説明

ナノ粒子分散液の製造方法、及びインクジェット用分散液

【課題】分散性を低下させることなく、インクに必要な特性を有する分散媒への置換及びナノ粒子の濃度調整をしつつナノ粒子分散液の製造が可能なナノ粒子分散液の製造方法、及び分散性に優れ、低粘度なインクジェット用分散液を提供する。
【解決手段】少なくとも1種の分散媒(以下、「原料分散媒」と呼ぶ。)にナノ粒子を分散させてなるナノ粒子分散原液に、前記原料分散媒のうち最も沸点が高い分散媒より常圧における沸点が30℃以上高い分散媒(以下、「置換分散媒」と呼ぶ。)を添加した後、加熱及び/又は減圧して、前記原料分散媒を揮発させて留去し、前記ナノ粒子分散原液の原料分散媒を前記置換分散媒に置換する工程を含むナノ粒子分散液の製造方法、及び該製造方法によって製造されてなるインクジェット用分散液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属配線パターン等の形成に使用されるナノ粒子分散液の製造方法、及びインクジェット用分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
低エネルギー、低コスト、高スループット、オンデマンド生産などの優位点から印刷法による配線パターンの形成が有望視されている。この目的には、金属元素を含むインク・ペーストを用い印刷法によりパターン形成した後、印刷された配線パターンに金属伝導性を付与することにより実現される。
従来この目的には、フレーク状の銀あるいは銅を熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のバインダに有機溶剤、硬化剤、触媒などと共に混合した導電性ペーストが用いられてきた。この導電性ペーストの使用方法は、対象物にディスペンサやスクリーン印刷により塗布し、常温で乾燥するか、あるいは150℃程度に加熱してバインダ樹脂を硬化し、導電性被膜とすることで行われている。しかし、このような従来の導電性ペーストからなる導電性被膜形成用材料はバインダ樹脂を含むため、粒子の接触が阻害され低抵抗な膜を得ることが困難であった。また、従来の銀ペーストでは、銀粒子が粒径1〜100μmのフレーク状であるため、原理的にフレーク状銀粒子の粒径以下の線幅の配線を印刷することは不可能であった。これらの点から、従来の導電性ペーストは微細な配線パターン形成には不適であった。このため、粒径が500nm以下の粒子を用いたインクが求められている。
これらの銀や銅ペーストの欠点を克服するものとして金属ナノ粒子を用いた配線パターン形成方法が検討されており、金あるいは銀ナノ粒子を用いる方法は確立されている(例えば、特許文献1、2参照。)。具体的には、100nm以下の金あるいは銀ナノ粒子を含む分散液を利用した極めて微細な回路パターンの描画と、その後、金属ナノ粒子相互の焼結を施すことにより、得られる焼結体型配線層において、配線幅および配線間スペースが5〜50μm、体積固有抵抗率が1×10−8Ω・m以下の配線形成が可能となっている。
【0003】
レーザーアブレーション法は、物質にあるエネルギー以上のレーザー光を照射したとき、プラズマ状態の発生と共に物質表面から爆発的に構成物質が放出される現象である。このレーザーアブレーションを利用してガス中の固体にレーザー光を照射してナノ粒子を得る手法が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。また、本出願人らは、有機溶媒中に懸濁した銅酸化物粒子にレーザーを照射することにより銅酸化物シェルを有する銅ナノ粒子(以下、「コアシェル銅ナノ粒子」と呼ぶ。)が生成することを見出している(例えば、特許文献3参照。)。
【0004】
しかし、有機溶媒中での銅酸化物粒子のレーザーアブレーション法では、生成するコアシェル銅ナノ粒子分散液は、たとえ原料となる銅酸化物粒子濃度をあげた場合でもコアシェル銅ナノ粒子への転換率が低下し、コアシェル銅ナノ粒子の濃度は1mass%以下の低濃度であることが課題であった。また、コアシェル銅ナノ粒子への転換率は使用溶媒に強く依存し、使用に適した溶媒が限られていた。このような希薄な分散液を導体インクとする場合、ナノ粒子の分散性を落とさずインクに必要な特性を有する分散媒に置換すると共に濃度を最低でも5mass%に上げる必要がある。たとえば、インクジェットインク用途では、インクの特性として、10μm以上の凝集粒子がなく、粘度が5〜20mPa・s(at25℃)であり、沸点が140℃以上が必要であり、印刷された導体インク層の厚さの点から銅ナノ粒子分散液濃度は5mass%以上が望ましい。
