説明

ナノ結晶複合金属酸化物の製造方法、及び該製造方法により得られるナノ結晶複合金属酸化物

本発明は、少なくとも2種類の出発化合物からナノ結晶複合金属酸化物粒子を製造する方法であって、a)前記出発化合物の化学量論混合物を、キャリア流体を用いて反応室内に導入する工程と、b)前記出発化合物を、前記反応室の処理領域内で、熱パルスを照射しながらパルス熱処理する工程と、c)ナノ結晶複合金属粒子を形成する工程と、d)工程b)及び工程c)より得られた前記ナノ結晶複合金属粒子を反応装置から回収する工程とを含み、前記出発化合物の化学量論混合物は50℃を超える温度で調製される、ナノ結晶複合金属酸化物粒子の製造方法に関する。さらに、本発明は、特に触媒として使用される、本発明の製造方法により得られるナノ結晶複合金属酸化物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ結晶複合金属酸化物の製造方法、該製造方法により製造されるナノ結晶複合金属酸化物、及び、特に一酸化炭素及び水素からのメタノールの製造及び一酸化炭素の酸化処理におけるその触媒としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物、特に複合金属酸化物は、特にセラミック、ポリマー添加剤、充填剤、顔料、反応表面、触媒など、広い分野で使用されている。
【0003】
また例えば、ペロブスカイト構造を有する銅酸化物は、極めて高い温度で超伝導体に相変化するため、多くの研究の対象となっている。特に、La2−xSrCuOなどのランタン−ストロンチウム系銅酸化物や、YBaCu7−Δなどのイットリウム−バリウム系銅酸化物が研究対象となっている。
【0004】
このような化合物類の典型例には、いわゆるチタン酸塩、ジルコン酸塩、ハフニウム酸塩などが含まれる。これらは、特に、オルトチタネート(MIITiO)及びメタチタネート(MIITiO)に分類される。
【0005】
しかしながら、これらの化合物は、リン酸塩や硫酸塩と同様、単独のイオン([TiO4−及び[TiO2−)をほぼ含まない。このような複合金属酸化物の構造は三次元イオン配列からなり、特に興味深いものである。
【0006】
前記MIIの大きさがTiIVと同程度である場合(例えば、MII=Mg、Mn、Fe、Co、Ni)、イルメナイト(FeTiO)構造が存在する。この構造は酸素原子の六方最密充填構造からなり、八面体ホールの3分の1がMIIに占有され、更に3分の1がTiIVに占有されている。この構造は、Alのいわゆる基本構造にほぼ相当するが、Alには八面体空間の3分の2を占めるカチオンが1種類のみ存在する点で異なる。
【0007】
一方、前記MIIの大きさがTiIVよりも実質的に大きい場合は(例えば、M=Ca、Sr、Ba)、ペロブスカイト(CaTiO)構造をとる。
【0008】
ペロブスカイトは、カルシウム原子及び酸素原子の球体が立体的に非常に密に充填した構造であって、カルシウム原子が規則正しく配列され、かつ、カルシウム原子からできるだけ離間可能なように、チタニウム原子のみが酸素原子から形成される八面体ホールに存在している構造であると考えることができる。ペロブスカイト格子が、BaIIイオンにより広げられる結果、チタニウム原子は相対的に小さくなり八面体ホールの全領域を満たせなくなる。その結果、強誘電性または圧電性がもたらされる。チタン酸バリウムは誘電性が高いため、例えば、小型コンデンサの作製はもちろん、マイクロフォンや撮像素子のセラミック製変換器に使用される。
【0009】
IITiO(M=Ng、Zn、Mn、Fe、Co)は、MgAlのいわゆるスピネル型構造をとる。この構造は、ある種の複合金属酸化物がとる重要な構造の3番目の種類である。ここで、カチオンは、酸化物イオンの球体が立体的に非常に密に充填した構造において、八面体ホール及び四面体ホールの両方を有する。
【0010】
また、このような複合金属酸化物、特にペロブスカイトなどは、触媒コンバーター分野などにおいて、光触媒や酸化性触媒の製造、特にメタノールの製造及び一酸化炭素酸化処理における触媒として使用される。ここで、製造工程における出発原料の焼成工程は、得られる触媒の質に多大な影響を与えるため、その触媒の触媒反応への使用にも多大な影響がある(非特許文献1参照)。
【0011】
