説明

ナノコンポジット樹脂とその製造方法

【課題】 カップリング剤を用いることなく無機フィラー表面にアミノ基を高効率で導入し、絶縁特性の高いナノコンポジット樹脂を提供する。
【解決手段】 無機フィラーと、該無機フィラーに結合した樹脂とを含むナノコンポジット樹脂であって、前記無機フィラーの表面に、該無機フィラーを構成するSi原子または金属原子に他の原子を介することなく共有結合したアミノ基を有するナノコンポジット樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノコンポジット樹脂とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量、高電圧環境下でも動作可能なIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)などのパワーモジュールが、民生用機器や産業用機器に広範に使用されている。これらの半導体素子を用いる各種のモジュール(以下、「半導体モジュール」という)の中には、搭載している半導体素子によって生成される熱が高温に達するものがある。その理由としては、半導体素子が扱う電力が大きい場合、半導体素子における回路の集積度が高い場合、または回路の動作周波数が高い場合などが挙げられる。この場合、半導体モジュールを構成している絶縁封止樹脂には、発熱温度以上のガラス転移温度(Tg)が必要となる。
【0003】
Tgを向上させるためには樹脂の分子運動を抑制するために、無機フィラーをナノメートルサイズにしたナノフィラーを樹脂に混合させる方法が用いられている(例えば特許文献1)。
【0004】
無機フィラーと樹脂との共有結合を強くし、また水素結合等の非共有結合を介して相溶性や親和性を高めるためにシランカップリング剤により無機フィラー表面を予め処理することが試みられている(例えば、非特許文献1)。
【0005】
シランカップリング剤を無機フィラー表面に形成する際、無機フィラー表面のOH基とシランカップリング剤のOH基が水素結合し、その後脱水を経てシランカップリング剤と無機フィラーが酸素を介して共有結合すると考えられている(非特許文献1より)。しかし、シランカップリング剤を用いることによってそのもの自身が不純物となり、ナノコンポジット樹脂の絶縁特性を低下させるという問題がある。
【0006】
半導体装置など電子部品の封止用の樹脂組成物として、金属酸化物粉体の表面がアンモニアで処理された微塩基性金属酸化物粉体にエポキシ樹脂等を作用させることが開示されている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−292866号公報
【特許文献2】特開2005−171206号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】シランカップリング剤カタログ(東レ・ダウコーニング社)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2で得られた微塩基性金属酸化物粉体は、金属酸化物粉体に対して前処理を行わずにアンモニアを直接噴霧していることから、粉体表面にOH基が残存しているものと考えられる。
本発明は、上記現状に鑑み、カップリング剤を用いることなく無機フィラー表面にアミノ基を高効率で導入し、絶縁特性の高いナノコンポジット樹脂を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明の1つの側面は、無機フィラーと、該無機フィラーに結合した樹脂とを含むナノコンポジット樹脂であって、前記無機フィラーの表面に、該無機フィラーを構成するSi原子または金属原子に他の原子を介することなく共有結合したアミノ基を有することを特徴とするナノコンポジット樹脂である。
本発明の他の側面は、原料フィラーを250℃以上300℃以下に加熱処理する工程と、前記加熱処理を経たフィラーをアミノ化試薬で表面処理して無機フィラーを得る工程と、前記無機フィラーと、樹脂、該樹脂を構成する単量体またはアミノ基と反応性を有する官能基とを混合してナノコンポジット樹脂を得る工程とをこの順に含むナノコンポジット樹脂の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シランカップリング剤を用いることなくフィラーと樹脂とを結合させることが可能となり、ナノコンポジット樹脂の絶縁特性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】OH基4で終端されたSiO表面1の模式図である。
【図2】SiO表面のOH基をアミノ基に置換した1つの態様を示す模式図である。
【図3】SiO表面のOH基をアミノ基に置換した他の態様を示す模式図である。
【図4】SiO表面1のアミノ基2aにエポキシ官能基3が近づく過程を示す模式図である。
【図5】SiO表面1のアミノ基2aに近づいたエポキシ官能基3がアミノ基2aと反応した状態を示す模式図である。
【図6】SiO表面1のOH基4にシランカップリング剤5のOH基が近づき脱水反応する過程を示す模式図である。
【図7】無機フィラーの表面にシランカップリング剤を結合する従来の工程を示す模式図である。
【図8】図7の工程で得られた無機フィラーの表面に結合したシランカップリング剤のアミノ官能基にエポキシ官能基が近づく過程を示す従来工程の模式図である。
