説明

ドリリングタッピンねじ及びその製造方法

【課題】本発明は、被締結物である鋼材等に対して、ねじの下穴を開けるためのドリル部位をタッピンねじの先端に一体化して形成されたドリリングタッピンねじの防錆被覆の改良に関する。
【解決手段】ドリリングタッピンねじの表面に、ニッケル又はコバルトの1種または2種を、質量%で、合計で0.1%以上7%以下含有し、残部が亜鉛及び不可避不純物からなる亜鉛系合金めっき層を有することを特徴とするドリリングタッピンねじとその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被締結物である鋼材等に対して、ねじの下穴を開けるためのドリル部位をタッピンねじの先端に一体化して形成されたドリリングタッピンねじの防錆被覆の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼材等を締結する方法として、作業性の向上やコスト削減を目的に、下穴加工等の必要が無いドリリングタッピンねじを用い、被締結物である鋼材表面に直接から直接ねじ止めする方法が、認められるようになっている。ドリリングタッピンねじとは、その先端部にドリル部を一体化して形成させたもので、たとえば鋼材を締結する場合において、鋼材に下穴を開けることなく使用できるタッピンねじである。ドリル部の形状には、尖がり先と切り刃先があり、鋼材のように硬い対象物を締結する場合には、先端がドリルの刃と同じ形状をした切り刃先のドリリングタッピンねじを用いることが一般的である。
【0003】
しかし、鋼材のように硬い材料を締結する場合、このドリリングタッピンねじによる締結作業は必ずしも効率がよいものではない。その原因は、ねじの先端はドリルの形状をしており、浸炭焼入れ・焼き戻し処理がされて表面硬度は高いが、その刃先は鋭いものではないためである。また、鋼のドリリングタッピンねじは、原則として防錆のためのめっきを施すのが原則となっている。たとえば、JIS B1125(ドリリングタッピンねじ)では、鋼ドリリングタッピンねじには、原則として電気亜鉛めっきを施すように規定されている。鋼材が長期防食用に厚めっきされている場合には、ねじも締結する鋼材と同等の耐食性をもつ必要があるため厚めっきすることになり、このために刃先が鈍り、鋼材への食い込みが悪くなるためである。
【0004】
作業効率を高めるため、例えば、特許文献1(特開平3−149407号公報)では、ドリル部の表面処理として、電気Znめっきや電気Snめっき等を施した後、所要の加熱処理をしてZnとFeとの合金層、あるいはSnとFeとの合金層を形成させるという発明が開示されている。これによると、ドリリングタッピンねじの全表面に単にZnやSnあるいははんだを電気めっきした場合よりも、地鉄との間にそれぞれの金属との合金層の皮膜を形成させることにより、一定の鉄板を貫通するのに要する時間が短縮されている。しかし、ドリリングタッピンねじ表面に亜鉛皮膜を形成させた後、加熱処理を施し、さらに酸化物を除去する工程が必要となる。
【0005】
また、特許文献2(特開平4−312207号公報)には、ドリル部に切り屑排出用の細い溝を縦方向に設けたドリリングタッピンねじを成形した後、浸炭焼入れ、焼戻しを施し、これにさらに、380〜400℃のZn40%−Sn60%の合金浴に約1分間浸漬し、引き上げて直ちに遠心力分離機のバケットに入れ、回転遠心力によって当該ドリリングねじの表面の余分な溶融合金を振り切っためっき処理を施したものが開示されている。
【0006】
また、特許文献3(特開2000−266023号公報)にも、同様に溶融亜鉛または溶融亜鉛合金で溶融めっきした後、加熱しながら遠心処理する方法が開示されている。しかし、これらの方法ではめっき浴からドリリングタッピンねじを引き上げた後、当該めっき融液が凝固しないうちに回転遠心力を付加したり、高温加熱しながら遠心処理するといった煩雑な工程が必要である。
【0007】
また、特許文献4(特開2000−170730号公報)では、ドリリングタッピンねじの表面全体にめっき等の防錆皮膜を付与した後にドリル部のみ防錆皮膜を除去する、あるいはドリル部にマスキング処理をしてめっき等の防錆皮膜を付与することにより、ドリル部の鋭利さを確保し、作業性を改善する方法が開示されている。特許文献5(特開2002−323021号公報)には、ドリリングタッピンねじのドリル部表面を樹脂でマスキング処理する方法について、樹脂の種類、厚さ等について、細かく規定している。しかしながら、膨大な数のドリリングタッピンねじのドリル部のみについて、酸洗処理あるいはマスキング処理を行うのは大変な手間を伴うことが容易に想像されるが、その具体的な方法については記述がなく、これらの方法を、現実に商業ベースで適用することは困難である。また、鉄が初めから露出していたのでは、亜鉛めっきの消耗が速くなり、耐食性に影響をする可能性もある。
