説明

ナノファイバ製造方法、および製造装置

【課題】高分子材料の塊の混入量の少ない高品質のナノファイバをより大量に生産することができるナノファイバ製造装置、および製造方法を提供する。
【解決手段】 容器2と対向して帯電用電極3が配置される。原料Fは、帯電用電極3により容器2に誘導された電荷により帯電されて空中に放出される。放出された原料から静電延伸現象により繊維状物質F1が生成され、収集体12により収集される。収集体12の上方には収集用電極18が配されている。繊維状物質は、収集体12の下側の面に堆積されて収集される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバ製造方法、および製造装置に関し、さらに詳しくはエレクトロスピニング法によりナノファイバを製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、直径がサブミクロンスケールの繊維状物質であるナノファイバを容易に製造できることから、エレクトロスピニング法(電荷誘導紡糸法)が注目を集めている。エレクトロスピニング法は、液体中に高分子材料を分散または溶解させた液状の原料を空中に放出するとともに、放出の際に原料を高電圧で帯電させ、原料を空中で電気的に延伸させてナノファイバを得る方法である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
より詳細には、電界により帯電されて空気中に放出された原料は空中を飛翔する間に分散媒または溶媒が蒸発し、体積が減少していく。一方、原料に付与された電荷は分散媒または溶媒の蒸発にかかわらず維持されるために、原料の電荷密度は分散媒または溶媒の蒸発とともに増大していく。そして、原料内部の反発方向のクーロン力が原料の表面張力より大きくなったときに原料が爆発的に線状に延伸される現象(以下、静電延伸現象と述べる)が生じる。この静電延伸現象が空中において連続的に発生し、原料が幾何級数的に線状に細分化されていくことで直径がサブミクロンスケールの微細な繊維状物質が生成される。
【0004】
空中で生成された繊維状物質を収集する方法は様々であり、例えば特許文献2には、ノズルから噴射された高分子材料から生成されるナノファイバを、コンベヤ形態で送られるコレクタの上に積層して収集する方法が示されている(特許文献2の図1参照)。ここでは、ノズルを高電圧発生部の一方の極性の端子に接続する一方、例えば金属製の網から構成されるコレクタを高電圧発生部の他方の極性の端子に接続している。この構成により、ノズルに、原料に付与するための電荷を誘導するとともに、コレクタに、生成された繊維状物質を引き寄せるための電荷を誘導している。
【0005】
しかしながら、このような従来のナノファイバ製造方法においては、空中に放出される原料が均一に帯電されないこと等を原因として、一部の原料が静電延伸現象を経て繊維状物質とならずに高分子材料の塊のままで収集体に到達してしまい、繊維状物質の中に、高分子材料の塊が混入してしまう現象(以下、このような現象をドロップレット現象という)が発生することがあった。ドロップレット現象が頻発すると、ナノファイバの品質は著しく低下する。
【0006】
そこで、特許文献3においては、原料放出用ノズルを上向きに配置し、その上方に収集体を配置して、繊維状物質を収集する構成が提案されている(特許文献3の図1参照)。このように、原料を上方に放出するものとすることによって、繊維化せずに高分子材料の塊のまま飛翔する原料が収集体まで到達することが少なくなるので、繊維状物質に混入する高分子材料の塊の量を減少させることができる。
【0007】
【特許文献1】特開2005−330624号公報
【特許文献2】特開2002−201559号公報
【特許文献3】特表2007−517991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上述した従来技術においては、いずれも、ナノファイバを大量に生産することが困難であるという課題を有している。すなわち、上述した各従来技術においては、原料放出手段と、収集体またはその後方に配された電極との間に電位差を与え、これにより原料放出手段に電荷を与え、その電荷により原料を帯電させることで、静電延伸現象を発現させている。ここで、良質なナノファイバをより大量に生産するためには、原料に付与する電荷を大きくするとともに、原料放出手段におけるノズル等の数量を増大させる必要がある。原料に付与する電荷を大きくするためには、原料放出手段と収集体等との電位差を大きくするか、原料放出手段と収集体等との距離を小さくするかのいずれかの対策が必要となる。
【0009】
原料放出手段と収集体等との電位差を大きくする場合には、より大きな電圧の電源を用意する必要がある。高電圧の電源は非常に高価であるために、大幅なコストアップを招く。
一方、原料放出手段と収集体等との距離を小さくした場合には、ノズル等の数量が多い場合は特に、良質なナノファイバを大量に生産することが困難となる。以下その理由を説明する。
【0010】
例えば、特許文献3の実施例においては、原料放出手段に3000ものノズルを備えさせるとともに、原料放出手段と収集体との距離も15cmと、非常に小さなものとしている。
ところが、多数のノズルを原料放出手段に設けると、ノズルの配設間隔は小さくなる。ノズルの配設間隔が小さくなると、ノズルのそれぞれに誘導された同じ極性の電荷が互いに干渉し、強い電界が生じなくなって、原料に十分な電荷が付与されなくなる。
また、原料放出手段と収集体との距離が小さいと、その間の小さな空間に帯電した原料と繊維状物質とが充満することになり、それらの電荷と、ノズル等から放出されようとする原料の電荷とが反発して、原料の放出が阻害される。また、充満した原料および繊維状物質の電荷により、ノズルの先端に誘導される電荷も小さくなり、ますます原料に十分な電荷を付与することが困難となる。
【0011】
以上の結果、原料放出手段と収集体等との距離を小さくするとともに、ノズル等の数を多くした場合には、ドロップレット現象の発現する割合が加速度的に増大するとともに、原料の放出量も小さくなってしまう。これにより、ナノファイバの生産性および品質が大幅に低下してしまう。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高分子材料の塊の混入量の少ない高品質のナノファイバをより大量に生産することができるナノファイバ製造装置、および製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明は、高分子材料を含む液状の原料を空中に放出して、静電延伸現象により繊維状物質を生成し、生成された繊維状物質を収集するナノファイバ製造装置であって、
