説明

ナイロン66樹脂組成物およびその製造方法

【課題】 酸化チタンを高濃度で、かつ良好な分散状態で含有するナイロン66樹脂組成物を得ることを課題とする。
【解決手段】 ナイロン66樹脂100重量%に対して、水分散度が95%以上であることを特徴とする酸化チタンを1〜5重量%配合してなるナイロン66樹脂組成物、酸化チタンが0.1〜0.4μmのメジアン径を有し、かつ0.1μm以上0.5μm以下の粒子が90%以上である酸化チタン粒子である上記ナイロン66樹脂組成物、およびヘキサメチレンアジパミドを重合してナイロン66を重合する際、重合系内の温度が216〜230℃の範囲にあるときに、水分散度が95%以上である酸化チタンをナイロン66樹脂組成物100重量%に対して1〜5重量%となるように添加することを特徴とするナイロン66樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイロン66樹脂組成物およびその製造方法に関する。さらに詳しくは酸化チタンを高濃度で、かつ良好な分散状態で含有するナイロン66樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドは、ポリエステルとともに衣料用、産業用等の繊維用途あるいはプラスチック用途として幅広く用いられている。これらには酸化チタンをつや消し剤や不透明性付与を目的として添加することが広く行われている。ポリアミドに使用する酸化チタンには、耐候性を改良したり、ある特定の分散媒中またはポリアミド樹脂組成物中での分散性を改良するためにMn、Al、Zn、Siなどの化合物が酸化チタン表面に被覆されているものがあり、用途に応じて使用されていた。
【0003】
汎用ポリアミドであるナイロン66は、強度、耐久性、ストレッチ性、染色性に優れている。同じ汎用ポリアミドであるナイロン6と比較した場合、高い耐熱性に由来して、加工性に優れているといった利点を有し、つや消しや不透明性を付与する酸化チタンを含有したナイロン66樹脂は、繊維用途として広く生産されてきた。しかし、酸化チタンを含有するナイロン66は、ポリマー中の酸化チタンの分散性が不十分であると、紡糸時等における糸切れ、紡糸機内での濾過圧力上昇等の重大なトラブルを引き起こすことが、問題点とされてきた。
【0004】
酸化チタンを含有するナイロン66樹脂を製造するにあたって、従来技術としては
(1)重合前あるいは重合中に酸化チタンを原料系に添加する重合時添加法、
(2)重合後、混練機等により、酸化チタン粉末をナイロン66樹脂に練り込むアフターダリング法、
(3)マスターバッチと呼ばれる高濃度の酸化チタンを含有するナイロン66樹脂のペレットを製造し、それと酸化チタン含有率が低いまたは酸化チタンを含有しないナイロン66樹脂ペレットをブレンドして製糸し、所定量の酸化チタンを含有する糸品種を製造するチップブレンド法、
が代表的な方法として用いられている。
【0005】
このうち、重合時添加法は、アフターダリング法やチップブレンド法で問題となるポリマー中の酸化チタン濃度バラツキが非常に小さく、またさらに酸化チタンをポリマー中に導入する後工程を必要とせず、コスト面で優れている。
しかしながら、本発明で用いる重合時添加法は、ナイロン66の原材料であるヘキサメチレンジアミンおよびアジピン酸、またはその塩(以下AH塩と略す)等の水溶液の電気特性から、酸化チタンが非常に凝集しやすい特性を有しているため、酸化チタンの分散性に優れたナイロン66樹脂を得ることは困難であった。
【0006】
重合時添加法は、工業的には重合初期段階において、酸化チタンの水スラリーを原料に添加する方法が、広く実施されている。酸化チタンの重合時における添加時期は、重合系中のAH塩やその他添加剤等のイオン濃度から考えると、重合後半が望ましいが、重合後半は重合系内の粘度が高くなるため酸化チタンの分散性に不利となるので、水分率が高く、粘度の低い重合初期が望ましいと考えられていたためである。
【0007】
