説明

ナノファイバシート

【課題】対象物の表面との密着性が向上したナノファイバシートを提供すること。
【解決手段】ナノファイバシートは、接着性成分及び水不溶性高分子化合物を含有するナノファイバを含む。接着性成分は水溶性高分子化合物であり、該水溶性高分子化合物は、ナノファイバシートの使用時に、該ナノファイバシートが水と接触することによって接着性を発揮するものであることが好適である。ナノファイバにおける水溶性高分子化合物の割合が1〜50重量%であり、水不溶性高分子化合物の割合が50〜99重量%であることが好適である。このナノファイバシートを、対象物の表面に付着させる場合には、対象物表面を液状物で湿潤させた状態下に、ナノファイバシートを対象物表面に当接させ、該表面に付着させることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバを含むナノファイバシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノファイバは、例えば、ナノサイズ効果を利用した高透明性などの光学特性が要求される分野に応用されている。一例として、ナノファイバの直径を可視光の波長以下にすることで、透明なファブリックを実現できる。また、ナノファイバの直径を可視光の波長と同じにすることで、構造発色を発現させることができる。また、超比表面積効果を利用して、高吸着特性や高表面活性が要求される分野や、超分子配列効果を利用して、引張強度等の力学的特性や高電気伝導性等の電気的特性が要求される分野でも検討がなされている。このような特徴を有するナノファイバは、例えば単繊維として用いられるほか、集積体(ファブリック)や複合材としても用いられている。
【0003】
ナノファイバの応用例として、静電紡糸法によって得られる多糖類を主原料とし、直径が500nm以下である多糖類のナノスケールの繊維が提案されている(特許文献1参照)。同文献の記載によれば、この繊維は、再生医療における生体組織培養の基材及び生体組織の欠損、修復、再生、治療を目的とした生体材料(人工弁、人工臓器、人工血管、創傷被覆材等)の一部として用いられるとされている。
【0004】
また、高分子化合物のナノファイバからなる網目状構造体に、化粧料や化粧料成分を保持させてなる化粧用シートも提案されている(特許文献2参照)。同文献の記載によれば、この化粧用シートは、顔面や手足に対する密着性や装着感を向上させることができ、また、保存性も向上させることができるとされている。
【0005】
これらの技術のほか、静電紡糸法によって製造されたナノファイバを含むシートについての技術として、特許文献3及び4に記載の技術も知られている。しかし、上述した各技術にしたがい得られたシートを、例えば肌等の対象物表面に適用しようとしても、繊維形状を維持できなかったり、密着性が良好でなく、すぐに剥がれてしまいやすい。密着性を高めるためにシートの一面に粘着層を設けることも考えられるが、シート自体が極めて薄いので、シートを肌に適用するときに粘着層どうしが貼り付きやすく、取り扱い性が良好でない。また、シートを肌に適用するときに、シートと肌との間に浮きが生じやすくなる。取り扱い性を高めることを目的として、粘着層の材料としてゲルを用い、シートの剛性を高めることも考えられるが、その場合にはシートが厚くなり、シートを肌に適用したときの感触が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−290610号公報
【特許文献2】特開2008−179629号公報
【特許文献3】特表2004−532802号公報
【特許文献4】国際公開第2009/031620号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得るナノファイバシートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、接着性成分及び水不溶性高分子化合物を含有するナノファイバを含むナノファイバシートを提供するものである。
【0009】
また本発明は、前記のナノファイバシートを、対象物の表面に付着させるナノファイバシートの使用方法であって、
対象物表面を液状物で湿潤させた状態下に、ナノファイバシートを対象物表面に当接させ、該表面に付着させるナノファイバシートの使用方法を提供するものである。ここで、液状物とは水性の液体及び油性の液体を含み、表面張力が高いほど好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のナノファイバシートは、接着性成分と水不溶性高分子化合物から構成されており、水不溶性高分子化合物がナノファイバの骨格を形成しているので、該ナノファイバシートを取り扱う際に接着性成分と骨格成分である水不溶性高分子化合物とが剥離することなく、高い接着性能を有するナノファイバシートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、エレクトロスピニング法を実施するための装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のナノファイバシートは、ナノファイバから構成されている。ナノファイバシートは、ナノファイバのみから構成されていることが好ましい。尤も、ナノファイバシートが、ナノファイバに加えて他の成分を含むことは妨げられない。ナノファイバは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10〜3000nm、特に10〜1000nmのものである。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって測定することができる。
