説明

ナイロン賦形加工布及びその賦形加工方法

【課題】
本発明の目的は、ナイロン繊維布への賦形性及び賦形後のナイロン賦形加布の賦形維持性、特に洗濯時の賦形維持性に優れ、かつ作業性にも優れたナイロン賦形加布及びその賦形加工方法を提供することにある。
【解決手段】
ナイロン繊維を50重量%以上含有するナイロン繊維布に撥水処理を施し、次いで賦形加工を施すことにより、ナイロン繊維布への賦形性及び耐洗濯性に優れたナイロン賦形加工布を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイロン繊維を50%重量以上含有するナイロン賦形加工布およびナイロン賦形加工布の賦形加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のナイロン繊維布の賦形加工方法として、ナイロン繊維布を賦形加工用治具やシワ付け加工機を用いる方法や手揉み方法、布を糸等で結束する方法等で賦形加工する方法や、ナイロン繊維の布の表面をフィルムでコーティングし、次いで賦形加工する加工方法がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、ナイロン繊維布を賦形加工用治具やシワ付け加工機を用いる方法や手揉み方法、布を糸等で結束する方法等で賦形加工する方法ではナイロン繊維布に対する賦形加工時の賦形性及び賦形加工後の形状維持性、特に洗濯時の耐洗濯が充分でなかった。また、特表2005−500446号公報に記載の方法は作業工程が複雑で生産性が悪く、加工費用も嵩むと言う問題がある。このため、ナイロン繊維布への賦形性及び賦形後の布の耐洗濯性に優れるナイロン賦形加布及び賦形加工方法の出現が強く望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特表2005−500446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ナイロン繊維布への賦形性及び賦形後のナイロン賦形加布の賦形維持性、特に洗濯時の賦形維持性に優れ、かつ作業性にも優れたナイロン賦形加布及びその賦形加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ナイロン繊維を50重量%以上含有するナイロン繊維布に撥水処理を施し、次いで賦形加工を施ことにより、ナイロン繊維布への賦形性及び耐洗濯性に優れたナイロン賦形加工布を得ることができることを特徴とする。
本発明のナイロン賦形加工布は、ナイロン繊維を90重量%以上含有するナイロン繊維布に撥水処理を施し、次いで賦形加工を施すと、ナイロンの特性をより有効に生かしつつかつナイロン繊維布への賦形性及び賦形後賦形維持性、特に洗濯時の賦形維持性に優れ、かつ作業性にも優れたナイロン賦形加布が得られて好ましい。
本発明の賦形加工方法は、賦形用治具を50〜220℃に加熱し、その賦形用治具に布を接触させながら賦形加工を施すと好ましい。
また、本発明の賦形加工方法は、賦形加工用治具としてロールを有する乾式賦形機又は、蒸気を有する湿式賦形機を用意いるとより良好な賦形性が得られると好ましい。
更に、本発明の賦形加工方法では、ナイロン繊維布に賦形加工を施した後、賦形加工状態下で70〜200℃、時間は30秒以上放置する工程を加えると更に良好な賦形性及び賦形後賦形維持性が得られて好ましい。
【発明の効果】
【0007】
ナイロン繊維を50重量%以上含有するナイロン繊維布に撥水処理を施し、次いで賦形加工を施すことにより、ナイロン繊維布への優れた賦形性及び耐洗濯性に優れたナイロン賦形加工布を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、ナイロン繊維を50重量%以上含有するナイロン繊維布に撥水処理を施し、次いで賦形加工を施ことにより、ナイロン繊維布への賦形性及び耐洗濯性に優れたナイロン賦形加工布を得ることができることを特徴とする。
【0009】
本発明でナイロン繊維とは、ナイロン6、ナイロン66を言う。
ナイロン繊維はフィラメント又はステープル単独で用いられてもよく混合して用いても良い。
