説明

ナノ炭素材料の製造方法

【課題】高密度、高配向のナノ炭素材料を、高純度、高速で、かつ、容易に得られる合成方法を提供する。
【解決手段】コバルト又はコバルト化合物からなる触媒を基体11の表面に担持し、オクタノール15中で基体11を加熱して基体11上に少なくとも繊維状ナノ炭素材料12を生成する。基体11を、550℃〜850℃の範囲で加熱するとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば強度補強材料、電子放出素子材料、電池の電極材料、電磁波吸収材料、触媒材料、光学材料など、種々の製品・部品用の機能性材料として応用が期待されるナノ炭素材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ炭素材料は、炭素のsp混成軌道で構成され、ナノメーター(nm)サイズの微細形状を有することから、従来の材料を凌駕する特性を有し、また従来の材料にはない特性を有する。よって、ナノ炭素材料は、強度補強材料、電子放出素子材料、電池の電極材料、電磁波吸収材料、触媒材料、光学材料など次世代の機能性材料としての応用が期待されている。
【0003】
カーボンナノチューブなどのナノ炭素材料の合成方法としては、アーク放電法、レーザーアブレーション法、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法などが知られている。これらのうち、アーク放電法、レーザーアブレーション法、プラズマ化学気相成長法は非平衡反応であるため、非晶質成分を生成しやすく、一般に生成するカーボンナノチューブの収率が低く、また、生成したカーボンナノチューブの直径や種類が一様でないことが知られている。
【0004】
一方、カーボンナノチューブを精製不要で高純度で合成する方法、即ち収率が非常に高い合成方法が特許文献1に開示されている。この方法は、固体基板と有機液体が急激な温度差を有して接触することから特異な界面分解反応が生じるため、有機液体中の固液界面接触分解法と呼ばれている。
【0005】
特許文献1に開示されている方法について説明する。図4は有機液体中の固液界面接触分解法で用いられる合成装置を模式的に示している。この合成装置は、メタノール等の有機液体60を収容する液体槽61と、有機液体60を沸点以下に保持するため液体槽61の外側を囲むように設けた水冷手段62と、導電性の基板63を保持し、かつ基板63に電流を流すための電極64,64を有する基板ホルダー65と、液体槽61から蒸発する有機液体蒸気を冷却凝縮して液体槽61に戻す水冷パイプ66からなる凝縮手段67と、有機液体蒸気と空気との接触を防止するために窒素ガスを導入する窒素ガス導入バルブ68と、液体槽61を密閉する蓋69と、から構成される。
【0006】
図4に示す合成装置を用いて有機液体中の固液界面接触分解を行う場合、導電性のシリコン基板上にFe、Co、Ni等の遷移金属薄膜を積層し、この基板を水素プラズマに晒すことによって、基板63上に高密度に分布するよう触媒微粒子を担持させ、この基板63を基板ホルダー65に保持し、基板ホルダー65を介して基板63に電流を流すことで基板63を加熱する。これにより、基板63と有機液体60とが急激な温度差を有して接触することから特異な界面分解反応が生じ、触媒微粒子上にカーボンナノチューブが合成される。この方法によれば、基板垂直方向に配向した高密度で高配向のカーボンナノチューブを合成することができる。
【0007】
【特許文献1】特開2003−12312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1では、固液界面接触分解法における合成時の基板温度と生成物の構造や物性との関係の詳細は明らかにされていない。特に電子放出材料など繊維状でかつ高配向の形態が望まれる実用材料としてナノ炭素材料を利用する場合には、例えば合成温度などの合成条件が比較的広範囲でも同一の形態が生成できること、即ちプロセス許容度が高いことが望まれる。
【0009】
本発明は上記課題に鑑み、有機液体中で、遷移金属又は遷移金属の化合物からなる触媒を担持した基板を加熱して基板上にナノ炭素材料を合成する固液界面接触分解法において、ナノ炭素材料を高純度、高速で得ることができ、広範囲の温度条件でプロセス許容度が高い、ナノ炭素材料の合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した固液界面接触分解法において、詳細な実験研究を進めた結果、原料となる有機液体によって、高配向な形態をもつナノ炭素材料を広範囲の合成温度で得られることを見いだした。
【0011】
