説明

トーショナルダンパ

【課題】複数のダンパ部3,4を備えるトーショナルダンパにおいて、ハブ1の正面側に配置されたダンパ部における弾性体の放熱性を高める。
【解決手段】
ハブ1と、このハブ1に固定され、その正面側を内周側へ延びるフランジ部24を有する金属環2と、ハブ1の外周側に配置された第一のダンパ部3と、ハブ1の正面側に配置された第二の環状質量体41及びこれを前記フランジ部24に弾性的に連結する第二の弾性体42からなる第二のダンパ部4とを備え、前記フランジ部24にリブ24aを形成したものである。この構成において、金属環2のフランジ部24に、第二の弾性体42から伝導された熱は、フランジ部24の放熱面積を増大させると共に、接触する空気を回転によって撹拌するリブ24aによって、効率良く放熱される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内燃機関のクランク軸等の回転軸に、捩り振動を吸収するために装着されるトーショナルダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の内燃機関のクランク軸の軸端に取り付けられて、このクランク軸に回転に伴って生じる捩り振動(回転方向の振動)を吸収するトーショナルダンパの典型的な従来技術が、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2002−70948号公報
【0003】
図5は、特許文献1に記載の従来のトーショナルダンパを、軸心Oを通る平面で切断して示す片側断面図である。このトーショナルダンパは、二組のダンパ部を備える、いわゆるデュアルマス型のものであって、外周にリム部101を有するハブ100と、前記リム部101の外周面に嵌着されたスリーブ部111及び前記ハブ100の正面側(図5における左側)を内周へ延びるフランジ部112を有する金属環110と、前記スリーブ部111の外周側に配置された第一の環状質量体121及びこの第一の環状質量体121を前記スリーブ部111に連結する第一の弾性体122からなる第一のダンパ部120と、ハブ100の正面側に配置された第二の環状質量体131及びこの第二の環状質量体131を前記フランジ部112に連結する第二の弾性体132からなる第二のダンパ部130とを備え、金属環110におけるスリーブ部111とフランジ部112との間の段差部113に、第二のダンパ部130の外周側に位置する所要数の通気孔113aが開設されたものである。
【0004】
この種のトーショナルダンパにおいて、第一及び第二の弾性体122,132は、運動エネルギを熱エネルギに変換することによって捩り振動を吸収・減衰するものであり、言い換えれば第一及び第二の弾性体122,132は、反復変形を受けるのに伴う内部摩擦によって発熱する。そして一般に、デュアルマス型のトーショナルダンパは、ハブ100の正面側に配置された第二のダンパ部130の周囲で空気の流れが悪いため、このような熱を効率よく放出しないと、第二の弾性体132が熱の蓄積により劣化して、所要の性能を得られなくなるおそれがある。そこで図5に示されるトーショナルダンパは、回転時における金属環110の通気孔113aの遠心ポンプ作用によって、第二のダンパ部130の背面側に、図中に太い矢印Fで示されるような空気の流れを惹起し、第二のダンパ部130からの放熱性を高めたものである。
【0005】
しかしながら、上記従来技術によれば、空気の流れFが第二のダンパ部130とハブ100の間の狭い隙間を迂回するものであるため、流量が少なく、空冷効果が十分ではなかった。
【0006】
また、金属環110は金属板のプレス成形品であるため、クランク軸の軸方向振動がハブ100を介して伝達されると、フランジ部112が軸方向に共振して騒音を放射するおそれがあり、第二のダンパ部130の動的吸振動作の際にも、前記フランジ部112に軸方向の振動を生じやすかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、複数のダンパ部を備えるトーショナルダンパにおいて、ハブの正面側に配置されたダンパ部における弾性体の放熱性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係るトーショナルダンパは、ハブと、このハブに固定され、その正面側を内周側へ延びるフランジ部を有する金属環と、前記ハブの正面側に配置された環状質量体及びこの環状質量体を前記フランジ部に弾性的に連結する弾性体からなるダンパ部とを備え、前記フランジ部にリブを形成したものである。この構成において、金属環のフランジ部には、これに連結された弾性体に発生する熱が伝導される。そして、このフランジ部に形成したリブは、フランジ部の放熱面積を増大させると共に、接触する空気を回転によって撹拌する作用及びフランジ部の剛性を増大させる作用を奏する。
