説明

ドラム式洗濯機

【課題】洗濯物の量が少ない場合においても、繊維中の汚れを洗濯水とともに除去して洗浄効果を高める。
【解決手段】ドラム3を回転駆動するモーター7と、ドラム3内に投入された洗濯物の量を検知する布量検知手段(図示せず)と、モーター7の駆動を制御する制御手段24とを備え、制御手段24は、洗濯物を洗う工程において、ドラム3内で洗濯物がタンブリング可能な低速回転と、洗濯物がドラム3の内周面に張り付く高速回転とに切り替えるとともに、布量検知手段(図示せず)で検知した洗濯物の量が少ないときは、高速回転時の回転数が高くなるように設定したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類等の洗濯物を洗うドラム式洗濯機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のドラム式洗濯機は、洗濯物を投入したドラムを低速で正逆回転させ、洗濯物をドラム内で持ち上げて落下させる動作を繰り返しおこない、洗濯水で濡れた洗濯物がドラムの回転によってドラムの上部から落下する際の衝撃によって汚れを落とす、所謂たたき洗いによって洗濯するものである。
【0003】
洗濯物の量が多い場合は、ドラム内に投入された洗濯物を均一に濡らすことが困難なことから、洗いムラが発生する。また、洗濯物の嵩が増えることでドラム内での落下距離が減少しタンブリング効果が低下して洗浄性能が低下するという問題があった。そこで、このような課題に対し、洗い工程において、洗濯物がドラム内で落下するタンブリング可能な低速でドラムを回転させることによるたたき洗いと、洗濯物がドラム内で張り付く高速でドラムを回転させることによる遠心力によって、しぼり洗いを行うことが考えられており、洗濯物の量に応じてしぼり洗い時にドラムの回転数を可変することが考えられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図7は、特許文献1に記載された従来のドラム式洗濯機の断面図である。図7に示すように、筐体51内に配設された受筒52内に有底筒状のドラム53が正逆回転可能に設けられている。受筒52の下部にモーター54が取り付けてあり、モーター54の駆動軸に取り付けられたモータープーリー55が回転し、駆動ベルト56を介してドラム53の回転軸に取り付けられた駆動プーリー57に動力が伝達されてドラム53を回転させるようにしている。
【0005】
洗濯水は給水弁58によって受筒52へ給水され、受筒52内の洗濯水は、排水口59から排水弁60を経て排水路61から機外へ排水される。筐体51の前面に開閉自在な扉62を設け、ドラム53の前面側に開口した衣類投入口63から洗濯物64を出し入れすることができる。
【0006】
上記構成のドラム式洗濯機において、洗い時における動作を図8のタイムチャートで説明する。ドラム53内に投入された洗濯物の量を検知し、その量に応じて設定された洗濯水が給水弁58から受筒52内に給水された後、モーター54を駆動する。
【0007】
洗濯物に洗濯水を含水させるために洗濯物がドラム53内でタンブリング可能な回転数(例えば、50rpm)でドラム53を回転させ、第1の洗濯工程を行った後、続いて、洗濯物をしぼり洗いするための回転数(例えば、200rpm)でドラム53を回転させて第2の洗濯工程を行なう。洗い工程中において、この第1の洗濯工程と第2の洗濯工程を交互に繰り返すようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−299658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記従来の構成では、洗濯物に洗濯水を含水させるために洗濯物がドラ
ム53内でタンブリング可能な回転数でドラム53を回転させる第1の洗濯工程と、しぼり洗いするための回転数でドラム53を回転させる第2の洗濯工程は、投入された洗濯物の量によってあらかじめ定められているため、限られた洗濯工程の設定時間内で、かつ、より短時間で洗浄効果を高めることが難しいという問題があった。
【0010】