【0005】
一方、ナノ粒子を塩析、遠心分離、分散安定性の悪い溶媒の添加、分散媒の留去・乾燥といった方法でナノ粒子を分散媒から分離した後、所定の濃度で置換分散媒に再分散する手法では、ナノ粒子の分散媒からの分離により凝集を生じ、再分散には、分散機の使用や分散剤の適用が必要になる。しかし、金属コアを有するコアシェル銅ナノ粒子に対して分散機を使用すると、粒子同士の擦れあいにより金属コア同士が接触し、解砕不能な強い凝集が生じ、分散機をかけたにもかかわらず粒度分布は大粒径側にシフトし、目的を達することができない。また、分散剤の適用は、印刷後の導体化に際し粒子間の焼結を妨げ、導体化、低体積抵抗率化を困難にする。
【0006】
以上の背景から、導体インクとして用いるには、ナノ粒子の分散性を落とさずインクに適した分散媒への置換と濃縮を行う手法が不可欠であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−273205号公報
【特許文献2】特開2003−203522号公報
【特許文献3】国際公開第2006/030605号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M. Kawasaki, K. Masuda, J. Phys. Chem. B, (2005) 109, 9379-9388
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、分散性を低下させることなく、インクに必要な特性を有する分散媒への置換及びナノ粒子の濃度調整をしつつナノ粒子分散液の製造が可能なナノ粒子分散液の製造方法を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、分散性に優れ、低粘度なインクジェット用分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
(1)少なくとも1種の分散媒(以下、「原料分散媒」と呼ぶ。)にナノ粒子を分散させてなるナノ粒子分散原液に、前記原料分散媒のうち最も沸点が高い分散媒より常圧における沸点が30℃以上高い分散媒(以下、「置換分散媒」と呼ぶ。)を添加した後、加熱及び/又は減圧して、前記原料分散媒を揮発させて留去し、前記ナノ粒子分散原液の原料分散媒を前記置換分散媒に置換する工程を含むことを特徴とするナノ粒子分散液の製造方法。
ここで、本発明において、「常圧」とは1.01325×105Paの圧力をいう。
【0011】
(2)前記置換分散媒の添加量を、前記ナノ粒子分散原液に含まれる原料分散媒よりも少なくし、前記ナノ粒子分散原液を濃縮することを特徴とする前記(1)に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【0012】
(3)前記ナノ粒子が被酸化性粒子であって、該被酸化性粒子との反応性を有しないガスをナノ粒子分散原液中にバブリングしながら加熱及び/又は減圧を行うことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【0013】
(4)少なくとも1種の分散媒(以下、「原料分散媒」と呼ぶ。)にナノ粒子を分散させてなるナノ粒子分散原液に、前記原料分散媒のうち最も沸点が高い分散媒より常圧における沸点が30℃以上高い分散媒(以下、「置換分散媒」と呼ぶ。)を、加熱及び/又は減圧して前記原料分散媒を揮発させて留去し、前記ナノ粒子分散原液に含まれる原料分散媒を前記置換分散媒に置換してなることを特徴とするインクジェット用分散液。
【0014】
(5)前記置換分散媒の添加量を、前記ナノ粒子分散原液に含まれる原料分散媒よりも少なくし、前記ナノ粒子分散原液を濃縮することを特徴とする前記(4)に記載のインクジェット用分散液。
【0015】
(6)前記ナノ粒子が、銅、酸化第一銅、及び酸化第二銅のうちのいずれか1種、又はそれらの混合物を含むことを特徴とする前記(4)又は(5)に記載のインクジェット用分散液。
【0016】
