説明

ナイロン中空繊維およびその製造方法、ナイロン変形断面繊維およびそれを用いた編地

【課題】強度や耐擦過性が高く、耐潰れ性や軽量・保温性等にも優れ、かつ吸放湿性、紫外線遮蔽性・遮熱性等の快適性にも優れた高品位のナイロン中空繊維を提供する。
【解決手段】相対粘度が2.9〜4.0であるナイロンからなり、中空率が10〜30%の中空部を有するナイロン中空繊維であって、ポリビニルピロリドンを3〜15重量%含有することを特徴とするナイロン中空繊維。 相対粘度が2.9〜4.0であるナイロンからなり、中空率が10〜30%の中空部を有するナイロン中空繊維であって、赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末を0.5〜5重量%含有することを特徴とするナイロン中空繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空を有するナイロン繊維の改良に関するものである。さらに詳しくは、耐潰れ性、耐擦過性を損なうことなく布帛の吸放湿性、紫外線遮蔽性・遮熱性等の快適性を向上させ、軽量・保温性に優れ、スポーツウェアやインナーウェア、カバン地等の用途に好適なナイロン中空繊維に関するものである。
【0002】
また、本発明は、紫外線遮蔽性、遮熱性を有するナイロン繊維の改良に関するものである。さらに詳しくは、吸汗性を向上させた、ナイロン繊維および編地に関するものである。
【背景技術】
【0003】
ナイロン繊維は、機械的性質、化学的性質、肌触り、光沢性等において優れた特性を有することから一般衣料製品等の用途で広く使用されている。ナイロン繊維製衣料製品においては風合いの良さや機能付与に対するニーズが強く、なかでも軽量感、保温性に対する要望が強い。そこで、軽量・保温性等という観点から衣料用のナイロン製中空繊維が検討されているが、紡糸口金によって中空繊維を製造する方法では、ポリエステル繊維では特許文献1で提案されているもののナイロンの場合、ポリエステルと異なり高い中空率を安定して得ることが難しかった。そこで、先に特許文献2記載の技術を提案した。
【0004】
また、ナイロン繊維は、機械的性質、化学的性質、肌触り、光沢性等において優れた特性を有することから一般衣料製品等の用途で広く使用されている。特に、インナーウェアについては、ポリアミド繊維の有するしなやかさ、ドレープ性や表面のなめらかなタッチ、着用時のひんやり感等が好まれ、女性用のランジェリーやファンデーションとして多く用いられてきている。その要求特性は風合いの良さだけでなく機能付与に対するニーズが強く、最近では、太陽光がもたらす日焼けや熱さ対策の要望が強い。そこで、紫外線遮蔽、遮熱性の観点から、例えば、特許文献3に提案されている繊維は芯鞘構造をとっており、芯部に熱可塑性繊維との屈折率差が大きく(PET 1.5〜1.7、ポリカプラミド 1.55、酸化チタン 2.5〜2.9)さらに可視〜近赤外領域において分光反射スペクトルの反射率は90%を越える高い反射率を有している酸化チタンを多量に添加させて、可視〜近赤外領域の光を反射することによって遮蔽している。一方、鞘部において酸化チタンを含まないポリマーを用いることによって発色性を改善している。この繊維を例えばポロシャツに用いた場合、太陽光による輻射熱(可視〜近赤外領域)を遮ることによって衣服内の温度上昇を抑制することが期待できる。しかしながら、添加されている酸化チタンは赤外線領域で反射していると同時に可視光領域においても反射しているために白っぽく見える、いわゆるダル化を生じるため、鮮明な発色性を発現させることはできず、鞘側に酸化チタンを含まないポリマーを配置したとしても淡色での鮮やかな発色は極めて困難である。また、芯鞘構造を取っているため、2種のポリマーを供給できる紡糸機を用いなければならず、口金構造が複雑であり、異形断面やフィラメント数の変更などユーザーニーズに対応しにくいという問題を有している。
【0005】
特許文献4には、酸化亜鉛または酸化亜鉛を主体とするセラミック粉末がポリエステル繊維、ポリアミド繊維等に対して1〜40重量%含有させることにより、熱線を遮蔽することが提案されている。熱可塑性繊維と酸化亜鉛の屈折率差は比較的小さいため、透明性や鮮明な発色性を大きく低下させることがない。しかし、特許文献2に用いられている酸化亜鉛は近赤外領域での分光反射スペクトルが90%を越える高い反射率を有しているものの、熱可塑性繊維と酸化亜鉛の屈折率差(酸化亜鉛1.9〜2.0)が比較的小さいことから反射による寄与は小さく、熱線遮蔽は限定的な効果となる。また、同様に散乱による効果も期待できない。
【特許文献1】特開平7−268727号公報
【特許文献2】特開平9−217225号公報
【特許文献3】特開平11−217732号公報
【特許文献4】特公平7−68647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、近年は消費者ニーズが多様化してきており、快適性がさらに求められてきている。しかしながら、快適性を向上させるため、例えば紫外線遮蔽に効果のある酸化チタン等を添加すると、ナイロンの重合度が低下するために中空形成が低下し、安定した高い中空率を安定して得ることは難しかった。
【0007】
そこで、本発明は、耐潰れ性、耐擦過性を損なうことなく布帛に吸放湿性、紫外線遮蔽性・遮熱性等の快適性を向上させ、軽量・保温性に優れ、スポーツウェアやインナーウェア、カバン地等の用途に好適なナイロン中空繊維を提供することを主な目的とする。
【0008】
また、近年は消費者ニーズが多様化してきており、快適性がさらに求められてきている。そこで、本発明は、吸水性の快適性を向上させ、紫外線遮蔽性、遮熱性に優れ、スポーツウエアの用途に好適なナイロン変形断面繊維、編地を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のナイロン中空繊維およびその製造方法は主として次の構成を有する。すなわち、
(1)相対粘度が2.9〜4.0であるナイロンからなり、中空率が10〜30%の中空部を有するナイロン中空繊維であって、ポリビニルピロリドンを3〜15重量%含有することを特徴とするナイロン中空繊維、
(2)相対粘度が2.9〜4.0であるナイロンからなり、中空率が10〜30%の中空部を有するナイロン中空繊維であって、赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末を0.5〜5重量%含有することを特徴とするナイロン中空繊維、
(3)中空部が変形度1.2〜1.6の三角形状であることを特徴とする前記記載のナイロン中空繊維、
(4)繊維断面が円状であることを特長とする前記記載のナイロン中空繊維、
(5)ナイロンを複数のスリットからなる吐出孔から吐出線速度3〜10cm/secで吐出させ、溶融紡糸することにより前記記載のナイロン中空繊維を製造することを特徴とするナイロン中空繊維の製造方法、
(6)赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末を0.5〜5重量%含有し、繊維横断面が変形度1.7以上で3葉以上の多葉形であることを特徴とするナイロン変形断面繊維、
(7)繊維横断面が変形度1.7以上で3葉以上の多葉形であることを特徴とする(6)記載のナイロン変形断面繊維、
(8)赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末を0.5〜5重量%含有し、繊維横断面が変形度1.7以上で3葉以上の多葉形であるポリアミド繊維を用いた編地、
(9)繊維横断面が変形度1.7以上で3葉以上の多葉形であるポリアミド繊維を用いた(8)記載の編地、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のナイロン中空繊維によると、強度や耐擦過性が高く、耐潰れ性や軽量・保温性等にも優れ、かつ吸放湿性、紫外線遮蔽性・遮熱性等の快適性にも優れた高品位のナイロン中空繊維を得ることができる。しかも、そのナイロン中空繊維を製糸性良く製造することもできる。
【0011】
従って、本発明のナイロン中空繊維は、衣料用繊維製品を製造するための繊維素材として有用であり、なかでもスポーツウェア、インナーウェア、カバン地用として特に有用である。
【0012】
本発明のナイロン変形断面繊維によると、紫外線遮蔽性、遮熱性に優れ、吸水性の快適性にも優れた高品位のナイロン変形断面繊維を得ることができる。
【0013】
従って、本発明のナイロン変形断面繊維は、衣料用繊維製品を製造するための繊維素材として有用であり、なかでもスポーツウェア、インナーウェア用として特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明のナイロン中空繊維を実施するための最良の形態について説明する。本発明はこれに限られるものではない。
【0015】
