説明

ナノ粒子

本願は、少なくとも1%の光輝性量子収量を有する、発光性窒化物ナノ粒子、例えばナノ結晶体を提供する。この量子収量は、従来の窒化物ナノ粒子よりもはるかに高い。従来の窒化物ナノ粒子は、弱い放射のみであり、製造されるナノ粒子のサイズの制御が困難であった。ナノ粒子は、窒化物結晶体の表面に供給されており且つ結晶体の表面に位置する窒素原子を不動態化するための電子求引基を含む、少なくとも1つのキャッピング剤を含んでいる。本発明は、非発光性のナノ粒子も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメートル寸法である半導体ナノ粒子(例えば、ナノ結晶体)に関し、具体的には、窒化物材料系におけるこのような材料に関する。当該材料は、蛍光−変換LED、放射ELディスプレイ、太陽電池およびバイオイメージングなど、幅広い範囲の用途に用いられる。
【背景技術】
【0002】
その寸法がバルク励起子の直径に匹敵する半導体ナノ結晶体は、量子閉じ込め効果を示す。このことは、結晶体のサイズが小さくなると青色波長にシフトする光学スペクトルにおいてもっとも明瞭に見られる。
【0003】
多くのII−VI半導体およびIII−V半導体を含め、さまざまな材料から作られた半導体ナノ結晶体が、これまでに研究されている。球状ナノ結晶体に加え、ロッド状、矢状、涙滴状およびテトラポッド状のナノ結晶体(Alivisatos et. al., J. Am. Chem. Soc, 2000, 122, 12700; WO03054953)およびコア−シェル構造(Bawendi, J. Phys. Chem. B, 1997, 101, 9463; Li and Reiss, J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 11588)もまた、調製されている。このようなナノ結晶体のサイズおよび形状を制御するため、合成は、通常、1以上のキャッピング剤(サーファクタントまたは配位溶媒とも称される)の存在下で行われる。このようなキャッピング剤は、表面状態の不動態化にもかかわらず、ナノ結晶体の成長を制御するとともに、光放射の強度を増加する。さまざまなキャッピング剤が使用されてきており、ホスフィン類(Bawendi et. al., J. Am. Chem. Soc., 1993, 115, 8706)、ホスフィンオキシド類(Peng et. al., J. Am. Chem. Soc., 2002, 124, 2049)、アミン類(Peng et. al., J. Am. Chem. Soc., 2002, 124, 2049)、脂肪酸類(Battaglia and Peng, Nano Lett., 2002, 2, 1027; Peng et. al., J. Am. Chem. Soc., 2002, 124, 2049)、チオール類(Li and Reiss, J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 11588)、および、金属脂肪酸錯体等のより風変わりなキャッピング剤(Nann et. al., J. Mater. Chem., 2008, 18, 2653)が使用されてきている。
【0004】
半導体ナノ結晶体を調製する方法としては、ソルボサーマル(solvothermal)反応(Gillan et. al., J. Mater. Chem., 2006, 38, 3774)、ホットインジェクション法(Battaglia and Peng, Nano Lett., 2002, 2, 1027)、単純な加温プロセス(Van Patten et. al., Chem. Mater., 2006, 18, 3915)、連続フロー反応(US2006087048)、およびマイクロ波を使用した合成(Strouse et. al., J. Am. Chem. Soc., 2005, 127, 15791)が挙げられる。
【0005】
最も関心をひく半導体のクラスの一つは、III−窒化物類であり、例えば、AlN、GaN、InNおよびこれらのそれぞれの合金である。これらは、青色発光ダイオード、レーザダイオード、および電力電子素子の製造に使用される。窒化物はまた、化学的に不活性であり、放射に対して耐久性があり、そして大きな破壊場、高い熱伝導度および高い電界電子ドリフト移動度を有しており、これにより腐食性環境における強力な用途に最適なものとしている(Neumayer at. al., Chem., Mater., 1996, 8, 25)。窒化アルミニウムのバンドギャップ(6.2eV)、窒化ガリウムのバンドギャップ(3.5eV)および窒化インジウムのバンドギャップ(0.7eV)(Gillan et. al., J. Mater. Chem., 2006, 38, 3774)は、窒化物が電磁スペクトルの紫外領域、可視領域および赤外領域のほどんどに及ぶことを意味している。これら材料の合金が、この範囲にわたって直接光学バンドギャップを有しているという事実により、それらが光学装置にとって非常に有意義なものとなっている。III−窒化物半導体に基づくナノ結晶体の場合、合金化および量子閉じ込め効果を介したバンドギャップの調整により、電磁スペクトルの幅広い領域にわたる類のないナノ結晶性蛍光体を作り出すことの可能性が開かれる。しかしながら、今日まで、窒化物ナノ結晶体の製造ルートでは、発光の弱い材料のみが作られるだけであり、作られるナノ結晶体のサイズを制御することが難しかった。
【0006】
ナノ結晶性窒化インジウムおよび窒化インジウムガリウムが、金属ハロゲン化物とアジ化ナトリウムとのソルボサーマル反応によって、これまで調製されてきている(Gillan et. al., J. Mater. Chem., 2006, 38, 3774)。この材料の発光スペクトルは示されていないものの、蛍光顕微鏡によるいくつかの像が含まれている。ナノ結晶性窒化インジウムは、ヨウ化インジウムとナトリウムアミドとのソルボサーマル反応によっても調製されてきている(Xie et. al., New. J. Chem., 2005, 29, 1610)。この研究では、窒化インジウムナノ結晶体が調製されており、発光スペクトルが報告されているものの、発光強度(例えば、光輝性量子収量)を示すものは報告されていない。他の研究者らは、キャッピング剤の存在下での窒化物ナノ結晶体の調製を試みてきているが、これらの手法で調製された窒化物ナノ結晶体における強い発光は一切報告されていない(Micic et. al., Appl. Phys. Lett., 1999, 74, 478; Van Patten et. al., Chem. Mater., 2006, 18, 3915; Cole-Hamilton et. al., J. Mater. Chem., 2004, 14, 3124; Rao et. al., Small, 2005, 1, 91)。
【0007】
US2008/0173845では、第IIIB族窒化物半導体のコアと、窒素含有化合物と、第IIIB族元素含有化合物と、修飾有機材料とを含む混合溶液を加熱することによって、被覆されたナノ結晶性蛍光体を、高い合成収量でもって製造する方法が提案されている。この文献では、この方法により発光効率が向上したナノ結晶体が得られることが述べられているが、光輝性量子収量の値は示されていない。
【0008】
US2006/000119およびUS2006/0014040では、金属層が半導体ナノ結晶体コアの表面上に形成されている、半導体ナノ結晶錯体が開示されている。
【0009】
US2006/240227では、様々な半導体ナノ結晶体が開示されている。記載された実施例は、主に、CdSeまたはCdSe/ZnS構造体に関する。この文献では、CdSe/ZnS構造体に関しては、蛍光の量子収量が45%であり、光ルミネッセンスの量子収量が40〜90%であることが述べられている。この文献で提案されている方法に類似の方法が、窒化物システムに応用されており、放射性の材料を得られないことが分かっている。
【0010】
WO01/52741では、ナノ結晶体を光照射して、出力される発光を測定することによって、インビボにおいてグルコースを測定できるようにすることを目的としたナノ結晶体が提案されている。ここでは、ナノ結晶体のPLQYのいかなる値も示されていない。
【0011】
US2007/0111488では、非極性の窒化インジウムガリウム薄膜を製造する方法が提案されている。
【0012】
WO2007/020416およびWO2009/040553(2009年4月までは未公開)は、コア−シェル構造体の製造に関し、具体的には、どのようにコアおよびシェルが製造されるかに関する。これらは、主として、窒化物に関するものではない。表面の原子をキャップするための有機キャッピング剤(全体に完全に配位するものではない)を使用することを提案している。
【0013】
WO2008/094292は、コア−シェル構造体を含む、半導体ナノ構造体の製造に関する。ここでは、例えばTOPO(トリオクチルホスフィンオキシド)およびTOP(トリオクチルホスフィン)などの、いくつかの特定のキレート配位子溶液を使用することが提案されている。
【0014】
WO2009/040553(2009年4月まで未公開)は、概してコア−シェル構造体の製造に関し、具体的には、どのようにコアおよびシェルが製造されるかに関する。ここでは、キャッピング剤として標準的な有機分子を使用することが提案されている。さらに、前駆体としてカルボン酸金属塩を用いて、金属オキシドシェルを形成することが提案されている。
【0015】
WO2007/020416は、概して、WO2009/040553と類似の教示を含んでいる(これらの文献は何れも同一の出願人によるものである)。ここでもやはり、キャッピング剤として標準的な有機分子を使用することが提案されている。
【0016】
WO2008/094292は、コア−シェル構造体を含む、半導体ナノ構造体の製造に関する。ここでは、「キレート配位子溶液」中での成長、およびこのための様々な親液サーファクタント分子が提案されている。
