説明

ナノファイバ製造装置、および製造方法

【課題】高品質なナノファイバを、大量に生産することができるナノファイバ製造装置、および製造方法を提供する。
【解決手段】 高分子材料を含む液状の原料Fを空中に放出するための細孔を有するとともに、原料が通過する空間を内部に有する、複数の容器2に電荷が誘導される。原料は、複数の容器のそれぞれの細孔から空中に放出される。放出された原料から静電延伸現象により生成される繊維状物質F1は気流により偏向されて上向きに移送される。気流により移送される繊維状物質は、縦横に千鳥配列で並べられる案内体7を介して、長手方向に送られる長尺帯状の収集体11の下側の面に堆積されて収集される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバ製造装置、および製造方法に関し、さらに詳しくはエレクトロスピニング法によりナノファイバを製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、直径がサブミクロンスケールの繊維状物質であるナノファイバを容易に製造できることから、エレクトロスピニング法(電荷誘導紡糸法)が注目を集めている。エレクトロスピニング法は、液体中に高分子材料を分散または溶解させた液状の原料を空中に放出するとともに、放出の際に原料を高電圧で帯電させ、原料を空中で電気的に延伸させてナノファイバを得る方法である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
より詳細には、電界により帯電されて空気中に放出された原料は空中を飛翔する間に分散媒または溶媒が蒸発し、体積が減少していく。一方、原料に付与された電荷は分散媒または溶媒の蒸発にかかわらず維持されるために、原料の電荷密度は分散媒または溶媒の蒸発とともに増大していく。そして、原料内部の反発方向のクーロン力が原料の表面張力より大きくなったときに原料が爆発的に線状に延伸される現象(以下、静電延伸現象と述べる)が生じる。この静電延伸現象が空中において連続的に発生し、原料が幾何級数的に線状に細分化されていくことで直径がサブミクロンスケールの微細な繊維状物質が生成される。
【0004】
空中で生成された繊維状物質を収集する方法は様々であり、例えば特許文献2には、ノズルから噴射された高分子材料から生成されるナノファイバを、コンベヤ形態で送られるコレクタの上に積層して収集する方法が示されている(特許文献2の図1および2参照)。ここでは、ノズルとコレクタとの間に所定の電位差を生じさせて、ノズルに対して、原料に付与するための電荷を誘導するとともに、コレクタに対して、生成された繊維状物質を引き寄せるための電荷を誘導している。
【0005】
【特許文献1】特開2005−330624号公報
【特許文献2】特開2002−201559号公報
【特許文献3】米国特許第6713011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述したナノファイバの収集方法では、ナノファイバをコレクタの上に確実に堆積させるために、ノズル等の原料放出部と、コレクタとの間の距離を非常に短くする必要がある。
例えば、特許文献2の実施例においては、原料放出部とコレクタとの距離を8cmまたは10cmとしている。しかしながら、このように両者間の距離を小さくしてしまうと、生成されるナノファイバの量が次第に少なくなり、継続的に大量のナノファイバを製造することができないという問題が生じる。
【0007】
より詳しく説明すると、ノズルと近接配置されたコレクタの上に、帯電した大量のナノファイバが堆積すると、その電荷と同じ極性に帯電されたナノファイバの原料がノズルから放出され難くなる。また、ノズルとコレクタとの間の狭い空間に、帯電した大量のナノファイバが滞留すると、その電荷により原料放出部からの原料の放出が阻害される。さらには、コレクタに堆積したナノファイバの電荷や、原料放出部とコレクタとの間の空間に充満したナノファイバの電荷により、原料放出部から放出されるナノファイバの原料が帯電されにくくなり、空中でのナノファイバの生成が阻害されてしまう。
【0008】
また、上述した方法により大量のナノファイバを製造しようとすると、原料を放出するノズルの数を増やす必要がある。ところが、それぞれのノズルには原料を帯電させるための電荷が付与されており、ノズルを密集して配置してしまうと、それぞれのノズルの電荷が互いに干渉して、原料に十分な電荷を与えることが困難となる。その結果、静電延伸現象の発現しない原料の割合が増大し、高分子材料の塊がそのまま混入する等して、製造されるナノファイバの品質が低下するという問題が生じる。
【0009】
また、特許文献3には、長手方向に送られる長尺帯状のコレクタの幅方向に複数のノズルを並べて1セットの原料放出部を構成し、複数セットの原料放出部をコレクタの長手方向に並べて、生産性を向上させる技術が開示されている(特許文献3の図8参照)。ところがこの技術においても、1セットの原料放出部においてノズルを並べる間隔や、各セットの原料放出部の間に一定以上の距離を確保しなければ、各ノズルの間に電界の干渉が発生して、原料に十分な電荷を与えることができず、所望の品質のナノファイバを製造することができないという問題がある。
【0010】
それを避けるためには、セット内のノズルの間隔や各セットの原料放出部の間隔として一定以上の距離を確保する必要があり、その場合には、ナノファイバの生産量を増大させることが困難になるという矛盾を生じる。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高品質なナノファイバを、大量に生産することができるナノファイバ製造装置、および製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、高分子材料を含む液状の原料を空中に放出するための孔を有するとともに、前記原料が通過する空間を内部に有する原料放出部と、
