説明

ナノファイバ製造装置、及び、ナノファイバ製造方法

【課題】空間を飛行中の原料液に含まれる溶質の固化スピードを調整する。
【解決手段】溶質と、前記溶質を溶解、または、分散させる溶媒とを有する原料液300を空間中で電気的に延伸させてナノファイバ301を製造するナノファイバ製造装置100であって、原料液300を空間に流出させる流出体115と、流出体115と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極128と、流出体115と帯電電極128との間に所定の電圧を印加する帯電電源122と、流出体115から原料液300が流出しナノファイバ301が製造される空間を製造空間Aとした場合において、前記溶質を固化させる固化剤302の製造空間Aにおける濃度を調整する濃度調整手段101とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、静電延伸現象によりサブミクロンオーダーの細さである繊維(ナノファイバ)を製造するナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂などから成り、サブミクロンスケールの直径を有する糸状(繊維状)物質を製造する方法として、静電延伸現象(エレクトロスピニング)を用いた方法が知られている。
【0003】
この静電延伸現象とは、溶媒中に樹脂などの溶質を分散または溶解させた原料液を空間中にノズルなどにより流出(噴射)させるとともに、原料液に電荷を付与して帯電させ、空間を飛行中の原料液を電気的に延伸させることにより、ナノファイバを得る方法である。
【0004】
より具体的に静電延伸現象を説明すると次のようになる。すなわち、帯電され空間中に流出された原料液は、空間を飛行中に徐々に溶媒が蒸発していく。これにより、飛行中の原料液の体積は、徐々に減少していくが、原料液に付与された電荷は、原料液に留まる。この結果として、空間を飛行中の原料液は、電荷密度が徐々に上昇することとなる。そして、溶媒は、継続して蒸発し続けるため、原料液の電荷密度がさらに高まり、原料液の中に発生する反発方向のクーロン力が原料液の表面張力より勝った時点で原料液が爆発的に線状に延伸される現象が生じる。これが静電延伸現象である。この静電延伸現象が、空間において次々と幾何級数的に発生することで、直径がサブミクロンオーダーの樹脂から成るナノファイバが製造される。
【0005】
以上のような静電延伸現象を用いてナノファイバを製造する場合、特許文献1に記載の装置のように、原料液を空間中に流出させるノズルと、前記ノズルと離れて配置され前記ノズルとの間に高電圧が印加される電極とを備える装置が用いられる。そして、原料液の帯電量は、前記ノズルと前記電極との距離、および、印加される電圧に依存し、距離が短いほど、電圧が高いほど帯電量は増加すると考えられる。一方、原料液を構成する溶媒の蒸発量は、前記ノズルと前記電極との距離に依存し、前記ノズルと前記電極との距離が長いほど、多くの溶媒が蒸発して静電延伸現象の発生を促進させることができると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−201559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、本願発明者らがナノファイバの製造に関し、実験と研究とを繰り返した結果、同一の原料液を用い、ノズルと電極との距離、および、印加される電圧を一定にした場合でも、原料液が流出して静電延伸現象が発生しナノファイバが製造される空間に、原料液を構成する溶媒とは異なる物質が存在することにより、収集されるナノファイバの質が異なることを見出すに至った。
【0008】
本願発明は、上記知見に基づきなされたものであり、ノズルなどの原料液を流出させる流出体と当該流出体との間で高電圧が印加される電極との距離等に依存することなく、製造されるナノファイバの質を調整することのできるナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本願発明にかかるナノファイバ製造装置は、ナノファイバを製造するための溶質と、前記溶質を溶解、または、分散させる溶媒とを有する原料液を空間中で電気的に延伸させてナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、原料液を空間に流出させる流出孔を有する流出体と、前記流出体と所定の間隔を隔てて配置され、導電性を有する帯電電極と、前記流出体と前記帯電電極との間に所定の電圧を印加する帯電電源と、前記流出体から原料液が流出しナノファイバが製造される空間を製造空間とした場合において、前記溶質を固化させる固化剤の製造空間における濃度を調整する濃度調整手段とを備えることを特徴としている。
【0010】
これによれば、流出体と帯電電極との距離や配置が一定の場合であっても、空間中における固化剤の濃度を調整することで、製造されるナノファイバの品質を調整することが可能となる。
【0011】
前記固化剤は、溶質に対して溶媒よりも溶解度の小さい貧溶媒であってもよい。
【0012】