出発原料の組成は、結晶化工程のターゲット制御に影響を与える可能性がある。特に触媒反応に使用する場合、結晶の大きさが重要な因子である(非特許文献2参照)。
【0012】
また、製造に係る問題のほとんどは解決されていないものの、ナノ結晶「パウダー」が一層検討されている。
【0013】
従来、このようなナノ結晶複合酸化物パウダーは、通常、(湿式)化学合成、機械法、またはいわゆる熱物理法により製造されている。
【0014】
ペロブスカイトの場合、約2〜10m/gのBET表面積が従来の製造方法により得られる。
【0015】
通常、ナノ結晶パウダーの化学合成では、いわゆる前駆体化合物から出発して、水酸化物沈殿法などによる化学反応や、有機金属化合物の加水分解、熱水処理でパウダーを合成する。前述したとおり、ナノ結晶の最終的な構造は、焼成後または焼成中に自然に定まる。
【0016】
機械法は、非均一な粒子を激しく粉砕して均一な粒子にすることを特徴とするが、粒子に掛かる圧力により、粒子がアモルファス化する相変化を引き起こしてしまうことが多い。
【0017】
この方法で製造される粒子の粒径分布は通常均一にならない。さらに、粉砕ツールによる摩耗や生成物への異物混入の恐れがあるため、得られたナノ結晶複合酸化物を触媒分野で使用する場合は特に不利である。
【0018】
熱物理法は、例えば特許文献1に記載されている。この方法は、熱エネルギを固体状、液状、または気体状の出発化合物に導入することに基づく。特許文献1は、特に、出発原料を酸水素炎中に噴霧して分解する、いわゆるプラズマ噴霧熱分解法(PSP)に関する。この技術の好ましい適用例は、易蒸発性有機シリコン化合物を酸水素炎中に噴霧する微細結晶性二酸化シリコンの製造である。
【0019】
さらに、ナノ結晶粒子の製造には、出発原料を6000Kのプラズマ中で蒸発させる、いわゆるプラズマ合成方法が使用されている。従来の製造方法としては、更に、気体状態の出発物質を反応させるCVD法などが挙げられる。CVD法では、相構造が互いに異なる非酸化性パウダーまたは複合酸化物化合物が形成されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】国際公開第2004/005184号パンフレット
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Zuhlke, Dissertation, TH Karlsruhe 1999
【非特許文献2】R. Schlogel et al, Angewandte Chemie 116, 1628-1637, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
前記従来の方法には、特に、粒径分布が非常に広いナノ結晶が存在する;ナノ結晶粒子が凝集してしまう;不完全相転移が起こる(すなわち、所望の最終生成物が40〜70%しか得られない)、などの問題があり、精製や再結晶を更に行う必要があった。
【0023】
すなわち、本発明は、前記従来の問題(特に相転移や相混合、及び出発原料の不完全反応)を解決し、かつ、ナノ結晶粒子サイズを調節することができ、更に特定サイズの内面及び結晶構造を有する粒子を得ることができる、粒子同士が凝集していない結晶複合酸化物パウダーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記課題は、少なくとも2種類の出発化合物からナノ結晶複合金属酸化物粒子を製造する方法であって、a)前記出発化合物の化学量論混合物を、キャリア流体を用いて反応室内に導入する工程と、b)前記出発化合物を、前記反応室の処理領域内で、熱パルスを照射しながらパルス熱処理する工程と、c)ナノ結晶複合金属粒子を形成する工程と、d)工程b)及び工程c)より得られた前記ナノ結晶複合金属粒子を反応装置から回収する工程とを含み、前記出発化合物の化学量論混合物は50℃を超える温度で調製される、本発明のナノ結晶複合金属酸化物粒子の製造方法により解決される。
【0025】
驚くべきことに、粒子サイズが30μm未満、好ましくは20μm未満、更に好ましくは10μm未満、特に好ましくは5μm未満という特に小さい結晶が、化学量論的出発化合物の混合中に熱処理することにより得られることがわかった。ペロブスカイト、イルメナイト、スピネルは、いわゆるドメイン構造として存在することが多い。それぞれのドメイン構造は、対応する熱処理により、選択的にターゲット制御可能であるため、ドメイン構造が特に良好なペロブスカイト、イルメナイト、スピネルを単一相中に小さい結晶サイズで得ることができる。