【0013】
ナノファイバの長さは本発明において臨界的でなく、ナノファイバの製造方法に応じた長さのものを用いることができる。また、ナノファイバは、ナノファイバシートにおいて、一方向に配向した状態で存在していてもよく、あるいはランダムな方向を向いていてもよい。更に、ナノファイバは、一般に中実の繊維であるが、これに限られず例えば中空のナノファイバや、中空のナノファイバがその縦断面方向に潰れた形状のリボン状ナノファイバを用いることもできる。
【0014】
ナノファイバシートの厚みは、その具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。ナノファイバシートを、例えばヒトの肌に付着させるために用いる場合には、ナノファイバシートの厚みを50nm〜1mm、特に500nm〜500μmに設定することが好ましい。ナノファイバシートの厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(R5mm超硬球面測定子)を使用して測定できる。測定時にシートに加える荷重は0.01Paとする。
【0015】
ナノファイバシートの坪量も、その具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。ナノファイバシートを、例えばヒトの肌に付着させるために用いる場合には、ナノファイバシートの坪量を0.01〜100g/m2、特に0.1〜50g/m2に設定することが好ましい。
【0016】
ナノファイバシートにおいて、ナノファイバは、それらの交点において結合しているか、又はナノファイバどうしが絡み合っている。それによって、ナノファイバシートは、それ単独でシート状の形態を保持することが可能となる。ナノファイバどうしが結合しているか、あるいは絡み合っているかは、ナノファイバシートの製造方法によって相違する。
【0017】
ナノファイバシートを構成するナノファイバは、接着性成分及び水不溶性高分子化合物を含有している点に特徴の一つを有する。ナノファイバがこれら2種類の成分を含有することで、このナノファイバを含むナノファイバシートは、対象物への良好な接着性及び密着性を発揮することができる。接着性成分及び水不溶性高分子化合物のうち、水不溶性高分子化合物はナノファイバの骨格を形成する材料である。したがって、ナノファイバシートを取り扱う際に、接着性成分と骨格成分である水不溶性高分子化合物とが剥離することなく、高い接着性能が発揮される。
【0018】
特に接着性成分が水溶性高分子化合物の場合には、ナノファイバシートの使用時に、例えば水を含有する液状物と併用して対象物の表面に適用すると、該ナノファイバシートが水と接触することによってナノファイバ中の水溶性高分子化合物が液状物に溶解し、溶解した水溶性高分子化合物が接着性を発揮してバインダとして作用して、シートと対象物の表面との密着性が維持される。しかも、水不溶性高分子化合物がナノファイバの骨格を形成しているので、水溶性高分子化合物が溶解した後であっても、ナノファイバはファイバとしての形態が保たれている。
【0019】
本明細書において「接着性成分」とは、ナノファイバシートを対象物に貼り付けて使用するときに、ナノファイバシートに接着性及び密着性を付与する成分である。接着性成分としては「接着性水不溶性高分子化合物」と「水溶性高分子化合物」を用いることができる。接着性水不溶性高分子化合物としては、タッキング試験機((株)レスカ社製)で、円柱型プローブ(φ5.1mm、SUS304製)を用いて、Preload 50gf、Press Time 1.0secの条件でタック強さの測定を行ったときに、Peakの値が10gf〜200gfである高分子化合物が好適に用いられる。タッキング試験機に供される測定サンプルとしては、少なくとも6mmの直径を有する円形の平面部を有するように形成された該高分子化合物の成形体を用いる。なお、先に述べた「水不溶性高分子化合物」と、ここで述べた「接着性水不溶性高分子化合物」とを区別するために、以下の説明においては、ここで述べた「接着性水不溶性高分子化合物」のことを、単に「接着性高分子化合物」という。
【0020】
接着性成分として接着性高分子化合物が用いられる場合、これと併用される水不溶性高分子化合物は、接着性を有さないものである。「接着性を有さない」とは、先に述べたタック強さの測定において、Peakの値が10gf未満であることをいう。また、接着性成分として接着性高分子化合物が用いられる場合には、接着性高分子化合物がナノファイバシートの骨格を形成していても良い。
【0021】
本明細書において「水溶性高分子化合物」とは、1気圧・常温(20℃±15℃)の環境下において、高分子化合物を、該高分子化合物に対して10倍以上の重量の水に浸漬し、十分な時間(例えば24時間以上)が経過したときに、浸漬した高分子化合物の50重量%以上が溶解する程度に水に溶解可能な性質を有する高分子化合物をいう。