酸化チタンを重合系に添加する際に、酸化チタンの分散性向上の方法として、特許文献1では原料のナイロン66原料であるAH塩が沸騰状態でかつ重合系の粘度が高くない重合系の温度が210〜225℃の範囲内で酸化チタンを水スラリーで添加する方法が提案されているが、本特許文献に開示された重合系は、酸化チタンの添加量がナイロン66樹脂組成物100重量%中1重量%以上と比較的多量に添加する場合、用いる酸化チタンによっては、酸化チタンが凝集しやすい重合系となっており、分散性は不十分となることが判明した。
【0008】
特許文献2では、酸化チタンを水スラリーとして添加する時期を総重合時間に対する比率で規定する製造方法が提案されている。
特許文献3では、分級操作により、1μm以下の粒子が96%以上とした酸化チタンを重合時に添加することにより酸化チタンの分散性を改善する方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、これらいずれの方法においても、具体的に開示された方法を単純に用いてナイロン66樹脂組成物100重量%中1重量%以上の酸化チタンを含有するナイロン66樹脂組成物を製造すると、用いる酸化チタンによっては、酸化チタンの分散性が不十分であることがわかった。
【0010】
特許文献4では、ポリアミド樹脂のゲル化を抑制する目的でマンガン化合物を被覆した酸化チタンを重合時に添加する方法を提案している。酸化チタンの表面に被覆されたマンガン化合物が耐候剤として機能するため、マンガン化合物のような酸化チタンの凝集剤となりうるイオン化合物を別途添加しなくてよいが、酸化チタン粒子のもつ親水性が損なわれるために、水スラリーとして添加した場合水スラリーの調整段階で酸化チタン粒子が凝集しやすく、得られたナイロン66樹脂組成物の酸化チタン分散性は不十分であった。またコーティングしたマンガン化合物によるナイロン66樹脂組成物の色調への影響が無視できなくなるといった問題点があった。
【特許文献1】英国特許554718号明細書(第2ページ48行〜57行)
【特許文献2】特開平5−9292号公報(〔0008〕〜〔0011〕段落及び実施例)
【特許文献3】特開平10−265664号明細書(〔0009〕〕段落および実施例)
【特許文献4】特開2002−054025号明細書(〔0010〕段落及び実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明では酸化チタンを高濃度でかつ良好な分散状態で含有するナイロン66樹脂組成物およびその製造方法を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、以下に示す本発明に至った。即ち、本発明は下記の構成を有する。
【0013】
(1)ナイロン66樹脂組成物100重量%に対して、水分散度が95%以上である酸化チタンを1〜5重量%配合してなるナイロン66樹脂組成物。
【0014】
(2)酸化チタンが0.1〜0.4μmのメジアン径を有し、かつ0.1〜0.5μmの粒子が90%以上である酸化チタン粒子である上記(1)記載のナイロン66樹脂組成物。
【0015】
(3)酸化チタンがアナターゼ型であり、かつ純度が96%以上である酸化チタン粒子である上(1)または(2)記載のナイロン66樹脂組成物。
【0016】
(4)酸化チタンが酸化チタン粒子表面に異種金属による被覆処理がなされていない酸化チタン粒子である上記(1)〜(3)のいずれか記載のナイロン66樹脂組成物。
【0017】
(5)樹脂組成物中に存在する5μm以上の酸化チタン粗大粒子数が、樹脂組成物1gあたり400個以下であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のナイロン66樹脂組成物。
【0018】
(6)ナイロン66樹脂組成物100重量%に対してマンガン換算で2〜20ppmのマンガン化合物を配合してなる上記(1)〜(5)のいずれか記載のナイロン66樹脂組成物。
【0019】
(7)ヘキサメチレンアジパミドを重合してナイロン66を重合する際、重合系内の温度が216〜230℃の範囲にあるときに、水分散度が95%以上である酸化チタンをナイロン66樹脂組成物100重量%に対して1〜5重量%となるように添加することを特徴とするナイロン66樹脂組成物の製造方法。
【0020】
