説明

ナチュラルキラー細胞を増殖させる作用を有する物質のスクリーニング方法

【課題】動物のNK細胞を増殖させる作用を有する物質をスクリーニングする方法を提供する。
【解決手段】動物(ヒトを除く)に被検物質を7日間連日投与し、ポリイノシン酸−ポリシチジル酸を被検物質の投与開始5日目に1回投与し、被検物質の投与終了後に同動物中のナチュラルキラー細胞の誘導を検出することにより、動物の生体内でナチュラルキラー細胞を増殖する作用を有する物質をスクリーニングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナチュラルキラー細胞を増殖させる作用を有する物質のスクリーニング方法に関する。本発明は、医療分野及び食品分野等で有用である。
【背景技術】
【0002】
ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、種々の腫瘍細胞やウイルス感染細胞、及び主要組織適合抗原の異なる細胞に対して細胞傷害活性を有する細胞群で、主として自己、非自己を認識するレセプターによって、活性化やその抑制が調節されている。
【0003】
NK細胞は自然免疫に携わるリンパ球のひとつとして重要な機能を担っていると考えられており、特にウイルス感染においては、Tリンパ球、及びBリンパ球による獲得免疫が成立するまで初期感染における免疫応答に極めて重要な役割を果たしている。
【0004】
すなわち、Tリンパ球及びBリンパ球が正常であっても、ナチュラルキラー機能が欠損している免疫不全患者やマウスでは、特定のウイルスに非常に感染しやすくなる。また近年、NK細胞のレセプターが特定のウイルス産物を認識することが明らかとなった。
【0005】
このように、NK細胞の腫瘍免疫に係わる様々な機能から、腫瘍治療や腫瘍の発生源となると想定されているウイルス感染細胞の除去に有効利用しようとする試みが行われてきている。
【0006】
実験動物からNK細胞を取得する方法として、脾臓、血液、骨髄等から細胞を採取して精製する方法が知られているが、いずれの組織においてもNK細胞は低い割合でしか含まれていないため、実験に必要なNK細胞を確保するためには熟練した技術と相応の設備が必要である。
【0007】
NK細胞の調製又は増殖方法については、インターロイキン−2を大量に添加した培養液で末梢血単核球細胞を培養すると、ヒトの場合には1週間前後でリンホカイン活性化キラーリンパ球(LAK細胞)が増殖してくるが、この中にはNK細胞が多く含まれていることは良く知られている。最近、細胞表面にほとんど主要組織適合抗原クラスI(MHC-I)を発現していないヒトB細胞株721.221に放射線を照射して分裂能を失わせた状態とし、これを末梢血単核球細胞とともに5〜6日間混合培養し、そこからNK細胞を精製し、さらに培養を続けてNK細胞を大量に得る方法が開発された(例えば、非特許文献1)。
【0008】
また、末梢血単核球細胞とヒトウイルムス腫瘍細胞株HFWTとを混合培養する工程を含むヒトNK細胞の増殖方法(特許文献1)、及び共役リノール酸類を有効成分とする動物のナチュラルキラーリンパ球の活性を高める方法(特許文献2)等がそれぞれ開示されている。しかし、特許文献1に開示された技術は、末梢血単核球細胞とヒトウイルムス腫瘍細胞株HFWTとを混合培養することによってヒトNK細胞を増殖する方法であって、in vivoで増殖させたNK細胞を採取する方法や、ナチュラルキラー活性を上昇させる因子のスクリーニングについては同文献には開示されていない。また、特許文献2は、共役リノール酸類によって高められたキラーリンパ球の脾臓での変化を追跡したものであって、in vivoで増殖させたNK細胞を採取する方法や、ナチュラルキラー活性を上昇させる因子のスクリーニングについては開示されていない。
【0009】
現在、NK細胞の活性(ナチュラルキラー活性:NK活性)の測定方法として最も一般
的なものは、ヒトK562細胞、又はマウスリンパ腫細胞Yac-1に対する細胞傷害活性を見るものであり、51Cr等で放射能ラベルしたYac-1細胞を含む細胞群を共培養し、培養上清中に放出された放射活性を測定する方法である。また、生体内でNK活性を測定する方法としては、前記と同様に放射能ラベルした腫瘍細胞を生体内に移植したり、あるいはウイルス等を動物に感染させて観察するというもので、いずれも特殊な施設や設備を必要とするものである。