【0022】
本明細書において「水不溶性高分子化合物」とは、1気圧・常温(20℃±15℃)の環境下において、高分子化合物を、該高分子化合物に対して10倍以上の重量の水に浸漬し、十分な時間(例えば24時間以上)が経過したときに、浸漬した高分子化合物の80重量%以上が溶解しない程度に水に溶解しづらい性質を有する高分子化合物をいう。この定義は、接着性高分子化合物についても適用される。
【0023】
ナノファイバにおける接着性成分の割合は、該接着性成分が接着性高分子化合物の場合には、30〜99重量%、特に50〜90重量%に設定することが好ましい。この場合に併用される水不溶性高分子化合物の割合は1〜70重量%、特に10〜50重量%に設定することが好ましい。一方、接着性成分が水溶性高分子化合物の場合には1〜80重量%、特に3〜50重量%に設定することが好ましく、この場合に併用される水不溶性高分子化合物の割合は、20〜99重量%、特に50〜97重量%に設定することが好ましい。接着性成分及び水溶性高分子化合物の割合をこの範囲内に設定することによって、ナノファイバシートを対象物に貼付する場合に十分な接着性及び密着性が得られるとともに、ナノファイバどうしが粘着しあったりすることによる不具合を軽減することができる。更に、接着成分として水溶性高分子化合物を用いる場合には、液状物と併用することで、水溶性高分子化合物が液状物中に溶解して対象物とナノファイバシートとの間に十分な密着性が得られるという有利な効果が奏される。この効果とともに、ナノファイバの骨格を維持するのに十分な量の水不溶性高分子化合物が確保されるので、ナノファイバシートを液状物と併用するときに、水溶性高分子化合物が液状物に溶解しても、ナノファイバシートの形態を維持できるという有利な効果も奏される。
【0024】
ナノファイバを構成する接着性高分子化合物としては、例えば天然ゴム、アクリル酸エステル共重合体等のアクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ウレタン系樹脂、又はこれら樹脂の共重合体等が挙げられる。これらの接着性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの接着性高分子化合物のうち、粘着性が高く、適用範囲が広いことから、アクリル系樹脂やシリコーン系樹脂を用いることが好ましい。
【0025】
ナノファイバを構成する水溶性高分子化合物としては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β-グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、変性コーンスターチ、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子、部分鹸化ポリビニルアルコール(後述する架橋剤と併用しない場合)、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子などが挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水溶性高分子化合物のうち、ナノファイバの製造が容易である観点から、プルラン、並びに部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンオキサイド等の合成高分子を用いることが好ましい。
【0026】
一方、ナノファイバを構成する水不溶性高分子化合物としては、例えばナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、後述する架橋剤と併用することでナノファイバ形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテフタレート樹脂、ポリブチレンテフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらの水不溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水不溶性高分子化合物のうち、溶液の状態で接着性成分と混合が容易であり、乾燥後に不溶化できる観点から、ナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、後述する架橋剤と併用することでナノファイバ形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、水溶性ポリエステル、ツエイン等を用いることが好ましい。
【0027】
ナノファイバは、上述の水溶性高分子化合物及び水不溶性高分子化合物からのみ構成されていてもよく、あるいはこれらの高分子化合物に加えて他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば架橋剤、顔料、添料、香料、界面活性剤、帯電防止剤、発泡剤などが挙げられる。架橋剤は、例えば上述の部分鹸化ポリビニルアルコールを架橋して、これを不溶化する目的で用いられる。顔料は、ナノファイバを着色する目的で用いられる。これらの成分は、ナノファイバ中に、好ましくはそれぞれ0.01〜70重量%含有される。
【0028】