前記原料放出部と所定距離をおいて対向するように配置され、前記原料放出部との間に所定の電位差を与えられて、前記原料を帯電させるための電荷を前記原料放出部に誘導する帯電用電極と、
前記放出された原料から静電延伸現象により生成される繊維状物質を偏向して所定方向に移送するための気流を発生する気流発生手段と、
前記気流により移送される繊維状物質の運動を案内する筒状の案内体とから構成される、複数の繊維状物質生成部を備え、
前記複数の繊維状物質生成部は、それぞれの前記案内体が、長さ方向を互いに平行として縦横に複数個ずつ並ぶように配設されるナノファイバ製造装置を提供する。
【0013】
本発明の好ましい形態のナノファイバ製造装置は、前記気流により移送される繊維状物質を表面に堆積させて収集するシート状の収集体をさらに備える。
【0014】
本発明のより好ましい形態のナノファイバ製造装置は、前記収集体を長手方向に送る送り機構をさらに備え、
前記送り機構が、前記収集体を巻き出す巻き出し装置、並びに前記繊維状物質が表面に堆積された収集体を巻き取る巻き取り装置を含む。
【0015】
本発明のより好ましい形態のナノファイバ製造装置においては、前記複数の繊維状物質生成部は、それぞれの前記案内体が、長さ方向を前記収集体の繊維状物質が堆積される面と略垂直として前記収集体の長手方向および幅方向に複数個ずつ並ぶように配設される。
【0016】
本発明のより好ましい形態のナノファイバ製造装置においては、前記複数の繊維状物質生成部は、それぞれの前記案内体が、千鳥配列で前記収集体の長手方向および幅方向に複数個ずつ並ぶように配設される。
【0017】
本発明のより好ましい形態のナノファイバ製造装置においては、前記案内体は、横断面の形状が円形もしくは略円形である。
【0018】
本発明の別のより好ましい形態のナノファイバ製造装置においては、前記案内体は、横断面の形状が正多角形もしくは略正多角形である。
【0019】
本発明の別のより好ましい形態のナノファイバ製造装置においては、前記案内体は、横断面の形状が正六角形もしくは略正六角形であり、ハニカム構造をなしている。
【0020】
本発明のより好ましい形態のナノファイバ製造装置は、前記原料放出部が、前記孔を周壁に有する、所定の軸を中心として回転される、回転容器から構成されており、
前記帯電用電極が、前記回転容器の周囲に配設される環状の電極である。
【0021】
本発明のより好ましい形態のナノファイバ製造装置は、前記収集体の前記繊維状物質が堆積される面の反対側に配置され、前記原料に帯電させた電荷とは逆極性の電荷が与えられて、その電荷により前記繊維状物質を前記収集体の方向に引き寄せる収集用電極をさらに備える。
【0022】
本発明のより好ましい形態のナノファイバ製造装置においては、前記収集体は、気体の通過が可能な素材から構成されており、
前記繊維状物質を、前記収集体を介して吸引して前記収集体に堆積させる吸引手段をさらに備える。
【0023】
本発明のより好ましい形態のナノファイバ製造装置においては、前記複数の繊維状物質生成部は、前記収集体の幅方向に並ぶ少なくとも1列の繊維状物質生成部が、他の繊維状物質生成部とは、放出する原料の組成が異なっている。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、原料を帯電させるための電荷を、原料放出部と所定距離をおいて対向するように配置された帯電用電極により原料放出部に誘導するとともに、原料放出部から放出された原料の進む向きを気流により偏向するので、コレクタ(収集体)と原料放出部との間の電界により原料放出部に原料を帯電させるための電荷を誘導する従来の方式のように、コレクタに堆積された繊維状物質(ナノファイバ)の電荷により原料放出部からの原料の放出が妨げられる等の弊害が発生しない。したがって、原料を放出するための孔やノズルの数を増加させても、それにより生成される大量のナノファイバの電荷により原料の放出が妨げられて、ナノファイバの製造量が頭打ちになるといった従来の問題点を克服することができる。
【0025】
また、原料を放出する原料放出部の孔やノズル等をコレクタと正対させて配置する必要がないことから、孔やノズル等を密集させることなく増加させることが容易となる。したがって、ノズル相互の電界の干渉や、放出された原料相互の電荷の干渉により、原料からナノファイバが正常に生成されなくなる割合を小さくすることができる。これにより、高分子材料の塊がそのままナノファイバに混入する混入量を小さくすることができ、製造されるナノファイバの品質を向上させることができる。
【0026】
加えて、複数の繊維状物質生成部は、気流により移送されるナノファイバの運動を案内する筒状の案内体が、それぞれの長手方向を互いに平行にして縦横に複数個ずつ並ぶように配設されることから、さらに容易にナノファイバの製造量を増加させることが可能となる。
また、本発明の好ましい形態によれば、長手方向に送られる長尺帯状の収集体の長手方向および幅方向に千鳥配列で案内体が並ぶように繊維状物質生成部が配置される。これによって、装置全体の大型化を抑えながらナノファイバの生成量を増加させることができる。また、案内体の配置を千鳥配置とすることで、収集体の幅方向においてナノファイバの堆積密度が疎となる部分の幅を小さくすることができる。
【0027】
また本発明のより好ましい形態によれば、案内体の横断面の形状は略正六角形とされ、案内体がハニカム構造をなすように配設される。これによって、横断面の形状が最も円形に近い同じ形状の案内体を隙間無く最密に配置することができる。したがって、ナノファイバの堆積密度に粗密が発生するのを抑えながら、より大量のナノファイバを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