【図9】図8でアミノ官能基にエポキシ樹脂とが反応した状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を、図面を参照して詳細に説明する。
本発明にかかるナノコンポジット樹脂は、無機フィラーと、該無機フィラーに結合した樹脂とを含むナノコンポジット樹脂である。
使用する原料フィラーは、樹脂のガラス転移温度[Tg]を高め、室温で高い電気絶縁性(1011 Ω・m以上)を有する金属酸化物またはシリコン酸化物であれば特に限定されないが、例えば、TiO,SiO,Al等が挙げられる。
原料フィラーは、ナノメートルサイズ、好ましくは、10〜20nmの平均粒径を有するナノフィラーが採用される。原料フィラーの平均粒径は、平均粒径は、BET法や電子顕微鏡により測定した値を採用することができる。
原料フィラーの粉体は、多孔性(気孔率が70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、または、95%以上)であっても、非多孔性(気孔率が70%未満、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、または、20%以下)であってもよい。
【0014】
原料フィラーは、アミノ化試薬を作用するに先立ち、250℃〜300℃で予備加熱を行う。これにより原料フィラー表面のヒドロキシ基(OH基)が除去され、アミノ基による置換が容易になる。
予備加熱は、原料フィラー粉末を攪拌しながら行ってもよいし、薄く敷き詰めることが可能であれば必ずしも攪拌しなくてもよい。予備加熱時間は、原料フィラーの量にもよるが、通常、10分から120分程度である。
【0015】
アミノ化試薬と原料フィラーとの接触は、原料フィラーの表面のシラノール基が極力低減される条件下で連続的または断続的に攪拌しながら行うことが好ましい。
アミノ化試薬と原料フィラーとの接触タイミングは、原料フィラーの熱処理後または熱処理時のいずれであってもよい。
熱処理温度は、アミノ化試薬またはアンモニア発生剤によって適宜決めることができる。
【0016】
アミノ化試薬は、アンモニアそのものであってもよいが、アンモニア発生剤も使用することができる。アンモニア発生剤は、必要に応じて加熱し、また必要に応じて適切な触媒に接触させて分解することでアンモニアを生じるものであり、例えば、ジメチルアミン、尿素、塩化アンモニウム等が挙げられる。アンモニア発生剤の加熱温度は上述した原料フィラーの予備加熱温度より高くてもよいし、低くてもよい。
アミノ化試薬にはアミン系シランカップリング剤は含まれない。
【0017】
本願でアミノ化試薬として最終生成するアンモニアは、水蒸気が含まれている場合、原料フィラーの表面へのシラノール基生成を助長しないように乾燥して用いることが好ましい。乾燥剤としては、塩基性乾燥剤であることが好ましく、例えば、酸化アルミニウム、ゼオライト、モレキュラーシーブ等の物理的乾燥剤;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酸化カルシウム等の化学的乾燥剤を単独使用または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0018】
上述の手順にしたがって得られたアミノ基を粒子表面に有する無機フィラーとしては、例えば、無機フィラーとしてシリカを用いた場合代表的な化学構造として、図2や図3のような構造、または、これら2種類の構造が混ざったものがあげられる。
【0019】
上述の手順にしたがって得られたアミノ基を粒子表面に有する無機フィラーに対して、例えば、エポキシ樹脂、該樹脂を構成する単量体、アミノ基と反応性を有する官能基を有する硬化剤などを作用させる。ここで、作用させる官能基としては、例えば、エポキシド、カルボキシル基、カルボニル基、酸無水物などがある。作用温度は、エポキシ樹脂の種類にもよるが、通常、15℃以上200℃以下の範囲で最適な温度が設定される。
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等の2官能エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂を単独で又は複数組み合わせて使用することができる。エポキシ樹脂には硬化剤が使用されてもよく、該硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として一般に使用されているものを用いることができる。
なお、樹脂としては、特にエポキシ樹脂に限定されるものではなく、ガラス転移温度[Tg]が比較的高く、低誘電率(4〜7)であって、無機フィラー上のアミノ基と反応性を有するものであればよい。
樹脂組成物における無機フィラーの配合割合は、硬化前の樹脂組成物の重量を100%として、0.1〜10重量%の割合で添加することが好ましい。
【0020】
本発明のナノコンポジット樹脂は、さらに従来公知のガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維等の強化繊維を含んでいてもよい。
【0021】