本発明のナイロン中空繊維は、所望の中空形状、中空率及び高強力を保持するために、相対粘度が2.9以上のナイロンポリマで形成されていることが必要である。相対粘度が2.9未満では、中空率10%以上のナイロン中空繊維とすることが難しい。また、中空率は10〜30%が必要であるが、繊維横断面形状の潰れ易さという点や高い軽量・保温性を得るという点を総合的に考慮すると、好ましい中空率は20〜25%であり、この中空率を得るためには相対粘度は3.1以上とすることが好ましい。また、相対粘度が4.0を超えると溶融時のポリマ粘性が過度に高くなり製糸性が悪化するので、好ましくは3.7以下である。ここで、ナイロンは、ナイロン6、ナイロン66で代表され、それらを主体とする共重合体や混合物であってもよい。
【0016】
本発明のナイロン中空繊維の繊維横断面における中空部の占める面積、即ち中空率は、10〜30%の範囲内であることを要する。中空率が10%未満では製品とした時の軽量・保温性の効果が不十分である。中空率が高いほど、軽量・保温性が高まるので好ましいが、あまりにも高過ぎると高次加工工程において繊維横断面の潰れが発生し易くなるので、得られる繊維製品において所望の中空率を保持することができない。しかも、高過ぎる中空率では繊維製品を使用中においても繊維横断面の潰れが発生し易く、所望の特性を維持することが難しい。これらの点から、中空率は30%以下であることが必要であり、特に20〜25%の中空率が好ましい。
【0017】
本発明のナイロン中空繊維は、ポリビニルピロリドンを3〜15重量%含有していることが必要である。ここで、発明者らは鋭意検討し、ポリビニルピロリドンを添加することによりいくつかの効果を見いだした。
【0018】
一つ目の効果は、吸放湿性の向上である。ポリビニルピロリドンが3重量%未満の場合は充分な吸放湿性能が得られない。15重量%を越えると、ポリビニルピロリドンがナイロンの結晶構造をランダムにする作用をもたらし、寸法安定性、染色堅牢性(洗濯)が悪くなるとともに、製糸性も悪化するため好ましくない。
【0019】
二つ目の効果として、保温性の向上が挙げられる。もともと中空繊維は、中空部に空気をため、空気とナイロンの熱伝導率の差を利用して、人体から発する湿潤熱をデッドエアーにより断熱保温することにより保温性は向上する構造である。これに対し、本発明ではナイロン中にポリビニルピロリドンを添加することにより、湿潤熱が高くなり保温性が飛躍的に向上していることを見いだした。
【0020】
一般的に、ポリビニルピロリドンは、水を重合時溶媒として製造され、そのとき副生成物としてピロリドン含有率は0.13〜0.30重量%含まれる。このポリビニルピロリドンをナイロンに添加して繊維とした場合、ナイロンの黄変を促進し、染色して織編物としたときの色調がくすみ感がでてしまい、審美性が追求される衣料用途には不満足のものとなる。そのため、このピロリドン含有率とナイロンの黄変を追求したところ、ピロリドンが0.05重量%以下と極めて少量であるポリビニルピロリドンが好ましいことを見いだした。この特定のポリビニルピロリドンは、イソプロピルアルコールを重合時の溶媒として製造されることが好ましい。
【0021】
また、ポリビニルピロリドンは、極めて水溶性が高いので、ナイロンに含有させた後でも繊維表面へブリードアウトし易い性質を持っている。また、副生生物のピロリドンも同様である。従って、本発明のナイロン中空繊維は、水溶性成分の溶出率が5重量%以下、さらには3重量%以下であることが好ましい。この溶出率は、本発明のナイロン中空繊維を沸騰水中で30分間処理した時の重量変化率から求めた水溶性成分の溶出率の値である。溶出率が5重量%を越えると、ポリビニルピロリドン又はピロリドンが繊維表面へブリードアウトし、繊維表面に凹凸を生じさせ風合いを悪くしたり、吸放湿性が低下することにより、快適性(ムレ感、保温性)を低下させる。
【0022】
この溶出率を所望の低水準とするためには、ポリビニルピロリドンとナイロンのポリマとの分子鎖の絡み合いを強くする手段を取ることが好ましい。例えば、ナイロンポリマにポリビニルピロリドンを、低酸素濃度8%以下の環境下でエクストルーダーによる練り混み法により混合させ、ポリビニルピロリドン濃度が10〜50wt%である高濃度マスタポリマを製造した後、チップブレンド法によりポリビニルピロリドンが所定濃度のポリマ組成物とし、溶融紡糸により製糸することが好ましい。
【0023】
本発明のナイロン中空繊維は、赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末を0.5〜5重量%含有することが必要である。ここで、発明者らは鋭意検討し酸化亜鉛を添加することによりいくつかの効果を見いだした。
【0024】
一つ目の効果は、紫外線遮蔽性、遮熱性である。もともと、酸化亜鉛は、酸化チタン同様に紫外線遮蔽性があることは知られている。本発明に用いる赤外線吸収性を有する酸化亜鉛は紫外線吸収性を有し、比較的屈折率が低く、白色であるため、繊維中に分散していても染色した際に発色性を阻害しないという特徴に加え、赤外線を吸収するという特徴を有するため繊維製品に含有したとき、輻射による加熱を抑制するという効果が得られる。例えば、衣料品に用いた場合、衣服内の温度上昇を抑制し、傘地やタープのテント地に用いた場合、日差しによる暑さを緩和させることが可能となる。
【0025】
ここで赤外線を吸収するとはセルに粉体を充填して測定した場合の分光反射スペクトルによって測定可能である。図1に本発明に用いる赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粒子の分光反射スペクトルを示す。200〜2400nmの測定領域において、200nm〜380nmの領域で強い紫外線吸収が存在し、380〜1100nmにおいては高い反射を示す。さらに、1100nm〜2400nmにおいては長波長になるに従い、反射が減少し、吸収されていることがわかる。上記波長範囲は赤外線領域であり、紫外線、可視光線に比べてエネルギーとしては小さいが、熱的作用が大きく熱線と呼ばれている。熱可塑性繊維中に赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末が存在する場合、両者の屈折率差が小さいため、分光反射スペクトルでの反射ではなく吸収により、効率的に遮蔽できるのである。
【0026】
赤外線領域での吸収メカニズムは電子分布の疎密の振動であるプラズマ振動により赤外線領域の電磁波は通過できずに全反射されるが、反射を繰り返すうちに熱として吸収されて減衰しているものと推定している。一方、赤外線吸収性を有さない酸化亜鉛粒子ではこのメカニズムにより赤外線を吸収することがない。本発明では、赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粒子を選定して使用することが必要である。
【0027】
二つ目の効果は、白色顔料である酸化亜鉛を添加しても光沢感を損なうことなく、染色
して織編物としたときの色調がくすみ感を生じさせることなく、審美性に優れた織編物のものとなる。本発明では、赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末は、製法や、ドーピング、コーティング等の制約を受けないが、繊維中に分散させる場合、繊維の強度特性のため、粒子径は小さい方が好ましく、製糸性から平均粒径1μ以下であることがより好ましい。また、ドーピングやコーティングを行うときには着色しない方が好ましく、一般にドーピングした場合、着色すること、さらにコストアップすることからドーピングしない方がより好ましい。前述のごとく製法に制限はないが、後述のように繊維の透明性を高める観点からも粒子径が小さい方がより好ましく、湿式法や蓚酸亜鉛の熱分解を利用する製法が好ましく用いられる。ただし、他の製法においても粉砕方法、分級等により得られるのであれば、制限されるものではない。
【0028】
酸化亜鉛粉末の繊維中含有量として、繊維の強度特性からすると少ない方が好ましいが、紫外線や赤外線の吸収性能としては多い方が好ましく、このバランスから0.5〜5重量%である必要がある。これ以上多量に含有させた場合、繊維の透明性、発色性が低下するばかりか、繊維の強度特性が低下してしまい好ましくない。一方、含有量が0.5%を下回る場合には繊維による赤外線吸収の効果が期待できないため、好ましくない。
【0029】
本発明の目的である繊維製品の発色性を維持しながら赤外線吸収を高効率に行うためには、酸化亜鉛粉末の波長500nmにおける分光反射率が90%以上であり、波長2400nmにおける分光反射率が70%以下であることが好ましい。
【0030】
すなわち、500nmを中心とした可視領域において分光反射率が90%以上と極めて高い場合、熱可塑性繊維と酸化亜鉛との屈折率差が小さいことと相まって、透明性や発色鮮明性に優れた熱可塑性繊維、布帛、繊維製品とすることができる。一方、2400nmを中心とした近赤外領域において分光反射率が70%以下であるということは、近赤外領域を吸収により遮蔽していることを意味し、輻射熱が遮蔽されていることを実感することができるようにするためには、酸化亜鉛の添加率にも依存するものの分光反射率が70%以下であることが好ましい。
【0031】
