説明

ナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法

【課題】ナノファイバ製造装置のメンテナンス性を向上させる。
【解決手段】原料液300を空間中で延伸させ、ナノファイバ301を製造するナノファイバ製造装置100であって、原料液300が空間に流出する先端まで、原料液300を案内する流路と前記流路に沿った開口とを形成する流路部153を有する流出体110と、流出体110に原料液300を供給する供給装置141と、供給された原料液300を前記先端まで流す気体流W2を発生させる気体流発生装置106と、原料液300を帯電させる帯電装置111とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ナノファイバの製造装置、ナノファイバの製造方法に関し、特に、メンテナンス性を向上させてナノファイバの生産効率を向上させることのできるナノファイバ製造装置、ナノファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子物質などから成り、サブミクロンスケールの直径を有する糸状(繊維状)物質(ナノファイバ)を製造する方法として、エレクトロスピニング(電荷誘導紡糸)法が知られている。
【0003】
このエレクトロスピニング法とは、溶剤中に高分子物質などを分散または溶解させた原料液を空間中にノズルなどにより流出(吐出)させるとともに、原料液に電荷を付与して帯電させる方法である。そして、空間を飛行中の原料液が電気的に延伸することにより、ナノファイバが製造される。
【0004】
より具体的にエレクトロスピニング法を説明すると次のようになる。すなわち、帯電され空間中に流出された原料液は、空間を飛行中に徐々に溶剤が蒸発していく。これにより、飛行中の原料液の体積は、徐々に減少していくが、原料液に付与された電荷は、原料液に留まる。この結果として、空間を飛行中の原料液は、電荷密度が徐々に上昇することとなる。そして、溶剤は、継続して蒸発し続けるため、原料液の電荷密度がさらに高まり、原料液の中に発生する反発方向のクーロン力が原料液の表面張力より勝った時点で高分子溶液が爆発的に線状に延伸される現象(以下、静電延伸現象と述べる)が生じる。この静電延伸現象が、空間において次々と幾何級数的に発生することで、直径がサブミクロンの高分子から成るナノファイバが製造される。
【0005】
以上のようなエレクトロスピニング法を採用する場合、細いナノファイバを製造するには空間中にできる限り細く原料液を流出させた方が効率がよい。また、原料液を吐出する部分が尖っている方が電荷が集中しやすく、原料液を効率的に帯電させることも可能である。さらに、安定した飛行方向で原料液を吐出させるには、ある程度の長さの孔が好ましい。従って、ナノファイバ製造装置は、従来、特許文献1に記載されるように、細いノズルの先端から原料液を空間中に吐出する場合があった。
【特許文献1】特表2007−532790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のナノファイバ製造装置を用いてナノファイバを製造する場合、ナノファイバ製造装置の使用時間が長くなると、ナノファイバの原料となる樹脂などが固まってナノファイバを吐出するための孔を塞ぐことがある。特に、このような場合、ナノファイバの生産効率が低下するばかりでなく、製造されたナノファイバが偏った状態で収集されるため、当該孔を塞いでいる塊を除去するために、定期的にメンテナンスをする必要がある。
【0007】
ところが、細いノズルなどの場合、原料液を吐出する孔から樹脂の塊を取り除くことが困難な場合があった。
【0008】
本願発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、製造されるナノファイバの品質を維持しつつメンテナンス性を向上させることのできるナノファイバ製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本願発明にかかるナノファイバ製造装置は、原料液を空間中で延伸させ、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、原料液が空間に流出する先端まで、原料液を案内する流路と前記流路に沿った開口を形成する流路部を有する流出体と、前記流出体に原料液を供給する供給装置と、供給された原料液を前記先端まで流す気体流を発生させる気体流発生装置と、原料液を帯電させる帯電装置とを備えることを特徴とする。
【0010】
これにより、細い孔に原料液を通過させることなく空間中に一度に原料液を流出させることが可能となる。しかも、原料液は、流路に沿って開口する流路部に案内されて空間中に流出するため、途中で樹脂が固まってもメンテナンス時に容易に塊を除去することができる。従って、ナノファイバの品質を維持、または、向上させながら、メンテナンス性を向上することができ、ナノファイバの生産効率を向上させることが可能となる。