【0009】
請求項2の発明に係るトーショナルダンパは、請求項1に記載された構成において、フランジ部に形成されたリブが、回転によって外周側へのポンプ力を生じるスパイラル状又は放射状に延びることを特徴とする。そして、このような方向性を与えることによって、放熱性を向上させるのに有効な顕著な空気の流れが惹起される。
【0010】
請求項3の発明に係るトーショナルダンパは、請求項1又は2に記載された構成において、金属環のスリーブ部とフランジ部との間の軸方向部に、ダンパ部の外周側に位置する所要数の通気孔が開設されたものである。この通気孔は、回転時に、ダンパ部の周囲に空気の流れを惹起するポンプ作用を生じるものであるため、フランジ部に形成されたリブとの協働によって、放熱性を向上させるのに有効な、一層顕著な空気の流れが惹起される。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明に係るトーショナルダンパによれば、金属環のフランジ部に形成したリブが、このフランジ部の放熱面積を増大させると共に、空気を回転によって撹拌するため、ハブの正面側に配置されたダンパ部の弾性体に、熱負荷による亀裂や破損が生じるのを防止して、トーショナルダンパの耐久性を向上させることができる。しかも、前記リブによって前記フランジ部の剛性が増大すると共に、このフランジ部からの騒音の発生が有効に防止される。
【0012】
請求項2の発明に係るトーショナルダンパによれば、フランジ部に形成されたリブが、回転によって外周側への顕著な空気の流れを生じるので、放熱性が一層向上する。
【0013】
請求項3の発明に係るトーショナルダンパによれば、回転によってポンプ作用を生じる通気孔と、フランジ部に形成されたリブとの協働によって、放熱性が一層向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明に係るトーショナルダンパの好適な第一の形態を、その軸心Oを通る平面で切断して示す片側断面図、図2は、部分正面図である。なお、以下の説明において「正面側」とは、図1における左側であって車両のフロント側のことであり、「背面側」とは図1における右側であって不図示の内燃機関が存在する側のことである。
【0015】
この形態によるトーショナルダンパは、デュアルマス型のものであって、すなわちハブ1と、このハブ1のリム部12に固定された金属環2と、前記リム部12の外周側に設けられた第一のダンパ部3と、ハブ1の正面側に位置する第二のダンパ部4とを備える。なお、第二のダンパ部4は、請求項1に記載されたダンパ部に相当する。
【0016】
詳しくは、ハブ1は、径方向部11と、その外周に形成された円筒状のリム部12とを有し、径方向部11の内周の軸孔1aにおいて内燃機関のクランク軸の軸端に挿通され、不図示のボルトによって固定される。このハブ1は、径方向部11に円周方向所定間隔で開口部11aが開設されたスケルトン形になっており、これによって軽量化及び通気性が図られている。
【0017】
金属環2は、金属板のプレス成形品であって、ハブ1のリム部12の外周面に嵌着されたスリーブ部21と、前記リム部12の正面側の端部から内周側へ屈曲した径方向段差部22と、この径方向段差部22の内径から正面側へ延びる軸方向段差部23と、更にこの軸方向段差部23の正面側の端部から、ハブ1の径方向部11の正面側を内周側へ向けて延びるフランジ部24とを有する。
【0018】
第一のダンパ部3は、金属環2におけるスリーブ部21の外周側に配置された第一の環状質量体31と、この第一の環状質量体31を前記スリーブ部21に連結する第一の弾性体32からなる。第一の環状質量体31の外周面には、補機等へ回転力を伝達するための無端ベルトが巻き掛けられるポリV溝31aが形成されている。第一の弾性体32は、ゴム状弾性材料で環状に加硫成形されると同時に前記第一の環状質量体31及びスリーブ部21に加硫接着されたものである。
【0019】
第二のダンパ部4は、ハブ1におけるリム部12の内周側かつ径方向部11の正面側に配置された第二の環状質量体41と、この第二の環状質量体41を金属環2におけるフランジ部24に連結する第二の弾性体42からなる。第二の弾性体42は、ゴム状弾性材料で環状に加硫成形されると同時に前記第二の環状質量体41及びフランジ部24に加硫接着されたものである。なお、第二の環状質量体41は、請求項1に記載された環状質量体に相当し、第二の弾性体42は、請求項1に記載された弾性体に相当する。
【0020】
金属環2におけるスリーブ部21とフランジ部24との間の軸方向段差部23は、第二のダンパ部4における第二の弾性体42の外周側に位置しており、この軸方向段差部23には、円周方向所定間隔で複数(図示の例では60°間隔で六個)の通気孔23aが径方向に開設されている。この通気孔23aは、円周方向へ細長く延びる長孔状に形成されており、回転時に、遠心力によって空気を内周側から外周側へ送り出すポンプ作用を生じるものである。