また、傾向として粒子径が小さいほど波長500nmにおける分光反射率は高く、波長2400nmにおける分光反射率は低下する傾向にあるため、上記分光反射特性を得るためには粒径を小さくすることが必要である。特に1次粒子径が0.1μmを下回るような超微粒子酸化亜鉛粉末を用いることにより、酸化亜鉛粉末の波長500nmにおける分光反射率が95%以上であり、波長2400nmにおける分光反射率が60%以下とすることが可能となり、上記と同様な理由のためより好ましい。
【0032】
前述のごとく、酸化亜鉛粉末の粒径を小さくすることにより、製糸時の操業性安定、繊維の強度特性維持、可視光領域での透明性と赤外領域での高い吸収を得られることを説明したが、さらに発色性の維持のために粒子径が小さいことが好ましい。すなわち、光の波長よりも小さい粒子による散乱はレイリー散乱によって表されるが、散乱の大きさは粒径の六乗に比例することから、散乱を小さくする重要な要因である。したがって、熱可塑性繊維中の前記酸化亜鉛粉末の一次粒子径が0.01〜0.1μm、該酸化亜鉛粉末の二次粒子の粒径が1μmを越える粒子数の割合が0.1%以下であることが好ましい。
【0033】
酸化亜鉛は優れた紫外線吸収性能を持つ一方、この紫外線吸収による光活性触媒作用があることが知られており、特に粒子径が小さくなるとその作用も強くなる。光活性触媒作用によって消臭作用や抗菌性が得られる一方、熱可塑性繊維のポリマーも劣化させてしまい、強度低下や着色等が生じる。したがって、実用強度を維持し、優れた発色性を維持するためには、酸化亜鉛粉末はシリカやアルミナなどの無機酸化物で被覆されていることがより好ましい。これにより光触媒活性を完全になくすことができる。また、同時に二次凝集を抑制し、ポリマー中での分散性向上に寄与する。ここで、無機酸化物被膜の膜厚は3nm程度の極薄膜により効果がある。
【0034】
前述のように一次粒子を微粒子化していくと繊維中に分散させる際、凝集が問題となってくる。凝集により二次粒子が大きくなると、いくら一次粒子を小さくしても透明性が低下してくる。したがって、熱可塑性繊維中に酸化亜鉛粉末を分散させる場合、酸化亜鉛粉末の表面を疎水化しているほうが、分散性に優れ、凝集を抑制できるために好ましい。さらに疎水化によって酸やアルカリ耐性化を進めることとなり好ましい。すなわち、布帛を精練やアルカリ減量処理を行うに当たって、酸化亜鉛は酸・アルカリと反応を起こしやすく、溶出しやすいため、繊維中に分散させている酸化亜鉛粉末が染色加工によって溶出することを防ぐためにも好ましい。
【0035】
ここで、疎水化の方法としては、特に限定されるものではないが、シリコーン化合物での表面処理などが上げられる。例えば、シリコーン化合物としてはジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルプロピルポリシロキサン、プロピルハイドロジェンポリシロキサン、パーフルオロジメチルポリシロキサン等が挙げられるが、これに限定されるものではない。添加率としては酸化亜鉛粉末に対して0.1〜30重量%が好ましい。
【0036】
また、シリコーン化合物による表面処理は、無機酸化物による被膜を形成した後に行うことがより好ましい。
【0037】
前述のように熱可塑性繊維に赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末を0.5〜5重量%分散させることにより、紫外線吸収だけでなく、赤外線遮蔽効果が得られ、輻射を遮ることによって衣服内温度の上昇が抑制される。
【0038】
酸化亜鉛を含有せしめる方法としては、ナイロンチップへ酸化亜鉛をブレンドし溶融する方法、ナイロンチップへ高濃度の酸化亜鉛を含有するマスタペレットをブレンドし溶融する方法、溶融状態のナイロンへ酸化亜鉛を添加し混練する方法、ナイロンの重合前あるいは重合中の段階で原料あるいは反応系へ酸化亜鉛を添加する方法などが挙げられるが、両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
【0039】
本発明のナイロン中空繊維は、下記一般式(1)または(2)で示されるジアミド化合物を0.01〜2重量%含有していることが好ましい。
【0040】
【化1】

【0041】
(ただし、R1、R4は炭素原子数10〜20のアルキル基、R2,R3は水素原子、メチル基、またはエチル基、nは1〜10の整数を示す。)
【0042】
従来、中空率を上げるためには、ポリマの重合度を増大させて溶融粘度を上昇させたり、口金の形状を工夫するといった手法が採られてきた。しかしながら、前述したポリビニルピロリドン、酸化亜鉛等の機能剤は、ナイロンの重合度を低下させる可塑剤として働き、それに伴い中空率が低下するという問題が生じるため、機能性付与しつつ中空率を向上させるには限界がある。そのため、所望の中空率を得るために、ナイロン中にジアミド化合物を微量添加することにより、ポリマ重合度や口金形状の工夫などによらず中空率を向上させることができるものである。ジアミド化合物の作用機構についてはこれを完全に解明しているものではないが、吐出時におけるポリマの表面張力上昇に寄与し、中空形成性が向上するものと推定される。特に、酸化チタンや酸化亜鉛に代表される白色顔料がナイロンに含まれる場合にその効果は顕著となるため、併用することが好ましい。
【0043】
本発明で用いられるジアミド化合物は、ジカルボン酸とアルキルモノアミンとの反応により、あるいはアルキレンジアミンとモノカルボン酸との反応により調整される。代表的ジアミンとしては、メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミンがあり、炭素数1〜10までのアルキレンジアミンが含まれる。また、代表的ジカルボン酸はコハク酸、アジピン酸、セバシン酸であり、炭素数2〜12までのジカルボン酸が含まれる。
【0044】
アルキルモノアミンには、オクタデシルアミン、メチルオクタデシルアミン、エチルオクタデシルアミン等のように炭素数10〜20のアルキル基で置換された1級アミン、およびそれらが更にメチル基、エチル基で置換された2級アミンが含まれる。
【0045】
モノカルボン酸としては、ラウリン酸、パルチミン酸、ステアリン酸等、11〜21個の炭素原子を持つアルキルモノカルボン酸が含まれる。
【0046】
ジアミド化合物の添加量は0.01重量%未満であると耐摩耗性向上効果や中空率向上効果が充分でない。また、2重量%を超えると製糸性が悪化するとともに製造コストがかかるため良くない。好ましくは0.05〜1.5重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。
【0047】
ジアミド化合物を含有せしめる方法としては、ナイロンチップへジアミド化合物をブレンドし溶融する方法、ナイロンチップへ高濃度のジアミド化合物を含有するマスタペレットをブレンドし溶融する方法、溶融状態のナイロンへジアミド化合物を添加し混練する方法、ナイロンの重合前あるいは重合中の段階で原料あるいは反応系へジアミド化合物を添加する方法などが挙げられるが、両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
【0048】
本発明のナイロン中空繊維は、マグネシウム化合物を0.01〜1%含有することが好ましい。マグネシウム化合物は溶融紡糸により繊維を製造するときに発生するモノマー、オリゴマーの生成を抑制し、口金孔周辺の汚染を防ぐ効果がある。マグネシウム化合物の含有量が0.01%未満の場合、モノマー、オリゴマーの生成を抑制する効果が不十分である。1%を超える場合、効果は同程度であるが、ポリマ中の不溶解異物として残存したマグネシウム化合物が紡糸フィルターで詰まり、濾過圧力上昇速度が速くなるので、さらに好ましい含有量は0.02〜0.08%である。
【0049】
本発明のナイロン中空繊維に含有されるマグネシウム化合物としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなど、およびこれらの混合物が挙げられるが、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムを用いることが好ましい。これらマグネシウム化合物の平均粒子径は10μm以下であることが好ましい。平均粒子径が10μmを超えると、例えば、ポリアミド繊維を製造する時、異物除去のため設置したフィルターでの濾過圧力上昇、ポリアミド繊維の物性低下などの問題を引き起こすので、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0050】
またマグネシウム成分を含有せしめる方法としては、ポリアミドペレットへマグネシウム化合物をブレンドし溶融する方法、ポリアミドペレットへ高濃度のマグネシウムを含有するマスタペレットをブレンドし溶融する方法、溶融状態のポリアミドへマグネシウム化合物を添加し混練する方法、ポリアミドの重合前あるいは重合中の段階で原料あるいは反応系へマグネシウム化合物を添加する方法などが挙げられるが、両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