【0010】
ラクトフェリンは、抗菌作用、免疫賦活作用、抗腫瘍作用等、様々な作用をもつ乳タンパク質として知られている。ラクトフェリンは乳由来の糖タンパク質であり、安全性が高く、長期連用することが可能で、それ自体は殆ど無味無臭であり、各種の食品・医薬品・飼料の添加物として、汎用性が高いタンパク質である。
【0011】
特許文献3(特表2002−515893号)には、ヒトラクトフェリン改変体を含む組成物を患者に投与する工程を包含する、患者においてNK細胞を刺激する方法が提案されている。しかしながら特許文献3には、実際にヒトラクトフェリン改変体がNK細胞を刺激する効果は記載されておらず、その根拠は不明であった。
【0012】
トール様受容体(トール・ライク・レセプター:Toll-like receptor、TLR)は、さまざまな細菌菌体構成成分を認識し、自然免疫における細菌の認識だけでなく、獲得免疫の活性化に重要な働きを担っているとされており、異なる病原体成分を認識し、独自の応答を引き起こす機能を有していると考えられている。現在、哺乳動物ではトール様受容体は10のファミリーメンバーからなっており、それぞれのトール様受容体が認識する病原体構成成分(リガンド)が同定されている。これら病原体構成成分であるリガンドには、脂質、糖、タンパク質、核酸等が含まれている(非特許文献2、非特許文献3)。
【特許文献1】特開2001−149069号公報
【特許文献2】特表2001−503430号公報
【特許文献3】特表2002−515893号公報
【非特許文献1】プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci., USA)、第94巻、1997年、第13140−13145頁
【非特許文献2】モレキュラー・メディシン(Molecular Medicine)、第39巻、2002年、第238−246頁
【非特許文献3】モレキュラー・メディシン(Molecular Medicine)、第40巻、2003年、第186−193頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、動物のNK細胞を増殖させる作用を有する物質のスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、ナチュラルキラー活性を上昇させる飲食品由来の因子をスクリーニングする方法について検討していたところ、食物(乳)由来の因子であるラクトフェリンを動物に一定期間投与し、その投与期間内の特定のタイミングでトール様受容体のリガンド(Toll-like receptor ligand)であるポリイノシン酸−ポリシチジル酸を投与したところ、該動物の腹腔内において、腹腔内細胞におけるNK細胞の割合が顕著に増加することを見出した。また、前記方法によって腹腔内にNK細胞を誘導することが可能となったことから、ナチュラルキラー活性の分析やNK細胞の採取が簡便に行えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
前記課題を解決する本願発明は、動物の生体内でNK細胞を増殖させる作用を有する物質のスクリーニング方法であって、動物(ヒトを除く)に被検物質を7日間連日投与し、ポリイノシン酸−ポリシチジル酸を被検物質の投与開始5日目に1回投与し、被検物質の投与終了後に同動物中のNK細胞の誘導を検出することを含む方法である。本発明のスクリーニング方法は、以下の1)〜3のいずれかを好ましい態様としている。
1)被検物質の投与開始8日目に何も投与せず、その後、前記動物中のナチュラルキラー細胞の誘導を検出すること。
2)被検物質を経口投与し、ポリイノシン酸−ポリシチジル酸を腹腔内投与すること。
3)前記被検物質が飲食品又はその成分であること。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、経口投与によって、in vivoにおいて、ナチュラルキラー活性(特にウイルスに対する)を上昇ないし賦活化させるような飲食品(食物)由来の因子を、放射能や特殊な施設を必要とせずにスクリーニングすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0018】