【発明の概要】
【0017】
本発明の第1の態様は、少なくとも1%の光輝性量子収量を有する、発光性窒化物ナノ粒子を提供する。
【0018】
窒化物ナノ粒子の「光輝性量子収量」は、ナノ粒子に光ルミネッセンスを生じさせる励起光源によってナノ粒子を照射したときの、ナノ粒子が吸収する光子数に対するナノ粒子が放射する光子数であるの比である。
【0019】
用語「光輝性量子収量」は、本技術分野においてしばしば使用される用語「光輝性量子効率」と混同すべきではないことを留意すべきである。「光輝性量子効率」は、物質に吸収される光子および物質から放射される光子のエネルギーを考慮にいれている。励起波長と放射波長とが類似している場合には、光輝性量子収量と光輝性量子効率とは似た値となるであろう。しかしながら、放射波長と比較し、励起波長の波長が短く、よってより高エネルギーである場合には、光輝性量子効率は、光輝性量子収量よりも低くなるであろう。
【0020】
本発明は、高い発光性の窒化物ナノ粒子、例えばナノ結晶体を開示する。従来技術における窒化物ナノ粒子は高い放射性ではなく、光輝性量子収量は1%をはるかに下回っている。
【0021】
発光性窒化物ナノ粒子は、少なくとも5%、または少なくとも10%、または少なくとも20%の光輝性量子収量を有する。
【0022】
発光性窒化物ナノ粒子は、少なくとも1つの寸法がナノスケール寸法である窒化物結晶体と、該窒化物結晶体の表面に供給されており、該結晶体の該表面にある窒素原子を不動態化するための電子求引基を含む、少なくとも1つのキャッピング剤とを備えている。本発明の放射性の窒化物ナノ結晶体は、成長中の結晶体の表面に効率的に配位できるキャッピング剤の存在下で金属窒化物の合成を行うことにより、初めて調製された。電子求引基を有するキャッピング剤を付与することにより、得られる窒化物ナノ粒子の量子収量が大幅に増加することが分かっている。従来技術の窒化物ナノ粒子の光輝性量子収量は、1%をはるかに下回っているのに対し、本発明の方法により製造される窒化物ナノ粒子では、20%以上の光輝性量子収量を得ることが可能である。
【0023】
本発明の第2の態様は、少なくとも1つの寸法がナノスケール寸法である窒化物結晶体と、該窒化物結晶体の表面に供給されており、電子求引基を含む少なくとも1つのキャッピング剤とを備えており、該電子求引基は、金属、ホウ素またはケイ素を含む、窒化物ナノ粒子を提供する。
【0024】
本発明の第3の態様は、コアと;該コアの周囲に配置された窒化物層と;該窒化物層の表面に供給されており、電子求引官能基を有する少なくとも1つのキャッピング剤と;を備えており、該電子求引官能基は、金属、ホウ素またはケイ素を含む、ナノ粒子を提供する。コアは、窒化物コアであり得るが、本態様のナノ粒子は、代わりに、窒化物コアではないコアを有していてもよい。
【0025】
第2または第3の態様のナノ粒子は、発光性でもよく、または非発光性でもよい。発光性である場合、少なくとも1%の光輝性量子収量を有し得る。ナノ粒子は、少なくとも5%、または少なくとも10%、または少なくとも20%の光輝性量子収量を有し得る。
【0026】
上記少なくとも1つのキャッピング剤は、上記窒化物結晶体の表面または窒化物層の表面に位置している金属原子、ホウ素原子またはケイ素原子を不動態化するための電子供与基をさらに含んでいてもよい。これにより、ナノ結晶体の成長の間、1以上の構成成分の反応混合物中への溶解性の促進を助けることができる。それにより、より均質な溶液がもたらされ、ナノ結晶体の成長がよりよく制御されることになる。
【0027】
少なくとも1つのキャッピング剤は、結晶体の表面または窒化物層の表面にある窒素原子を不動態化するための電子求引基と、結晶体の表面または窒化物層の表面にある金属原子、ホウ素原子またはケイ素原子を不動態化するための電子供与基とを有するキャッピング剤であり得る。
【0028】
上記電子求引基は、金属、ホウ素またはケイ素であり得る。このような電子求引基は、高い量子収量を有する窒化物ナノ粒子の製造に有効であることが分かっている。
【0029】
上記電子求引基は、第II族金属または第III族元素であり得る。あるいは、電子求引基は、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Zr,Ag,Mo,Ru,Pd,Cd,Ta,W,Os,Ir,Pt,AuおよびHgからなる群より選択される金属であり得る。あるいは、Al,Ga,Inからなる群より選択される金属であり得る。金属は、金属アミン、カルボン酸金属塩、金属アセトアセトネート、スルホン酸金属塩、ホスホン酸金属塩、チオカルバミン酸金属塩、または金属チオレートとして供給され得る。
【0030】
電子供与基は、ホスフィン、ホスフィンオキシド、カルボン酸、カルボン酸塩、アミン、スルホン酸塩、エステル、チオールおよびチオレートからなる群より選択され得る。
【0031】
窒化物結晶体は、式Mを有する金属窒化物、ホウ素窒化物またはケイ素窒化物の結晶体であり得、ここで、Mは、金属、ホウ素またはケイ素を表しており、xおよびyは整数を表している。あるいは、窒化物結晶体は、2以上の金属、ホウ素またはケイ素を含んでおり、かつ一般式M1x1M2x2M3x3...Mnxnを有しているものであり得、ここで、M1、M2、M3...Mnは、相違する金属、ホウ素またはケイ素を表しており、x1、x2、x3...xnは、金属、ホウ素またはケイ素の量を表しており、yは窒素の量を表している。
【0032】
上記金属または上記各金属は、第III族金属であり得る(用語「第III族元素」は第III族金属の全て(すなわち、Al,Ga,In,Tl)とさらにホウ素とを含んでいる点で、用語「第III族金属」は用語「第III族元素」とは異なることに留意すべきである。ホウ素は「第III族元素」ではあるが、通常、金属とはみなされていないので、「第III族金属」ではない。
【0033】
窒化物結晶体は、窒化インジウムの結晶体であり得る。窒化インジウムは、スペクトルの赤外部分にバンドギャップを有している。そのため、閉じ込め効果とともに、窒化インジウムナノ粒子は、スペクトルの可視領域にバンドギャップがある。
【0034】
上記少なくとも1つのキャッピング剤は、カルボン酸亜鉛であり得る。
【0035】
窒化物結晶体は、上記ナノ粒子のコアを形成していてもよく、上記ナノ粒子は上記コアの周囲に配置されたシェルをさらに含んでいてもよい。
【0036】
コアは、InNコアまたはInGaNコアであり得る。シェルは、ZnSシェルであり得る。
【0037】
あるいは、窒化物層は、ナノ粒子のコアの周囲に配置されたシェルを形成してもよい。コアは、InNコアまたはInGaNコアであり得る。ナノ粒子は、窒化物層の周囲に配置された別のシェルをさらに含んでいてもよく、この別のシェルはZnSによって形成されている。
【0038】
本発明は、高い発光性の窒化物ナノ粒子、例えば、ナノ結晶体を開示している。従来技術で記載されている窒化物ナノ結晶体は、高い放射性ではない。
【0039】
本発明の窒化物ナノ結晶体は、成長中の結晶体の表面に効率的に配位できるキャッピング剤の存在下で金属窒化物の合成を行うことにより、初めて調製された。初めて、そのサイズがよりよく制御された、高い放射性の窒化物ナノ結晶体が調製された。
【0040】
このことを達成するために、第1に、高い沸点を有する溶媒中で混合物を225℃まで加熱した場合に、ヨウ化インジウムとナトリウムアミドとの反応により首尾よくナノ結晶性窒化インジウムを形成できることがわかった。これは、従来技術に記載した高圧のソルボサーマル経路と対照的である。第2に、アルキルチオール(例えば、1−ヘキサデカンチオール)を追加することにより、溶解性窒化インジウムナノ結晶体を形成できることが同定された。しかしながら、この溶解性窒化インジウムナノ結晶体は、高い放射性ではなかった。最後に、ステアリン酸亜鉛を反応に追加することにより、高放射性の窒化インジウムナノ結晶体を形成できる。この結晶体は、反応の長さによってサイズおよび対応する電子スペクトルを簡単に調節できる。反応の長さは、5〜60分で変化し得る。さらに、ステアリン酸亜鉛により、反応混合物中へのナトリウムアミドの溶解を促進させ、これにより、ナノ結晶体の成長をよりよく制御できるようになることが期待される、より均質な溶液がもたらされることが判明した。
【0041】
ステアリン酸亜鉛中の亜鉛原子は、ナノ結晶体の表面の窒素原子に配位することができ、これにより、ナノ結晶体の成長を調節できるとともに、表面を不動態化でき、強い放射をもたらすと考えられる。これは、従来技術と比較して著しい効果をもたらす。
【0042】
他の半導体と比較すると、本窒化物は、電磁スペクトルがより広範な範囲に及んでおり、他のIII−V材料のように、本窒化物は、より大きな励起子直径を有している。このことは、光学スペクトルにおけるより顕著な量子寸法効果を有しているはずであることを示している(Brus, J. Chem. Phys., 1983, 33, 6976)。この特性は、図2に示される、本発明を用いて調製した窒化インジウムナノ結晶体の放射スペクトルに見られる。図2は、放射波長ピークが、少なくとも480nmから850nmとなる範囲の値となるように調整され得ることを示している。この範囲は、従来技術で知られている他の任意の材料から作られるナノ結晶体よりも広い範囲である。
【0043】
現在まで、放射性ナノ結晶体の大多数は、硫化カドミウム、セレン化カドミウムおよび硫化鉛などのII−VI材料によって構成されている。これらの材料中に毒性の強い重金属が含まれているということは、従来技術に比して顕著な効果が、本発明の窒化物ナノ結晶体にもたらされることにもなる。絶えず厳しくなる規制および消費者意識により、消費者製品に毒性のある材料を用いることはますます難しくなる。本明細書に記載されている窒化物ナノ結晶体の調製に使用される出発材料はすべて低価格であること、およびこれらの材料からのナノ結晶体の調製に使用されるのは簡素な1ステップ工程であることは、さらなる効果である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、単一の反応における異なる時間から得られる窒化インジウムナノ結晶体溶液の一連の吸収スペクトルを示している。