(7)前記置換分散媒が、ハンセン溶解度パラメータにおける水素結合項が8MPa1/2以下であり、かつハンセン溶解度パラメータにおける極性項が11MPa1/2以上である分散媒であることを特徴とする前記(4)〜(6)のいずれかに記載のインクジェット用分散液。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、分散性を低下させることなく、インクに必要な特性を有する分散媒への置換及びナノ粒子の濃度調整をしつつナノ粒子分散液の製造が可能なナノ粒子分散液の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、分散性に優れ、低粘度なインクジェット用分散液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1のコアシェル銅ナノ粒子分散原液の粒度分布と、濃縮後の分散液の粒度分布との比較をグラフで示す図である。
【図2】実施例1で得られた分散液の動的粘度をグラフで示す図である。
【図3】実施例1で得られた分散液を用い、インクジェット印刷装置によりパターンを印刷した場合の印刷性を示す図面代用写真である。
【図4】実施例1で得られた分散液を用い、インクジェット印刷装置によりパターンを印刷した場合の印刷性を示す図であって、図3とは異なる状態を示す図面代用写真である。
【図5】比較例1及び2の分散前後における銅ナノ粒子分散液の粒度分布(比較例2は分散後のみ)をグラフで示す図である。
【図6】比較例3の分散前後における銅ナノ粒子分散液の流度分布をグラフで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のナノ粒子分散液の製造方法は、少なくとも1種の分散媒(以下、「原料分散媒」と呼ぶ。)にナノ粒子を分散させてなるナノ粒子分散原液に、前記原料分散媒のうち最も沸点が高い分散媒より常圧における沸点が30℃以上高い分散媒(以下、「置換分散媒」と呼ぶ。)を添加した後、加熱及び/又は減圧して、前記原料分散媒を留去し、前記ナノ粒子分散液の分散媒を前記置換分散媒に置換する工程を含むことを特徴としている。
また、本発明のインクジェット用分散液は、少なくとも1種の分散媒(以下、「原料分散媒」と呼ぶ。)にナノ粒子を分散させてなるナノ粒子分散原液に、前記原料分散媒のうち最も沸点が高い分散媒より常圧における沸点が30℃以上高い分散媒(以下、「置換分散媒」と呼ぶ。)を、加熱及び/又は減圧して前記原料分散媒を揮発させて留去し、前記ナノ粒子分散原液に含まれる原料分散媒を前記置換分散媒に置換してなることを特徴としている。
以下にまず、本発明のナノ粒子分散液の製造方法及びインクジェット用分散液において使用する原液たるナノ粒子分散原液について説明する。
【0020】
[ナノ粒子分散原液]
本発明の製造方法において原液として使用するナノ粒子分散原液は、分散媒たる有機溶剤にナノ粒子が分散されてなる。
ナノ粒子としては、銅、酸化第一銅、及び酸化第二銅のうちのいずれか1種、又はそれらの混合物、コアシェル銅ナノ粒子、銀などが挙げられる。
以下においては、ナノ粒子としてコアシェル銅ナノ粒子を用いた場合を一例として説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
(コアシェル銅ナノ粒子)
コア部が触媒活性金属で、シェル部が銅酸化物であるコアシェル銅ナノ粒子は、触媒活性金属粒子と酸化銅粒子の複合化、触媒活性金属粒子上に酸化銅を析出させる、触媒活性金属粒子上に銅を析出させた後に銅層を酸化する、金属銅粒子を作成後その表面を除酸化して酸化銅のシェルを形成させることにより作製することができる。
特に、コア部の触媒活性金属が銅である場合、すなわちコア部及びシェル部の双方に銅が含まれる場合には、例えば、還元作用を示さない有機溶剤中に分散させた原料金属化合物にレーザー光を攪拌下で照射して作製することができる。また、不活性ガス中のプラズマ炎に原料金属化合物を導入し、冷却用不活性ガスで急冷して製造することもできる。レーザー光を用いて得られるコアシェル銅ナノ粒子の特性は、得られる粒子の特性は、原料銅化合物の種類、原料銅化合物の粒子径、原料銅化合物の量、有機溶剤の種類、レーザー光の波長、レーザー光の出力、レーザー光の照射時間、温度、銅化合物の攪拌状態、有機溶剤中に導入する気体バブリングガスの種類、バブリングガスの量、添加物などの諸条件を適宜選択することによって制御される。
以下に詳細について説明する。
【0022】
A.原料
原料は銅化合物であって、具体的には、酸化銅・亜酸化銅・硫化銅・オクチル酸銅・塩化銅などを用いることができる。