本発明は、前記のとおり、ラクトフェリンを動物に一定期間投与し、その投与期間内の特定のタイミングでポリイノシン酸−ポリシチジル酸(ポリIC)を投与したところ、該動物の腹腔内において、腹腔内細胞におけるNK細胞の割合が顕著に増加することを見出し、完成されたものである。したがって、まず、ラクトフェリンとポリイノシン酸−ポリシチジル酸の投与による動物のNK細胞の増殖に関する技術について説明する。
本発明の動物のNK細胞の増殖剤は、ラクトフェリンを含む第1剤と、ポリイノシン酸−ポリシチジル酸を含む第2剤からなり、かつ、前記第1剤と第2剤が別包されているものである。
本発明に使用するラクトフェリンは、市販のラクトフェリンや、哺乳動物(例えば、ヒト、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ等)の初乳、移行乳、常乳、末期乳、又はこれらの乳の処理物である脱脂乳、ホエー等を原料とし、例えばイオン交換クロマトグラフィー等の常法により、前記原料から分離して得られるラクトフェリンを用いることができる。中でも、工業的規模で製造されている市販のラクトフェリン(例えば、森永乳業社製)を使用することが好適である。更に、遺伝子工学的手法により、微生物、動物細胞、トランスジェニック動物等で生産したラクトフェリンを使用することも可能である。また、ラクトフェリンのNK細胞の増殖作用を損わない限り、アミノ酸配列が改変され、又は修飾された改変体も、本発明のラクトフェリンに含まれる。
【0019】
本発明において、ラクトフェリン中の金属含有量は特に限定されず、ラクトフェリンを塩酸やクエン酸等により脱鉄したアポ型ラクトフェリン;該アポ型ラクトフェリンを、鉄、銅、亜鉛、マンガン等の金属でキレートさせて得られる飽和度100%の状態の金属飽和ラクトフェリン;及び100%未満の各種飽和度で金属が結合している状態の金属部分飽和ラクトフェリンからなる群から選ばれる、いずれか1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0020】
本発明のNK細胞の増殖剤において、前記ラクトフェリンとポリイノシン酸−ポリシチジル酸は、各々別包される。本発明において別包とは、ラクトフェリンとポリイノシン酸−ポリシチジル酸が、それぞれ別個に投与することができるように分離した状態にあることをいい、典型的には、ラクトフェリンとポリイノシン酸−ポリシチジル酸は別々の容器又は袋等に収容される。ラクトフェリンを含む第1剤、及びポリイノシン酸−ポリシチジ
ル酸を含む第2剤はそれぞれ、動物に別個に投与される。
【0021】
前記第1剤は、ラクトフェリンの量として、動物の体重1kg当たり、好ましくは10〜2000mg/日、より好ましくは100〜1000mg/日で投与される。投与方法は特に制限されないが、経口投与が好ましい。また、前記投与量を1日当たり1回乃至複数回に分けて7日間連日投与する。
【0022】
前記第2剤は、ポリイノシン酸−ポリシチジル酸の量として、動物の体重1kg当たり、好ましくは10〜1000μg/日、より好ましくは50〜200μg/日、さらに好ましくは約100μg/日で投与される。第2剤は、前記の量を一回で投与することが好ましく、100μg/kg程度の量を1回投与することが特に好ましい。第2剤の投与方法は、特に制限されないが、腹腔内投与が好ましい。また、第2剤は、ラクトフェリン投与開始5日目に一回投与する。
【0023】
第1剤及び第2剤は、上記の投与方法及び投与スケジュールに適合するように調製される限り、剤型は特に制限されない。また、第1剤及び第2剤は、ラクトフェリン及びポリイノシン酸−ポリシチジル酸以外に、これらの成分の保存及び作用を害しない他の成分、例えば担体、賦形剤、pH調製剤等を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の動物におけるNK細胞の増殖方法は、ラクトフェリン及びポリイノシン酸−ポリシチジル酸を動物に投与することを含む。ラクトフェリン及びポリイノシン酸−ポリシチジル酸は、それぞれ本発明のNK細胞の増殖剤を構成する第1剤及び第2剤であってもよい。