【図2】図2は、単一の反応における異なる時間から得られる窒化インジウムナノ結晶体溶液の一連の放射スペクトルを示している。
【図3】図3は、窒化インジウムナノ結晶体のAFM像を示している。
【図4】図4は、図3に示すナノ結晶体の選択物のサイズ分散を示すヒストグラムを示している。
【図5】図5は、窒化インジウムナノ結晶体の選択物を示す、透過型電子顕微鏡による像を示している。
【図6】図6は、細長い窒化インジウムナノ結晶体の選択物を示す、透過型電子顕微鏡による像を示している。
【図7】図7は、非晶質シリコン基板上に堆積させた窒化インジウムナノ結晶体の高分解能X線回折パターン像を示している。
【図8】図8は、高い発光性の窒化物ナノ結晶体の一般化化学構造案を示している。
【図9】図9は、高い発光性の窒化インジウムナノ結晶体である具体例の化学構造案を示している。
【図10】図10は、コア−シェルナノ粒子の模式構造を示している。
【図11】図11(a)および図11(b)は、InNコアのみのナノ粒子のTEM顕微鏡写真であり、図11(c)は、InNコアのみのナノ粒子のサイズヒストグラムである。
【図12(a)】図12(a)は、InNコアのみのナノ粒子のHRTEM像である。
【図12(b)】図12(b)は、図12(a)のHRTEM像のフーリエ変換である。
【図13】図13は、InNコアのみのナノ粒子のEDXスペクトルである。
【図14(a)】図14(a)は、InN−ZnSコア−シェルナノ粒子のTEM電子顕微鏡写真である。
【図14(b)】図14(b)は、InN−ZnSコア−シェルナノ粒子のサイズヒストグラムである。
【図15(a)】図15(a)は、InN−ZnSコア−シェルナノ粒子のHRTEM像である。
【図15(b)】図15(b)は、図15(a)のHRTEM像のフーリエ変換である。
【図16(a)】図16(a)は、InN−ZnSコア−シェルナノ粒子のHRTEM像である。
【図16(b)】図16(b)は、図16(a)のHRTEM像のフーリエ変換である。
【図17】図17は、InN−ZnSコア−シェルナノ粒子のコアおよびシェルからのEDXスペクトルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、半導体化合物のナノ粒子(例えば、ナノ結晶体)に関する。より具体的には、本発明は、一般式Mである金属窒化物の放射性ナノ粒子(例えば、ナノ結晶体)に関する。ここで、Mは、金属、ケイ素またはホウ素であり、xおよびyは、化学量論の平衡を保つことが要求される整数である。本発明はまた、一般式M1x1M2x2M3x3...Mnxnである2以上の窒化物の合金の放射性ナノ結晶体に関する。ここで、M1,M2,M3...Mnは、異なる金属、ホウ素またはケイ素を表しており、番号x1,x2,x3...xnは、合金中の金属、ホウ素またはケイ素の相対的な量を示しており、yは、化学量論の平衡を保つのに要求される窒素の量である。より具体的には、本発明は、一般式Bx1Alx2Gax3Inx4Tlx5Nである第III族元素の窒化物およびそれらの合金の放射性ナノ結晶体に関する。ここで、番号x1,x2,x3,x4およびx5は、0から1までの範囲であり、合金中の元素の相対的な量を示しており、x1+x2+X3+X4+X5=1である(すなわち、y=1)。より具体的には、本発明は、放射性InNナノ結晶体に関する。
【0046】
本発明によれば、均一なサイズを有するナノ粒子(例えば、ナノ結晶体)の製造が可能になる。ナノ結晶体は、その直径が約1nmから約100nmの範囲、より具体的には、約1nmから約30nmの範囲となるように製造され得る。本発明は、おおよそ、ワイヤ形状、血小板形状、球形状、ロッド形状、矢形状、涙滴形状およびテトラポッド形状などの形状の範囲のナノ結晶体の製造に使用され得る。さらに、本発明によって提供されるナノ結晶体は、第2材料のシェルが窒化物ナノ結晶体(コア−シェル構造のコアを形成)の表面上に直接成長したコア−シェル構造を有し得る。1以上のこのようなシェルが成長し得る。このシェルは、コアの製造に用いられた窒化物と異なる窒化物、あるいはIII−V半導体もしくはII−VI半導体、または他の任意の好適な材料によって作られ得る。理想的には、励起状態をナノ結晶体のコア内に制限することを助長させるために、シェル材料のバンドギャップは、コアを形成する窒化物のバンドギャップよりも大きい;このような材料からの放射強度がこれにより向上することが知られている。
【0047】
この発明に記載されているナノ結晶体を形成する方法は、窒化物ナノ結晶体を形成するための、金属源、ホウ素源またはケイ素源を必要とする。金属、ホウ素またはケイ素を含む任意の化合物が考慮され得る。好ましい具体例としては以下が挙げられる;金属、ホウ素またはケイ素の、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、カルボン酸塩、アルコキシド、水酸化物、トリフルオロメタンスルホン酸塩、酸化物、硫化物、硫酸塩、亜硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、アジド化物、アミド化物、アルキル、ホスホン酸塩およびリン化物。金属、ホウ素またはケイ素の1以上の源が、InGaNなどの窒化物合金からなるナノ結晶体の製造に使用され得る。好ましい実施形態において、源は、InI、GaIなどのヨウ化物である。
【0048】
この発明に記載されているナノ結晶体を形成する方法は、窒化物ナノ結晶体を形成するための窒素源を必要とする。任意の好適な窒素含有化合物が考慮され得る。好ましい具体例としては、アンモニア、金属アジド化物、金属窒化物、アミン類(N(SiR,NH(SiR,NH(SiR),NR,NHR,NHRなどであり、Rは、−(CHCHなどのアルキル基(nは整数)、−C(CHまたは−COC(CHなどの任意の分枝鎖状アルキル基である。)、金属アミド(M(N(SiRおよびM(NR)yなどであり、RはHまたは−(CHCHなどのアルキル基(nは任意の整数)または−C(CHもしくは−COC(CHなどの任意の分枝鎖状アルキル基であり、Mは、好ましくはLi,Na,K,CaおよびMgなどの第1族金属または第2族金属であり、xおよびyは化学量論の平衡を保つことが要求される整数である。)が挙げられる。好ましい実施形態において、窒素源は、NaNH、LiNHまたはKNHである。
【0049】
窒化物ナノ結晶体を形成するために必要な金属(またはホウ素もしくはケイ素)および窒素を提供する別々の材料を使用することに加えて、窒化物ナノ結晶体を形成するために必要な金属(またはホウ素もしくはケイ素)および窒素の両方を提供する単一の材料を使用することも本発明の範疇に含まれる。任意の好適な材料を使用することができ、具体例としては、M(NR(ここで、Mは、含めるべき金属、ホウ素またはケイ素であり、xは窒化物における化学量論の平衡を保つことが要求される数であり、Rは、H、−(CHCHなどのアルキル基(nは整数)、−C(CHもしくは−COC(CHなどの任意の分枝鎖状アルキル基である)、M(N(SiR(ここで、Mは、窒化物中に含めるべき金属、ホウ素またはケイ素であり、xは化学量論の平衡を保つことが要求される数であり、Rは、−(CHCHなどのアルキル基(nは整数)、−C(CHもしくは−COC(CHなどの任意の分枝鎖状アルキル基である)、金属アミドポリマー、金属アジド錯体、および金属尿素錯体が挙げられる。
【0050】
本発明のナノ結晶体の製造方法におけるさらなる特徴は、ナノ結晶体の成長を制御するため、および強い放射が可能となるようにナノ結晶体の表面を不動態化するために、使用するキャッピング剤を選択することである。これらキャッピング剤は、一般に、電子供与官能基または電子求引官能基の何れか(またはその両方)によって、金属(またはケイ素もしくはホウ素)窒化物ナノ結晶体の表面に配位できる官能基からなる。公知のように、「官能基」は、その分子の特有の化学反応に関与する、分子中、とりわけ有機分子中にある、特定の原子の基である。
【0051】
キャッピング剤はまた、トルエン、ヘキサンおよびジエチルエーテルなどの非極性溶媒に対して溶解性となるように、場合により、長い直鎖状または分枝鎖状のアルキル鎖を含み得る。アルキル鎖はまた、場合により、メタノール、エタノールおよび水などの極性溶媒に対してナノ結晶体を溶解できるようにする、修飾または機能化がなされ得る。これは例えば、アルキル鎖に対して、−P(O)(OM),−OP(O)(OM),−C(NH)OM,−COM,−SOM,−OSOMおよび−NHXなどの極性官能基を付加することで達成し得る。ここで、Mは、金属であり、Xは対イオンである。ナノ結晶体を極性溶媒に溶解できるようにする別の方策としては、多数のエーテル結合(−CH−O−CH−)を含むアルキル鎖を用いることである。極性溶媒および非極性溶媒の両方への溶解性を付与することに加えて、いくつかの利用において所望される他の種または材料にナノ結晶体を付随できるようにするように、ナノ結晶体に付随しているアルキル鎖は修飾され得る。他の種との特定の結合部位を含む誘導体もまた、本発明の一部であり、バイオイメージングおよび公害監視などの分野に利用可能である。
【0052】
さらなる実施形態において、アルキル鎖は、ナノ結晶体がポリマー、プラスチック、ガラス等の固体マトリクス内に組み込まれることができるように選択され得る。さらなる実施形態において、アルキル鎖は、ナノ結晶体がポリマー化できるような修飾ができるように選択され得る。好ましい実施形態においては、5〜30のCHユニット、より理想的には、10〜20のCHユニットを有する鎖である、単純な直鎖状アルキル鎖が用いられる。
【0053】
電子供与基の選択に関しては(存在する場合)、任意の電子供与官能基が好適ではあるが、ホスフィン、ホスフィンオキシド、カルボン酸、カルボン酸塩、アミン、スルホン酸塩、エステル、チオールおよびチオレートなどの官能基が好ましい。好ましい実施形態においては、電子供与官能基として、チオレートが選択される。