【0011】
また、前記流路部は前記流出体に設けられる溝であることが好ましい。
【0012】
この溝により、原料液ばかりでなく気体流も案内することが可能となり、原料液を適切に流すことが容易になる。また例えば、原料液を複数本の溝部に分けて流すことで、複数の細い流れとして原料液を空間中に流出させることも可能となる。従って、製造されるナノファイバの品質を任意に制御することも可能となる。
【0013】
また、前記流出体は、先端に尖った突出部を備えることが好ましい。
【0014】
これにより、突出部に電荷を集中させることができ、突起に沿って流出する原料液を効率的に帯電させることが可能となる。従って、原料液の電荷密度が高くなり、静電延伸現象が早期に発生すると共に、多段に発生し、品質の高いナノファイバを製造することが可能となる。
【0015】
特に、溝に対応した位置に突出部を設けることで、空間中に流出する原料液の形状を制御し、原料液の帯電密度を向上させることができるため、より高い品質のナノファイバを任意に製造することが可能となる。
【0016】
また、前記流出体の先端は、円筒形状であり、前記流路部は、前記円筒形状の内面に有り、前記開口は、前記円筒形状の内方に向いて開口し、前記帯電装置は、前記流出体の先端を囲む環状の帯電電極を備えることが好ましい。
【0017】
これによれば、円筒形状の内方に流した気体流の圧力を高めることができ、原料液を薄く(細く)することができる。また、流出体と流出体の近傍に配置した帯電電極との位置関係が等しくすることができる。従って、原料液300を均等に帯電させることができ、製造されるナノファイバの品質を安定させることが可能となる。
【0018】
さらに、前記流出体は、先端に向かって徐々に縮径することが好ましい。
【0019】
これによれば、原料液300が流出する部分の気体流の圧力をいっそう高めることができ、製造されるナノファイバの品質を向上させることが可能となる。
【0020】
さらに、前記円筒形状の軸の周りで前記流出体を回転させる駆動装置を備えてもかまわない。
【0021】
これにより、原料液300を均等な状態で流出させることができ、製造されるナノファイバの品質の安定性を向上させることが可能となる。
【0022】
また、前記流出体の先端は、平面形状であってもよい。
【0023】
これによれば、広範囲にわたってナノファイバを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本願発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1は、ナノファイバ製造装置の実施の形態を一部切り欠いて示す平面図である。
【0026】
同図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、放出装置101と、案内体102と、収集装置103と、誘引装置104と、気体流発生装置106とを備えている。
【0027】
ここで、ナノファイバを製造するための原料液については、原料液300と記し、製造されたナノファイバについてはナノファイバ301と記すが、製造に際しては原料液300が電気的に延伸しながらナノファイバ301に変化していくため、原料液300とナノファイバ301との境界は曖昧であり、明確に区別できるものではない。
【0028】
放出装置101は、帯電した原料液300や製造されるナノファイバ301を気体流に乗せて放出することができるユニットである。
【0029】
図2は、放出装置の一部を切り欠いて示す平面図である。
【0030】
図3は、放出装置の外観を示す斜視図である。
【0031】
これら図に示すように放出装置101は、流出体110と、帯電装置111と、風洞体112と、第二気体流発生装置113と、供給装置141とを備えている。
【0032】
図4は、流出体を示す斜視図である。
【0033】
なお、同図において、気体流発生装置106の記載は省略されている。
【0034】
同図に示すように本実施の形態の場合、流出体110は、中空の半球形状(ドーム形状)となっており、先端が円形に開口した円筒形状となっている。流出体110は、原料液300を空間に流出させる先端まで、原料液を案内する流路と前記流路に沿った開口を形成する溝状の流路部153を備えている。
【0035】
また流出体110は、流路部153と、突出部151とを備えている。
【0036】
流路部153は、原料液300を案内する流路を形成すると共に、前記流路に存在する原料液300に気体流を当てるための開口とを形成する流出体110の部分であり、本実施の形態の場合、流路部153は、流出体110の内面に溝状に掘られた状態で形成されている。