【0051】
本発明のナイロン中空繊維は、中空部を有していればその形状はいかなるものでもよい。例を挙げると円形中空部や多角中空部、さらには複数の中空部を持つ田型中空部などが挙げられるが中でも中空部の形状が三角形状であることが好ましい。中空部が三角形状であることによって、延伸時および高次加工工程での中空部の潰れ、即ち中空率の低下が少なくなる。一般的に中空繊維の製造およびその高次加工工程において、中空繊維はローラ類との接糸圧やガイド類での摩擦力あるいは他の外力によって、繊維に横方向からの圧力が加わり繊維断面が楕円形や偏平形に潰れ中空率が低下する。この現象は中空率が高い中空繊維ほど起こり易い。三角形状とは、全体として三角形状であり好ましくは正三角形であるが、外側に膨らんだ曲面から形成される三角形状(所謂おむすび型)であってもよい。そのときの中空部の三角形状としては、中空部の重心から中空部の外周までの最短距離と最長距離との比で表される変形度が、1.2〜1.6の範囲内であることが好ましい。また、本発明のナイロン中空繊維の外周形状は、円状であることが好ましいが、三角形状でもよく、他の多角形状でもよい。
【0052】
本発明のナイロン中空繊維は衣料用及び衣料資材用途に使用する場合、単糸繊度が0.8〜5dtexであることが好ましい。単糸繊度が0.8dtex未満であると、糸ムラが発生するとともに製糸性が悪化し生産に耐えられない。また、布帛としたときにも擦過による布帛表面の毛羽立ちが発生し実用的でない。また、単糸繊度が5dtexを超えると布帛の粗硬感が生じるため好ましくない。
【0053】
本発明のナイロン中空繊維の長さ方向の太さ斑はウスター1/2イナートで2%以下であることが好ましい。中空繊維は口金吐出孔形状が複雑であり吐出線速度が低くなる関係上、ウスターが高くなる傾向にあり、単糸繊度が細くなればなるほどその傾向は顕著となる。ウスターが1/2イナートで2%を超えると布帛としたときのタテスジ、ヨコムラなどが目立つようになり品位が悪化する。さらにこのましくは1.5%以下である。
【0054】
本発明のナイロン中空繊維は、高粘度ナイロンを、複数のスリットからなる吐出孔より吐出線速度3〜10cm/secで吐出させ、溶融紡糸することにより製造することができる。溶融紡糸における溶融温度は、紡糸可能であれば特に限定されず、通常のナイロンの溶融紡糸温度と同程度でもよい。
【0055】
溶融紡糸された糸条は、冷却、給油の後、1000m/分以下の速度で一旦未延伸糸を巻き取り、巻き取った未延伸糸を延伸機に仕掛けて1.5〜4倍程度延伸して目的の繊維を得てもよいし、冷却、給油、交絡の後、1000m/分以上の速度で紡糸引取りし、一旦巻き取ることなく引き続いて1.2〜3.0倍に延伸し、130℃以上の温度で熱処理し、3000m/分以上の速度で巻取る高速直接熱延伸法で製造してもよい。また、冷却、給油、交絡の後、3000m/分以上の速度で紡糸引取りし、一旦巻き取ることなく実質延伸しないで3000m/分以上の速度で紡糸引取る高速法によって、POYを製糸し、その後、中空構造を保持する条件において、仮撚加工などを施すことも可能である。
【0056】
図2および図3はそれぞれ本発明の繊維断面形状と吐出孔形状を模式的に示したものであるが、図3a、図3bの吐出孔形状は、それぞれ、図2a、図2bの中空繊維を得るために使用できるものであり、このスリットよりポリマを吐出する際の吐出線速度は3〜10cm/secとすることが、所望の中空率を有する中空繊維を糸ムラ無く、紡糸性良く製造するために好ましい。
【0057】
このように製糸して得られたナイロン中空繊維は、通常のナイロン繊維と同様に後加工することができる。特に、タスラン加工と称される流体処理加工によって嵩高性を付与することが、軽量・保温性の効果をさらに高めるために有効である。
【0058】
また、以下本発明のナイロン変形断面繊維を実施するための最良の形態について説明する。本発明はこれに限られるものではない。
【0059】
本発明のナイロン変形断面繊維は、変形度が1.7以上、さらには2.4以上であることが必要である。変形度が1.7以上の高変形断面とすることによってフィラメントどうしの間に毛細管が形成され、毛細管現象により吸水性がより高められるとともに、速やかな拡散と発散により乾燥がより速くなる。さらに、変形度が高い故に繊維表面積が大きくなるので、吸湿速度もより向上する。一方、高異形となれば吸水性は向上するが、高異形製糸の安定生産、高異形ノズルの製造の点から、2.4〜3.5であることが好ましい。
【0060】
また、本発明のナイロン変形断面繊維は、3葉以上の多葉断面形断面繊維で用いることが、吸湿速度や吸水性の向上のために必要である。3葉以上の多葉断面形とすることによってフィラメントどうしの間に毛細管が多く形成され、毛細管現象により吸水性がより高められるとともに、速やかな拡散と発散により乾燥がより速くなる。さらに、多葉断面形とすることで、肌に触れたときの接触面積が小さくなり、べとつき感のないさわやかなタッチが得られ、特に夏場におけるインナーウエアとして好適である。
【0061】
ここで繊維の変形度は、単繊維の横断面形状において、その形状の重心位置から横断面外周への距離のうちの最短距離と最長距離とを求め、最長距離/最短距離の値でもって定義される。
【0062】
本発明のナイロン変形断面繊維は、赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末を0.5〜5重量%含有することが必要である。ここで、発明者らは鋭意検討し酸化亜鉛を添加することによりいくつかの効果を見いだした。
【0063】
一つ目の効果は、紫外線遮蔽性、遮熱性である。もともと、酸化亜鉛は、酸化チタン同様に紫外線遮蔽性があることは知られている。本発明に用いる赤外線吸収性を有する酸化亜鉛は紫外線吸収性を有し、比較的屈折率が低く、白色であるため、繊維中に分散していても染色した際に発色性を阻害しないという特徴に加え、赤外線を吸収するという特徴を有するため繊維製品に含有したとき、輻射による加熱を抑制するという効果が得られる。例えば、衣料品に用いた場合、衣服内の温度上昇を抑制し、傘地やタープのテント地に用いた場合、日差しによる暑さを緩和させることが可能となる。
【0064】
ここで赤外線を吸収するとはセルに粉体を充填して測定した場合の分光反射スペクトルによって測定可能である。図1に本発明に用いる赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粒子の分光反射スペクトルを示す。200〜2400nmの測定領域において、200nm〜380nmの領域で強い紫外線吸収が存在し、380〜1100nmにおいては高い反射を示す。さらに、1100nm〜2400nmにおいては長波長になるに従い、反射が減少し、吸収されていることがわかる。上記波長範囲は赤外線領域であり、紫外線、可視光線に比べてエネルギーとしては小さいが、熱的作用が大きく熱線と呼ばれている。熱可塑性繊維中に赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末が存在する場合、両者の屈折率差が小さいため、分光反射スペクトルでの反射ではなく吸収により、効率的に遮蔽できるのである。
【0065】
赤外線領域での吸収メカニズムは電子分布の疎密の振動であるプラズマ振動により赤外線領域の電磁波は通過できずに全反射されるが、反射を繰り返すうちに熱として吸収されて減衰しているものと推定している。一方、赤外線吸収性を有さない酸化亜鉛粒子ではこのメカニズムにより赤外線を吸収することがない。本発明では、赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粒子を選定して使用することが必要である。
【0066】
二つ目の効果は、白色顔料である酸化亜鉛を添加しても光沢感を損なうことなく、染色
して織編物としたときの色調がくすみ感を生じさせることなく、審美性に優れた織編物のものとなる。本発明では、赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末は、製法や、ドーピング、コーティング等の制約を受けないが、繊維中に分散させる場合、繊維の強度特性のため、粒子径は小さい方が好ましく、製糸性から平均粒径1μ以下であることがより好ましい。また、ドーピングやコーティングを行うときには着色しない方が好ましく、一般にドーピングした場合、着色すること、さらにコストアップすることからドーピングしない方がより好ましい。前述のごとく製法に制限はないが、後述のように繊維の透明性を高める観点からも粒子径が小さい方がより好ましく、湿式法や蓚酸亜鉛の熱分解を利用する製法が好ましく用いられる。ただし、他の製法においても粉砕方法、分級等により得られるのであれば、制限されるものではない。
【0067】