なお、原料の大きさは重要であり、同じエネルギー密度のレーザー光を照射する場合でも、原料の金属化合物粉体の粒径が小さいほど粒径の小さなコアシェル銅ナノ粒子が効率よく得られる。また、形状は真球状、破砕状、板状、鱗片状、棒状など種々の形状の原料を用いることができる。
【0023】
B.レーザー光
レーザー光の波長は銅化合物の吸収係数がなるべく大きくなるような波長とすることが好ましいが、ナノサイズの銅微粒子の結晶成長を抑制するためには、熱線としての効果が低い短波長のレーザー光を使用することが好ましい。
例えば、レーザー光は、Nd:YAGレーザー、エキシマレーザー、半導体レーザー、色素レーザーなどを用いることができる。また、高エネルギーのレーザーを同じ条件で多くの銅化合物に照射するためにはパルス照射が好ましい。
【0024】
C.有機溶剤(原料分散媒)
粒子生成の際の銅化合物の原液分散媒に用いる有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、γ−ブチロラクトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤を使用することがナノサイズの粒子を得る際には好ましいが、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどの極性溶剤やトルエン、テトラデカンなどの炭化水素系溶剤を用いることもできる。また、1種を単独で又は2種以上を組合わせて使用してもよい。なお、還元性を示す有機溶剤を用いると、銅粒子のシェルを形成する酸化皮膜を還元し、金属が露出することにより、凝集体を形成するために、粒子の分散安定性を損なうことになる。従って、還元作用を示さない有機溶剤を用いることが好ましい。
なお、以上のコアシェル銅ナノ粒子の作製手法は一例であり、本発明はそれに限定されることはない。また、例えば、市販のものがあればそれを用いてもよい。
【0025】
以上のように、ナノ粒子分散原液は、原料分散媒たる有機溶剤にナノ粒子(上記例ではコアシェル銅ナノ粒子)が分散されてなる。そして、本発明の製造方法においては、ナノ粒子分散原液中の原料分散媒を、以下に示す置換分散媒に置換する。
【0026】
(置換分散媒)
本発明の製造方法においては、置換分散媒は、その沸点が前記原料分散媒よりも30℃以上(好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上)高い分散媒を用いる。置換分散媒の沸点と原料分散媒の沸点との差が30℃未満では、それぞれの沸点が近いため、原料分散媒を揮発させるに際しての加熱、減圧時に置換分散媒も必要以上に揮発、あるいは原料分散媒が残存してしまい製造効率の低下あるいは分散媒に求められる蒸気圧、表面張力等の特性が低下する。
【0027】
以上の条件を満足する分散媒としては、例えば、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、エチレングリコールスルファイト、アセトニトリル、テトラリン、デカリン、アセトフェノン、スルホラン、イソホロン、炭酸ジエチル、シリコーンなどが挙げられる。中でも特にγ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレングリコールスルファイト、スルホラン、イソホロン、テトラリンが好ましい。
その他、この目的による置換分散媒は、凝集、沈澱の原因となるためイオン性成分、多量の水分を含まないことが好ましい。
【0028】
一方、特にインクジェット用インクに提供されるような低粘度で凝集の少ない分散液を得る目的においては、置換分散媒としては、ハンセン溶解度パラメータで規定される分散媒が好ましい。ハンセン溶解度パラメータについては特願2008−62969号に記載されている。具体的には、ハンセン溶解度パラメータにおける水素結合項が8MPa1/2以下であり、かつハンセン溶解度パラメータにおける極性項が11MPa1/2以上である分散媒が好ましい。
【0029】
以上の条件を満足する分散媒を用いることで、前記粒子の分散性が向上するのは、酸化銅表面と分散媒の接触により自由エネルギーが低下し分散状態のほうが安定化するためと考えられる。