【0054】
電子求引官能基の選択に関しては、好適な金属、ケイ素またはホウ素を含む電子求引官能基が用いられ得る。上述のとおり、電子求引官能基は、ナノ結晶体の表面に配位することができる。これは、窒素原子が不動態化されるように、またナノ結晶体の蛍光が弱まらないように、ナノ結晶体の表面にある窒素原子に配位している、電子求引官能基の個々の金属(またはケイ素もしくはホウ素)原子において生じていると考えられる。任意の第II族金属もしくは第III族金属または以下の金属(Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Zr,Ag,Mo,Ru,Pd,Ag,Cd,Ta,W,Os,Ir,Pt,Au,Hg)のうちの1つを含む電子求引官能基を用いることが好ましい。好ましい実施形態においてはZnを含む電子求引官能基が使用される。
【0055】
電子求引官能基はまた、金属をアルキル鎖に結びつける役目を果たす成分を含んでいる。それゆえ、電子求引官能基は、金属(またはケイ素もしくはホウ素)および当該成分の組み合わせとして構成されており、「金属(またはケイ素もしくはホウ素)錯体」ともみなされ得る。電子求引官能基は金属原子を含み得るが、個々の金属原子は金属錯体中の構成成分を形成しているものであり、互いに結合して伝導に利用可能な遊離電子を有するバルク金属を形成しているものではないことに留意することは重要である。電子求引官能基の上記成分として、アミン、カルボン酸塩、アセトアセトネート、スルホン酸塩、ホスホン酸塩、チオカルバミン酸塩、チオレートなどの任意の成分を用いることが可能である。好ましい実施形態においては、電子求引官能基として、ステアリン酸亜鉛などのカルボン酸亜鉛が使用される。
【0056】
一実施形態において、電子供与基および電子求引基の両方を提供するために、単一のキャッピング剤が使用される;ここでは、2つの可能性がある−電子供与基および電子求引基の何れにも機能し得る1つの官能基をキャッピング剤が含んでいる場合、あるいは、キャッピング剤が2つの官能基を含んでおり、一方が電子供与基として機能し、他方が電子求引基として機能する場合。別の実施形態において、2以上の異なるキャッピング剤が使用される。好ましい実施形態においては、あるキャッピング剤が電子供与体として用いられ、他のキャッピング剤が電子受容体として用いられる。
【0057】
図8は、本発明に開示されているナノ結晶体の構造案を図示している。これは、ナノ結晶体の表面に付随している電子供与官能基および電子求引性官能基の両方を有している、窒化物結晶体からなる。構造案では、電子供与官能基が、結晶体の表面にある金属(またはケイ素もしくはホウ素)原子を不動態化し、電子求引基が、窒素原子を不動態化する。金属窒化物以外の材料から作られているナノ結晶体は、通常、非金属元素を不動態化するために水素結合を使用している一方で、これは、金属(またはケイ素もしくはホウ素)窒化物の場合には効果的ではないと思われる。そのため、本明細書では、金属(またはケイ素もしくはホウ素)錯体が効果的にナノ結晶体の表面を不動態化でき、それゆえ強い発光性をもたらすことを開示している。図9は、構造案の特定の例を図示しており、ここでは、ステアリン酸亜鉛およびヘキサデカンチオレートが、窒化インジウムナノ結晶体の表面に配位されている。ステアリン酸亜鉛は、窒化インジウムナノ結晶体の表面にある、あるいは表面の近くにある窒素原子を不動態化しており、ヘキサデカンチオレートは、窒化インジウムナノ結晶体の表面にある、あるいは表面の近くにある金属原子を不動態化している。
【0058】
本発明により得られるナノ結晶体の一つの応用として、広範な照明用途における蛍光体としての、金属窒化物ナノ結晶体の使用がある。ここでは、別の光源が、窒化物ナノ結晶体の蛍光を励起するために使用される。一実施形態において、狭いスペクトル範囲で放射される窒化物ナノ結晶体の蛍光は、スペクトルの任意の領域の単一純色を発する光を作り出すために用いられ得る。さらなる実施形態においては、本発明により、異なるサイズの一連の窒化物ナノ結晶体を混合することで、任意の色(または任意の色範囲)の光を作り出すことができる。好ましい実施形態は、ナノ結晶体を照射するために用いられる光源が発光ダイオードの場合であり、これにより、蛍光−変換発光ダイオードが作り出される。本発明の方法により得られるナノ粒子は、LED本体全体に配置させられるか、LED本体中に組み込まれ得る。使用するとき、ナノ粒子はLEDからの光を吸収する。そして、出力されるものが、LED出力光とナノ粒子によって再放射された光との混合、あるいは(ナノ粒子が実質的に全てのLED出力光を吸収した場合)ナノ粒子によって再放射された光のみの何れかからなるように、ナノ粒子は再放射する。
【0059】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、コア−シェルナノ結晶体を調製するために、記載された窒化物ナノ結晶体を使用することである。ここでコア−シェルナノ結晶体は、ナノ結晶体と異なる材料の1以上のシェルが、ナノ結晶体(コア−シェル構造体のコアを形成する)の表面上に成長させられている。図10は、コア−シェル構造の模式図を示している;図10において、シェル2はコア1を取り囲む単一層として示されているが、原理上は、シェル2は2以上の層を含み得る。「コア−シェル」構造体を製造するための、1以上の異なる材料によるナノ粒子の表面被覆は、今や、研究が活発な領域である。なぜならば、このような「コア−シェル」構造体は、シェル材料に応じた一定の修飾により、コア材料の物理的および化学的特性の修飾および調整が可能となるためである。さらには、コア−シェル構造体は、コア材料およびシェル材料いずれにも見られない特性を有することが期待される。1以上のシェルがコア全体に成長させられ得る。
【0060】
本発明の窒化物材料は、コア−シェル構造体を形成するためにコアの周囲に配置される窒化物層として使用され得る。この場合、コアは任意の好適なプロセスによって製造することができ、コアは窒化物材料に限定されない。
【0061】
あるいは、本発明の窒化物材料は、コア−シェル構造体の窒化物コアとして使用され得る。この場合、シェルは任意の好適なプロセスによって製造することができ、シェルは窒化物材料に限定されない。
【0062】
あるいはさらに、コア−シェル構造体は、そのコアおよびそのシェルの何れもが本発明の窒化物材料によって形成されていてもよい。
【0063】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、発光ダイオードまたはレーザダイオードなどの光源によって励起される大領域照明パネルを提供するための、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0064】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、蛍光ファイバー、蛍光ロッド、蛍光ワイヤ、および他の形状のものを提供するための、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0065】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、発光によって減衰する、励起状態を生み出す電流を使用して、窒化物ナノ結晶体に直接電気注入する発光ダイオードを作ることである。
【0066】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、液晶ディスプレイに用いられるバックライトの一部としての、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0067】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、プラズマディスプレイパネル、電界放出ディスプレイまたはブラウン管などのディスプレイにおける放射性種としての、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0068】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、有機発光ダイオードにおける放射性種としての、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0069】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、太陽集光器における放射性種としての、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。ここで、太陽集光器から放射される光は、回収した光を電流に変換するために使用される太陽電池に適合するものである。別々の太陽電池にそれぞれ適合する一連の波長において光を供給するように、1以上のこのような集光器が互いに積み重なっていてもよい。