《実施の形態1》
図1は、本発明の実施の形態1に係るナノファイバ製造装置の概略構成を示す側面図である。図2は、繊維状物質生成部の詳細を示す、一部を断面にした側面図である。
【0029】
図示例の製造装置は、回転して原料Fを放出する、原料放出部としての容器2、並びに容器2に電荷を誘導して原料Fを帯電させるための帯電用電極3等を含む繊維状物質生成部20を複数個備えている。また、製造装置は、これら複数の繊維状物質生成部20により生成された繊維状物質(ナノファイバ)F1を表面に堆積させて、不織布として収集するための、長尺帯状の収集体11、その収集体11を長手方向に送る送り機構13、並びに繊維状物質F1を収集体11の方向に電荷により吸引して収集するための収集用電極15をさらに備えている。
【0030】
以下、製造装置の各部の構成をさらに詳しく説明する。
容器2は、略円筒形の外形を有し、金属などの導体から構成されている。容器2は、高分子材料を所定の液体に分散または溶解してなる液状の原料Fを一時的に保持する空間を内部に有している。容器2の周壁には原料Fを外部に放出するための多数の細孔が形成されている。原料Fは、原料供給管27を介して容器2の内部の空間に供給される。
【0031】
また、容器2は、その円筒形状の軸心に一致する回転駆動軸2bに接続された電動機5により回転される。容器2内部の空間に供給された原料Fは、その回転による遠心力により周壁の細孔から放出される。
【0032】
帯電用電極3は、長板の長手方向の両端部を接合して輪としたような環状の形状を有し、内周面を容器2の外周面と一定の距離をおいて対向させるようにして、容器2と同軸に配設されている。帯電用電極3には、高電圧電源4により所定の電圧が印加される。図示例では、帯電用電極3は高電圧電源4の負極端子と接続されている。高電圧電源4の正極端子は接地されている。一方、帯電用電極3に対向する容器2は接地されている。これにより、帯電用電極3には負の電荷が誘導される一方、容器2には、正の電荷が誘導される。その結果、容器2と帯電用電極3との間には電界が発生する。高電圧電源4の詳細を、図2の破線の丸Pの中に示す。前掲の図1並びに後掲の図10においては高電圧電源4の詳細は示していないが、その内容は図2に示したのと同じである。
【0033】
なお、図1では、帯電用電極3のそれぞれに、別個の高電圧電源4を接続して電圧を印加しているが、1つの高電圧電源4によりそれぞれの帯電用電極3に電圧を印加するものとすることも勿論可能である。したがって、繊維状物質生成部20は、本実施の形態1においては、少なくとも容器2、帯電用電極3、送風機6および案内体7を含むものとして定義される。
【0034】
以上の構成により、容器2の周壁の細孔から放出される原料Fは、その細孔の開口部において電荷が付与される。電荷が付与された原料Fは、空中を飛翔する間に溶媒または分散媒が蒸発し、内部の反発方向のクーロン力が増大し、連続的に静電延伸現象が引き起こされて繊維状に細分化される。このようにして、原料Fから静電延伸現象により繊維状物質F1が形成される。
ここで、上記細孔は、容器2の周壁に規則的に形成されるのが好ましい。例えば、容器2の軸方向および周方向に等ピッチで並ぶように形成されるのが好ましい。
【0035】
また、容器2の回転軸2bを、電動機5を超えて更に延長した位置には送風機6が配設されている。送風機6により発生される気流8は、筒状のフード10により容器2と帯電用電極3との間に導かれる。容器2の細孔から放出された原料Fないしはそれから生成される繊維状物質F1(以下、両者を総称する場合は「原料F等」と表記する)は、送風機6が発生する気流8により、進む方向が容器2の径方向(図1に示す例では水平方向)から容器2の軸方向(図1に示す例では上方向)に偏向されて移送される。
【0036】
また、フード10内の送風機6の直下流の位置には、環状のヒータ12が配設されている。これにより、原料Fからの分散媒または溶媒の蒸発を促進して、原料Fから繊維状物質F1を速やかに生成することができる。また、静電延伸現象が早期に引き起こされることから、生成される繊維状物質F1の繊維径はより細くなり、微細な繊維状物質F1を安定して生成することができる。
【0037】
また、帯電用電極3の送風機6が配される側の反対側に隣接して、筒状の案内体7が配設されている。原料Fから生成される繊維状物質F1は、送風機6により発生される気流8により案内体7の内部を通過するように移送される。
図示例では、案内体7は、帯電用電極3と隣接する入口開口を下に向け、出口開口を上に向けるように配設されている。
【0038】
ここで、図3に示すように、案内体7は、横断面の形状が正六角形もしくは略正六角形である案内体7Aとすることができる。また、案内体7は、図4に示すように、横断面の形状が円形もしくは略円形である案内体7Bとすることもできる。なお、図3および図4には、繊維状物質生成部20を他部材に取り付けるための取付部29が示されている。
また、案内体7は、後で示すように、横断面の形状を正方形もしくは略正方形とすることもできる。また、案内体7は、横断面の形状を正三角形もしくは略正三角形とすることも可能である。
【0039】
収集体11は、一方の表面を案内体7の出口開口と対向させて、送り機構13により長手方向に送られる。ここで、送り機構13は、収集体11を巻き出す巻き出しロール14、および繊維状物質F1が堆積された収集体11を巻き取る巻き取りロール16から構成される。
図示例では、収集体11は、その表面が水平方向と平行となる姿勢で水平方向に送られており、その下側の面が案内体7の出口開口と対向している。そして、繊維状物質F1は、水平方向に送られる収集体11の下側の面に堆積されて収集される。
