説明

ナノメートルサイズの微小温度計及びその製造方法

【課題】マイクロメートルサイズの環境において広い温度範囲の温度計測に使用できる新規なナノメートルサイズの微小温度計及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ガリウムを内含したカーボンナノチューブ2の両端に電極3,4を取り付け、これを被温度測定物に入れ、電極3,4間に電圧を印加して電気抵抗を測定して温度計測を行う。カーボンナノチューブには空隙がないようにガリウムを充填するかガリウムの空隙を設けてもよい。マイクロメートルサイズの環境において、−80℃から500℃までの範囲の温度計測が可能となる。ガリウムの空隙がある場合には、温度上昇と共にガリウムが膨張し、空隙が消滅することを利用しても温度測定を行い得る。メタンガスと窒素ガスとを流しながら、窒化ガリウム粉末を1300℃に加熱することで、ガリウムを内含したカーボンナノチューブ11を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメートルサイズの微小温度計及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、物質の電気抵抗が温度によって変化することを利用して、電気抵抗を測定することにより温度を計測する、ナノメートルサイズの微小温度計及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブが発見されて以来、多くの研究者によってカーボンナノチューブの技術改良やその利用法が見出されている。例えば、電界効果素子、走査プローブ顕微鏡用のプローブの先端、超伝導材料、高感度微量天秤、構造材料、ナノスケール操作用の微小鉗子、ガス検知器及び水素エネルギー貯蔵装置等の部品に広く利用されている。
【0003】
また、種々の充填物をカーボンナノチューブの中に内包(すなわち内含)させる研究も盛んに行われており、内含される物質としては、金属、超伝導体,半導体、磁性体、有機分子半導体、有機色素分子、気体分子などが検討されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0004】
一方、最近では、多くの研究者がマイクロメートルサイズ領域の研究分野に参入してきており、マイクロメートルサイズ環境における温度計測が可能なナノメートルサイズの大きさを持つ温度計に対する要望が強まっている。これまでに知られている微小なサイズの温度計は計測可能な温度範囲が比較的狭く、広範囲の温度を計測する場合には、計測する温度範囲ごとに数種の温度計を準備する必要がある。そこで、単独で広範囲の温度を計測できるナノメートルサイズの微小な温度計の開発が強く望まれていた。
【0005】
このような状況において、比較的広い温度範囲で正確に温度計測を可能にするために、ガリウム柱が内含されているカーボンナノチューブで、ナノメートルサイズの微小な温度計を構成することが提案されている。この温度計の原理は通常用いられている水銀温度計やアルコール温度計と同様に、ガリウムが温度変化により広範囲に直線的に膨張または収縮することを利用するものであり、このガリウム柱の長さの変化を高分解能電子顕微鏡で観察、測定することによって温度を計測している(特許文献2、非特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、このガリウム柱を内含したカーボンナノチューブで構成されたナノメートルサイズの微小温度計は、温度を計測しようとする対象物を高分解能透過型電子顕微鏡の測定領域中に入れなければ、柱状ガリウムの長さを読み取ることができない。そして、その長さを読み取るために温度計を被測定物の中から外部に取り出してしまうと、柱状ガリウムの長さが室温のガリウムの長さに戻ってしまうので、被測定物の高温時における正確な温度を知ることができない。
【0007】
上記問題に対処するため、次のような方法も提案されている。即ち、上記のナノメートルサイズの微小温度計を空気中の被測定物中に入れることにより、ガリウム柱の先端は被測定物中で酸化されて酸化ガリウムになる。この酸化ガリウムは固体であり、かつ、カーボンナノチューブと強固に接着する。このため、微小温度計を被測定物中から取り出し、温度が変化しても酸化ガリウムの先端部の位置は変化しないので、この位置を後から計測することにより被測定物の温度を正確に知ることができる(例えば、特許文献3、非特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平6−227806号公報