【0021】
金属環2におけるフランジ部24には、多数のリブ24aが形成されている。このリブ24aは、金属環2のプレス成形によって屈曲形成されたものであって、図2に示されるように、回転によって外周側への遠心ポンプ力を生じるスパイラル状に形成されている。すなわち、このトーショナルダンパは、図2における反時計方向へ回転するものであり、各リブ24aは反時計方向へ向けて内周へ収束するように延びている。
【0022】
第一のダンパ部3は、第一の弾性体32と金属環2のスリーブ部21及び第一の環状質量体31との接着面が半径方向を向いているため、ハブ1に対して主に捩り方向への自由度を有する。また、第二のダンパ部4は、第二の弾性体42と金属環2のフランジ部24及び第二の環状質量体41との接着面が軸方向を向いているため、ハブ1に対して主に捩り方向及び径方向への自由度を有する。
【0023】
第一の環状質量体31と第二の環状質量体41の円周方向の慣性質量が異なり、第一の弾性体32と第二の弾性体42の円周方向剪断ばね定数が異なるため、第一の環状質量体31及び第一の弾性体32からなる第一のダンパ部3と、第二の環状質量体41及び第二の弾性体42からなる第二のダンパ部4は、捩り方向共振周波数が互いに異なるものとなっている。この共振周波数は、例えばクランク軸に生じる捩り振動の振幅が極大となる周波数域に同調される。
【0024】
第一のダンパ部3と第二のダンパ部4は、金属環2を介して一体の加硫成形品を構成しているため、このトーショナルダンパの製造においては、成形用金型内で第一の環状質量体31、金属環2及び第二の環状質量体41をセットして、第一の弾性体32及び第二の弾性体42を同時に加硫成形(加硫接着)することができる。成形された加硫成形品は、その金属環2におけるスリーブ部21を、ハブ1のリム部12の外周面に適当な締め代をもって圧入嵌合することによって、図1のように組み立てられる。このため、1回の嵌合工程によって、第一のダンパ部3及び第二のダンパ部4がハブ1に取り付けられる。そして、前記圧入嵌合工程においては、前記リム部12における正面側の端部と、金属環2の径方向段差部22との干渉によって軸方向への圧入量が規定され、位置決めされる。
【0025】
また、金属環2のスリーブ部21は、リム部12の外周面への圧入によって拡径変形を受けるので、第一の弾性体32には径方向の予圧縮が与えられる。この予圧縮は、加硫成形後の第一の弾性体32に体積収縮によって生じる残留引張応力を解消するので、その繰り返し変形に対する耐久性が向上する。
【0026】
上述の構成を備えるトーショナルダンパは、内燃機関のクランク軸と一体に回転され、第一のダンパ部3又は第二のダンパ部4が、それぞれ所定の周波数域で動的吸振作用を発揮するものである。詳しくは、クランク軸と共に一定方向(図2における反時計方向)へ回転しながら、ハブ1を介して入力されるクランク軸の捩り振動が極大となる所定周波数域では、前記第一のダンパ部3又は第二のダンパ部4が、入力振動と異なる位相角をもって共振し、すなわちその共振運動によるトルクは入力振動のトルクを相殺する方向へ生じるため、クランク軸の捩り振動のピークが有効に低減される。
【0027】
第一のダンパ部3と第二のダンパ部4は、捩り方向共振周波数が互いに異なるため、広い回転数域で優れた制振機能を発揮することができる。また、第二のダンパ部4は、半径方向(軸直角方向)の振動に対しても所定の周波数域で共振するため、軸直角方向に対する制振性能も発揮することができる。
【0028】
ここで、第二のダンパ部4における第二の弾性体42に、共振による反復変形に伴って発生した熱の一部は、この第二の弾性体42が接着された金属環2のフランジ部24に伝熱され、前記熱の他の一部は、第二の環状質量体41に伝熱される。
【0029】
そして、金属環2のフランジ部24にスパイラル状に形成された多数のリブ24aは、その正面に接する空気を、回転によって外周側へ送り出す遠心ポンプ作用を有するので、フランジ部24の正面近傍では、図1に太矢印Fで示されるような、外周側へ向かう顕著な空気流が形成される。しかも、リブ24aによって、空気に対するフランジ部24の接触面積(放熱面積)が大きくなっているので、フランジ部24に伝導された第二の弾性体42の熱は、空気流Fによって効率良く除去される。
【0030】
一方、ハブ1と第二のダンパ部4との間の空間に存在する空気は、ハブ1及び第二のダンパ部4との摩擦によって回転するので、遠心力を受けて、金属環2の軸方向段差部23に開設された各通気孔23aから外周側へ放出される。このため、第二のダンパ部4の背面側には、図1に太矢印Fで示されるような空気流を生じる。したがって、第二の弾性体42から第二の環状質量体41に伝導された熱は、上述の空気流Fによって除去される。