ここで、ハンセン溶解度パラメータとは、溶剤の溶解パラメータを定義する方法の1種であり、詳細は、例えば「INDUSTRIAL SOLVENTSHANDBOOK」(pp.35-68、Marcel Dekker, Inc.、1996年発行)や、「HANSEN SOLUBILITY PARAMETERS:A USER’S HANDBOOK」(pp.1-41,CRC Press,1999)「DIRECTORYOF SOLVENTS」(pp.22-29、Blackie Academic & Professional、1996年発行)などに記載されている。ハンセン溶解度パラメータは溶媒と溶質の親和性を推測するために導入された物質固有のパラメータであり、ある溶媒と溶質が接したときに系の自由エネルギーがどの程度下がるか、あるいは上がるかをこのパラメータから推測できる。すなわち、ある物質を溶かすことのできる溶媒はある領域のパラメータを有することになる。本発明者等は、同様のことが粒子表面と分散媒との間にも成立すると考えた。すなわち、酸化銅表面を持つ粒子と分散媒とが接したときエネルギー的に安定化するには、分散媒がある領域の溶解度パラメータを有すると類推した。
【0030】
本発明に係る分散媒は、ハンセン溶解度パラメータにおける水素結合項は8MPa1/2以下であり、水素結合性が低いことを示しているが、9MPa1/2以下であることが好ましく、8MPa1/2以下であることがより好ましい。8MPa1/2を超えると、分散系は凝集し、増粘や粒子の沈降、粒子と分散媒の分離を生じることとなってしまう。また、下限は通常は0MPa1/2である。
【0031】
また、本発明に係る分散媒は、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項は11MPa1/2以上であり、高極性であることを示しているが、11MPa1/2以上であることが好ましく、12MPa1/2以上であることがより好ましい。11MPa1/2未満では、分散系は凝集し、増粘や粒子の沈降、粒子と分散媒の分離を生じることとなってしまう。また、上限は通常は20MPa1/2であり、上限以上の物質がより良いかもしれないが、20MPa1/2を超え、なおかつ水素結合項が7MPa1/2以下の物質は知られていない。
【0032】
以上の条件を満足する分散媒としては、例えば、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、エチレングリコールスルファイト、アセトニトリル、スルホランなどが挙げられる。中でも特にγ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレングリコールスルファイト、スルホランが好ましい。
【0033】
本発明において、置換分散媒は1種を単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。混合する場合は、混合後におけるハンセン溶解度パラメータが上記範囲内となればよい。そして、2種以上を混合する場合は、いずれも本発明において規定する範囲内の分散媒を混合してもよいし、あるいは本発明において規定する範囲内の分散媒と、範囲外の分散媒とを混合してもよい。
【0034】
(分散媒置換・濃縮)
本発明の製造方法においては、ナノ粒子分散原液に置換分散媒を添加し、その後、加熱及び/又は減圧する。加熱、減圧は、主として原料分散媒が揮発して留去されるように、原料分散媒のうち最も沸点が高い分散媒の沸点以上で置換分散媒の沸点以下の温度で加熱するか、あるいは、主として原料分散媒が揮発する圧力に減圧するか、あるいは加熱と減圧を併用してもよい。
例えば、ナノ粒子分散原液の原料分散媒が、アセトニトリルと、アセトンとからなり、置換分散媒として沸点203℃のγ−ブチロラクトンを添加する場合、原料分散媒のうち最も高い沸点はアセトニトリルの81℃であり、90℃以上の温度で、置換分散媒の沸点未満の温度で加熱する。すると、主として原料分散媒が揮発し、原料分散媒がすべて揮発するまで続けると、置換分散媒のみを分散媒とするナノ粒子分散液が得られる。つまり、ナノ粒子をナノ粒子分散液から分離することなく、分散媒の置換を行うことができる。
【0035】
また、置換分散媒の添加量を、原料分散媒の量よりも少なくすることにより、結果的にナノ粒子の濃度が増加するため、ナノ粒子分散液を濃縮することができる。置換分散媒の添加量を適宜調整することで、種々の濃度に濃縮することができる。
【0036】