【0040】
また、収集体11の繊維状物質F1が堆積される面の反対側には、繊維状物質F1を電荷により収集体11の方向に引き寄せて、収集体11による繊維状物質F1の収集を補助するための平板状の収集用電極15が配設されている。収集用電極15には、別の高電圧電源4Aにより所定の電圧が印加される。図示例では、収集用電極15は、高電圧電源4Aの負極端子と接続されている。高電圧電源4Aの正極端子は接地されている。これにより、収集用電極15には、繊維状物質F1に帯電している電荷(正電荷)とは逆極性の電荷(負電荷)が付与され、前記繊維状物質F1は、前記収集用電極15の方に誘引されていく。
【0041】
ここで、収集体11は、表面に堆積した繊維状物質F1を容易に分離することができるように、薄くて柔軟性を有する素材から構成されるのが好ましい。好ましい素材の例として、アラミド繊維から形成されたシートを挙げることができる。これにテフロン(登録商標)コートを行うと、繊維状物質F1の分離性がさらに向上するためにより好ましい。
また、収集体11の素材は、絶縁性材料に限定されるものではなく、例えばカーボンナノファイバ等の導電性材料を混合して、収集体11に導電性を持たせるようにしてもよい。
【0042】
次に、繊維状物質生成部20の配置について説明する。図5〜図8に、繊維状物質生成部20の配置例を示す。
【0043】
図5は、横断面の形状が正六角形もしくは略正六角形である案内体7Aを有する繊維状物質生成部20の配置例である。このとき、同図に示すように、各繊維状物質生成部20は、それぞれの案内体7Aが、出口開口を収集体11の下側の面と正対させて、収集体11の長手方向および幅方向に複数個ずつ千鳥配列で並ぶように配設される。これにより、収集体11の幅方向において繊維状物質F1の集積密度が疎となる部分の幅を小さくすることができる。また、横断面の形状が正六角形もしくは略正六角形である案内体7Aが、いわゆるハニカム構造をなすように配置されることから、横断面の形状が正六角形もしくは正六角形に近い同一の形状の案内体7Aを隙間無く並べることが可能となる。したがって、繊維状物質F1の集積密度の疎密を抑制しながら、大量の繊維状物質F1を生成することが可能となる。
【0044】
またこのとき、収集体11の幅方向に1列に並ぶ複数の繊維状物質生成部20を1セットとして、例えば図5の左から1番目、3番目および5番目の各セット(セットS1、セットS3およびセットS5)と、図の左から2番目、および4番目の各セット(セットS2およびセットS4)との間で、放出する原料Fの組成を変えるようにすれば、組成の異なる繊維状物質F1を交互に積層した多層構造のナノファイバの不織布を得ることができる。
【0045】
図6は、横断面が円形状もしくは略円形状の案内体7Bを有する繊維状物質生成部20の配置例である。このとき、同図に示すように、各繊維状物質生成部20は、それぞれの案内体7Bが、出口開口を収集体11の下側の面と正対させて、収集体11の長手方向(図に両向きの矢印Xにより示す)および幅方向(図に両向きの矢印Yにより示す)に複数個ずつ並ぶように配設される。
【0046】
またこのとき、収集体11の長手方向および幅方向に対して案内体7Bが千鳥配列で並ぶように各繊維状物質生成部20を配設するのが好ましい。これにより、収集体11の幅方向において繊維状物質F1の集積密度が疎となる部分の幅を小さくすることができる。また、横断面形状が円形状もしくは略円形状である案内体7Bが最密となるように配置されることから、繊維状物質F1の集積密度を向上させることができる。
【0047】
また、図7は、横断面の形状が正方形もしくは略正方形である案内体7Cを有する繊維状物質生成部20の配置例である。このとき、同図に示すように、各繊維状物質生成部20は、それぞれの案内体7Cが、出口開口を収集体11の下側の面と正対させて、収集体11の長手方向および幅方向に複数個ずつ千鳥配列で並ぶように配設される。これにより、収集体11の幅方向において繊維状物質F1の集積密度が疎となる部分の幅を小さくすることができる。また、案内体7Cを隙間無く並べることが可能となり、繊維状物質F1の集積密度の疎密を抑制しながら、大量の繊維状物質F1を生成することが可能となる。
【0048】
また、図8も、横断面の形状が正方形もしくは略正方形である案内体7Cを有する繊維状物質生成部20の別の配置例である。ここでは、各繊維状物質生成部20は、その正方形の各辺が収集体11の長手方向および幅方向と平行となるように配設される。この場合にも、案内体7Cを隙間無く並べることが可能となり、繊維状物質F1の集積密度をさらに向上させることができるという効果は得られる。
なお、本実施の形態においては、繊維状物質F1は、送風機6が発生する気流により押し流されて、収集体11に向かって移送される構成であるが、これに限定するものではなく、例えば図1の収集用電極15の上方に、気体(空気)を吸引する吸引手段を設置し、その吸引動作により気流を発生させることで、繊維状物質F1を収集体11に向かって移送することも可能である。
【0049】
次に、以上の構成のナノファイバ製造装置の動作を説明する。
原料供給管27を介して容器2の内部に原料Fが供給される。容器2は、電動機5の回転出力により所定速度で回転される。容器2の内部に供給された原料Fは、容器2の回転による遠心力により周壁の細孔から放出される。また、接地された容器2と、電源4により高電圧が印加された帯電用電極3との間には電界が発生し、容器2と帯電用電極3とには、それぞれ逆極性の電荷が誘導される。図1に示す例では、容器2に正電荷が誘導され、帯電用電極3に負電荷が誘導される。
【0050】
遠心力により容器2の上記細孔から放出される原料Fは、容器2に誘導された電荷により帯電される。帯電された原料Fには、容器2と帯電用電極3との間の電界により帯電用電極3に向かう力が働く。