【0031】
更に、リブ24aによって、フランジ部24の正面に惹起される空気流Fは、ベルヌーイの定理によって、空気流Fを増大させるので、その協働作用によって、放熱性が一層向上する。したがって、第二の弾性体42における熱の蓄積が防止され、熱負荷によって第二の弾性体42に亀裂を生じたり、破損するのを有効に防止することができ、また、この弾性体42の材質の劣化による捩り振動低減機能の低下を有効に防止することができる。
【0032】
また、金属環2は金属板のプレス成形品であるが、リブ24aによってフランジ部24の厚さ方向(軸方向)の曲げに対する剛性が大きくなっており、しかもこの剛性増大によってフランジ部24の共振周波数が高周波域へ移動するため、クランク軸の軸方向振動がハブ1を介して伝達されたり、あるいは第二のダンパ部4の動的吸振動作によって、フランジ部24が軸方向に共振して騒音を放射するのを有効に防止することができる。
【0033】
次に図3は、本発明に係るトーショナルダンパの好適な第二の形態を、その軸心Oを通る平面で切断して示す片側断面図、図4は、部分正面図である。この形態によるトーショナルダンパは、基本的には図1と同様の構造を備えるデュアルマス型のダンパであって、図1と異なるところは、金属環2のフランジ部24に形成されたリブ24aの形状にある。
【0034】
すなわち、この第二の形態において、リブ24aは軸心Oを中心とする放射状に形成されており、言い換えれば各リブ24aは半径方向へ延びている。
【0035】
したがって、この構成においても、第一の形態と同様、金属環2のフランジ部24に放射状に形成された多数のリブ24aが、その正面に接する空気を、回転によって外周側へ送り出す遠心ポンプ作用を有するので、フランジ部24の正面近傍では、図3に太矢印Fで示されるような、外周側へ向かう顕著な空気流が形成され、リブ24aによって、フランジ部24の放熱面積も大きくなるので、通気孔23aによって第二のダンパ部4の背面側に生じる空気流Fとの協働によって、第二の弾性体42の熱を効率良く除去することができる。
【0036】
また、リブ24aが半径方向へ延びていることによって、フランジ部24の厚さ方向(軸方向)の曲げに対する剛性が一層大きくなると共に、その共振周波数が高周波域へ移動するため、フランジ部24からの騒音の放射を一層有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るトーショナルダンパの第一の形態を、その軸心Oを通る平面で切断して示す片側断面図である。
【図2】本発明に係るトーショナルダンパの第一の形態を示す部分正面図である。
【図3】本発明に係るトーショナルダンパの第二の形態を、その軸心Oを通る平面で切断して示す片側断面図である。
【図4】本発明に係るトーショナルダンパの第二の形態を示す部分正面図である。
【図5】従来のトーショナルダンパを、軸心Oを通る平面で切断して示す片側断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ハブ
11 径方向部
11a 開口部
12 リム部
2 金属環
21 スリーブ部
22 径方向段差部
23 軸方向段差部
23a 通気孔
24 フランジ部
24a リブ
3 第一のダンパ部
31 第一の環状質量体
32 第一の弾性体
4 第二のダンパ部(ダンパ部)
41 第二の環状質量体(環状質量体)
42 第二の弾性体(弾性体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブ(1)と、このハブ(1)に固定され、その正面側を内周側へ延びるフランジ部(24)を有する金属環(2)と、前記ハブ(1)の正面側に配置された環状質量体(41)及びこの環状質量体(41)を前記フランジ部(24)に弾性的に連結する弾性体(42)からなるダンパ部(4)とを備え、前記フランジ部(24)にリブ(24a)を形成したことを特徴とするトーショナルダンパ。
【請求項2】
リブ(24a)が、回転によって外周側へのポンプ力を生じるスパイラル状又は放射状に延びることを特徴とする請求項1に記載のトーショナルダンパ。
【請求項3】
金属環(2)のスリーブ部(21)とフランジ部(24)との間の軸方向部(23)に、ダンパ部(4)の外周側に位置する所要数の通気孔(23a)が開設されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のトーショナルダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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