前記原料を空中に放出するための孔を有するとともに、前記孔から放出される原料が通過する空間を内部に有する原料放出部と、
前記原料放出部と所定距離をおいて対向するように配置され、前記原料を帯電させるための電荷を前記原料放出部に誘導するための帯電用電極と、
前記原料放出部から放出された原料の進む向きを気流により偏向して、前記生成された繊維状物質を所定方向に移送する移送手段と、
前記繊維状物質に帯電される電荷と逆極性に帯電するように、電圧が印加されまたは接地されるとともに、前記移送手段により移送される繊維状物質を重力に抗して電磁力により引き寄せるように配設された収集用電極と、
繊維状物質を下側の面に堆積させて収集するように、前記移送手段による前記繊維状物質の移送経路と前記収集用電極との間に配設されたシート状の収集体と、
前記原料放出部および前記帯電用電極の一方、または前記原料放出部と前記帯電用電極との間に電圧を印加して、前記原料放出部と前記帯電用電極との間に所定の電位差を生じさせるとともに、前記繊維状物質に帯電される電荷と逆極性の電圧を、必要に応じて前記収集用電極に印加する電圧印加手段
とを備えたナノファイバ製造装置である。
【0014】
本発明の製造装置において、好ましい形態においては、前記収集体が長尺帯状であり、
前記収集体を長手方向に送る送り機構を備え、
前記送り機構が、前記収集体を巻き出す巻き出し装置、並びに前記繊維状物質が堆積された収集体を巻き取る巻き取り装置を含む。
【0015】
また、本発明の製造装置において、別の好ましい形態においては、前記移送手段により移送される繊維状物質の運動を案内する、入口開口と出口開口とを有する、筒状の案内体を備え、
前記収集用電極は、前記案内体の出口開口の上方に配設される。
【0016】
また、本発明の製造装置において、別の好ましい形態においては、前記原料放出部が、前記孔を周壁に有する、所定の軸を中心として回転される、回転容器から構成されており、
前記帯電用電極が、前記回転容器の周囲に配設される環状の電極である。
【0017】
また、本発明の製造装置において、別の好ましい形態においては、前記移送手段により移送される前記繊維状物質の運動の方向を、前記収集体の送りの方向と略垂直な軸を中心に所定範囲で周期的に変動させる移送方向変動手段を備える。
【0018】
また、本発明の製造装置において、別の好ましい形態においては、少なくとも前記原料放出部の、前記収集体の送りの方向と略垂直な方向における位置を所定範囲で周期的に変動させる幅方向位置変動手段を備える。
【0019】
また、本発明の製造装置において、別の好ましい形態においては、それぞれが長手方向を有する複数の収集用電極を備え、
前記複数の収集用電極のうちの少なくとも一組の収集用電極は、それぞれの長手方向が、前記収集体の上側の面と略平行且つ互いに異なる方向となるように配置されており、
前記複数の収集用電極のそれぞれに対応して少なくとも一つの原料放出部が設けられる。
【0020】
また、本発明は、高分子材料を含む液状の原料から静電延伸現象により繊維状物質を生成するナノファイバ製造方法であって、
前記原料を空中に放出する工程a、
前記原料を空中に放出するための原料放出部と、それと所定の距離をおいて対向配置された帯電用電極との間に所定の電位差を生じさせて、前記空中に放出される原料を帯電させる工程b、
前記空中に放出された原料の進む向きを気流により偏向して、前記生成された繊維状物質を所定方向に移送する工程c、
前記移送される繊維状物質を重力に抗して、収集用電極に付与された電荷によって生じる電磁力により引き寄せる工程d、並びに
前記電磁力により引き寄せられる繊維状物質をシート状の収集体の下側の面に堆積させて収集する工程e
を含むナノファイバ製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、帯電用電極と原料放出部との間に電位差を生じさせることで、空中に放出される原料を帯電させる一方で、移送手段により、放出された原料の進む向きが偏向されて、移送される。静電延伸現象により生成される繊維状物質は、収集用電極に付与される、繊維状物質とは逆極性の電荷により、重力に抗して収集用電極に引き寄せられる。重力に抗して収集用電極に引き寄せられた繊維状物質は、シート状の収集体の下側の面に堆積されて収集される。
このように、収集用電極とは別個の帯電用電極を設け、さらに移送手段により、放出された原料の進む向きを偏向するものとすることによって、帯電用電極を原料放出部により近接して配置することが可能となり、より電圧の高い電源を適用することなく、原料により大きな電荷を付与することが可能となる。このとき、移送手段が原料、ないしは繊維状物質を気流により移送するので、帯電用電極と原料放出部との間の空間に滞留することがなく、その電荷により原料の放出が妨げられたり、原料への電荷の付与が妨げられたりするのを防止することができる。
【0022】
また、静電延伸現象により生成された繊維状物質は、帯電用電極とは別個の収集用電極により重力に抗して電磁力により引き寄せられて、収集体の下側の面に堆積されて収集される。これにより、収集される繊維状物質に、ドロップレット現象により生じた高分子材料の塊の混入する割合が減少するので、より高品質のナノファイバを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
《実施の形態1》
図1は、本発明の実施の形態1に係るナノファイバ製造装置の概略構成を示す、一部を断面にした側面図である。
【0024】
製造装置1は、金属などの導体からなる、接地された、略箱形の容器2を備えている。容器2の内部には、高分子材料を分散媒または溶媒と混合してなる液状の原料Fが、図示しないポンプにより原料供給管5を介して所定圧力で送られてくる。
容器2の一つの壁部には、所定圧力で送られてくる原料Fを空中に放出するための図示しない多数の細孔が形成されており、その細孔は、容器2の上記壁部の外側面に設けられた多数の突起2aの先端部に開口している。
【0025】
また、容器2の上記壁部と対向する位置には、その壁部に電荷を誘導して、その電荷により空中に放出される原料Fを帯電させるための、板状の帯電用電極3が配設されている。帯電用電極3は、高電圧電源4Aの一方の端子(例えば負極端子)と接続されている。高電圧電源4の他方の端子(例えば正極端子)は接地されている。高電圧電源4Aの詳細を、図1の破線の丸Pの中に示す。後掲の図2、3、4、5、6および9においては高電圧電源4Aの詳細は示していないが、その内容は図1に示したのと同じである。
【0026】
また、容器2の上記壁部と帯電用電極3との間隙の下側には、送風機7が、上に向かって送風するように配設されている。容器2の突起2aの先端から放出された原料Fは、空中を飛翔する間に分散媒または溶媒が蒸発し、静電延伸現象により繊維状に細分化される。これにより、繊維状物質F1が生成される。