本発明のナノファイバシートは、それ単独で単層で用いることもでき、他のシートと積層した多層構造のシートとして用いることもできる。ナノファイバシートと併用される他のシートとしては、例えば使用前のナノファイバシートを支持してその取り扱い性を高めるための基材シートが挙げられる。ナノファイバシートを、基材シートと組み合わせて用いることで、剛性が低いナノファイバシートを、例えばヒトの肌等の対象物に付着させるときの操作性が良好になる。
【0029】
ナノファイバシートの取り扱い性を向上させる観点から、基材シートは、そのテーバーこわさが0.01〜0.4mNm、特に0.01〜0.2mNmであることが好ましい。テーバーこわさは、JIS P8125に規定される「こわさ試験方法」により測定される。
【0030】
テーバーこわさとともに、基材シートの厚みも、ナノファイバシートの取り扱い性に影響を及ぼす。この観点から、基材シートの厚みは、該基材シートの材質にもよるが、5〜500μm、特に10〜300μmであることが好ましい。基材シートの厚みは、ナノファイバシートの厚みと同様の方法で測定することができる。
【0031】
また基材シートは、ナノファイバシートを対象物に転写させる観点から通気性を有することが好ましい。基材シートのガーレ通気度は、30秒/100ml以下、特に20秒/100ml以下であることが好ましい。基材シートのガーレ通気度は、JIS P8117に従い測定される。
【0032】
基材シートは、ナノファイバシートの上に直接積層されていることが好ましい。この場合、基材シートは、ナノファイバシートに対して剥離可能に積層されていることが好ましい。このような構成とすることで、ナノファイバシートを、例えばヒトの肌に付着させた後に、基材シートをナノファイバシートから剥離除去して、ナノファイバシートを、ヒトの肌に残すことが可能になるという利点がある。
【0033】
基材シートとしては、例えばポリオレフィン系の樹脂やポリエステル系の樹脂を始めとする合成樹脂製のフィルムを用いることができる。該フィルムを、ナノファイバシートに対して剥離可能に積層する場合には、該フィルムにおけるナノファイバシートとの対向面に、シリコーン樹脂の塗布やコロナ放電処理などの剥離処理を施しておくことが、剥離性を高める観点から好ましい。
【0034】
基材シートとしては、メッシュシートを用いることもできる。メッシュシートを用いることで、上述したシリコーン樹脂の塗布等の剥離処理をことさら行わなくても、基材シートを、ナノファイバシートに対して剥離可能に積層することができる。この場合、メッシュの目開きは20〜200メッシュ/インチ、特に50〜150メッシュ/インチとすることが好ましい。また、メッシュの線径は、10〜200μm、特に30〜150μmであることが好ましい。メッシュシートを構成する材料としては、上述したフィルムを構成する材料と同様のものを特に制限なく用いることができる。
【0035】
基材シートとしては、通気性を有する材料である紙や不織布を用いることもできる。紙や不織布を用いることで、上述したシリコーン樹脂の塗布等の剥離処理をことさら行わなくても、基材シートを、ナノファイバシートに対して剥離可能に積層することができる。また、液状物を介して、対象物にナノファイバシートを転写するときに、余分な水分を吸収させることもできる。紙や不織布を構成する材料としては、例えば、天然繊維状物としては植物繊維(コットン、カボック、木材パルプ、非木材パルプ、落花生たんぱく繊維、とうもろこしたんぱく繊維、大豆たんぱく繊維、マンナン繊維、ゴム繊維、麻、マニラ麻、サイザル麻、ニュージーランド麻、羅布麻、椰子、いぐさ、麦わら等)、動物繊維(羊毛、やぎ毛、モヘア、カシミア、アルカパ、アンゴラ、キャメル、ビキューナ、シルク、羽毛、ダウン、フェザー、アルギン繊維、キチン繊維、ガゼイン繊維等)、鉱物繊維(石綿等)が挙げられる。合成繊維状物としては、例えば、半合成繊維(アセテート、トリアセテート、酸化アセテート、プロミックス、塩化ゴム、塩酸ゴム等)、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維等が挙げられる。また、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、デンプン、ポリビニルアルコール若しくはポリ酢酸ビニル又はこれらの共重合体若しくは変性体等の単繊維、又はこれらの樹脂成分を鞘部に有する芯鞘構造の複合繊維を用いることができる。
【0036】
本発明のナノファイバシートは、例えばエレクトロスピニング法を用い、平滑な基板の表面にナノファイバを堆積させることで好適に製造することができる。図1には、エレクトロスピニング法を実施するための装置30が示されている。エレクトロスピニング法を実施するためには、シリンジ31、高電圧源32、導電性コレクタ33を備えた装置30が用いられる。シリンジ31は、シリンダ31a、ピストン31b及びキャピラリ31cを備えている。キャピラリ31cの内径は10〜1000μm程度である。シリンダ31a内には、ナノファイバの原料となる高分子化合物の溶液が充填されている。この溶液の溶媒は、高分子化合物の種類に応じ、水若しくは有機溶媒、又は水及び水と相溶性のある有機溶媒の混合溶媒とする。高電圧源32は、例えば10〜30kVの直流電圧源である。高電圧源32の正極はシリンジ31における高分子溶液と導通している。高電圧源32の負極は接地されている。導電性コレクタ33は、例えば金属製の板であり、接地されている。シリンジ31におけるニードル31cの先端と導電性コレクタ33との間の距離は、例えば30〜300mm程度に設定されている。図1に示す装置30は、大気中で運転することができる。運転環境に特に制限はなく、温度20〜40℃、湿度10〜50%RHとすることができる。