固化剤が貧溶媒であれば、例えば、空間中における貧溶媒の濃度を高めることで、空間を飛行中の溶媒に貧溶媒が溶け込む量を増加させることができる。これにより、溶媒の溶解度が相対的に低下して溶質の固化が促進され、場合によっては、溶媒が残存している状態でほとんどの溶質が固化することもありえる。逆に、空間中における貧溶媒の濃度を低めることで、溶質の固化を抑制し、溶質による流出孔の目詰まりを抑止したり、静電延伸現象が充分に発生するまで、溶質の固化を抑制して製造されるナノファイバの径を細くすることも可能となる。
【0013】
上記目的を達成するために、本願発明にかかるナノファイバ製造方法は、ナノファイバを製造するための溶質と、溶質を溶解、または、分散させる溶媒とを有する原料液を空間中で電気的に延伸させてナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、原料液を空間に流出させる流出孔を有する流出体から原料液を流出させ、前記流出体と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極と前記流出体との間に帯電電源により所定の電圧を印加すると共に、前記流出体から原料液が流出しナノファイバが製造される空間を製造空間とした場合において、溶質を固化させる固化剤の製造空間における濃度を濃度調整手段により調整することを特徴とする。
【0014】
これによれば、流出体と帯電電極との距離や配置が一定の場合であっても、空間中における固化剤の濃度を調整することで、製造されるナノファイバの品質を調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本願発明によれば、流出体と帯電電極との間の距離を一定に維持し、印加する電圧を一定に維持する場合でも、製造されるナノファイバの品質を調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ナノファイバ製造装置を示す斜視図である。
【図2】ナノファイバ製造装置の要部を一部切り欠いて示す側面図である。
【図3】流出体を切り欠いて示す斜視図である。
【図4】他の実施形態に係るナノファイバ製造装置の要部を一部切り欠いて示す側面図である。
【図5】流出体の別例を示す斜視図である。
【図6】(a)は、流出体の別例を示す斜視図である、(b)は、流出体の別例を一部切り欠いて示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本願発明に係るナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法を、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、ナノファイバ製造装置を示す斜視図である。
【0019】
図2は、ナノファイバ製造装置の要部を一部切り欠いて示す側面図である。
【0020】
これらの図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、ナノファイバ301を製造するための溶質と、前記溶質を溶解、または、分散させる溶媒とを有する原料液300を空間中で電気的に延伸させてナノファイバ301を製造する装置であって、流出体115と、帯電電極128と、帯電電源122と、濃度調整手段101とを備えている。さらに、ナノファイバ製造装置100は、検出手段103と、制御手段104とを備えている。また、ナノファイバ製造装置100は、ナノファイバ301を堆積させる被堆積部材200と、堆積したナノファイバ301を被堆積部材ごと回収する回収手段129とを備えている。
【0021】
なお、本明細書や図面において、原料液300とナノファイバ301とを便宜上区別して記載しているが、ナノファイバ301の製造過程、つまり、静電延伸現象が発生している段階においては原料液300からナノファイバ301が徐々に製造されるものであるため、必ずしも原料液300とナノファイバ301の境界が明確ではない。
【0022】
図3は、流出体を切り欠いて示す斜視図である。
【0023】
流出体115は、原料液300の圧力(重力も含む場合がある)により原料液300を空間中に流出させるための部材であり、流出孔118と貯留槽113とを備えている。流出体115は、流出する原料液300に電荷を供給する電極としても機能しており、原料液300と接触する部分の少なくとも一部は導電性を備えた部材で形成されている。本実施の形態の場合、流出体115全体が金属で形成されている。なお、金属の種類は導電性を備えていれば、特に限定されるものではなく、黄銅やステンレス鋼など任意の材料を選定しうる。
【0024】
流出孔118は、原料液300を一定の方向に流出させるための孔である。本実施の形態の場合、流出孔118は、流出体115に複数個設けられており、流出体115が備える細長い短冊状の面に、流出孔118の先端にある先端開口部119が並んで配置されるように設けられている。そして、流出孔118から流出する原料液300の流出方向が流出体115に対して同じ方向となるように流出孔118は流出体115に設けられている。
【0025】
