ナノ結晶のセルロースフィルムの虹色の波長の制御
フィルム形成前の、NCC懸濁液への超音波及び高剪断な(機械的)エネルギーインプットにより、固体ナノ結晶セルロース(NCC)フィルムの虹色を制御する新しい方法が提供される。NCC懸濁液へのエネルギーインプットが増加するにつれて、生成したフィルムの色は、電磁スペクトルの紫外線領域から赤外線領域に向かってシフトする。この波長シフトは、フィルム形成前にNCC懸濁液へ電解液を添加することにより引き起こされるシフトと反対方向にある。色の変化を達成するために添加物を必要としない。色変化はまた、超音波処理レベルの異なる超音波処理に曝された2つの懸濁液を混合することによっても達成することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースの硫酸加水分解により調製されるナノ結晶セルロース(NCC)粒子の固体フィルムの独自の虹色特性の制御、特に、蒸発によるフィルム形成前のNCC水性懸濁液への、例えば超音波又は高剪断力などの機械的エネルギーインプットを用いた、虹色波長の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、地球上で最も豊富に存在する有機化合物である。セルロースは、高等植物及び緑藻類の一次細胞壁の構造成分であり、細菌、一部の真菌、及び被嚢類(無脊椎海洋動物)によっても形成される[1]。
【0003】
天然セルロースは、植物の細胞壁を作り上げている、高分子グルコース鎖から微小繊維(microfibril)までの階層構造を有する。このセルロースポリマー鎖は、Dグルコース単位に由来し、このDグルコース単位が、β(l→4)−グリコシド結合を介して凝縮することによって、多くのグリコシドヒドロキシル基の間で、多くの分子間及び分子内水素結合を有する強固な直鎖が生じる。これらの特徴は、セルロース鎖が密集して微小繊維内に結晶化度の高い領域が生じることを可能にする[2]。セルロース微小繊維はまた、その全長に渡りランダムに分布するアモルファス領域も含有する[3〜5]。
【0004】
セルロースのウィスカー(whisker)又はナノ結晶は、様々な原料、特に木材パルプ及び綿からのセルロースを、管理下で酸加水分解することにより入手可能である。セルロース微小繊維に沿って存在する、あまり密集していないアモルファス領域は、加水分解中に酸の攻撃を受けやすく、切断されてセルロースナノ結晶を生ずる[6、7]。ナノ結晶セルロースウィスカーは、その低コスト性、再生可能性及びリサイクル性、並びに化学反応性により、その化学的特性及び物理的特性を適合させることが可能であることから、様々な用途への応用が期待されている[8、9]。
【0005】
ナノ結晶セルロース(NCC)は、形状が棒状であり、そのアスペクト比は、セルロースの原料に応じて、1〜100まで様々である。木材のセルロースナノ結晶は、平均の長さが180〜200nmであり、断面は3〜5nmである[9]。ナノ結晶の寸法はまた、これらを得るために使用した加水分解条件にもある程度依存する。
【0006】
NCC懸濁液の安定度は、硫酸を用いた加水分解中のセルロースナノ結晶表面に与えられる硫酸エステル基から得られる。したがって、NCC粒子は、水媒体中で負の電荷を帯び、よって静電気的に安定化する[7、10〜14]。塩酸もまたNCCを生成するために使用されてきたが、電荷のある表面基を誘発しない[15]。
【0007】
NCC粒子の非等軸の棒状の形状及び負の表面電荷は、Onsagerにより理論的に記載されているように、臨界濃度より上の濃度で、上部のランダム相と、低部の秩序相へと相分離する懸濁液を結果として生じる[16]。この秩序相は、実際に液晶である。セルロース懸濁液の液晶挙動は、1951年、Ranbyにより最初に報告された[10]。Marchessaultら及びHermansは、このような懸濁液は、ネマチック液晶秩序を示すことを実証した[11、17]。1992年、Revol及び共同研究者らは、懸濁液が実際にコレステリック又はキラルネマチックの液晶相を形成したことを示した[12]。
【0008】
図1に示されているように、キラルネマチック液晶は、擬似層に配列された棒を含有する[18、19]。この棒は、互いに、且つ層の面に対して平行して整列し、各層は、上及び下の層に対してわずかに回転しているので、擬似層を構成するらせんを生成する。らせんのピッチPとは、NCC粒子が、層に垂直な線の周りに1つの完全な回転を作るのに必要な距離として定義される。2つの臨界濃度の間で、NCC懸濁液は、2つの相へと分離することになる[16]。この領域は、セルロースナノ結晶に対して約3〜8%(w/w)の範囲に及ぶ。NCC濃度が上昇するにつれて、液晶相の体積分率は、上方の臨界濃度より上の濃度で、懸濁液が完全にキラルネマチックになるまで増加する。
【0009】
NCC水性懸濁液は、ゆっくりと蒸発させることによって、固体半透明NCCフィルムを生成することができ、この固体半透明NCCフィルムは、臨界濃度よりも上の濃度で形成し、水が継続して蒸発するにつれて体積分率が増加する、キラルネマチックの液晶秩序を保持する。これらのフィルムは、式1に従い、キラルネマチックピッチ及びフィルム屈折率(1.55)により決定される、狭い波長域内の左円偏光を反射することによって虹色を示す:
λ=nPsinθ (1)
(式中、λは、反射した波長であり、nは、屈折率であり、Pは、キラルネマチックピッチであり、θは、フィルム表面に対する反射角である)[20]。したがって、反射した波長は、傾いた視角でより短くなる。この反射率は、キラルネマチック液晶のセルロースナノ結晶に対する場合のように、複屈折層のらせん配列におけるBragg反射に基づきVries[21]により説明された。らせんのピッチがおよそ可視光の波長(約400〜700nm)である場合、虹色は、色がつき、反射角により変化することになる。フィルム形成前に、NCC懸濁液中の電解液濃度(例えば、NaCl又はKCl)を上げることによって、虹色波長を、電磁スペクトルの紫外線領域に向かってシフトさせることができることが判明した[20]。追加の電解液は、NCC表面上の硫酸エステル基の負の電荷を部分的にスクリーニングし、静電反発力を低下させる。したがって、この棒状粒子は、互いにより密接に接近し、これにより液晶相のキラルネマチックピッチを減少させて、虹色をより短い波長へとシフトさせる。NCCフィルム虹色を「ブルーシフトする」この方法は、過剰のスクリーニングが懸濁液の安定性を損ない、ゲル化が起きる前に加えることのできる塩の量によって制限される[13、20]。
【0010】
Revolらによって観察されたNCCフィルムの虹色の色はまた、セルロース原料及び加水分解条件(例えば、反応時間及び砕いたセルロースの粒度)にも依存していた[20]。より小さなNCC粒子は、より小さいピッチを有するフィルムを生成する。脱硫酸化はまた、キラルネマチックピッチを減少させることもわかった[20]。
【0011】
固体NCCフィルムのミクロ構造は、乾燥条件に依存する[22]。大気条件で蒸発させた懸濁液からは、一般的にポリドメイン構造を有するフィルムが生成され、この構造内では、異なるキラルネマチックドメインのらせん状の軸は、異なる方向を指している。強磁場(2T)内でNCC懸濁液を乾燥すると、軸が整列することによって、より均一なテクスチャーが生じ、波長を変えることなく、虹色の強さが増加する[20、23]。
【0012】
NCCを生成するための実験室スケールの手順において、透析による酸除去に続いて、超音波処理を最終ステップとして使用することによって、粒子を分散させるために、コロイド状の懸濁液を得る[13、23]。NCC懸濁液特性に対する超音波処理の影響は、Dongらにより研究されてきた[14]。彼らは、セルロース粒子を分散するには短時間の超音波処理で十分であり、さらなる超音波処理は逆効果であることを見出した。より最近の研究で、この所見が実証された[24]。超音波処理は、懸濁液中のNCC凝集体を横から横に破壊していくと考えられている[7]。
【0013】
アスペクト比のより大きな粒子は、液晶相の形成に対してより低い臨界濃度を有するので、超音波処理を増加することは、同じ濃度のNCC懸濁液におけるキラルネマチック相の体積分率を下げることが判明している。しかし、興味深いことに、超音波処理は、NCC粒径が影響を受ける点を過ぎても、なお継続して臨界濃度に影響を与える[14]。図2は、60%出力(8ワット)、4秒パルス、4秒間隔で超音波処理した、1.5%(w/w)が10mM NaCl中に再分散された凍結乾燥したナトリウム型NCCの15mL試料について、PCSで測定したNCCの平均粒径に対する超音波処理の影響を示している。図2において、見掛けのNCC粒径は、超音波処理からのエネルギーインプットが200Jを超えると、もはや減少しないことが明らかである。
【0014】
緑藻の細胞壁由来のNCC懸濁液を、回転式水平シリンダー内で回転させて、ゲル層を生成し、続いてこれを乾燥することによって、一軸性配向の高いNCCのフィルムが生成された[25]。しかしこれらのフィルムは、虹色を示さない。NCCのフィルムはまた、シリコンなどの基板上でも調製された[26]。これらのフィルムは、固体のNCCフィルムよりもかなり薄く、NCCとカチオン性ポリマー(ポリ(アリルアミン塩酸塩))の交互の層により構成される。特定の厚さを超えると、フィルムは、厚さの増加と共に変化する色を示すが、これらの色は、空気とフィルムの界面から、及びフィルムと基板の界面から反射される光の間の相殺的干渉が原因である[26]。干渉色は、マイクロフィブリル化されたセルロースの多層高分子電解質にも見られる[27]。加えて、臨界濃度を超えた濃度で水性懸濁液中に存在する、キラルネマチック秩序を保持する、密接に関連したキチン晶子のフィルムが生成された[28]。
【0015】
添加物を含有しない固体NCCフィルムの虹色波長をシフトさせる方法は知られていない。加えて、可視電磁スペクトルの赤色域の方向へ固体NCCフィルムの虹色波長をシフトさせる方法は存在しない。大気条件(ambient conditions)で生成された完全に乾燥した固体H−NCCフィルムの虹色波長及び水溶液中に配置された場合の乾燥した固体Na−NCCフィルムの虹色波長をシフトさせる方法も存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、固体ナノ結晶のセルロースフィルムにおける虹色の波長を制御するための方法を提供することを目指す。
【0017】
本発明は、所定の虹色波長範囲を有する固体ナノ結晶セルロースフィルムを生成することをさらに目指す。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一態様において、NCCの水性懸濁液に、所定の機械的エネルギーインプットを施すことによって、所望又は所定の虹色の波長を達成するステップと、その後、懸濁液中の水を蒸発させることによって、フィルムを形成するステップとを含む、固体ナノ結晶セルロースフィルムにおいて虹色の波長を制御する方法が提供される。
【0019】
本発明の別の態様では、NCCの水性懸濁液に、所望する所定の虹色に相関した所定の機械的エネルギーインプットを施すステップと、その後、懸濁液中の水を蒸発させて、前記所望する所定の虹色波長範囲を有する固体フィルムを形成するステップとを含む、所定の虹色の固体ナノ結晶セルロースフィルムを生成する方法が提供される。
【0020】
本発明はまた、所定の虹色波長範囲の固体ナノ結晶セルロースフィルムに関する。
【0021】
固体ナノ結晶セルロースフィルムは、これらの虹色がもたらす有用性を有し、したがって、これらを、セキュリティーペーパー又は偽造防止用ペーパーに使用することができ、装飾用ペーパーにも使用することができる。
【0022】
これらの虹色の特性を利用して、ペーパーに画像を形成してもよく、これらは複写するのが困難である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】キラルネマチック相におけるNCC粒子の配列の概略図である。示された間隔は、キラルネマチックピッチPの半分である。
【図2】PCSで測定した平均NCC粒径に対する超音波処理の影響を示すグラフである。
【図3】0〜1300Jで超音波処理した懸濁液から生成したH−NCCフィルムの反射スペクトルを示すグラフである。
【図4】H−NCCフィルムに対する超音波処理の関数として、CIE a*及びb*値を示すグラフである。