【0025】
前記動物としては、ラクトフェリン及びポリイノシン酸−ポリシチジル酸の投与によって、NK細胞が誘導され、増殖するものであれば特に制限されないが、マウス、ラット、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウシ等が挙げられる。
【0026】
ラクトフェリン及びポリイノシン酸−ポリシチジル酸の投与方法及び投与スケジュールは、前記の本発明のNK細胞の増殖剤について記載したのと同様である。ラクトフェリン及びポリイノシン酸−ポリシチジル酸を投与することにより、これらを投与した動物中でNK細胞が誘導され、増殖する。特に、ポリイノシン酸−ポリシチジル酸を投与した臓器又は組織で、例えば腹腔に投与した場合は腹腔内に、NK細胞が誘導される。
【0027】
増殖したNK細胞の確認は、例えば、動物の臓器又は組織、例えば腹腔から採取した細胞について、NK細胞を認識する標識抗体を用いて、抗体と反応する陽性細胞の割合を測定することによって、行うことができる。例えば、動物としてマウスを用いた場合、抗CD49b/Pan−NK cell抗体(例えば、ファーミンジェン社製)を用いて、CD49b/Pan−NK cell抗体陽性細胞の割合を測定することによって、行うことができる。その際、バックグラウンドに関連するCD16/CD32(FcγIII/IIレセプター)を介する抗体結合を減少させるために、抗マウスCD16/CD32抗体又は抗ラットCD32抗体を用いて、これらの抗原をブロックしておくことが好ましい。なお、マウスとして、C57BL/6(strain)を使用した場合は、NK細胞を認識する抗体として、抗NK1.1抗体を用いてNK1.1陽性細胞の割合を測定することによって、行うことが好ましい。具体的には、実施例に記載したように、細胞をFITC標識NK1.1抗体を用いて染色し、フローサイトメーター(例えば、FACSTM Calibur:ベクトン・ディッキンソン社製)を用いてNK1.1陽性細胞の割合を測定することができる。
【0028】
上記のようにしてNK細胞が増殖した動物からNK細胞を採取することによって、NK
細胞を製造することができる。動物からのNK細胞の採取は、予め設定した投与スケジュールに従って、NK細胞が効果的に誘導されることが予想される時点で行うことができる。具体的には、ラクトフェリン投与後、1日間何も投与せずに放置し、その後、増殖したNK細胞を採取する。
【0029】
NK細胞の採取は常法にしたがって行うことができる。例えば、NK細胞が腹腔内に誘導された場合は、動物の腹腔内を洗浄液(例えばハンクス液)で1回又は複数回洗浄し、洗浄液を集めることによって、採取することができる。NK細胞を含む洗浄液からNK細胞を精製するには、例えばセルソーターを用いる方法が挙げられる。
【0030】
本発明の方法により得られるNK細胞は、高い細胞傷害活性を保っていることが期待される。NK細胞は、抗ウイルス活性や抗腫瘍活性を有することが知られている。したがって、本発明の方法により得られるNK細胞は、例えばヘルペスウイルスやサイトメガロウイルス等のウイルス感染症に対する細胞療法、癌患者へのLAK(limphokine activated
killer)療法に用いることができる。
【0031】
本発明によって、ポリイノシン酸−ポリシチジル酸の投与によってラクトフェリンのNK細胞増殖作用が高められることが示された。したがって、ポリイノシン酸−ポリシチジル酸を用いることによって、NK細胞増殖作用を有する物質の該作用を高めることができ、NK細胞増殖作用を有する物質を感度よくスクリーニングすることができる。すなわち、動物に被検物質とポリイノシン酸−ポリシチジル酸を投与し、同動物中のNK細胞の誘導を検出することによって、NK細胞増殖作用を有する物質をスクリーニングすることができる。
【0032】
具体的には、例えば、ラクトフェリンについて前記のようにして決定された投与スケジュールにおいて、ラクトフェリンを被検物質に置換えて被検物質及びポリイノシン酸−ポリシチジル酸を動物に投与し、動物中でNK細胞が誘導されれば、前記被検物質はNK細胞増殖作用を有すると考えられる。
【0033】