【0037】
なお、流路部153の形状は限定されるものではなく、例えば、溝状に刻まれる部分のない平面や曲面であってもかまわない。この場合、前記平面や曲面に対し流出体110の反対側は全て開口として機能する。また、流路部153は、原料液300の流出量を調整するため、流出体110の先端に行くほど流路部153の幅が狭くなる形状や、原料液300の流れを緩めるために蛇行する形状が採用されてもかまわない。
【0038】
突出部151は、流出体110の開口部先端に尖った状態で突設される部材である。本実施の形態の場合、突出部151は、先端部152が尖った円錐形状に流路部153を延長するように一部削った形状となっている。また、突出部151は、先端部152が点状に尖っている。
【0039】
特に、本実施の形態の場合のように、流路部153の先端に突出部151を設けることにより、突出部151に原料液300を案内することができる。従って、電荷が集中する突出部151に原料液300を接触させることができ、効率的に原料液300を帯電させることが可能となる。
【0040】
なお、突出部151は、流出体110の先端に点在しなくても良い。例えば、流出体110の先端部全周にわたって一連の突出部151を設けてもかまわない。この場合は、突出部151の先端を線状(エッジ状)に尖らせることで電荷を集中させやすくすることができる。
【0041】
具体的には、流出体110の原料液300が流出する先端部分の直径は、10mm以上、300mm以下の範囲から採用されることが好適である。あまり大きすぎると高い密度でナノファイバを収集することが困難になるからである。一方、小さすぎると空間中に大量の原料液300を流出させることが困難となるからである。さらに流出体110の先端部分の直径は、20mm以上、150mm以下の範囲から採用することが好ましい。
【0042】
なお、流出体110は、先端に向かうに従い徐々に縮径するものでもかまわない。
【0043】
供給装置141は、流出体110の内面に原料液300を供給する装置であり、供給部142と供給路114と、供給源144(図1参照)とを備えている。
【0044】
供給部142は、流出体110に一体に取り付けられる円柱状の部材であり、原料液300を供給するための供給孔が周縁部に複数個設けられる部材である。
【0045】
供給路114は、外部にある供給源144から供給部142の内方に原料液300を供給するための経路である。本実施の形態の場合、供給路114は、管体で形成されている。
【0046】
供給源144は、原料液300を貯留するためのタンクと、原料液300を所定の圧力で圧送するためのポンプを備えた装置である。
【0047】
なお、供給装置141は、上記実施例に限定されるものではない。例えば、供給部142を回転させ、遠心力により原料液300を流出体110に供給するものでも良い。
【0048】
図5は、流出体、供給部、噴射部を示す断面図である。
【0049】
気体流発生装置106は、供給部142から供給される原料液300が流出体110の流路部153に沿って先端まで流れるための気体流W1を発生させる装置であり、コンプレッサ161(図1参照)と、チューブ162と、噴射部163とを備えている。
【0050】
コンプレッサ161は、空気を所定の圧力に昇圧して送り出すことのできるいわゆるエアーコンプレッサである。チューブ162は、当該昇圧された空気を案内することのできる管体である。
【0051】
噴射部163は、昇圧された空気を流出体110の表面に吐出するノズルである。本実施の形態の場合、噴射部163は流出体110の内面に均等に広がるように、円形のスリットから空気が噴射されるものとなっている。
【0052】
なお、気体流発生装置106が発生させる気体流は空気ばかりでなく、例えば、窒素などの不活性ガスなどでも良く、また、過熱水蒸気など任意の気体を利用すればよい。気体流発生装置106は、気体を高圧に封入したボンベなどから気体を供給し、気体流を発生させてもかまわない。
【0053】
帯電装置111は、原料液300に電荷を付与して帯電させる装置である。本実施の形態の場合、図1〜図3に示すように、帯電装置111は、帯電電極121と、帯電電源122と、接地装置123とを備えている。
【0054】
帯電電極121は、自身がアースに対し高い電圧もしくは低い電圧となることで、接地されている流出体110に電荷を誘導するための部材である。本実施の形態の場合、帯電電極121は、流出体110の先端の周囲を取り囲むように配置される円環状の部材であり、断面は円状となっている。帯電電極121に正の電圧が印加されると流出体110には、負の電荷が誘導され、帯電電極121に負の電圧が印加されると流出体110には、正の電荷が誘導される。
【0055】