本発明でナイロン繊維布とはナイロン繊維を用いて形成された布状構造物を言い、例えばナイロン繊維を用いて織る、編む等の操作により形成される布あるいは、ナイロン繊維を用いた不織布等が例示できる。
【0010】
ナイロン繊維布は、ナイロン6またはナイロン66を単独で用いても良くそれらを混用してもよく、また必要に応じてポリエステル繊維、ナイロン6、ナイロン66以外のポリアミド繊維、ポリアクリロシトリル繊維等の繊維と混用して用いても良い。
【0011】
本発明のナイロン繊維やナイロン繊維布は染色されても良い。
ナイロン繊維は物理的強度に優れると言う特性以外に、比重が軽い、軟らかい、染色しやすい等の特徴を持つ。
【0012】
本発明のナイロン繊維布では上記のナイロン繊維の特性を損なわないため、ナイロン繊維布中に含まれるナイロン繊維は50重量%以上が必要とされ、より好ましくは90重量%以上が好ましい。
【0013】
本発明のナイロン賦形加工布は賦形加工性及び賦形後賦形維持性の観点からナイロン繊維布に撥水処理が施されていなければならない。
【0014】
本発明で撥水処理とは、撥水処理剤をナイロン繊維またはナイロン繊維布上に付着、吸着させて撥水処理を施す工程を言う。
【0015】
撥水処理剤としてはフッ素系化合物、シリコーン系化合物、炭化水素系化合物等が例示でき、それらは単独で用いても良く、必要に応じて2種以上を混合して使用しても良い。
【0016】
フッ素系化合物としては、化学構造中にポリフルオロアルキル基を含むフッ素系化合物をいう。ポリフルオロアルキル基とはアルキル基の水素原子の2個以上がフッ素原子に置換された基をいう。フッ素系化合物としては、パーフルオロアルキル基を含有する重合体単独重合体またはそれら重合体と重合可能な他の重合性単量体、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、塩化ビニルなどのビニル化合物と重合した共重合体を例示することができる。
【0017】
また、シリコーン系化合物とは化学構造中にシロキサン結合を有する化合物を言い、例えばポリジメチルシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、フッ素変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーンなどの各種変性シリコーン、シロキサン結合重合体単独重合体またはそれら重合体と重合可能な他の重合性単量体、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、塩化ビニルなどのビニル化合物と重合した共重合体を例示することができる。
【0018】
また、炭化水素系化合物とは、化学構造中に長鎖アルキル基を有する化合物をいう。例としては高分子ワックスエマルションの金属塩、オクタデシルエチレン尿素、脂肪酸エステル、ポリアミド化合物などが挙げられる。
【0019】
本発明では、良好な賦形性及び賦形後賦形維持性を確保する観点から、少なくともフッ素系化合物またはシリコーン系化合物を用いると好ましく、特にフッ素系化合物を用いると好ましい。
【0020】
ナイロン繊維またはナイロン繊維布に撥水処理を施す方法は、例えばナイロン繊維またはナイロン繊維布を必要により水等で希釈された撥水剤水溶液を液流染色機などの装置に入れ、その装置内で所定の温度、時間で浸漬処理する方法や撥水剤水溶液をナイロン繊維またはナイロン繊維布にスプレーで噴霧処理し次いでする方法が例示できる。
【0021】
ナイロン繊維またはナイロン繊維布に付着させる撥水剤の有効成分量は繊維に対して0.05〜10質量%が好ましく、さらに好ましくは0.2〜5質量%である。撥水処理剤量が多すぎると、処理残として無駄になり、また、0.05質量%以下では十分な撥水性が得られない。
【0022】
本発明において、撥水処理剤による処理温度は30〜70℃が好ましい。処理温度が低すぎる場合は撥水処理剤のナイロン繊維またはナイロン繊維布への吸着量が少なく、処理温度が高すぎる場合は撥水処理剤が繊維に不均一に付着して均一な撥水性が得にくくなる。
【0023】
上記方法でナイロン繊維またはナイロン繊維布に撥水処理剤を吸着付与した後、それら排水処理剤をナイロン繊維またはナイロン繊維布表面上に強固に付着させるため、カレンダー掛け等により加熱処理する。こ加熱処理温度は、120〜200℃が好ましく、130〜190℃がより好ましい。