(8)ヘキサメチレンアジパミドの重合に際し、モノカルボン酸およびモノアミンから選択される重合度調節剤をヘキサメチレンアジパミドに対して0.1〜1.0モル%添加することを特徴とする請求項7記載のナイロン66樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明を用いれば、酸化チタンを高濃度でかつ良好な分散状態で含有するナイロン66樹脂組成物を容易にかつ簡便に得ることができる。また得られたナイロン66樹脂組成物中に存在する5μm以上の酸化チタン粗大粒子数を、樹脂組成物1gあたり400個以下に抑えることで、製糸工程で使用した場合の防止濾過圧力上昇等の製糸トラブルを減少できるため、繊維用ナイロン66樹脂組成物として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明について説明する。
【0023】
本発明で用いるナイロン66樹脂は、ヘキサメチレンアジパミドを重合することにより製造される樹脂であり、ナイロン66のホモポリマーまたはナイロン66成分を主体とした共重合体であっても構わない。ナイロン66共重合成分は、ナイロン66の特性を損なわないためにアミド結合が主鎖に介在した重合体を与える成分を好適に用いることができ、具体的にはナイロン6、ナイロン6T(ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との共重合体)等を構成するモノマ成分が挙げられる。共重合体の例としてはたとえばナイロン66/6、ナイロン66/6T(ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸との共重合体)等が挙げられる(なお、“ / ”は、共重合を意味する)。共重合成分の割合としては、ナイロン66の有する耐熱性、加工性を損なわない程度として、全アミド単位中、2重量%以下、さらに好ましくは1.5重量%以下とする。
【0024】
酸化チタンには結晶形態が異なるルチル型とアナターゼ型がある。ルチル型は硬度が大きいため、糸の加工時に使用する金属ピンなどを磨耗させるので、製糸用途としては、アナターゼ型を使用することが好ましい。また、酸化チタンには、対候性を改良されたものや、金属化合物が被覆されているものもあるが、ナイロン66重合では、重合原料であるAH塩が水を溶媒として使用するのが通常であるため、使用する酸化チタン粒子は水への分散性が良好であることが必須であり、水中の分散度が95%以上であることが必須である。本発明における水分散度は、酸化チタンの20重量%水スラリーを調整後、スラリー液温25℃の条件で、5時間静置し、その後液面から全高の85%を液面上部から静かに吸引して採取した試料における酸化チタン濃度の静置前の酸化チタンスラリ−における酸化チタン濃度に対する比率を百分率で表したものである。この際水分散度測定用試料となる酸化チタンの20重量%水スラリーは、水中で酸化チタンが均一に分散している状態に調製したものを用いる。そのため調整後は、ボルテックスの状態を見ながら(容器壁面に液面の盛り上がりができる状態となるように)できるだけ高速で2時間以上攪拌を行い、水中に酸化チタンを均一に分散させた状態として評価に供する。
【0025】
水中での酸化チタンの分散度を95%以上に高めるためには、酸化チタン自体が親
水性であるため、上述の表面特性を損なうような金属化合物等の被覆処理が施されて
いないものを用いる、適度な粒径、粒度分布を有する酸化チタンを用いる。特に金属
化合物として、チタン以外の金属(異種金属と称する)を含む化合物による被覆処理
が施されていないものが好ましい。具体的には被覆処理による金属化合物等を含まな
いという観点から本発明で使用する好ましい酸化チタンを、純度を指標として選択
することができ、この場合、96%以上、好ましくは98%以上という高純度の
ものを用いることが好ましい。なお、ここでいう純度はJIS K5116(200
4)の7.2項二酸化チタン(TiO2)含有量記載の手順により測定される値であ
る。また、適度な粒径粒度分布という観点から、0.1〜0.4μmのメジアン径を
有し、0.1μm以上0.5μm以下の粒子が90%以上であるような酸化チタンを
用いることが好ましい。さらに好ましくは、本発明に用いる酸化チタンのメジアン径
は、0.2〜0.3μmである。メジアン径が0.1μm未満では水スラリー中や重
合中に酸化チタン粒子が再凝集しやすい等の問題が発生しやすい。また、0.5μm