【0008】
また、ドリリングタッピンねじの電気めっきは、脱脂→酸洗→めっき→ベーキング→めっき→後処理、という工程で製造される。ここで示すベーキング処理とは、酸洗・めっき過程で発生した水素がねじに吸蔵されて、応力がかかっているねじを破損させることを防ぐため、加熱処理により吸蔵された水素を除去するものであるが、厚いめっきを施した後ではベーキング処理によっても吸蔵水素の除去が十分できないという問題があり、特許文献6(特開平11-124690号公報)にはその対策として、薄めっきを施した後でベーキングを行い、その後、所定の厚みのめっきを施す技術が提案されており、多くの場合はこれに基づいて前述のような工程でめっきが行われているために、めっき工程が分断される事による生産性の低下や、ベーキング工程での下層めっき表面の酸化による上層めっきとの密着不良など品質上の課題もあった。
【0009】
【特許文献1】特開平3−149407号公報
【特許文献2】特開平4−312207号公報
【特許文献3】特開2000−266023号公報
【特許文献4】特開2000−170730号公報
【特許文献5】特開2002−323021号公報
【特許文献6】特開平11−124690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑み、ドリリングタッピンねじ全体の耐食性を維持しつつ、薄金属板等の被締結物に対するドリリングタッピンねじの穿孔性・作業性を高め、ねじ込み作業効率が改善できるドリリングタッピンねじとその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、電気亜鉛めっきねじの穿孔性が劣る原因について検討を行った。
【0012】
本発明者らが施工性を問題にしているのは、ねじ頭部のめっき厚を、厚目付けの亜鉛めっき鋼板のめっき厚である20μm以上にした場合の、ドリリングタッピンねじである。
【0013】
通常、耐食性が問題になるのは、主に鋼材と接触するねじの頭の部分であり、ねじのめっき厚はこの部分の厚さを基準とする。この部分は、当然、鋼材と同等以上の耐食性を必要とするため、めっきについても鋼材と同等の厚みが20μm以上の亜鉛めっきを施す必要がある。ここで、バレルめっきは、めっき厚のばらつきが生じやすいめっき方法であり、被めっき物一個一個のめっき厚のばらつき以外に、同一の被めっき物でもその部位によってめっき厚のばらつきがある。そして、このねじの頭部分のめっき厚を20μmにした場合、バレル式の電気めっきでは、ねじの凹凸の凸部、とくにドリル部の切り刃のめっき厚が最大で40μmを超えることが判明した。
【0014】
さらに、純亜鉛めっきは、めっき層のビッカース硬度が50前後と非常にやわらかい。この軟らかいめっきが厚く付着するという2つの理由により、ドリリングタッピンねじの穿孔性を阻害し、作業性が大きく低下することも判明した。
【0015】
また、市販されている、亜鉛めっき厚が10μm以下のドリリングタッピンねじでは、めっきがない場合と比べて、作業性の低下は極く小さいことから、特にめっきの厚みの影響が大きいことも判明した。
【0016】
そこで、本発明者らは、先ず優れた耐食性を有するめっきの適用により、ドリリングタッピンねじの作業性に影響のない薄いめっきで厚い純亜鉛めつきと同等の耐食性を確保することを検討するとともに、更にめっきの硬度も高くすることによるドリリングタッピンねじの作業性を確保についても検討した。
【0017】
まず、めっきの耐食性を向上させ、硬くするという方法としては、めっきに、ニッケルを10〜15質量%程度含有する、亜鉛−ニッケル合金めっきを行うことが挙げられる。このようなめっきを用いた製品は既に市販されている。しかし、こうした製品を用いて亜鉛めっきした鋼材を接合するには、以下に記すように耐食性に問題がある。
【0018】
1)10〜15質量%のニッケルを含む亜鉛−ニッケル合金めっき(以下高ニッケル合金めっき)は、その電位が、建材用途で一般的な純亜鉛めっきよりも200mV以上も貴であるため、ねじを防食はするが、純亜鉛とマクロ電池を形成して亜鉛を消費し、結果的には鋼材の耐食性を低下させてしまう働きをすることである。事実、高ニッケル合金めっきをしたドリリングタッピンねじを亜鉛めっき鋼材に使用すると、赤錆の発生が早いという試験結果が得られている。このため、高ニッケル合金めっきは、純亜鉛めっきと比べて数倍の耐食性を有すること、かつ、ビッカース硬度で純亜鉛めっきの2〜3倍以上の硬度を持つことが判明しているが、亜鉛めっきされた鋼材を接合するドリリングタッピンねじには使用することができない。
