1掘進長の範囲の解体坑1の上半部分を掘削して上半支保工を建て込む掘削作業とを、解体坑1のほぼ全長に達するまで繰り返す。上半支保工が建て込まれた解体坑1の下半外形とTBM10の掘進により設けられた支保部分との間の下半部分を掘削するとともに、解体坑断面の上半部分の支保工を支持する。解体坑1の全断面が掘削完了後にTBM10を解体して撤去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘進機の解体方法に係り、特に、トンネルボーリングマシーンを岩盤中の到達地点において、短い工期で解体することで、工程短縮や工事費の縮減を図ることのできるトンネル掘進機の解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルでは、岩盤内等を掘削するために、様々な合理的な山岳トンネル工法が開発されてきている。さらに近年では、強力な掘進機構を有し、高速掘進が可能なトンネルボーリングマシーン(以下、TBMと記す。)も、硬質岩盤内の大断面の道路トンネルの先進導坑や避難坑、水路トンネル等に適用されてきている。
【0003】
TBMは起点側の組立ヤードで組み立て、その後坑口付けの後、推進反力が確保できる地点から本格的なトンネル掘進が行われ、終点側には解体のための作業ヤードが設けられる。しかし、終点側がたとえば急峻な崖地形であるような場合には、作業ヤードを設けることができない。また、TBM到達点がトンネル全長の中間位置の場合、工区境が地山(岩盤)内となる場合もある。これらの場合には、いずれもトンネル坑内でTBMを解体する必要がある。
【0004】
ところで、トンネル掘進機の解体作業方法としては、特許文献1に示したように、到達立坑に到達したシールド掘進機を大きな部材単位に解体し、各部材を到達立坑の地上部に設置されたクレーン等の揚重機を用いて地上に吊り出す方法がとられることが多い。
【0005】
特許文献1に開示された解体方法等は、土被りが小さい都市トンネル等におけるシールド機のようなトンネル掘進機の場合には、大変有効な方法であるが、TBM等で掘進する山岳トンネルでは、土被りが大きく、機材搬出用の立坑等の掘削も困難な場合が多く、またTBMはシールド掘進機に比べ、剛性が大きな重量部材で構成されているため、解体時に掘進機内部から簡単に解体できない。
【0006】
このため、坑内でTBMの解体が必要な場合には、トンネル内にTBM解体のための十分な作業空間を確保して、TBMの内外から解体作業を行う必要がある。たとえば、従来は、φ5m程度の規模のTBMを解体するためには、到達地点の進行方向側に、TBMの本体設備を含む長さ(たとえば25m程度)を有し、TBMの外周に1〜2m程度の作業空間を確保した断面の解体坑を掘削し、その解体坑内でTBM解体を行い、解体部材をトンネル外に搬出することが多い。
【0007】
図3は、従来のTBM解体坑を掘削してTBM解体を行う解体工法の一例を示した説明図(平面図、断面図)である。図3の平面図には、TBM10で掘削完了した本坑10と、本坑50の到達点に停止した状態のTBM10と、到達点切羽の奥方に掘削されたTBM10の解体坑55と、解体坑55を掘削するための作業坑51(迂回坑)とが示されている。また、同図には各掘削段階でのトンネル断面形状(掘削段階S1〜S6(断面図))が併せて示されている。
【0008】
以下、上述した解体坑を掘削して行うTBMの解体方法について、図3の平面図、断面図、及び図4のフローチャートを参照して説明する。
図3に示したTBM10は例えば胴殻外径がφ5mであり、TBM10で掘進してきた本坑50には円形支保工(図示せず)が建て込まれている。図示したように、TBM10は到達点で停止し、搬土装置、支保工組立機構等の本体設備と後続設備とは撤去された状態にある(図4:S510,520)。この状態から、TBM10停止位置の後方の本坑50から斜めに分岐するような方向に向けて作業坑(迂回坑)を掘削する(断面S1参照、図4:S530)。この作業坑51は在来トンネル工法にて掘削し、本坑50と所定の支保に悪影響が及ばないだけの離隔を確保した状態で、本坑50と平行に掘削し、その後、本坑50側に向きを変え、本坑50のTBM10到達点の先に到達後、本坑50の軸線上を奥方に向かって解体坑55の全長分が掘削される。