【0051】
このようにして、原料Fは、遠心力および電界により、容器2から帯電用電極3に向かって放射状に放出される。容器2から放出された原料Fは、空中を飛翔する間に分散媒または溶媒が蒸発し、原料Fの体積が減少すると共に、電荷密度が次第に高くなっていく。原料F内部の反発方向のクーロン力がその表面張力を超えたときに静電延伸現象が発生し、それを繰り返すことによって原料Fは繊維状に細分化されて、繊維状物質F1(ナノファイバ)が形成される。
【0052】
一方、容器2から放出された原料F、ないしはそれから生成された繊維状物質F1は、気流8により、進む方向が容器2の径方向から容器2の軸方向に変えられて、収集体11に向かって移送される。加えて、繊維状物質F1は、収集体11に対して容器2の反対側に配された収集用電極15の電荷により収集体11に向かって引き寄せられる。これにより、原料Fから正常に生成された繊維状物質F1のほとんど全てを収集体11の下側の面に堆積させて収集することができる。
【0053】
また、帯電不足等の原因により原料Fの一部が繊維状物質F1に変化せずに高分子材料の塊のままで残ったとしても、その高分子材料の塊は、収集体11が容器2の上側に配置されていることから、収集体11への到達が妨げられる。これにより、そのような高分子材料の塊が繊維状物質F1に混入するのを抑制することができる。したがって、収集される繊維状物質F1(ナノファイバ)の品質を向上させることができる。
【0054】
ここで、帯電用電極3には、1〜200kVの電圧を印加するのが好ましい。より好ましくは、10kV以上の高電圧を印加するのがよい。特に、容器2と帯電用電極3との間の電界強度が重要であり、1kV/cm以上の電界強度になるように印加電圧や容器2と帯電用電極3との距離を調節することが好ましい。これにより、容器2と帯電用電極3との間に均等且つ強い電界を発生させることができる。収集用電極15に印加される電圧についても同様である。
【0055】
案内体7の素材は、できるだけ帯電しにくい素材とするのが好ましい。例えば、木や木綿、紙などから構成されるのが好ましい。これにより、案内体7の内部を通過する帯電した繊維状物質F1が案内体7の内面に付着しにくくなり、メンテナンスを行う頻度を少なくすることができる。
【0056】
また、繊維状物質F1が正電荷に帯電されるものとすれば、案内体7の素材も正電荷に帯電されやすいものとするのも好ましい。例えば、ガラス、石綿およびナイロン等が好ましい。逆に、繊維状物質F1が負電荷に帯電されるものとすれば、案内体7の素材も負電荷に帯電されやすいものとするのも好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニルおよびポリエチレン等が好ましい。
このように、案内体7を繊維状物質F1に帯電している電荷と同じ極性の電荷に帯電されやすい素材から構成することによって、繊維状物質F1が案内体7の内面に付着するのを防止することができる。これにより、案内体7に付着した繊維状物質F1等を取り除くためのメンテナンスを行う頻度を少なくすることができ、生産性が向上する。
【0057】
なお、本実施の形態においては、帯電用電極3に電圧を印加し、容器2は接地するものとしたが、これに限らず、帯電用電極3を接地し、容器2に電圧を印加するものとしてもよい。また、容器2および帯電用電極3の両方に、逆極性の電圧を印加するものとしてもよい。要するに、容器2と帯電用電極3との間に所定の電位差を生じさせるように、容器2および帯電用電極3の一方に電圧を印加するか、または容器2と帯電用電極3との間に電圧を印加するようにすればよい。
【0058】
本実施の形態においては、帯電用電極3には、負の電圧を印加して、正に帯電した繊維状物質F1を生成し、収集用電極15には負の電圧を印加して繊維状物質F1を収集するものとしているが、これに限定するものではなく、帯電用電極3に正の電圧を印加して、負に帯電した繊維状物質F1を生成し、収集用電極15には正の電圧を印加して繊維状物質F1を収集するようにしてもよい。
本実施の形態においては、容器2は、金属などの導体であったが、これに限定するものではなく、容器2が導電性を有しない材料で構成された場合においても、原料Fを空中に放出するための孔の近傍が導電性を有する材料から構成されていれば、その部分と帯電用電極3との間に電界を発生させて、その孔から放出される原料を帯電させることができる。
【0059】
収集体11を容器2の上側に配置し、繊維状物質F1を収集体11の下側の面に堆積させて収集するものとしたが、これに限らず、収集体11を容器2の下側に配置し、水平方向に放出させた原料Fを気流により下向きに偏向し、繊維状物質F1を収集体11の上側の面に堆積させて収集するものとした場合にも、本発明は適用可能である。
【0060】
本実施の形態においては、収集体12の送り方向は巻き出しロール14および巻き取りロール16の配置により決定されるが、巻き出しロール14と巻き取りロール16の配置を入れ替えて、収集体12の送り方向を逆方向にしても同じような効果は得られる。
【0061】
原料Fに含ませる高分子材料は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ナイロン、アラミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等が好適なものとして例示でき、これらより選ばれる少なくとも1種が使用される。しかしながら、原料Fに含ませることができる高分子材料はこれらに限られるものではなく、既存の物質であってもナノファイバの原料としての適性が新たに認められたものや、今後に開発される物質でナノファイバの原料としての適性が認められるものを好適に用いることができる。
【0062】