【0019】
2)ドリリングタッピンねじに高ニッケル合金めっきを行う場合であっても、製造工程においてベーキング処理の前に行う一層目のめっきでは、純亜鉛めっきを行う必要がある。その理由は第一に高ニッケル合金めっきされた材料をベーキングすると、めっき中のニッケルが酸化されて、次の工程でその上にめっきする際に、密着性不良などのトラブルを生じやすいためである。第二に、ニッケルが高価であり、コストダウンできないためである。そのため、ねじのめっきが、純亜鉛めっきと高ニッケル合金めっきの二層めっきになってしまい、前述のように下層の純亜鉛めっきと高ニッケル合金めっきがマクロ電池を形成、下層の亜鉛めっきが消費されてしまうため、ねじの防食性能そのものが確保できない。
【0020】
以上のような理由から、高ニッケル合金めっきでは、発明者が目標とするドリリングタッピングねじの耐食性と作業性の確保は達成できない。
【0021】
そして、このような問題点を解決する防食皮膜を検討した結果、適切な組成の合金めっきを行うことにより、上記の問題点を解消できることを見出し、本発明を完成したものである。即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)ドリリングタッピンねじの表面に、ニッケル又はコバルトの1種又は2種を、質量%で、合計で0.1%以上7%以下含有し、残部が亜鉛及び不可避不純物からなる亜鉛系合金めっき層を有することを特徴とするドリリングタッピンねじ。
(2)前記亜鉛系合金めっき層が、ニッケルを、質量%で、0.5%以上6%以下含有し、残部が亜鉛及び不可避不純物からなることを特徴とする(1)に記載のドリリングタッピンねじ。
(3)前記亜鉛系合金めっき層が、コバルトを、質量%で、0.1%以上3%以下含有し、残部が亜鉛及び不可避不純物からなることを特徴とする(1)に記載のドリリングタッピンねじ。
(4)前記亜鉛系合金めっき層が、質量%で、0.5%以上6%以下のニッケルと、0.1%以上3%以下のコバルトを含有し、且つ、ニッケルとコバルトの合計量が7%以下であり、残部が亜鉛及び不可避不純物からなることを特徴とする(1)に記載のドリリングタッピンねじ。
(5)前記亜鉛系合金めっき層の厚みが4μm以上12μm以下であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかの項に記載のドリリングタッピンねじ。
(6)前記亜鉛系合金めっき層上に、化成処理層を有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかの項に記載のドリリングタッピンねじ。
(7)ドリリングタッピンねじの製造方法において、その表面を、ニッケル又はコバルトの1種又は2種を、質量%で、合計で0.1%以上7%以下含有し、残部が亜鉛及び不可避不純物からなる亜鉛系合金めっきを施すことを特徴とするドリリングタッピンねじの製造方法。
(8)前記亜鉛系合金めっきが、ニッケルを、質量%で、0.5%以上6%以下含有し、残部が亜鉛及び不可避不純物からなる亜鉛系合金めっきであることを特徴とする(7)に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。
(9)前記亜鉛系合金めっきが、コバルトを、質量%で、0.1%以上3%以下含有し、残部が亜鉛及び不可避不純物からなる亜鉛系合金めっきであることを特徴とする(7)に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。
(10)前記亜鉛系合金めっきが、質量%で、0.5%以上6%以下のニッケルと、0.1%以上3%以下のコバルトを含有し、且つ、ニッケルとコバルトの合計量が7%以下であり、残部が亜鉛及び不可避不純物からなることを特徴とする(7)に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。
(11)前記亜鉛系合金めっきがバレルめっき法により施されることを特徴とする(7)〜(10)のいずれかの項に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。
(12)前記亜鉛系合金めっきの厚みを4μm以上12μm以下とすることを特徴とする(7)〜(11)のいずれかの項に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。