なお、流出孔118の孔長や孔径は、特に限定されるものではなく、原料液300の粘度などにより適した形状を選定すれば良い。具体的には、孔長は、1mm以上、5mm以下の範囲から選定されるのが好ましい。孔径は、0.1mm以上、2mm以下の範囲から選定されるのが好ましい。また、流出孔118の形状は、円筒形状に限定されるわけではなく、任意の形状を選定しうる。特に先端開口部119の形状は、円形に限定されるわけではなく、三角形や四角形などの多角形、星形など内側に突出する部分のある形状などでもかまわない。また、流出体115は、帯電電極128に対し移動してもかまわない。
【0026】
また、本実施の形態の場合、図1に示すように、ナノファイバ製造装置100は、供給手段107を備えている。供給手段107は、流出体115に原料液300を供給する装置であり、原料液300を大量に貯留する容器151と、原料液300を所定の圧力で搬送するポンプ(図示せず)と、原料液300を案内する案内管114とを備えている。
【0027】
帯電電極128は、流出体115と所定の間隔を隔てて配置され、流出体115との間で高電圧が印加される部材である。本実施の形態の場合、帯電電極128は、図1に示すように、静電延伸現象により製造されるナノファイバ301を帯電電極128側に誘引する機能も併有している。具体的に帯電電極128は、流出体115に向かって(z軸方向)緩やかに突出するように湾曲した面を一面に持つブロック状の導体からなる部材である。また、本実施の形態の場合、帯電電極128は、接地されている。帯電電極128を湾曲させることにより、帯電電極128に載置される被堆積部材200(後述)もナノファイバ301が堆積する部分が突出するように湾曲させることができる。これにより、被堆積部材200に堆積された後のナノファイバ301が収縮することによって被堆積部材200が反ってしまうことを防止することが可能となる。
【0028】
帯電電源122は、流出体115と帯電電極128との間に高電圧を印加することのできる電源である。本実施の形態の場合、帯電電源122は、直流電源であり、印加する電圧は、5KV以上、50KV以下の範囲の値から設定されるのが好適である。
【0029】
本実施の形態のように、帯電電源122の一方の電極を接地電位とし、帯電電極128を接地するものとすれば、比較的大型の帯電電極128を接地状態とすることができ、安全性の向上に寄与することが可能となる。
【0030】
なお、帯電電極128に電源を接続して帯電電極128を高電圧に維持し、流出体115を接地することで原料液300に電荷を付与してもよい。また、帯電電極128と流出体115とのいずれも接地しないような接続状態であってもかまわない。
【0031】
濃度調整手段101は、ナノファイバ301を構成する材料となる溶質を固化させる固化剤302(図2参照)の製造空間Aにおける濃度を調整する装置である。本実施の形態の場合、濃度調整手段101は、製造空間Aに固化剤302を注入する注入手段であり、具体的には、固化剤302を噴霧して製造空間に注入する装置である。
【0032】
なお、注入手段としての濃度調整手段101は、特に限定されるものではなく例えば、固化剤302が液体の場合、固化剤302を加熱して噴霧する装置であってもよく、固化剤302を超音波振動で霧状にして噴霧する装置であってもよい。また、固化剤302が気体の場合、注入手段としての濃度調整手段101は、所定圧力の固化剤302をノズルなどから吐出する装置であってもよい。また、固化剤302が粉末状の固体の場合、注入手段としての濃度調整手段101は、2流体ノズルなどにより、気体と共に固化剤302を拡散状態で吐出する装置であってもよい。
【0033】
ここで、製造空間Aとは、流出体115から原料液300が流出し、ナノファイバ301が製造される空間である。本実施の形態の場合、製造空間Aは、図1に示すように、流出体115から被堆積部材200の間にある空間であって、原料液300が流出するばかりでなく、静電延伸現象により、原料液300からナノファイバ301が製造される空間とその周囲の空間も含まれている。
【0034】
また、原料液300とは、ナノファイバ301の基材となる樹脂などの溶質を溶媒中に分散または溶解させた液体であり、製造目的であるナノファイバ301の材質や要求されるナノファイバ301の性質等により適宜調整されるものである。
【0035】
ここで、ナノファイバ301を構成する樹脂であって、原料液300に溶解、または、分散する溶質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等およびこれらの共重合体等の高分子物質を例示できる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記樹脂に限定されるものではない。
【0036】
原料液300に使用される溶媒としては、揮発性のある有機溶剤などを例示することができる。具体的に例示すると、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を挙示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明に用いられる原料液300は上記溶媒を採用することに限定されるものではない。
【0037】