【図5】冷却セル内で、2000〜9000Jで超音波処理した懸濁液から生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図6】750Jに超音波処理した、異なる質量の懸濁液から生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図7】750Jに超音波処理した、異なる濃度の懸濁液から生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図8】振幅を増加させて超音波処理した懸濁液から生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図9】750Jの超音波処理に続いて、増加する量のNaClを添加して生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図10】少量の塩の添加による、超音波処理作用の逆転を実証している、H−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図11】イオン交換樹脂処理前及び後に超音波処理した懸濁液から生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図12】均質化を増加させてイオン交換樹脂処理した懸濁液から生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図13】超音波処理直後の懸濁液、及び超音波処理から2週間保存した懸濁液から生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図14】300J及び900Jに超音波処理した懸濁液から、及びこれら懸濁液の等量を混合することによって生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面を参照する。コロイドサイズのセルロースナノ結晶を生成するための酸加水分解したセルロースの超音波処理は、NCC懸濁液の実験室スケールでの生成に必要なステップである。文献では、プラスチック容器内の加水分解したセルロースのバッチ(約2%セルロース(w/w)で約1〜2L)を氷浴内に配置し、過熱及びその結果生じる脱硫酸化を回避するため、合間に冷却期間を設けながら、5〜7分間の間超音波処理する[14]。しかし、超音波処理段階の間にセルロースに加えられるエネルギーは、各装置間の大きな力のばらつき及び超音波処理条件への強い依存性があるために、事前に定量化されていない。
【0025】
臨界濃度を超えると、NCC懸濁液は、上部のランダム相と、キラルネマチックの液晶テクスチャーを有する下部の秩序相へと相分離する。懸濁液がゆっくりと乾燥し、狭い波長域内で円偏光を反射する、半透明の固体NCCフィルムを形成する場合、このテクスチャーは保存される。スペクトルのIR領域、可視領域及びUV領域の虹色は、NCC懸濁液中の電解液(例えば、NaCl)濃度を制御することによって微調整できるが、この電解液濃度の制御により、キラルネマチックピッチが減少し、これによって虹色がより短い波長へシフトする[20、29]。文献では、添加物を使用することなく虹色の波長を制御する方法も、虹色を長い波長へとシフトさせる方法も報告されていない。
【0026】
制御された虹色又は特定の色反射を特性とする、NCCフィルム及びコーティング用途のための品質管理手順が強く要求されている。超音波処理により引き起こされる波長のシフトは、フィルムのキラルネマチックピッチの低下により引き起こされる可能性が最も大きいが、これが起こるメカニズムは十分に理解されていない。NCCの硫酸化の程度が、乾燥フィルムの反射色に影響を与えることは知られているが[20]、超音波処理により影響を受けることは判明していない[14]。実験室の試験では、1500Jへと超音波処理を行い(3700J/g(NCC)エネルギーインプット)、次いで透析を行ったH−NCC懸濁液(15mL、2.7%NCC(w/w))の硫黄含有量は、基本的な分析(ICP)により0.85%S(w/w)であることが判明した。これは、超音波処理されていない懸濁液の硫黄含有量と等しかった。
【0027】
分散剤のゆっくりとした蒸発による乾燥前に、初期のNCC水性懸濁液に高剪断の機械的作用又は超音波処理を行うことにより、固体ナノ結晶セルロースフィルムの虹色波長を、電磁スペクトルの赤色域(長い波長)へシフトさせることができることが見出された。この方法は、本明細書中以下で、実施形態を参照することにより、より完全に記載されており、この実施形態では、超音波処理が使用され、このような処理は、所与の力で、所与の量のNCC懸濁液に、所与のエネルギーインプットへと超音波処理を行い、続いて周辺温度(20〜25℃)から沸点のすぐ下の温度までの範囲で蒸発させることを含む。このような温度での蒸発は、懸濁液中で乱流は生じないか、又は静止の状態である。
【0028】
通常、蒸発は、プラスチック(例えば、ポリスチレン又はテフロン(登録商標))又はガラスなどの基板の上の懸濁液の薄い液体層上で行われ、この場合、生成したフィルムは、基板から容易に取り除く又は剥ぐことができる自立型フィルムとして形成されるか、又は、例えば虹色のフィルム表面が必要とされるガラス若しくはプラスチックシート又はプレートなどの基板上にコーティングとして直接フィルムを形成することができ、これにより基板及びその上のフィルムコーティングによって定義される製品として、フィルムコーティングされた製品が得られる。
【0029】
超音波処理によるエネルギーインプットが増加するにつれて、及び所与のエネルギーインプットのための超音波処理の振幅が増加するにつれて、生成したNCCフィルムの虹色の波長が上昇する。本発明の方法は、虹色波長の、第1の波長から第2の波長へのシフトを引き起こすが、この場合、第2の波長は、第1の波長よりも長い。
【0030】
超音波処理の条件(超音波処理した懸濁液の量及び濃度)は、虹色波長にも影響を及ぼす。最終のNCCフィルムの虹色波長範囲を制御する主要な変数は、試料中に存在するNCC1グラム当たりの超音波処理エネルギーインプットである。
【0031】
したがって、エネルギーインプットを選択することによって、所望の虹色の波長を達成する。つまり、波長の小さな増加は、波長の大きな増加よりも低いエネルギーインプットしか必要とせず、虹色の所望の変化を達成するために、懸濁液のパラメーター、例えばNCCの総含有量などに基づいてエネルギーインプットを決定又は選択することは、技術者にとって定例事項である。
【0032】
一般的に超音波処理した水性懸濁液のNCCの濃度は、懸濁液の0.1重量%〜10重量%又はゲル化が起こる濃度のすぐ下の濃度、好ましくは1重量%〜8重量%、より好ましくは2〜5重量%であり、虹色波長を第1の波長から第2の波長(第2の波長が第1の波長より長い)へとシフトさせるためのエネルギーインプットは、超音波処理した懸濁液中の全NCCの、50〜25000ジュール/g、好ましくは250〜2500ジュール/gである。
【0033】
したがって一般的に超音波処理の間の懸濁液濃度は、ゲル化点(懸濁液がゲルとなる濃度)より下となるように選択され、このため懸濁液は、流動性のある液体である。懸濁液がゲルとなる濃度は、変数、例えばNCCが抽出されるセルロース原料、NCC粒子表面上の荷電した基の密度、懸濁液のイオン強度又はpH、NCCに行った任意の化学修飾などに依存し、通常の実験で容易に測定することができる。
【0034】
特定のフィルム色に到達するために必要とされる超音波処理エネルギーインプットは、使用される最初のNCC懸濁液の状態に依存し、この最初のNCC懸濁液の状態は、中でも、このNCC懸濁液を作製するために使用された加水分解及び処理条件に依存することになる。すなわち、元の超音波処理されていないNCC懸濁液は、以前の処理に応じて、蒸発して黄色のフィルム又は青色のフィルムになり得る。所与の色のシフト又は変化は、所与のエネルギーインプットにより得られる。例えば色の小さい変化は、低いエネルギーインプット、例えば50〜100J/g(NCC)インプットなどにより達成することができる。色の非常に大きい変化は、10000J/g(NCC)インプットで達成することができる。10000J/g(NCC)インプットを超えるさらなる超音波処理は、現時点で、虹色波長は、ほぼ確実に、スペクトルの赤外線(IR)領域に位置することになるので、生成されるフィルムの可視色/外観に必ずしも大きな変化をもたらすことはないが、この処理により、虹色波長は、IRへとさらに継続してシフトすることになる。
【0035】
超音波処理により引き起こされたNCCフィルム波長の変化は、2000〜3000J/g(NCC)の超音波処理エネルギーインプットを超えると、ゆっくりと減速するように見える。
【0036】
さらに、異なる超音波処理レベルの2つのNCC懸濁液の混合物は、個々の懸濁液に対して予想された色の間の中間色のフィルムを生成し、これによって、虹色の所望の変化を達成するさらなる手段が得られる。
【0037】
本発明の方法を使用することによって、電磁スペクトルのUV領域より下、IR領域よりも上に位置する虹色波長を有する固体NCCフィルムを生成することができる。
【0038】
本発明によると、NCC懸濁液は、ゆっくりとした蒸発によるフィルム形成前に、機械的エネルギーインプット、例えば超音波処理又は高剪断の機械的な力などに曝された場合、エネルギーインプットが増加するにつれて、赤外線領域に向かってシフトする異なる虹色波長を有する固体NCCフィルムを生成する。
【0039】
超音波処理により引き起こされる波長シフトの程度は、超音波処理されている試料中に存在するNCC1グラム当たりのエネルギーインプットに主に依存する。超音波処理はまた、水中に再分散された、凍結乾燥されたナトリウム型NCCから調製したフィルムにおいて虹色を創製し、この虹色は、「まったく乾燥されていない」NCC懸濁液と同じように、EMスペクトルの赤外線領域に向かってシフトする。超音波処理されていない、再分散したFD Na−NCCは、虹色を持たない濁った半透明のフィルムを生成する。異なる超音波処理レベルの懸濁液を混合することによって、それぞれの超音波処理レベルでの、個々の懸濁液の波長の間の中間の虹色波長のNCCフィルムを生じる。超音波処理の効果は、永久であるように見える。超音波処理から少なくとも1カ月後、超音波処理したばかりの懸濁液から調製したフィルムと同一の虹色を有するフィルムが、NCC懸濁液から得られている。
【0040】
超音波処理は、キラルネマチックの相形成に必要なNCCの臨界濃度を増加させることが示されているが、キラルネマチックの相自体の特性に対するその効果は、調査されていない[14]。本発明に従い、同じ濃度のNCC懸濁液のキラルネマチックのピッチは、超音波処理が増加するにつれて増加するが、その一方で等方性及びキラルネマチックの相におけるNCCの濃度は、影響を受けないことが判明した。これは、ピッチの増加は、超音波処理の効果に直接起因していることを示している。
【0041】
したがって、本発明は、塩又は他の添加物を添加することなく、NCCフィルムの虹色波長を制御するための方法を提供する。加えて、塩化ナトリウムなどの塩の添加は、超音波処理により誘発される波長シフトの逆転を起こし、これによって、虹色が紫外線領域に向かってシフトする。さらに加えて、塩化ナトリウムなどの塩が加えられた懸濁液の超音波処理は、虹色を赤外線波長領域へとシフトさせることになり、虹色の「ブルーシフト」に逆転が生じる結果となる。すなわち、超音波処理及び塩の添加の効果は、相互に可逆的である。
【0042】
上に示された通り、機械的エネルギーが、NCC懸濁液における虹色の波長を長くするメカニズムは、十分に理解又は明らかにされていない。任意の特定の理論に拘束されることを望むものではないが、NCCフィルム特性に対する超音波処理エネルギーの効果は、超音波処理が適用される、塊状の水性懸濁液に最初に生ずる筈であると考えられている。超音波処理は、NCC粒子の多くの重要な特性を、測定可能な程度までは変化させないが、NCC懸濁液の相分離に必要な臨界濃度と、液晶相のキラルネマチックピッチの両方を増加させる。超音波処理により誘発されたピッチ増加に対して提案された任意のメカニズムが、NCC懸濁液及びフィルムにおいて観察された超音波処理の他の効果を説明するためにも必要となり得る。
【0043】
超音波処理は、NCCの粒子を構成するセルロース鎖の重合度を低下させない。加えて、超音波処理は、粒子寸法(光散乱により測定し、粒径の球状の平均を示す)が、もはや有意に影響を受けないエネルギーインプットの範囲外でも、懸濁液の特性及び最終フィルム色に継続して影響を与える。超音波処理は、NCC粒子の硫酸化度を低下させないが、NCC懸濁液の静電特性に作用があるように見える。超音波処理の増加と共に、NCC懸濁液の伝導率には測定可能な増加が観察されるが、これは、超音波処理の増加による粒径の低下及び虹色波長のレッドシフトと相関しているように見える。加えて、透析によりNCC懸濁液を大幅に精製すると、生成したフィルムの虹色は、本来の懸濁液のものと比較して、レッドシフトし、さらに超音波処理の効果を有意に低下させ(非常に小さなレッドシフトが得られる)、並びに虹色の品質を有意に低下させる。これら及び他の実験に基づき、NCCに対する超音波エネルギーの効果は、本質的に静電性であるように思われる。超音波処理がキラルネマチックのピッチを増加させ得る2つのメカニズムが提案される。