(13)前記亜鉛系合金めっきを施した後に、化成処理を行うことを特徴とする(7)〜(12)のいずれかの項に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。
(14)前記亜鉛系合金めっき完了後に、水素脆化防止のためのベーキング処理を行うことを特徴とする(7)〜(13)のいずれかの項に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。
(15)前記亜鉛系合金めっき及び化成処理を行った後に、化成処理後の乾燥工程と水素脆化防止のためのベーキング処理を兼ねた加熱処理を行うことを特徴とする(13)に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
まず、めっき層の組成について述べる。(以下質量%を単に%と記す)
本発明のメッキ層組成は、ニッケル又はコバルトの1種又は2種を合計で0.1%以上、7%以下有している。
【0024】
めっき層単独の耐食性は、ニッケルが0.1%から耐食性が向上し、0.5%以上になると顕著な改善が見られ、さらにニッケル%の増大にしたがって耐食性は向上し、12〜15%程度で最大となる。また、コバルトは0.1%以上で、耐食性の改善効果が認められ、コバルト濃度の上昇により耐食性は向上する。よって、少なくとも0.1%以上のニッケルまたはコバルトが必要である。めっき単体の耐食性の観点からはおよそ、12%以下の範囲であれば、ニッケル又はコバルトの濃度は高いほど望ましいが、純亜鉛めっき鋼材と組み合わせた場合の耐食性の検討結果からはニッケル又はコバルトのいずれか1種または2種の含有濃度は合計で7%以下とする必要がある。
【0025】
めっき層中のニッケル濃度については前述のように0.5%以上になるとめっき耐食性の顕著な改善が見られ、また、純亜鉛めっき鋼材と組み合わせた場合の耐食性の検討結果によれば、ニッケル濃度が6%を超えると、合金めっきの自然電位は変化を始め、7%を超えると急速に貴に変化し、純亜鉛めっきとの電位差を生じることによって、合金めっき−純亜鉛めっき間でマクロ電池を形成し、結果として、ドリリングタッピンねじで接合された亜鉛めっき鋼材の構造体としての耐食性を劣化させる。ニッケル濃度が7%以下、好ましくは6%以下であれば、純亜鉛めっきと低ニッケル合金めっきの電位差は、20〜30mV以下であり、事実上、耐食性に対する悪影響はないことがわかった。このため、ニッケル濃度は6%以下とすることが好ましい。
【0026】
また、ベーキング工程での酸化による性能への影響については、ニッケル濃度は低いほど良いことはいうまでもない。また、ニッケル濃度が6%以下であれば、ベーキング工程後にさらにめっきを施す場合であっても上層のめっきとの密着性に悪影響がないことが確認された。これらのことからも、ニッケル濃度は6%が好ましい。
【0027】
また、亜鉛−ニッケル合金めっきの硬度は、ニッケル濃度の増大にともなって、ほぼ直線的に増大する。したがって、硬度の点からは、ニッケル濃度は高いほど望ましい。
【0028】
以上の条件をまとめると、ニッケル濃度は、0.5%から6%の範囲とすることで安定した性能を得ることが可能となる。現実に商品を製造するにあたっては、ニッケル濃度が1.5%以上で、純亜鉛めっきの2倍前後の耐食性が得られたため、1.5%以上とすることで、純亜鉛めっきに比べてめっき厚を半分以下にすることができる。以上の試験結果から、ニッケル濃度は0.5%以上、6%以下が好適な範囲である。
【0029】
また、亜鉛−コバルト合金めっきの場合は、コバルトは0.1%以上、4%以下が好適である。コバルトは、少量で耐食性への効果は大きく、0.1%以上の添加により顕著な耐食性向上効果を発現し、濃度上昇とともに耐食性は向上する。しかし、その効果は4%以上で鈍化しは頭打ちになる傾向がある。まためっきの硬度を大きくする効果はニッケルに比べ小さく、また、コバルトの含有率を高くすると、めっきの電流効率は低下する傾向にある。電流効率の低下は、生産効率が低下するだけでなく、水素の発生−吸収によるねじの破壊の原因ともなるため、ベーキング処理の長時間化につながる可能性もある、等の問題も生じる。これらのことから、コバルトの添加量は、ニッケルに比べて低い4%を上限値とすることが好適である。
【0030】
亜鉛−ニッケル−コバルト合金と3元系めっきの場合にも、コバルトを4%以上含有させると、その効果は飽和するため、上限を4%とする。特にニッケル%が5%を超えるようなめっきに、2%以上のコバルトを含有させると、電位の変化が大きくなり、純亜鉛めっきとのマクロ電池形成によって耐食性が低下する可能性があるなど、めっきの物性が不安定になる恐れがある。実験では、ニッケル+コバルトで7%を超えると鋼材との組み合わせによる耐食性やめっきの硬度などについて劣化の傾向が認められるため、ニッケル+コバルトは合計で7%以下とする。