【0026】
本発明では熱処理を行わなくても、得られた複合酸化物のドメイン構造がドメイン境界や不純粋構造(混合相)を通常有さないことがわかった。
【発明の効果】
【0027】
したがって、本発明の製造方法によれば、結晶化工程をターゲット制御することが可能であり、特に更なるステップを行うことで、対応する複合金属酸化物の結晶サイズや孔サイズ分布もターゲット制御することが可能である。また例えば、出発化合物の混合物の燃焼室中における保持時間や反応室温度により制御することが有利である。パルス熱処理を行うことにより、形成されるナノ結晶粒子の凝集が防止される。通常、ナノ結晶粒子はホットガスにより直ちに反応室又は反応装置の低温領域に移送され、粒径20μm未満のものを含むナノ結晶が生じる。これにより、ナノ結晶複合酸化物の場合、BET表面積が明らかに向上する。
【0028】
一例として、ペロブスカイト構造の場合、従来のペロブスカイトの合成方法で得られるBET表面積は約2〜10m/gであるが、本発明の製造方法によれば、BET表面積が100〜200m/g、好ましくは150〜200m/gであるペロブスカイトナノ粒子が得られる。このようなBET表面積範囲は、本発明の製造方法により製造したイルメナイト及びスピネルにも得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の製造方法により製造したナノ結晶材料LaSrMnOを使用した、一酸化炭素の酸化テストの結果を示す図である。
【図2】水酸化物沈殿法により製造したLaSrMnOを使用した、酸化の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の好適な実施形態では、クエン酸またはクエン酸塩を出発化合物の混合物に更に添加する。クエン酸及びその誘導体の代わりに、例えばマレイン酸及びその誘導体を使用することも可能である。クエン酸及びマレイン酸(及びそれらの誘導体)はいずれも、金属と酸とのキレートにより良好な金属複合体が得られるからである。また、特にクエン酸及びその誘導体を使用する場合、極めて一様に分布した金属複合体/結晶が得られるため、焼成過程において、相混合のない複雑なペロブスカイト構造へ変化させることができる。
【0031】
本発明の製造方法の更なる利点は、縣濁液を、濾過工程及び/又は乾燥工程を更に行わずに、或いは溶媒を更に加えずに、非常に短時間(通常数ミリ秒以内)かつ300〜700℃という比較的低温で焼成できることが挙げられる。900℃を超える温度で焼成を通常行う従来の方法よりも低温で焼成を行うことにより、生成物の相構造が単一となる。よって、例えば本発明の製造方法により製造したイットリウム−バリウム系銅酸化物を光分析フレームワークの光導波路用物質として使用することもできる。これを達成することは、従前からのイットリウム−バリウム系銅酸化物の意義のある目的であったが、十分に達成されていなかった(J. Kircher, Dissertation TH Karlsruhe 1992, Ellipsometrische Untersuchungen zum elektronischen Normalzustand der Yttriumbariumcuprate)。
【0032】
本発明の製造方法により得られるナノ結晶複合酸化物化合物のBET表面積は極めて高く、活性材料として使用すれば、高反応性、かつ変換性及び選択性に優れた触媒が得られる。全粒子の保持時間が実質的に同じであるため、本発明の製造方法により形成された均一な温度場により、シャープな単一の複合酸化物ナノ結晶粒径分布を有する極めて均質な最終生成物が得られる。
【0033】
また、本発明の製造方法により得られるナノ結晶、例えばアルミン酸マグネシウムなどは、Ni、Pd/Ptなどの他の触媒システムの助剤として機能しうる。
【0034】