また、容器2の突起2aの先端から水平方向に放出された原料F、ないしはそれから生成された繊維状物質F1(以下、両者を区別する必要がない場合は原料F等と総称する)は、送風機7が発生する気流により運動の向きが変えられて、上に向かって移送される。
【0027】
また、原料F等が上記気流により移送される方向には、角筒状の案内体6が、原料F等を上に向かって案内するように配設されている。そして、案内体6の上側には、繊維状物質F1を収集するための収集装置10が配設されている。
【0028】
収集装置10は、下側の面に繊維状物質F1を堆積させて収集する長尺帯状の収集体12と、収集体12を長手方向に送る送り機構としての巻き出しロール14および巻き取りロール16と、板状の収集用電極18とを備えている。
収集用電極18は、収集体12の上側の面と摺接または所定距離を置いて対向するように配設されており、高電圧電源4Bの一方の端子(図示例では負極端子)と接続されている。高電圧電源4Bの他方の端子(図示例では正極端子)は接地されている。収集用電極18が接続される高電圧電源4Bの端子の極性は、原料Fに帯電される電荷の極性とは逆となるように設定される。
【0029】
次に、以上の構成のナノファイバ製造装置1の動作を説明する。
原料供給管5を介して、図示しないポンプにより所定圧力で容器2の内部に供給される原料Fは、突起2aの先端部から上記細孔を介して空中に放出される。また、所定の電圧が電源4Aにより印加された帯電用電極3と、接地された容器2との間には電界が発生し、容器2と帯電用電極3とには、それぞれ逆極性の電荷が誘導される。図示例では、容器2には正電荷、帯電用電極3には負電荷が誘導される。
【0030】
上記細孔を介して放出される原料Fは、容器2に誘導された電荷により帯電される。帯電された原料Fには、容器2と帯電用電極3との間の電界により帯電用電極3に向かう力が働く。
【0031】
このようにして、原料Fは、上記ポンプによる供給圧力および電界により、帯電用電極3に向かって空中を飛翔する。空中を飛翔する間に、原料Fからは、分散媒または溶媒が蒸発し、原料Fの体積は減少する。原料Fの体積が減少すると、それに連れて電荷密度は高くなり、原料F内部の反発方向のクーロン力がその表面張力を超えたときに静電延伸現象が発生し、それを繰り返すことによって原料Fは繊維状に細分化されて、繊維状物質F1(ナノファイバ)が生成される。
【0032】
一方、原料F、ないしはそれから生成された繊維状物質F1は、運動の向きが、送風機7が発生する気流により偏向され、上に向かって移送される。上記気流により上に向かって移送される原料F等は、案内体6の内部を通過する。その後、正の電荷を帯びた繊維状物質F1は、負の電圧が印加された収集用電極18の方向に誘引され、収集用電極18の下側を移動する収集体12の下側の面に堆積される。
【0033】
このとき、十分な電荷が与えられて原料Fが十分に細分化されて生成された繊維状物質F1は、収集体12の下側の面に到達するまで上昇し、収集体12の下側の面に堆積され、不織布として収集される。一方、原料Fに十分な電荷が与えられずに、溶媒等が蒸発しても静電延伸現象が発現せず、塊のまま残った高分子材料は、重力により収集体12の下側の面への到達が妨げられて、多くの部分が排除される。
このようにして、高分子材料の塊の混入量が少ない良質のナノファイバを製造することが可能となる。
【0034】
このように、本実施の形態1の製造装置1においては、原料Fから静電延伸現象により生成され、送風機7が発生する気流により移送される繊維状物質F1を、収集用電極18に印加された負の電圧により上に引き寄せ、収集体12の下面に繊維状物質F1を堆積して収集するように、収集用電極18が配設されている。したがって、静電延伸現象を経ることなく塊のまま残った高分子材料の混入量の少ない、良質なナノファイバを製造することが可能となる。
また、製造装置1においては、収集用電極18とは別に帯電用電極3が設けられるとともに、容器2から放出された原料Fが気流により偏向されるので、容器2と帯電用電極3との距離は小さくする一方で、容器2と収集体12との間に十分な広さの空間を確保することができる。これにより、帯電用電極3を容器2に近接配置して、容器2に十分な大きさの電荷を誘導しながら、容器2と収集体12との間の空間に帯電した原料Fおよび繊維状物質F1が充満して、容器2の上記細孔を介した原料Fの放出が妨げられたり、原料Fへの帯電が妨げられたりするのを防止することができる。このように構成することで、容器2と収集体12との間の空間には、常に新たな空気が流入するので、継続的に安定して繊維状物質F1を生成し続けることができる。
【0035】
また、気流により原料Fの放出方向と略直交する方向に原料Fを移送した上で、繊維状物質F1を収集体12の下側の面に堆積させるものとしているので、突起2aを設ける容器2の面(図の右側面)の大きさが、収集体12または収集用電極18のサイズにより制約されない。これにより、突起2aの一定の配置密度で、より多くの突起2aを容器2に設けることが可能となる。これにより、繊維状物質F1を、より高い密度で堆積させることができる。
【0036】
ここで、帯電用電極3には、1〜200kVの電圧を印加するのが好ましい。より好ましくは、10kV以上の高電圧を印加するのがよい。特に、容器2と帯電用電極3との間の電界強度が重要であり、1kV/cm以上の電界強度になるように印加電圧や容器2と帯電用電極3との距離を調節することが好ましい。これにより、容器2と帯電用電極3との間に均等且つ強い電界を発生させることができる。一方、収集用電極18については、生成された繊維状物質F1の帯電極性と逆極性の電圧を印加することで、繊維状物質F1を積極的に収集できるようにしている。
また、収集力は弱くなるが、収集用電極18を接地することによっても、生成された繊維状物質F1を収集することができる。したがって、電圧印加手段により収集用電極18に電圧を印加することは、本発明に必須の要件ではない。
【0037】
なお、本実施の形態においては、帯電用電極3に電圧を印加し、容器2は接地するものとしたが、これに限らず、帯電用電極3を接地し、容器2に電圧を印加するものとしてもよい。また、容器2および帯電用電極3の両方に、逆極性の電圧を印加するものとしてもよい。要するに、容器2と帯電用電極3との間に所定の電位差を生じさせるように、容器2および帯電用電極3の一方に電圧を印加するか、または容器2と帯電用電極3との間に電圧を印加するようにすればよい。
【0038】