以下の粒子が90重量%未満である場合、本発明の効果を十分に発現しにくい。
【0026】
上記の粒径、粒度分布を有する酸化チタンは、そのような粒径、粒度分布を有する市販品を選択しても良いし、分級操作によって調製することもできる。
【0027】
分級操作は、水ヒで行うことが好ましく、この際には、酸化チタンと水(好ましくはイオン交換水)をボルテックスの状態を見ながら(容器壁面で液面の盛り上がりができるような状態)できるだけ高速で1分〜10時間程度攪拌して(これにより分級操作での分級収率を上げることができる)、分級を行い、さらに酸化チタンが沈降しないようにさらに撹拌を行うことにより、重合に供する、あるいは水分散度の測定に供することができる。)
当該酸化チタンを使用することで、ナイロン66樹脂組成物100重量%に対して1重量%以上と高濃度の酸化チタンを含有する場合に、粗大粒子生成を抑制する効果が顕著である。
【0028】
酸化チタンの添加量は、ナイロン66樹脂組成物100重量%に対して、1〜5重
量%となるように添加することが必要である。1重量%未満では、紡糸した際に、つ
や消し効果が十分でなく、5重量%より多い場合は、得られたナイロン66樹脂組成
物中に含まれる5μm以上の酸化チタン粗大粒子数の抑制が困難であり、実用的では
ない。より好ましい添加量は1〜3重量%である。
【0029】
また、本発明においては、酸化チタンの分散性をさらに高めるために、分散向上剤を添加することができる。この際、分散向上剤は酸化チタン水スラリー中に添加してもよいし、AH塩水溶液中に添加しても構わない。使用する分散向上剤としては界面活性剤など、通常酸化チタンの分散向上に用いられるいずれのものを用いてもかまわない。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系等があり、いずれを使用しても構わないが、酸化チタンの水中の帯電状態から、アニオン系界面活性剤が好ましい。
【0030】
本発明ではナイロン66樹脂組成物の耐候性を向上させるため、耐候剤を添加してもよい。耐候剤としては、例えば、マンガン化合物が用いられる。マンガン化合物としては、塩化マンガン、硼酸マンガン、ピロリン酸マンガン、次亜燐酸マンガン、珪酸マンガン、コハク酸マンガン、吉草酸マンガン、ヨウ化マンガン、燐酸水素マンガン、酢酸マンガン、シュウ酸マンガン、酒石酸マンガン、クエン酸マンガン、安息香酸マンガン、サルチル酸マンガン、グリセロリン酸マンガン、乳酸マンガン、フェノールスルホン酸マンガン等が挙げられる。
【0031】
このマンガン化合物の添加量は、ポリマーの用途に応じた量とすればよく、一般的にはナイロン66樹脂組成物に対して、マンガン換算で2〜20ppmの範囲で用いられる。
【0032】
本発明のナイロン66樹脂組成物は、ヘキサメチレンアジパミド(AH塩)を重合してナイロン66を重合する際に酸化チタンを添加して製造することが好ましい。
【0033】
ナイロン66の重合は、通常アジピン酸(AA)とヘキサメチレンジアミン(HD)の塩であるヘキサメチレンアジパミド(AH塩)の水溶液を用いて行われるが、大まかには次の工程で行われる。すなわち、バッチ重合では、一般的に重合反応がある程度進むまでは、密閉加圧下で加熱してHDの留出を抑える(昇圧段階)。昇圧段階の最終到達ポリマー温度は215℃程度である。その後、水分蒸発によってポリマが固化しないように一定圧力下で加熱しながら水分を除去する(制圧段階)。制圧段階の最終到達ポリマー温度は通常245〜265℃まで、好ましくは250〜260℃までとする。その後徐々に圧力を下げて重縮合反応を進める(放圧段階)。最終段階では、減圧下でさらに水分を除去して所定の重合度を得るまでポリマー温度を上げる。
本発明で得られるナイロン66樹脂組成物の重合度は、98%硫酸中の相対粘度ηrで表す。98%硫酸中の相対粘度は好ましくは2.0〜6.0であり、さらに好ましくは2.5〜4.0であり。また、該ナイロン66樹脂組成物は固相重合によってηrを上記好適な値にすることもできる。ηrが2.0より小さい場合、溶融粘度低すぎるため溶融紡糸が困難である。また、ηrが6.0より大きい場合、加熱溶融時にゲル化しやすくなる。
【0034】