【0031】
なお、コバルトは高価な金属であり、バレルめっきではめっき浴の持ち出しによるロスが生じやすい。このため、亜鉛−コバルト合金めっき、亜鉛−ニッケル−コバルト合金めっきのいずれにおいても、高度な耐食性が要求される用途等に限定的に行うことが望ましい。
【0032】
次に、めっきの厚さについて述べる。
既に記したように、市販されている、亜鉛めっき厚が10μm以下のドリリングタッピンねじでは、めっきがない場合と比べて、作業性の低下は極く小さく、めっきが柔らかい亜鉛めっきであっても、めっきの厚さとしては10μm以下であれは、施工上の問題は全くない。なお、ニッケルやコバルトとの合金めっきとすることでめっき硬度が大きくなることから、亜鉛めっきに比べめっき厚は厚くても作業性への問題は起きにくい。ドリリングタッピンねじのバレルめっきにおいては、その性質上、同一部位で比較しても、個々のねじで、±10〜20%程度のめっき厚のばらつきが生じるため、めっき厚さの平均値が10μmの場合、最大12μm程度になるが、12μm以下であれば作業性は明らかに改善されることが確認されている。
【0033】
また、ドリリングタッピンねじは、現実の使用においては必然的にめっき層に疵がつくものであり、場合によってはめっきが削り落とされるものであることを考えると、めっき層を極端に薄くすることは好ましいものではない。本発明者らの実験では、めっき厚が4μm未満になると、ねじに疵が入った場合の耐食性に影響が出ることがあることが判明した。従って、傷入り部の耐食性を確保するためにはメッキ厚みを4μm以上とする必要がある。
【0034】
めっき組成・めっき厚の現実的な例としては、亜鉛めっきした薄鋼板の締結で使用するドリリングタッピンねじのめっきでは、ニッケルを1.5〜2.5%に制御して純亜鉛めっきの二倍以上の耐食性を確保することである。これにより、めっき厚を1/2に薄膜化にしても耐食性を維持することができ、作業性の向上が可能であり、同時にねじのめっき工程の生産性も向上する。連続めっき設備で大量に生産される亜鉛めっき薄鋼板のめっき厚は、最大で20μm程度であるため、めっき厚としてはその半分の10μm以上を確保することにより耐食性を維持することができる。平均膜厚10μmとした時の最大膜厚12μmのめっき厚であれば、めっき工程の途中で水素除去のためのベーキング処理を行わずとも、めっき・後処理が完了してからのベーキングによって、水素除去が可能である。当然、ベーキング時間は長くする必要があるが、工程の簡略化によりトータルでのめっきコストは低減する。なお。このベーキング時間は、めっき浴を変更することによっても、短縮可能である。たとえば、塩化物浴のめっきは、水素脆化が少ないことが知られているため、ベーキング工程の負荷を小さくしてめっきコストを低減することにより効果的である。
【0035】
また、どぶ付け亜鉛めっきなどの厚めっきされた鋼材を接合する場合には、必要な純亜鉛めっきの厚さは数十μmに相当するため、ニッケル濃度を高くして、あるいはコバルトを添加することで耐食性を、例えば3倍程度まで高くすることにより、ねじのめっき厚を純亜鉛めっきの1/3程度に抑えることも可能である。この場合の例としては、ニッケルを4.5〜5.5% に制御することにより、純亜鉛めっきの3倍程度の耐食性を確保することができる。
【0036】
なお、めっき厚を従来の半分以下の12μm程度以下にすることにより、ねじ内に吸蔵された水素の除去は容易になる。このため、めっき完了後のベーキング処理による、水素の除去が可能であり、めっき工程をベーキングのために2回に分割する必要がなくなる。具体的なベーキング条件は、めっきの組成・厚さ、めっき浴の種類または電流効率等によって異なる。例えば、電流効率が高い塩化物浴でニッケルが2.5%のめっきを、ねじの頭部での厚さが10μm行った場合には、後述する実施例にあるように、200℃で2時間のベーキング処理で脆化による首とび現象はみられなくなった。さらに、亜鉛めっきしたねじは、基本的に化成処理を施されるが、この工程では、化成処理の種類にもよるが、高温での乾燥は必須であり、焼き付けことが要求されることもある。ベーキング工程を全てのめっき後に施すことで水素除去が可能になれば、ベーキング処理と化成処理の乾燥、または焼付け工程を同時に行うことができるため、製造コストをさらに低減することが可能である。
【0037】
この化成処理の種類としては、現在は、ユニクロメート処理(光沢クロメート)が一般的であり、その他の有色クロメートなど、いずれを適用してもよい。また、クロムフリーの化成処理も問題なく適用できる。