【0037】
シリンジ31と導電性コレクタ33との間に電圧を印加した状態下に、シリンジ31のピストン31bを徐々に押し込み、キャピラリ31cの先端から高分子化合物の溶液を押し出す。押し出された溶液においては、溶媒が揮発し、溶質である高分子化合物が固化しつつ、電位差によって伸長変形しながらナノファイバを形成し、導電性コレクタ33に引き寄せられる。このとき、導電性コレクタ33の表面に基材層(図示せず)となるべきシートを配置しておくことで、該基材層の表面にナノファイバを堆積させることができる。このようにして形成されたナノファイバは、その製造の原理上は、無限長の連続繊維となる。なお、中空のナノファイバを得るためには、例えばキャピラリ31cを二重管にして芯と鞘に相溶し合わない溶液を流せばよい。
【0038】
上述の高分子化合物の溶液としては、例えば水溶性高分子化合物と、繊維形成後の処理によって水不溶性となる水溶性の高分子化合物とを含む水溶液を用いることができる。繊維形成後の処理によって水不溶性となる水溶性の高分子化合物としては、ポリビニルアルコールを用いることが有利である。ポリビニルアルコールは水溶性であるととともに、これを加熱乾燥して結晶化させたり、架橋剤と併用して架橋することによって水不溶性に変化するからである。したがって、上述のエレクトロスピニング法によってナノファイバシートを製造した後に、該シートを加熱することで、水溶性樹脂及びポリビニルアルコールからなる水不溶性樹脂を含有するナノファイバを含むナノファイバシートが得られる。加熱条件は、温度60〜200℃、時間1〜200分であることが好ましい。
【0039】
前記の乾燥後に水不溶性となる高分子化合物を用いる場合には、該化合物と、水溶性高分子化合物とを、同一の溶媒に溶解した原料溶液を用い、エレクトロスピニング法を行うことが好ましい。この場合の溶媒としては、水や、水に水溶性有機溶媒を添加してなる混合溶媒等を始めとする各種液状物を用いることができる。
【0040】
また、上述の高分子化合物の溶液として、水溶性高分子化合物及び水と相溶可能な有機溶媒に溶解する水不溶性高分子化合物を含み、かつ水と該有機溶媒との混合溶媒を含む溶液が挙げられる。そのような有機溶媒と水不溶性高分子化合物との組み合わせとしては、例えばオキサゾリン変成シリコーンとエタノール又はメタノールとの組み合わせや、ツエインとエタノール又はアセトンとの組み合わせ等が挙げられる。
【0041】
また、上述の高分子化合物の溶液として、水及び有機溶剤に溶解することが可能な水溶性高分子化合物と、水不溶性高分子化合物とを、有機溶剤に溶解した溶液が挙げられる。そのような水溶性高分子化合物と水不溶性高分子化合物との組み合わせとしては、例えばヒドロキシプロピルセルロースとポリビニルブチラールとの組み合わせ等が挙げられる。
【0042】
ナノファイバシートを含む多層構造のシートを製造する場合には、エレクトロスピニング法において用いる基板におけるナノファイバの堆積面に、多層構造のうちの一つの層を構成するシートを配置すればよい。例えばナノファイバシートと上述の基材シートからなる多層構造のシートを用いる場合には、エレクトロスピニング法によって、該基材シート上にナノファイバを堆積させればよい。
【0043】
このようにして得られたナノファイバシートは、例えばヒトの皮膚、非ヒト哺乳類の皮膚や歯、枝や葉などの植物表面などに付着させて用いることができる。この場合、接着性成分が水溶性高分子化合物である場合には、対象物表面を液状物で湿潤させた状態下に、ナノファイバシートを対象物表面に当接させることが好ましい。これによって、表面張力の作用でナノファイバシートが対象物の表面に良好に密着する。そして、水溶性高分子化合物が液状物に溶解し、溶解した水溶性高分子化合物がバインダとして作用して、ナノファイバシートと対象物の表面との密着性が維持される。対象物を湿潤させることに代えてナノファイバシートを液状物で湿潤させた場合には、ナノファイバシートが収縮してしまったり、液状物の表面張力でナノファイバシートに皺が生じ丸まってしまったりするといった不都合が生じ、対象物へ良好に付着させることができない場合がある。
【0044】
対象物の表面を湿潤状態にするためには、例えば各種の液状物を該表面に塗布又は噴霧すればよい。塗布又は噴霧される液状物としては、水性の液体又は油性の液体が用いられる。液状物は、それが水性の液体及び油性の液体のいずれであっても表面張力が高いほど好ましい。
【0045】
接着性成分が水溶性高分子化合物である場合は、液状物として油性の液体を用いることもできるが、水性の液体を用いることが一層好ましい。水性の液体としては、水を含み、かつ5000mPa・s程度以下の粘性を有する物質が用いられる。そのような液状物としては、例えば水、水溶液及び水分散液等が挙げられる。また、O/WエマルションやW/Oエマルション等の乳化液、増粘剤で増粘された液なども挙げられる。具体的には、ナノファイバシートをヒトの肌に付着させる場合には、対象物である肌の表面を湿潤させるための液体として、化粧水や化粧クリームを用いることができる。