さらに、原料液300に無機質固体材料を添加してもよい。当該無機質固体材料としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができるが、製造されるナノファイバ301の耐熱性、加工性などの観点から酸化物を用いることが好ましい。当該酸化物としては、Al、SiO、TiO、LiO、NaO、MgO、CaO、SrO、BaO、B、P、SnO、ZrO、KO、CsO、ZnO、Sb、As、CeO、V、Cr、MnO、Fe、CoO、NiO、Y、Lu、Yb、HfO、Nb等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明の原料液300に添加される物質は、上記添加剤に限定されるものではない。
【0038】
原料液300における溶媒と溶質との混合比率は、選定される溶媒の種類と溶質の種類とにより異なるが、溶媒量は、約60重量%から98重量%の間が望ましい。好適には溶質が5〜30%となる。
【0039】
固化剤302とは、ナノファイバ301の基材となる樹脂などの溶質を固化させる物質である。
【0040】
固化剤302は、原料液300を構成する溶媒とは異なる物質であればよく、気体や液体の他、粉末状の固体でもかまわない。
【0041】
溶媒がDMF(N,N-ジメチルホルムアミド:N,N-Dimethylformamide)やDMAc(N,N-ジメチルアセトアミド:N,N-Dimethylacetamide)、溶質がポリウレタンである場合、固化剤302の典型的な例としては、水を挙示することができる。DMFやDMAcはポリウレタンに対しては良溶媒であり、水は貧溶媒となる。
【0042】
貧溶媒である水が固化剤302として機能するのは次の様な現象が生じるためであると考えられる。つまり、製造空間A中に水を噴霧することにより製造空間Aを飛行中のDMFに水が溶解する。つまり、良溶媒に貧溶媒が溶解することで、良溶媒の溶質に対する溶解度が低下する。従って、良溶媒が蒸発したり、さらに、貧溶媒が良溶媒に溶解することで、溶質が固化し易くなる。つまり、貧溶媒が固化剤302として機能することになり、溶質の固化すなわちナノファイバ301が製造されやすくなる。
【0043】
なお、固化剤302は、上述したように溶質や溶媒との関係において設定される相対的な物質であり、良溶媒に対する貧溶媒に限定されるものではない。例えば、2液タイプの接着剤のように、溶媒の中に第一液である溶質を溶解させておき、第二液を濃度調整手段101により製造空間Aに注入する場合、第二液が固化剤302となる。また、溶質が酸素などの気体との接触によって固化する場合、濃度調整手段101により注入される酸素などの気体が固化剤302となる。
【0044】
検出手段103は、流出体115から原料液300が流出する空間である製造空間Aにおける固化剤302の濃度を検出する装置である。
【0045】
制御手段104は、検出手段103により検出された固化剤302の濃度に基づき、製造空間Aにおける固化剤302の濃度が一定範囲に収まるように濃度調整手段101を制御する装置であり、いわゆるコンピュータである。
【0046】
被堆積部材200は、製造空間Aで製造されるナノファイバ301を表面に堆積させて収集する部材である。本実施の形態の場合、被堆積部材200は、シート状の部材であって、供給ロール127に巻き付けられた状態で供給される。また、被堆積部材200は、回収手段129に巻き取られることによって、図1中に矢印で示される方向に移動可能となっている。また、被堆積部材200は、帯電電極128の湾曲に沿って配置され、また、移動できるように、帯電電極128の両端縁近傍に配置される回転可能に取り付けられる棒状の押さえ部材125で上方から押さえつけられている。
【0047】
次に、上記構成のナノファイバ製造装置100を用いたナノファイバ301の製造方法を説明する。
【0048】
まず、供給手段107により流出体115に原料液300を供給する(供給工程)。以上により、流出体115の貯留槽113に原料液300が満たされる。
【0049】
次に、帯電電源122により流出体115を正または負の高電圧とする。接地されている帯電電極128と対向する流出体115の先端部に電荷が集中し、当該電荷が流出孔118を通過して空間中に流出する原料液300に転移し、原料液300が帯電する(帯電工程)。
【0050】
前記帯電工程と供給工程とは同時期に実施され、流出体115の先端開口部119から帯電した原料液300が流出する(流出工程)。
【0051】
前記原料液300の流出と共に、固化剤302の製造空間Aにおける濃度を濃度調整手段101により調整する。具体的には、濃度調整手段101から固化剤302を製造空間Aに噴霧し、検出手段103により製造空間Aにおける固化剤302の濃度を検出する。そして、制御手段104により、製造空間Aにおける固化剤302の濃度が所望の濃度となるように、濃度調整手段101の固化剤302の噴霧量を調整する(固化剤濃度調整工程)。
【0052】
ここで、製造空間Aにおける固化剤302の所望の濃度とは、例えば、溶質が所望の固化スピードで固化するような濃度であるとか、製造空間Aをナノファイバが飛翔し、被堆積部材200に到達するまでの時間内に溶質が固化するような濃度である。
【0053】
次にある程度空間中を飛行した原料液300に静電延伸現象が作用することによりナノファイバ301が製造される(ナノファイバ製造工程)。