また、実施の形態においては、帯電用電極3には、負の電圧を印加して、正に帯電した繊維状物質F1を生成して、収集用電極18には負の電圧を印加して繊維状物質F1を収集しているが、これに限定したものではなく、帯電用電極3に正の電圧を印加して、負に帯電した繊維状物質F1を生成し、収集用電極18には正の電圧を印加して繊維状物質F1を収集するようにしてもよい。また、収集用電極18を接地することによっても、電荷を有した繊維状物質を収集することは可能である。
【0039】
また、案内体6は、絶縁体から構成されるのが好ましい。その素材は、できるだけ帯電しにくい素材とするのが好ましい。例えば、木や木綿、紙などから構成されるのが好ましい。
また、繊維状物質F1が正電荷に帯電されるものとすれば、案内体6の素材も正電荷に帯電されやすいものとするのが好ましい。例えば、ガラス、石綿およびナイロン等が好ましい。逆に、繊維状物質F1が負電荷に帯電されるものとすれば、案内体6の素材も負電荷に帯電されやすいものとするのが好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニルおよびポリエチレン等が好ましい。
このように、案内体6を繊維状物質F1に帯電している電荷と同じ極性の電荷に帯電されやすい素材から構成することによって、繊維状物質F1が案内体6の内面に付着するのを防止することができる。
【0040】
また、原料Fに含ませる高分子材料は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ナイロン、アラミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等が好適なものとして例示でき、これらより選ばれる少なくとも1種が使用される。しかしながら、原料Fに含ませることができる高分子材料はこれらに限られるものではなく、既存の物質であってもナノファイバの原料としての適性が新たに認められたものや、今後に開発される物質でナノファイバの原料としての適性が認められるものを好適に用いることができる。
【0041】
また、高分子材料を分散または溶解させるための分散媒または溶媒は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン、水等が好適なものとして例示でき、これらより選ばれる少なくとも1種が使用される。しかしながら、高分子材料を分散または溶解させるための分散媒または溶媒は、これらに限られるものではなく、既存の物質であってもエレクトロスピニング法における高分子材料の分散媒または溶媒としての適性が新たに認められたものや、今後に開発される物質で分散媒または溶媒としての適性が認められるものを好適に用いることができる。
【0042】
また、原料Fには無機質固体材料を混入することも可能である。混入可能な無機質固体材料としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物などを挙げることができる。耐熱性、加工性などの観点からは酸化物を用いるのが好ましい。酸化物としては、Al23、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B23、P25、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb23、As23、CeO2、V25、Cr23、MnO、Fe23、CoO、NiO、Y23、Lu23、Yb23、HfO2、Nb25等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも1種が使用される。しかしながら、原料Fに混入される無機質固体材料はこれらに限定されるものではない。
【0043】
高分子材料と分散媒または溶媒との混合比率は、それらの種類にもよるが、分散媒または溶媒の比率が60〜98質量%となるように混合されるのが好ましい。
【0044】
《実施の形態2》
次に、図2を参照して本発明の実施の形態2を説明する。実施の形態2は、実施の形態1を改変したものであり、以下に、実施の形態1とは異なる部分のみを主に説明する。
実施の形態2においては、容器2、帯電用電極3、高電圧電源4A、送風機7、並びに案内体6からなる繊維状物質生成手段が複数組(図示例では2組)設けられており、収集用電極18もそれに対応した数だけ設けられて、高電圧電源4Bの一方の端子(図示例では負極端子)に接続されている。
各組の繊維状物質生成手段および収集用電極18の配置は、実施の形態1と同様である。また、各組の繊維状物質生成手段および収集用電極18は、収集体12の送りの方向に並べて配置される。
【0045】
このように、複数組の繊維状物質生成手段および収集用電極18から製造装置を構成するものとすることによって、コストの増大を抑えながら、ナノファイバの生産性を向上させることができる。収集用電極18に電圧を印加するための高電圧電源4Bを、繊維状物質生成手段および収集用電極18の各組の共用とすることが可能だからである。
つまり、高電圧の電源は、非常に高価なものであるために、その数を増加させることなく、比較的安価な他の構成要素の数を増加させるだけで、ナノファイバの製造量を増加させることが可能となる。これにより、コストダウンが図れる。
また、帯電用電極3に電圧を印加するための高電圧電源4Aを各組の共用とすれば、更にコストダウンが図れる。
【0046】
なお、図示例においては、繊維状物質生成手段および収集用電極18の各組を収集体12の送りの方向に並べるものとしたが、これに限らず、収集体12の送りの方向と垂直な方向、つまり収集体12の幅方向に各組の繊維状物質生成手段および収集用電極18を並べるものとしてもよい。
【0047】
《実施の形態3》
次に、図3を参照して本発明の実施の形態3を説明する。実施の形態3は、実施の形態1を改変したものであり、以下に、実施の形態1とは異なる部分のみを主に説明する。
実施の形態3においては、突起2aが設けられる容器2の外側面は、下方に向けられており、それに対応して、帯電用電極3は、容器2の下方に設けられている。また、送風機7は、収集体12の送りの方向と平行な水平方向に原料F等を移送するための気流を発生するように配置されている。また、案内体6は、上記気流により移送される原料F等を収集体12の送りの方向と平行な水平方向に案内するように配設される。収集用電極18は、案内体6の出口開口の上方に配置されている。
【0048】
以上のように、原料F等を、送風機7により発生された気流により水平方向に送るものとすることによって、静電延伸現象を経ずに塊のままで残った高分子材料が収集体12の下面にまで到達する割合をより低減することができる。これにより、より品質の高いナノファイバを大量に製造することが容易となる。
また、上記高分子材料の塊が落下する位置に、その回収装置を配置して、上記高分子材料の塊を容易に回収することができる。