【0024】
本発明の賦形加工方法では、賦形用治具を80〜220℃に加熱し、その賦形用治具に布を接触させながら賦形加工を施すことを特徴とする。
【0025】
本発明で賦形加工とはプリーツやシワ模様に代表される凸凹を布状に付けることを言い、布に人力や機械力等の物理力を与え屈曲させて形成する。賦形加工には、機械プリーツ加工機やシワ付け加工機を用いる方法や手揉み方法、布を糸等で結束する方法等の公知の方法を用いることができる。
【0026】
本発明の賦形加工方法によれば、賦形加工時の物理力により布上に形成されたプリーツ等の凸凹模様の形状保持が向上し、賦形完了後その物理力を解除されてもその形状を保持し易いという利点がある。通常、加熱せずに賦形加工する場合、特にV字状の鋭角な模様は賦形完了後物理を解除するとV字状先端部が布の反発力により鋭角なU字型に変形し、所望の形状が得られにくい。
【0027】
賦形加工の際の加工温度は、撥水加工を施したナイロン繊維布の賦形性及び耐洗濯性向上の観点から、80〜220℃であり、100〜200℃が好ましく、120〜180℃がより好ましい。220℃を超えるとナイロン繊維布が変色し易くなる。また80℃未満では賦形性が得られにくい。
【0028】
賦形加工の際、加工方法としては、特に限定は無いが、熱線や熱風や加熱水蒸気を布に当てつつ賦形加工する方法や加熱した容器内で賦形加工する方法等の間接加熱方法、賦形用の治具を電気や蒸気等で加熱しその賦形用治具に直接布を接しながら賦形加工する方法等の直接加熱方法が例示できる。
【0029】
また、賦形加工の際の加熱方法としては,布の賦形性及び耐洗濯性向上の観点から、賦形用の治具を電気や蒸気で加熱しその賦形用治具に布を接しながら賦形加工し、直接加熱する方法が好ましい。
【0030】
これらの直接加熱法の中でも、賦形加工を施す際に賦形用治具を100〜220℃に加熱し、その賦形用治具に布を接しながら賦形加工を施すと、加熱による良好な賦形効果が得られ、その結果優れた布の賦形性及び耐洗濯性が得られるため、好ましい。
【0031】
特に、賦形用治具としてロールを有する賦形機を用いる場合、ロール表面の温度を好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜180℃になるよう加熱し、そのロールに賦形すべき布を接しつつプリーツ等の賦形を行うと、良好な布の賦形性及び耐洗濯性が得られるため好ましい。
【0032】
本発明において、後処理工程として、賦形加工を施した布を高温空気中や蒸気中の乾式処理条件下で一定時間保持する処理を行うと、賦形増強効果を付与することができ、その結果賦形加工布の賦形性及び耐洗濯性が向上するため好ましい。
例えば、賦形加工布を90〜200℃、好ましくは130〜180℃の高温に保った空気中あるいは蒸気中で、30秒以上、好ましくは10〜60分間放置して保持する乾式の後処理をする方法が好ましく例示できる。
【0033】
本発明のナイロン賦形加工布は形状維持性に優れるため、プリーツや皺付け加工された防寒衣料(ダウンジャケット)や防水衣料(ウィンドブレーカー)あるいは一定の容積中に収納することが必要とされるエアバック等の自動車部品や産業材料として利用するとその効果が発揮されて好ましい。
【実施例1】
【0034】
以下、「重量%」を「%」、表5のみ「ナイロン繊維」を「N」、「ポリエステル繊維」を「PE」で表す。
実施例1〜8、比較例1〜8
縦横各1mの大きさに切断したナイロン50%とポリエステル50%の繊維布とナイロン繊維100%の布を使用した。
(撥水処理剤組成)
アサヒガード AG−7000 60部(旭硝子社製 フッ素系撥水撥油剤)
浸透剤 エマルゲン707(花王株式会社製 界面活性剤) 2部
溶剤 ジプロピレングリコール 3部
水 35部
次いで、得られた上記撥水処理剤を液流染色機に入れ、この撥水処理剤に試験布を浸し処理した。処理温度は50℃で行った。
【0035】
これらの試験布をカレンダーで70〜260℃、90秒間加熱処理した。
(撥水性の評価方法)
JIS L−1092のスプレー法により評価した。評価基準として下記の表1に記載の評価級数字を用いた。
【0036】
【表1】