【0054】
ここで、原料液300に含まれる溶質は、製造空間A中に存在する固化剤302により固化が促進されつつ、静電延伸現象により延伸する。これにより、各流出孔118から飛行する原料液300は、溶媒が充分に蒸発していない状態でも、ほとんどが良質な(例えば線径の細い)ナノファイバ301に変化していく。
【0055】
この状態において、ナノファイバ301は、流出体115と帯電電極128との間に発生する電界に沿って被堆積部材200に向かって飛行し、被堆積部材200の堆積領域にナノファイバ301が堆積して収集される(堆積工程)。被堆積部材200は、回収手段129によりゆっくり移送されているため、ナノファイバ301も移送方向に延びた長尺の帯状部材として堆積する。
【0056】
以上のような構成のナノファイバ製造装置100を用いることによって、コンパクトなナノファイバ製造装置100でありながら、溶質の固化を促進して良質のナノファイバ301を得ることができる。従って、蒸発しきれない溶媒が堆積したナノファイバ301に付着し、その後に蒸発することにより付着した溶媒に溶解していた樹脂が塊状となるパーティクルの発生を抑止することができる。また、製造空間Aにおける固化剤302の濃度を調整することができるため、溶質の固化スピードを調整し、流出体115の流出孔118が固化した溶質で目詰まりすることなく、安定した状態で良質なナノファイバ301を製造することが可能となる。
【0057】
(実施の形態2)
次に、本願発明にかかる第二の実施の形態を図面に基づき説明する。実施の形態1において濃度調整手段は、固化剤を製造空間Aに注入する注入手段であったが、実施の形態2では、濃度調整手段は、製造空間Aから固化剤を除去する除去手段である点が実施の形態1とは異なる。
【0058】
図4は、ナノファイバ製造装置の要部を一部切り欠いて示す側面図である。
【0059】
同図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、ナノファイバ301を製造するための溶質と、前記溶質を溶解、または、分散させる溶媒とを有する原料液300を空間中で電気的に延伸させてナノファイバ301を製造する装置であって、流出体115と、帯電電極128と、帯電電源122と、濃度調整手段101とを備えている。さらに、ナノファイバ製造装置100は、製造空間Aを閉鎖するための隔壁105を備えている。また、ナノファイバ製造装置100は、ナノファイバ301を堆積させる被堆積部材200と、堆積したナノファイバ301を被堆積部材ごと回収する回収手段129(図4には図示せず)とを備えている。
【0060】
なお、本実施の形態において前記実施の形態1で説明した部材や装置などと同じ機能を果たすものについては、同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0061】
隔壁105は、流出体115と、帯電電極128と、被堆積部材200などと共に製造空間Aを閉鎖するための板状の部材である。ナノファイバ製造装置100は、隔壁105を前後左右上下空間に箱状に配置することで製造空間Aを閉鎖している。隔壁105は、製造空間Aを囲うことで、製造空間Aを有する内空間と、それ以外の外空間とを隔絶し、内空間と外空間との間の気体(本実施の形態の場合、空気)の流通を遮断している。
【0062】
濃度調整手段101は、ナノファイバ301を構成する材料となる溶質を固化させる固化剤302の製造空間Aにおける濃度を調整する装置である。本実施の形態の場合、濃度調整手段101は、製造空間Aから固化剤302を除去する除去手段である。具体的に除去手段としての濃度調整手段101は、製造空間Aの雰囲気を吸入し、吸入した雰囲気から固化剤302を除去し、固化剤302が除去された雰囲気を再び製造空間Aに注入することで製造空間Aの固化剤302の濃度を調整する装置である。固化剤302が水であり、製造空間Aの雰囲気が空気である場合、除去手段としての濃度調整手段101は、熱伝導生の良い部材を冷却することにより、空気中の水分を前記部材表面で結露させることで空気から固化剤302である水を除去する装置を濃度調整手段101として例示することができる。
【0063】
以上の装置によれば、製造空間Aから固化剤302が除去されるため、溶質が固化するタイミングを遅らせることが可能となる。これによれば、例えば、溶質が固化剤302によって早期に固化し、流出体115の流出孔118が目詰まりを起こす現象を抑止することが可能となる。
【0064】
なお、上記実施の形態では固化剤302を水として説明したが、酸素や窒素など溶質の固化に影響を与える物質は固化剤302であり、濃度調整手段101は、酸素や窒素などを除去する装置であればよい。
【0065】
なお、本願発明は、上記実施の形態に限定されるわけではない。例えば、上記実施の形態1と実施の形態2を組合せ、製造空間Aから固化剤302を除去すると共に固化剤302(除去する固化剤302と異なるものでも同質のものでもかまわない)を製造空間Aに注入し、製造空間Aにおける固化剤302の濃度を一定に保つものでもかまわない。
【0066】