高分子材料を分散または溶解させるための分散媒または溶媒は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン、水等が好適なものとして例示でき、これらより選ばれる少なくとも1種が使用される。しかしながら、高分子材料を分散または溶解させるための分散媒または溶媒は、これらに限られるものではなく、既存の物質であってもエレクトロスピニング法における高分子材料の分散媒または溶媒としての適性が新たに認められたものや、今後に開発される物質で分散媒または溶媒としての適性が認められるものを好適に用いることができる。
【0063】
原料Fには無機質固体材料を混入することも可能である。混入可能な無機質固体材料としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物などを挙げることができる。耐熱性、加工性などの観点からは酸化物を用いるのが好ましい。酸化物としては、Al23、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B23、P25、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb23、As23、CeO2、V25、Cr23、MnO、Fe23、CoO、NiO、Y23、Lu23、Yb23、HfO2、Nb25等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも1種が使用される。しかしながら、原料Fに混入される無機質固体材料はこれらに限定されるものではない。
【0064】
高分子材料と分散媒または溶媒との混合比率は、それらの種類にもよるが、分散媒または溶媒の比率が60〜98質量%となるように混合されるのが好ましい。
【0065】
《実施の形態2》
次に、本発明の実施の形態2を、図9を参照しながら説明する。実施の形態2は、実施の形態1を改変したものであり、以下に、実施の形態1とは異なる部分のみを主に説明する。
図9に示すように、実施の形態2においては、容器2Aは、気密な供給系統により原料Fが内部に供給される回転容器となっている。そして、原料Fは、容器2Aの回転による遠心力のみならず、容器2A内部への原料Fの供給圧力をも利用して容器2Aから放出されるように構成されている。
【0066】
より具体的には、容器2Aは、円筒の両端を閉塞して容器としたような形状を有し、その一端側の壁部の中央に、その壁部と垂直な、回転軸を兼ねる原料供給管27Aの一端部が取り付けられている。原料供給管27Aは、支持部38により回転自在に支持されるとともに、回転継手40を介して原料配管42の一端と接続されている。また、原料供給管27Aには受動ギア44が外嵌されている。受動ギア44は、電動機5の出力軸46に取り付けられた能動ギア48と噛合しており、電動機5の回転出力により原料供給管27Aが回転されて、容器2Aが回転駆動される。
【0067】
原料配管42は、他端が原料液タンク50に接続され、原料配管42の途中には原料ポンプ52が配設されている。
以上の構成により、原料配管42、回転継手40および原料供給管27Aを介して、原料Fが、原料ポンプ52により原料タンク50から容器2Aの内部に所定圧力で供給される。
【0068】
容器2Aは、電動機5の回転出力により所定速度で回転されているために、容器2Aの内部に供給された原料Fは、容器2Aの回転による遠心力、および原料ポンプ52による原料Fの供給圧力により周壁に設けられた細孔から押し出される。
【0069】
容器2Aの原料供給管27Aが接続される側には、環状の送風機6Aが配されており、その送風機6Aが発生する気流8により、容器2Aから放出された原料Fは、進む方向が、容器2Aの径方向から容器2の軸方向に変えられる。
送風機6Aよりも容器2により近い位置に、原料Fの偏向をより確実に行うための気体噴射機構54が設けられている。
【0070】
気体噴射機構54は、容器2Aの細孔から放出される原料Fが帯電用電極3Aに付着するのをより確実に防止するという観点から設けられるものであり、容器2の外径よりも内径が若干大きいリング状の気体噴出部56と、噴出される気体(例えば空気)を気体噴出部56に供給する例えばエアポンプからなるエア源58とから構成される。気体噴出部56は、中空の角材の両端を接合して輪にしたような構造を有している。
【0071】
より詳細には、気体噴出部56は、エア源58からの気体が導入される中空部56aと、軸方向の一方向に気体を噴出するように一方の側面に所定ピッチで形成された複数の噴出孔56bと、中空部56aにエア源58からの気体を導入するためのエア導入孔56cとを有している。エア源58から気体噴出部56に所定圧力で供給された気体は、各噴出孔56bから、容器2Aの細孔から放出された原料Fに向かって噴射される。
【0072】
このような構成の気体噴射機構54は、噴射される気体の流速を容易に大きくすることができるので、容器2Aの細孔から放射状に放出された原料Fを確実に偏向することができる。
【0073】
このように、本実施の形態2においては、原料Fが原料ポンプ52により所定圧力で容器2Aの内部に供給されることにより、容器2の細孔から遠心力により放出される原料Fが原料ポンプ52の供給圧力により押し出されるので、原料Fを途切れることなく容器2から放出させることが可能となる。
【0074】
また、送風機6Aおよび気体噴射機構54の2段階の気流発生手段を設けたことによって、原料F等が帯電用電極3に付着するのをより確実に防止することができる。これにより、帯電用電極3に付着した原料F等を取り除くためにメンテナンスを行う必要がなくなり、生産性がより向上される。なお、複数の噴出孔56bに代えて、気体噴出部56の一方の側面を一周するように設けられた隙間(図示しない)から気体を噴射する構成としても同様の効果を奏することができる。