【0038】
実際の低ニッケル−亜鉛合金めっきは、亜鉛めっき浴に、所定量のニッケルを添加することで可能である。ここで、塩化物浴のように中性から酸性のめっき浴の場合は問題は少ない。ただし、ジンケート浴、青化物浴のようなアルカリ性のめっき浴にニッケルを添加する場合には、ニッケルは適当な配位子をもつ錯体の形で添加する必要がある。コバルトについても、同様である。光沢剤、錯化剤は、めっき用として市販されているものを用いればよい。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
SWCH18Aにガス浸炭焼入れ−焼き戻し処理を施して製造した、M4x30 のドリリングタッピンねじ(六角頭)に、バレルめっき法により、純亜鉛めっき、亜鉛−13%ニッケルめっき、低ニッケル−亜鉛合金めっき、低コバルト−亜鉛合金めっき、低ニッケル−低コバルト−亜鉛合金めっきを行い、ねじの耐食性と打ち込み性を調査した。めっきは、市販の亜鉛めっき用光沢剤を含む、アンモニア性の塩化物系亜鉛めっき浴に、塩化ニッケル、塩化コバルトを添加して、試験用の小型バレルめっき装置をもちいて行った。めっき厚および組成はねじの頭の部分、マイクロビッカース硬度はねじの刃先部で評価した。
【0040】
評価は、ドリリングタッピンねじを亜鉛めっき厚が20μmの鋼材の接合に用いることを前提として、行った。
【0041】
ねじの作業性は、JIS B 1059に順じて、板厚1.6mmの圧延鋼板を重ねて、無負荷時2500rpm、最大トルク140N・mの電動ドライバーにより、ドリルが鋼板に接触してからねじが貫通するまでの時間を調査した。
【0042】
耐食性はねじを樹脂板に固定し、ねじの頭部以外を樹脂シールして、サイクル腐食試験を行った。サイクルは、
5%SST(35℃)2時間 → 乾燥2時間(湿度30%, 60℃) → 湿潤2時間(湿度95%,50℃) → SST ---
とし、赤錆発性までのサイクル数で評価した。また、化成処理を行っていない亜鉛めっき鋼板(板厚:0.8m,めっき厚20μm) にねじ込み性試験と同じ方法でねじを取り付け、ねじが貫通した裏面部を樹脂シールした後、6月より半年間の屋外暴露試験を行った。暴露試験の評価は、ねじの頭だけでなく、鋼材との接合部を含めて観察した。以上の試験条件及び結果をまとめて表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1の結果から、本発明例が、耐食性、作業性とも優れていることが明らかであり、めっき厚が20μmの鋼材の接合に用いるねじには、現在使用されている20μmの純亜鉛めっきよりも本発明例が望ましいことがわかる。
(実施例2)
M5x50 のドリリングタッピンねじ(六角頭)に、バレルめっき法により、純亜鉛めっき、亜鉛−12%ニッケルめっき、低ニッケル−亜鉛合金めっき、低ニッケル−低コバルト−亜鉛合金めっきを行い、ねじの耐食性と打ち込み性を調査した。めっき方法は実施例1と同じとし、評価は、ドリリングタッピンねじを亜鉛めっき厚が40μmの鋼材の接合に用いることを想定して行った。評価方法は、ねじ込み時間の評価に板厚2.3mmの圧延鋼板を用いたこと、暴露試験期間を2年間としたことを除いて、実施例1と同じとした。以上の試験条件及び結果をまとめて表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果から、本発明例が、耐食性、作業性とも、純亜鉛40μmよりも優れていることが明らかである。
【0047】
バレルめっきで40μm厚のめっきを得るには、めっき条件にもよるが、6〜10時間が必要であり、現実的ではない。しかし、本発明によれば、半分から1/3のめっき厚で、40μmの純亜鉛めっきと同等以上の性能を有するドリリングタッピンねじが得られる。これは、現在行われている、めっき厚20μmの純亜鉛めっきの条件とほぼ同等であり、十分に工業的に成立するめっき条件である。
(実施例3)
M5x50 のドリリングタッピンねじ(六角頭)に、バレルめっき法により、純亜鉛めっき、低ニッケル−亜鉛合金めっきを行い、ベーキング処理の違いによるねじの「首とび」現象への影響を調査した。評価方法は、1.6(厚)x500x500(mm)の鋼板を重ね、25本のドリリングタッピンねじを格子状に打ち込み、一週間後にねじの状態を調査した。一種類のねじについて、4回、計100本のねじについての評価を行った。以上の試験条件及び結果をまとめて表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