また、洗濯物の量に応じてしぼり洗い時にドラム53の回転数を可変する場合、洗濯物の量が少ないときは回転数を低くし、洗濯物の量が多いときは回転数を高くすると、洗濯物の量が多いときに、長手の衣類や大物衣類等、洗濯物の種類によってドラム53内での重量分布のアンバランスが発生しやすく、ドラム53の回転数が高くなるにしたがって、設定された回転数に到達するまでに時間が長くかかり、また、到達すること自体が困難になるという問題があった。
【0011】
一方、洗濯物の量が少ないときは回転数が低いと洗濯物にかかる遠心力が小さく、洗濯物に含まれる繊維中の汚れを洗濯水とともに取り除くことが難しいという課題があった。
【0012】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、限られた洗い工程の時間において、洗濯物の量が少ない場合でも、洗浄性能に優れたドラム式洗濯機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記従来の課題を解決するために、本発明のドラム式洗濯機は、ドラムを回転駆動するモーターと、前記ドラム内に投入された洗濯物の量を検知する布量検知手段と、前記モーターの駆動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、洗濯物を洗う工程において、前記ドラム内で洗濯物がタンブリング可能な低速回転と、洗濯物が前記ドラムの内周面に張り付く高速回転とに切り替えるとともに、前記布量検知手段で検知した洗濯物の量が少ないときは、高速回転時の回転数が高くなるように設定したものである。
【0014】
これによって、タンブリングによるたたき洗いと、高速回転により汚れを衣類の繊維中から除去することができ、さらに続けて行うたたき洗いの工程でも、衣類の繊維中に残っている汚れは、既に洗濯水の化学力とたたき洗いによる機械力によって剥ぎ取りが促進されており、より短時間で繊維から汚れを除去することが可能となり、限られた短い時間で洗浄性能を向上させることができる。また、洗濯物の量が少ない場合においても、高速回転時に十分な遠心力を洗濯物に作用させて、繊維中の汚れを洗濯水とともに除去することができ、洗浄効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のドラム式洗濯機は、限られた洗い工程の時間において、洗濯物の量が少ない場合においても、繊維中の汚れを洗濯水とともに除去することができ、洗浄効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1におけるドラム式洗濯機の断面図
【図2】同ドラム式洗濯機の洗い工程の動作を示すタイムチャート
【図3】同ドラム式洗濯機の洗い工程のドラムの動作を示すタイムチャート
【図4】本発明の実施の形態2におけるドラム式洗濯機の動作を示すタイムチャート
【図5】本発明の実施の形態3におけるドラム式洗濯機の洗剤投入装置の平面図
【図6】同ドラム式洗濯機の動作を示すタイムチャート
【図7】従来のドラム式洗濯機の断面図
【図8】同ドラム式洗濯機の洗い工程の動作を示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の発明は、筐体内に弾性支持した受筒と、前記受筒内に回転可能に設けた有底筒状のドラムと、前記受筒内に洗濯水を給水する給水手段と、前記受筒内に洗濯水を排水する排水手段と、前記ドラムを回転駆動するモーターと、前記ドラム内に投入された洗濯物の量を検知する布量検知手段と、前記モーターの駆動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、洗濯物を洗う工程において、前記ドラム内で洗濯物がタンブリング可能な低速回転と、洗濯物が前記ドラムの内周面に張り付く高速回転とに切り替えるとともに、前記布量検知手段で検知した洗濯物の量が少ないときは、高速回転時の回転数が高くなるように設定したことにより、タンブリングによるたたき洗いと、高速回転により汚れを衣類の繊維中から除去することができ、さらに続けて行うたたき洗いの工程でも、衣類の繊維中に残っている汚れは、既に洗濯水の化学力とたたき洗いによる機械力によって剥ぎ取りが促進されており、より短時間で繊維から汚れを除去することが可能となり、限られた短い時間で洗浄性能を向上させることができる。また、洗濯物の量が少ない場合においても、高速回転時に十分な遠心力を洗濯物に作用させて、繊維中の汚れを洗濯水とともに除去することができ、洗浄効果を高めることができる。