【0044】
結合水層にトラップされたイオン。
木材パルプからNCCを抽出するために使用される加水分解を、非常に高い酸濃度で実施する。プロトン及び硫酸イオンは、透析による精製後、NCC粒子を取り囲んでいる結合水層(BWL)内にトラップされたままであり得る。NCC懸濁液が超音波処理された時、BWL中にトラップされたイオンの一部は、塊状懸濁液中に放出され、拡散し得るので、これらがBWLへ戻るのを防止又は邪魔する。静電気の二重層は、NCCの棒の間の「キラル相互作用」をスクリーニングすると考えられている[13]。BWL中の周囲のイオンによりもはや抑圧されなくなったとすると、NCC粒子は、さらに弱いキラル相互作用を受けることになり、これが、より大きなキラルネマチックピッチをもたらす。
【0045】
オリゴ糖ゲル層。
イソシアン酸フェニル、それに続くSECとのNCCカルバニル化反応の動力学は、セルロース鎖の重合度が、NCC粒子の内部に行くにつれて増加し、オリゴ糖がより高い比率で、粒子表面に位置することを示唆している。したがって、NCC粒子を取り囲むオリゴ糖の層が存在し得るので、加水分解反応の水によるクエンチの間に、これらの層がNCC上に再沈殿した可能性がある。超音波処理の間、硫酸で処理したオリゴ糖は、塊状懸濁液へと部分的に放出されるか、又はオリゴ糖ゲル層が、さらに膨張し得る。NCC粒子の近くに近接する、より少ない数の、硫酸で処理したオリゴ糖は、上述のように、EDLがキラル相互作用をさらによくスクリーニングすることを可能とし、その一方で、膨張したゲル層は、NCC粒子の排除体積を増加させ、ピッチの増加をもたらすことになる。
【0046】
上に提案された2つのメカニズムは、いくらか推測的である。これらの組合せ、又は他のメカニズムの組合せが、NCC懸濁液及びフィルムの超音波処理の観察された効果の原因となり得る。例えば、イオンは、オリゴ糖ゲル層内にトラップされ、超音波処理すると放出され得る。
【0047】
本発明は、以下の例により例示されるが、それらに限定はされない。
【実施例】
【0048】
一般的手順A:冷却を伴わないNCC懸濁液の超音波処理
既知の濃度(1〜5%NCC(w/w))の、既知の量(15〜25mL)のNCC懸濁液を、50mLプラスチック遠心管内に配置する。ソニケータープローブ(6mm直径)を液体の中間地点に配置する。懸濁液を、50〜80%の振幅(好ましくは60〜70%振幅又は8〜10ワット)で、4秒パルス、4秒間の間隔をあけて、所与のエネルギーインプット(1500Jまで)まで超音波処理する。次いで懸濁液をポリスチレンペトリ皿(Petri dish)(90mm直径)に注ぎ入れ、大気条件(20〜25℃、20〜60%相対湿度)でゆっくりと蒸発させる。生成した固体NCCフィルムの光学特性を、変角分光光度計で測定することによって、D65光源を用いた45°入射の照明での反射の主波長を得る。
【0049】
一般的手順B:冷却を伴う、NCC懸濁液の超音波処理
既知の濃度(1〜5%NCC(w/w))の、既知の量(15〜25mL)のNCC懸濁液を、30mL容量のガラスRosett冷却セル内に配置する。ソニケータープローブ(6mm直径)を、液体の中間地点に配置し、冷却セルを氷浴内に配置する。
【0050】
上の一般的に手順Aに記載の通り、懸濁液を超音波処理する。次いで固体NCCフィルムを調製し、上の一般的手順Aに記載の通り特性評価する。
【0051】
一般的手順C:再分散した凍結乾燥Na−NCCの超音波処理
既知の濃度の、既知の量の酸型NCC懸濁液に、既知の濃度(0.02〜2M)の水性水酸化ナトリウムを、NCC懸濁液のpHが、5〜7の間、好ましくは6.5〜7になるまで、撹拌しながら加える。次いでこの懸濁液を−65〜−80℃に凍結し、50〜100mTorrで凍結乾燥することによって、凍結乾燥したナトリウム型NCC(FD Na−NCC)を得る。既知の量の固体を脱イオン水中に再分散することによって、既知の濃度のNCC(1〜5%(w/w))を得て、完全及び均質な分散液が確実にできるように高スピードでこれをボルテックス(vortex)する。次いで、再分散したFD Na−NCC懸濁液を、上の一般的手順Aに記載の通り処理し、生成したフィルムを上の一般的手順Aに記載の通り特性評価する。
【0052】
一般的手順D:NCC希釈懸濁液の高剪断の機械的処理
ナノ結晶のセルロースの希釈(2.5〜3.0%(w/w))液の懸濁液(10〜30L)を、推進圧3000psi、単一パスで、高圧ポンプホモジナイザーを通過させることによって、懸濁液が、小さい直径開口部を通り抜けるようにし、この開口部内で、圧力を大きく降下させ、衝撃、キャビテーション及び剪断力の組合せを懸濁液に与えることによって、いかなる凝集体をも崩壊させる。次いで、生成した懸濁液を、蒸発又は中空繊維膜処理により、固体成分含有量1〜5%NCC(w/w)まで濃縮する。次いで、既知の量の酸型NCC懸濁液を既知の濃度で、ポリスチレンペトリ皿へと注ぎ入れ、大気条件(20〜25℃、20〜65%相対湿度)でゆっくりと蒸発させることによって、固体NCCフィルムを得る。次いで、このフィルムを上の一般的手順Aに記載の通り特性評価する。
【0053】
(例1)
増加する超音波処理エネルギー
15mLアリコートの2.8%(w/w)酸型NCC(H−NCC)懸濁液を、上に開示した一般的手順Aに従い、0〜1300Jの範囲のエネルギーインプットで超音波処理し、大気条件で乾燥させて固体H−NCCフィルムにした。生成したフィルムは、反射光において虹色を示し、色は非常にかすかな青色から金色がかった緑色の範囲に及ぶ。45°入射、D65照明及び45°反射での反射の主波長は、200J超音波処理での<390nmから、1300Jでの約660nmへとシフトした(図3参照)。
【0054】
45°入射、D65照明及び45°反射角で測定した、a*及びb*のプロット値(CIE)は、超音波処理を増加させた場合のa*及びb*値と類似的な傾向を示す(図4を参照)。a*値は、青/紫外線フィルムに対して予想されているように、最初はゼロに近く、次いで正の(赤色)値に増加する一方、b*値は、これも青色フィルムに対して予想されているように、徐々に長い波長に向かってシフトしながら、かなり負の(青色)値へと低下する。次いでa*値は、約400〜500Jの超音波処理で負の(緑色)値になり、一方、b*値は、正の(黄色)値になる。したがって、緑色〜黄色のフィルムが予想され、実際にこれが観察されている。超音波処理が750Jを超えると、a*及びb*は共に正の(それぞれ赤色及び黄色)の値となり、超音波処理が増加し、反射波長が赤外線領域に向かってシフトするにつれて、2つの値はゼロに接近する。
【0055】
冷却なしの超音波処理による懸濁液では、加熱におけるいずれかの差が、観察された色のばらつきを引き起こしたわけではないようだ。加温誘導されたH−NCCの脱硫酸化は、虹色波長に影響を及ぼすこともあり得るが(遊離した硫酸イオンを取り除くための懸濁液の透析の後で)[20]、これは、少なくとも数時間という期間に渡り、40〜50℃より上の温度で起こる[30]もので、この場合、超音波処理時間は、7分未満であり、懸濁液温度は最大40℃までしか到達していなかった。
【0056】
(例2)
冷却を伴う増加する超音波処理のエネルギー
15mLアリコートの2.8%(w/w)酸型NCC懸濁液を、上に開示した一般的手順Bに従い、2000〜9000Jの範囲のエネルギーインプットで超音波処理し、大気条件で乾燥させて固体NCCフィルムにした。生成したフィルムは、反射光において虹色を示し、波長は、電磁スペクトルの赤外線領域にある(図5参照)。45°入射、D65照明及び45°反射での反射の主波長は、2000Jの超音波処理での710nmから、9000Jでの730nmより上へとシフトした(図5参照)。波長シフトを起こすメカニズムは、超音波処理からの加熱(局在型)による脱硫酸化ではない。これは、冷却を使用した場合、超音波処理は、硫黄含有量に対して影響がないことが判明しているからである[14]。
【0057】
(例3)
超音波処理の間の懸濁液の量
本実験室で実施した実験では、NCCフィルム坪量は、これだけではNCCフィルムの虹色に影響を与えないことが判明したことが示された。したがって、15mL及び25mLアリコートの2.8%(w/w)酸型NCC懸濁液を、上に開示した一般的手順Aに従い、750Jエネルギーインプットへと超音波処理し、大気条件で乾燥させて固体NCCフィルムにした。生成したフィルムは、反射光において虹色を示し、波長は、電磁スペクトルの可視領域にある。あらゆる設定を同じにして、より小さな試料を超音波処理すると、より長い波長を反射するフィルムが生成される。15mLアリコートのフィルムは、フィルム表面に垂直に赤色/オレンジ色の光を反射する一方、25mLアリコートのフィルムは、スペクトルの黄色〜緑色の領域において反射する。45°入射、D65照明及び45°反射での反射の主波長は、15mLアリコートでの550〜560nmから、25mLアリコートでの440nmまでブルーシフトした(図6参照)。
【0058】
(例4)
超音波処理の間の懸濁液濃度
アリコート(15mL)の2.8%及び3.8%(w/w)酸型NCC懸濁液を、上に開示した一般的手順Aに従い、750Jエネルギーインプットへと超音波処理し、大気条件で乾燥させて固体NCCフィルムにする。生成したフィルムは、反射光において虹色を示し、波長は、電磁スペクトルの可視領域にある。他のあらゆる設定を同じにして、より希釈したNCC懸濁液を超音波処理することによって、より長い波長を反射するフィルムが生成される。2.8%H−NCC(w/w)から生成したフィルムは、フィルム表面に垂直にオレンジ色〜黄色の光を反射する一方、3.8%H−NCC(w/w)懸濁液から生成したフィルムは、スペクトルの黄色〜緑色の領域で反射する。45°入射、D65照明及び45°反射での反射の主波長は、低濃縮試料での530〜540nmから、高濃縮試料での450nmまでブルーシフトした(図7参照)。フィルムの坪量は、ここで使用された範囲内では、虹色の波長に影響を及ぼさないことが判明した。
【0059】
フィルムの最終の虹色を決定する関連パラメーターは、実際に、NCC1グラム当たりの超音波処理エネルギーインプットであることを、例3及び例4は共に実証している。
【0060】
(例5)
超音波処理の振幅(力)
アリコート(15mL)の2.8%(w/w)H−NCC懸濁液を、上に開示した一般的手順Aに従い、超音波処理振幅を45%(4〜5ワット)から70%(10ワット)に変化させながら、750Jエネルギーインプットへと超音波処理し、大気条件で乾燥させて固体NCCフィルムにする。生成したフィルムは、反射光において虹色を示し、波長は、電磁スペクトルの可視領域にある。一番低い超音波処理振幅において、NCCフィルムは、より短い波長を反射する(青色〜紫色の領域において、超音波処理されていない懸濁液を用いて作製したフィルムのスペクトルと類似しているが、わずかに長い波長)のに対して、50%振幅(5〜6ワット)以上では、生成したフィルムは、電磁スペクトルのオレンジ色/赤色の領域のより長い波長で反射する。虹色波長は、超音波処理振幅に対して感受性がないようである。45°入射、D65照明及び45°反射での反射の主波長は、45%振幅試料での730nm超から、50〜75%振幅試料での530〜570nmまでシフトした(図8を参照)。
【0061】
(例6)
再分散した凍結乾燥Na−NCCを超音波処理する
固体の凍結乾燥ナトリウム型NCC(FD Na−NCC、0.129g)を、4.63mLの脱イオン水中に再分散させることによって、2.8%NCC(w/w)懸濁液を得る。これを、均一な分散液が得られるまで、高スピードで1〜2分間ボルテックスする。次いで、上の一般的手順Aに記載の通り、再分散したFD Na−NCC懸濁液を0〜750Jから超音波処理し、直径48mmのプラスチックペトリ皿に配置し、大気条件で蒸発させる。生成したフィルムは、150Jより上の超音波処理レベルで、可視領域の虹色を示し、750Jで黄色〜緑色から赤色〜オレンジ色にシフトする。上の例1に記載した、超音波処理されていないH−NCC懸濁液のフィルムとは対照的に、超音波処理されていない再分散したFD Na−NCCフィルムは、いかなる虹色をも示さず、半透明の均一の灰色である。
【0062】
(例7)
超音波処理で誘発されたレッドシフトの、塩添加による可逆性