酸化亜鉛粉末の繊維中含有量として、繊維の強度特性からすると少ない方が好ましいが、紫外線や赤外線の吸収性能としては多い方が好ましく、このバランスから0.5〜5重量%である必要がある。これ以上多量に含有させた場合、繊維の透明性、発色性が低下するばかりか、繊維の強度特性が低下してしまい好ましくない。一方、含有量が0.5%を下回る場合には繊維による赤外線吸収の効果が期待できないため、好ましくない。
【0068】
本発明の目的である繊維製品の発色性を維持しながら赤外線吸収を高効率に行うためには、酸化亜鉛粉末の波長500nmにおける分光反射率が90%以上であり、波長2400nmにおける分光反射率が70%以下であることが好ましい。
【0069】
すなわち、500nmを中心とした可視領域において分光反射率が90%以上と極めて高い場合、熱可塑性繊維と酸化亜鉛との屈折率差が小さいことと相まって、透明性や発色鮮明性に優れた熱可塑性繊維、布帛、繊維製品とすることができる。一方、2400nmを中心とした近赤外領域において分光反射率が70%以下であるということは、近赤外領域を吸収により遮蔽していることを意味し、輻射熱が遮蔽されていることを実感することができるようにするためには、酸化亜鉛の添加率にも依存するものの分光反射率が70%以下であることが好ましい。
【0070】
また、傾向として粒子径が小さいほど波長500nmにおける分光反射率は高く、波長2400nmにおける分光反射率は低下する傾向にあるため、上記分光反射特性を得るためには粒径を小さくすることが必要である。特に1次粒子径が0.1μmを下回るような超微粒子酸化亜鉛粉末を用いることにより、酸化亜鉛粉末の波長500nmにおける分光反射率が95%以上であり、波長2400nmにおける分光反射率が60%以下とすることが可能となり、上記と同様な理由のためより好ましい。
【0071】
前述のごとく、酸化亜鉛粉末の粒径を小さくすることにより、製糸時の操業性安定、繊維の強度特性維持、可視光領域での透明性と赤外領域での高い吸収を得られることを説明したが、さらに発色性の維持のために粒子径が小さいことが好ましい。すなわち、光の波長よりも小さい粒子による散乱はレイリー散乱によって表されるが、散乱の大きさは粒径の六乗に比例することから、散乱を小さくする重要な要因である。したがって、熱可塑性繊維中の前記酸化亜鉛粉末の一次粒子径が0.01〜0.1μm、該酸化亜鉛粉末の二次粒子の粒径が1μmを越える粒子数の割合が0.1%以下であることが好ましい。
【0072】
酸化亜鉛は優れた紫外線吸収性能を持つ一方、この紫外線吸収による光活性触媒作用があることが知られており、特に粒子径が小さくなるとその作用も強くなる。光活性触媒作用によって消臭作用や抗菌性が得られる一方、熱可塑性繊維のポリマーも劣化させてしまい、強度低下や着色等が生じる。したがって、実用強度を維持し、優れた発色性を維持するためには、酸化亜鉛粉末はシリカやアルミナなどの無機酸化物で被覆されていることがより好ましい。これにより光触媒活性を完全になくすことができる。また、同時に二次凝集を抑制し、ポリマー中での分散性向上に寄与する。ここで、無機酸化物被膜の膜厚は3nm程度の極薄膜により効果がある。
【0073】
前述のように一次粒子を微粒子化していくと繊維中に分散させる際、凝集が問題となってくる。凝集により二次粒子が大きくなると、いくら一次粒子を小さくしても透明性が低下してくる。したがって、熱可塑性繊維中に酸化亜鉛粉末を分散させる場合、酸化亜鉛粉末の表面を疎水化しているほうが、分散性に優れ、凝集を抑制できるために好ましい。さらに疎水化によって酸やアルカリ耐性化を進めることとなり好ましい。すなわち、布帛を精練やアルカリ減量処理を行うに当たって、酸化亜鉛は酸・アルカリと反応を起こしやすく、溶出しやすいため、繊維中に分散させている酸化亜鉛粉末が染色加工によって溶出することを防ぐためにも好ましい。
【0074】
ここで、疎水化の方法としては、特に限定されるものではないが、シリコーン化合物での表面処理などが上げられる。例えば、シリコーン化合物としてはジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルプロピルポリシロキサン、プロピルハイドロジェンポリシロキサン、パーフルオロジメチルポリシロキサン等が挙げられるが、これに限定されるものではない。添加率としては酸化亜鉛粉末に対して0.1〜30重量%が好ましい。
【0075】
また、シリコーン化合物による表面処理は、無機酸化物による被膜を形成した後に行うことがより好ましい。
【0076】
前述のように熱可塑性繊維に赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末を0.5〜5重量%分散させることにより、紫外線吸収だけでなく、赤外線遮蔽効果が得られ、輻射を遮ることによって衣服内温度の上昇が抑制される。
【0077】
酸化亜鉛を含有せしめる方法としては、ナイロンチップへ酸化亜鉛をブレンドし溶融する方法、ナイロンチップへ高濃度の酸化亜鉛を含有するマスタペレットをブレンドし溶融する方法、溶融状態のナイロンへ酸化亜鉛を添加し混練する方法、ナイロンの重合前あるいは重合中の段階で原料あるいは反応系へ酸化亜鉛を添加する方法などが挙げられるが、両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
【0078】
本発明のナイロン変形断面繊維は、マグネシウム化合物を0.01〜1%含有することが好ましい。マグネシウム化合物は溶融紡糸により繊維を製造するときに発生するモノマー、オリゴマーの生成を抑制し、口金孔周辺の汚染を防ぐ効果がある。マグネシウム化合物の含有量が0.01%未満の場合、モノマー、オリゴマーの生成を抑制する効果が不十分である。1%を超える場合、効果は同程度であるが、ポリマ中の不溶解異物として残存したマグネシウム化合物が紡糸フィルターで詰まり、濾過圧力上昇速度が速くなるので、さらに好ましい含有量は0.02〜0.08%である。
【0079】
本発明のナイロン変形断面繊維に含有されるマグネシウム化合物としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなど、およびこれらの混合物が挙げられるが、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムを用いることが好ましい。これらマグネシウム化合物の平均粒子径は10μm以下であることが好ましい。平均粒子径が10μmを超えると、例えば、ポリアミド繊維を製造する時、異物除去のため設置したフィルターでの濾過圧力上昇、ポリアミド繊維の物性低下などの問題を引き起こすので、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0080】
またマグネシウム成分を含有せしめる方法としては、ポリアミドペレットへマグネシウム化合物をブレンドし溶融する方法、ポリアミドペレットへ高濃度のマグネシウムを含有するマスタペレットをブレンドし溶融する方法、溶融状態のポリアミドへマグネシウム化合物を添加し混練する方法、ポリアミドの重合前あるいは重合中の段階で原料あるいは反応系へマグネシウム化合物を添加する方法などが挙げられるが、両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
【0081】
溶融紡糸された糸条は、冷却、給油の後、1000m/分以下の速度で一旦未延伸糸を巻き取り、巻き取った未延伸糸を延伸機に仕掛けて1.5〜4倍程度延伸して目的の繊維を得てもよいし、冷却、給油、交絡の後、1000m/分以上の速度で紡糸引取りし、一旦巻き取ることなく引き続いて1.2〜3.0倍に延伸し、130℃以上の温度で熱処理し、3000m/分以上の速度で巻取る高速直接熱延伸法で製造してもよい。また、冷却、給油、交絡の後、3000m/分以上の速度で紡糸引取りし、一旦巻き取ることなく実質延伸しないで3000m/分以上の速度で紡糸引取る高速法によって、POYを製糸し、その後、仮撚加工などを施すことも可能である。
【0082】
本発明のナイロン変形断面繊維を構成するナイロンは、特に限定はしないが、製造コスト、繊維の強度保持の面からポリカプロラクタム(ナイロン6)繊維、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)繊維が好ましく、酸化チタンの分散性の観点からポリカプロラクタム繊維がさらに好ましい。
【0083】
本発明のナイロン変形断面繊維の繊度は特に限定されないが、単繊維繊度が0.5〜5デシテックス、さらには0.5〜3デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0084】
本発明のナイロン変形断面繊維を用いた編地は、ナイロン変形断面繊維のみを用いて編地としてもよいし、少なくとも一部に用いて編地としてもよい。例えば、ストレッチ性を持たせるためにポリウレタン等の弾性繊維と混合して形成しても良いし、さらにはポリエステルなどの他の合成繊維あるいは綿などの天然繊維と混合することも可能である。
【0085】