【0037】
このようにして得られた試験布を、ロール式賦形用治具を用い、ロール方向に直線の壁を2cm間隔で形成するように交互に折り曲げながら、賦形加工を施した。賦形加工は表5に示すようにロールの表面温度を変えて行った。得られた賦形加工布の賦形性、耐洗濯性及び変色度の結果を表5に示す。なお、賦形性、耐洗濯性及び変色度は以下のように測定した。
(賦形性の評価方法)
賦形加工布の賦形性は、賦形加工布から縦横20cmになるように評価用テスト布を切り出し、折り曲げ部の角度をモンサント形試験器を用いて測定した。角度の小さいものほど賦形性が良好と判断した。評価基準として下記の表2に記載の評価級数字を用いた。
【0038】
【表2】

【0039】
【数1】


(耐洗濯性の評価方法)
賦形加工の洗濯耐久性は、賦形加工布から縦横20cmになるように評価用テスト布を切り出し、その布を用いてJIS L−1610に準じて洗濯を行い、その後乾燥を行う操作を10回行い、試験前後の折り曲げ部の角度をモンサント形試験器を用いて測定し、式(2)から判定した。洗濯前に比べその角度の変化が少ないほど良好な耐洗濯性を有すると判断した。評価基準として下記の表3に記載の評価級数字を用いた。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
表5の結果から、撥水処理剤であるフッ素系樹脂3質量%を含む水溶液に試験布を浸し、次いで、カレンダー掛けを70℃〜260℃、90秒で施し、賦形加工治具を80℃以上に加温しつつ実施例1〜8では良好な賦形性及び耐洗濯性が得られ、特に賦形加工治具のロール温度を120〜220℃にする実施例2〜4、6〜8では良好な布の賦形性及び耐洗濯性が得られた。
賦形加工温度が80℃以下の比較例1では、耐洗濯性が得られず、220℃以上の240℃で加工した比較例2では生地に変色がみられた。フッ素系樹脂を含有させない布の比較例3,4あるいはフッ素系樹脂を含有させても撥水加工(カレンダー掛け)の温度が100℃以下の布の比較例5,6又は220℃以上の布の比較例7ではたとえ賦形加工が70〜190℃に加熱しても耐洗濯性が極めて悪かった。また撥水加工(カレンダー掛け)の加工温度を260℃の布の比較例8は生地が溶解した。
【0044】
次いで、得られた実施例6の加工布を用いて、130℃空気中又は130℃の水蒸気中に20分放置し、後処理を施した。得られた布について、前期と同様に耐洗濯性(後処理後耐洗濯性)を調べた。評価基準として下記の表6に記載の評価級数字を用いた。
【0045】
【表6】

【実施例2】
【0046】
表6の結果から、実施例2では後処理として水蒸気処理又は熱空気処理をすることにより耐洗濯性が向上することが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン繊維を50重量%以上含有するナイロン繊維布に撥水処理をし、次いで80〜220℃で賦形加工を施したことを特徴とするナイロン賦形加工布
【請求項2】
ナイロン繊維を90重量%以上含有するナイロン繊維布からなる請求項1記載のナイロン賦形加工布。
【請求項3】
賦形加工を施す工程が、賦形用治具を80〜220℃に加熱し、その賦形用治具に布を接触させながら賦形加工を施す工程であることを特徴とする請求項1,2記載のナイロン賦形加工布の賦形加工方法。
【請求項4】
賦形加工用治具としてロールを有する乾式賦形機又は、蒸気を有する湿式賦形機を用意いることを特徴とする請求項3記載の賦形加工方法。
【請求項5】
布に賦形加工を施した後、賦形加工状態下で70〜200℃、時間は30秒以上放置する工程をさらに有する請求項3、4記載の賦形加工方法。
【請求項6】
請求項3〜5いずれか記載の賦形加工で加工されてなる、ナイロン賦形加工布製品。衣料、特に限定はしないが、ダウンジャケット、ウィンドブレーカー又は、工業用資材、特に限定はしないが、インテリアブラインド、エアーバック。

【公開番号】特開2008−133558(P2008−133558A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319597(P2006−319597)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(592241021)畑野産業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】