アリコート(15mL)の2.8%(w/w)酸型NCC懸濁液を、上に開示した一般的手順Aに従い、750Jエネルギーインプットへと超音波処理する。これに続いて、0.175〜1.4mLの20mM NaCl(水性)を懸濁液に加え、均質な混合が確実にできるように高スピードで10秒これをボルテックスする。次いで懸濁液を、直径90mmのペトリ皿に配置し、大気条件で乾燥させて固体NCCフィルムにする。生成したフィルムは、0.05〜0.40%NaCl(乾燥NCCに対するw/w)を含有し、反射光において虹色を示し、波長は電磁スペクトルの可視領域及びUV領域にある。文献[20]から予想される通り、NaCl含有量が増加するにつれて、45°入射、D65照明を用いた、45度での反射の主波長は、より短い値へとシフトする(NaClの非存在下での550nmから、0.10%NaClでの40nm(NCCに対するw/w)及び、より高いNaCl含有量での<390nmまで。図9参照)。a)500J超音波処理、及びb)750J超音波処理+0.05%NaCl(NCCに対するw/w)で調製したH−NCCフィルムのスペクトルは、ほとんど同一であり(図10参照)、超音波処理で引き起こされた虹色波長のシフトは、少量の塩、例えばNaClなどを懸濁液に添加することで可逆性となることを示している。
【0063】
塩添加と超音波処理の順番は、生成したフィルムの光学特性に影響を与えないことが判明している。すなわち、塩誘発による虹色のブルーシフトは、超音波処理によっても逆転できるということである。塩の添加を利用して、虹色をより正確に制御することが見込まれており、これによって、より高い柔軟性が得られ、さらにはNCC物質を無駄にせず、製造ミスを修復することが可能となる。
【0064】
(例8)
樹脂処理及び高剪断の均質化
H−NCC懸濁液を、以下の方法に従い、完全に漂白した針葉樹クラフトパルプから調製する。
【0065】
方法1:完全に漂白した針葉樹クラフトパルプを、文献手順[14]に従い、64%(w/w)H2SO4で加水分解した。次いでこの混合物をDI水でクエンチした。上清をデカントし、続いて洗浄し、さらに2回デカントすることにより、過剰な酸を取り除いた。この混合物を濾過し、混床イオン交換樹脂を含有するカラムを通過させ、2.8%NCC(w/w)に濃縮し、次いで再び濾過することによって、大きな凝集体を取り除いた。最終懸濁液pHは、3.21であった。
【0066】
方法2:完全に漂白した針葉樹クラフトパルプを、文献の手順[14]に従い、64%(w/w)H2SO4で加水分解した。次いでこの混合物をDI水でクエンチし、上記の通り、デカントし、洗浄することによって、過剰な酸を取り除いた。この混合物を透析し、次いで2.41%NCC(w/w)に濃縮し、この後で、上の一般的手順Dに記載の通り、混合物を、3000psi(1つのパス)で、高圧ポンプホモジナイザーにかけた。次いでこれを濾過することによって、大きな凝集体を取り除いた。最終懸濁液pHは、2.54であった。
【0067】
Whatman G/Fガラスマイクロファイバーフィルター(細孔の大きさ700nm)を介した濾過に続いて、15mLアリコートの懸濁液を、方法1及び2に対して、それぞれ2.78%及び2.41%NCC(w/w)の濃度で、超音波処理なしで、及び750J超音波処理ありで、調製し、ポリスチレンペトリ皿に配置し、大気条件(20〜25℃及び50〜60%相対湿度)で蒸発により乾燥させることによって、固体NCCフィルムを得た。これを、上の一般的手順Aに記載の通り分析した。図11において、45°入射、D65照明、45°反射で取った反射スペクトルでは、イオン交換樹脂処理(triangles)なしで調製したNCC懸濁液の超音波処理は、30〜50nmの周辺でフィルム虹色に小さなレッドシフトを引き起こす一方で、イオン交換樹脂処理を用いて調製したNCC懸濁液は、同じ超音波処理で、非常に大きなレッドシフトを示している(200nmを超える)ことがわかる。イオン交換樹脂は、10mM NaCl中、フォトン相関分光法で測定したNCC粒径に影響を与えることはなく、懸濁液の粒子濃度又はpHに顕著に影響することもない。
【0068】
(例9)
混床イオン交換樹脂処理に続く高剪断の均質化
例8の方法2に従い調製し、次いで混床(H+/OH−)イオン交換樹脂で処理し、続いて3000psiで均質化した(0、1つ又は2つのパス、1L、2.7%(w/w))懸濁液から、図12に示されているように、45°、D65照明、45°反射で、虹色波長を有するフィルムを得る。これは、高剪断の均質化は、超音波処理と類似の(しかし弱い)効果を有することを示している。
【0069】
(例10)
超音波処理の度合の異なるNCC懸濁液の混合
アリコート(15mL)の2.7%(w/w)酸型NCC懸濁液を、上に開示した一般的手順Aに従い、300J及び900Jエネルギーインプットへと超音波処理する。フィルムは、a)15mLの300J懸濁液、b)15mLの900J懸濁液、及びc)7.5mLの300J懸濁液+7.5mLの900J懸濁液を一緒に混合したものから調製する。すべての懸濁液を大気条件で乾燥させ、固体NCCフィルムにする。生成したフィルムは、反射光において虹色を示し、波長は、電磁スペクトルの可視領域内にある。300Jと900J懸濁液の混合物から調製したフィルムの、45°入射、D65照明及び45°反射角での反射の波長は、他の2つのフィルムの反射の波長の中間であり、600Jに超音波処理した懸濁液から生成したフィルムのものとほとんど同一である(図13を参照)。
【0070】
(例11)
NCC懸濁液に対する超音波処理効果の安定度
アリコート(15mL)の2.77%(w/w)H−NCCを、a)900Jエネルギーインプットへと超音波処理し、フィルムを調製した、b)450Jエネルギーインプットへと超音波処理し、4℃で2週間保存し、450Jエネルギーインプットへと超音波処理し、フィルムを調製した、c)900Jエネルギーインプットへと超音波処理し、4℃で2週間保存し、フィルムを調製した。45°、D65照明、45°反射角で取ったフィルムの反射率スペクトルを図14に示す(比較を簡単にするために強度を調整した)。スペクトルは、ほとんど同一であり、これは、超音波処理の効果は、少なくとも2週間の保存期間中安定していることを示している。別の実験では、超音波処理効果は、少なくとも1カ月の期間、安定したままであることが示されている。
【0071】
(例12)
NCC懸濁液の特性及び挙動に対する超音波処理の効果
アリコート(15mL)の5%(w/w)H−NCCを、異なるエネルギーインプットへと超音波処理し、大気条件で、48〜72時間に渡り、密閉したガラスバイアル内で相分離させた。相分離したら、これらの高さ及び重量測定で測定した各相の濃度から、各相の体積分率を計算した。超音波処理直後に各懸濁液から取った試料を、平坦なガラス管に配置し(光学経路の長さ0.4mm)、相分離もさせた。液晶相のキラルネマチックピッチを、偏光顕微鏡法により測定した。結果は以下の通りだった。
【表1】
【0072】
超音波処理は、体積分率及びNCC液晶相のキラルネマチックピッチを減少させることがわかった。
(参考文献)
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【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースの硫酸加水分解により調製されるナノ結晶セルロース(NCC)粒子の固体フィルムの独自の虹色特性の制御、特に、蒸発によるフィルム形成前のNCC水性懸濁液への、例えば超音波又は高剪断力などの機械的エネルギーインプットを用いた、虹色波長の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、地球上で最も豊富に存在する有機化合物である。セルロースは、高等植物及び緑藻類の一次細胞壁の構造成分であり、細菌、一部の真菌、及び被嚢類(無脊椎海洋動物)によっても形成される[1]。
【0003】
天然セルロースは、植物の細胞壁を作り上げている、高分子グルコース鎖から微小繊維(microfibril)までの階層構造を有する。このセルロースポリマー鎖は、Dグルコース単位に由来し、このDグルコース単位が、β(l→4)−グリコシド結合を介して凝縮することによって、多くのグリコシドヒドロキシル基の間で、多くの分子間及び分子内水素結合を有する強固な直鎖が生じる。これらの特徴は、セルロース鎖が密集して微小繊維内に結晶化度の高い領域が生じることを可能にする[2]。セルロース微小繊維はまた、その全長に渡りランダムに分布するアモルファス領域も含有する[3〜5]。
【0004】
セルロースのウィスカー(whisker)又はナノ結晶は、様々な原料、特に木材パルプ及び綿からのセルロースを、管理下で酸加水分解することにより入手可能である。セルロース微小繊維に沿って存在する、あまり密集していないアモルファス領域は、加水分解中に酸の攻撃を受けやすく、切断されてセルロースナノ結晶を生ずる[6、7]。ナノ結晶セルロースウィスカーは、その低コスト性、再生可能性及びリサイクル性、並びに化学反応性により、その化学的特性及び物理的特性を適合させることが可能であることから、様々な用途への応用が期待されている[8、9]。
【0005】
ナノ結晶セルロース(NCC)は、形状が棒状であり、そのアスペクト比は、セルロースの原料に応じて、1〜100まで様々である。木材のセルロースナノ結晶は、平均の長さが180〜200nmであり、断面は3〜5nmである[9]。ナノ結晶の寸法はまた、これらを得るために使用した加水分解条件にもある程度依存する。
【0006】
NCC懸濁液の安定度は、硫酸を用いた加水分解中のセルロースナノ結晶表面に与えられる硫酸エステル基から得られる。したがって、NCC粒子は、水媒体中で負の電荷を帯び、よって静電気的に安定化する[7、10〜14]。塩酸もまたNCCを生成するために使用されてきたが、電荷のある表面基を誘発しない[15]。
【0007】
NCC粒子の非等軸の棒状の形状及び負の表面電荷は、Onsagerにより理論的に記載されているように、臨界濃度より上の濃度で、上部のランダム相と、低部の秩序相へと相分離する懸濁液を結果として生じる[16]。この秩序相は、実際に液晶である。セルロース懸濁液の液晶挙動は、1951年、Ranbyにより最初に報告された[10]。Marchessaultら及びHermansは、このような懸濁液は、ネマチック液晶秩序を示すことを実証した[11、17]。1992年、Revol及び共同研究者らは、懸濁液が実際にコレステリック又はキラルネマチックの液晶相を形成したことを示した[12]。
【0008】
図1に示されているように、キラルネマチック液晶は、擬似層に配列された棒を含有する[18、19]。この棒は、互いに、且つ層の面に対して平行して整列し、各層は、上及び下の層に対してわずかに回転しているので、擬似層を構成するらせんを生成する。らせんのピッチPとは、NCC粒子が、層に垂直な線の周りに1つの完全な回転を作るのに必要な距離として定義される。2つの臨界濃度の間で、NCC懸濁液は、2つの相へと分離することになる[16]。この領域は、セルロースナノ結晶に対して約3〜8%(w/w)の範囲に及ぶ。NCC濃度が上昇するにつれて、液晶相の体積分率は、上方の臨界濃度より上の濃度で、懸濁液が完全にキラルネマチックになるまで増加する。
【0009】
NCC水性懸濁液は、ゆっくりと蒸発させることによって、固体半透明NCCフィルムを生成することができ、この固体半透明NCCフィルムは、臨界濃度よりも上の濃度で形成し、水が継続して蒸発するにつれて体積分率が増加する、キラルネマチックの液晶秩序を保持する。これらのフィルムは、式1に従い、キラルネマチックピッチ及びフィルム屈折率(1.55)により決定される、狭い波長域内の左円偏光を反射することによって虹色を示す:
λ=nPsinθ (1)
(式中、λは、反射した波長であり、nは、屈折率であり、Pは、キラルネマチックピッチであり、θは、フィルム表面に対する反射角である)[20]。したがって、反射した波長は、傾いた視角でより短くなる。この反射率は、キラルネマチック液晶のセルロースナノ結晶に対する場合のように、複屈折層のらせん配列におけるBragg反射に基づきVries[21]により説明された。らせんのピッチがおよそ可視光の波長(約400〜700nm)である場合、虹色は、色がつき、反射角により変化することになる。フィルム形成前に、NCC懸濁液中の電解液濃度(例えば、NaCl又はKCl)を上げることによって、虹色波長を、電磁スペクトルの紫外線領域に向かってシフトさせることができることが判明した[20]。追加の電解液は、NCC表面上の硫酸エステル基の負の電荷を部分的にスクリーニングし、静電反発力を低下させる。したがって、この棒状粒子は、互いにより密接に接近し、これにより液晶相のキラルネマチックピッチを減少させて、虹色をより短い波長へとシフトさせる。NCCフィルム虹色を「ブルーシフトする」この方法は、過剰のスクリーニングが懸濁液の安定性を損ない、ゲル化が起きる前に加えることのできる塩の量によって制限される[13、20]。
【0010】