また、帯電電極121は、流出体110のどのような部分よりも突出部151との距離が近くなるように配置されるのが好ましい。特に、突出部151の先端と最も近くなる配置がよい。これにより、突出部151の先端に電荷が誘導されやすくなる。
【0056】
帯電電極121の大きさは、流出体110の先端部分の直径よりも大きい必要があるが、その直径は、50mm以上、1500mm以下の範囲から採用されることが好適である。なお、帯電電極121の形状は、円環状に限ったものではなく、流出体110の形状との関係によって、多角形の環状や平板状などであってもよい。また、帯電電極121の断面形状も丸形ばかりでなく矩形などでもかまわない。
【0057】
接地装置123は、流出体110と電気的に接続され、流出体110を接地電位に維持することができる部材である。接地装置123の一端は、流出体110と接続され、他端は大地と接続されている。
【0058】
帯電電源122は、帯電電極121に高電圧を印加することのできる電源である。帯電電源122は、一般には、直流電源が好ましい。特に、発生させるナノファイバ301の帯電極性に影響を受けないような場合、生成したナノファイバ301の帯電を利用して、逆極性の電位を印加した電極でナノファイバ301を誘引するような場合には、直流電源を採用することが好ましい。また、帯電電源122が直流電源である場合、帯電電源122が帯電電極121に印加する電圧は、10KV以上、200KV以下の範囲の値から設定されるのが好適である。帯電電源122に負の電圧が印加される場合には、前記の印加する電圧の極性は、負になる。特に、流出体110と帯電電極との間の電界強度が重要であり、帯電電極121と流出体110との距離が最も近い空間において1KV/cm以上の電界強度になるように印加電圧を調整するのが好ましい。
【0059】
本実施の形態のように帯電装置111に一方の電極を接地電位とする誘導方式を採用すれば、流出体110を接地電位に維持したまま原料液300に電荷を付与することができる。流出体110が接地電位の状態であれば、流出体110に接続される回転軸体116や駆動装置117などの部材を流出体110から電気的に絶縁する必要が無くなり、流出体110として簡単な構造を採用しうることになり好ましい。
【0060】
なお、帯電装置111として、流出体110に電源を接続し、流出体110を高電圧に維持し、帯電電極121を接地することで原料液300に電荷を付与してもよい。
【0061】
第二気体流発生装置113は、流出体110から空間中に流出した原料液300や製造されるナノファイバ301を搬送するための気体流を発生させるための装置である。第二気体流発生装置113は、駆動装置117の背部に備えられ、駆動装置117から流出体110の先端に向かう気体流を発生させる。第二気体流発生装置113は、流出体110から流出される原料液300の方向を軸方向に変更することができる風力を発生させることができるものとなっている。図2において、気体流は矢印で示している。第二気体流発生装置113としては、軸流ファンを備える送風機等を例示することができる。
【0062】
なお、第二気体流発生装置113は、シロッコファンなど他の送風機により構成してもかまわない。また、後述する吸引装置132により風洞体112の内方に気体流を発生させるものでもかまわない。この場合、ナノファイバ製造装置100は、積極的に気体流を発生させる第二気体流発生装置113を有しないこととなるが、何らかの装置により、風洞体112などの内方に気体流が発生していることをもってナノファイバ製造装置100が第二気体流発生装置113を備えているものとする。
【0063】
風洞体112は、第二気体流発生装置113で発生した気体流を帯電電極121と流出体110との間に案内する導管である。本実施の形態の場合、風洞体112により案内された気体流は、帯電電極121の内側を通過しつつ、流出体110から流出された原料液300を搬送する。
【0064】
さらにまた、放出装置101は、加熱装置125を備えている。
【0065】
加熱装置125は、第二気体流発生装置113が発生させる気体流を構成する気体を加熱する加熱源である。本実施の形態の場合、加熱装置125は、案内体102の内方に配置される円環状のヒータであり、加熱装置125を通過する気体を加熱することができるものとなっている。加熱装置125により気体流を加熱することにより、空間中に流出される原料液300は、蒸発が促進され効率よくナノファイバ301を製造することが可能となる。
【0066】
図6は、案内体近傍を示す斜視図である。
【0067】
同図に示すように、案内体102は、放出装置101から放出され、気体流によって搬送されるナノファイバ301を所定の場所に案内する風洞である。
【0068】