流出体115の流出孔118は単数でもかまわない。また、先端部116の形状も上記に限定される必要は無く、二つの側面部が突き合わされた、切り立った形状でもかまわない。また、流出体115は、図5に示すように、ノズルを複数個配置したものでもよい。さらに、図6に示すように、流出体115が円筒形状となっていて、周壁に流出孔118が設けられており、モータ303の回転駆動力により流出体115が回転することによる遠心力で原料液300を空間中に流出させるものでもかまわない。
【0067】
また、製造空間Aは、流出体115と帯電電極128に挟まれる空間に限定されるものではなく、原料液300が飛翔し静電延伸現象によりナノファイバ301が製造される空間であれば、原料液300の飛翔経路が気体流により制御され、帯電電極128からは遠ざかる原料液300の飛翔経路を有する空間でも製造空間Aとなり得る。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本願発明は、ナノファイバを用いた紡績や、不織布の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
100 ナノファイバ製造装置
101 濃度調整手段
103 検出手段
104 制御手段
105 隔壁
107 供給手段
113 貯留槽
114 案内管
115 流出体
116 先端部
118 流出孔
119 先端開口部
122 帯電電源
125 部材
127 供給ロール
128 帯電電極
129 回収手段
151 容器
200 被堆積部材
300 原料液
301 ナノファイバ
302 固化剤
303 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノファイバを製造するための溶質と、前記溶質を溶解、または、分散させる溶媒とを有する原料液を空間中で電気的に延伸させてナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、
原料液を空間に流出させる流出孔を有する流出体と、
前記流出体と所定の間隔を隔てて配置され、導電性を有する帯電電極と、
前記流出体と前記帯電電極との間に所定の電圧を印加する帯電電源と、
前記流出体から原料液が流出しナノファイバが製造される空間を製造空間とした場合において、溶質を固化させる固化剤の製造空間における濃度を調整する濃度調整手段と
を備えるナノファイバ製造装置。
【請求項2】
前記固化剤は、溶質に対して溶媒よりも溶解度の小さい貧溶媒である
請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項3】
前記濃度調整手段は、前記製造空間に固化剤を注入する注入手段である
請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項4】
前記濃度調整手段は、前記製造空間から固化剤を除去する除去手段である
請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項5】
さらに、
前記製造空間における固化剤の濃度を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された固化剤の濃度に基づき、前記製造空間における固化剤の濃度が一定範囲に収まるように前記濃度調整手段を制御する制御手段と
を備える請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項6】
前記濃度調整手段は、前記製造空間における固化剤の濃度を調整することにより、溶質の固化スピードを調整する
請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項7】
さらに、
前記製造空間で製造されるナノファイバを堆積させる被堆積部材を備え、
前記濃度調整手段は、製造空間をナノファイバが飛翔し前記被堆積部材まで到達する時間内に溶質が固化するような濃度になるように前記製造空間における固化剤の濃度を調整する
請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項8】
ナノファイバを製造するための溶質と、溶質を溶解、または、分散させる溶媒とを有する原料液を空間中で電気的に延伸させてナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、
原料液を空間に流出させる流出孔を有する流出体から原料液を流出させ、
前記流出体と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極と前記流出体との間に帯電電源により所定の電圧を印加すると共に、
前記流出体から原料液が流出しナノファイバが製造される空間を製造空間とした場合において、前記溶質を固化させる固化剤の製造空間における濃度を濃度調整手段により調整する
ナノファイバ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−111687(P2011−111687A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266781(P2009−266781)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】