本発明の製造方法において、ナノ粒子として被酸化性粒子を用いる場合には、有機溶媒の発火、突沸を防ぐ目的と、酸化による被酸化性粒子の変質を防止する目的のため、置換分散媒を添加した後の加熱、減圧時に、当該被酸化性粒子の酸化性を有しないガス(以下、「不活性ガス」と称する。)をナノ粒子分散原液中バブリングしながら加熱及び/又は減圧して分散媒の置換を行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、希ガス、炭酸ガス、水素ガス、メタンガス等が挙げられる。また、分散している粒子が酸化物粒子のような被酸化性を有し、爆発性の混合ガスを生成しない場合には、酸化性を有するガスを用いることができる。酸化性を有するガスとしては空気、酸素が挙げられる。
【0037】
分散媒置換に用いる装置は、例えば、ナノ粒子分散原液と置換分散媒とを入れる受器、不活性ガスによりバブリングするためのガス導入装置、及び受器を加熱する加熱装置を含む構成とすることができる。
受器は開放系でも、半開放系でガスを排ガス処理装置(スクラバー、吸着管、冷却トラップ、フレアスタック等)、ガス回収装置、ガス再生装置等、別の場所に導いてもよい。受器に冷却管、あるいは凝集管を接続し、放出される分散媒蒸気を冷却し回収してもよい。
【0038】
前述の目的を満たす観点から、不活性ガスをバブリングする代わりに受器に不活性ガスを満たした状態において攪拌装置での強攪拌、あるいは沸石を投入しても同様の効果を得られる。
なお、不活性ガスによるバブリングは、被酸化性粒子に対してのみならず、突沸を防ぐ観点からは、被酸化性粒子以外のナノ粒子に対しても行ってもよい。
【0039】
一方、置換分散媒を添加する前にナノ粒子分散原液を濃縮し、その後に置換分散媒を添加し、さらにその後に原料分散媒を留去してもよい。ただしこの場合、ナノ粒子分散液を濃縮する際に、ナノ粒子が固化しないように留意する必要がある。
また、分散媒置換中に、すなわち加熱及び/又は減圧に際し、置換分散媒も揮発若干の揮発がみられるため、その揮発量を見越して所定量より多い置換分散媒を予め添加してもよい。また、その際に置換分散媒を適宜足してもよい。
【0040】
以上の本発明のインクジェット用分散液は、インクジェット印刷におけるインクとして使用される。すなわち、ナノ粒子を含む配線パターンを形成するに際し、本発明のインクジェット用分散液を用いて基板上にインクジェット印刷により配線パターンを描画し、配線パターンの描画を終えた後、置換分散媒の揮発性にあわせた温度で乾燥を行う。また、ナノ粒子が酸化物である場合には、還元や焼結などを行う。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、「沸点」は常圧における沸点である。
【0042】
[実施例1]
(レーザーアブレーション法によるコアシェル銅ナノ粒子原液(ナノ粒子分散原液)の調製)
レーザーアブレーション法によるコアシェル銅ナノ粒子原液の調製は、以下の手順で行った。まず、500mlのトールビーカーに酸化第二銅粒子(ケミライト工業製、BET比表面積5m/g)5gとアセトン(原料分散媒、沸点:56℃)400gを秤量し、水を張った1Lビーカーにセットしマグネティックスターラーで攪拌しつつ、Nd:YAGパルスレーザー発振装置(Quanta-Ray PRO,Spectra Physics製)にて発振した1064nm、1.1J/pulse、10Hzにて発振したレーザーをビーカー側面から入射しレーザーアブレーションを30分行った。この間、ビーカーをマグネティックスターラーごと回転台でゆっくり回転させレーザーがビーカーの一点に当たり続けないようにしてビーカーの破損を防いだ。その後、遠心分離機で12000rpm、10分遠心分離し未反応の原料酸化第二銅粒子を沈澱として除き、黒色の0.3mass%コアシェル銅ナノ粒子分散原液を得た。
【0043】
(分散媒置換・濃縮)
1Lのセパラブルフラスコに、置換分散媒としてγ−ブチロラクトン(和光純薬工業製、沸点:203℃)50gとコアシェル銅ナノ粒子分散原液400gを入れ、ガラスボールフィルタを差込、窒素ガスを少量の泡が出る程度にフローした。セパラブルフラスコに冷却管を繋ぎ、その先にナスフラスコとバブラーをつけた。少し多めの窒素ガスをボールフィルタに流し系内を30分間窒素フローした後、窒素ガス量を減らし、オイルバスでセパラブルフラスコを140℃で加熱しアセトン(原料分散媒)を留去した。セパラブルフラスコ内の液量が減少したらコアシェル銅ナノ粒子分散原液を継ぎ足しつつ濃縮を継続し、所定(4,200g)のコアシェル銅ナノ粒子原液を加え、アセトンが出なくなった後1時間加熱を続け、アセトンを除き、60gのコアシェル銅ナノ粒子のγ−ブチロラクトン分散液を得た。濃縮液を160℃60分乾燥し乾燥前後の重量比からコアシェル銅ナノ粒子濃度を求めたところ20mass%であった。なお、γ−ブチロラクトンのハンセン溶解度パラメータにおける水素結合項は7MPa1/2であり、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項は17MPa1/2であった。