拡散体127は、案内体102と接続され、高密度状態のナノファイバ301を広く均等に拡散させ低密度状態とする導管であり、ナノファイバ301が案内される空間を滑らか、かつ、連続的に拡大することで、ナノファイバ301を搬送する気体流の速度とナノファイバ301の速度とを徐々に減速させるフード状の部材である。本実施の形態の場合、拡散体127は、案内体102の高さをそのまま維持し、幅のみ徐々に広がるフード形状となっている。
【0069】
収集装置103は、案内体102から放出されるナノファイバ301を収集するための装置である。本実施の形態の場合、収集装置103は、被堆積部材128と、巻回装置129と、部材供給装置130とを備えている。
【0070】
被堆積部材128は、静電延伸現象により製造され気体流により搬送されるナノファイバ301と気体流とを分離し、ナノファイバ301のみが堆積する部材である。本実施の形態の場合、被堆積部材128は、堆積したナノファイバ301と容易に分離可能な材質で構成された薄く柔軟性のある長尺のシート状の部材であり、気体流を容易に透過でき、ナノファイバ301を捕集しうる網状の部材である。具体的に被堆積部材128としては、アラミド繊維からなる長尺の布を例示することができる。さらに、被堆積部材128の表面にテフロン(登録商標)コートを行うと、堆積したナノファイバ301を被堆積部材128から剥ぎ取る際の剥離性が向上するため好ましい。また、被堆積部材128は、ロール状に巻き付けられた状態で部材供給装置130から供給されるものとなっている。
【0071】
巻回装置129は、被堆積部材128を移送することができる装置である。本実施の形態の場合、長尺の被堆積部材128を巻き取りながら部材供給装置130から引き出し、堆積するナノファイバ301と共に被堆積部材128を搬送するものとなっている。巻回装置129は、不織布状に堆積しているナノファイバ301を被堆積部材128とともに巻き取ることができるものとなっている。
【0072】
誘引装置104は、図1に示すように、ナノファイバ301を被堆積部材128に誘引するための装置である。本実施の形態の場合、誘引装置104は、異なる誘引方式を同時、または、選択的に実施できるように、気体誘引装置143と、電界誘引装置133とを備えている。
【0073】
気体誘引装置143は、気体流を吸引することによりナノファイバ301を被堆積部材128に誘引する装置であり、被堆積部材128の後方に配置されている。本実施の形態の場合、気体誘引装置143は吸引装置132と集中体131とを備えている。
【0074】
集中体131は、拡散体127で広がった気体流を受け取り、吸引装置132に至るまでの間に気体流を集中させる部材であり、拡散体127とは逆向きの漏斗形状となっている。
【0075】
吸引装置132は、被堆積部材128を通過する気体流を強制的に吸引する送風機である。吸引装置132は、シロッコファンや軸流ファンなどの送風機であって、被堆積部材128を通過して速度が落ちた気体流を高い速度に加速することのできる装置である。
【0076】
電界誘引装置133は、帯電しているナノファイバ301を電界により被堆積部材128に誘引する装置であり、誘引電極134と、誘引電源135とを備えている。
【0077】
誘引電極134は、帯電したナノファイバ301を誘引するための電界を発生させるための電極である。本実施の形態の場合、誘引電極134には気体流を通過させることのできる金属製の網が採用されている。誘引電極134は、拡散体127の開口部全体に広がって設けられている。
【0078】
誘引電源135は、誘引電極134を所定の電圧及び極性に維持することができる直流電源である。本実施の形態の場合、誘引電源135は、0V(接地状態)から200KV以下の範囲で自由に電圧と極性を変更することができる直流電源である。
【0079】
なお、誘引電極134は、実施の形態において金属製の網が採用されているが、それに限定するものではなく、被堆積部材128の幅位の長さの所定の幅を有する誘引電極でもよい。吸引装置132により吸引することで、ナノファイバは、誘引電極に誘引されると共に、気体流によって、被堆積部材128に吸引される。そのようにすることで、引火性の高い溶剤を使用する場合においても、高密度の溶剤を使用しても、爆発する溶剤の濃度まで達することはなく、安心して装置の使用ができるようになる。
【0080】
なお、帯電電源122が交流電源の場合は、誘引電源135を交流電源としても良い。
【0081】
回収装置105は、原料液300から蒸発した溶剤を気体流から分離して回収することのできる装置である。回収装置105に関しては、原料液300に用いられる溶剤の種類によって異なるが、例えば、気体を低温にして溶剤を結露させて回収する装置や、活性炭やゼオライトを用いて溶剤のみを吸着させる装置、液体などに溶剤を溶け込ませる装置やこれらを組み合わせた装置を例示できる。
【0082】