【0049】
《実施の形態4》
次に、図4を参照して本発明の実施の形態4を説明する。実施の形態4は、実施の形態1を改変したものであり、以下に、実施の形態1とは異なる部分のみを主に説明する。
実施の形態4においては、突起2aが設けられる容器2の外側面が、水平方向に対して所定角度θ(θは、0°よりも大きく、且つ90°よりも小さい角度)だけ傾くように、容器2が配設されている。これに対応して、帯電用電極3は、突起2aが設けられる容器2の外側面と平行に設けられる。また、送風機7は、水平方向よりも所定角度θだけ上向きに原料F等を移送するための気流を発生するように配置される。また、案内体6は、上記気流により移送される原料F等を水平方向よりも所定角度θだけ上向きに案内するように配設される。収集用電極18は、案内体6の出口開口の上方に配置される。
【0050】
さらに、本実施の形態4においては、案内体6の出口開口の下方に、繊維状物質F1を上方に移送する気流を発生させる送風機7Aが配置されている。
【0051】
以上説明したように、容器2の上記細孔を介して放出された原料F等を偏向する向きは、上方向または水平方向に限らず、その中間の方向であってもよい。また、このような場合(原料F等を偏向する向きが水平方向の場合も含む)には、上向きに送風する別個の送風機7Aを設けてもよい。
【0052】
《実施の形態5》
次に、図5および図6を参照して本発明の実施の形態5を説明する。実施の形態5は、実施の形態1を改変したものであり、以下に、実施の形態1とは異なる部分のみを主に説明する。
実施の形態5においては、容器2、帯電用電極3、案内体6および送風機7は、支持部材20により支持されている。支持部材20は、収集体12の下面に垂直、且つ収集体12の送りの方向に垂直な軸22により回動可能に支持されるとともに、図示しない電動機により駆動されて、所定範囲で揺動する。
【0053】
以上の構成により、図5および図6に比較して示すように、容器2、帯電用電極3、案内体6および送風機7は一体的に揺動して、繊維状物質F1が収集体12の下面に堆積される位置が、収集体12の送りの方向において周期的に変動する。
このように、繊維状物質F1が収集体12の下面に堆積される位置を変動させることによって、繊維状物質F1が収集体12の下面に到達するまでの経路を変えることが可能となる。これにより、次々と送り出される繊維状物質F1は、先を進む繊維状物質F1が存在しない空間を通過させることが可能となる。その結果、先行する繊維状物質F1の電荷により、後続の繊維状物質F1の運動が妨げられて、繊維状物質F1が移送過程で滞留し、収集体12の下面への堆積が妨げられるのを防止することができる。
【0054】
《実施の形態6》
次に、図7を参照して本発明の実施の形態6を説明する。実施の形態6は、実施の形態3を改変したものであり、以下に、実施の形態3とは異なる部分のみを主に説明する。
実施の形態6においては、送風機7の気流による繊維状物質F1の移送の方向が、平面視で収集体12の送りの方向(図に矢印で示す方向)と平行ではなく、その送りの方向に対して所定角度θ1(θ1は、0°よりも大きく、且つ180°よりも小さい角度)だけ斜めとなるように、送風機7が配設されている。
これに対応して、案内体6Aもその軸が、収集体12の送りの方向に対して所定角度θ1だけ斜めとなるように配設される。また、案内体6Aの出口開口は、その端面が収集体12の送りの方向と垂直となるように形成される。
【0055】
以上説明したように、送風機7の気流による繊維状物質F1の移送の方向を、平面視で収集体12の送りの方向に対して斜めとすることによって、図8に示すように、収集体12の送りの方向により狭い間隔で複数の繊維状物質生成手段を配置することが可能となる。この点については、実施の形態4および実施の形態5についても同様である。
【0056】
《実施の形態7》
次に、図9を参照して本発明の実施の形態7を説明する。実施の形態7は、実施の形態1を改変したものであり、以下に、実施の形態1とは異なる部分のみを主に説明する。
実施の形態7においては、容器2Aは、一端が閉塞された概略円筒形状の外形を有する。そして、容器2Aは、その円筒形状の軸心に一致する回転軸2bに接続された電動機24により回転駆動される回転容器として構成される。原料Fは、容器2Aの回転による遠心力により、周壁に設けられた細孔(図示せず)を通して放出される。そして、容器2Aは、回転軸2bが鉛直方向と平行となるように配設される。
【0057】
また、容器2Aの周囲には、長板の長手方向の両端部を接合して輪にしたような形状の環状の帯電用電極3Aが、内周面を容器2Aの外周面と一定の距離をおいて対向するように同軸に配設される。帯電用電極3Aは、高電圧電源4Aの一方の端子(例えば負極端子)と接続されている。高電圧電源4Aの他方の端子(例えば正極端子)は接地されている。一方、容器2Aは接地されており、これにより容器2Aの外周面と、帯電用電極3Aの内周面とには、それぞれ逆極性の電荷が誘導され、両者の間に電界が発生する。例えば、容器2Aには正電荷が誘導され、帯電用電極3Aには負電荷が誘導される。
【0058】
また、容器2Aの回転軸2bを、電動機24を超えて更に延長した下方の位置に送風機7が上に向かって送風するように配設されている。送風機7により発生される気流26は、筒状のフード28により容器2Aと帯電用電極3Aとの間に導かれる。
また、フード28内の送風機7の直下流の位置には、環状のヒータ30が配設されている。これにより、原料F等からの分散媒または溶媒の蒸発を促進して、原料Fから繊維状物質F1を速やかに生成することができる。また、静電延伸減少が早期に引き起こされることから、生成される繊維状物質F1の繊維径はより細くなり、微細な繊維状物質F1を安定して生成することができる。
【0059】
送風機7が発生する気流26により、原料F等の進む方向は、容器2Aの径方向(水平方向)から容器2Aの軸方向(上方向)に偏向される。偏向された原料F等は、案内体6の内部を通過した後、重力に抗して、上方に配設された収集用電極18に印加された負の電圧により引き寄せられ、収集体12の下面に堆積される。
【0060】
このように、原料Fを空中に放出するための力は、ポンプ等の供給圧力に限らず、容器を回転させて得られる遠心力を利用することができる。また、帯電用電極は、容器の周囲に配設された環状の電極とすることができる。また、原料Fを放出する細孔は、必ずしも容器の外側面に設けられた突起の先端に開口している必要はなく、図9に示すように、容器の周壁の表面にそのまま開口していてもよい。
【0061】
《実施の形態8》
次に、図10を参照して本発明の実施の形態8を説明する。実施の形態8は、実施の形態7を改変したものであり、以下に、実施の形態7とは異なる部分のみを主に説明する。