すなわち、コバルト又はコバルト化合物を触媒担体として用い、有機液体としてオクタノールを用いた場合、合成温度550℃から850℃の間のいずれかの温度で合成反応を行うことで、基板に垂直配向したナノ炭素材料が生成できることが明らかとなった。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、コバルト又はコバルト化合物からなる触媒を基体表面に担持し、この基体をオクタノール中で加熱して基体上に少なくとも繊維状ナノ炭素材料を生成することを特徴とする。
【0013】
本発明においては、合成の際、基体を550℃以上850℃以下の範囲で加熱することが好ましい。
【0014】
実験の結果、合成温度としては、550℃以上850℃以下で、高配向の繊維状ナノ炭素材料が生成することが明らかとなった。
【0015】
本発明においては、触媒を基体表面に担持した後、この基体をオクタノール中で加熱する前に、酸化雰囲気で850℃以上1100℃以下の範囲でこの基体を熱処理することが好ましい。
【0016】
酸化雰囲気中で基体をこの温度範囲で熱処理すると、基体表面のコバルトが酸化して酸化コバルトとなり、酸化コバルトの触媒が微粒子化され、高密度で高配向なナノ炭素繊維が生成する。
【0017】
また、本発明においては、基体がシリコン基板であることが好ましい。
【0018】
シリコン基板を用いた場合、触媒の微粒子化がより促進され、より高密度で高配向なナノ炭素繊維を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のナノ炭素材料の合成方法によれば、コバルトを含む触媒を担持した基板をオクタノール中で加熱することで、簡便かつ高速で、しかも精製プロセスの一切不要な高純度のナノ炭素材料を、プロセス許容度の高い温度範囲で合成することができる。よって、製造コストの低減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1を参照して、本発明のナノ炭素材料の合成方法を説明する。図1は、ナノ炭素材料12の製造に用いる合成装置20を模式的に示している。
合成装置20は、有機液体としてオクタノール15を収容する液体槽21と、オクタノール15を沸点以下に維持するため液体槽21の外側を囲むように設けた水冷手段22と、基体11を保持しつつ基体11に電流を流すための電極23及び24を有する基板ホルダー25及び26とを備え、液体槽21の上側には蓋27が取り外し可能に設けられている。基体11は、オクタノール15の液面に対して平行となるように配置されてもよい。基板ホルダー25及び26をオクタノール15に対して出し入れするために、基板ホルダー25,26の移動手段(図示せず)が備えられている。
なお、図4に示した合成装置と同様、凝縮手段や窒素ガス導入バルブ(何れも図1には示していない。)を備え、凝縮手段の水冷パイプで液体槽21から蒸発する有機液体の蒸気を冷却凝縮して液体槽21に戻したり、窒素ガス導入バルブから窒素ガスを導入してオクタノール蒸気と空気との接触を防止するようにしてもよい。
【0021】
図1に示す合成装置20を用いて以下のステップを経ることで、ナノ炭素材料を製造することができる。
第1ステップとして、基体11上にスパッタ法等によりコバルト又はコバルト化合物を担持する。基体11にはシリコン基板など各種の基板を用いることができる。コバルト化合物には、例えば、酸化コバルトが挙げられる。
第2ステップとして、基板ホルダー25,26でそれぞれ支持された電極23と電極24との間に、コバルトを含む触媒を担持した基体11を保持し、オクタノール15中に沈め、電極23と電極24との間に電流を流して基体11を通電加熱し、基体温度を550℃から850℃までの範囲の所定の温度に保って所定の時間保持する。その結果、基体11にナノ炭素材料12が生成する。
基体温度を550℃から850℃の範囲とすることで、繊維状の構造を有するナノ炭素材料12を生成することができる。
【0022】
ここで、第1ステップにおいて触媒を基体11表面に担持した後、この基体11をオクタノール15中で加熱する前に、この基体11を酸化雰囲気中、例えば空気中で850℃以上1100℃以下の範囲で熱処理するとよい。熱処理を行うことにより触媒が微粒子化され、高密度で高配向なナノ炭素繊維が生成する。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に沿って具体的に説明する。
初めに、7Paのアルゴン雰囲気中でコバルトターゲットを放電電流35mAで6分間スパッタし、n型低抵抗Si(100)基板上にコバルトを6nm堆積した。
次に、ナノ炭素材料を次の条件にて合成した。原料有機液体を1−オクタノール(純度99.9%)とし、合成条件として基板温度を600℃、700℃、800℃、900℃、合成時間を各10分とした。
【0024】
図2は、本実施例で合成した各ナノ炭素材料の電界放射型走査電子顕微鏡(FF−SEM)像を示す図で、(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ基板温度が600℃、700℃、800℃、900℃として合成したナノ炭素材料のSEM像である。
図2(a)、(b)、(c)から、基板温度を600℃、700℃、800℃とした場合では、繊維径がそれぞれ約25nm,約25nm,約50nmの繊維状のナノ構造の物質が基板上に生成していることが分かる。一方、図2(d)から、基板温度を900℃とした場合では、径が約450nm程度と太くなり、繊維状でないことが分かる。
また、基板温度を550℃、850℃とした場合でも同様に繊維状のナノ炭素材料を得ることができた。
【0025】
(比較例)
比較例として、原料有機液体をメタノールとした場合を示す。実施例と同様に、先ず、n型低抵抗シリコン基板上にコバルトを6nm堆積した。次に、原料有機液体をメタノール(純度99.9%)とし、合成条件として基板温度を600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃、合成時間を各10分とした。
【0026】
図3は、比較例で合成したナノ炭素材料の走査電子顕微鏡(SEM)像を示す図で、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)はそれぞれ基板温度が600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃として合成したナノ炭素材料のSEM像である。
図3(a)から、基板温度を600℃とした場合には繊維状のナノ構造を有する物質が基板上に生成していることが分かる。一方、図3(b)〜(e)から、基板温度が700℃以上とした場合には、生成物は繊維状のナノ構造を有さず、粒子状やフレーク状となることが分かる。
【0027】
以上のことから、原料有機液体としてメタノールではなくオクタオールを採用することで、550℃以上850℃以下の広範囲の合成温度で繊維状のナノ炭素材料が得られることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のナノ炭素材料の合成方法は、高密度、高配向のナノ炭素材料を高純度、高速で、かつ、広範囲の温度条件でプロセス許容度が高く、得ることが可能となるため、構造材料、電気二重層キャパシタ、燃料電池または一般的な二次電池の電極材料として、さらには、特にエミッタ材料の合成方法として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係るナノ炭素材料の製造に用いる合成装置の模式図である。
【図2】本実施例で合成した各ナノ炭素材料の走査電子顕微鏡(SEM)像を示す図で、(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ基板温度が600℃、700℃、800℃、900℃として合成したナノ炭素材料のSEM像である。
【図3】比較例で合成したナノ炭素材料の走査電子顕微鏡(SEM)像を示す図で、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)はそれぞれ基板温度が600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃として合成したナノ炭素材料のSEM像である。
【図4】有機液体中の固液界面接触分解法で用いられる従来の合成装置を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0030】
11:基体
12:ナノ炭素材料
20:合成装置
15:オクタノール
21:液体槽
22:水冷手段
23,24:電極
25,26:基板ホルダー
27:蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト又はコバルト化合物からなる触媒を基体表面に担持し、該基体をオクタノール中で加熱して上記基体上に繊維状ナノ炭素材料を合成する、ナノ炭素材料の製造方法。
【請求項2】
合成の際、前記基体を550℃以上850℃以下の範囲で加熱する、請求項1に記載のナノ炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記基体表面に触媒を担持した後、該基体をオクタノール中で加熱する前に、該基体を空気中で850℃以上1100℃以下の範囲で熱処理する、請求項1又は2に記載のナノ炭素材料の製造方法。
【請求項4】
前記基体がシリコン基板である、請求項1〜3の何れかに記載のナノ炭素材料の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−116279(P2010−116279A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289302(P2008−289302)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】