表3の結果から、本発明例では、めっきを中断して行う場合と同条件のベーキング処理をめっき後に行うことで、水素除去が問題なく行われていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリリングタッピンねじの表面に、ニッケル又はコバルトの1種又は2種を、質量%で、合計で0.1%以上7%以下含有し、残部が亜鉛及び不可避不純物からなる亜鉛系合金めっき層を有することを特徴とするドリリングタッピンねじ。
【請求項2】
前記亜鉛系合金めっき層が、ニッケルを、質量%で、0.5%以上6%以下含有し、残部が亜鉛及び不可避不純物からなることを特徴とする請求項1に記載のドリリングタッピンねじ。
【請求項3】
前記亜鉛系合金めっき層が、コバルトを、質量%で、0.1%以上3%以下含有し、残部が亜鉛及び不可避不純物からなることを特徴とする請求項1に記載のドリリングタッピンねじ。
【請求項4】
前記亜鉛系合金めっき層が、質量%で、0.5%以上6%以下のニッケルと、0.1%以上3%以下のコバルトを含有し、且つ、ニッケルとコバルトの合計量が7%以下であり、残部が亜鉛及び不可避不純物からなることを特徴とする請求項1に記載のドリリングタッピンねじ。
【請求項5】
前記亜鉛系合金めっき層の厚みが4μm以上12μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載のドリリングタッピンねじ。
【請求項6】
前記亜鉛系合金めっき層上に、化成処理層を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載のドリリングタッピンねじ。
【請求項7】
ドリリングタッピンねじの製造方法において、その表面を、ニッケル又はコバルトの1種又は2種を、質量%で、合計で0.1%以上7%以下含有し、残部が亜鉛及び不可避不純物からなる亜鉛系合金めっきを施すことを特徴とするドリリングタッピンねじの製造方法。
【請求項8】
前記亜鉛系合金めっきが、ニッケルを、質量%で、0.5%以上6%以下含有し、残部が亜鉛及び不可避不純物からなる亜鉛系合金めっきであることを特徴とする請求項7に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。
【請求項9】
前記亜鉛系合金めっきが、コバルトを、質量%で、0.1%以上3%以下含有し、残部が亜鉛及び不可避不純物からなる亜鉛系合金めっきであることを特徴とする請求項7に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。
【請求項10】
前記亜鉛系合金めっきが、質量%で、0.5%以上6%以下のニッケルと、0.1%以上3%以下のコバルトを含有し、且つ、ニッケルとコバルトの合計量が7%以下であり、残部が亜鉛及び不可避不純物からなることを特徴とする請求項7に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。
【請求項11】
前記亜鉛系合金めっきがバレルめっき法により施されることを特徴とする請求項7〜10のいずれかの項に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。
【請求項12】
前記亜鉛系合金めっきの厚みを4μm以上12μm以下とすることを特徴とする請求項7〜11のいずれかの項に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。
【請求項13】
前記亜鉛系合金めっきを施した後に、化成処理を行うことを特徴とする請求項7〜12のいずれかの項に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。
【請求項14】
前記亜鉛系合金めっき完了後に、水素脆化防止のためのベーキング処理を行うことを特徴とする請求項7〜13のいずれかの項に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。
【請求項15】
前記亜鉛系合金めっき及び化成処理を行った後に、化成処理後の乾燥工程と水素脆化防止のためのベーキング処理を兼ねた加熱処理を行うことを特徴とする請求項13に記載のドリリングタッピンねじの製造方法。

【公開番号】特開2009−257469(P2009−257469A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107161(P2008−107161)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】