【特許文献2】特開2003−227762号公報
【特許文献3】特開2005−24256号公報
【非特許文献1】P.Ajayan、他、Nature,361巻、333 頁、1993年
【非特許文献2】Y.H.Gao 、他、Nature, 415 巻、599 頁、2002年
【非特許文献3】Y.H.Gao 、他、Appl.Phys.Lett.83 巻、2913頁、2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3や非特許文献3に開示されている方法においても、電子顕微鏡による長さの観察や測定が必要であり、装置が大きく高価となり、しかも、簡単に測定することができないという課題がある。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、よく知られている白金抵抗温度計と同様に、物質の電気抵抗が温度によって変化することを利用し、抵抗を測定することによって温度を計測する、新規なナノメートルサイズの微小温度計とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のナノメートルサイズの微小温度計は、ガリウムが内含されたカーボンナノチューブからなる抵抗素子を含み、抵抗素子の温度により変化する抵抗を測定して温度計測を行なうことを特徴とする。
さらに、本発明のナノメートルサイズの微小温度計は、ガリウムが内含されたカーボンナノチューブと、カーボンナノチューブの両端に設けられた電極と、からなる抵抗素子を温度検知素子とすることを特徴とする。
上記構成において、カーボンナノチューブは、好ましくは、その長さが1〜10μm、直径が30〜150nmである。
上記構成によれば、ガリウムが内含されたカーボンナノチューブの抵抗が温度により変化する。この抵抗と温度との関係を予め求めておく。任意の測定環境にガリウムが内含されたカーボンナノチューブを設置して、その抵抗を測定することにより、予め求めておいた抵抗と温度との関係から逆算して、測定環境の温度を求めることができる。
【0012】
上記構成において、カーボンナノチューブには、ガリウムが空隙なく充填されている。このように、カーボンナノチューブ内にガリウムが充填されているので、ガリウムの温度変化による抵抗値から逆算して、測定環境の温度を求めることができる。
【0013】
上記カーボンナノチューブには、部分的にガリウムが充填されていてもよい。この場合には、カーボンナノチューブ内のガリウムの膨張する温度範囲内で変化する抵抗領域と、カーボンナノチューブ内がガリウムの膨張によりガリウムで満たされた温度以上における抵抗領域からなる異なる抵抗変化が得られる。このガリウムの温度変化による抵抗値から逆算して、測定環境の温度を求めることができる。さらに、カーボンナノチューブ内のガリウムのない空隙が、温度上昇に伴うガリウムの膨張により消滅したときには、大きな抵抗変化が生じる。この大きな抵抗変化を利用すれば、カーボンナノチューブ内のガリウム空隙が消滅する温度を検知するスイッチとなる。
【0014】
また、本発明の微小温度計の製造方法は、ガリウムが内含されたカーボンナノチューブの両端に電極を設ける工程を含むことを特徴とする。
上記構成において、好ましくは、メタンガスと窒素ガスとを流しながら、窒化ガリウム粉末を1300℃に加熱することにより、ガリウムを内含したカーボンナノチューブを形成する。この構成によれば、予め基板に電極を形成しておき、ガリウムを内含したカーボンナノチューブの分散液を滴下することで、ナノメートルサイズの微小温度計を得ることができる。
【0015】
上記構成において、さらに、カーボンナノチューブにガリウムが充填されない空隙を設ける工程を施してもよい。このように、ガリウムが内含されたカーボンナノチューブに、ガリウムが充填されない空隙を設ける工程を施すことにより、この空隙の温度上昇による消滅が生起する、ナノメートルサイズの微小温度計を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、マイクロメートルサイズの環境において広い温度範囲で温度計測ができる。即ち、一種類の微小温度計で−80℃から500℃までの範囲の温度計測が可能となる。さらに、よく知られているように、ガリウムは一旦融解して液体状態になると過冷却状態を維持し凝固温度が著しく下がるので、広範囲の温度計測を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