ここで、ナノファイバ301を構成する高分子物質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等およびこれらの共重合体を例示できる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記高分子物質に限定されるものではない。
【0083】
原料液300に使用される溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記溶剤に限定されるものではない。
【0084】
さらに、原料液300に骨材や可塑剤などの添加剤を添加してもよい。当該添加剤としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができるが、耐熱性、加工性などの観点から酸化物を用いることが好ましい。当該酸化物としては、Al23、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B23、P25、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb23、As23、CeO2、V25、Cr23、MnO、Fe23、CoO、NiO、Y23、Lu23、Yb23、HfO2、Nb25等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記添加剤に限定されるものではない。
【0085】
溶剤と高分子物質との混合比率は、溶剤と高分子物質により異なるが、溶剤量は、約60重量%から98重量%の間が望ましい。
【0086】
上記のように、溶剤蒸気が気体流により滞留することなく処理されるため、原料液300は、上記のように溶剤を50重量%以上含んでいても十分に蒸発し、静電延伸現象を発生させることが可能となる。従って、溶質である高分子が薄い状態からナノファイバ301が製造されるため、より細いナノファイバ301をも製造することが可能となる。また、原料液300の調整可能範囲が広がるため、製造されるナノファイバ301の性能の範囲も広くすることが可能となる。
【0087】
次に、上記構成のナノファイバ製造装置100を用いたナノファイバ301の製造方法を説明する。
【0088】
まず、第二気体流発生装置113、及び、吸引装置132を稼働させ、風洞体112や、案内体102、拡散体127、集中体131の内方に一定方向の気体流を発生させる(気体流発生工程)。以上の状態で、案内体102内の風量が毎分30立米となるようナノファイバ製造装置100を調整した。
【0089】
次に、供給装置141により供給部142から流出体110の内方に原料液300を供給する(原料液供給工程)。原料液300は、供給源144から供給路114を通過して供給部142の端部から流出体110の内方に供給される。具体的には、ナノファイバ301の材質はポリウレタンを選定し、溶剤(溶媒とも呼ばれている。)は、N,N−ジメチルアセトアミドを選定した。混合比率はポリウレタンを25重量%、N,N−ジメチルアセトアミドを75重量%とした。
【0090】
次に、帯電電源122により帯電電極121を正または負の高電圧とする。帯電電極121に最も近い距離に配置される流出体110の突出部151には特に電荷が集中し、当該電荷が流出体110の流路部153に沿って空間中に流出する原料液300に転移し、原料液300が帯電する(帯電工程)。
【0091】
前記帯電工程と同時期に気体流発生装置106により噴射部163から気体流を噴射する。当該気体流により供給部142から流出した原料液300が流出体110の流路部153を先端に向かって流れ空間中に流出する(供給工程、流出工程)。
【0092】
具体的には、先端の外径がΦ60mmの流出体110を用いた。流出体110は、周方向等間隔に24個の流路部153が設けられており、流路部153の深さは0.5mmであった。また、突出部151は、流出体110の表面から1.5mm突出させた。一方、帯電電極121は内径Φ600mmのものを用い、帯電電源122により帯電電極121を接地電位に対して負の60KVとした。これにより、流出体110の突出部151には正の電荷が誘導され、正に帯電した原料液300が流出することとなる。
【0093】
以上により、原料液300は、流出体110の表面に滞留することなく突出部151に沿って空間中に流出した。
【0094】
流出体110の先端から流出された原料液300は、気体流により搬送され(搬送工程)、気体流に乗り案内体102に案内される。
【0095】
ここで、原料液300の帯電状態と帯電電極121とは逆極性であるため、クーロン力により引きつけられて帯電電極121の方向に向いて飛行しようとするが、帯電電極121に向かうほとんどの原料液300が気体流により方向が変えられ、案内体に向かって飛行することとなる。
【0096】