この際重合時の粘度安定化のために、モノカルボン酸やモノアミンを添加してもよく、中でも酢酸が安価であること等により好ましく使用できる。上記モノカルボン酸あるいはモノアミンの添加量は、ポリマーの用途に応じた量とすればよく、一般的には、AH塩に対して0.1〜1.0モル%である。
【0035】
また、用途に応じてジアミンやジカルボン酸などの末端基調整剤、耐熱剤、制電剤等を配合してもよい。
【0036】
酸化チタンの重合系への添加時期は、酸化チタンの分散性を向上させるためにポリマー温度が216〜230℃の間であり、上述の温度範囲が、制圧段階の初期でに該当することが好ましい。特に添加剤として前記モノカルボン酸や耐候剤としてのマンガン化合物を含むような、酸化チタンが凝集しやすい重合系においても、酸化チタン分散性が良好なナイロン66樹脂組成物を得ることが可能となる。216℃未満の重合初期であると、重合系中のAH塩、AH塩オリゴマーや前記添加剤等のイオン濃度が高く、酸化チタンが凝集しやすい。また、231℃以上の重合後期であると、重合系の反応の進行に伴う水分率の低下や、粘度上昇により酸化チタンの分散性が不十分となる。
【0037】
本発明における酸化チタンの添加形態としては水スラリーが好ましく、添加する酸化チタン水スラリーの濃度は、10重量%〜30重量%が好ましい。30重量%より高いとスラリーの粘度が高くなり分散性を悪化させ、10重量%未満であると水分が多くなるため重合時間が長くなり、生産性が低下する。
【0038】
ナイロン66樹脂組成物中の酸化チタン含有量が大きくなるのに比例して、重合系内に添加する酸化チタンスラリー液量が増大するため、添加時に重合系内の圧力・温度の急激な変動を制御する目的で添加流量を調整する場合がある。その際、酸化チタンスラリー全量を連続的に添加しても、複数回に分けて添加するバッチ式でも、ポリマー温度が上記範囲内であれば差し支えない。
【0039】
上記好ましい方法によれば、通常得られたナイロン66樹脂組成物中に含まれる5μm以上の酸化チタン粗大粒子数は、ナイロン66樹脂組成物1gあたり400個以下となる。この範囲のあることにより紡糸時のろ過圧力上昇を抑制でき、紡糸の際に糸切れが顕著に低減され、製糸操業性が一段と向上する。製糸操業性の観点から、より好ましくは200個以下のものである。
【実施例】
【0040】
以下の実施例中の物性は、次のようにして得られた。
【0041】
粒度分布、 メジアン径(μm):本発明でいう平均粒子径とは、いわゆるミー(Mie)の散乱・回折理論に基づくレーザ回折・散乱式流度分布計で測定される平均粒子径をいう。具体的には、レーザの回折結果をミーの理論により解析した粒度の対数の算術平均をとり、それから算出される体積平均粒径のことを指す。測定は、酸化チタンを濃度0.003以上0.005重量%以下の水スラリーとし、この水スラリーを液温30℃に温調したものを堀場社制作所製レーザー回折・散乱式流度分布測定装置LA−920を用いて、平均粒子径および粒度分布を測定した。
【0042】
酸化チタンの純度:JIS K5116(2004)の7.2項二酸化チタン(T
iO2)含有量記載の手順で測定した。
【0043】
酸化チタンの水分散度:重合時に添加を行う酸化チタンを20%水スラリーに調整後、スラリー液温25℃の条件で、5時間静置した。5時間静置後、液面から全高の85%を液面上部から順に採取した。静置前の酸化チタンスラリ−と静置後に採取した酸化チタン濃度比より算出した。
【0044】
なお、本実施例において重合時に添加を行った酸化チタンの水スラリーは、酸化チタンに脱イオン水を加え、25重量%に調製し、ボルテックスの状態を見ながら(容器壁面で液面の盛り上がりができるような状態)できるだけ高速で2時間攪拌し、酸化チタン粒子を脱イオン水中になじませた。その後水ヒにより分級操作を行い0.80μm以上の粒子をカットし、得られた酸化チタンスラリーを20重量%に調製した。調製した酸化チタンスラリーは、酸化チタンスラリーが沈降しないように、ボルテックスの状態を見ながら(容器壁面で液面の盛り上がりができるような状態)できるだけ高速で2時間以上攪拌を行い、水中に酸化チタンを均一に分散させ、前記評価に供した。評価に供した以外のスラリーについては、そのまま撹拌をしながら保管し、重合に供した。