編地は、経編、横編、丸編などいくつかの種類があるがいずれでもよく公知の方法で編成することができる。一般的には経編の場合、まず経編用の糸をクリールに並べて整経をおこないビームに巻き経編の準備をおこなう。つづいてビームを編機上のフロントおよび/またはバックに仕掛けて編成をおこなう。編成される組織の一例としてはトリコット、ラッセル、レースなどが挙げられる。また、丸編の場合、丸編機にナイロン変形断面繊維および必要に応じて他の繊維を仕掛け編成すればよい。得られる組織の一例として靴下編み、天竺編み、ゴム編みなどが挙げられる。
【0086】
このようにして得られた編地はそのまま用いても良いし、精錬、染色、熱セットを施しても良い。染色は通常のポリアミド繊維の染色に使用する酸性染料を用いることができ、90℃以上の湯浴中にて60〜90分間程度処理することによりおこなわれる。
【0087】
本発明の変形断面繊維を用いて得られる編地からなる衣料品としては、ランジェリー、ファンデーション等のインナーウェア、水着、ランニングウェア、レオタード、スパッツ等のスポーツウェア、パンティストッキング、タイツ、靴下等のレッグウェア、Tシャツ、ポロシャツ、キャミソールなどのシャツ類、スカート、パンツなどのボトム、裏地、手袋などが挙げられる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。評価方法は、以下の通りである。
【0089】
A.相対粘度
試料を秤量した後、濃硫酸(98.0%)に溶解する。その0.5重量%溶液をオストワルド粘度計にて25℃で測定する。測定は2回おこない、その平均値を求める。
【0090】
B.中空率
繊維の横断面写真から、切り抜き重量法より中空部の断面積と、繊維外周内の断面積とを求め、次式により算出する。
中空率(%)=(中空部の断面積/繊維外周内の断面積)×100
単糸3本について上記方法により中空率を測定し、その平均値を求める。
【0091】
C.中空部の変形度
繊維の横断面写真から、中空部の重心から中空部の外周までの最長距離(L1)と最短距離(L2)とを求め、次式により算出する。中空部の変形度=L1/L2
単糸3本について上記方法により変形度を測定し、その平均値を求める。
【0092】
D.軽量性
試料糸からの長さ1mの筒編地の重量を測定し、下記の基準により判定する。
◎:12g未満
○:12以上15未満
×:不良:15g以上
【0093】
E.編地品位
試料糸からの筒編地を目視によって下記の基準で判定する。
○:編地面にスジやムラが殆ど認められない。
×:編地面にスジやムラが明らかに認められない。
【0094】
F.吸放湿性(△MR)
試料糸からの筒編地を精練し、油剤を除去した後、その約1gをガラス秤量瓶(風袋重量F)にいれ、乾燥機中110℃2時間の条件で乾燥する。瓶を密封し、デシケータ中で30分間放冷した後、試料の入った秤量瓶の総重量(K)を測定する。次に、20℃65%RHに設定された恒温恒湿槽((株)田葉井製作所製の恒温恒湿槽“レインボー”)に開放状態で入れ、24時間放置する。その後再び密封状態でデシケーター30分間放置後、試料の入った秤量瓶の重量(H)を測定する。引続き、30℃90%RHに設定された恒温恒湿槽に開放状態にした秤量瓶を入れ、24時間後の総重量(S)を同様に測定する。以上の各値から下記式により算出する。
最高吸湿率=[(S−K)/(K−F)]×100(%)
標準吸湿率=[(H−K)/(K−F)]×100(%)
△MR=最高吸湿率−標準吸湿率
下記の基準で表記する。
△MRが大きいほど快適性が良好であることを示し、△MRが3.5以上で快適性が発現する。しかし、△MRが8を越えるとべたつき感が生じ快適性が得られない。
【0095】
G.熱遮蔽性
試料糸からの筒編地を、赤外線ランプ(250W、東芝製)から50cm離れた位置に縦横20×20cmの金属製の枠に静置状態で固定し、金属の枠との間に断熱材を挟んで黒画用紙を貼り、さらにサーモカメラを配置した。したがって、赤外線ランプからの照射で、織物を通過した光によって黒画用紙が加熱され、反対側に配置したサーモトレーサー(DP−ID TH3100シリーズ、NEC製)によって画用紙の表面温度を測定し、測定領域中での最高温度を赤外線ランプ照射前と赤外線照射してから3分後の差をΔTとし、下記の基準で表記する。
◎:1℃以上
○:0.5〜1℃
△:0.2〜0.5℃
×:0.2℃以下。
【0096】
H.耐擦過性
試料糸からの筒編地を平板上に載置させ、その上を、水で濡らしたナイロンタフタを載せその上に1kgの荷重を載せて1万回の強制擦過試験を行なう。擦過試験後の編地の状態を目視判定し、下記の基準で表記する。
◎:外観変化なし、
○:光沢の変化が僅かあるが白化はない、
△:部分的に白く変色している、
×:全体的に白く変色している。
【0097】
I.紡糸時の糸切れ頻度
紡糸工程において発生する糸切れの回数を数え、1tの繊維を製糸する間の糸切れ回数を次の基準で評価した。
◎:2回/t未満
○:3回/t未満
△:3〜5回/t未満
×:5回/t以上。
【0098】
J.変形度
繊維の横断面写真から、その形状の重心から横断面の外周までの最長距離(L1)と最短距離(L2 )とを求め、次式により算出する。中空部の変形度=L1 /L2
単糸3本について上記方法により変形度を測定し、その平均値を求める。
【0099】
K.吸水高さ
試料糸からの筒編地又は編地(幅1cm×長さ20cm)を経方向、緯方向でそれぞれ5本ずつ採取する。試験片の一端をつかみ具によって固定し、他端側の約2cm長さを20±2℃の蒸留水中に浸す。浸漬開始から10分後までに毛細管現象によって水が上昇した距離(mm)を1/2mmまで読みとり、経方向、緯方向の試験片についてそれぞれ5回測定し、その平均値でもって表す。
【0100】
L.発汗したときの快適性
編地から得られた衣料品(キャミソール)を着用し、25℃、80%RH下の環境でジョギングを10分実施した(発汗する程度)。検査者(5人)の触感によって編地の快適性を次の基準で相対評価した。
◎:さらっとしていて快適である。
○:まあさらっとしていて快適である。
△:あまり快適でない。
×:汗だまりができて快適でない。
【0101】
M.熱遮蔽性
試料糸からの筒編地又は編地を、赤外線ランプ(250W、東芝製)から50cm離れた位置に縦横20×20cmの金属製の枠に静置状態で固定し、金属の枠との間に断熱材を挟んで黒画用紙を貼り、さらにサーモカメラを配置した。したがって、赤外線ランプからの照射で、織物を通過した光によって黒画用紙が加熱され、反対側に配置したサーモトレーサー(DP−ID TH3100シリーズ、NEC製)によって画用紙の表面温度を測定し、測定領域中での最高温度を赤外線ランプ照射前と赤外線照射してから3分後の差をΔTとし、下記の基準で表記する。
◎:1℃以上
○:0.5〜1℃
△:0.2〜0.5℃
×:0.2℃以下。
【0102】
N.日光の下での快適性
編地から得られた衣料品(キャミソール)を着用し、28℃、70%RH下の外環境に5分間居続けた。検査者(5人)の触感によって編地の快適性を次の基準で相対評価した。
◎:衣服内は涼しく、肌がやけるように感じない。
○:衣服内はまあ涼しく、肌が焼けるように感じない。
△:衣服内がやや熱く、肌がやけるように感じてあまり快適でない
×:衣服内が熱く、肌が焼けているようで快適でない。
【0103】
O.紡糸時の糸切れ頻度
紡糸工程において発生する糸切れの回数を数え、1tの繊維を製糸する間の糸切れ回数を次の基準で評価した。
◎:2回/t未満
○:3回/t未満
△:3〜5回/t未満
×:5回/t以上。
【0104】
[実施例1]
ポリビニルピロリドンとして、BASF社製“ルビテック”K30スペシャルグレード(K値30)を用いた。このポリビニルピロリドン中のピロリドン含有量は、0.02重量%であった。
【0105】
このポリビニルピロリドンを二軸押出混練機を用いて、相対粘度が3.4、酸化チタンを含まないナイロン6ペレットに270℃で溶融混練して、ガット上に押しだし、冷却後にペレタイズすることで、ポリビニルピロリドン含有量20重量%のマスターポリマチップとした。この際、ホッパー、シリンダーに窒素を流すことで、酸素濃度を8%以下とした。
【0106】
回転式真空乾燥機中で、相対粘度が3.4の酸化チタンを含まないナイロン6ペレットと、上記マスターポリマチップを、ポリビニルピロリドン含有量7重量%となるようにブレンドしながら通常の方法で乾燥した。
【0107】
このブレンドチップを、紡糸温度280℃で図2aに示すような3ヶのスリットよりなる口金吐出孔(スリット巾0.08mm、スリット内径0.8mm)を24個有する紡糸口金から溶融吐出させた(吐出線速度6.5cm/min)。溶融吐出させた後、通常の方法で冷却し、給油、交絡した後に2500m/分のゴデローラーで引き取り、続いて1.4倍に延伸した後に155℃で熱固定し、巻取速度3500m/分で67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。
【0108】
次に得られたナイロン中空繊維を筒編機(釜径3.5インチ、針本数240本、英光産業(株)製NE450W)に仕掛けて1本給糸で筒編み地を作成した。
【0109】