Revolらによって観察されたNCCフィルムの虹色の色はまた、セルロース原料及び加水分解条件(例えば、反応時間及び砕いたセルロースの粒度)にも依存していた[20]。より小さなNCC粒子は、より小さいピッチを有するフィルムを生成する。脱硫酸化はまた、キラルネマチックピッチを減少させることもわかった[20]。
【0011】
固体NCCフィルムのミクロ構造は、乾燥条件に依存する[22]。大気条件で蒸発させた懸濁液からは、一般的にポリドメイン構造を有するフィルムが生成され、この構造内では、異なるキラルネマチックドメインのらせん状の軸は、異なる方向を指している。強磁場(2T)内でNCC懸濁液を乾燥すると、軸が整列することによって、より均一なテクスチャーが生じ、波長を変えることなく、虹色の強さが増加する[20、23]。
【0012】
NCCを生成するための実験室スケールの手順において、透析による酸除去に続いて、超音波処理を最終ステップとして使用することによって、粒子を分散させるために、コロイド状の懸濁液を得る[13、23]。NCC懸濁液特性に対する超音波処理の影響は、Dongらにより研究されてきた[14]。彼らは、セルロース粒子を分散するには短時間の超音波処理で十分であり、さらなる超音波処理は逆効果であることを見出した。より最近の研究で、この所見が実証された[24]。超音波処理は、懸濁液中のNCC凝集体を横から横に破壊していくと考えられている[7]。
【0013】
アスペクト比のより大きな粒子は、液晶相の形成に対してより低い臨界濃度を有するので、超音波処理を増加することは、同じ濃度のNCC懸濁液におけるキラルネマチック相の体積分率を下げることが判明している。しかし、興味深いことに、超音波処理は、NCC粒径が影響を受ける点を過ぎても、なお継続して臨界濃度に影響を与える[14]。図2は、60%出力(8ワット)、4秒パルス、4秒間隔で超音波処理した、1.5%(w/w)が10mM NaCl中に再分散された凍結乾燥したナトリウム型NCCの15mL試料について、PCSで測定したNCCの平均粒径に対する超音波処理の影響を示している。図2において、見掛けのNCC粒径は、超音波処理からのエネルギーインプットが200Jを超えると、もはや減少しないことが明らかである。
【0014】
緑藻の細胞壁由来のNCC懸濁液を、回転式水平シリンダー内で回転させて、ゲル層を生成し、続いてこれを乾燥することによって、一軸性配向の高いNCCのフィルムが生成された[25]。しかしこれらのフィルムは、虹色を示さない。NCCのフィルムはまた、シリコンなどの基板上でも調製された[26]。これらのフィルムは、固体のNCCフィルムよりもかなり薄く、NCCとカチオン性ポリマー(ポリ(アリルアミン塩酸塩))の交互の層により構成される。特定の厚さを超えると、フィルムは、厚さの増加と共に変化する色を示すが、これらの色は、空気とフィルムの界面から、及びフィルムと基板の界面から反射される光の間の相殺的干渉が原因である[26]。干渉色は、マイクロフィブリル化されたセルロースの多層高分子電解質にも見られる[27]。加えて、臨界濃度を超えた濃度で水性懸濁液中に存在する、キラルネマチック秩序を保持する、密接に関連したキチン晶子のフィルムが生成された[28]。
【0015】
添加物を含有しない固体NCCフィルムの虹色波長をシフトさせる方法は知られていない。加えて、可視電磁スペクトルの赤色域の方向へ固体NCCフィルムの虹色波長をシフトさせる方法は存在しない。大気条件(ambient conditions)で生成された完全に乾燥した固体H−NCCフィルムの虹色波長及び水溶液中に配置された場合の乾燥した固体Na−NCCフィルムの虹色波長をシフトさせる方法も存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、固体ナノ結晶のセルロースフィルムにおける虹色の波長を制御するための方法を提供することを目指す。
【0017】
本発明は、所定の虹色波長範囲を有する固体ナノ結晶セルロースフィルムを生成することをさらに目指す。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一態様において、NCCの水性懸濁液に、所定の機械的エネルギーインプットを施すことによって、所望又は所定の虹色の波長を達成するステップと、その後、懸濁液中の水を蒸発させることによって、フィルムを形成するステップとを含む、固体ナノ結晶セルロースフィルムにおいて虹色の波長を制御する方法が提供される。
【0019】
本発明の別の態様では、NCCの水性懸濁液に、所望する所定の虹色に相関した所定の機械的エネルギーインプットを施すステップと、その後、懸濁液中の水を蒸発させて、前記所望する所定の虹色波長範囲を有する固体フィルムを形成するステップとを含む、所定の虹色の固体ナノ結晶セルロースフィルムを生成する方法が提供される。
【0020】
本発明はまた、所定の虹色波長範囲の固体ナノ結晶セルロースフィルムに関する。
【0021】
固体ナノ結晶セルロースフィルムは、これらの虹色がもたらす有用性を有し、したがって、これらを、セキュリティーペーパー又は偽造防止用ペーパーに使用することができ、装飾用ペーパーにも使用することができる。
【0022】
これらの虹色の特性を利用して、ペーパーに画像を形成してもよく、これらは複写するのが困難である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】キラルネマチック相におけるNCC粒子の配列の概略図である。示された間隔は、キラルネマチックピッチPの半分である。
【図2】PCSで測定した平均NCC粒径に対する超音波処理の影響を示すグラフである。
【図3】0〜1300Jで超音波処理した懸濁液から生成したH−NCCフィルムの反射スペクトルを示すグラフである。
【図4】H−NCCフィルムに対する超音波処理の関数として、CIE a*及びb*値を示すグラフである。
【図5】冷却セル内で、2000〜9000Jで超音波処理した懸濁液から生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図6】750Jに超音波処理した、異なる質量の懸濁液から生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図7】750Jに超音波処理した、異なる濃度の懸濁液から生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図8】振幅を増加させて超音波処理した懸濁液から生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図9】750Jの超音波処理に続いて、増加する量のNaClを添加して生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図10】少量の塩の添加による、超音波処理作用の逆転を実証している、H−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図11】イオン交換樹脂処理前及び後に超音波処理した懸濁液から生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図12】均質化を増加させてイオン交換樹脂処理した懸濁液から生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図13】超音波処理直後の懸濁液、及び超音波処理から2週間保存した懸濁液から生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【図14】300J及び900Jに超音波処理した懸濁液から、及びこれら懸濁液の等量を混合することによって生成したH−NCCフィルムに対する反射スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面を参照する。コロイドサイズのセルロースナノ結晶を生成するための酸加水分解したセルロースの超音波処理は、NCC懸濁液の実験室スケールでの生成に必要なステップである。文献では、プラスチック容器内の加水分解したセルロースのバッチ(約2%セルロース(w/w)で約1〜2L)を氷浴内に配置し、過熱及びその結果生じる脱硫酸化を回避するため、合間に冷却期間を設けながら、5〜7分間の間超音波処理する[14]。しかし、超音波処理段階の間にセルロースに加えられるエネルギーは、各装置間の大きな力のばらつき及び超音波処理条件への強い依存性があるために、事前に定量化されていない。
【0025】
臨界濃度を超えると、NCC懸濁液は、上部のランダム相と、キラルネマチックの液晶テクスチャーを有する下部の秩序相へと相分離する。懸濁液がゆっくりと乾燥し、狭い波長域内で円偏光を反射する、半透明の固体NCCフィルムを形成する場合、このテクスチャーは保存される。スペクトルのIR領域、可視領域及びUV領域の虹色は、NCC懸濁液中の電解液(例えば、NaCl)濃度を制御することによって微調整できるが、この電解液濃度の制御により、キラルネマチックピッチが減少し、これによって虹色がより短い波長へシフトする[20、29]。文献では、添加物を使用することなく虹色の波長を制御する方法も、虹色を長い波長へとシフトさせる方法も報告されていない。
【0026】
制御された虹色又は特定の色反射を特性とする、NCCフィルム及びコーティング用途のための品質管理手順が強く要求されている。超音波処理により引き起こされる波長のシフトは、フィルムのキラルネマチックピッチの低下により引き起こされる可能性が最も大きいが、これが起こるメカニズムは十分に理解されていない。NCCの硫酸化の程度が、乾燥フィルムの反射色に影響を与えることは知られているが[20]、超音波処理により影響を受けることは判明していない[14]。実験室の試験では、1500Jへと超音波処理を行い(3700J/g(NCC)エネルギーインプット)、次いで透析を行ったH−NCC懸濁液(15mL、2.7%NCC(w/w))の硫黄含有量は、基本的な分析(ICP)により0.85%S(w/w)であることが判明した。これは、超音波処理されていない懸濁液の硫黄含有量と等しかった。
【0027】
分散剤のゆっくりとした蒸発による乾燥前に、初期のNCC水性懸濁液に高剪断の機械的作用又は超音波処理を行うことにより、固体ナノ結晶セルロースフィルムの虹色波長を、電磁スペクトルの赤色域(長い波長)へシフトさせることができることが見出された。この方法は、本明細書中以下で、実施形態を参照することにより、より完全に記載されており、この実施形態では、超音波処理が使用され、このような処理は、所与の力で、所与の量のNCC懸濁液に、所与のエネルギーインプットへと超音波処理を行い、続いて周辺温度(20〜25℃)から沸点のすぐ下の温度までの範囲で蒸発させることを含む。このような温度での蒸発は、懸濁液中で乱流は生じないか、又は静止の状態である。
【0028】
通常、蒸発は、プラスチック(例えば、ポリスチレン又はテフロン(登録商標))又はガラスなどの基板の上の懸濁液の薄い液体層上で行われ、この場合、生成したフィルムは、基板から容易に取り除く又は剥ぐことができる自立型フィルムとして形成されるか、又は、例えば虹色のフィルム表面が必要とされるガラス若しくはプラスチックシート又はプレートなどの基板上にコーティングとして直接フィルムを形成することができ、これにより基板及びその上のフィルムコーティングによって定義される製品として、フィルムコーティングされた製品が得られる。
【0029】
超音波処理によるエネルギーインプットが増加するにつれて、及び所与のエネルギーインプットのための超音波処理の振幅が増加するにつれて、生成したNCCフィルムの虹色の波長が上昇する。本発明の方法は、虹色波長の、第1の波長から第2の波長へのシフトを引き起こすが、この場合、第2の波長は、第1の波長よりも長い。
【0030】
超音波処理の条件(超音波処理した懸濁液の量及び濃度)は、虹色波長にも影響を及ぼす。最終のNCCフィルムの虹色波長範囲を制御する主要な変数は、試料中に存在するNCC1グラム当たりの超音波処理エネルギーインプットである。
【0031】
したがって、エネルギーインプットを選択することによって、所望の虹色の波長を達成する。つまり、波長の小さな増加は、波長の大きな増加よりも低いエネルギーインプットしか必要とせず、虹色の所望の変化を達成するために、懸濁液のパラメーター、例えばNCCの総含有量などに基づいてエネルギーインプットを決定又は選択することは、技術者にとって定例事項である。
【0032】
一般的に超音波処理した水性懸濁液のNCCの濃度は、懸濁液の0.1重量%〜10重量%又はゲル化が起こる濃度のすぐ下の濃度、好ましくは1重量%〜8重量%、より好ましくは2〜5重量%であり、虹色波長を第1の波長から第2の波長(第2の波長が第1の波長より長い)へとシフトさせるためのエネルギーインプットは、超音波処理した懸濁液中の全NCCの、50〜25000ジュール/g、好ましくは250〜2500ジュール/gである。