実施の形態8においては、容器2Bは、全体が有底円筒型の碗形状の外形を有している。容器2Bの周壁部32および底面壁部34は二重構造となっており、その二重構造の内部が、原料Fの導入される原料導入空間36となっている。また、周壁部32の二重構造の外側壁に、原料Fを空中に放出するための細孔が設けられている。
【0062】
また、容器2Bの原料導入空間36は、細孔を介して放出される原料Fに掛かる遠心力が一定となるように、特に周壁部32の内部において径方向の奥行きが一定となるように形成される。
【0063】
底面壁部34の中央の外側面には、底面壁部34と垂直になるように、回転軸を兼ねる原料供給管5Aの一端部が取り付けられている。原料供給管5Aは、支持部38により回転自在に支持されるとともに、回転継手40を介して原料配管42の一端と接続されている。また、原料供給管5Aには受動ギア44が外装されている。受動ギア44は、電動機24Aの出力軸46に取り付けられた能動ギア48と噛合しており、電動機24Aの回転出力により原料供給管5Aが回転されて、容器2Bが回転駆動される。
【0064】
また、原料液配管42は、他端が原料液タンク50に接続されるとともに、途中に原料ポンプ60が配設されている。
以上の構成により、原料液配管42、回転継手40および原料供給管5Aを介して、原料Fが、原料ポンプ60により原料タンク50から容器2Bの原料導入空間36に所定圧力で供給される。
【0065】
また、容器2Bは、電動機24Aの回転出力により所定速度で回転されているために、容器2Bの原料導入空間36に供給された原料Fは、容器2Bの回転による遠心力、および原料ポンプ52による原料Fの供給圧力により周壁部32の外側壁に設けられた細孔から押し出される。
【0066】
上記細孔から環状の帯電用電極3Aに向かって放射状に放出された原料F、ないしはそれから生成された繊維状物質F1は、環状の送風機7Bが発生する気流26により、進む方向が、容器2Bの径方向(水平方向)から容器2の軸方向(上方向)に変えられて、案内体6の内部を通過する。案内体6の図示しない出口開口(上端開口)から送り出された繊維状物質F1は、図9に示したのと同様にして、収集体12の下面に堆積される。
【0067】
また、容器2Bの細孔を介して放出される原料Fが帯電用電極3Aに付着するのをより確実に防止するという観点から、図10に示すように、2段階の気流発生手段を設けるのが好ましい。2段階の一つは既に説明した送風機7Bであり、他の一つは気体噴射機構52である。気体噴射機構52は、容器2の外径よりも内径が若干大きいリング状の気体噴出部54と、噴出される気体(例えば空気)を気体噴出部54に供給する例えばエアポンプからなるエア源56とから構成される。気体噴出部54は、中空の角材の両端を接合して輪にしたような構造を有している。
【0068】
より詳細には、気体噴出部54は、エア源56からの気体が導入される中空部54aと、軸方向の一方向に気体を噴出するように一方の側面に所定ピッチで形成された複数の噴出孔54bと、中空部54aにエア源56からの気体を導入するためのエア導入孔54cとを有している。エア源56から気体噴出部54に所定圧力で供給された気体は、各噴出孔54bから、容器2Bの細孔から放出された原料Fに向かって噴射される。
【0069】
このような構成の気体噴射機構52は、噴射される気体の流速を容易に大きくすることができるので、容器2Bの細孔から放射状に放出された原料Fを効果的に偏向することができる。
【0070】
このように、本実施の形態7においては、原料Fが原料ポンプ60により一定圧力で容器2Bの原料導入空間36に供給されることにより、細孔を介して遠心力により放出される原料Fが原料ポンプ60の供給圧力により押し出されるので、原料Fを途切れることなく細孔から放出させることが可能となる。また、原料導入空間36が容器2Bの外周壁の表面から一定の深さにある、径方向の奥行きが一定である隙間として構成されているので、細孔を介して放出される原料Fを一定量にすることができ、その原料Fに掛かる遠心力も一定とすることができる。これにより、細孔を介して放出される原料Fの放出量を一定とすることができる。したがって、原料Fに付与される電荷の密度も一定とすることができ、静電延伸現象を起こしていない状態の高分子材料の塊を含まない高品質のナノファイバを、より高い回転数で容器2Bを回転させながら製造することが可能となる。このように容器2Bの回転数を上げることが可能となることで、放出される原料Fの量が増大するために、ナノファイバの生産量が増大する。
【0071】
また、2段階の気流発生手段を設けたことによって、原料F等が帯電用電極3Aに付着するのをより確実に防止することができる。これにより、帯電用電極3Aに付着した原料F等を取り除くためにメンテナンスを行う必要がなくなり、生産性がより向上する。なお、複数の噴出孔54bに代えて、気体噴出部54の一方の側面を一周するように設けられた隙間(図示しない)から気体を噴射する構成としても同様の効果を奏することができる。
【0072】
《実施の形態9》
次に、図11を参照して本発明の実施の形態9を説明する。実施の形態9は、実施の形態7を改変したものであり、以下に、実施の形態7とは異なる部分のみを主に説明する。
実施の形態9においては、容器2A、帯電用電極3A、案内体6、送風機7、電動機24、および電熱器30からなる繊維状物質生成部58が、複数個一列に並べられて、生成部群60を構成するとともに、その生成部群60が収集体12の送りの方向に複数個並べられている。
【0073】
また、生成部群60のそれぞれに対応して、長板状の収集用電極18E、18Fおよび18Gが1つずつ、各生成部群60の上方に、収集体12と平行に配設されている。収集用電極18E、18Fおよび18Gは、それぞれ、その長手方向が、対応する生成部群60において繊維状物質生成部58が一列に並ぶ方向と平行となるように、配設されている。また、収集用電極18E、18Fおよび18Gは、それぞれの長手方向が、互いに異なる向きとなるように配設されている。
【0074】
また、収集用電極18E、18Fおよび18Gは、それぞれ、繊維状物質F1と逆極性の電圧が印加されるように、高電圧電源4Bの一方の極性の端子(図示例では、負極端子)と接続されている。
また、収集用電極18E、18Fおよび18Gは、両端部の位置が、収集体12の側端部から収集体12の全幅の10%以下の範囲に位置するように、その全長が設定される。このように、収集用電極18E、18Fおよび18Gを配置することで、収集体12の上面に確実に繊維状物質を堆積させるようにすることができる。
【0075】