その際、断面S4位置から断面S5までの間に拡大断面53にすり付け可能なように、所定掘進量で底盤高さが2m程度上昇する上り勾配の作業坑54となる。その後、作業坑54の上半を解体坑55の上半にすり付けるための漸拡部56の上半掘削を行う(断面S5〜S6、図4:S540)。その後、解体坑55の上半掘削(断面S5〜S6、図4:S541)を奥方に向かって進めるとともに、断面S4までの作業坑54の上半を解体坑55の断面まで拡幅掘削する。その後、作業坑54底盤より下の解体坑55の下半を掘削し、最終的に、図3の平面図中、S3位置から切羽57までの間に解体坑55を完成する(図4:S542,543)。その後、厚さ1m程度で壁状に自立させておいたTBM10の前面岩盤58を撤去してTBM10のカッタヘッドを解体坑55側に露出させる(図4:S550)。並行して解体坑55内には作業坑51を経由して、TBM10の解体作業用の各種の仮設備を搬入、設置しておく(図4:S560)。そしてTBM10を解体坑55内の作業用架台(図示せず)上に引き込み、TBM10を搬出可能なサイズの部材ごとに解体し、本坑50を通じて坑外に搬出する(図4:S570)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−188391公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した解体坑55は、小型の施工機械を用いた人力作業により、本坑50に沿って迂回する作業坑51を掘削し、さらにTBM10の到達地点の先の岩盤内に拡幅して構築するため、解体空間としての大断面のTBM解体坑を掘削しなければならない。上述したような手順でTBM解体坑を構築して、TBM解体を行うと、上述の規模程度のTBMの場合にはTBM到達後からTBMの解体・搬出までの工期に約4.5ヶ月を要する。この工程(期間)は本工事の進捗に寄与しないものであるため、TBM解体作業に係わる工事の工期短縮と工費縮減が強く求められている。
【0011】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、工期短縮、工事費の縮減を図ることのできるようにした合理的なトンネル掘進機の解体方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は岩盤内の本坑到達点まで掘進完了したトンネルボーリングマシーンを、前記到達点から前方に向けて、さらに該トンネルボーリングマシーンの解体作業に必要な断面と長さとが確保された掘削予定の解体坑上半にすり付けるための漸拡部範囲と、前記漸拡部に連なる前記解体坑上半すり付け部範囲にわたり掘進させ、前記トンネルボーリングマシーン掘進後に建て込まれた支保部分から前記漸拡部と前記解体坑上半すり付け部とを切り拡げ掘削する解体坑すり付け部掘削工程と、前記トンネルボーリングマシーンを前記上半支保工の建て込み間隔に等しい1掘進長分だけ掘進させる作業と、その掘進長区間の後方で前記掘進長に応じた範囲の前記解体坑断面の上半部分を掘削して上半支保工を建て込む掘削作業とを、前記解体坑のほぼ全長に達するまで繰り返す解体坑掘進・上半掘削工程と、前記上半支保工が建て込まれた解体坑の下半外形と前記トンネルボーリングマシーンの掘進により設けられた支保部分との間の下半部分を掘削するとともに、前記解体坑断面の上半部分の支保工を支持する下半支保工を建て込む解体坑下半掘削工程と、前記解体坑の全断面が掘削完了後に前記トンネルボーリングマシーンを解体して撤去する工程とを備えたことを特徴とする。
【0013】
また、前記解体坑掘進・上半掘削工程と解体坑下半掘削工程の作業進行に合わせて前記トンネルボーリングマシーンの設備の一部を撤去する工程を有することが好ましい。
【0014】
さらに、前記解体坑掘進・上半掘削工程後に、前記トンネルボーリングマシーンの前面と解体坑切羽面との間の掘削を行う工程を有することが好ましい。
【0015】