【0070】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、有機太陽電池または有機光検出器における集光種としての、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0071】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、色素増感太陽電池または色素増感光検出器における集光種としての、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0072】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、太陽電池または光検出器において多数の励起子を生み出すプロセスであるが、単一の光子の吸収から多数の励起子を生み出すための、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0073】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、戦闘中における身分照明を手助けするための、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0074】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、資産管理および資産マーキングにおいて手助けするための、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0075】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、偽造インクとしての、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0076】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、インビボおよびインビトロの両方におけるバイオマーカーとしての、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0077】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、光線力学療法における、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0078】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、例えば癌診断、フローサイトメトリーおよび免疫アッセイにおけるバイオマーカーとしての、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0079】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、フラッシュメモリーにおける、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0080】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、量子計算における、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0081】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、ダイナミックホログラフィーにおける、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0082】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、熱電素子における、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0083】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、遠隔通信に用いられる機器における、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【0084】
本発明のナノ結晶体のさらなる用途は、任意の用途のための、金属(またはホウ素もしくはケイ素)窒化物ナノ結晶体の使用である。
【実施例】
【0085】
本発明に係るナノ結晶体を製造する方法の以下に記す実施例では、ジフェニルエーテルおよび1−オクタデセンは、(実施例において使用される場合、)減圧下で水酸化カルシウムから蒸留して得られる。全ての操作および合成は、真空乾燥(140℃)したガラス製品および装置を用いて、グローブボックス内で行ったものの、他の全ての試薬は、(例えば、シグマ−アルドリッチ社から)受け取った状態で使用した。
【0086】
(実施例1)
ヨウ化インジウム(300mg、0.6mmol)、ナトリウムアミド(500mg、12.8mmol)、ヘキサデカンチオール(380μl、1.0mmol)、ステアリン酸亜鉛(379mg、0.6mmol)およびジフェニルエーテル(20ml)を225℃まで急速に加熱した。構成成分のうち、ヨウ化インジウムは第III族金属(インジウム)を供給し、ナトリウムアミドは窒素を供給し、ヘキサデカンチオールは電子供与基を有するキャッピング剤であり、ステアリン酸亜鉛は電子求引基を有するキャッピング剤であり、そしてジフェニルエーテルは溶媒として働く。60分の経過の間、反応混合物の一部(0.25ml)を数回取り出し、それをシクロヘキサン(3ml)に希釈し、あらゆる不溶性物質を遠心分離機を用いて取り除いた。これにより得られる澄んだ溶液について、吸光光度法および発光分光法により分析をおこなった。その結果、図1および図2に示されるように、反応が経過している間、最大発光波長が、480nmから850nmまで変化することが示された。発光スペクトルにおけるピークは、ほぼ150nm程度の半値全幅強度を有していた。
【0087】
あらゆる溶解性不純物を除去して試料をさらに精製するために、イソプロパノールとメタノールとの1:1混合物(30ml)中に試料を滴下し、遠心分離機によって回収可能なナノ結晶体を沈殿させた。結果として得られる固体は、第2の溶媒(例えば、シクロヘキサン)に再溶解できる。
【0088】
このような反応に由来する試料を354nmの光源を用いて照射すると、試料は可視領域において放射するため、照射の結果の放射は、裸眼でも容易に見ることができる。これは、本発明により得ることのできる窒化物ナノ粒子における高い量子収量を示している。従来技術における窒化物ナノ粒子の発光は、通常、レベルが低すぎて、人間の目では見ることができない。
【0089】
凡例に示す時間において反応から取った一連の試料に由来する吸収スペクトルが、図1に記録されている。これは、反応が続くにしたがってナノ粒子のサイズが増加し、ナノ粒子のバンドギャップの変化がもたらされる結果として、吸収スペクトルが時間とともに変化することを示している。
【0090】
これらの試料における対応する発光スペクトルを図2に示す。1時間を限度に時折取り出した試料の発光スペクトルは、実質的に、全可視領域に及んでおり、赤外領域内に広がっている。それゆえ、溶液からナノ結晶体を回収する前の反応時間を適切に選択することにより、特定の光学特性(所望の発光波長ピークなど)を有するナノ結晶体を得ることが可能となる。
【0091】
この反応から取り出した試料の光輝性量子収量を、光束計の球を用いて測定した結果、値は10%であった。従来技術における窒化物ナノ粒子における光輝性量子収量は1%をはるかに下回るため、これは、従来技術に比して著しく大きな値である。
【0092】
この光輝性量子収量(PLQY:photoluminescence quantum yield)測定、および本明細書に記載した全てのPLQY測定は、Analytical Chemistry, Vol. 81, No. 15, 2009, pp6285-6294に記載された方法を用いて実施している。測定は、吸光度が0.04〜0.1である、窒化物ナノ結晶体のシクロヘキサン希釈試料について実施している。1,4−ジオキサン中のナイルレッドを標準として使用した。これは、PLQY70%を有している(Analytical Biochemistry, Vol. 167, 1987, 228-234)。全てのナノ結晶体試料および参照に関し、励起波長を450nmに固定した。
【0093】
シクロヘキサンに含まれるInNナノ結晶体試料を、雲母基板上にスピンコートし、原子間力顕微鏡による分析を行った。図3は、試料の位相画像を示しており、個々のナノ結晶体をはっきりと観察することができる。図4に示すヒストグラムは、ナノ結晶体のサイズを示すものであるが、ナノ結晶体の実寸は、ここで報告している形態よりも小さいようである(原子力間顕微鏡の先端が有限サイズであるため)。図5は、穴あき炭素膜上に堆積させた試料のTEM像を示している。図6は、ある試料において見られた3つのナノロッドのTEM像を示している。図7は、非晶質シリコン基板上に堆積させた窒化インジウムナノ結晶体試料の高分解能X線回折パターンを示している。このパターンは、ナノ結晶体のサイズが小さいため幅広になっているが、六方晶系の窒化インジウムから予想されるピーク位置に追随している。
【0094】
(実施例2)
ヨウ化インジウム(300mg、0.6mmol)、ナトリウムアミド(500mg、12.8mmol)、ヘキサデカンチオール(380μl、1.0mmol)、ステアリン酸亜鉛(379mg、0.6mmol)およびジフェニルエーテル(20ml)を250℃まで急速に加熱した。40分の経過の間、反応混合物の一部(0.25ml)を数回取り出し、それをシクロヘキサン(3ml)を用いて希釈し、あらゆる不溶性物質を遠心分離機を用いて取り除いた。これにより、放射性の窒化インジウムナノ結晶体の澄んだ溶液が得られる。実施例1と同様に、得られたナノ粒子の吸収/放射特性は反応に依存しており、図1および図2に類似した時間依存性を示した。
【0095】
(実施例3)
ヨウ化インジウム(300mg、0.6mmol)、ナトリウムアミド(500mg、12.8mmol)、パルミチン酸(256.4、1.0mmol)、ステアリン酸亜鉛(379mg、0.6mmol)およびジフェニルエーテル(20ml)を225℃まで急速に加熱した。本実施例において、ヘキサデカンチオールではなく、パルミチン酸が、電子供与基を有するキャッピング剤として用いられている。
【0096】
40分の経過の間、反応混合物の一部(0.25ml)を数回取り出し、それをシクロヘキサン(3ml)に希釈し、あらゆる不溶性物質を遠心分離機を用いて取り除いた。これにより、窒化インジウムナノ結晶体の澄んだ溶液が得られる。実施例1と同様に、得られたナノ粒子の吸収/放射特性は反応に依存しており、図1および図2に類似した時間依存性を示した。
【0097】
(実施例4)