原料液300は、静電延伸現象によりナノファイバ301を製造しつつ(ナノファイバ製造工程)放出装置101から放出される。ここで、原料液300は、強い帯電状態(高い電荷密度)で流出しているため、静電延伸が容易に発生し、流出した原料液300のほとんどがナノファイバ301に変化していく。また、原料液300は、強い帯電状態(高い電荷密度)で流出し、流路部153によって細い状態で流出しているため、静電延伸が何次にもわたって発生し、線径の細いナノファイバ301が大量に製造される。
【0097】
また、前記気体流は、加熱装置125により加熱されており、原料液300の飛行を案内しつつ、原料液300に熱を与えて溶剤の蒸発を促進し静電延伸を促進している。
【0098】
以上のようにして放出装置101から放出されるナノファイバ301は、案内体102に導入される。そして、ナノファイバ301は、案内体102の内方を気体流に搬送されながら収集装置103に向かって案内される(案内工程)。
【0099】
拡散体127にまで搬送されたナノファイバ301は、ここで急速に速度が低下すると共に、均一な分散状態となる(拡散工程)。
【0100】
この状態において、被堆積部材128の背方に配置される吸引装置132は、蒸発した蒸発成分である溶剤と共に気体流を吸引し、ナノファイバ301を被堆積部材128上に誘引する(誘引工程)。また、電圧が印加された誘引電極134により電界が発生し、当該電界によってもナノファイバ301が誘引される(誘引工程)。
【0101】
以上により、被堆積部材128により気体流から分けられてナノファイバ301が収集される(収集工程)。被堆積部材128は、巻回装置129によりゆっくり移送されているため、ナノファイバ301も移送方向に延びた長尺の帯状部材として回収される。
【0102】
被堆積部材128を通過した気体流は、吸引装置132により加速され、回収装置105に到達する。回収装置105では、気体流から溶剤成分を分離回収する(回収工程)。
【0103】
以上のような構成のナノファイバ製造装置100を用い、以上のナノファイバ製造方法を実施することによって、原料液300が安定的に空間中に流出し、品質の高いナノファイバ301を安定した状態で長期間製造し続けることができる。また、流出体110に樹脂が付着した場合でも、流路部153の開口から容易に樹脂などを除去することができる。
【0104】
次に、本願発明の他の実施の形態を説明する。
【0105】
図7は、他の実施の形態を模式的に示す斜視図である。
【0106】
同図に示すナノファイバ製造装置100は、帯電電極121の機能と誘引電極134との機能を一体化し、帯電装置111と電界誘引装置133とを一体化したものである。この場合、流出体110と帯電電極121との間に高電圧を印加すると流出体110から流出する原料液300を流出体110側の極性で帯電させることができる。そして、静電延伸現象によりナノファイバ301が製造され、ナノファイバ301は、流出体110とは逆極性の誘引電極134(帯電電極121)に誘引される。誘引されたナノファイバ301は誘引電極134と流出体110との間に配置される被堆積部材128の上に堆積して収集される。
【0107】
図8は、流出体を側方から示す断面図である。
【0108】
これらの図に示すように、流出体110は、円筒の軸と平行な面であって軸から離れた面で円筒を切断した形状であり、流出体110の内面に沿って流れる原料液300は、噴射部163から噴射された気体流に対し交差するように配置される流出体110のエッジから流出するものとなっている。これにより、流出体110に沿って流れる原料液300が流出体110から薄い(細い)状態で空間中に流出させることができ、製造されるナノファイバ301の品質を向上させることが可能となる。
【0109】
また、本実施の形態に係る流出体110の形状のように、原料液300が流出する部分が略平面形状とすれば、直線状の長い範囲で原料液300を流出させることができるため、広い範囲でナノファイバ301を製造することが可能となる。
【0110】
なお、本実施の形態においても、帯電電極121を流出体110の近傍に配置してもかまわない。また、帯電電極121とは別体の誘引電極134を配置したり、第二気体流発生装置113により発生した気体流によりナノファイバ301を搬送してもかまわない。
【0111】
また、図9に示すように、流出体110を回転体形状とし、モータ170等によって回転させてもかまわない。この場合、製造されるナノファイバ301の周方向の均一性を確保可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本願発明は、ナノファイバの製造やナノファイバを用いた紡糸、不織布の製造に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】ナノファイバ製造装置の実施の形態を一部切り欠いて示す平面図である。