【0045】
水スラリー中の酸化チタン濃度(%):ルツボを800℃とした電気炉中で空焼きし、冷却後精秤(a1)する。このルツボに試料を約2g量りとり(s)、120℃に設定した常圧乾燥機内で、1時間水分を除去する。次いで該ルツボを、電気炉中、800℃で恒温になるまで焼くことで、さらに酸化チタンから水分を除去した後に、冷却精秤(a2)する。このようにして測定した結果より、含有率は、下記に示す方法で求めた。
酸化チタン濃度(%)=(a2−a1)/s×100
ナイロン66樹脂組成物中の酸化チタン含有率(%):ルツボを800℃とした電気炉中で空焼きし、冷却後精秤(a1)する。このルツボに絶乾した試料を量りとり(s)、電気炉で加熱しながら試料を炭化させる。次いで該ルツボを、電気炉中、800℃で恒温になるまで焼き、冷却精秤(a2)する。このようにして測定した結果より、含有率は、下記に示す方法で求めた。
酸化チタン含有率(%)=(a2−a1)/s×100
98%硫酸中での相対粘度:絶乾したナイロン66樹脂組成物0.25gを98%重量%濃度の硫酸に対し、1g/100mlになるように溶解する。これをオストワルド粘度計を用いて25℃恒温中での流下秒数を計り、98%重量%硫酸に対する流下秒数の比として、下記式によって求めた。
【0046】
ηr=(試料溶液の流下秒数)/(98重量%硫酸の流下秒数)
酸化チタン粗大粒子数(個/g):得られたペレットのサンプル50mgを再溶融して10μmの薄膜状とし、光学顕微鏡(ニコン社製FX−21、倍率100倍)で観察される5μm以上の大きさの酸化チタン粒子を数え(観察される酸化チタンの粒子が非円状である場合は、その最大径を測定した)、1gあたりの個数に換算した。
【0047】
ろ過圧力上昇速度(MPa/4hr):ペレットを300℃で溶融し、目開き3μmのフィルターで1.3g/cm・minの速度で5時間ろ過した。ろ過状態が安定した1時間後から4時間ろ過を行い、この4時間当たりのろ過圧力の上昇速度をろ過圧力上昇速度とした。
【0048】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0049】
(実施例1、2、3,4)
AH塩85重量%水溶液29Kg、酢酸(AH塩100molに対して0.005mol)、塩化マンガン(ナイロン66樹脂100重量%に対して、マンガン量換算で10ppm)、アジピン酸(AH塩100molに対して0.0015mol)を80リットルのステンレス製オートクレーブに投入し、缶内の酸素を窒素置換後密封し、缶内の温度が表1に示したポリマ温度に到達した時点で、20重量%の酸化チタン水スラリー(319g、ナイロン66樹脂100重量%に対して1.5重量%)を添加した。酸化チタンはアナターゼ型の酸化チタン(富士チタン社製TA−300(純度99%))を使用し、前述のとおりあらかじめ分級操作(水ヒ)により分級した。得られた水スラリーは、0.5μm以下の粒子が94%、平均粒子径は0.23μm、水分散度は96%であった。
【0050】
酸化チタンスラリー添加終了後のポリマー温度は、表1に示す通りである。さらにポリマー温度が255℃になるまで内圧が1.7MPaを超えないように保持し、撹拌しながら加熱昇温し重合反応を進めた。ポリマー温度255℃到達後、90分間で缶内圧を大気圧まで放圧し、重合反応を終了した。重合終了後、缶内の液相重合ポリマーをストランド状に押し出し、冷却、ペレタイズ化した。得られたペレットに対して、酸化チタン含有率、濾過圧力上昇速度(MPa/4Hr)および5μm以上のチタン粗大粒子数を求めた結果を表1に示す。
【0051】
(比較例1)
使用した酸化チタンはAl化合物、Zn化合物、Si化合物で表面を被覆した富士チタン社製TA-500(純度95%)(アナターゼ型)、を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた結果を表1に示した。
【0052】
(比較例2)
使用した酸化チタンはAl化合物、Mn化合物で表面を被覆したSACHTLEBEN社製LOCR-SM(純度95%)(アナターゼ型)を使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた結果を表1に示した。