加えて、前記解体坑下半掘削工程の作業完了後に前記トンネルボーリングマシーンを解体、撤去する仮設備を前記解体坑内に設ける工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上に述べたように、本発明によれば、従来、作業坑を設けて掘削したTBM解体坑を、TBM掘進部を利用して掘削することにより、工期短縮や工事費の縮減を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のトンネル掘進機の解体方法の一実施例の施工手順及び施工状態を示した模式説明図。
【図2】図1に示した解体方法の施工手順を示したフローチャート。
【図3】従来のトンネル掘進機の解体方法の一施工例を示した模式説明図。
【図4】図3に示した解体方法の施工手順を示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、以下の実施例について添付図面を参照して説明する。
【実施例】
【0019】
図1(a)は、本坑を到達点までTBM10で掘進し、さらにTBM解体坑のためのTBM10の掘進開始状態を、図1(b)は、TBM10の掘進と人力掘削によって全体が構築された解体坑の完成状態を示した模式斜視図、図1(c)はTBM解体坑の拡幅掘削順序を示したTBM解体坑の横断面図である。なお、図中、TBM10は外形線図で簡略図示されている。
【0020】
以下、図1(a)〜図1(b)までの一連のTBM解体坑の拡幅掘削順序について、図1各図及び図2の施工順序フローチャートを参照して説明する。図1(a)には外径φ5mのTBM10によって本坑50を到達点まで掘進し、TBM解体坑のための漸拡部を掘進し、さらに1掘進長の支保工組立が完了した状態における各掘削段のレベルと掘削順序とが示されている。同図には、まずTBM10の到達点から約4.5mの漸拡部2と拡幅断面部到達後、1掘進長分の支保工組立分が確保するとともに、TBM解体坑の断面拡幅による影響を受けない範囲まで、TBM10本体を奥方に掘進させておき、拡径断面部1掘進長分と後方の支保作業が示されている。図1(a)に示した掘削手順としては、まずTBM解体坑の入り口部に相当する漸拡部分(長さ約4.5m)のTBM掘進を行い、その範囲の上部岩盤を図1(c)に示したように、人力掘削により、断面を漸拡し、解体坑1の上半断面にすり付けるように漸拡部2の上半掘削を行う(図2:S110,120)。その4.5mの範囲では掘削の進行に伴い、1.5m間隔で上半アーチ支保工3を建て込み、漸拡部2の掘削空間の安定を図る。
【0021】
さらに、図1(a)のように、TBM10の掘進を1掘削長分先行させ、その後方から続けて解体坑1の上半掘削(図1(c))を行う。この上半掘削は、解体坑1の上半4のアーチ中央部4aとTBM10掘進時に建て込まれた円形支保工15との間を扇形状に掘削する上半第1掘削工程と、それより下側の上半盤4bとの間の段部4cを掘削する上半第2掘削工程とに分けて行う。
【0022】
以後、図1(b)に示したTBM解体坑1の全長のうち、TBM掘進部の上半掘削は、TBM10の1掘進長の進行と、上半第1掘削工程と上半第2掘削工程とを交互に掘削するミニベンチ形式とし、上半掘削、支保工3の建て込みとを1サイクルとしてTBM10の1掘進長を基準とした掘削方式とする(図2:S130,140)。この上半掘削作業はTBM10本体の後部に設けられた作業床11を使って進めることができ、掘削ズリはTBM10の後続設備としてのベルトコンベア等の搬土設備12を利用して本坑50を通じて坑外に搬出することができる。
【0023】
図1(b)に示したTBM解体坑1全体のうちのTBM掘進部の上半掘削が完了したら、カッターヘッド10a前面の上半鏡掘削4e(本実施例において、カッタヘッド前面10と切羽5との距離は約2m)を人力施工する(図2:S150)。掘削後の切羽5は崩落防止のため、吹付コンクリートあるいは支保工、鏡止めボルト等による切羽防護を行うことが好ましい。
【0024】
TBM解体坑1の全長のうち、TBM10による掘進が完了した段階で、後続設備(図示せず)を撤去する(図2:S160)。
【0025】