【0075】
《実施の形態3》
次に、本発明の実施の形態3を、図10を参照しながら説明する。実施の形態3は、実施の形態1を改変したものであり、以下に、実施の形態1とは異なる部分のみを主に説明する。
図10に示すように、実施の形態3においては、容器2Bは、原料Fの供給系統が気密に構成された箱形の容器とされている。原料Fは、容器2Bの内部に、図示しないポンプにより原料供給管27を介して所定圧力で送られる。
容器2の1つの壁部には、原料Fを空中に放出するための図示しない多数の細孔が形成されており、その細孔は、上記1つの壁部の外側面に設けられた多数の突起2aの先端部に開口している。
【0076】
また、容器2の上記1つの壁部と対向する位置には、板状の帯電用電極3Aが配設されている。帯電用電極3Aは、高電圧電源4の一方の端子(例えば負極端子)と接続されている。高電圧電源4の他方の端子(例えば正極端子)は接地されている。
【0077】
また、容器2の上記1つの壁部と帯電用電極3Aとの間の空間の側方(図9においては容器2Bおよび帯電用電極3Aの下側)には、送風機6が、その空間に向かって上向きに送風するように配設されている。これにより、容器2Bの突起2aの先端から帯電用電極3Aに向かって放出された原料Fは送風機6が発生する気流により運動の向きが変えられて、上方向に移送される。このように、本実施の形態3のナノファイバ製造装置においては、箱状の容器2B、板状の帯電用電極3Aおよび送風機6から繊維状物質生成部20Aが構成されている。
【0078】
そして、原料F等が移送される先には、収集体11およびその送り機構13が、上記実施の形態1および2と同様にして配設されている。また、収集体11のさらに上側には、複数の収集用電極15Aが、繊維状物質生成部20Aのそれぞれと対応する位置に配設されている。収集用電極15Aのそれぞれは、高電圧電源4Aの一方の端子(図示例では負極端子)と接続されている。高電圧電源4Aの他方の端子は接地されている。
【0079】
このように、本発明は、回転体形状の容器を回転させたときの遠心力を利用して原料Fを放出する場合のみならず、原料Fの容器2Bへの供給圧力のみによって原料Fを放出する方式への適用が可能である。
【0080】
《実施の形態4》
次に、図11を参照して本発明の実施の形態4を説明する。実施の形態4は、実施の形態1を改変したものであり、以下に、実施の形態1とは異なる部分のみを主に説明する。
実施の形態4においては、収集体11のさらに上側に、収集体11を介して気流により繊維状物質F1を吸引して、収集体11による繊維状物質F1の収集を補助する収集補助装置60が配設されている。それに対応して、収集体11は、より通気性の高い素材から構成される。例えば、収集体11を目の粗い布状の素材から構成することができる。
【0081】
より具体的には、収集補助装置60は、送風機や吸引ポンプ等からなる吸引装置62と、その吸引装置62の吸い込み口に接続された筒状のフード64と、吸引装置62の排出口に接続された溶媒回収装置66とから構成されている。
【0082】
フード64は、一端開口(出口開口という)が吸引装置62の吸い込み口と接続され、他端開口(入口開口という)が収集体11と対向している。また、フード64は、出口開口から入口開口に向かって、収集体11の送りの方向と平行な方向の幅が広がるように形成されている。
【0083】
このように、収集体11を介して気流により繊維状物質F1を吸引する収集補助装置60を設けたことによって、生成された繊維状物質F1をより確実に収集体11により収集することができる。これにより、材料ロスの低減を図ることができる。
なお、実施の形態1において付言したように、収集補助装置60の吸引装置62により発生される気流を、単独で原料F等を偏向し得る大きさのものとするように構成することで、実施の形態1、2および3における送風機6および6Aを省略することが可能となり、この場合においても、繊維状物質F1の運動の方向を気流により偏向することができる。
【0084】
以上、本発明を各実施の形態により説明したが、以下に、本発明の好ましいより具体的な形態を説明するとともに、上記各実施の形態の更なる変形例を説明する。
実施の形態1、2および4の容器2および2Aの外径は10mm〜300mmとするのがよい。この理由は次の通りである。
容器2等の外径が300mmを超えると、上記気流により原料F等を適度に集中させることが困難となる。また、容器2等の外径が300mmを超えると、容器2等を安定して回転させるためには容器2等を支持する支持構造の剛性をかなり高くする必要が生じ、装置が大型化する。一方、容器2等の直径が10mmより小さいと、原料を放出させるのに十分な遠心力を得るためには回転数を高くする必要があり、その場合にはモータの負荷や振動が増大するために振動対策等を施す必要が生じる。以上の点を考慮すると、容器2および2Aの外径は、20〜150mmとするのがより好ましい。
【0085】
上記各実施の形態において、原料Fを放出する細孔の径は、0.01〜2mmとするのがよい。また、細孔の形状は円形であることが好ましいが、多角形形状や星形状等であってもよい。
容器2および2Aの回転数は、原料Fの粘度、原料Fの組成(高分子材料の種類)、溶媒の種類並びに細孔の径等に応じて例えば数rpm以上10,000rpm以下の範囲で調節することができる。
【0086】
実施の形態1、2および4の環状の帯電用電極3の内径は、容器2および2Aの外径よりも大きな径にする必要があるが、例えば200〜1000mmとするのがよい。特に、帯電用電極3と、容器2等との間に発生する電位差により発生する電界強度が、1kV/cm以上になるように、帯電用電極3の配置や印加する高電圧電源の大きさ等を設定するのがよい。
【0087】