【0018】
第2の発明は、特に、第1の発明の受筒内に洗剤を投入する洗剤投入装置を設け、制御手段は、高速回転前に受筒内に洗濯水を排水し、高速回転後に新たな洗濯水を給水するとともに、所定量の洗剤を投入するようにしたことにより、高速回転による遠心力で汚れが除去された繊維中に新たな清浄水を浸透させるとともに、活性化した洗剤の化学作用で繊維中の汚れの剥ぎ取りを加速し、洗浄効果を高めることができる。
【0019】
第3の発明は、特に、第2の発明の洗剤投入装置に洗剤収容部を複数設けるとともに、洗濯水が前記各々の洗剤収容部を流れる給水路を切り替える切替弁を設け、制御手段は、洗濯物を洗う工程の最初に給水される給水路と、高速回転後の給水時に給水される給水路を切り替えるようにしたことにより、洗い工程の最初に投入される洗剤量と、高速回転工程後に投入される洗剤量を各々最適に設定でき、洗い工程中の所定のタイミングで所定量の洗剤を投入して、洗浄効果を高めることができる。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるドラム式洗濯機の構成を示す断面図、図2は、同洗い工程の動作を示すタイムチャート、図3は、同洗い工程のドラムの動作を示すタイムチャートである。
【0022】
図1〜図3において、ドラム式洗濯機の筐体1内にダンパ(図示せず)等で弾性支持した受筒2が設けられている。受筒2内には有底円筒状のドラム3が回転可能に設けられ、その回転軸は前上がりに傾斜している。ドラム3の内周側面には回転軸方向に向かって内方へ突出させた複数のバッフル4と、受筒2内と連通する多数の透孔5が設けられ、前面側には洗濯物を出し入れする開口部6が設けられている。
【0023】
受筒2の後面にドラム3を回転駆動するモーター7が取り付けられている。このモーター7はブラシレス直流モーターで構成され、インバータ制御によって回転速度が自在に変化させることができるようになっている。受筒2内に洗濯水を給水する給水手段としての給水弁8は、給水路9中に設けた洗剤を投入する洗剤投入装置10を介して受筒2内に洗濯水を供給し、受筒2内に供給された洗濯水は透孔5からドラム3内に流入する。
【0024】
受筒2内の洗濯水は、第1の循環水路11に設けた第1の循環ポンプ12によってドラ
ム3内へ循環させることができる。受筒2の底部に循環水路11と連通した洗濯水を吸い込む吸い込み部13を設け、ドラム3の前面側に設けた開口部6の下部に、ドラム3内に向けて洗濯水が吐出されるように吐出部14を設けている。
【0025】
第1の循環水路11には、第1の循環ポンプ12の上流側、すなわち、吸い込み部13と第1の循環ポンプ12の間に第1の開閉弁15を設けている。吸い込み部13と第1の開閉弁15の間の第1の循環水路11には、排水弁16を設けた排水路17を接続している。
【0026】
第1の循環ポンプ12を駆動して、受筒2内の洗濯水を吐出部14からドラム3内に吐出させるときは、排水弁16を閉じて第1の開閉弁15を開くことによって、受筒2内の洗濯水を吸い込み部13から第1の循環水路11内に吸い込み、吐出部14からドラム3内に循環させることができる。
【0027】
筐体1内に受筒2内の洗濯水を流入させることができる貯水部18を設けている。貯水部18は、受筒2の下方に配設されており、吸い込み部13と第1の開閉弁15の間の第1の循環水路11に接続した流入路19を介して受筒2内と繋がっている。流入路19には第2の開閉弁20を設けている。
【0028】
貯水部18内の洗濯水は、第2の循環水路21に設けた第2の循環ポンプ22によってドラム3内へ循環させることができる。第2の循環水路21の一方は貯水部18に接続され、第2の循環水路21の他方は、ドラム3の前面側に設けた開口部6の上部に、ドラム3内に向けて洗濯水が吐出されるように設けた吐出部23に接続されている。
【0029】
第2の循環ポンプ22を駆動して、受筒2内の洗濯水を吐出部23からドラム3内に吐出させるときは、第1の開閉弁15と排水弁16を閉じて、第2の開閉弁20を開くことにより、受筒2内の洗濯水を吸い込み部13から流入路19を通して貯水部18に流入させ、第2の循環水路21を通して吐出部23からドラム3内に循環させることができる。
【0030】
受筒2内の洗濯水を排水するときは、第1の開閉弁15と第2の開閉弁20を閉じて、排水弁16を開くことによって受筒2内の洗濯水を排水路17を通して機外へ排水することができる。
【0031】
筐体1内に設けた制御手段24は、モーター7、給水弁8、第1の循環ポンプ12、第1の開閉弁15、排水弁16、第2の開閉弁20、第2の循環ポンプ22等を駆動し、洗濯、すすぎ、脱水等の各工程を逐次制御する。
【0032】
なお、筐体1の前面に設けた開閉自在な扉25を開くことにより、ドラム3の前面側に設けた開口部6から洗濯物を出し入れすることができる。
【0033】
以上のように構成されたドラム式洗濯機において、以下その動作、作用を説明する。筐体1の前面側に開閉自在に設けた扉25を開いて開口部6からドラム3内に洗濯物を投入し、筐体1の上面前部に設けた操作部26の電源スイッチ(図示せず)をオンし、スタートスイッチ(図示せず)を操作して運転を開始すると、布量検知手段(図示せず)によって投入された洗濯物の量が検知される。
【0034】
洗濯は、洗い工程、すすぎ工程、脱水工程の順に実行されるが、ここでは、図2のタイムチャートに基き、洗い工程について詳細に説明し、すすぎ工程と脱水工程の説明は省略する。本発明の洗い工程は、投入された洗濯物の量の判定に続いて開始される。
【0035】
洗い工程の最初は、検知した洗濯物の重量によってあらかじめ設定された水量を受筒2およびドラム3内へ導入する給水1工程である。給水1工程では、まず、給水弁8が開いて上水配管より水が供給され、給水が開始される。給水量および洗濯動作の各時間は、投入される洗濯物の重量に応じてあらかじめ設定されている。
【0036】
洗剤ケース10内に所定量投入された洗剤を溶解させながら給水路9を経由して受筒2内に洗濯水が給水されるとともに、受筒2内に供給された洗濯水は透孔5からドラム3内に流入する。
【0037】
受筒2に給水された洗濯水は、吸い込み部13から開かれた第1の開閉弁15を通して第1の循環水路11内に入り、第1の循環ポンプ12に到達する。給水量は水位検知手段(図示せず)により検知され、所定量の洗濯水が受筒2内に給水されると、第1の循環ポンプ12を駆動して受筒2内の洗濯水をドラム3内へ循環させる。
【0038】
給水1工程では、受筒2内の洗濯水の水位の上昇によって透孔5からドラム3内へ浸入する洗濯水に加え、第1の循環ポンプ12を駆動させて吐出部14からドラム3内へ洗濯水を吐出することにより、洗濯物への洗濯水の浸透を速めることができる。水位検知手段(図示せず)により受筒2内に設定量の洗濯水が給水されたことを検知すると、給水弁8を閉じて給水を停止する。
【0039】
次に、給水1工程に続いて、攪拌洗い1工程が所定時間T1実行される。攪拌洗い1工程は、給水1工程と同様に、第1の開閉弁15が開いた状態で、第2の開閉弁20と排水弁16は閉じた状態であり、第1の循環ポンプ(循環ポンプ)12によって、受筒2内の洗濯水を吸い込み部13から第1の循環水路(循環水路)11に吸い込み、吐出部14からドラム3内の洗濯物に向けて吐出する。
【0040】
攪拌洗い1工程では、ドラム3の回転速度は、洗濯物がドラム3内に設けたバッフル4によってドラム3の回転方向に沿って持ち上げられ、ドラム3内の上部から重力によって落下し、落下時の機械力が洗濯物に効果的に加えられるように、ドラム3の内周側壁面に遠心力によって張り付かない程度の回転速度、例えば、30〜60rpmに設定され、洗濯物の量にも依存するが、好ましくは50rpmであり、図3に示すように、正転と反転の動作を交互に繰り返す。
【0041】
この攪拌洗い1工程の所定時間T1は、例えば6分に設定され、洗濯物が洗濯水で十分濡れるようにするとともに、以降に行う高速回転工程の所定時間T2、および攪拌洗い2工程の所定時間T3より長く設定している。なお、洗濯水を循環させる第1の循環ポンプ12の動作は、連続または間欠のいずれであってもよい。
【0042】
吐出部14は、洗濯水によって洗濯物を素早く濡らすために、洗濯水を扇状に拡散させて吐出できる形状であることが好ましい。また、吐出部14は、ドラム3の前面側に設けた開口部6の下部に配設するほか、洗濯水がドラム3の周側壁面に沿って流れながらドラム3内に流れ込むようにしてもよい。また、洗濯水の吐出時にドラム3を回転させると、ドラム3内で洗濯物の相対的な位置の入れ替わりを促進させることができ、洗濯物を満遍なく濡らすことができる。
【0043】
次に、高速回転工程に入る。この高速回転工程では、第1の循環ポンプ12を停止し、第1の開閉弁15を閉じるとともに、第2の開閉弁20を開いて受筒2と貯水部18を連通させる。なお、排水弁16は閉じたままである。
【0044】
第2の開閉弁20が開いて、受筒2内の洗濯水が流入路19から貯水部18に流入する
と、第2の循環ポンプ(循環ポンプ)22を駆動し、第2の循環水路21を通してドラム3の前面側に設けた開口部6の上部に位置する吐出部23から、ドラム3内の洗濯物に向けて貯水部18内の洗濯水が吐出される。
【0045】
高速回転工程でのドラム3の回転速度は、洗濯物に含まれている洗濯水を遠心力によって強制的に排出することができるように、例えば、150〜400rpmに設定され、好ましくは300rpmである。
【0046】
この高速回転工程は、図3に示すように、最初の高速回転においては、洗濯物が洗濯水を大量に吸収している状態であるため、約30秒程度では200rpm程度までしか回転数が上昇せず、一旦回転を止めて回転数が下がってきた後に、再度ドラム3を高速回転させることで300rpm程度まで上昇させることが可能となる。
【0047】
また、一度目の高速回転を停止し、再度高速回転させる際は、ドラム3内の洗濯物がドラム3の内周側面から落下する程度までドラム3の回転数を低下させると、ドラム3内で洗濯物の相対的な配置を変化させることができる。なお、この高速回転工程は、洗い工程において少なくとも一回行われるが、繰り返し連続で行うことが好ましい。
【0048】
洗濯水と洗濯物の接触時間は長くなるほど洗浄効果が高まるため、この高速回転工程においても、洗濯水をドラム3内の洗濯物に向けて吐出させており、受筒2内から貯水部18内へ重力によって流入させた洗濯水を、第2の循環ポンプ22によってドラム3内の洗濯物に向けて連続的に吐出している。
【0049】
これにより、ドラム3を高速で回転させることによる遠心力によって洗濯物の繊維の間の洗濯水を除去しながら、吐出部23から洗濯物に洗濯水を供給することができ、連続的に繊維間の洗濯水の置換を行い洗浄効果が高められるようにしている。
【0050】
また、この高速回転工程は、ドラム3内に投入された洗濯物の量を布量検知手段(図示せず)により検知し、洗濯物の量に応じて高速回転時のドラム3の回転数が設定されている。洗濯物の量が少ない時は回転数が多く高速で回転し、洗濯物の量が多くなるにしたがって回転数が少なく低速で回転するようにしている。
【0051】
これは、該高速回転工程にて洗濯物から洗濯水中の界面活性剤によって取り込まれた汚れを引き剥がす力が主として遠心力に基づくものであることに由来する。すなわち、遠心力Fは「F=m×ω×r」と表され、ここで、mは水を含んだ洗濯物の質量、rは洗濯槽中心からの距離、ωは角速度で、ω=2πn(nは洗濯槽の回転数)である。そして、この遠心力が大きいほど、洗濯物が含む汚れ成分が溶解している洗濯水を汚れ成分と共に衣類の繊維の奥から除くことが可能となり、洗い工程の途中において衣類が含む洗濯水の置換が促進され、洗浄性能を高めることになる。
【0052】
いま、洗濯物の量が多くなった場合を考えると、上記遠心力の式中のmが大きくなる一方で、洗濯槽中に占める洗濯物の容積が増えるため洗濯槽中心からその衣類が占める空間の径方向における中心までの平均距離rは小さくなることになる。逆に、洗濯物の量が少なくなった場合にはmが小さくなる一方で、rは大きくなる。ただし、rの変動幅は洗濯物が引き寄せられることなく最大限に詰め込まれていた場合と洗濯槽の内壁に限りなく近づいた場合を考えたとしても1/2であり、例えば9kgと2kgといった洗濯物量の変化幅ほど大きくなることはない。
【0053】
ここで、洗濯物から上記洗濯水を除去するための遠心力に一定の境界条件があると考えると、洗濯物の重量mが減少した分を洗濯槽の回転中心からの距離rのみで補償すること
は困難であるため、角速度ω、すなわち、洗濯槽の回転速度nを大きくする必要がある。また逆に、洗濯物の量が多いほどmが大きいために、回転数を少なくしても同じ遠心力を得ることができ、汚れを洗濯物から除去することが可能となるものである。
【0054】
表1は、ドラム3内に投入された洗濯物の量と、高速回転工程の回転数を示したものであり、洗濯物の量が2kg未満の少ない時は、回転数を例えば、800rpmに設定し、多くなるにしたがって回転数を、600rpm〜400rpmに低く設定している。
【0055】
【表1】

【0056】
これにより、洗濯物が少なく高速回転に洗濯物に作用する遠心力が小さい場合でも、ドラム3を高速で回転させることによって洗濯物から洗濯水を十分に排出することができ、繊維中から汚れの溶解した洗濯水を効果的に除去することができるものである。
【0057】
また、一般的に洗濯物の量が多いときは、ドラム3内での重量分布のアンバランスが発生しやすいが、洗濯物の量が多くなるにしたがって回転数が低くなるので、設定された回転数に短時間で到達させることができる。
【0058】
次に、給水2工程に入る。この給水2工程は、高速回転工程に引き続いて第2の循環ポンプ22を駆動し、貯水部18内の洗濯水を第2の循環水路21を経由してドラム3内の洗濯物に洗濯水が吐出され、第1の開閉弁15、第2の開閉弁20および排水弁16を閉じて、受筒2内の底部に洗濯水を溜める。貯水部18内の洗濯水が受筒2内への移動を完了すると、攪拌洗い2工程が実行される。
【0059】
攪拌洗い2工程は、攪拌洗い1工程と同様に、第1の開閉弁15を開放し、排水弁16および第2の開閉弁20を閉じることで、第1の循環ポンプ12と受筒2とを連通させた状態にした後、第1の循環ポンプ12を駆動する。受筒2内の底部に溜まった洗濯水を第1の循環ポンプ12で吸い込み、第1の循環水路11を経由して吐出部14からドラム3内へ吐出させる。このとき、ドラム3は洗濯物が張り付かずドラム3内でゴロゴロと転がる程度の回転数で回転し、図3に示すように、50rpmで正転と反転の動作を交互に繰り返す。
【0060】
高速回転工程に続いて、攪拌洗い2工程を所定時間T3行うことにより、洗剤が溶解している洗濯水が再び洗濯物の繊維間を満たし、洗剤の化学力とドラム3の回転にともなう機械力によって、繊維中に残存していた汚れ物質を剥ぎ取ることが可能となる。繊維間の洗濯水中の汚れ物質濃度が高い場合には、繊維への再付着が懸念されるが、洗濯水を繊維間に強制的に置換することにより、再付着を抑制することが可能となる。
【0061】
また、本発明の洗い工程の中で、一番初めに行われる攪拌洗い1工程の所定時間T1は、ドラム3を高速で回転させる高速回転工程の所定時間T2より長く、かつ、高速回転工程の後に行われる攪拌洗い2工程の所定時間T3より長く設定されており、攪拌洗い1工程の所定時間T1と、攪拌洗い2工程の所定時間T3の関係は、T1>T3である。
【0062】
これは、洗い工程の中で、最初に行われる攪拌洗い1工程時が、洗濯物の濡れが十分でないことに加え、洗濯物の繊維中に洗濯水が浸透する条件、あるいは、汚れが繊維から剥ぎ取られる際の条件が最も不利であるため、他に行われる攪拌洗いの工程時以上に時間を要するからであり、洗浄効果を高める上で効果的である。
【0063】
さらに、洗い工程の中で、ドラム3を高速で回転させる高速回転工程の回数は、特に限定されるものではないが、洗濯水の置換の回数が増えることにより、複数回行われることが好ましい。この場合、連続であっても、高速回転工程の間に攪拌洗いの工程等が入り、不連続のタイミングであってもよい。
【0064】
以上のように、本発明のドラム式洗濯機は、洗濯物を洗う工程において、ドラム3内で洗濯物がタンブリング可能な低速回転と、洗濯物がドラム3の内周面に張り付く高速回転とに切り替えるとともに、布量検知手段で検知した洗濯物の量が少ないときは、高速回転時の回転数が高くなるように設定したものであり、洗濯物の量が少ない場合においても、高速回転時に十分な遠心力を洗濯物に作用させて、繊維中の汚れを洗濯水とともに除去することができ、洗浄効果を高めることができる。
【0065】
また、洗濯物を洗う工程において、第1の循環ポンプ12を駆動して受筒2内の洗濯水をドラム3内へ循環させ、ドラム3内で洗濯物がタンブリング可能な低速回転、すなわち、洗濯物がドラム3の内周面に張り付かない低速回転と、洗濯物がドラム3の内周面に張り付く高速回転とに切り替えるとともに、最初に行われるドラム3の低速回転、すなわち、攪拌洗い1工程の時間を、他の低速回転、すなわち、攪拌洗い2工程の時間および高速回転工程の時間より長くしたものであり、洗濯物への洗濯水の浸透および繊維中の汚れ物質の除去を効果的に行い、限られた洗い工程の時間において、洗いムラが少なく、洗浄効果を高めることができる。
【0066】
また、洗濯物を洗う工程において、ドラム3の高速回転時に受筒2内の洗濯水を貯水部18に流入させ、第2の循環ポンプ22を駆動して貯水部18内の洗濯水をドラム3内へ循環させるようにしたものであり、ドラム3の高速回転による遠心力によって繊維中から汚れの溶解した洗濯水を除去するとともに、洗濯物から除去された受筒2内の洗濯水を貯水部18に流入させて吐出部23からドラム3内の洗濯物に降りかかり、洗濯物を濡らしながら連続的に繊維中に洗濯水の置換を進行させて、洗浄効果を高めることができるとともに、受筒2内の洗濯水に浸かっているドラム3の下部を洗濯水の水面から露出させることができ、高速回転時における洗濯水の抵抗が排除されて、モーター7にかかる負荷を軽減することができ、ドラム3を円滑に高速回転させることができる。
【0067】
(実施の形態2)
図4は、本発明の第2の実施の形態におけるドラム式洗濯機の洗い工程の動作を示すタイムチャートである。本実施の形態の特徴は、洗濯物を洗う工程において、高速回転前に排水弁16を開いて受筒2内に洗濯水を排水し、高速回転後に給水弁8を開いて新たな洗濯水を給水するとともに、洗剤投入装置10から所定量の洗剤を投入するようにしたものである。他の構成は実施の形態1と同じであり、同一の構成に同一の符号を付して、詳細な説明は実施の形態1のものを援用する。
【0068】
これにより、高速回転による遠心力で汚れが除去された繊維中に、新たな清浄水を浸透
させるとともに、活性化した洗剤の化学作用で繊維中の汚れの剥ぎ取りを加速し、洗浄効果を高めることができる。
【0069】
(実施の形態3)
図5は、本発明の第3の実施の形態におけるドラム式洗濯機の洗剤投入装置の平面図、図6は、同洗い工程の動作を示すタイムチャートである。本実施の形態の特徴は、洗剤投入装置10に複数の洗剤収容部10a、10bを設けるとともに、給水弁8から給水される洗濯水が各々の洗剤収容部10a、10bを流れる第1給水路10cと、第2給水路10dを切り替える切替弁27を設け、制御手段24は、洗濯物を洗う工程の最初に給水される第1給水路10cと、高速回転後の給水時に給水される第2給水路10dを切り替えるようにしたものである。他の構成は実施の形態1と同じであり、同一の構成に同一の符号を付して、詳細な説明は実施の形態1のものを援用する。
【0070】
これにより、洗い工程の最初に投入される洗剤量、すなわち、給水1工程で入れられる洗剤量と、高速回転工程後に投入される洗剤量、すなわち、給水2工程で入れられる洗剤量を各々最適に設定でき、洗い工程中の所定のタイミングで所定量の洗剤を投入して、洗浄効果を高めることができる。
【0071】
なお、本実施の形態はドラム式洗濯機であるが、乾燥機能を具備したドラム式洗濯乾燥機においても適用可能なものである。
【0072】
(実施例1)
本発明の実施の形態1に示されるような定格容量9kgのドラム式洗濯機を用いて、従来方式との比較として、洗い工程において、攪拌洗い1工程の時間を攪拌洗い2工程の時間より長くした場合を検討した。JEMA(日本電機工業会)にて定められている模擬洗濯物9kgを用いて洗浄試験を実施した。洗浄性能の評価は(財)洗濯科学協会にて販売しているJIS標準汚染布25枚を試験用衣類に貼付し、洗濯前後での光の反射率を色差計ZE−2000(日本電色工業(株))を用いて測定し、以下数1に定義される洗浄度を算出し、洗浄性能の比較を行なった。
【0073】
【数1】

【0074】
水温は20℃で行い、洗濯は、洗い工程だけではなくすすぎおよび脱水も行い、通常の洗濯工程を実施した。すすぎ以降の工程は両者とも略同一の水量および時間とし、洗い時間は本発明の実施の形態および従来方式共に10分とした。
【0075】
ここで、本発明における洗い工程では、最初の攪拌洗い1工程を6分、高速回転工程は30秒ずつ連続で2回行うことで合計1分、給水1工程と給水2工程で合計1分、後半の攪拌洗い2工程を2分とし、全洗い工程時間を10分とした。
【0076】
本実施例においては、ドラム3を高速で回転させる高速回転工程で、最初の30秒で1
40rpm、続けて行った30秒で回転数が250rpmまで到達していた。その後、後半の攪拌洗い2工程を2分間行った。JIS標準汚染布における洗浄度の測定結果としては、従来方式での洗浄度が平均値で0.32だったのに対し、本発明においては平均値で0.38と洗浄度の向上が確認された。また、洗浄度の測定結果のバラツキにおいても、従来方式での分散が0.07に対して本発明では0.06とほぼ同等以上の結果が得られた。このように優れた洗浄度の結果が得られ、本発明により、洗濯性能の向上が達成されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明にかかるドラム式洗濯機は、限られた洗い工程の時間において、洗濯物の量が少ない場合においても、繊維中の汚れを洗濯水とともに除去することができ、洗浄効果を高めることができるので、ドラム式洗濯機として有用である。
【符号の説明】
【0078】
1 筐体
2 受筒
3 ドラム
7 モーター
8 給水弁(給水手段)
11 第1の循環水路(循環水路)
12 第1の循環ポンプ(循環ポンプ)
15 第1の開閉弁(開閉弁)
16 排水弁(排水手段)
20 第2の開閉弁(開閉弁)
21 第2の循環水路(循環水路)
22 第2の循環ポンプ(循環ポンプ)
24 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内に弾性支持した受筒と、前記受筒内に回転可能に設けた有底筒状のドラムと、前記受筒内に洗濯水を給水する給水手段と、前記受筒内に洗濯水を排水する排水手段と、前記ドラムを回転駆動するモーターと、前記ドラム内に投入された洗濯物の量を検知する布量検知手段と、前記モーターの駆動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、洗濯物を洗う工程において、前記ドラム内で洗濯物がタンブリング可能な低速回転と、洗濯物が前記ドラムの内周面に張り付く高速回転とに切り替えるとともに、前記布量検知手段で検知した洗濯物の量が少ないときは、高速回転時の回転数が高くなるように設定したドラム式洗濯機。
【請求項2】
受筒内に洗剤を投入する洗剤投入装置を設け、制御手段は、高速回転前に受筒内に洗濯水を排水し、高速回転後に新たな洗濯水を給水するとともに、所定量の洗剤を投入するようにした請求項1記載のドラム式洗濯機。
【請求項3】
洗剤投入装置に洗剤収容部を複数設けるとともに、洗濯水が前記各々の洗剤収容部を流れる給水路を切り替える切替弁を設け、制御手段は、洗濯物を洗う工程の最初に給水される給水路と、高速回転後の給水時に給水される給水路を切り替えるようにした請求項2記載のドラム式洗濯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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