上記の単一ナノ結晶複合金属酸化物パウダーを製造する本発明の製造方法を実施する基本的な装置は、例えば独国特許出願公開第1010982号明細書に記載されている。本発明の製造方法は、当該公報に記載されている装置及び製造方法とは異なり、蒸発性の出発原料を蒸発温度まで加熱する予備蒸発工程を必要としない。したがって、当該公報における、前半の蒸発工程またはそれに対応する出発原料を蒸発するための装置モジュールは不要である。出発原料の化学量論混合物は、溶液、スラリー、縣濁液、または固体として反応室に導入される。
【0035】
通常、本発明の複合金属酸化物パウダーの原材料である混合物は、好ましくは噴霧状態で、キャリア流体、特にはキャリアガス、好ましくは窒素などの不活性ガスを介して、いわゆる反応室、より正確には燃焼室に直接導入される。
【0036】
出発原料を選択する際に極めて正確に化学量論組成が決定されうることは、他の製造方法では十分に達成できない、本発明の製造方法の更に有利な利点である。
【0037】
反応室の排出側には、流路断面が反応室よりも明らかに小さい共鳴スペースが設けられている。燃焼室の底部には、燃焼用空気を燃焼室に導入するためのバルブが数個装着されている。これらの空気バルブは、燃焼室内で生じる、無炎の均一温度場の圧力のパルス波が共鳴管中に主に広がるように、燃焼室及び共鳴管形状に合わせて流体音響的に調節されている。これにより、パルス・フローが起こるいわゆるヘルムホルツ共鳴器(Helmholz resonator)が形成される。前記パルスは規則的でも不規則でもよい。
【0038】
材料は、通常、インジェクター、または適切な2成分ノズル及びシェンク(Schenk)ディスペンサーを用いて反応室に供給される。本発明で使用する反応装置の定格出力は通常50〜250Kwである。例えば、天然ガス、プロパン、水素などを燃料として使用して、パルス熱を形成する。本発明のナノ結晶複合酸化物パウダーを得るために、温度は例えば250℃まで下げてよい。
【0039】
本発明の製造方法における材料の供給量は、通常、出発化合物の化学量論混合物の固体または縣濁液で、最大150kg/時である。
【0040】
熱処理工程の保持時間は通常200ミリ秒〜約2秒であり、結晶サイズは約5nm〜100μm、好ましくは5nm〜30μm、特に好ましくは10nm〜20μmである。
【0041】
以上より、本発明の製造方法によれば、出発化合物の化学量論混合物を反応装置に直接導入することによって、単一ナノ結晶複合酸化物パウダーを更に製造できる。驚くべきことに、例えば、生成した結晶体の濾過を必要とすることなく、酸化性の出発化合物の乾燥混合酸化物パウダーを、化学量論混合物として固体状態で燃焼室に直接導入することもできる。さらに、本発明の製造方法によれば、従来の製造方法よりも低温で本発明の複合金属酸化物を製造できる。
【0042】
また、溶液、特に出発原料の水溶液を使用する好ましいケースでは、水酸化物法が通常必要とする付加的な沈殿工程が不要なため、当該溶液を反応装置内で直接熱処理、すなわち焼成することができる。
【0043】
前記キャリア流体は、空気、窒素ガス、または空気/窒素混合ガスなどのキャリアガスが好ましい。流体として液体を使用してもよく、出発原料は「溶液」として最初から溶液中に存在することになる。キャリア流体の性質は、特に処理領域における保持時間を左右する。したがって本発明では、例えば、硫酸塩、酸化物、硝酸塩などの難溶解性の出発化合物から直接調製した縣濁液及びスラリーを、直接使用することも可能である。
【0044】
出発化合物は、噴霧状態で反応室に導入されることが好ましい。これにより、出発化合物が確実に処理領域内に一様に分布する。
【0045】
また、結晶サイズ及び多孔率は、パルスの制御(規則的、不規則、或いは全期間一定にするか、及び熱パルス処理の振幅)、処理領域内における出発化合物の保持時間制御(通常は200ミリ秒〜2秒)により確定する。
【0046】
熱処理後、生成されたナノ結晶複合金属酸化物は、可能であれば直ちにキャリアガスにより反応室の低温領域に移送される。そして、ナノ結晶複合金属酸化物は低温領域内に集められ、回収される。生成物のほとんどは固体として反応装置から回収可能であるため、出発物質の化学量論混合物に基づいて計算すると、本発明の製造方法の収率はほぼ1%である。
【0047】
上述したとおり、驚くべきことに、固体状態で存在する酸化物も出発物質として使用することができることもわかった。本発明によれば、これら酸化物は、その後のパルス熱処理により直ちにナノ結晶複合酸化物粒子に変換される。よって、本発明の製造方法の特に有利な実施形態において、製造過程において使用できるかどうかを溶解性、揮発性などを考慮して特定の出発化合物を選択する必要がないため、広範な分野への応用が期待される。
【0048】
また、本発明の製造方法の更に好ましい実施形態において、溶解性金属化合物を出発化合物の混合物として使用することも可能である。特に、入手が容易な出発化合物である、金属又は遷移金属の硝酸塩、塩化物、酢酸塩などを使用することができる。
【0049】
驚くべきことに、熱処理を200〜700℃、好ましくは700℃未満、例えば350〜650℃の低温で行うことができることがわかった。これは、1000℃を超える温度で通常行われる従来の熱分解プロセスと比較して有利なものである。
【0050】
さらに、15〜40barの圧力を加えることにより、生成物への異物混入や、好ましくない相及び混合相の発生に繋がりうる分解及び二次反応が防止される。
【0051】
本発明の目的は、本発明の製造方法に加えて、本発明の製造方法により得られるナノ結晶金属酸化物により達成される。
【0052】
また、本発明のナノ結晶金属酸化物の結晶サイズは5nm〜100μm、好ましくは10nm〜10μmであることがわかった。結晶サイズは、上述したように、特に熱処理のパルスにより調節することができる。
【0053】
特に好ましい実施の形態において、本発明の結晶複合酸化物は、スピネル、イルメナイト、及びペロブスカイトの構造から選ばれる物質である。これにより、本発明の製造方法の応用分野が、触媒活性材料や伝導性材料の製造にも広がる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の製造方法を実施例に基づいて図面を参照しながら説明するが、本発明の範囲は、これら実施例に限定されない。
【0055】
使用した装置は、大部分が独国特許出願公開第1010982号明細書に記載の装置に相当する。相違点は、本発明の製造方法の実施に使用した改造装置が予備蒸発工程を必要としないことである。
【0056】
[実施例1]
(LaMnOの調製)
Mn(NO四水和物2.5112g、La(NO六水和物4.3302g、クエン酸4.2028gを水30mlに80℃で溶解し、ゆっくりと150℃に再加熱した。次いで、シェンク(Schenk)ディスペンサーを用いて、得られた粘性溶液を前述の反応装置に噴霧状態にして導入した。反応装置内での保持時間を700ミリ秒、温度は270℃に設定した。
【0057】
BET表面積が175m/gであるLaMnOを6.1g(収率95%相当)反応装置から回収した。
【0058】
[実施例2]
(La0.5Sr0.5MnOの調製)
Sr(NO 1.07g、Mn(NO)四水和物2.60g、La(NO六水和物2.22g、クエン酸4.20gを水30mlに80℃で溶解した。実施例1と同様に、シェンク(Schenk)ディスペンサーを用いて、得られた溶液を反応装置に導入した。反応装置内でのパウダーの保持時間は同様に700ミリ秒、温度は200℃に設定した。La0.5Sr0.5MnOの収量は4.5gであり、BET表面積は185m/gであった。
【0059】
[実施例3]
一酸化炭素の酸化処理における、実施例2のLa0.5Sr0.5MnOと水酸化沈殿法により調製・焼成したLa0.5Sr0.5MnOとの比較試験を行った。
【0060】
シリカガラス製の反応装置内で、La0.5Sr0.5MnO 100gとシリカサンド500mgとを混合し、流量35ml/分のガス流(人工空気中のCO濃度:802ppm)中に流した。パウダーの活性化は起こらなかった。
【0061】
図1は、150℃で約66%の一酸化炭素の変換が達成されたことを示す。また、200℃で全ての一酸化炭素の変換が達成された。
【0062】
図2は、水酸化物法で得られた2種類のLa0.5Sr0.5MnOサンプルを使用した一酸化炭素の変換を示す。
【0063】
サンプル1の曲線が示すように、150℃で約13%の一酸化炭素の変換が観察された。約200℃で90%の一酸化炭素が変換され、250℃で100%の変換が得られた。
【0064】
他方のサンプル(サンプル2)は更に値が悪かった。また、この比較結果から、従来の水酸化物沈殿法では均一な性質の生成物が確実に得られないが、本発明の製造方法では確実に得られることがわかる。
【0065】