図1は、本発明の実施形態に係るナノメートルサイズの微小温度計の構成を模式的に示す平面図であり、図2及び図3は、図1のX−X方向に沿う断面図である。図1に示すように、本発明のナノメートルサイズの微小温度計1は、ガリウムが内含されたカーボンナノチューブ(以下、適宜、ガリウム内含カーボンナノチューブと言う。)2からなる抵抗素子10を、含み構成されている。
ガリウム内含カーボンナノチューブ2は、基板5上に設けられた電極3,4上に接続して固定されている。電極3,4は金属薄膜などから成る導電性薄膜として形成されている。基板5としては、絶縁体からなる基板や酸化膜で被覆された半導体基板を用いることができる。
【0018】
図2に示す本発明のナノメートルサイズの微小温度計1においては、両端が閉じたカーボンナノチューブ6の中空部内に、ガリウム7が空隙なく充填されている。
【0019】
これに対して、図3に示す本発明のナノメートルサイズの微小温度計1Aにおいては、両端が閉じたカーボンナノチューブ6には、その中空部に部分的にガリウム7が充填されており、さらに、ガリウム7が充填されていない空隙8が部分的に存在し、全体として、空隙8を有するガリウム7が内含されたカーボンナノチューブ2となっている。この空隙8は、ガリウム内含カーボンナノチューブ2を、原子間力顕微鏡のカンチレバーを操作することなどにより形成することができる。この空隙8は、カーボンナノチューブ6内に複数設けてもよい。
【0020】
ガリウム内含カーボンナノチューブ2は、好ましくは、その長さが1〜10μm、直径は30〜150nmである。例えば、カーボンナノチューブ6の内径を約25nmとし、その壁の厚さを約6nmとすることができる。
【0021】
図4は、本発明のナノメートルサイズの微小温度計による温度測定を模式的に説明する図である。図4に示すように、本発明のナノメートルサイズの微小温度計1において、ガリウム内含カーボンナノチューブからなる抵抗素子10の電極3,4には、銅線などからなる導線9,9を介して抵抗測定手段15が接続されている。
ここで、抵抗測定手段15はガリウム内含カーボンナノチューブからなる抵抗素子の電気抵抗(以下、単に抵抗と呼ぶ)を測定できれば何でもよく、直流及び交流を用いた方法からなる抵抗測定器などで構成することができる。最も簡便な方法は、抵抗素子10の電極3,4に直流電圧(V)源を接続し、このとき抵抗素子10に流れる電流(I)を測定し、抵抗Rを、R=V/Iとして計算すればよい。この抵抗測定器のような抵抗測定手段15は、集積回路などの能動素子や各種受動部品からなる電子回路により製作することができる。
【0022】
図5は、図2のナノメートルサイズの微小温度計1における温度と抵抗との関係を示す図である。図2に示すように、カーボンナノチューブ6内にガリウム7が空隙なく充填されている場合には、ガリウム内含カーボンナノチューブ2からなる抵抗素子10の抵抗は、カーボンナノチューブ6に充填されているガリウム7による抵抗となる。つまり、温度の上昇と共に、その抵抗値は増大する。この場合、抵抗素子10の周囲温度をTとすると、そのときの抵抗素子10の抵抗Rが抵抗測定手段15により検出される。
【0023】
したがって、予め、温度を変えたときのガリウム内含カーボンナノチューブ2からなる抵抗素子10の抵抗を測定し、この抵抗素子10に対する温度と電気抵抗の関係を求めておく。次に、ナノメートルサイズの微小温度計1を、被測定物中に挿入し、その抵抗を測定することにより、被測定物の周囲の未知の温度を測定することができる。このように、ガリウム内含カーボンナノチューブ2からなる抵抗素子10は、温度検知素子として機能する。
【0024】
図6は、図3のナノメートルサイズの微小温度計1Aにおける温度と抵抗との関係を示す図である。図の矢印Dの太い点線で示す抵抗値は、図5で説明したカーボンナノチューブ6内にガリウム7が空隙なく充填されている場合の抵抗である。
図6に示すように、カーボンナノチューブ6内にガリウムの空隙8がある場合には、低温T1 においては、ガリウムの空隙8により抵抗が大きい状態となっている(図6のA参照)。低温T1 からT2 の温度範囲では、温度の上昇によりカーボンナノチューブ6内のガリウムが膨張するので抵抗値は減少する(図6のA参照)。空隙8内でガリウム同士が接触し始める温度T2 (抵抗はR2 )以上になると、抵抗は急減し、空隙8が消滅する温度T3 での抵抗はR3 となる((図6のB参照))。