投与方法は、本発明のNK細胞の増殖剤と同様であってよい。好ましくは、被検物質は経口投与し、ポリイノシン酸−ポリシチジル酸は腹腔内投与する。また、NK細胞の誘導は、前記と同様に、例えばNK細胞を認識する標識抗体を用いて、抗体と反応する陽性細胞の割合を測定することによって、検出することができる。こうしてNK細胞の誘導が検出された被検物質については、さらに同被検物質を単独で動物に投与し、同動物の臓器又は組織、例えば脾臓等におけるNK細胞の増殖を確認することが好ましい。
【0034】
好ましい被検物質としては、動物の乳等の飲食品、又はそれらの飲食品中の各種成分が挙げられる。
本発明のスクリーニング法により見い出されるNK細胞増殖作用を有する物質、特に食品又はその成分は、NK細胞の増殖、又はNK細胞の増殖によって予防され得る疾患の予防を目的とする医薬もしくは健康食品又はそれらの成分として、利用することができる。
【実施例】
【0035】
次に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
〔実施例1〕
本実施例では、ラクトフェリンによるNK細胞増殖効果を検討するための試験を行った。
【0037】
(1)試験方法
7週齢のC57BL/6マウス(日本チャールスリバーより購入)45匹を、それぞれ9匹ずつ5群に分け、1週間馴化飼育し、各群にウシ・ラクトフェリン(森永乳業社製)の投与量が0(対照試料)、30、100、300、1000mg/kg体重となるように、生理食塩水(大塚製薬社製)に溶解したウシ・ラクトフェリン溶液を経口ゾンデを使用して、7日間連日投与した。投与完了後、1日間放置した後、それぞれのマウスから脾臓を採取し、脾臓細胞の懸濁液を調製した。調製した細胞懸濁液中の細胞数を1検体当たり2×106個となるように調整した。1%ウシ胎児血清を含むCell Wash(ベクトン・ディッキンソン社製)溶液(以下、「希釈バッファー」と記載する。)を用いて1μg/10μlの濃度となるように希釈した抗マウスCD16/CD32モノクローナル抗体(Fc
BlockTM、ベクトン・ディッキンソン社製)溶液を、1検体当たり10μlずつ前記細胞懸濁液に添加し、氷上で5分間静置して、FcγIII/IIレセプターをブロックした。
【0038】
その後、濃度が1μg/10μlとなるように希釈バッファーで調製したFITC標識抗マウスNK1.1抗体(ファーミンジェン社製)溶液を10μl添加して混合し、25分間静置して、NK1.1陽性のNK細胞を染色した。次いで希釈バッファーを500μl添加し、3500rpmで5分間遠心分離する方法で細胞を洗浄し、同洗浄操作を2回繰り返した。その後、細胞にFACSTM Lysing Solution(ベクトン・ディッキンソン社製)を500μl添加し、室温で10分間静置して、赤血球を溶解させた。引き続き、前記洗浄方法により2回細胞を洗浄し、回収した細胞に希釈バッファー1mlを添加して細胞懸濁液を調製した。調製した細胞懸濁液はナイロンスクリーン(フロン工業社製。製品番号:F-3100-134)で濾過してポリスチレンチューブに回収し、フローサイトメーター(FACSTM Calibur:ベクトン・ディッキンソン社製)にてNK1.1陽性細胞の割合を測定した。
【0039】
(2)試験結果
その結果、脾臓細胞中におけるNK1.1陽性細胞、すなわちNK細胞の割合は、ラクトフェリン投与量が100〜300mg/kg体重の投与群において、用量依存的に増加することが判明した。
【0040】
〔実施例2〕
本試験では、ラクトフェリン及びポリイノシン酸−ポリシチジル酸によるNK細胞増殖・誘導効果を検討する試験を行った。
【0041】
(1)試験方法
実施例1と同様に、1群9匹、計63匹のマウスを1週間馴化飼育した後、3群をラクトフェリン投与群(LF群。ラクトフェリン投与量:300mg/kg体重/日)、残りの4群を対照群(生理食塩水投与)として群分けした。ここで、全7群のマウスに経口ゾンデを使用して、各試料(ラクトフェリン投与、生理食塩水投与)を7日間連日投与し、さらに1日間何も投与せず、8日目を投与完了日とする投与スケジュールを計画した。ここで、ラクトフェリン投与群3群、及び対照群のうちの3群のそれぞれについて、投与完了7日前にポリIC(POLYINOSINIC-POLYCYTIDYLIC ACID Sodium salt、製品番号:P-0913。シグマ社製)を100μg腹腔内に投与する群、投与完了3日前にポリICを100μg腹腔内に投与する群、投与完了1日前にポリICを100μg腹腔内に投与する群を設定し、また、対照群の残り1群はポリICの投与は行わない群として設定して、それぞれ試験を行った。