ナトリウムアミド(100mg、2.56mmol)、ステアリン酸亜鉛(76mg、0.12mmol)およびジフェニルエーテル(3ml)の混合物を、250℃に加熱した、ヨウ化インジウム(60mg、0.12mmol)とヘキサデカンチオール(62μl、0.2mmol)とを含むジフェニルエーテル(20ml)溶液中に、素早く添加した。試料(0.5ml)を、6〜20分の規則的な間隔で取り出し、トルエン(3ml)を用いて希釈した。結果として得られた試料の発光スペクトルは、試料を取り出した時間に応じて、最大値が420nm〜670nmに及ぶピークを示し、半値全幅は140〜200nmに広がっていた。
【0098】
この手法の反応を行うことにより、実施例1よりも、ナノ粒子サイズの分散がより狭いものとなる。
【0099】
(実施例5)
ヨウ化インジウム(InI)(300mg、0.6mmol)を含むジフェニルエーテル(3ml)の高温溶液を、225℃に加熱した、ナトリウムアミド(500mg、12.8mmol)、ヘキサデカンチオール(612μl、2.0mmol)、ステアリン酸亜鉛(760mg、1.2mmol)およびジフェニルエーテル(20ml)を含む溶液に添加した。試料(0.5ml)を、1〜15分の規則的な間隔で取り出し、ヘキサン(3ml)を用いて希釈した。結果として得られた試料の発光スペクトルは、試料を取り出した時間に応じて、最大値が610nm〜810nmに及ぶピークを示し、半値全幅は152〜230nmに広がっていた。
【0100】
実施例2〜5において、ナノ結晶体は、上述の実施例1に記載のとおり、溶液から回収され得る。
【0101】
上述の実施例において、反応温度は225℃または250℃である。しかしながら本発明の窒化物ナノ結晶体の製造は、これらの反応温度を要求するものではない。概して、反応温度が高いほど、結果として得られる窒化物ナノ結晶体の結晶品質は優れたものとなる。そのため150℃の反応温度がおおむね好ましい。しかしながら、構成成分のいくつかの組み合わせにおいては、150℃よりも低い反応温度、場合によっては室温ほどの低い反応温度であっても、品質が許容範囲にある結晶体を得ることができることが期待される。
【0102】
(実施例6)
窒素源としてナトリウムアミドを使用した場合と比較して、溶解性の窒素源を使用することにより、発光ピークの半値全幅強度が低減することが示されている。好適な溶解性窒素源の一つは、(CHCHNLi−ジエチルアミドリチウムである。用語「溶解性の」は、窒素源が反応混合物中に溶解できることを意味している。このことは、普通、反応が行われる溶媒に対して窒素源が溶解できることを要することと同等である。なぜなら、溶媒は、反応混合物の大部分(体積換算)を構成するであろうためである。窒素源は、完全に溶解できることを必要としないが、向上した溶解性は有益である。他の好適な溶解性の窒素源は、他の金属アミドであり、ジメチルアミドリチウム[(CHNLi]、ジプロピルアミドリチウム[CH(CHNLi]、ジブチルアミドリチウム[CH(CHNLi]および一般式RNMを有する他の金属アミドなどである。ここで、Mは、金属であり、Rは直鎖状または分枝鎖状のアルキル鎖である。発光ピークのピーク幅の減少は、窒素源の溶解性が増加することによって、より均質な反応混合物が得られ、これにより、個々のナノ結晶体の成長が互いに同じ時間に開始でき、それゆえ、反応の間、個々のナノ結晶体は、互いに、より類似したサイズとなり、これにより、結果物であるナノ結晶体における発光スペクトルの幅がより狭くなったことによるものと考えられる。
【0103】
ヨウ化インジウム(300mg、0.6mmol)、ジエチルアミドリチウム(1g、12.6mmol)、ヘキサデカンチオール(308μl、1.0mmol)、ステアリン酸亜鉛(379mg、0.6mmol)および1−オクタデセン(20ml)を、225℃まで急速に加熱した。120分の経過の間、反応混合物の一部(0.25ml)を数回取り出し、それをシクロヘキサン(3ml)を用いて希釈し、あらゆる不溶性物質を遠心分離機を用いて取り除いた。結果として得られた澄んだ溶液について、吸光光度法および発光分光法により分析をおこなった。その結果、反応の経過している間、最大発光波長が、ほぼ500nmからほぼ600nmまで変化することが示された。発光スペクトルにおけるピークは、110〜150nmに広がっている半値全幅強度を有していた。これは、窒素源としてナトリウムアミドを使用した場合に観察されるよりも小さい値である。
【0104】
(実施例7−InN−ZnS コア−シェルナノ結晶体)
ヨウ化インジウム(600mg、1.2mmol)、ナトリウムアミド(1g、15.6mmol)、ヘキサデカンチオール(600μl、1.0mmol)、ステアリン酸亜鉛(760mg、1.2mmol)および1−オクタデセン(40ml)を250℃まで急速に加熱した。混合物を250℃で30分間保持した後、室温まで冷却し、遠心分離によりあらゆる不溶性物質を取り除いた。暗い色の溶液を、デカントで固体から移しとり、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(1g、2.7mmol)とともに、175℃で60分間、さらに処理した。混合物を室温まで冷却し、あらゆる不溶性物質を遠心分離により取り除き、InN−ZnSコア−シェルナノ結晶体の溶液を残した。ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛は、シェルのZnSの前駆物質である。ナノ結晶体は、シクロヘキサンにすぐに溶解する暗い固体を残すような、200mlの無水エタノールを用いた沈殿により、単離された。コア−シェルナノ結晶体は、コアのみの材料と比較して、向上したPLQYを示している。
【0105】
コア−シェルナノ結晶体は、コアのみの材料と比較して、長期にわたる向上した安定性を示している。コアのみの材料においては、空気にさらすことにより、材料の放射特性が低下し、最終的には消失してしまうことが分かっている。コア−シェル構造体を得るために硫化亜鉛でもって被覆することにより、放射特性は、空気に対する感度が低くなり、それゆえ、ナノ結晶体は長期にわたりより安定したものとなる。
【0106】
実施例7に記載した方法と同様の方法(ただし、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛との処理は省略)により調製したコアのみのInNナノ結晶体を、エタノールを用いた沈殿により単離し、トルエンに再溶解した。このトルエン溶液を、穴のある炭素TEM格子上に滴下して投じた。図11(a)および図11(b)のTEM像は、いくつかの個々のInNコアのみのナノ結晶体を示している。100を超えるこのようなナノ結晶体を測定し、図11(c)に図示されるサイズヒストグラムが得られた。ナノ結晶体のサイズは、6nm〜34nmに及び、平均直径は12.7nmであった。図12(a)の高分解能TEM(HRTEM:high resolution TEM)像は、ひとつのこのようなナノ結晶体を示している。図12(a)は、粒子直径が11nmであるInNコアのみのナノ粒子のHRTEM像である。このHRTEM像は、ナノ結晶体がより高い結晶性を有しており、立方晶系結晶構造を有していることを示している。観察された格子面間隔は、立方晶系窒化インジウムから予想されるものと一致している。図12(a)のフーリエ変換により構造をさらに確認した。図12(b)に示されるように、ナノ結晶体が立方晶系窒化インジウムの構成を有していることと再び一致した。
【0107】
図13は、コアのみのInNナノ結晶体のEDX(エネルギー−分散X線分光学)スペクトルを示しており、キャッピング剤由来の亜鉛および硫黄とともに、インジウムおよび窒素が存在することを確実にしている。観察された他の元素は、機器またはTEM格子の何れかに由来するものである。
【0108】
実施例7に記載のとおり調製したコア−シェルInN−硫化亜鉛ナノ結晶体をエタノールを用いた沈殿により単離し、トルエンに再溶解した。このトルエン溶液を、穴のある炭素TEM格子上に滴下して投じた。図14(a)のTEM像は、いくつかの個々のInN−ZnSコア−シェルナノ結晶体を示している。100を超えるこのようなナノ結晶体を測定し、図14(b)に図示されるサイズヒストグラムが得られた。ナノ結晶体のサイズは、6nm〜42nmに及び、平均直径は19.4nmであった。比較すると、コアのみのInNコアのみの材料は、6〜34nmのサイズ分布であって、平均が12.7nmである。これは、予想通りに、ZnSシェルの成長によって、ナノ結晶体の平均サイズが増加することとなったことを示している。
【0109】
図15(a)に示される高分解能TEM像は、一つのこのようなナノ結晶体を示している。図15(a)は、粒子直径が17nm(コアの直径は10nm)であるInN−ZnSコア−シェルナノ粒子のコア領域のHRTEM像である。このHRTEM像は、ナノ結晶体コアが高い結晶性を有しており、立方晶系結晶構造を有していることを示している。観察された格子間隔は、立方晶系窒化インジウムから予想されるものと一致している。非晶質ZnSシェルもまた観察することができる。図15(a)のフーリエ変換によって構造をさらに確認した。図15(b)に示されるように、ナノ結晶体コアが立方晶系窒化インジウムの構成を有していることと再び一致した。
【0110】
図16(a)は、より小さなナノ結晶体の高分解能TEM像を示しており、これは六方晶系構造を有している(この粒子上にあるZnSシェルまで分解することは不可能である)。図16(a)は、粒子直径が6nm(シェルは解像できていない)であるInN−ZnSコア−シェルナノ粒子のコア領域のHRTEM像である。図16(b)に示されるように、図16(a)のフーリエ変換は、コアが六方晶系窒化インジウムを構成していることと一致している。
【0111】