[実施例2]
ポリビニルピロリドン含有量を3重量%とした以外は実施例1と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0110】
[実施例3]
酸化マグネシウム粉末(平均粒子径:3μm)を0.05重量%、乾燥時にドライブレンドした以外は実施例1と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0111】
[比較例1]
相対粘度(ηr)が3.4のナイロン6ペレットを用いた以外は実施例1と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0112】
[比較例2]
ポリビニルピロリドン含有量を2重量%とした以外は実施例1と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0113】
[比較例3]
ポリビニルピロリドン含有量を18重量%とした以外は実施例1と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0114】
[比較例4]
ポリビニルピロリドンを相対粘度が2.7、酸化チタンを含まないナイロン6ペレットに練り混み実施例1と同様にマスターポリマペレットとした。
【0115】
回転式真空乾燥機中で、相対粘度が2.7の酸化チタンを含まないナイロン6ペレットと、上記マスターポリマチップを、ポリビニルピロリドン含有量7重量%となるようにブレンドしながら通常の方法で乾燥した。
【0116】
このブレンドチップを実施例1と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0117】
[比較例5]
ポリビニルピロリドンを相対粘度が4.1、酸化チタンを含まないナイロン6ペレットに練り混み実施例1と同様にマスターポリマペレットとした。
【0118】
回転式真空乾燥機中で、相対粘度が4.1の酸化チタンを含まないナイロン6ペレットと、上記マスターポリマチップを、ポリビニルピロリドン含有量7重量%となるようにブレンドしながら通常の方法で乾燥した。
【0119】
このブレンドチップを実施例1と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0120】
実施例1〜3および比較例1〜5でナイロン中空繊維を製造した際の中空率、中空変形度および筒編み地の軽量性、保温性、吸放湿性、耐擦過性、さらには紡糸糸切れについて評価した結果を表1に示した。
【0121】
【表1】

【0122】
表1の結果から明らかなように、本発明によると、耐擦過性が高く、軽量性、保温性、吸放湿性にも優れた高品位のナイロン中空繊維を得ることができる。しかも、そのナイロン中空繊維を製糸性良く製造することもできる。
【0123】
[実施例4]
赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末として“ナノマックス FP−101”(昭和電工(株)製)を用いた。これは、酸化亜鉛微粒子の表面を微粒子重量に対して18.1重量%の割合でシリカ被膜を形成し(膜厚2〜3nm)、さらに微粒子重量に対して6.9重量%の割合でジメチルポリシロキサンによる疎水化処理(膜厚3〜4nm)を行っている。
【0124】
この酸化亜鉛微粒子の波長500nmにおける分光反射率は98%、波長2400nmにおける分光反射率は56%であった。なお、図1に上記酸化亜鉛粉末の分光反射スペクトルを示した。また、酸化亜鉛粉末の一次粒子径は0.02〜0.07μmに分布していた。 この酸化亜鉛を二軸押出混練機を用いて、相対粘度が3.4、酸化チタンを含まないナイロン6ペレットに270℃で溶融混練して、ガット上に押しだし、冷却後にペレタイズすることで酸化亜鉛含有量20重量%のマスターポリマチップとした。
【0125】
回転式真空乾燥機中で、相対粘度3.4、酸化チタンを含まないナイロン6ペレットと上記マスターポリマチップを、酸化亜鉛含有量0.5重量%となるようにブレンドしながら通常の方法で乾燥した。
【0126】
このブレンドチップを実施例1と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0127】
[実施例5]
酸化亜鉛含有量を1重量%とした以外は実施例4と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0128】
[実施例6]
酸化亜鉛含有量を3重量%とした以外は実施例4と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0129】
[実施例7]
酸化マグネシウム粉末を0.05重量%、乾燥時にドライブレンドし、酸化亜鉛含有量を1重量%とした以外は実施例4と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0130】
[実施例8]
エチレンビスステアリン酸アミド(EBA)粉末、酸化マグネシウム粉末を0.05重量%、乾燥時にドライブレンドし、酸化亜鉛含有量を1重量%とした以外は実施例4と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0131】
[比較例7]
酸化亜鉛含有量を0.3重量%とした以外は実施例4と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0132】
[比較例8]
酸化亜鉛含有量を6重量%とした以外は実施例4と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0133】
[比較例9]
酸化亜鉛を相対粘度が2.7、酸化チタンを含まないナイロン6ペレットに練り混み実施例4と同様にマスターポリマペレットとした。
【0134】
回転式真空乾燥機中で、相対粘度が2.7の酸化チタンを含まないナイロン6ペレットと、上記マスターポリマチップを、酸化亜鉛含有量0.5重量%となるようにブレンドしながら通常の方法で乾燥した。
【0135】
このブレンドチップを実施例4と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0136】
[比較例10]
酸化亜鉛を相対粘度が4.1、酸化チタンを含まないナイロン6ペレットに練り混み実施例4と同様にマスターポリマペレットとした。
【0137】
回転式真空乾燥機中で、相対粘度が4.1の酸化チタンを含まないナイロン6ペレットと、上記マスターポリマチップを、酸化亜鉛含有量0.5重量%となるようにブレンドしながら通常の方法で乾燥した。
【0138】
このブレンドチップを実施例4と同様に紡糸をおこない67デシテックス24フィラメントのナイロン中空繊維を得た。つづいて得られたナイロン中空繊維を実施例1と同様に編成して筒編み地を得た。
【0139】
実施例4〜8および比較例1、7〜10でナイロン中空繊維を製造した際の中空率、中空変形度および筒編み地の軽量性、紫外線遮蔽性、遮熱性、耐擦過性、さらには紡糸糸切れについて評価した結果を表2に示した。
【0140】
【表2】

【0141】
表2の結果から明らかなように、本発明によると、耐擦過性が高く、軽量性、紫外線遮蔽性、遮熱性にも優れた高品位のナイロン中空繊維を得ることができる。しかも、そのナイロン中空繊維を製糸性良く製造することもできる。
【0142】
[実施例9]
赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末として“ナノマックス FP−101”(昭和電工(株)製)を用いた。これは、酸化亜鉛微粒子の表面を微粒子重量に対して18.1重量%の割合でシリカ被膜を形成し(膜厚2〜3nm)、さらに微粒子重量に対して6.9重量%の割合でジメチルポリシロキサンによる疎水化処理(膜厚3〜4nm)を行っている。
【0143】
この酸化亜鉛微粒子の波長500nmにおける分光反射率は98%、波長2400nmにおける分光反射率は56%であった。なお、図1に上記酸化亜鉛粉末の分光反射スペクトルを示した。また、酸化亜鉛粉末の一次粒子径は0.02〜0.07μmに分布していた。この酸化亜鉛を二軸押出混練機を用いて、相対粘度が2.7、酸化チタンを含まないナイロン6ペレットに270℃で溶融混練して、ガット上に押しだし、冷却後にペレタイズすることで酸化亜鉛含有量20重量%のマスターポリマチップとした。
【0144】
回転式真空乾燥機中で、相対粘度2.7、酸化チタンを含まないナイロン6ペレットと上記マスターポリマチップを、酸化亜鉛含有量0.5重量%となるようにブレンドしながら通常の方法で乾燥した。
【0145】
このブレンドチップを、紡糸温度270℃でY型口金吐出孔(スリット巾0.07mm、スリット長1.0mm)を13個有する紡糸口金から溶融吐出させた。溶融吐出させた後、通常の方法で冷却し、給油、交絡した後に3000m/分のゴデローラーで引き取り、続いて1.2倍に延伸した後に155℃で熱固定し、巻取速度4000m/分で41デシテックス13フィラメントのナイロンY型変形断面繊維を得た。 次に得られたナイロン変形断面繊維を筒編機(釜径3.5インチ、針本数240本、英光産業(株)製NE450W)に仕掛けて1本給糸で筒編み地を作成した。