【0044】
(分散液の性状)
コアシェル銅ナノ粒子原液とγ−ブチロラクトン分散液の粒度分布をレーザー回折散乱法粒度分布測定装置(LS13 320,ベックマンコールタ製)で測定した結果を図1に示す。図1に示すように、コアシェル銅ナノ粒子分散原液とγ−ブチロラクトン分散液の粒度分布はほぼ一致し、凝集のピークも見られなかった。
【0045】
(分散性の評価)
分散性の評価は、2日間静置後の沈殿状態を観察し、以下の評価基準に従い評価した。評価結果を表1に示す。なお、比較例1は壁面に付着物があり沈殿の有無が不明であった。
〜評価基準〜
◎:沈殿はほとんどなし
○:ほぼ分散しており、沈殿は少量
△:透明の上澄みはないが、沈殿は多量
×:上澄みが透明でほとんど分散していない
【0046】
(インクジェット印刷)
得られたコアシェル銅ナノ粒子のγ−ブチロラクトン分散液を用い、インクジェット印刷装置(株式会社マイクロジェット製MJP−1500V(商品名))にてガラス基板上に図3、4に示すパターンを印刷して吐出性、印刷性を確認した。なお、インクジェットヘッドのインク吐出量は29ng/滴であった。また、ステージ温度は60℃であった。インクジェットヘッドからの吐出状態をストロボ撮影した様子を図3に示した。この図に示すように吐出の乱れや曲がり無く良好な吐出状態が得られた。印刷したパターンの様相図4に示す通り、細部に渡り鮮明であった。
【0047】
[実施例2]
レーザーアブレーション法により得た0.3mass%のコアシェル銅ナノ粒子原液を用い、置換分散媒としてイソホロン(沸点:213℃)60gを用いたこと以外は実施例1と同様にして分散媒置換・濃縮を行った。その結果ペースト状のイソホロン分散液を得た。コアシェル銅ナノ粒子濃度を求めたところ23mass%であった。
イソホロンのハンセン溶解度パラメータにおける水素結合項は7.4MPa1/2、極性項は8.2MPa1/2であり、極性項が要求範囲(11MPa1/2以上)を下回っているためペースト化した。
【0048】
[実施例3]
レーザーアブレーション法により得た0.2mass%のコアシェル銅ナノ粒子原液を用い、置換分散媒としてプロピレンカーボネート(沸点:240℃)50gを用いたこと以外は実施例1と同様にして分散媒置換・濃縮を行った。その結果、液状のプロピレンカーボネート分散液を得た。コアシェル銅ナノ粒子濃度を求めたところ20mass%であった。
プロピレンカーボネートのハンセン溶解度パラメータにおける水素結合項は4.1MPa1/2、極性項は18MPa1/2である。
【0049】
[実施例4]
置換分散媒を添加しない以外は実施例1と同様にしてコアシェル銅ナノ粒子分散原液を濃縮し、目視で粘度の増加が認められたところで、一度濃縮を止め、コアシェル銅ナノ粒子濃度を確認したところ8mass%であった。この濃縮液に置換分散液としてγ−ブチロラクトンを100g加え加熱を再開し分散媒を置換した。その結果、コアシェル銅ナノ粒子のγ−ブチロラクトン分散液が得られ、コアシェル銅ナノ粒子濃度を求めたところ10mass%であった。
【0050】
[実施例5]
濃縮装置としてホットプレート上に50mlのガラスのサンプル瓶を置き、該サンプル瓶にコアシェル銅ナノ粒子分散原液30mlと1mlのγ−ブチロラクトンを入れ、長さ10cm注射針をサンプル瓶に刺し、この注射針を通して窒素を分散液中にバブリングしながらホットプレートを加熱してコアシェル銅ナノ粒子分散原液中のアセトンを留去し、コアシェル銅ナノ粒子のγ−ブチロラクトン分散液を得た。得られた分散液のコアシェル銅ナノ粒子濃度を求めたところ13mass%であった。
【0051】
以上の実施例1〜5について、使用した原料分散媒と置換分散媒、分散性評価の結果について下記表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
[比較例1]