一方、T3 以上の温度、例えばT4 においては、カーボンナノチューブ6内にガリウムが充填されているので、図5に示したカーボンナノチューブ6内にガリウム7が空隙なく充填されている場合の抵抗と同じになる(図6のC参照)。
したがって、このナノメートルサイズの微小温度計1Aの場合にも、温度と電気抵抗の関係を求めておけば、被測定物周囲の未知の温度を測定することができる。
【0025】
ナノメートルサイズの微小温度計1及び1Aにおける、図5及び6の抵抗変化は、低温から高温、逆に高温から低温と変えても変化しない、即ち可逆性がある。特に、カーボンナノチューブ6内にガリウムの空隙8がある場合のナノメートルサイズの微小温度計1Aにおいては、ガリウムの空隙8が消滅するときの温度T3 を検出することができる。この場合には、温度がT2 〜T3 のときに、R2 からR3 への急激な抵抗変化が生じる。この抵抗変化をスイッチとしてしても利用することができる。
【0026】
これにより、本発明のナノメートルサイズの微小温度計1,1Aによれば、マイクロメートルサイズのような微小サイズの環境において広い温度範囲で温度計測が可能となる。よく知られているように、ガリウムは一旦融解して液体状態になると、過冷却状態を維持し凝固温度が著しく下がるので、−80℃から500℃までの範囲の温度計測が可能となる。さらに、一種類の温度計で広い範囲の温度を計測することができる。
【0027】
次に、本発明のナノメートルサイズの微小温度計1の製造方法について説明する。
最初に、ガリウムが内含されたカーボンナノチューブ2の製造方法を説明する。先ず、窒化ガリウムの粉末を坩堝に入れて、坩堝を高周波誘導加熱装置などによる加熱装置の反応管内に設置する。そして、反応管内を減圧した後に、所定流量の窒素ガスとメタンガスとの混合ガスを反応管内に導入し、誘導加熱コイルにより坩堝を所定の温度に加熱する。この加熱により坩堝内の窒化ガリウムが昇華及び分解し、ガリウムを生成する。そして、反応管内で坩堝よりも温度が低い箇所に、ガリウムの液滴が生成される。
一方、メタンガスの分解によりカーボンクラスターが生成するので、このカーボンクラスターがガリウム液滴と連続的に合体する。この一連の反応により、ガリウムが内含されたカーボンナノチューブ2が成長する。
【0028】
また、上記の製造方法で得た所定の寸法のガリウム内含カーボンナノチューブ2を、原子間力顕微鏡を用いて、原子間力顕微鏡のカンチレバーを所定の圧力で押圧することで、内含するガリウムを押しのけて空隙8を形成することができる。
【0029】
次に、このように成長させたガリウム内含カーボンナノチューブ2を用いた、抵抗体10の製造方法について説明する。
最初に、基板5の全面に電極となる材料をスパッタ蒸着した後、リソグラフィー技術により電極3,4を加工する。
上記基板5に、ガリウム内含カーボンナノチューブの分散液を滴下し乾燥する。次に、電極3,4とガリウム内含カーボンナノチューブ2との間に交流電圧を印加して、電極3,4とガリウム内含ナノチューブ2とを確実に接触させる。
最後に、ナノメートルサイズの微小温度計1を走査型電子顕微鏡で観察し、ガリウム内含カーボンナノチューブ2の配置や形状、電極3,4との接触具合を確認する。
以上のようにして製造された抵抗体10に抵抗測定手段15を接続して、ナノメートルサイズの微小温度計1又は1Aを得ることができる。
【実施例1】
【0030】
次に、実施例を示してさらに具体的に説明する。
最初に、ガリウムが内含されたカーボンナノチューブ2を以下のように作製した。
窒化ガリウム粉末1.0gをグラファイト製坩堝に入れ、この坩堝を縦型高周波誘導加熱装置の中に設置した。反応管を10-3Paまで減圧した後、流量2000sccm (standard cubic cm per minute) の窒素ガスと流量15sccmのメタンガスとの混合ガスを流しながら、1300℃で窒化ガリウムの昇華と分解を行い、ガリウム液滴を生成させた。このようにして生成したガリウムの液滴は、反応管中の約800℃の部分に形成された。
一方、メタンの分解によりカーボンクラスターが生成し、これがガリウム液滴と連続的に合体して、ガリウムを内含したカーボンナノチューブ2に成長した。このとき得られたカーボンナノチューブ2の内径は約25nmであり、その壁の厚さは約6nmで、長さは数μmであった。そして、このカーボンナノチューブ2内には、ガリウムが充填されていた。