【0046】
液状物の塗布又は噴霧によって対象物の表面又はナノファイバシートの表面を湿潤状態にする程度は、該液状物の表面張力が十分に発現する程度の少量で十分である。また、液状物として水性の液体を用いる場合には、該水性液の表面張力が十分に発現し、かつ水溶性高分子化合物が溶解する程度の少量で十分である。具体的には、ナノファイバシートの大きさにもよるが、その大きさが例えば3cm×3cmの正方形の場合、0.01ml程度の量の液状物を対象物の表面に存在させることで、ナノファイバシート10を容易に該表面に付着させることができる。また、液状物として水性の液体を用い、かつ接着性成分として水溶性高分子化合物を用いる場合には、ナノファイバ中の水溶性高分子化合物を溶解させることができる。
【0047】
ナノファイバシートと基材シートとが積層されて積層シートになっている場合には、該積層シートにおけるナノファイバシート側の面を対象物の表面と対向させて、ナノファイバシートを該表面に当接させる。その後、基材シートをナノファイバシートから剥離除去することで、ナノファイバシートのみを対象物の表面に転写して付着させることができる。この方法によれば、剛性が低く取り扱い性が良好とは言えないナノファイバシートを、対象物の表面に首尾良く付着させることができる。
【0048】
接着性成分が接着性水不溶性高分子化合物の場合には、水溶性高分子化合物の場合と異なり、ナノファイバシートを対象物に付着させるときに、対象物の表面を液状物で湿潤させることを必ずしも必要としない。この理由は、ナノファイバシート自体の付着性が高いからである。尤も、接着性成分が接着性水不溶性高分子化合物の場合であっても、対象物の表面を液状物で湿潤させることは妨げられない。
【0049】
接着性成分として水溶性高分子化合物を用いた場合には、ナノファイバシートを対象物の表面に付着させた後の状態において、ナノファイバ中の水溶性高分子化合物が液状物に溶解してナノファイバ間の結合が弱くなっている。この状態下に、ナノファイバシートの周縁部の繊維結合をずらし、該ナノファイバシートと対象物表面との間の段差を緩和することができる。これによって、ナノファイバシートと対象物表面との境目が目立たなくなり、ナノファイバシートと対象物との視覚上の一体感が高まる。ナノファイバシートの周縁部の繊維結合をずらすためには例えば、対象物表面に付着させた後に、液状物によって湿潤状態になっているナノファイバシートの周縁部に剪断力を加えればよい。剪断力を加えるためには、例えば指やヘラ等でナノファイバシートの周縁部を軽く擦ったり、撫でつけたりすればよい。
【0050】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、ナノファイバの製造方法として、エレクトロスピニング法を採用した場合を例にとり説明したが、ナノファイバの製造方法はこれに限られない。
【0051】
また、図1に示すエレクトロスピニング法においては、形成されたナノファイバが板状の導電性コレクタ33上に堆積されるが、これに代えて導電性の回転ドラムを用い、回転する該ドラムの周面にナノファイバを堆積させるようにしてもよい。
【0052】
またナノファイバシートに上述の基材シートを積層することに代えて、又はそれに加えてナノファイバシートの表面に粘着剤の層を形成して、ナノファイバシートと対象物表面との密着性を一層向上させてもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0054】
〔実施例1〕
水溶性高分子化合物としてプルラン(林原商事(株))を用いた。水不溶性高分子化合物として完全鹸化ポリビニルアルコール(PVA117、クラレ(株)鹸化度:99%以上)を用いた。これらを水に溶解して、以下の表1に示す組成のエレクトロスピニング(ES)用溶液を得た。この溶液を用い、図1に示す装置によって、基材シートとなるべきポリエチレンテレフタレートメッシュ(ボルティングクロス テトロン#120、東京スクリーン(株))の表面にナノファイバシートを形成した。ナノファイバの製造条件は次のとおりである。
・印加電圧: 27kV
・キャピラリ−コレクタ間距離: 185mm
・水溶液吐出量: 1ml/h
・環境: 28℃、36%RH
【0055】
得られたナノファイバシートを、200℃で30分間加熱処理し、完全鹸化ポリビニルアルコールを結晶化させ水不溶化した。このようにして得られたナノファイバシートの厚みは8.4μmであった。ナノファイバの太さは100〜500nmであった。
【0056】
〔実施例2ないし5〕
実施例1において、ES用溶液の組成を表1に示すものとする以外は、実施例1と同様にしてナノファイバシートを得た。各実施例で得られたナノファイバシートの厚みは8〜14μmであった。ナノファイバの太さは100〜500nmであった。
【0057】
〔実施例6〕
実施例1において、水溶性高分子化合物として部分鹸化ポリビニルアルコール(PVA217、クラレ(株)、鹸化度:86.5〜89%)を用いた以外は、実施例1と同様にしてナノファイバシートを得た。得られたナノファイバシートの厚みは13.7μmであった。ナノファイバの太さは100〜500nmであった。
【0058】
〔実施例7〕