【図2】放出装置の一部を切り欠いて示す平面図である。
【図3】放出装置の外観を示す斜視図である。
【図4】流出体を示す斜視図である。
【図5】流出体、供給部、噴射部を示す断面図である。
【図6】案内体近傍を示す斜視図である。
【図7】他の実施の形態を模式的に示す斜視図である。
【図8】流出体を側方から示す断面図である。
【図9】他の流出体を側方から示す断面図である。
【符号の説明】
【0114】
100 ナノファイバ製造装置
101 放出装置
102 案内体
103 収集装置
104 誘引装置
105 回収装置
106 気体流発生装置
110 流出体
111 帯電装置
112 風洞体
113 第二気体流発生装置
114 供給路
116 回転軸体
117 駆動装置
121 帯電電極
122 帯電電源
123 接地装置
125 加熱装置
127 拡散体
128 被堆積部材
129 巻回装置
130 部材供給装置
131 集中体
132 吸引装置
133 電界誘引装置
134 誘引電極
135 誘引電源
141 供給装置
142 供給部
143 気体誘引装置
144 供給源
151 突出部
152 先端部
153 流路部
161 コンプレッサ
162 チューブ
163 噴射部
170 モータ
300 原料液
301 ナノファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液を空間中で延伸させ、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、
原料液が空間に流出する先端まで、原料液を案内する流路と前記流路に沿った開口とを形成する流路部を有する流出体と、
前記流出体に原料液を供給する供給装置と、
供給された原料液を前記先端まで流す気体流を発生させる気体流発生装置と、
原料液を帯電させる帯電装置と、
を備えるナノファイバ製造装置。
【請求項2】
前記流路部は前記流出体に設けられる溝である請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項3】
前記流出体は、先端に尖った突出部を備える
請求項1または請求項2に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項4】
前記流出体の先端は、円筒形状であり、
前記流路部は、前記円筒形状の内面に有り、
前記開口は、前記円筒形状の内方に向いて開口し、
前記帯電装置は、前記流出体の先端を囲む環状の帯電電極を備える
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項5】
さらに、
前記流出体は、先端に向かって徐々に縮径する
請求項4に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項6】
さらに、
前記円筒形状の軸の周りで前記流出体を回転させる駆動装置
を備える請求項4または請求項5に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項7】
前記流出体の先端は、平面形状である
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項8】
さらに、製造されたナノファイバを搬送する気体流を発生させる第二気体流発生装置を備える請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項9】
さらに、
ナノファイバを収集する収集装置と、
前記収集装置にナノファイバを誘引する誘引装置と
を備える請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項10】
原料液を空間中で延伸させ、ナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、
供給装置から原料液を流出体に供給し、
前記流出体に設けられる流路部であって原料液が空間に流出する先端まで、原料液を案内する流路と前記流路に沿った開口を形成する流路部に気体流発生装置により発生する気体流により原料液を流し、
前記先端から原料液を空間中に流出させ、
前記原料液に電荷を付与して帯電させ、
空間中で原料液を延伸させナノファイバを製造する
ナノファイバ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−189782(P2010−189782A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33158(P2009−33158)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】