【0031】
次に、得られたカーボンナノチューブ2を電極3,4間に配置して、抵抗素子10を作製した。
厚さ20nmの二酸化珪素膜の付いたシリコン基板5に、厚さ30nmのタングステンでコートされた厚さ10nmのチタンの金属膜をスパッタで成膜し、さらにリソグラフィーにより電極3,4に加工することで、電極3,4間の距離が1μmの電極付きシリコン基板を作製した。この基板上の電極3,4間にガリウムを内含したカーボンナノチューブ2のエタノール分散液を超音波処理して滴下した。
そして、周波数2kHzで3Vの交流電圧を印加することにより、カーボンナノチューブ2と各金属電極3,4との接触を強固にして抵抗体10を作製した。
【0032】
作製したナノメートルサイズの微小温度計1の電極3,4間に、0.01Vの直流電圧を印加して、ホットプレート上で温度を上昇させながら抵抗を測定した。
図7は、実施例1のガリウムを内含したカーボンナノチューブを有するナノメートルサイズの微小温度計1を用いて、温度に対する抵抗値を測定した結果を示す図である。図において、横軸は温度(℃)を示し、縦軸は抵抗値(Ω)を示す。
図7から明らかなように、、測定環境の温度が上昇すると抵抗値が直線的に増加することが分かる。また、温度が1℃上昇する毎に電気抵抗が1.27Ω上昇することが分かった。この関係を利用することにより、温度未知の物体にこの微小温度計1を挿入し、電気抵抗を測定すれば温度を求めることができた。
【実施例2】
【0033】
実施例2として、カーボンナノチューブ内にガリウムの空隙8を設けたナノメートルサイズの微小温度計1Aを作製した。
先ず、実施例1と同様にガリウム内含カーボンナノチューブ2を作製した。
次に、ガリウム内含カーボンナノチューブ2の部分に原子間力顕微鏡のカンチレバーを300nNの力で押し付けて、内含するガリウムを押しのけて空隙8を形成した。この空隙8の大きさは、カーボンナノチューブの長さ方向に130nmであった。このガリウムの空隙8を設けたカーボンナノチューブを、実施例1と同様に基板に載置して、ナノメートルサイズの微小温度計1Aを作製した。
【0034】
図8は、実施例2の空隙を有するガリウム内含カーボンナノチューブ2の走査型電子顕微鏡像の一例であり、(a)〜(d)は、その温度が19℃、63℃、343℃、430℃の場合の各像である。
図8(a)において、中央部の上下方向が空隙を有するガリウム内含カーボンナノチューブ2であり、その真中の白い部分が空隙8で、この空隙8の上部及び下部の黒い部分がガリウム7である。
図8(a)〜(d)から明らかなように、温度が19℃、63℃、343℃まで上昇するとガリウムが膨張するので、カーボンナノチューブ2内の空隙8の長さは短くなることが分かり、430℃では空隙8は完全に消滅し、1本の連続したガリウム柱となることが判明した。
【0035】
次に、ナノメートルサイズの微小温度計1Aをホットプレート上に載せて、実施例1と同じ方法で抵抗を測定した。
図9は、実施例2の空隙を有するナノメートルサイズの微小温度計1Aの温度に対する抵抗の関係の一例を示す図である。図において、横軸は温度(℃)を示し、縦軸は抵抗値(kΩ)を示す。図中の白四角の抵抗値R(図10の−□−参照)は、測定データである。実線の抵抗値R* は、ガリウム内含カーボンナノチューブ2と電極3,4との接触抵抗の温度依存性を考慮したもので、図8の測定結果から求めた温度1℃上昇に対して抵抗値の増加分(1.27Ω/℃)と温度との積を、測定データから差し引いて補正した抵抗である。
【0036】
図9から分かるように、測定し補正した抵抗値は、温度上昇に伴って直線的に減少して、175℃で急激に減少し、その後は実施例1の場合と同様にやや増加した。また、ガリウム内含カーボンナノチューブ2は、抵抗が大きい空隙8を含んでいるため、温度が上昇する前の低温(175℃以下)における抵抗は大きくなっている。このため、温度の上昇とともにガリウム7の膨張で空隙8の長さが短くなり、抵抗が直線的に低下している。このとき、温度が1℃上昇する毎に抵抗値は4.59Ω低下している。
【0037】
したがって、この関係を利用し、温度未知の物体中にこの微小温度計1Aを挿入して抵抗を測定すれば温度が求まる。なお、実施例2では空隙が175℃で消滅し、これより高い温度での抵抗値が実施例1よりも高くなっているが、これはカンチレバーで押し付けたときカーボンナノチューブの直径が変動したことによると推定される。図9の場合では、上記175℃よりも高い温度で空隙が消滅している。したがって、実施例2で用いたガリウム内含カーボンナノチューブ2よりも、空隙8の長さを長くすれば、さらに高温までの温度を計測できることは明らかである。