水溶性高分子化合物としてプルラン(林原商事(株))を用いた。水不溶性高分子化合物として部分鹸化ポリビニルアルコール(PVA217、クラレ(株)、鹸化度:86.5〜89%)を用いた。また、部分鹸化ポリビニルアルコールの架橋剤として、オルガチックスTC−310((株)マツモト交商)を用いた。これらを水に溶解して、以下の表1に示す組成のエレクトロスピニング(ES)用溶液を得た。この溶液を用い、実施例1と同様にしてナノファイバシートを形成した。ただし、ナノファイバの製造条件は次のとおりである。また、得られたナノファイバシートを、105℃で120分間加熱処理し、部分鹸化ポリビニルアルコールを架橋させた。このようにして得られたナノファイバシートの厚みは10.2μmであった。ナノファイバの太さは100〜500nmであった。
・印加電圧:25kV
・キャピラリ−コレクタ間距離:185mm
・水溶液吐出量:1.0ml/h
・環境:30.0℃、26%RH
【0059】
〔実施例8〕
水溶性高分子化合物としてプルラン(林原商事(株))を用いた。水不溶性高分子化合物として水溶性ポリエステル(プラスコートZ−3310、互応化学(株))を用いた。これらを水に溶解して、以下の表1に示す組成のエレクトロスピニング(ES)用溶液を得た。この溶液を用い、実施例1と同様にしてナノファイバシートを形成した。ただし、ナノファイバの製造条件は次のとおりである。また、得られたナノファイバシート熱処理を行っていない。このようにして得られたナノファイバシートの厚みは14.4μmであった。ナノファイバの太さは100〜500nmであった。
・印加電圧:25kV
・キャピラリ−コレクタ間距離:185mm
・水溶液吐出量:1.0ml/h
・環境:30.5℃、21%RH
【0060】
〔実施例9〕
水溶性高分子化合物としてヒドロキシプロピルセルロース(セルニーL、日本曹達(株))を用いた。水不溶性高分子化合物としてはポリビニルブチラール(エスレックBM−1、積水化学工業(株))を用いた。これらをエタノールに溶解して以下の表1に示す組成のエレクトロスピニング(ES)用溶液を得た。この溶液を用い、実施例1と同様にしてナノファイバシートを形成した。ただし、ナノファイバの製造条件は次のとおりである。また、得られたナノファイバシート熱処理を行っていない。このようにして得られたナノファイバシートの厚みは25μmであった。ナノファイバの太さは100〜1000nmであった。
・印加電圧:25kV
・キャピラリ−コレクタ間距離:185mm
・水溶液吐出量:1.0ml/h
・環境:25.5℃、31%RH
【0061】
〔実施例10〕
接着性高分子化合物としてオキサゾリン変性シリコーンを用いた。水不溶性高分子化合物としてポリビニルブチラール(エスレックBM−1、積水化学工業(株))を用いた。これらをエタノールに溶解して以下の表1に示す組成のエレクトロスピニング(ES)用溶液を得た。この溶液を用い、実施例1と同様にしてナノファイバシートを形成した。ただし、ナノファイバの製造条件は次のとおりである。また、得られたナノファイバシート熱処理を行っていない。このようにして得られたナノファイバシートの厚みは40μmであった。ナノファイバの太さは100〜1000nmであった。
・印加電圧:25kV
・キャピラリ−コレクタ間距離:185mm
・水溶液吐出量:1.0ml/h
・環境:33℃、20%RH
【0062】
〔比較例1〕
本比較例においては水溶性高分子化合物を用いなかった。すなわち、ES用溶液の組成を表2に示すものとした以外は、実施例1と同様にしてナノファイバシートを得た。得られたナノファイバシートの厚みは7.4μmであった。ナノファイバの太さは100〜500nmであった。
【0063】
〔比較例2〕
本比較例においては水溶性高分子化合物を用いなかった。すなわち、ES用溶液の組成を表2に示すものとする以外は、実施例7と同様にしてナノファイバシートを得た。得られたナノファイバシートの厚みは10.7μmであった。ナノファイバの太さは100〜500nmであった。
【0064】
〔比較例3〕
本比較例においては水不溶性高分子化合物を用いなかった。すなわち、ES用溶液の組成を表2に示すものとする以外は、実施例1と同様にしてナノファイバシートを得た。得られたナノファイバシートの厚みは5μmであった。ナノファイバの太さは100〜500nmであった。
【0065】
〔比較例4〕
本比較例においては水不溶性高分子化合物を用いなかった。すなわち、ES用溶液の組成を表2に示すものとする以外は、実施例7と同様にしてナノファイバシートを得た。得られたナノファイバシートの厚みは11.5μmであった。ナノファイバの太さは100〜500nmであった。
【0066】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られたナノファイバシートについて、以下の方法で、肌への密着性及び繊維形態の維持性について評価した。その結果を表1及び表2に示す。
【0067】
〔肌への密着性〕