【0146】
[実施例10]
酸化亜鉛含有量を1重量%とした以外は実施例1と同様に紡糸をおこない41デシテックス13フィラメントのナイロンY型変形断面繊維を得た。つづいて得られたナイロンY型変形断面繊維を実施例9と同様に編成して筒編み地を得た。
【0147】
[実施例11]
酸化亜鉛含有量を3重量%とした以外は実施例1と同様に紡糸をおこない41デシテックス13フィラメントのナイロンY型変形断面繊維を得た。つづいて得られたY型変形断面繊維を実施例9と同様に編成して筒編み地を得た。
【0148】
[実施例12]
酸化マグネシウム粉末を0.05重量%、乾燥時にドライブレンドし、酸化亜鉛含有量を1重量%とした以外は実施例1と同様に紡糸をおこない41デシテックス13フィラメントのナイロンY型断面繊維を得た。つづいて得られたY型変形断面繊維を実施例9と同様に編成して筒編み地を得た。
【0149】
[比較例11]
相対粘度2.7のナイロン6チップを、紡糸温度270℃でY型口金吐出孔(スリット巾0.07mm、スリット長1.0mm)を13個有する紡糸口金から溶融吐出させた。溶融吐出させた後、通常の方法で冷却し、給油、交絡した後に3000m/分のゴデローラーで引き取り、続いて1.2倍に延伸した後に155℃で熱固定し、巻取速度4000m/分で41デシテックス13フィラメントのナイロンY型変形断面繊維を得た。つづいて得られた丸型断面繊維を実施例9と同様に編成して筒編み地を得た。
【0150】
[比較例12]
酸化亜鉛含有量を0.3重量%とした以外は実施例9と同様に紡糸をおこない41デシテックス13フィラメントのナイロンY型断面繊維を得た。つづいて得られたY型変形断面繊維を実施例9と同様に編成して筒編み地を得た。
【0151】
[比較例13]
酸化亜鉛含有量を6重量%とした以外は実施例1と同様に紡糸をおこない41デシテックス13フィラメントのY型変形断面繊維を得た。つづいて得られたY型変形断面繊維を実施例9と同様に編成して筒編み地を得た。
【0152】
[比較例14]
口金吐出孔を丸とした以外は実施例9と同様に紡糸をおこない41デシテックス13フィラメントのナイロン丸型断面繊維を得た。つづいて得られた丸型断面繊維を実施例9と同様に編成して筒編み地を得た。
【0153】
実施例9〜12および比較例11〜14でナイロン繊維を製造した際の変形度、筒編み地の吸水高さと熱遮熱性、編地の着用評価(発汗したときの快適性、日向での快適性)、さらには紡糸糸切れについて評価した結果を表3に示した。
【0154】
【表3】

【0155】
表3の結果から明らかなように、本発明によると、吸水性、遮熱性に優れたナイロン変形断面繊維および編地を得ることができる。
【0156】
[比較例15]
回転式真空乾燥機中で、酸化マグネシウム粉末を0.05重量%、相対粘度2.7、酸化チタンを含まないナイロン6ペレットと上記マスターポリマチップを、酸化亜鉛含有量1.0重量%となるようにブレンドしながら通常の方法で乾燥した。
【0157】
このブレンドチップを、紡糸温度270℃で丸型口金吐出孔を13個有する紡糸口金から溶融吐出させた。溶融吐出させた後、通常の方法で冷却し、給油、交絡した後に3000m/分のゴデローラーで引き取り、続いて1.2倍に延伸した後に155℃で熱固定し、巻取速度4000m/分で41デシテックス13フィラメントのナイロン丸型断面繊維を得た。つづいて得られた丸型断面繊維を実施例9と同様に編成して筒編み地を得た。
【0158】
[比較例16]
Y型口金吐出孔(スリット巾0.07mm、スリット長0.3mm)とした以外は比較例5と同様に紡糸をおこない41デシテックス13フィラメントのY型変形断面繊維を得た。つづいて得られたY型変形断面繊維を実施例9と同様に編成して筒編み地を得た。
【0159】
[実施例13]
Y型口金吐出孔(スリット巾0.07mm、スリット長0.7mm)とした以外は比較例5と同様に紡糸をおこない41デシテックス13フィラメントのY型変形断面繊維を得た。つづいて得られたY型変形断面繊維を実施例9と同様に編成して筒編み地を得た。
【0160】
[実施例14]
五葉型口金吐出孔(スリット巾0.07mm、スリット長0.6mm)とした以外は比較例5と同様に紡糸をおこない41デシテックス13フィラメントの5葉変形断面繊維を得た。つづいて得られた5葉変形断面繊維を実施例9と同様に編成して筒編み地を得た。
【0161】

[実施例15]
五葉型口金吐出孔(スリット巾0.07mm、スリット長0.8mm)とした以外は比較例15と同様に紡糸をおこない41デシテックス13フィラメントの5葉変形断面繊維を得た。つづいて得られた5葉変形断面繊維を実施例9と同様に編成して筒編み地を得た。
【0162】
[実施例16]
八葉型口金吐出孔(スリット巾0.07mm、スリット長0.4mm)とした以外は比較例5と同様に紡糸をおこない41デシテックス13フィラメントの8葉変形断面繊維を得た。つづいて得られた8葉変形断面繊維を実施例9と同様に編成して筒編み地を得た。
【0163】

[実施例17]
八葉型口金吐出孔(スリット巾0.07mm、スリット長0.6mm)とした以外は比較例5と同様に紡糸をおこない41デシテックス13フィラメントの8葉変形断面繊維を得た。つづいて得られた8葉変形断面繊維を実施例9と同様に編成して筒編み地を得た。
【0164】

実施例13〜17および比較例15、16でナイロン繊維を製造した際の変形度、筒編み地の吸水高さと熱遮熱性、編地の着用評価(発汗したときの快適性、日向での快適性)、さらには紡糸糸切れについて評価した結果を表4に示した。
【0165】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明のナイロン中空繊維は、衣料用繊維製品を製造するための繊維素材として有用であり、なかでもスポーツウェア、インナーウェア、カバン地用として特に有用である。
【0167】
また、本発明のナイロン変形断面繊維は、衣料用繊維製品を製造するための繊維素材として有用であり、なかでもスポーツウェア、インナーウェア用として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】実施例1に添加した酸化亜鉛粉末の分光反射スペクトルである。
【図2】本発明のナイロン中空繊維の繊維横断面形状を模式的に例示する繊維断面図である。
【図3】図2のナイロン中空繊維を製造する際の吐出孔の形状を模式的に例示する吐出孔平面図である。
【符号の説明】
【0169】
1:繊維部、 2:中空部、 3:スリット、 a:スリット巾、 b:スリット内径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対粘度が2.9〜4.0であるナイロンからなり、中空率が10〜30%の中空部を有するナイロン中空繊維であって、ポリビニルピロリドンを3〜15重量%含有することを特徴とするナイロン中空繊維。
【請求項2】
相対粘度が2.9〜4.0であるナイロンからなり、中空率が10〜30%の中空部を有するナイロン中空繊維であって、赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末を0.5〜5重量%含有することを特徴とするナイロン中空繊維。
【請求項3】
中空部が変形度1.2〜1.6の三角形状であることを特徴とする請求項1又は2記載のナイロン中空繊維。
【請求項4】
繊維断面が円状であることを特長とする請求項1、2および3記載のナイロン中空繊維。
【請求項5】
ナイロンを複数のスリットからなる吐出孔から吐出線速度3〜10cm/secで吐出させ、溶融紡糸することにより請求項1、2、3及び4記載のナイロン中空繊維を製造することを特徴とするナイロン中空繊維の製造方法。
【請求項6】
赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末を0.5〜5重量%含有し、繊維横断面が変形度1.7以上で3葉以上の多葉形であることを特徴とするナイロン変形断面繊維。
【請求項7】
繊維横断面が変形度1.7以上で3葉以上の多葉形であることを特徴とする請求項6記載のナイロン変形断面繊維。
【請求項8】
赤外線吸収性を有する酸化亜鉛粉末を0.5〜5重量%含有し、繊維横断面が変形度1.7以上で3葉以上の多葉形であるポリアミド繊維を用いた編地。
【請求項9】
繊維横断面が変形度1.7以上で3葉以上の多葉形であるポリアミド繊維を用いた請求項8記載の編地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−152459(P2006−152459A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341312(P2004−341312)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】