環状の帯電用電極3は、必ずしも円環状の電極である必要はなく、例えば、軸方向から見た形状を多角形としてもよい。また、帯電用電極3は、容器の周面から所定の距離をおいて容器を囲むように配置されてさえいればよく、例えば、環状の金属線を、容器を囲むように配置して構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、エレクトロスピニング法により高品質のナノファイバを高い生産性で製造することができることから、高性能フィルタ等の素材として安価で信頼性の高い素材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施の形態1に係るナノファイバ製造装置の概略構成を示す、一部を断面にした側面図である。
【図2】同上装置の繊維状物質生成部の詳細を示す、一部を断面にした側面図である。
【図3】同上装置の案内体の一例を示す斜視図である。
【図4】同上装置の案内体の他の一例を示す斜視図である。
【図5】同上装置の繊維状物質生成部の配置例を示す図であり、(a)はその平面図であり、(b)はその側面図である。
【図6】同上装置の繊維状物質生成部の他の配置例を示す平面図である。
【図7】同上装置の繊維状物質生成部のさらに他の配置例を示す平面図である。
【図8】同上装置の繊維状物質生成部のさらに他の配置例を示す平面図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係るナノファイバ製造装置の繊維状物質生成部の詳細を示す、一部を断面にした側面図である。
【図10】本発明の実施の形態3に係るナノファイバ製造装置の概略構成を示す、一部を断面にした側面図である。
【図11】本発明の実施の形態4に係るナノファイバ製造装置の概略構成を示す、一部を断面にした側面図である。
【符号の説明】
【0090】
2 容器
3 帯電用電極
4 高電圧電源
5 電動機
6 送風機
7 案内体
11 収集体
13 送り機構
15 収集用電極
20 繊維状物質生成部
F 原料
F1 繊維状物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料を含む液状の原料を空中に放出するための孔を有するとともに、前記原料が通過する空間を内部に有する原料放出部と、
前記原料放出部と所定距離をおいて対向するように配置され、前記原料放出部との間に所定の電位差を与えられて、前記原料を帯電させるための電荷を前記原料放出部に誘導する帯電用電極と、
前記放出された原料から静電延伸現象により生成される繊維状物質を偏向して所定方向に移送するための気流を発生する気流発生手段と、
前記気流により移送される繊維状物質の運動を案内する筒状の案内体とから構成される、複数の繊維状物質生成部を備え、
前記複数の繊維状物質生成部は、それぞれの前記案内体が、長さ方向を互いに平行として縦横に複数個ずつ並ぶように配設されるナノファイバ製造装置。
【請求項2】
前記気流により移送される繊維状物質を表面に堆積させて収集するシート状の収集体をさらに備える請求項1記載のナノファイバ製造装置。
【請求項3】
前記収集体は長尺帯状であり、
前記収集体を長手方向に送る送り機構をさらに備え、
前記送り機構が、前記収集体を巻き出す巻き出し装置、並びに前記繊維状物質が表面に堆積された収集体を巻き取る巻き取り装置を含む請求項2記載のナノファイバ製造装置。
【請求項4】
前記複数の繊維状物質生成部は、それぞれの前記案内体が、長さ方向を前記収集体の繊維状物質が堆積される面と略垂直として前記収集体の長手方向および幅方向に複数個ずつ並ぶように配設される請求項3記載のナノファイバ製造装置。
【請求項5】
前記複数の繊維状物質生成部は、それぞれの前記案内体が、千鳥配列で前記収集体の長手方向および幅方向に複数個ずつ並ぶように配設される請求項4記載のナノファイバ製造装置。
【請求項6】
前記案内体は、横断面の形状が円形もしくは略円形である請求項1〜5のいずれかに記載のナノファイバ製造装置。
【請求項7】
前記案内体は、横断面の形状が正多角形もしくは略正多角形である請求項1〜5のいずれかに記載のナノファイバ製造装置。
【請求項8】
前記案内体は、横断面の形状が正六角形もしくは略正六角形であり、ハニカム構造をなしている請求項7記載のナノファイバ製造装置。
【請求項9】
前記原料放出部が、前記孔を周壁に有する、所定の軸を中心として回転される、回転容器から構成されており、
前記帯電用電極が、前記回転容器の周囲に配設される環状の電極である請求項1〜8のいずれかに記載のナノファイバ製造装置。
【請求項10】
前記収集体の前記繊維状物質が堆積される面の反対側に配置され、前記原料に帯電させた電荷とは逆極性の電荷が与えられて、その電荷により前記繊維状物質を前記収集体の方向に引き寄せる収集用電極をさらに備える請求項1〜9のいずれかに記載のナノファイバ製造装置。
【請求項11】
前記収集体は、気体の通過が可能な素材から構成されており、
前記繊維状物質を、前記収集体を介して吸引して前記収集体に堆積させる吸引手段をさらに備える請求項1〜10のいずれかに記載のナノファイバ製造装置。
【請求項12】
前記複数の繊維状物質生成部は、前記収集体の幅方向に並ぶ少なくとも1列の繊維状物質生成部が、他の繊維状物質生成部とは、放出する原料の組成が異なっている請求項1〜11のいずれかに記載のナノファイバ製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−189778(P2010−189778A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32628(P2009−32628)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】