2種のサンプルの比較結果から、本発明の製造方法により得られたナノ結晶複合酸化物は触媒活性が向上していることがわかる。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類の出発化合物からナノ結晶複合金属酸化物粒子を製造する方法であって、
a)前記出発化合物の化学量論混合物を、キャリア流体を用いて反応室内に導入する工程と、
b)前記出発化合物を、前記反応室の処理領域内で、熱パルスを照射しながらパルス熱処理する工程と、
c)ナノ結晶複合金属粒子を形成する工程と、
d)工程b)及び工程c)より得られた前記ナノ結晶複合金属粒子を反応装置から回収する工程とを含み、
前記出発化合物の化学量論混合物は50℃を超える温度で調製される、ナノ結晶複合金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記複合金属酸化物は、ペロブスカイト、イルメナイト、及びスピネルの構造から選ばれる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記出発化合物の化学量論混合物は、溶液、スラリー、縣濁液、または固体として前記反応室に導入される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記キャリア流体は気体である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記出発化合物の化学量論混合物は水溶液として前記反応室に導入される、請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記出発化合物の化学量論混合物には更にクエン酸またはクエン酸塩が添加される、先行請求項のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記出発化合物の化学量論混合物は噴霧状態で前記反応室に導入される、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記パルス熱処理のパルスは規則的または不規則である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記処理領域における前記熱処理後、形成されたナノ結晶複合金属酸化物粒子は前記反応室の低温領域に移送される、先行請求項のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理は300〜700℃で行われる、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
15〜40barの圧力下で行われる、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の製造方法により得られる、ナノ結晶複合金属酸化物。
【請求項13】
結晶サイズは10nm〜10μmである、請求項12に記載のナノ結晶金属酸化物。
【請求項14】
ペロブスカイト型、イルメナイト型、またはスピネル型である、請求項12または13に記載のナノ結晶金属酸化物。
【請求項15】
BET表面積は100〜200m/gである、請求項14に記載のナノ結晶金属酸化物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−502553(P2010−502553A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527064(P2009−527064)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【国際出願番号】PCT/EP2007/007841
【国際公開番号】WO2008/028681
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(591056237)ジュート−ヒェミー アクチェンゲゼルシャフト (33)
【氏名又は名称原語表記】Sued−Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Lenbachplatz 6, D−80333 Muenchen,Germany
【Fターム(参考)】