25〜40歳の男女(合計3名)を被験者とし、該被験者の前腕内側部を、中性界面活性剤を用いて洗浄し、次いでウエスを用いて水滴を除去した後、20℃・50%RH環境下で十分な時間経過させ、肌表面を安定化させた。その後、実施例1〜9及び比較例1〜4においては、該肌表面に霧吹きを用いてφ70mmの範囲に0.05g程度のイオン交換水を満遍なく噴霧した。そこに、20mm×20mmに切り分けたナノファイバシートを貼り付け、水が乾燥するまで放置した。実施例10においては、該肌の表面に、20×20mmに切り分けたナノファイバシートを、イオン交換水を噴霧することなく貼り付けた。そして、60分程度時間が経過した後に、肌への密着性を、以下の基準で評価した。
○:ナノファイバシートの四隅まで密着している。
△:ナノファイバシートは密着しているが、一部剥がれやすい部分がある。
×:ナノファイバシートの大部分が剥がれてしまう。
【0068】
〔繊維形態の維持性〕
ガラスの表面を、中性界面活性剤を用いて洗浄し、次いでウエスを用いて水滴を除去した後、20℃・50%環境下で十分な時間経過させた。その後、実施例1〜9においては、該ガラス表面に霧吹きを用いてφ70mmの範囲に0.05g程度のイオン交換水を満遍なく噴霧した。そこに50×50mmに切り分けたナノファイバシートを貼り付け、水が乾燥するまで放置した。実施例10においては、該ガラス表面にイオン交換水を噴霧することなく50×50mmに切り分けたナノファイバシートを貼り付け、その上から霧吹きを用いてφ70mmの範囲に0.05g程度のイオン交換水を満遍なく噴霧し、水が乾燥するまで放置した。このようにして得られたガラス表面は、ナノファイバが溶解して繊維形態が消失した場合には、透明になる。あるいは、溶解した水溶性高分子化合物が、水不溶性高分子化合物からなるナノファイバの隙間を埋めてしまい、繊維形態が維持されなくなって、ガラス表面が透明にある。この透明の程度に応じて、ナノファイバの繊維形態の維持性を評価できる。基準は以下のとおりである。
○:ナノファイバシートが乾燥により不透明となる。
△:ナノファイバシートが乾燥することにより、半透明となる。
×:ナノファイバシートが乾燥しても透明のままである。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
表1及び表2に示す結果から明らかなように、各実施例で得られたナノファイバシートは、肌への密着性が良好であり、かつ乾燥後に不透明性を維持していることから繊維集合体の形態を維持していると考えられる。これに対して、水溶性高分子化合物を含まないナノファイバから構成された比較例1及び2のナノファイバシートは、ガラスに貼り付けたときに不透明になることから、繊維集合体の形態を維持しているが、肌への密着性に劣ることが判る。逆に、水不溶性高分子化合物を含まないナノファイバから構成された比較例3及び4のナノファイバシートは、肌への密着性は良好なものの、ガラスに貼り付けたときに透明になってしまい、繊維集合体の形態を維持しないことが判る。
【符号の説明】
【0072】
30 装置
31 シリンジ
32 高電圧源
33 導電性コレクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着性成分及び水不溶性高分子化合物を含有するナノファイバを含むナノファイバシート。
【請求項2】
接着性成分が水溶性高分子化合物であり、該水溶性高分子化合物は、ナノファイバシートの使用時に、該ナノファイバシートが水と接触することによって接着性を発揮するものである請求項1記載のナノファイバシート
【請求項3】
ナノファイバにおける水溶性高分子化合物の割合が1〜50重量%であり、水不溶性高分子化合物の割合が50〜99重量%である請求項2記載のナノファイバシート。
【請求項4】
水溶性高分子化合物がプルランであり、水不溶性高分子化合物がポリビニルアルコールである請求項2又は3記載のナノファイバシート。
【請求項5】
水溶性高分子化合物及び繊維形成後の処理によって水不溶性となる高分子化合物を含む水溶液を用い、エレクトロスピニング法によって形成されたものである請求項2ないし4のいずれかに記載のナノファイバシート。
【請求項6】
水溶性高分子化合物と乾燥後に水不溶性となる高分子化合物とが同一の溶媒に溶解された原料溶液を用い、エレクトロスピニング法によって形成されたものである請求項2ないし5のいずれかに記載のナノファイバシート。
【請求項7】
接着性成分が、タック強さ10〜200gfの接着性水不溶性高分子化合物である請求項1記載のナノファイバシート。
【請求項8】
ナノファイバの直径が10〜3000nmである請求項1ないし7のいずれかに記載のナノファイバシート。
【請求項9】
請求項2記載のナノファイバシートを、対象物の表面に付着させるナノファイバシートの使用方法であって、
対象物表面を液状物で湿潤させた状態下に、ナノファイバシートを対象物表面に当接させ、該表面に付着させるナノファイバシートの使用方法。
【請求項10】
ナノファイバシートを対象物表面に付着させた後、該ナノファイバシートの周縁部の繊維結合をずらし、該ナノファイバシートと対象物表面との間の段差を緩和する請求項9記載のナノファイバシートの使用方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−132633(P2011−132633A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293480(P2009−293480)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】