【0033】
したがって一般的に超音波処理の間の懸濁液濃度は、ゲル化点(懸濁液がゲルとなる濃度)より下となるように選択され、このため懸濁液は、流動性のある液体である。懸濁液がゲルとなる濃度は、変数、例えばNCCが抽出されるセルロース原料、NCC粒子表面上の荷電した基の密度、懸濁液のイオン強度又はpH、NCCに行った任意の化学修飾などに依存し、通常の実験で容易に測定することができる。
【0034】
特定のフィルム色に到達するために必要とされる超音波処理エネルギーインプットは、使用される最初のNCC懸濁液の状態に依存し、この最初のNCC懸濁液の状態は、中でも、このNCC懸濁液を作製するために使用された加水分解及び処理条件に依存することになる。すなわち、元の超音波処理されていないNCC懸濁液は、以前の処理に応じて、蒸発して黄色のフィルム又は青色のフィルムになり得る。所与の色のシフト又は変化は、所与のエネルギーインプットにより得られる。例えば色の小さい変化は、低いエネルギーインプット、例えば50〜100J/g(NCC)インプットなどにより達成することができる。色の非常に大きい変化は、10000J/g(NCC)インプットで達成することができる。10000J/g(NCC)インプットを超えるさらなる超音波処理は、現時点で、虹色波長は、ほぼ確実に、スペクトルの赤外線(IR)領域に位置することになるので、生成されるフィルムの可視色/外観に必ずしも大きな変化をもたらすことはないが、この処理により、虹色波長は、IRへとさらに継続してシフトすることになる。
【0035】
超音波処理により引き起こされたNCCフィルム波長の変化は、2000〜3000J/g(NCC)の超音波処理エネルギーインプットを超えると、ゆっくりと減速するように見える。
【0036】
さらに、異なる超音波処理レベルの2つのNCC懸濁液の混合物は、個々の懸濁液に対して予想された色の間の中間色のフィルムを生成し、これによって、虹色の所望の変化を達成するさらなる手段が得られる。
【0037】
本発明の方法を使用することによって、電磁スペクトルのUV領域より下、IR領域よりも上に位置する虹色波長を有する固体NCCフィルムを生成することができる。
【0038】
本発明によると、NCC懸濁液は、ゆっくりとした蒸発によるフィルム形成前に、機械的エネルギーインプット、例えば超音波処理又は高剪断の機械的な力などに曝された場合、エネルギーインプットが増加するにつれて、赤外線領域に向かってシフトする異なる虹色波長を有する固体NCCフィルムを生成する。
【0039】
超音波処理により引き起こされる波長シフトの程度は、超音波処理されている試料中に存在するNCC1グラム当たりのエネルギーインプットに主に依存する。超音波処理はまた、水中に再分散された、凍結乾燥されたナトリウム型NCCから調製したフィルムにおいて虹色を創製し、この虹色は、「まったく乾燥されていない」NCC懸濁液と同じように、EMスペクトルの赤外線領域に向かってシフトする。超音波処理されていない、再分散したFD Na−NCCは、虹色を持たない濁った半透明のフィルムを生成する。異なる超音波処理レベルの懸濁液を混合することによって、それぞれの超音波処理レベルでの、個々の懸濁液の波長の間の中間の虹色波長のNCCフィルムを生じる。超音波処理の効果は、永久であるように見える。超音波処理から少なくとも1カ月後、超音波処理したばかりの懸濁液から調製したフィルムと同一の虹色を有するフィルムが、NCC懸濁液から得られている。
【0040】
超音波処理は、キラルネマチックの相形成に必要なNCCの臨界濃度を増加させることが示されているが、キラルネマチックの相自体の特性に対するその効果は、調査されていない[14]。本発明に従い、同じ濃度のNCC懸濁液のキラルネマチックのピッチは、超音波処理が増加するにつれて増加するが、その一方で等方性及びキラルネマチックの相におけるNCCの濃度は、影響を受けないことが判明した。これは、ピッチの増加は、超音波処理の効果に直接起因していることを示している。
【0041】
したがって、本発明は、塩又は他の添加物を添加することなく、NCCフィルムの虹色波長を制御するための方法を提供する。加えて、塩化ナトリウムなどの塩の添加は、超音波処理により誘発される波長シフトの逆転を起こし、これによって、虹色が紫外線領域に向かってシフトする。さらに加えて、塩化ナトリウムなどの塩が加えられた懸濁液の超音波処理は、虹色を赤外線波長領域へとシフトさせることになり、虹色の「ブルーシフト」に逆転が生じる結果となる。すなわち、超音波処理及び塩の添加の効果は、相互に可逆的である。
【0042】
上に示された通り、機械的エネルギーが、NCC懸濁液における虹色の波長を長くするメカニズムは、十分に理解又は明らかにされていない。任意の特定の理論に拘束されることを望むものではないが、NCCフィルム特性に対する超音波処理エネルギーの効果は、超音波処理が適用される、塊状の水性懸濁液に最初に生ずる筈であると考えられている。超音波処理は、NCC粒子の多くの重要な特性を、測定可能な程度までは変化させないが、NCC懸濁液の相分離に必要な臨界濃度と、液晶相のキラルネマチックピッチの両方を増加させる。超音波処理により誘発されたピッチ増加に対して提案された任意のメカニズムが、NCC懸濁液及びフィルムにおいて観察された超音波処理の他の効果を説明するためにも必要となり得る。
【0043】
超音波処理は、NCCの粒子を構成するセルロース鎖の重合度を低下させない。加えて、超音波処理は、粒子寸法(光散乱により測定し、粒径の球状の平均を示す)が、もはや有意に影響を受けないエネルギーインプットの範囲外でも、懸濁液の特性及び最終フィルム色に継続して影響を与える。超音波処理は、NCC粒子の硫酸化度を低下させないが、NCC懸濁液の静電特性に作用があるように見える。超音波処理の増加と共に、NCC懸濁液の伝導率には測定可能な増加が観察されるが、これは、超音波処理の増加による粒径の低下及び虹色波長のレッドシフトと相関しているように見える。加えて、透析によりNCC懸濁液を大幅に精製すると、生成したフィルムの虹色は、本来の懸濁液のものと比較して、レッドシフトし、さらに超音波処理の効果を有意に低下させ(非常に小さなレッドシフトが得られる)、並びに虹色の品質を有意に低下させる。これら及び他の実験に基づき、NCCに対する超音波エネルギーの効果は、本質的に静電性であるように思われる。超音波処理がキラルネマチックのピッチを増加させ得る2つのメカニズムが提案される。
【0044】
結合水層にトラップされたイオン。
木材パルプからNCCを抽出するために使用される加水分解を、非常に高い酸濃度で実施する。プロトン及び硫酸イオンは、透析による精製後、NCC粒子を取り囲んでいる結合水層(BWL)内にトラップされたままであり得る。NCC懸濁液が超音波処理された時、BWL中にトラップされたイオンの一部は、塊状懸濁液中に放出され、拡散し得るので、これらがBWLへ戻るのを防止又は邪魔する。静電気の二重層は、NCCの棒の間の「キラル相互作用」をスクリーニングすると考えられている[13]。BWL中の周囲のイオンによりもはや抑圧されなくなったとすると、NCC粒子は、さらに弱いキラル相互作用を受けることになり、これが、より大きなキラルネマチックピッチをもたらす。
【0045】
オリゴ糖ゲル層。
イソシアン酸フェニル、それに続くSECとのNCCカルバニル化反応の動力学は、セルロース鎖の重合度が、NCC粒子の内部に行くにつれて増加し、オリゴ糖がより高い比率で、粒子表面に位置することを示唆している。したがって、NCC粒子を取り囲むオリゴ糖の層が存在し得るので、加水分解反応の水によるクエンチの間に、これらの層がNCC上に再沈殿した可能性がある。超音波処理の間、硫酸で処理したオリゴ糖は、塊状懸濁液へと部分的に放出されるか、又はオリゴ糖ゲル層が、さらに膨張し得る。NCC粒子の近くに近接する、より少ない数の、硫酸で処理したオリゴ糖は、上述のように、EDLがキラル相互作用をさらによくスクリーニングすることを可能とし、その一方で、膨張したゲル層は、NCC粒子の排除体積を増加させ、ピッチの増加をもたらすことになる。
【0046】
上に提案された2つのメカニズムは、いくらか推測的である。これらの組合せ、又は他のメカニズムの組合せが、NCC懸濁液及びフィルムの超音波処理の観察された効果の原因となり得る。例えば、イオンは、オリゴ糖ゲル層内にトラップされ、超音波処理すると放出され得る。
【0047】
本発明は、以下の例により例示されるが、それらに限定はされない。
【実施例】
【0048】
一般的手順A:冷却を伴わないNCC懸濁液の超音波処理
既知の濃度(1〜5%NCC(w/w))の、既知の量(15〜25mL)のNCC懸濁液を、50mLプラスチック遠心管内に配置する。ソニケータープローブ(6mm直径)を液体の中間地点に配置する。懸濁液を、50〜80%の振幅(好ましくは60〜70%振幅又は8〜10ワット)で、4秒パルス、4秒間の間隔をあけて、所与のエネルギーインプット(1500Jまで)まで超音波処理する。次いで懸濁液をポリスチレンペトリ皿(Petri dish)(90mm直径)に注ぎ入れ、大気条件(20〜25℃、20〜60%相対湿度)でゆっくりと蒸発させる。生成した固体NCCフィルムの光学特性を、変角分光光度計で測定することによって、D65光源を用いた45°入射の照明での反射の主波長を得る。
【0049】
一般的手順B:冷却を伴う、NCC懸濁液の超音波処理
既知の濃度(1〜5%NCC(w/w))の、既知の量(15〜25mL)のNCC懸濁液を、30mL容量のガラスRosett冷却セル内に配置する。ソニケータープローブ(6mm直径)を、液体の中間地点に配置し、冷却セルを氷浴内に配置する。
【0050】
上の一般的に手順Aに記載の通り、懸濁液を超音波処理する。次いで固体NCCフィルムを調製し、上の一般的手順Aに記載の通り特性評価する。
【0051】
一般的手順C:再分散した凍結乾燥Na−NCCの超音波処理
既知の濃度の、既知の量の酸型NCC懸濁液に、既知の濃度(0.02〜2M)の水性水酸化ナトリウムを、NCC懸濁液のpHが、5〜7の間、好ましくは6.5〜7になるまで、撹拌しながら加える。次いでこの懸濁液を−65〜−80℃に凍結し、50〜100mTorrで凍結乾燥することによって、凍結乾燥したナトリウム型NCC(FD Na−NCC)を得る。既知の量の固体を脱イオン水中に再分散することによって、既知の濃度のNCC(1〜5%(w/w))を得て、完全及び均質な分散液が確実にできるように高スピードでこれをボルテックス(vortex)する。次いで、再分散したFD Na−NCC懸濁液を、上の一般的手順Aに記載の通り処理し、生成したフィルムを上の一般的手順Aに記載の通り特性評価する。
【0052】
一般的手順D:NCC希釈懸濁液の高剪断の機械的処理
ナノ結晶のセルロースの希釈(2.5〜3.0%(w/w))液の懸濁液(10〜30L)を、推進圧3000psi、単一パスで、高圧ポンプホモジナイザーを通過させることによって、懸濁液が、小さい直径開口部を通り抜けるようにし、この開口部内で、圧力を大きく降下させ、衝撃、キャビテーション及び剪断力の組合せを懸濁液に与えることによって、いかなる凝集体をも崩壊させる。次いで、生成した懸濁液を、蒸発又は中空繊維膜処理により、固体成分含有量1〜5%NCC(w/w)まで濃縮する。次いで、既知の量の酸型NCC懸濁液を既知の濃度で、ポリスチレンペトリ皿へと注ぎ入れ、大気条件(20〜25℃、20〜65%相対湿度)でゆっくりと蒸発させることによって、固体NCCフィルムを得る。次いで、このフィルムを上の一般的手順Aに記載の通り特性評価する。
【0053】
(例1)
増加する超音波処理エネルギー
15mLアリコートの2.8%(w/w)酸型NCC(H−NCC)懸濁液を、上に開示した一般的手順Aに従い、0〜1300Jの範囲のエネルギーインプットで超音波処理し、大気条件で乾燥させて固体H−NCCフィルムにした。生成したフィルムは、反射光において虹色を示し、色は非常にかすかな青色から金色がかった緑色の範囲に及ぶ。45°入射、D65照明及び45°反射での反射の主波長は、200J超音波処理での<390nmから、1300Jでの約660nmへとシフトした(図3参照)。
【0054】
45°入射、D65照明及び45°反射角で測定した、a*及びb*のプロット値(CIE)は、超音波処理を増加させた場合のa*及びb*値と類似的な傾向を示す(図4を参照)。a*値は、青/紫外線フィルムに対して予想されているように、最初はゼロに近く、次いで正の(赤色)値に増加する一方、b*値は、これも青色フィルムに対して予想されているように、徐々に長い波長に向かってシフトしながら、かなり負の(青色)値へと低下する。次いでa*値は、約400〜500Jの超音波処理で負の(緑色)値になり、一方、b*値は、正の(黄色)値になる。したがって、緑色〜黄色のフィルムが予想され、実際にこれが観察されている。超音波処理が750Jを超えると、a*及びb*は共に正の(それぞれ赤色及び黄色)の値となり、超音波処理が増加し、反射波長が赤外線領域に向かってシフトするにつれて、2つの値はゼロに接近する。