【0053】
(比較例3)
酸化チタンにAl化合物、Zn化合物、Si化合物で表面を被覆した富士チタン社製TA-500(純度95%)(アナターゼ型)を使用し、酸化チタン水スラリーに酸化チタン分散剤としてポリアクリル酸ソーダ(3.19g、酸化チタン100重量%に対して1重量%)を加えて、混合した後に重合原料として使用した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0054】
(比較例4)
酸化チタンは、あらかじめ分級操作(水ヒ)を行わず、そのまま使用したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた結果を表1に示した。
【0055】
(実施例5、比較例5)
酸化チタンの添加量を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた結果を表1に示した。
【0056】
【表1】

【0057】
この結果、酸化チタンを高濃度で、かつ良好な分散状態で含有するナイロン66樹脂組成物を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の酸化チタンを高濃度で、かつ良好な分散状態で含有するナイロン66樹脂組成物およびその製造方法は、次の効果を奏する。
【0059】
酸化チタンが、ポリマー中に微細粒子で分散性よく配合されているため、ナイロン66樹脂組成物100重量%に対して1重量%以上と高い割合で酸化チタンを含有したナイロン66ペレットであっても、酸化チタン粗大粒子数や、ろ過圧力上昇が低く、製糸工程で使用した場合、紡糸濾過圧力上昇等の製糸トラブルを減少できる。
【0060】
よって、本発明のナイロン66樹脂組成物は、繊維用として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン66樹脂組成物100重量%に対して、水分散度が95%以上である酸化チタンを1〜5重量%配合してなるナイロン66樹脂組成物。
【請求項2】
酸化チタンが0.1〜0.4μmのメジアン径を有し、かつ0.1〜0.5μmの粒子が90%以上である酸化チタン粒子である請求項1記載のナイロン66樹脂組成物。
【請求項3】
酸化チタンがアナターゼ型であり、かつ純度が96%以上である酸化チタン粒子である請求項1または2記載のナイロン66樹脂組成物。
【請求項4】
酸化チタンが酸化チタン粒子表面に異種金属による被覆処理がなされていない酸化チタン粒子である請求項1〜3のいずれか記載のナイロン66樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂組成物中に存在する5μm以上の酸化チタン粗大粒子数が、樹脂組成物1gあたり400個以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のナイロン66樹脂組成物。
【請求項6】
ナイロン66樹脂組成物100重量%に対してマンガン換算で2〜20ppmのマンガン化合物を配合してなる請求項1〜5のいずれか記載のナイロン66樹脂組成物。
【請求項7】
ヘキサメチレンアジパミドを重合してナイロン66を重合する際、重合系内の温度が216〜230℃の範囲にあるときに、水分散度が95%以上である酸化チタンをナイロン66樹脂組成物100重量%に対して1〜5重量%となるように添加することを特徴とするナイロン66樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
ヘキサメチレンアジパミドの重合に際し、モノカルボン酸およびモノアミンから選択される重合度調節剤をヘキサメチレンアジパミドに対して0.1〜1.0モル%添加することを特徴とする請求項7記載のナイロン66樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−115201(P2008−115201A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296789(P2006−296789)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】