コアシェル銅ナノ粒子として表面が自然酸化されたCuナノ粒子(平均粒径41nm、日清エンジニアリング製)20gをγ−ブチロラクトン80g(20mass%)に混合した後振り混ぜたのち、粒度分布を動的光散乱法粒度分布測定装置(N5 ベックマンコールタ製)で測定したところ、図5に示すように、60nmと600nmにピークを有する粒度分布であった。該分散液を分散機としてホモミキサー(HV−M Spec B、特殊機化工業製)により6000rpm、30分処理し、その粒度分布を測定したところ、60nmのピークは消失し、3,000nmから測定範囲以上の粒径を示し、凝集が発生した。該分散機処理後の分散液を静置したところ1日で上澄みを生じ分散安定性は悪かった。
【0054】
[比較例2]
比較例1と同様の仕込みでCuナノ粒子とγ−ブチロラクトンを混合し、分散機として超音波ホモジナイザー(US−600、日本精機製)により19.6 kHz、600W、5分処理した後、比較例1と同様に粒度分布を測定した。その結果、60nmのピークは消失し、400nmあたりにブロードな凝集と思われるピークを示した。該分散機処理後の分散液を静置したところ7日で上澄みを生じ分散安定性は悪かった。
【0055】
[比較例3]
実施例1の(ナノ粒子分散原液)500mlを窒素気流下100℃で分散媒を完全に留去し、ナノ粒子からなる固体2gを得た。該固体にγ−ブチロラクトン8gを添加し超音波洗浄機で30分間、分散した。分散液は沈殿を生じた。また、分散液の粒度分布は1〜20μmに凝集によると考えられる分布を生じた(図6)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の分散媒(以下、「原料分散媒」と呼ぶ。)にナノ粒子を分散させてなるナノ粒子分散原液に、前記原料分散媒のうち最も沸点が高い分散媒より常圧における沸点が30℃以上高い分散媒(以下、「置換分散媒」と呼ぶ。)を添加した後、加熱及び/又は減圧して、前記原料分散媒を揮発させて留去し、前記ナノ粒子分散原液の原料分散媒を前記置換分散媒に置換する工程を含むことを特徴とするナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記置換分散媒の添加量を、前記ナノ粒子分散原液に含まれる原料分散媒よりも少なくし、前記ナノ粒子分散原液を濃縮することを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記ナノ粒子が被酸化性粒子であって、該被酸化性粒子との反応性を有しないガスをナノ粒子分散原液中にバブリングしながら加熱及び/又は減圧を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
少なくとも1種の分散媒(以下、「原料分散媒」と呼ぶ。)にナノ粒子を分散させてなるナノ粒子分散原液に、前記原料分散媒のうち最も沸点が高い分散媒より常圧における沸点が30℃以上高い分散媒(以下、「置換分散媒」と呼ぶ。)を、加熱及び/又は減圧して前記原料分散媒を揮発させて留去し、前記ナノ粒子分散原液に含まれる原料分散媒を前記置換分散媒に置換してなることを特徴とするインクジェット用分散液。
【請求項5】
前記置換分散媒の添加量を、前記ナノ粒子分散原液に含まれる原料分散媒よりも少なくし、前記ナノ粒子分散原液を濃縮することを特徴とする請求項4に記載のインクジェット用分散液。
【請求項6】
前記ナノ粒子が、銅、酸化第一銅、及び酸化第二銅のうちのいずれか1種、又はそれらの混合物を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載のインクジェット用分散液。
【請求項7】
前記置換分散媒が、ハンセン溶解度パラメータにおける水素結合項が8MPa1/2以下であり、かつハンセン溶解度パラメータにおける極性項が11MPa1/2以上である分散媒であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のインクジェット用分散液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−140598(P2011−140598A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3184(P2010−3184)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】