本発明のナノコンポジット樹脂は、上述したようにシランカップリング剤を介することなくフィラーと樹脂とを結合させたものである。したがって、無機フィラーの表面は、該無機フィラーを構成するSi原子または金属原子に酸素や炭素等の他の原子を介することなく直接共有結合したアミノ基を有している。
【0022】
(実施例)
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
本実施例では、無機フィラーとしてSiO(粒径:12nm)を使用した。図1に示すように、SiO表面1は通常OH基4で終端されている。
このOH基をアミノ基に置換するため、次の工程を実施した。
底の浅いトレー上にSiO粒子を薄く敷き詰め、それを約250℃に保持したベーク炉に投入した。投入後30分でトレーを取り出し、直後にアンモニア雰囲気の容器内にトレーごと投入した。アンモニア雰囲気は、25%アンモニア水をガラス容器に入れたものを、前記容器内に入れることでアンモニア雰囲気としている。このときの温度は室温とした。30分経過後、一度トレーを取り出し、ステンレス棒でSiO粒子をかき混ぜ、再度薄く敷き詰めた後、再度アンモニア雰囲気の容器に投入した。これを、5回ほど繰り返すことで、図2あるいは図3に示すようにSiO表面のOH基をアミノ基に置換した。
このようにアミノ基で置換したSiO粒子を、その含有量が3wt%になるようにエポキシ樹脂に混合し、ナノコンポジット樹脂を作製した。エポキシ樹脂にはビスフェノールA型エポキシ樹脂(品番:828、三菱化学社製)、硬化剤には変性脂環族アミン(品番:113、三菱化学社製)、硬化促進剤にはイミダゾール(品番:EMI24、三菱化学社製)を用いた。
図4に示す例では、SiO表面1のアミノ基2aにエポキシ官能基3が近づき、アミノ基2aと反応して、図5のような分子構造に変化する。この反応は後に示す、シランカップリング剤の有機官能基であるアミノ基とエポキシ樹脂の場合と同じ反応である。
【0023】
(比較例)
比較例はSiO表面をシランカップリング剤で処理したものである。シランカップリング剤には、東レ・ダウコーニング製のZ−6011を用いた。
図6に示すように、SiO表面1のOH基4にシランカップリング剤5のOH基が近づき、脱水反応をして、図7に示す構造に変化する。
シランカップリング剤で表面処理したSiO粒子と実施例同様のエポキシ樹脂を混合しナノコンポジット樹脂を得た。図8に示すようにシランカップリング剤のアミノ官能基にエポキシ樹脂が近づくと、図9のように分子構造が変化する。この反応は実施例で示したものと同様の反応である。
【0024】
実施例および比較例で得られたナノコンポジット材料について次のように絶縁破壊試験を行った。
試験片には針電極(長さ60mm、直径1mm、針先端曲率半径5μm)を埋め込み、底部には導電性銀ペーストを塗布して、接地平板電極に固定した。針電極と平板電極間の距離は3.5mmとした。この針電極を埋め込んだ試料片をシリコーン油中に浸した。針電極と平板電極間に20kV、50Hzの電圧を印加し、絶縁破壊までの時間を測定した。その際、試験片数は5個とした。
その結果、比較例では1000分で絶縁破壊に至ったが、実施例では1200分で破壊した。
以上のように、実施例のように無機フィラー表面をアミノ基で置換することによって、シランカップリング剤を用いずに樹脂とフィラーを結合させることが可能となり、絶縁破壊特性を向上させることが可能となった。
【符号の説明】
【0025】
1 無機フィラー表面
2a アミノ基
2b アミノ基
3 エポキシ官能基
4 OH基
5 シランカップリング剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機フィラーと、該無機フィラーに結合した樹脂とを含むナノコンポジット樹脂であって、前記無機フィラーの表面に、該無機フィラーを構成するSi原子または金属原子と他の原子を介することなく共有結合したアミノ基を有することを特徴とするナノコンポジット樹脂。
【請求項2】
前記無機フィラーが、原料フィラーを250℃以上300℃以下に加熱処理した後、または、250℃以上300℃以下の温度に維持しながらアミノ化試薬で表面処理することにより得られたものである請求項1に記載のナノコンポジット樹脂。
【請求項3】
前記樹脂成分としてエポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のナノコンポジット樹脂。
【請求項4】
前記無機フィラーが、TiO、SiOまたはAlであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のナノコンポジット樹脂。
【請求項5】
原料フィラーを250℃以上300℃以下に加熱処理する工程と、
前記加熱処理を経たフィラーをアミノ化試薬で表面処理して無機フィラーを得る工程と、
前記無機フィラーと、樹脂、該樹脂を構成する単量体またはアミノ基と反応性を有する官能基を有する硬化剤とを混合してナノコンポジット樹脂を得る工程とをこの順に含むナノコンポジット樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−171975(P2012−171975A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32133(P2011−32133)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】