【0055】
冷却なしの超音波処理による懸濁液では、加熱におけるいずれかの差が、観察された色のばらつきを引き起こしたわけではないようだ。加温誘導されたH−NCCの脱硫酸化は、虹色波長に影響を及ぼすこともあり得るが(遊離した硫酸イオンを取り除くための懸濁液の透析の後で)[20]、これは、少なくとも数時間という期間に渡り、40〜50℃より上の温度で起こる[30]もので、この場合、超音波処理時間は、7分未満であり、懸濁液温度は最大40℃までしか到達していなかった。
【0056】
(例2)
冷却を伴う増加する超音波処理のエネルギー
15mLアリコートの2.8%(w/w)酸型NCC懸濁液を、上に開示した一般的手順Bに従い、2000〜9000Jの範囲のエネルギーインプットで超音波処理し、大気条件で乾燥させて固体NCCフィルムにした。生成したフィルムは、反射光において虹色を示し、波長は、電磁スペクトルの赤外線領域にある(図5参照)。45°入射、D65照明及び45°反射での反射の主波長は、2000Jの超音波処理での710nmから、9000Jでの730nmより上へとシフトした(図5参照)。波長シフトを起こすメカニズムは、超音波処理からの加熱(局在型)による脱硫酸化ではない。これは、冷却を使用した場合、超音波処理は、硫黄含有量に対して影響がないことが判明しているからである[14]。
【0057】
(例3)
超音波処理の間の懸濁液の量
本実験室で実施した実験では、NCCフィルム坪量は、これだけではNCCフィルムの虹色に影響を与えないことが判明したことが示された。したがって、15mL及び25mLアリコートの2.8%(w/w)酸型NCC懸濁液を、上に開示した一般的手順Aに従い、750Jエネルギーインプットへと超音波処理し、大気条件で乾燥させて固体NCCフィルムにした。生成したフィルムは、反射光において虹色を示し、波長は、電磁スペクトルの可視領域にある。あらゆる設定を同じにして、より小さな試料を超音波処理すると、より長い波長を反射するフィルムが生成される。15mLアリコートのフィルムは、フィルム表面に垂直に赤色/オレンジ色の光を反射する一方、25mLアリコートのフィルムは、スペクトルの黄色〜緑色の領域において反射する。45°入射、D65照明及び45°反射での反射の主波長は、15mLアリコートでの550〜560nmから、25mLアリコートでの440nmまでブルーシフトした(図6参照)。
【0058】
(例4)
超音波処理の間の懸濁液濃度
アリコート(15mL)の2.8%及び3.8%(w/w)酸型NCC懸濁液を、上に開示した一般的手順Aに従い、750Jエネルギーインプットへと超音波処理し、大気条件で乾燥させて固体NCCフィルムにする。生成したフィルムは、反射光において虹色を示し、波長は、電磁スペクトルの可視領域にある。他のあらゆる設定を同じにして、より希釈したNCC懸濁液を超音波処理することによって、より長い波長を反射するフィルムが生成される。2.8%H−NCC(w/w)から生成したフィルムは、フィルム表面に垂直にオレンジ色〜黄色の光を反射する一方、3.8%H−NCC(w/w)懸濁液から生成したフィルムは、スペクトルの黄色〜緑色の領域で反射する。45°入射、D65照明及び45°反射での反射の主波長は、低濃縮試料での530〜540nmから、高濃縮試料での450nmまでブルーシフトした(図7参照)。フィルムの坪量は、ここで使用された範囲内では、虹色の波長に影響を及ぼさないことが判明した。
【0059】
フィルムの最終の虹色を決定する関連パラメーターは、実際に、NCC1グラム当たりの超音波処理エネルギーインプットであることを、例3及び例4は共に実証している。
【0060】
(例5)
超音波処理の振幅(力)
アリコート(15mL)の2.8%(w/w)H−NCC懸濁液を、上に開示した一般的手順Aに従い、超音波処理振幅を45%(4〜5ワット)から70%(10ワット)に変化させながら、750Jエネルギーインプットへと超音波処理し、大気条件で乾燥させて固体NCCフィルムにする。生成したフィルムは、反射光において虹色を示し、波長は、電磁スペクトルの可視領域にある。一番低い超音波処理振幅において、NCCフィルムは、より短い波長を反射する(青色〜紫色の領域において、超音波処理されていない懸濁液を用いて作製したフィルムのスペクトルと類似しているが、わずかに長い波長)のに対して、50%振幅(5〜6ワット)以上では、生成したフィルムは、電磁スペクトルのオレンジ色/赤色の領域のより長い波長で反射する。虹色波長は、超音波処理振幅に対して感受性がないようである。45°入射、D65照明及び45°反射での反射の主波長は、45%振幅試料での730nm超から、50〜75%振幅試料での530〜570nmまでシフトした(図8を参照)。
【0061】
(例6)
再分散した凍結乾燥Na−NCCを超音波処理する
固体の凍結乾燥ナトリウム型NCC(FD Na−NCC、0.129g)を、4.63mLの脱イオン水中に再分散させることによって、2.8%NCC(w/w)懸濁液を得る。これを、均一な分散液が得られるまで、高スピードで1〜2分間ボルテックスする。次いで、上の一般的手順Aに記載の通り、再分散したFD Na−NCC懸濁液を0〜750Jから超音波処理し、直径48mmのプラスチックペトリ皿に配置し、大気条件で蒸発させる。生成したフィルムは、150Jより上の超音波処理レベルで、可視領域の虹色を示し、750Jで黄色〜緑色から赤色〜オレンジ色にシフトする。上の例1に記載した、超音波処理されていないH−NCC懸濁液のフィルムとは対照的に、超音波処理されていない再分散したFD Na−NCCフィルムは、いかなる虹色をも示さず、半透明の均一の灰色である。
【0062】
(例7)
超音波処理で誘発されたレッドシフトの、塩添加による可逆性
アリコート(15mL)の2.8%(w/w)酸型NCC懸濁液を、上に開示した一般的手順Aに従い、750Jエネルギーインプットへと超音波処理する。これに続いて、0.175〜1.4mLの20mM NaCl(水性)を懸濁液に加え、均質な混合が確実にできるように高スピードで10秒これをボルテックスする。次いで懸濁液を、直径90mmのペトリ皿に配置し、大気条件で乾燥させて固体NCCフィルムにする。生成したフィルムは、0.05〜0.40%NaCl(乾燥NCCに対するw/w)を含有し、反射光において虹色を示し、波長は電磁スペクトルの可視領域及びUV領域にある。文献[20]から予想される通り、NaCl含有量が増加するにつれて、45°入射、D65照明を用いた、45度での反射の主波長は、より短い値へとシフトする(NaClの非存在下での550nmから、0.10%NaClでの40nm(NCCに対するw/w)及び、より高いNaCl含有量での<390nmまで。図9参照)。a)500J超音波処理、及びb)750J超音波処理+0.05%NaCl(NCCに対するw/w)で調製したH−NCCフィルムのスペクトルは、ほとんど同一であり(図10参照)、超音波処理で引き起こされた虹色波長のシフトは、少量の塩、例えばNaClなどを懸濁液に添加することで可逆性となることを示している。
【0063】
塩添加と超音波処理の順番は、生成したフィルムの光学特性に影響を与えないことが判明している。すなわち、塩誘発による虹色のブルーシフトは、超音波処理によっても逆転できるということである。塩の添加を利用して、虹色をより正確に制御することが見込まれており、これによって、より高い柔軟性が得られ、さらにはNCC物質を無駄にせず、製造ミスを修復することが可能となる。
【0064】
(例8)
樹脂処理及び高剪断の均質化
H−NCC懸濁液を、以下の方法に従い、完全に漂白した針葉樹クラフトパルプから調製する。
【0065】
方法1:完全に漂白した針葉樹クラフトパルプを、文献手順[14]に従い、64%(w/w)H2SO4で加水分解した。次いでこの混合物をDI水でクエンチした。上清をデカントし、続いて洗浄し、さらに2回デカントすることにより、過剰な酸を取り除いた。この混合物を濾過し、混床イオン交換樹脂を含有するカラムを通過させ、2.8%NCC(w/w)に濃縮し、次いで再び濾過することによって、大きな凝集体を取り除いた。最終懸濁液pHは、3.21であった。
【0066】
方法2:完全に漂白した針葉樹クラフトパルプを、文献の手順[14]に従い、64%(w/w)H2SO4で加水分解した。次いでこの混合物をDI水でクエンチし、上記の通り、デカントし、洗浄することによって、過剰な酸を取り除いた。この混合物を透析し、次いで2.41%NCC(w/w)に濃縮し、この後で、上の一般的手順Dに記載の通り、混合物を、3000psi(1つのパス)で、高圧ポンプホモジナイザーにかけた。次いでこれを濾過することによって、大きな凝集体を取り除いた。最終懸濁液pHは、2.54であった。
【0067】
Whatman G/Fガラスマイクロファイバーフィルター(細孔の大きさ700nm)を介した濾過に続いて、15mLアリコートの懸濁液を、方法1及び2に対して、それぞれ2.78%及び2.41%NCC(w/w)の濃度で、超音波処理なしで、及び750J超音波処理ありで、調製し、ポリスチレンペトリ皿に配置し、大気条件(20〜25℃及び50〜60%相対湿度)で蒸発により乾燥させることによって、固体NCCフィルムを得た。これを、上の一般的手順Aに記載の通り分析した。図11において、45°入射、D65照明、45°反射で取った反射スペクトルでは、イオン交換樹脂処理(triangles)なしで調製したNCC懸濁液の超音波処理は、30〜50nmの周辺でフィルム虹色に小さなレッドシフトを引き起こす一方で、イオン交換樹脂処理を用いて調製したNCC懸濁液は、同じ超音波処理で、非常に大きなレッドシフトを示している(200nmを超える)ことがわかる。イオン交換樹脂は、10mM NaCl中、フォトン相関分光法で測定したNCC粒径に影響を与えることはなく、懸濁液の粒子濃度又はpHに顕著に影響することもない。
【0068】
(例9)
混床イオン交換樹脂処理に続く高剪断の均質化
例8の方法2に従い調製し、次いで混床(H+/OH−)イオン交換樹脂で処理し、続いて3000psiで均質化した(0、1つ又は2つのパス、1L、2.7%(w/w))懸濁液から、図12に示されているように、45°、D65照明、45°反射で、虹色波長を有するフィルムを得る。これは、高剪断の均質化は、超音波処理と類似の(しかし弱い)効果を有することを示している。
【0069】
(例10)
超音波処理の度合の異なるNCC懸濁液の混合
アリコート(15mL)の2.7%(w/w)酸型NCC懸濁液を、上に開示した一般的手順Aに従い、300J及び900Jエネルギーインプットへと超音波処理する。フィルムは、a)15mLの300J懸濁液、b)15mLの900J懸濁液、及びc)7.5mLの300J懸濁液+7.5mLの900J懸濁液を一緒に混合したものから調製する。すべての懸濁液を大気条件で乾燥させ、固体NCCフィルムにする。生成したフィルムは、反射光において虹色を示し、波長は、電磁スペクトルの可視領域内にある。300Jと900J懸濁液の混合物から調製したフィルムの、45°入射、D65照明及び45°反射角での反射の波長は、他の2つのフィルムの反射の波長の中間であり、600Jに超音波処理した懸濁液から生成したフィルムのものとほとんど同一である(図13を参照)。
【0070】
(例11)
NCC懸濁液に対する超音波処理効果の安定度
アリコート(15mL)の2.77%(w/w)H−NCCを、a)900Jエネルギーインプットへと超音波処理し、フィルムを調製した、b)450Jエネルギーインプットへと超音波処理し、4℃で2週間保存し、450Jエネルギーインプットへと超音波処理し、フィルムを調製した、c)900Jエネルギーインプットへと超音波処理し、4℃で2週間保存し、フィルムを調製した。45°、D65照明、45°反射角で取ったフィルムの反射率スペクトルを図14に示す(比較を簡単にするために強度を調整した)。スペクトルは、ほとんど同一であり、これは、超音波処理の効果は、少なくとも2週間の保存期間中安定していることを示している。別の実験では、超音波処理効果は、少なくとも1カ月の期間、安定したままであることが示されている。
【0071】
(例12)
NCC懸濁液の特性及び挙動に対する超音波処理の効果
アリコート(15mL)の5%(w/w)H−NCCを、異なるエネルギーインプットへと超音波処理し、大気条件で、48〜72時間に渡り、密閉したガラスバイアル内で相分離させた。相分離したら、これらの高さ及び重量測定で測定した各相の濃度から、各相の体積分率を計算した。超音波処理直後に各懸濁液から取った試料を、平坦なガラス管に配置し(光学経路の長さ0.4mm)、相分離もさせた。液晶相のキラルネマチックピッチを、偏光顕微鏡法により測定した。結果は以下の通りだった。