【0042】
投与完了後、各群のマウスの腹腔にHank's balanced salt solution(ハンクス液「ニッスイ」、日水製薬社製)を5ml注入して腹腔内を洗浄し、これを2回繰り返して洗浄
液を回収して腹腔内細胞溶液を調製した。次いで、実施例1に記載された方法と同様の方法でFITC標識NK1.1抗体(ファーミンジェン社製)を用いて、腹腔内細胞を染色し、フローサイトメーター(FACSTM Calibur:ベクトン・ディッキンソン社製)にてNK1.1陽性細胞の割合を測定した。
【0043】
(2)試験結果
上記試験の結果を表1に示す。その結果、ラクトフェリン投与群のうち、投与完了3日前にポリICを投与した群において、腹腔内のNK細胞の割合及びNK細胞の絶対数は顕著に増加することが判明した。しかしながら、その他のラクトフェリン投与群および対照群では、腹腔内のNK細胞の割合及びNK細胞の絶対数のいずれも有意な増加は確認されなかった。尚、ラクトフェリン投与群3群において、いずれも脾臓でNK細胞の割合及びNK細胞の絶対数の増加は確認されたが、前記腹腔内で確認されたような顕著な変化は確認されなかった。
以上の結果より、上記の投与条件では、特に、ラクトフェリンを7日間連日投与し、8日目に投与を完了する投与スケジュールにおいて、投与完了3日前にポリICを投与することによって、腹腔内に特異的にNK細胞を誘導し、かつ顕著にNK細胞の割合及びNK細胞の絶対数を増加させることが可能であることが判明した。
【0044】
【表1】

【0045】
実施例1及び実施例2の結果から、ラクトフェリンを経口投与することにより少なくとも脾臓中でNK細胞が増殖すること、及び、さらにポリICを腹腔内投与することによりNK細胞が腹腔内に誘導されることが確認された。以上のことから、ラクトフェリンに代えて、動物の生体内でNK細胞を増殖する作用を有する他の物質を投与し、さらにポリICを例えば腹腔内に投与した場合も、NK細胞が腹腔内に誘導されると考えられる。このようなNK細胞増殖作用を有する物質とポリイノシン酸−ポリシチジル酸を組み合わせたNK細胞の誘導は、NK細胞増殖作用を有する物質のスクリーニングに利用することができると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の生体内でナチュラルキラー細胞を増殖する作用を有する物質のスクリーニング方法であって、動物(ヒトを除く)に被検物質を7日間連日投与し、ポリイノシン酸−ポリシチジル酸を被検物質の投与開始5日目に1回投与し、被検物質の投与終了後に同動物中のナチュラルキラー細胞の誘導を検出することを含む方法。
【請求項2】
被検物質の投与開始8日目に何も投与せず、その後、前記動物中のナチュラルキラー細胞の誘導を検出することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被検物質を経口投与し、ポリイノシン酸−ポリシチジル酸を腹腔内投与することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
被検物質が飲食品又はその成分である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。

【公開番号】特開2007−125038(P2007−125038A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12541(P2007−12541)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【分割の表示】特願2006−535800(P2006−535800)の分割
【原出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】