図17は、コアの直径が7nmであり、全体の直径(粒子直径)が15nmであるコア−シェルInN−ZnSナノ結晶体に関する、細い、集束プローブビームを用いて得られたEDXスペクトルを示している。上段のスペクトルにおいては、ちょうどナノ結晶体のシェルではあるがビームが通過しており、予想通り、主として亜鉛および硫黄を含んでいることを示している。中段のスペクトルにおいては、ナノ結晶体のコアおよびシェルではあるがビームが通過しており、予想されたように、上側の記録線(シェルのもの)と比較し、より多くのインジウムが観察されている。下側の記録線は、粒子ではあるがビームが通過していない場合に得られるバックグラウンドスペクトルを示している。
【0112】
(実施例8−InGaNナノ結晶体)
ヨウ化ガリウム(113mg、0.25mmol)、ヨウ化インジウム(124mg、0.25mmol)、ナトリウムアミド(390 mg、10mmol)、ヘキサデカンチオール(153μl、0.5mmol)、ステアリン酸亜鉛(316mg、0.5mmol)および1−オクタデセン(40ml)を225℃まで急速に加熱し、225℃で保持した。20分、40分、および60分後に試料(0.25ml)を取り出し、シクロヘキサンを用いて希釈し、PLQYを測定した。結果、20分、40分、および60分の試料における値は、それぞれ14%、11%、および10.5%であった。反応混合物中にヨウ化ガリウムを追加することにより、結果として得られるナノ結晶体のPLQYが増加することが見られた。これはおそらくは、ガリウムがナノ結晶体中に組み込まれたためである。
【0113】
(実施例9−InGaN−ZnSコア−シェルナノ結晶体)
ヨウ化ガリウム(113mg、0.25mmol)、ヨウ化インジウム(124mg、0.25mmol)、ナトリウムアミド(390 mg、10mmol)、ヘキサデカンチオール(153μl、0.5mmol)、ステアリン酸亜鉛(316mg、0.5mmol)および1−オクタデセン(40ml)を225℃まで急速に加熱した。混合物を225℃で60分間保持した後、混合物を室温まで冷却し、遠心分離してあらゆる不溶性物質を取り除いた。結果として得られる暗い色の溶液を、デカントで固体から移しとり、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(1g、2.7mmol)とともに、175℃で60分間、さらに処理した。混合物を室温まで冷却し、あらゆる不溶性物質を遠心分離により取り除き、InGaN−ZnSコア−シェルナノ結晶体の溶液を残した。ナノ結晶体のPLQYを測定した結果、18%であった。このことは、InGaNナノ結晶体上にZnSシェルを成長させることによりPLQYが向上し、長期にわたる安定性が向上したことを示している。
【0114】
(実施例10−InGaN−ZnSコア−シェルナノ結晶体)
ヨウ化ガリウム(113mg、0.25mmol)、ヨウ化インジウム(124mg、0.25mmol)、ナトリウムアミド(390 mg、10mmol)、ヘキサデカンチオール(153μl、0.5mmol)、ステアリン酸亜鉛(316mg、0.5mmol)および1−オクタデセン(40ml)を225℃まで急速に加熱した。混合物を225℃で20分間保持した後、混合物を室温まで冷却し、遠心分離してあらゆる不溶性物質を取り除いた。結果として得られる濃い色つきの溶液を、デカントで固体から移しとり、試料4mlをジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(100mg、0.27mmol)とともに、175℃で40分間、処理した。結果として得られたナノ結晶体は、PLQYが23%であった。このことは、InGaNナノ結晶体上にZnSシェルを成長させることによりPLQYおよび安定性が向上することを再び示している。
【0115】
(実施例11−InGaN−GaNコア−シェルナノ結晶体)
ヨウ化ガリウム(113mg、0.25mmol)、ヨウ化インジウム(124mg、0.25mmol)、ナトリウムアミド(390 mg、10mmol)、ヘキサデカンチオール(153μl、0.5mmol)、ステアリン酸亜鉛(316mg、0.5mmol)および1−オクタデセン(40ml)を225℃まで急速に加熱した。混合物を225℃で20分間保持した後、混合物を室温まで冷却し、遠心分離してあらゆる不溶性物質を取り除いた。結果として得られる溶液20mlを、ヨウ化ガリウム(113mg、0.25mmol)およびナトリウムアミド(185mg、5mmol)とともにさらに処理して、225℃まで加熱し、225℃で20分間保持した。得られたナノ結晶体を測定した結果、PLQYは28%であった。このことは、InGaNナノ結晶体上に窒化ガリウムシェルを成長させることによって、硫化亜鉛のシェルの場合よりもPLQYが大幅に向上することを示している。
【0116】
(実施例12−InGaN−GaN−ZnSコア−シェル−シェルナノ結晶体)
ヨウ化ガリウム(113mg、0.25mmol)、ヨウ化インジウム(124mg、0.25mmol)、ナトリウムアミド(390 mg、10mmol)、ヘキサデカンチオール(153μl、0.5mmol)、ステアリン酸亜鉛(316mg、0.5mmol)および1−オクタデセン(40ml)を225℃まで急速に加熱した。混合物を225℃で20分間保持した後、混合物を室温まで冷却し、遠心分離してあらゆる不溶性物質を取り除いた。結果として得られる溶液20mlを、ヨウ化ガリウム(113mg、0.25mmol)およびナトリウムアミド(185mg、5mmol)とともにさらに処理して、225℃まで20分間加熱した。得られた溶液を遠心分離してあらゆる不溶性物質を取り除き、次いで、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(500mg、1.35mmol)とともに処理し、175℃まで加熱して、175℃で60分間保持した。得られたナノ結晶体を測定した結果、PLQYは21.5%であった。これは、GaNにより被覆されているInGaNナノ結晶体上にZnSシェルを成長させることにより、コア−シェル−シェル構造体となる一つの例である。他のコア−シェル構造体と同様に、シェルがナノ結晶体の長期にわたる安定性を向上させる。
【0117】
本発明は上述の特定の実施例に限定されるものではないこと、および実施例は、本発明の範囲から外れないように変更し得ることは、留意されるべきである。例えば、本発明は、上述の特定の実施例に挙げられた、特定の材料または特定の材料の組み合わせに限定されるものではない。一つの例として、実施例11または12におけるナノ結晶体は、InGaNコアではなくInNコアによっても具現化し得る。
【0118】
本発明の方法により得られるナノ結晶体は、例えば上述の任意の用途に用いることができるように、さらなる処理が行われるものであってもよい。例としては、本発明の方法により得られたナノ結晶体は、光源(例えば、励起光源からの光によりナノ結晶体が照射されている、光源)内にそれらを組み込むためのさらなる処理が行われてもよい。あるいは、ナノ結晶体がコアを形成しているコア−シェル構造体を提供するために、異なる一つまたは複数の材料の1以上のシェルをナノ結晶体の周囲に供給するためのさらなる処理が行われてもよい。任意の好適な処理ステップが、本発明の方法により得られたナノ結晶体に適用され得、これらのさらなる処理ステップは、おそらくは詳細には記載されない。
【0119】
本発明の好ましい実施形態は、ナノ結晶体に関して記載されている。しかしながら本発明のナノ粒子はナノ結晶体に限定されるものではなく、非晶質構造を有するナノ粒子であってもよい。
【0120】
本発明は、とりわけ発光性窒化物ナノ結晶体の製造に関して記述されている。しかしながら本発明はこれに限定されるものではなく、発光性ではない窒化物ナノ結晶体の製造にも適用され得る。
【0121】
本発明の性質および利点を完全に理解するために、添付した図面を併用して、次の詳細な説明を参照すべきである。
【0122】
上述の本発明は、同一の手法が多くの手法で異なり得ることは明らかであろう。このような変化は、本発明の精神および目的から逸脱するものとみなされるべきではない。当業者にとって明白なこのような修飾のすべては、以下の特許請求の範囲の目的の範囲に含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光性のナノ粒子であり、少なくとも1%の光輝性量子収量を有する、窒化物ナノ粒子。
【請求項2】
少なくとも5%の光輝性量子収量を有する、請求項1に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項3】
少なくとも10%の光輝性量子収量を有する、請求項1に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項4】
少なくとも20%の光輝性量子収量を有する、請求項1に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項5】
少なくとも1つの寸法がナノスケール寸法である窒化物結晶体と、該窒化物結晶体の表面に供給されており、該窒化物結晶体の窒素原子であって該窒化物結晶体の該表面に位置する窒素原子を不動態化するための電子求引官能基を含む、少なくとも1つのキャッピング剤とを備えた、請求項1〜4の何れか1項に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項6】
少なくとも1つの寸法がナノスケール寸法である窒化物結晶体と、該窒化物結晶体の表面に供給されており、電子求引官能基を含む少なくとも1つのキャッピング剤とを備えており、該電子求引官能基は、金属、ホウ素またはケイ素を含む、窒化物ナノ粒子。
【請求項7】
コアと、該コアの周囲に配置された窒化物層と、該窒化物層の表面に供給されており、電子求引官能基を有する少なくとも1つのキャッピング剤とを備えており、該電子求引官能基は、金属、ホウ素またはケイ素を含む、ナノ粒子。
【請求項8】
少なくとも1%の光輝性量子収量を有する、請求項6に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項9】
上記窒化物結晶体は、金属原子、ホウ素原子またはケイ素原子を含み、