上述したとおり、収集用電極18E、18Fおよび18Gのそれぞれの長手方向が互いに異なる向きとなるように配設されていることによって、対応するそれぞれの生成部群60からの繊維状物質F1は、配向が収集用電極18E、18Fまたは18Gの長手方向と略一致するように収集体12の下面に堆積される。これにより、配向が互いに異なる多層構造の不織布を得ることが可能となる。したがって、いずれの方向への引っ張り力に対しても強靱であるナノファイバの不織布を得ることが可能となる。
【0076】
なお、図示例においては、収集用電極の数を3としたが、上述した効果を得るためには、生成部群60、並びに対応する収集用電極の数を2以上とするとともに、その中の少なくとも1組の電極が、長手方向を互いに所定角度だけ異なる向きに配設されていればよい。
例えば、図12に示すように、長手方向が互いに所定角度だけ異なっている、それぞれが2本ずつ以上である2種類の電極18Aと18Bとが1本ずつ交互に並ぶように、生成部群60と収集用電極とを並べてもよい。
【0077】
また、例えば、図13に示すように、上述した電極18Aと18Bとが2本ずつ交互に並んで配置されるとともに、長手方向が収集体12の幅方向と平行な電極18Cがそれぞれの電極18Aおよび18Bの間に配置されるように、生成部群60と収集用電極とを並べてもよい。
【0078】
また、例えば、図14に示すように、上述した電極18Aと18Bとが1本ずつ交互に並んで配置されるとともに、上記電極18Cがそれぞれの電極18Aおよび18Bの間に配置されるように、生成部群60と収集用電極とを並べてもよい。
【0079】
また、例えば、図15に示すように、収集体12の長手方向に並ぶ各電極18Dの長手方向と、収集体12の幅方向とのなす角度が周期的に変動するように、生成部群60と収集用電極とを並べてもよい。
【0080】
また、繊維状物質生成部58を複数個一列に並べて生成部群60を構成する代わりに、1つの繊維状物質生成部58を、対応する収集用電極の長手方向に所定周期で往復動させてもよい。また、収集用電極18E、18Fおよび18Gの長さを図示例のものよりも短くして、収集用電極18E、18Fおよび18Gのそれぞれに対応して、1つの繊維状物質生成部58を設けてもよい。さらには、3個の収集用電極18E、18Fおよび18Gのサイズを全体的に小さくして、ただ一つの繊維状物質生成部58と対応させてもよい。
【0081】
また、図16に示すようなブラシ状電極18Hを収集用電極として使用してもよい。ブラシ状電極18Hは、角棒状の基部導体62と、それに植設された多数の繊維状導体64とを含んでいる。ブラシ状電極18Hは、繊維状導体64が収集体12の上面と摺接するか、または所定の距離をおいて対向するように配設される。
【0082】
以上のように、ブラシ状電極18Hを収集用電極として使用するものとすることによって、収集体12の下面に均一に繊維状物質F1を堆積させることができる。より詳しく説明すると、収集体12は、多数の繊維状導体64と摺接または所定の距離を置いて対向されているので、その接触部分が均一な電荷を有するように帯電される。このため、その接触部分からの電気力線が均等なものとなり、上記接触部分に繊維状物質F1が均一に堆積される。その結果、収集体12を一定の速度で送ることによって、繊維状物質F1を収集体12の一方の面に均一に堆積させて、厚みの均一なナノファイバの不織布を製造することが可能となる。
【0083】
ここで、ブラシ状電極18Hにより収集体12を帯電させると、なにゆえに繊維状物質F1を均一に堆積させることが可能となるかは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、ブラシ状電極18Hの繊維状導体64は先端が点状であり、1つ1つの繊維状導体64が収集体12と接触する接触面積は極めて小さく、且つ多数の密に植設された繊維状導体64が収集体12と接触しているために、収集体12とブラシ状電極18Hとの接触部分においては、電荷の偏在が起こりにくいからである。また、繊維状導体64と収集体12との間で形成される容量成分が、繊維状導体64の先端が点状であるために殆どなく、それによる影響を受けずに、均一な電気力線をブラシ状電極18Hが収集体12と接しまたは対向している部分に発生させることができるからである。
【0084】
ここで、繊維状導体64の長さ(毛足)は数mm〜数十mmが好ましい。繊維状導体64が長すぎると収集用部材との接触により繊維状導体64が変形し、繊維状導体64のそれぞれと収集体12との接触面積が変化して、繊維状物質F1の集積量にむらを生じることがあるからである。また、繊維状導体64が植設される密度は、10〜100000本/cm2であるのが好ましい。
【0085】
以上、本発明を各実施の形態により説明したが、以下に、本発明の好ましいより具体的な形態を説明するとともに、上記各実施の形態の更なる変形例を説明する。
実施の形態6〜8の容器は外径を10mm〜300mmとするのがよい。容器2Aおよび2Bの直径が300mmを超えると、上記気流により原料F等を適度に集中させることが困難となるからである。また、容器2Aおよび2Bの直径が300mmを超えると、容器2Aおよび2Bを安定して回転させるためには容器2Aおよび2Bを支持する支持構造の剛性をかなり高くする必要が生じ、装置が大型化するからである。一方、容器2Aおよび2Bの直径が10mmより小さいと、原料を放出させるのに十分な遠心力を得るためには回転数を高くする必要があり、その場合にはモータの負荷や振動が増大するために振動対策等を施す必要が生じるからである。以上の点を考慮すると、容器2Aおよび2Bの外径は、20〜150mmとするのがより好ましい。
【0086】
また、上記各実施の形態において、細孔の径は、0.01〜2mmとするのがよい。また、細孔の形状は円形であることが好ましいが、多角形形状や星形状等であってもよい。
また、容器2Aおよび2Bの回転数は、原料Fの粘度、原料Fの組成(高分子材料の種類)、溶媒の種類並びに細孔の径等に応じて例えば数rpm以上10,000rpm以下の範囲で調節することができる。
【0087】
また、実施の形態6〜8の環状の帯電用電極3Aは、内径は例えば200〜1000mmとするのがよい。特に、帯電用電極3Aと、容器2Aもしくは2Bとの間に発生する電位差により発生する電界強度が、1kV/cm以上になるように、帯電用電極3Aの配置や印加する電圧の大きさ等を設定するのがよい。
【0088】