【表1】
【0072】
超音波処理は、体積分率及びNCC液晶相のキラルネマチックピッチを減少させることがわかった。
(参考文献)
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30. Dong, X.M.; Gray, D.G. Langmuir 1997, 13, 2404-2409.
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NCCの水性懸濁液に、所定の機械的エネルギーインプットを施すことによって、所望の又は所定の虹色の波長を達成するステップと、その後、該懸濁液の水を蒸発させることによって、フィルムを形成するステップとを含む、固体ナノ結晶セルロースフィルムにおいて、虹色の波長を制御する方法。
【請求項2】
前記懸濁液中の前記水が、大気温度から沸点のすぐ下までの範囲の温度で蒸発させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記懸濁液中の前記水が、該懸濁液の薄いフィルムから蒸発させられる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記懸濁液が静止状態の間に、該懸濁液中の前記水が、該懸濁液から蒸発させられる、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記機械的エネルギーインプットが超音波である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記機械的エネルギーインプットが、高剪断の機械的作用である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記NCCの水性懸濁液を、所定の条件のpH又はイオン強度へ曝して、生成した前記乾燥フィルムの虹色の波長を短くすることにより、前記虹色の所定の波長を短くするステップを含む、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記水性懸濁液が、該懸濁液の1重量%〜8重量%のNCC濃度を有する、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
虹色の波長を第1の波長から第2の波長へとシフトさせるための、前記エネルギーインプットが、前記懸濁液中の全NCCに対して50〜25000ジュール/gであり、該第2の波長が、該第1の波長より長い、請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記フィルムが、自立型フィルムとして回収される、請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記フィルムが、基板上のコーティングとして形成されることによって、フィルム被覆品が得られる、請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
NCCの水性懸濁液に、所望する所定の虹色に相関した所定の機械的エネルギーインプットを施すステップと、その後、該懸濁液中の水を蒸発させて、該所望する所定の虹色を有する固体フィルムを形成するステップとを含む、所定の虹色の固体ナノ結晶セルロースフィルムを生成する方法。
【請求項13】
前記懸濁液中の前記水が、大気温度から沸点のすぐ下までの範囲の温度で蒸発させられる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記懸濁液中の前記水が、該懸濁液の薄いフィルムから蒸発させられる、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記懸濁液が静止状態の間に、該懸濁液中の前記水が、該懸濁液から蒸発させられる、請求項12から14までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記機械的エネルギーインプットが、超音波である、請求項12から15までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記機械的エネルギーインプットが、高圧の剪断力である、請求項12から15までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記水性懸濁液が、該懸濁液の1重量%〜8重量%のNCC濃度を有する、請求項12から17までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記虹色波長を第1の波長から第2の波長へとシフトさせるための、前記エネルギーインプットが、前記懸濁液中の全NCCに対して50〜25000ジュール/gであり、該第2の波長が、該第1の波長より長い、請求項12から18までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
NCCの第1の水性懸濁液に、所定の機械的エネルギーインプットを施すことによって、虹色の第1の波長を達成するステップ、NCCの第2の水性懸濁液に所定の機械的エネルギーインプットを施すことによって、虹色の第2の波長を達成するステップ、該第1の懸濁液及び該第2の懸濁液を混合することによって、該第1の波長と該第2の波長の中間の第3の波長を有するNCCの第3の水性懸濁液を生成するステップ、並びに該第3の懸濁液中の水を蒸発させて、前記固体フィルムを形成するステップを含む、請求項12から19までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記フィルムが、自立型フィルムとして回収される、請求項12から20までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記フィルムが、基板上のコーティングとして形成されることによって、フィルム被覆品が得られる、請求項12から20までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項1】
NCCの水性懸濁液に、所定の機械的エネルギーインプットを施すことによって、所望の又は所定の虹色の波長を達成するステップと、その後、該懸濁液の水を蒸発させることによって、フィルムを形成するステップとを含む、固体ナノ結晶セルロースフィルムにおいて、虹色の波長を制御する方法。
【請求項2】
前記懸濁液中の前記水が、大気温度から沸点のすぐ下までの範囲の温度で蒸発させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記懸濁液中の前記水が、該懸濁液の薄いフィルムから蒸発させられる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記懸濁液が静止状態の間に、該懸濁液中の前記水が、該懸濁液から蒸発させられる、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記機械的エネルギーインプットが超音波である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記機械的エネルギーインプットが、高剪断の機械的作用である、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記NCCの水性懸濁液を、所定の条件のpH又はイオン強度へ曝して、生成した前記乾燥フィルムの虹色の波長を短くすることにより、前記虹色の所定の波長を短くするステップを含む、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記水性懸濁液が、該懸濁液の1重量%〜8重量%のNCC濃度を有する、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
虹色の波長を第1の波長から第2の波長へとシフトさせるための、前記エネルギーインプットが、前記懸濁液中の全NCCに対して50〜25000ジュール/gであり、該第2の波長が、該第1の波長より長い、請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記フィルムが、自立型フィルムとして回収される、請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記フィルムが、基板上のコーティングとして形成されることによって、フィルム被覆品が得られる、請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
NCCの水性懸濁液に、所望する所定の虹色に相関した所定の機械的エネルギーインプットを施すステップと、その後、該懸濁液中の水を蒸発させて、該所望する所定の虹色を有する固体フィルムを形成するステップとを含む、所定の虹色の固体ナノ結晶セルロースフィルムを生成する方法。
【請求項13】
前記懸濁液中の前記水が、大気温度から沸点のすぐ下までの範囲の温度で蒸発させられる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記懸濁液中の前記水が、該懸濁液の薄いフィルムから蒸発させられる、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記懸濁液が静止状態の間に、該懸濁液中の前記水が、該懸濁液から蒸発させられる、請求項12から14までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記機械的エネルギーインプットが、超音波である、請求項12から15までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記機械的エネルギーインプットが、高圧の剪断力である、請求項12から15までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記水性懸濁液が、該懸濁液の1重量%〜8重量%のNCC濃度を有する、請求項12から17までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記虹色波長を第1の波長から第2の波長へとシフトさせるための、前記エネルギーインプットが、前記懸濁液中の全NCCに対して50〜25000ジュール/gであり、該第2の波長が、該第1の波長より長い、請求項12から18までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
NCCの第1の水性懸濁液に、所定の機械的エネルギーインプットを施すことによって、虹色の第1の波長を達成するステップ、NCCの第2の水性懸濁液に所定の機械的エネルギーインプットを施すことによって、虹色の第2の波長を達成するステップ、該第1の懸濁液及び該第2の懸濁液を混合することによって、該第1の波長と該第2の波長の中間の第3の波長を有するNCCの第3の水性懸濁液を生成するステップ、並びに該第3の懸濁液中の水を蒸発させて、前記固体フィルムを形成するステップを含む、請求項12から19までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記フィルムが、自立型フィルムとして回収される、請求項12から20までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記フィルムが、基板上のコーティングとして形成されることによって、フィルム被覆品が得られる、請求項12から20までのいずれか一項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2012−525448(P2012−525448A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507554(P2012−507554)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【国際出願番号】PCT/CA2010/000687
【国際公開番号】WO2010/124396
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(507171683)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【国際出願番号】PCT/CA2010/000687
【国際公開番号】WO2010/124396
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(507171683)
【Fターム(参考)】
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