上記少なくとも1つのキャッピング剤は、上記窒化物結晶体の金属原子、ホウ素原子またはケイ素原子であって上記窒化物結晶体の上記表面に位置している金属原子、ホウ素原子またはケイ素原子を不動態化するための電子供与基をさらに含んでいる、請求項5、6または8に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項10】
上記窒化物結晶体は、金属原子、ホウ素原子またはケイ素原子を含み、
上記少なくとも1つのキャッピング剤は、上記窒化物結晶体の窒素原子であって上記窒化物結晶体の表面に位置する窒素原子を不動態化するための電子求引基と、上記窒化物結晶体の金属原子、ホウ素原子またはケイ素原子であって上記窒化物結晶体の表面に位置する金属原子、ホウ素原子またはケイ素原子を不動態化するための電子供与基とを有するキャッピング剤である、請求項5、6、または8に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項11】
上記電子求引官能基は、金属、ホウ素またはケイ素である、請求項5に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項12】
上記電子求引官能基は、第II族金属または第III族元素である、請求項6または11に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項13】
上記電子求引官能基は、アルミニウム、ガリウムおよびインジウムの少なくとも1つを含む、請求項6または11に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項14】
上記電子求引官能基は、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Zr,Ag,Mo,Ru,Pd,Cd,Ta,W,Os,Ir,Pt,AuおよびHgからなる群より選択される金属である、請求項6または11に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項15】
上記電子求引官能基は、金属アミド、カルボン酸金属塩、金属アセトアセトネート、スルホン酸金属塩、ホスホン酸金属塩、チオカルバミン酸金属塩、または金属チオレートを包含する、請求項6、11、12、13または14に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項16】
上記電子供与基は、ホスフィン、ホスフィンオキシド、カルボン酸、カルボン酸塩、アミン、スルホン酸塩、エステル、チオールおよびチオレートからなる群より選択される、請求項9もしくは10に記載の、または請求項9もしくは10に従属している請求項11〜15の何れか1項に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項17】
上記窒化物結晶体は、式Mを有する金属窒化物、ホウ素窒化物またはケイ素窒化物の結晶体であり、Mは、金属、ホウ素またはケイ素を表しており、xおよびyは整数を表している、請求項5もしくは6に記載の、または請求項5もしくは6に直接的もしくは間接的に従属している請求項8〜16の何れか1項に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項18】
上記窒化物結晶体は、2以上の金属、ホウ素またはケイ素を含んでおり、かつ一般式M1x1M2x2M3x3...Mnxnを有しており、M1、M2、M3...Mnは、相違する金属、ホウ素またはケイ素を表しており、x1、x2、x3...xnは、金属、ホウ素またはケイ素の量を表しており、yは窒素の量を表している、請求項5もしくは6に記載の、または請求項5もしくは6に直接的もしくは間接的に従属している請求項8〜16の何れか1項に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項19】
上記金属または上記各金属は、第III族金属である、請求項17または18に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項20】
上記窒化物結晶体は、窒化インジウムの結晶体である、請求項5もしくは6に記載の、または請求項5もしくは6に直接的もしくは間接的に従属している請求項8〜16の何れか1項に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項21】
上記少なくとも1つのキャッピング剤は、カルボン酸亜鉛である、請求項20に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項22】
上記窒化物結晶体は、上記ナノ粒子のコアを形成しており、上記ナノ粒子は上記コアの周囲に配置されたシェルをさらに含んでいる、請求項5もしくは6に記載の、または請求項5もしくは6に直接的もしくは間接的に従属している請求項8〜16の何れか1項に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項23】
上記コアは、InNコアまたはInGaNコアである、請求項22に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項24】
上記シェルは、ZnSシェルである、請求項22または23に記載の窒化物ナノ粒子。
【請求項25】
少なくとも1%の光輝性量子収量を有する、請求項7に記載のナノ粒子。
【請求項26】
上記窒化物層は、金属原子、ホウ素原子またはケイ素原子を含み、
上記少なくとも1つのキャッピング剤は、上記窒化物層の金属原子、ホウ素原子またはケイ素原子であって上記窒化物層の表面に位置する金属原子、ホウ素原子またはケイ素原子を不動態化するための電子供与基をさらに含む、請求項7または25に記載のナノ粒子。
【請求項27】
上記窒化物層は、金属原子、ホウ素原子またはケイ素原子を含み、
上記少なくとも1つのキャッピング剤は、上記窒化物層の窒素原子であって上記窒化物層の表面に位置する窒素原子を不動態化するための電子求引官能基と、上記窒化物層の金属原子、ホウ素原子またはケイ素原子であって上記窒化物層の表面に位置する金属原子、ホウ素原子またはケイ素原子を不動態化するための電子供与基とを有しているキャッピング剤である、請求項7または25に記載のナノ粒子。
【請求項28】
上記電子求引官能基は、第II族金属または第III族元素である、請求項7に記載のナノ粒子。
【請求項29】
上記電子求引官能基は、アルミニウム、ガリウムおよびインジウムの少なくとも1つを含む、請求項7に記載のナノ粒子。
【請求項30】
上記電子求引官能基は、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Zr,Ag,Mo,Ru,Pd,Cd,Ta,W,Os,Ir,Pt,AuおよびHgからなる群より選択される金属である、請求項7に記載のナノ粒子。
【請求項31】
上記電子求引官能基は、金属アミド、カルボン酸金属塩、金属アセトアセトネート、スルホン酸金属塩、ホスホン酸金属塩、チオカルバミン酸金属塩、または金属チオレートを含む、請求項7、28、29または30に記載のナノ粒子。
【請求項32】
上記電子供与基は、ホスフィン、ホスフィンオキシド、カルボン酸、カルボン酸塩、アミン、スルホン酸塩、エステル、チオールおよびチオレートからなる群より選択される、請求項26もしくは27に記載の、または請求項26もしくは27に従属する請求項28〜31の何れか1項に記載のナノ粒子。
【請求項33】
上記窒化物層は、上記ナノ粒子の上記コアの周囲に配置されているシェルを形成している、請求項7、25〜32の何れか1項に記載のナノ粒子。
【請求項34】
上記コアは、InNコアまたはInGaNコアである、請求項33に記載のナノ粒子。
【請求項35】
上記窒化物層の周囲に配置された別のシェルをさらに含み、
上記別のシェルは、ZnSによって形成されている、請求項33または34に記載のナノ粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12(a)】
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【図12(b)】
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【図13】
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【図14(a)】
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【図14(b)】
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【図15(a)】
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【図15(b)】
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【図16(a)】
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【図16(b)】
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【図17】
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【公表番号】特表2012−515803(P2012−515803A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531075(P2011−531075)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【国際出願番号】PCT/JP2010/051316
【国際公開番号】WO2010/085002
【国際公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】