【0038】
本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。例えば、実施例においては、交流電圧印加による電極の接合強化方法を用いたが、他の方法でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態に係るナノメートルサイズの微小温度計の構成を模式的に示す平面図である。
【図2】図1のX−X方向に沿う断面図である。
【図3】図1のX−X方向に沿う別の断面図である。
【図4】本発明のナノメートルサイズの微小温度計による温度測定を模式的に説明する図である。
【図5】図2のナノメートルサイズの微小温度計における温度と抵抗との関係を示す図である。
【図6】図3のナノメートルサイズの微小温度計における温度と抵抗との関係を示す図である。
【図7】実施例1のガリウムが内含されたカーボンナノチューブを有するナノメートルサイズの微小温度計の温度に対する抵抗値を示す図である。
【図8】実施例2の空隙を有するガリウム内含カーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡像の一例であり、(a)〜(d)は、その温度が19℃、63℃、343℃、430℃の場合の各像である。
【図9】実施例2の空隙を有するナノメートルサイズの微小温度計において、温度に対する抵抗の関係の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1:ナノメートルサイズの微小温度計
2:ガリウム内含カーボンナノチューブ
3,4:電極
5:基板
6:カーボンナノチューブ
7:ガリウム
8:空隙
9:導線
10:抵抗素子
15:抵抗測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガリウムが内含されたカーボンナノチューブからなる抵抗素子を含み、該抵抗素子の温度により変化する抵抗を測定して温度計測を行なうことを特徴とする、ナノメートルサイズの微小温度計。
【請求項2】
ガリウムが内含されたカーボンナノチューブと、
該カーボンナノチューブの両端に設けられた電極と、
からなる抵抗素子を温度検知素子とすることを特徴とする、ナノメートルサイズの微小温度計。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは、その長さが1〜10μmで、直径が30〜150nmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のナノメートルサイズの微小温度計。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブに、ガリウムが空隙なく充填されていることを特徴とする、請求項3に記載のナノメートルサイズの微小温度計。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブに、部分的にガリウムが充填されていることを特徴とする、請求項3に記載のナノメートルサイズの微小温度計。
【請求項6】
ガリウムが内含されたカーボンナノチューブの両端に、電極を設ける工程を含むことを特徴とする、ナノメートルサイズの微小温度計の製造方法。
【請求項7】
メタンガスと窒素ガスとを流しながら、窒化ガリウム粉末を1300℃に加熱することにより、前記ガリウムを内含したカーボンナノチューブを形成することを特徴とする、請求項6に記載のナノメートルサイズの微小温度計の製造方法。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブにガリウムが充填されない空隙を設ける工程を施すことを特徴とする、請求項6に記載のナノメートルサイズの微小温度計の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−101503(P2007−101503A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295436(P2005−295436)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】