また、環状の帯電用電極3Aは、必ずしも円環状の電極である必要はなく、例えば、軸方向から見た形状を多角形としてもよい。また、帯電用電極3Aは、容器の周面から所定の距離をおいて容器を囲むように配置されてさえいればよく、例えば、環状の金属線を、容器を囲むように配置して構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のナノファイバ製造装置および製造方法によれば、エレクトロスピニング法を利用してナノファイバを製造する場合に、高品質のナノファイバを高い生産性で製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施の形態1に係るナノファイバ製造装置の概略構成を示す、一部を断面にした側面図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係るナノファイバ製造装置の概略構成を示す、一部を断面にした側面図である。
【図3】本発明の実施の形態3に係るナノファイバ製造装置の概略構成を示す、一部を断面にした側面図である。
【図4】本発明の実施の形態4に係るナノファイバ製造装置の概略構成を示す、一部を断面にした側面図である。
【図5】本発明の実施の形態5に係るナノファイバ製造装置の概略構成を示す、一部を断面にした、1つの動作状態の側面図である。
【図6】本発明の実施の形態5に係るナノファイバ製造装置の概略構成を示す、一部を断面にした、他の1つの動作状態の側面図である。
【図7】本発明の実施の形態6に係るナノファイバ製造装置の概略構成を示す、一部を断面にした底面図である。
【図8】同上ナノファイバ製造装置の変形例を示す、一部を断面にした底面図である。
【図9】本発明の実施の形態7に係るナノファイバ製造装置の概略構成を示す、一部を断面にした側面図である。
【図10】本発明の実施の形態8に係るナノファイバ製造装置の概略構成を示す、一部を断面にした側面図である。
【図11】本発明の実施の形態9に係るナノファイバ製造装置の概略構成を示す、一部を簡略化した斜視図である。
【図12】同上装置における電極の配置の他の例1を示す、収集装置の一部の平面図である。
【図13】同上装置における電極の配置の他の例2を示す、収集装置の一部の平面図である。
【図14】同上装置における電極の配置の他の例3を示す、収集装置の一部の平面図である。
【図15】同上装置における電極の配置の他の例4を示す、収集装置の一部の平面図である。
【図16】同上装置の収集装置に使用されるブラシ状電極の詳細を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0091】
1 ナノファイバ製造装置
2 容器
3 帯電用電極
4 高電圧電源
6 案内体
7 送風機
12 収集体
18 収集用電極
F 原料
F1 繊維状物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料を含む液状の原料を空中に放出して、静電延伸現象により繊維状物質を生成し、生成された繊維状物質を収集するナノファイバ製造装置であって、
前記原料を空中に放出するための孔を有するとともに、前記孔から放出される原料が通過する空間を内部に有する原料放出部と、
前記原料放出部と所定距離をおいて対向するように配置され、前記原料を帯電させるための電荷を前記原料放出部に誘導するための帯電用電極と、
前記原料放出部から放出された原料の進む向きを気流により偏向して、前記生成された繊維状物質を所定方向に移送する移送手段と、
前記繊維状物質に帯電される電荷と逆極性に帯電するように、電圧が印加されまたは接地されるとともに、前記移送手段により移送される繊維状物質を重力に抗して電磁力により引き寄せるように配設された収集用電極と、
繊維状物質を下側の面に堆積させて収集するように、前記移送手段による前記繊維状物質の移送経路と前記収集用電極との間に配設されたシート状の収集体と、
前記原料放出部および前記帯電用電極の一方、または前記原料放出部と前記帯電用電極との間に電圧を印加して、前記原料放出部と前記帯電用電極との間に所定の電位差を生じさせるとともに、前記繊維状物質に帯電される電荷と逆極性の電圧を、必要に応じて前記収集用電極に印加する電圧印加手段
とを備えたナノファイバ製造装置。
【請求項2】
前記収集体が長尺帯状であり、
前記収集体を長手方向に送る送り機構を備え、
前記送り機構が、前記収集体を巻き出す巻き出し装置、並びに前記繊維状物質が堆積された収集体を巻き取る巻き取り装置を含む請求項1記載のナノファイバ製造装置。
【請求項3】
前記移送手段により移送される繊維状物質の運動を案内する、入口開口と出口開口とを有する、筒状の案内体を備え、
前記収集用電極は、前記案内体の出口開口の上方に配設される請求項1または2記載のナノファイバ製造装置。
【請求項4】
前記原料放出部が、前記孔を周壁に有する、所定の軸を中心として回転される、回転容器から構成されており、
前記帯電用電極が、前記回転容器の周囲に配設される環状の電極である請求項1〜3のいずれかに記載のナノファイバ製造装置。
【請求項5】
前記移送手段により移送される前記繊維状物質の運動の方向を、前記収集体の送りの方向と略垂直な軸を中心に所定範囲で周期的に変動させる移送方向変動手段を備えた請求項2〜4のいずれかに記載のナノファイバ製造装置。
【請求項6】
少なくとも前記原料放出部の、前記収集体の送りの方向と略垂直な方向における位置を所定範囲で周期的に変動させる幅方向位置変動手段を備えた請求項2〜5のいずれかに記載のナノファイバ製造装置。
【請求項7】
それぞれが長手方向を有する複数の収集用電極を備え、
前記複数の収集用電極のうちの少なくとも一組の収集用電極は、それぞれの長手方向が、前記収集体の上側の面と略平行且つ互いに異なる方向となるように配置されており、
前記複数の収集用電極のそれぞれに対応して少なくとも一つの原料放出部を設けた請求項2〜6のいずれかに記載のナノファイバ製造装置。
【請求項8】
高分子材料を含む液状の原料から静電延伸現象により繊維状物質を生成するナノファイバ製造方法であって、
前記原料を空中に放出する工程a、
前記原料を空中に放出するための原料放出部と、それと所定の距離をおいて対向配置された帯電用電極との間に所定の電位差を生じさせて、前記空中に放出される原料を帯電させる工程b、
前記空中に放出された原料の進む向きを気流により偏向して、前記生成された繊維状物質を所定方向に移送する工程c、
前記移送される繊維状物質を重力に抗して、収集用電極に付与された電荷によって生じる電磁力により引き寄せる工程d、並びに
前記電磁力により引き寄せられる繊維状物質をシート状の収集体の下側の面に堆積させて収集する工程e
を含むナノファイバ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−144290(P2010−144290A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323939(P2008−323939)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】