以後、図1(c)に示したように、TBM解体坑1の断面のうち、TBM掘進部に建て込まれた円形支保工15の側面部(解体坑下半6)の掘削を行う。解体坑1の下半掘削は、解体坑下半全高さを二分(6a,6b)し、下半第1掘削工程と、下半第2掘削工程とに分けた施工を行う。これらの工程は、1掘削長のミニベンチ形式で、TBM掘進部の円形支保工15の側部支保工15bと解体坑1の側壁との間を交互施工に掘削する(図2:S141)。その際、解体坑側壁支保工7は、解体坑上半アーチ支保工3の脚部を支持するように連続して建て込み、TBM掘進部の側部支保工15bは掘削の進行に合わせて順次撤去していく。なお、解体坑1掘削は底盤インバート8を掘削して完了する。
【0026】
TBM掘進部の先端位置にはTBM10本体が残置されているので、既に掘削された解体坑1の切羽5側と側面からの掘削により、TBM10本体を安定支持させた状態で、その周囲の岩盤を取り除いてTBM10の胴殻および後続する本体設備、仮設設備のすべてを、掘削空間内に露出させる。その後、TBM10本体の解体に必要な設備として、TBM10本体の周囲に、図示しない解体足場、揚重機、搬出設備等を設置する(図2:S170)。解体足場を利用して解体坑内に残置され、全体が坑内に露出した状態のTBM10本体を解体する。TBM10の駆動設備、搬土設備12等のTBM10の本体設備13を撤去する。本体設備13はTBM解体坑1から本坑50を通じて搬出される。解体ブロックは揚重機能力等を考慮して行うが、設計段階で解体しやすいブロックを想定した部材設計を行うことも好ましい。
【0027】
以上のTBM掘進部施工開始からTBM解体撤去までの全体工程は、約3ヶ月となり、従来の解体方法に比べて2/3に短縮でき、工費比較においても、従来の解体方法で要した作業坑(迂回坑)の工費分に相当する工費縮減が図れ、工費は約60%を縮減できることが試算された。工期短縮、工費縮減は、TBMの規模にも依るが、同様の効果が得られることが期待できる。
【符号の説明】
【0028】
1 TBM解体坑
2 漸拡部
3 上半アーチ支保工
4 解体坑上半
5 切羽
6 解体坑下半
10 TBM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩盤内の本坑到達点まで掘進完了したトンネルボーリングマシーンを、前記到達点から前方に向けて、さらに該トンネルボーリングマシーンの解体作業に必要な断面と長さとが確保された掘削予定の解体坑上半にすり付けるための漸拡部の範囲と、該漸拡部に連なる前記解体坑上半すり付け部範囲にわたり掘進させ、前記トンネルボーリングマシーン掘進後に建て込まれた支保部分から前記漸拡部と前記解体坑上半すり付け部とを切り拡げ掘削する解体坑すり付け部掘削工程と、
前記トンネルボーリングマシーンを前記上半支保工の建て込み間隔に等しい1掘進長分だけ掘進させる作業と、その後方で前記1掘進長の範囲の前記解体坑断面の上半部分を掘削して上半支保工を建て込む掘削作業とを、前記解体坑のほぼ全長に達するまで繰り返す解体坑掘進・上半掘削工程と、
前記上半支保工が建て込まれた解体坑の下半外形と前記トンネルボーリングマシーンの掘進により設けられた支保部分との間の下半部分を掘削するとともに、前記解体坑断面の上半部分の支保工を支持する下半支保工を建て込む解体坑下半掘削工程と、
前記解体坑の全断面が掘削完了後に前記トンネルボーリングマシーンを解体して撤去する工程とを備えたことを特徴とするトンネル掘進機の解体方法。
【請求項2】
前記解体坑掘進・上半掘削工程と解体坑下半掘削工程の作業進行に合わせて前記トンネルボーリングマシーンの設備の一部を撤去する工程を有する請求項1に記載のトンネル掘進機の解体方法。
【請求項3】
前記解体坑掘進・上半掘削工程後に、前記トンネルボーリングマシーンの前面と解体坑切羽面との間の掘削を行う工程を有する請求項1に記載のトンネル掘進機の解体方法。
【請求項4】
前記解体坑下半掘削工程の作業完了後に前記トンネルボーリングマシーンを解体、撤去する仮設備を前記解体坑内に設ける工程を有する請求項1に記載のトンネル掘進機の解体方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate