説明

ナノ繊維

【課題】異相構造を有するとともに製造安定性に優れたナノ繊維を提供する。
【解決手段】ナノ繊維130は、コア131とシェル層133とから構成され、エレクトロスピニング法により得られる。コア131とシェル層133とは、異なる材料により構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメートルオーダーの繊維径を有するナノ繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロスピニング法を用いたナノ繊維の開発が進められている(特許文献1)。特許文献1によれば、エレクトロスピニング法は、ポリマーを電解質溶液に溶解し、このポリマー溶液を口金から吐出する時に高電圧を印加し、その静電反発作用でポリマー溶液を無理矢理ひきちぎって極細化する技術である。
【0003】
また、特許文献1には、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーからなるポリマーアロイ繊維を溶融紡糸により作製し、このポリマーアロイ繊維から易溶解性ポリマーを除去することにより、ナノファイバーを作製することが記載されている。また、得られたナノファイバー凝集体または分散体にモノマーを含浸させ、その後、重合あるいは加工する機能加工方法が記載されている。
【特許文献1】特開2005−36376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載の方法では、ポリマーアロイの設計が煩雑であり、適用できる材料に制限があった。また、ナノファイバーを作製した後、後処理で機能性物質をナノファイバーに担持させるため、複合材料の構造をナノメートルオーダーで安定的に制御する観点で改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、エレクトロスピニング法により得られる、異相構造を有するナノ繊維が提供される。
【0006】
本発明において、ナノ繊維とは、ナノメートルオーダーの直径を有する繊維をいう。ここで、直径は、たとえば数平均繊維径とする。本発明のナノ繊維の数平均繊維径は、たとえば5nm以上950nm以下とすることができる。
【0007】
本発明によれば、エレクトロスピニング法を用いることにより、明瞭な境界を有する微細な異相構造を安定的に製造可能である。このため、本発明によれば、界面が明瞭な異相構造を有するナノ繊維を安定的に得ることができる。
【0008】
本発明において、異相構造とは、隣接する二つの相を有し、これらの相の境界が明瞭な構造をいう。たとえば、本発明のナノ繊維において、前記異相構造が、繊維の中心軸に沿って延在する第一の相と、前記第一の相の延在方向に対する垂直断面において、前記第一の相の外側に配置された第二の相と、を含み、前記第一の相が、中空領域または第一材料により構成された領域であるとともに、前記第二の相が前記第一材料と異なる第二材料により構成されていてもよい。
【0009】
本発明において、異相構造中に含まれる相は、たとえば中実の領域とする。具体的には、本発明のナノ繊維において、前記第一の相が、前記第一材料により構成された領域であって、前記第二の相が、前記第一の相を被覆する領域であってもよい。本発明のナノ繊維は、エレクトロスピニング法により得られるため、一本のナノ繊維内における第一の相の径のばらつきや、第二の相の厚さのばらつきが好適に抑制された構成となっている。
【0010】
また、本発明において、ナノ繊維を構成する少なくとも一つの相が中空領域であってもよい。中空領域は、ナノ繊維の内部に形成されていてもよいし、一部がナノ繊維の外部に露出していてもよい。たとえば、ナノ繊維の両端部において、中空領域がナノ繊維の外部に連通していてもよい。
【0011】
具体的には、本発明のナノ繊維において、前記第一の相が中空領域であって、前記第二の相が、前記第一の相の周囲を取り囲む環状の領域であってもよい。本発明のナノ繊維は、エレクトロスピニング法により得られるため、ナノ繊維が中空領域を有する場合にも、製造安定性に優れ、繊維径および中空領域の径のばらつきが抑制される構成となっている。
【0012】
また、この構成において、前記第二の相が無機材料により構成されてもよい。本発明のナノ繊維は、エレクトロスピニング法により得られるため、第二の相が無機材料である場合にも、製造安定性に優れた中空繊維を得ることができる。
【0013】
また、本発明において、異相構造中に含まれる少なくとも一つの相は、必ずしもナノ繊維全体にわたって延在形性されている必要はなく、たとえば他の相に付着した微粒子であってもよい。具体的には、本発明のナノ繊維において、前記第一の相が、前記第一材料により構成された領域であって、前記第二の相が、前記第一材料に付着した微粒子から構成された領域であってもよい。これにより、第二の相の比表面積をさらに効果的に増加させることができる。この構成において、前記第一材料が、無機材料を含んでもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エレクトロスピニング法により、異相構造を有するとともに製造安定性に優れたナノ繊維が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0016】
(第一の実施形態)
図1は、本実施形態のナノ繊維の構成を示す斜視図である。このナノ繊維110は、エレクトロスピニング法により得られる、異相構造(コア131およびシェル層133)を有する繊維である。異相構造は、繊維の中心軸に沿って延在する第一の相(コア131)と、コア131の延在方向に対する垂直断面において、コア131の外側に配置された第二の相(シェル層133)と、を含む。
【0017】
コア131は、第一材料により構成された領域である。
また、シェル層133は、コア131に接して設けられ、コア131の側面外周を被覆する領域である。コア131とシェル層133とは、同軸上に配置されている。また、コア131とシェル層133とは、同一工程により同時に形成される。シェル層133は、コア131と異なる第二材料により構成される。
【0018】
コア131およびシェル層133の材料は、エレクトロスピニング可能な材料であれば特に制限はないが、たとえば、ポリアニリン等の有機高分子材料や、シリカ、タイタニア、ジルコニア等の無機材料とする。
また、コア131とシェル層133との材料の組み合わせとしては、たとえば、コア131またはシェル層133の一方をシリカ等の無機材料とし、他方が有機高分子材料とする組み合わせが挙げられる。また、コア131とシェル層133とが、異なる有機高分子材料からなる構成としてもよい。
【0019】
ナノ繊維110の直径は、製造安定性をさらに向上させる観点では、たとえば5nm以上、好ましくは10nm以上、さらに好ましくは50nm以上である。また、ナノ繊維110の直径は、ナノ繊維110の比表面積を増加させる観点では、たとえば950nm以下、好ましくは500nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。
【0020】
さらに、コア131の直径は、コア131の製造安定性をさらに向上させる観点では、たとえば2nm以上、好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上である。また、コア131の直径は、ナノ繊維の相構造をさらに微細化する観点では、たとえば200nm以下、好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。
【0021】
シェル層133の厚さは、シェル層133の厚さのばらつきを抑制する観点では、たとえば2nm以上、好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上である。また、シェル層133の厚さは、ナノ繊維の直径を小さくする観点では、たとえば500nm以下、好ましくは300nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。
【0022】
ナノ繊維110は、エレクトロスピニング法により作製される。エレクトロスピニング法は、エレクトロスプレーイオン化法と同様の原理を用いたナノサイズの極微細ファイバの製造法である。ただし、このような多層の断面構造を有するナノ繊維110の作製を、従来の短繊維のエレクトロスピニング法で得ることは困難である。そこで、本実施形態においては、同軸構造を有するキャピラリーを用い、二種類の原料を用いる。これにより、単一の原料よりなるナノ繊維より高機能なナノ繊維の製造が実現される。また、相反する属性を有する二つの材料が同心円状に形成されたナノ繊維の安定的な製造が可能となる。
【0023】
そこで、以下、図2〜図5を参照して、本実施形態および後述する各実施形態のナノ繊維の製造に用いる口金の構成の例を説明する。
【0024】
図2は、ナノ繊維110の製造に用いられる口金の構成を示す斜視図である。図3は、図2のA−A’断面図である。図4(a)および図4(b)は、図3の噴出口113近傍を拡大して示す図である。図4(b)および図5は、図4(a)のB−B’断面図である。これらの図面に示した口金100においては、ブロック102に第一流路105および第二流路111が設けられている。
【0025】
図2〜図5に示した口金100は、導電材料により構成されたブロック102と、ブロック102に設けられた流体の噴出部(噴出口113)と、ブロック102の内部に設けられるとともに噴出口113に連通する第一流路105(図2)と、ブロック102の内部に設けられるとともに噴出口113に連通し、第一流路105と同軸上に配置されるとともに第一流路105の側面外周を取り囲むように設けられた環状の第二流路111と、を有する。口金100は、第一流路105と第二流路111とが同軸上に設けられた一体成型同軸キャピラリーヘッドである。
【0026】
ブロック102は、所定の形状を有する塊状の材料であり、本実施形態では直方体のブロックである。ブロック102の材料は、たとえば導電材料とし、さらに具体的には、鉄、ステンレス等の鉄合金、その他の金属とする。ブロック102の前端面119、後端面123および側面125は、たとえば一辺の長さが5mm以上50mm以下の矩形とする。
【0027】
口金100は、連続一体なブロック102により構成されている。本明細書において、連続一体とは、連続体として一体に成形されていることをいう。また、ブロック102が単一部材からなり、接合部を有しない構造であることが好ましい。ブロック102が連続一体な部材であれば、たとえばブロック102の壁面に所定のコーティング等が施されていてもよい。
【0028】
また、ブロック102は、その一部をなす部材として、バルク状の支持部と、第一流路105と第二流路111とを隔てる隔壁部とを含む。また、支持部は、第一流路105の側壁を構成する第一壁部と第二流路111の側壁を構成する第二壁部とを含む。つまり、ブロック102においては、第一壁部、第二壁部および隔壁部が連続一体に形成されている。
【0029】
口金100においては、第一流路105の流路壁と第二流路111の流路壁とが、ブロック102の壁面の一部により構成されている。そして、第一流路105と第二流路111とが、ブロック102の一部をなす隔壁(第一キャピラリー106)により隔離されている。こうすれば、複数の微細流路が同軸上に配置された口金100の流路壁を頑強にすることができる。
【0030】
第一流路105および第二流路111は、流路の延在方向に沿って略一定の内径を有する形状であり、同心円状に配置されている。第一流路105および第二流路111には、それぞれ異なる供給口から第一流体(流体A)と第二流体(流体B)が供給される。流体Aおよび流体Bは、それぞれ、異なる材料とすることができる。また、流体Aおよび流体Bは、それぞれ、固体、液体、気体のいずれであってもよい。
【0031】
ブロック102には、第一流路105に連通し、第一流路105中に流体Aを供給する第一供給口(第一供給部101の端部)と、第二流路111に連通し、第二流路111中に流体Bを供給する第二供給口(第二供給部107の端部)と、が設けられ、第二供給部107と第一供給部101とが互いに離隔して形成されている。
【0032】
口金100では、第一供給部101から第一流路105への流体Aの供給方向が、第一流路105の中心軸の延在方向であって、第二供給部107から第二流路111への流体Bの供給方向が、第二流路111の中心軸の延在方向と異なる方向である。
【0033】
第二供給部107と第一供給部101とは、ブロック102の異なる面に設けられている。こうすれば、ブロック102に各流路を形成する際の加工容易性を向上させることができる。このとき、流体Aと流体Bとは、それぞれ異なる面からブロック102中に導入される。第一供給部101には流体Aが導入される。第一供給部101に供給された流体Aは、第一接続部103を経由して第一流路105に至る。また、第二供給部107には、流体Bが導入される。第二供給部107に供給された流体Bは、第二接続部109を経由して第二流路111に至る。
【0034】
第一流路105は、ブロック102の一部をなす第一キャピラリー106の内部の領域である。第一キャピラリー106は、ブロック102の前端面119から突出する突出部115を有する。第一キャピラリー106の内径は、たとえば0.05mm以上3mm以下とする。また、第一流路105は、前端面119からブロック102の内側に向かって延在している。第一流路105には、第一接続部103および第一供給部101がこの順に連通している。
【0035】
第一接続部103および第一供給部101は、第一流路105同様、ブロック102を所定の形状に加工して設けられた管状の領域である。第一流路105、第一接続部103および第一供給部101は同軸上に配置される。また、前端面119から見たときに、第一流路105、第一接続部103および第一供給部101の断面積がこの順に大きくなっている。第一供給部101は、ブロック102の後端面123に設けられた開口部に連通している。
【0036】
また、第二流路111は、第一キャピラリー106と第二キャピラリー121との間の円環状の領域である。第二キャピラリー121は、ブロック102の一部をなし、第一流路105の外側に、第一流路105と同軸上に設けられている。第二キャピラリー121の内径は、たとえば第一キャピラリー106の内径よりも大きく、またたとえば3mm以下とする。第二流路111は、第二接続部109に連通し、第二接続部109は第二供給部107に連通している。
【0037】
第二接続部109および第二供給部107は、ブロック102の所定の領域が除去されてなる管状の領域である。第二接続部109および第二供給部107は、第二流路111の延在方向に対して垂直に延在形成されている。第二供給部107はブロック102の側面125に設けられた開口部に連通している。
【0038】
噴出口113は、ブロック102の表面近傍に設けられている。噴出口113は、ブロック102中に供給された流体が噴出する開口部であって、第一噴出口112および第二噴出口114からなる(図4(a))。第一流路105は第一噴出口112に連通し、第二流路111は第二噴出口114に連通する。第二噴出口114の位置は、ブロック102の表面(前端面119)に一致しており、第一噴出口112は、第二噴出口114よりもブロック102の外側に配置されている。なお、本実施形態では、噴出口113が複数の平面内に設けられているが、噴出口113全体が同一面内に設けられていてもよい。
【0039】
口金100においては、第一キャピラリー106の先端が、ブロック102の表面(前端面119)から突出している。このため、第一流路105の先端が、前端面119よりもブロック102の外側に突出している。そして、第一流路105の先端が、第二流路111の先端よりもブロック102の外側に突出している。つまり、第二キャピラリー121の端部よりも第一キャピラリー106の端部がブロック102の外側に向かって突出して突出部115となっている。このようにすることにより、エレクトロスピニング法に用いた際に、流体Aおよび流体Bのスピニングを確実に生じさせることができる。
【0040】
また、第二キャピラリー121の側方に、液溜117が設けられている。液溜117は、ブロック102に設けられるとともに、ブロック102の所定の領域を除去することにより形成された環状の凹部である。凹部の平面形状は、たとえば、第一流路105の周囲を取り囲む円環状とする。
【0041】
液溜117を設けることにより、噴出口113において第一流路105および第二流路111からあふれた余剰の流体を液溜117内に効率よく導くことができる。このため、噴出口113近傍において、流体Aまたは流体Bの液滴が、ブロック102端面にたまらないようにすることができる。よって、エレクトロスピニング法におけるキャピラリーヘッドに適用した際に、噴出口113において確実に流体のスピニングを生じさせることができる。
【0042】
なお、液溜117は、噴出口113近傍において第一流路105および第二流路111からあふれた余剰の流体を排出可能な構成となっていればよく、第二流路111に連通していてもよいし、第二流路111から離隔して設けられていてもよい。
【0043】
図2〜図5に示した口金100は、ブロック102を加工することにより得られる。ブロック102を加工することにより、ブロック102中の壁面や隔壁が形成される。また、第一流路105および第二流路111は、ブロック102の表面からブロック102を穴あけ加工することにより形成されている。さらに具体的には、第一流路105および第二流路111は、たとえば、ブロック102の所定の面から非接触加工によりブロック102を彫り込むことにより得られる。
【0044】
放電加工やレーザ加工等の非接触加工を用いてブロック102を彫り込むことにより、流路の加工精度をさらに向上させることができる。また、口金100においては、ブロック102の所定の面から彫り込むことにより第一流路105および第二流路111が形成されているため、後工程において第一流路105と第二流路111との位置決めする必要がない。また、流路の軸ぶれが抑制された構成となっている。
【0045】
ブロック102は、導電材料により構成されているので、たとえば放電加工を用いて製造可能である。放電加工等の非接触加工による製造可能であるため、微細加工における加工精度に優れた構成となっている。
【0046】
口金100においては、同軸上に複数の流路が設けられている。これらの複数の流路の流路壁は、ブロック102の壁面の一部により構成されている。また、これらの流路が、ブロック102の一部をなす隔壁により隔離されている。このため、使用時等の後工程で、各流路を同軸上に軸あわせする必要がない。また、流路が微細である場合にも流路壁の強度に優れている。このため、液体を加圧した状態で各流路に供給する際にも、各キャピラリーの軸ぶれを抑制することができる。よって、口金100によれば、加圧された多種類の流体を所定の領域から制御性よく噴出させることができる。
【0047】
さらに具体的には、口金100においては、複数のキャピラリーチューブを独立した部材とせずに、ブロック102を加工することにより、第一流路105および第二流路111が形成される。第一流路105の流路壁と第二流路111の流路壁とが、ブロック102の壁面の一部により構成されており、第一流路105と第二流路111とが、ブロック102の一部をなす第一キャピラリー106により隔離されているため、これらのキャピラリーを所定の位置に安定的に形成することができる。このため、二つのキャピラリーを別個の部材として形成し、同軸上に配置して固定する場合とは異なり、第一流路105と第二流路111とを所定の位置に確実に形成し、軸ぶれを抑制することができる。また、第一キャピラリー106および第二キャピラリー121がブロック102の一部をなすため、これらの強度を向上させることができる。よって、これらのキャピラリーの耐久性および整備性を向上させることができる。
【0048】
このように、口金100は、エレクトロスピニング法を用いて本実施形態の異相構造を有するナノ繊維を作製する場合のように、流路の軸合わせを特に高精度で行うことが求められる場合にも、充分に適用可能である。また、ブロック102が導電材料である点においても、口金100は、本実施形態のナノ繊維の製造に好適に利用できる。
【0049】
したがって、口金100は、微細構造を有するナノ繊維の製造に好適に用いることができる。口金100を用いることにより、多層構造を有するナノ繊維を高い歩留まりで安定的に製造することができる。なお、第一流路105および第二流路111に供給される流体は、固体、液体、気体のいずれであってもよい。
【0050】
また、口金100においては、噴出口113において、第二キャピラリー121の端部よりも第一キャピラリー106の端部が突出して突出部115となっている。この構成により、流体Aおよび流体Bをさらに安定的に噴出することができる。
【0051】
次に、口金100を用いたエレクトロスピニング法によるナノ繊維110の製造方法の一例を説明する。
【0052】
本実施形態のナノ繊維110は、口金100の第一流路105に流体Aを供給するとともに第二流路111に流体Bを供給しつつ、ブロック102に所定の電圧を印加して、流体Aおよび流体Bを噴出口113から噴出させて得られる。
【0053】
流体Aと流体Bは、それぞれ異なる面からブロック102中に導入される。第一供給部101には流体Aが導入される。流体Aは、第一接続部103を経由して第一流路105に至る。また、第二供給部107には、流体Bが導入される。流体Bは、第二接続部109を経由して第二流路111に至る。口金100においては、第二供給部107と第一供給部101とが、ブロック102の異なる面に設けられているため、ブロック102に各流路を形成する際の加工容易性を向上させることができる。
【0054】
図7(a)および図7(b)は、口金100を用いたナノ繊維110の製造方法を説明する図である。図7(a)は、口金100の噴出口113から流体Aおよび流体Bを噴出させる様子を示している。また、図7(b)は、図7(a)のC−C’断面を示す図である。
【0055】
図7(a)および図7(b)に示したように、図1に示したナノ繊維110は、口金100に二種類の異なる流体(流体Aおよび流体B)を供給して、口金100とターゲット(アース)との間に直流電圧を印加し、エレクトロスピニングすることにより得られる。流体Aは、コア131の材料またはその前駆体を含む。また、流体Bは、シェル層133の材料またはその前駆体を含む。コア131またはシェル層133の材料が、たとえば有機高分子材料である場合、口金100に供給する流体を、当該高分子の溶液または融液とする。また、コア131またはシェル層133の材料が無機材料である場合、口金100に供給する流体を、当該無機材料のゾルゲル液とする。
【0056】
図6は、口金100の使用方法を説明する図である。具体的には、図6には、流体Aおよび流体Bの供給系への口金100の接続例が模式的に示されている。図6に示したように、ブロック102の側面125に、ニードルアダプタ127が固定される。ニードルアダプタ127は、第二供給部107(図6では不図示)に連通する中空部を有する接続部材である。ニードルアダプタ127に嵌合して連通するルアーアダプタ129に、第二チューブ151が接続される。第二チューブ151は第二シリンジポンプ153に接続し、流体Bは、第二シリンジポンプ153により圧送されて、所定の速度で第二供給部107に供給される。
【0057】
また、図6には示していないが、後端面123にもニードルアダプタ(不図示)が固定される。このニードルアダプタに嵌合するルアーアダプタ(不図示)に第一チューブ155が接続される。第一チューブ155は、第一シリンジポンプ157に接続される。流体Aは、第一シリンジポンプ157により圧送されて、所定の速度で第一供給部101内に供給される。
【0058】
たとえば、ナノ繊維110のコア131を熱分解性高分子のポリカーボネイトとし、シェル層133をシリカとする場合、ナノ繊維110は以下の条件で作製される。
第一キャピラリー106の内径:100μm
第二キャピラリー121の内径:500μm
突出部115の第一キャピラリー106の延在方向の突出長さ:100μm
流体A:ポリカーボネイトの10質量%ダイクロロメチレン溶液または融液
流体B:シリカゾルゲル液
印加電圧:5.0kV
【0059】
これにより、たとえば、コア131の径が50nm、シェル層133の厚さが50nmの二層構造のナノ繊維110が得られる。二つのキャピラリーが同軸上に一体成型された口金100を用いることにより、ナノ繊維110のコア131の太さのばらつきやシェル層133の厚さのばらつきを抑制することができる。このため、ナノメートルオーダーの微細なコアシェル構造を有するナノ繊維110を高い歩留まりで安定的に製造することができる。また、コア131の径およびシェル層133の厚さは、流体Aおよび流体Bの粘度を調節することによってもコントロールできる。
【0060】
本実施形態では、口金100をエレクトロスピニング法におけるキャピラリーヘッドとして用いることにより、多種類の流体を同軸上に高い精度で安定的に供給し、噴出口113から噴出させることができる。このため、口金100をエレクトロスピング法に適用することにより、異相構造を有するナノ繊維を高い歩留まりで安定的に製造することができる。また、口金100を用いることにより、特性の異なる機能を単一のナノ繊維で実現することが可能となる。このため、ナノ繊維製品の応用範囲を格段に広げることができる。また、従来の単相ナノ繊維の代わりに高機能多相ナノ繊維を用いることにより、より高感度、高強度等の高性能な製品の製造が可能となる。
【0061】
なお、本実施形態では、二層のナノ繊維の場合を例に説明したが、ナノ繊維断面の直径方向の積層数に特に制限はなく、三層以上の多層構造を有するナノファイバーとしてもよい。三層の各層の材料を適宜選択することにより、ナノ繊維をより一層高機能化することができる。
【0062】
三層以上の積層構造を有するナノ繊維は、たとえば、前述した二層構造のナノ繊維110の製造方法を用いてエレクトロスピニング法により得ることができる。エレクトロスピニング法において、三本以上のキャピラリーが同軸上に一体成型された口金を用いることにより、同心円上に積層された微細構造を有するナノ繊維を安定的に製造することができる。
【0063】
具体的には、上述した口金100においては、第一流路105と第二流路111の二つの流路が同軸上に配置された構成を例示したが、第二流路111の外側に、さらに一以上の流路が設けられ、この流路が他の流路と同軸上に配置された構成としてもよい。このとき、第三流路は、第二流路111の側面外周を取り囲むように設けられた環状の流路とする。三つまたはそれ以上の流路がブロック102中の同軸上に連続一体に形成された口金を用いれば、たとえば、繊維径方向に三つ以上の層が同心円状に積層された構造を有するナノ繊維を製造することができる。そして、三つまたはそれ以上の各層の材料を適宜選択することにより、ナノ繊維をより一層高機能化することができる。
【0064】
以下の実施形態では、第一の実施形態に記載の口金100をエレクトロスピニング法に適用した際に得られる他の多機能多層ナノファイバーの例を説明する。以下の実施形態におけるナノ繊維の製造には、たとえば第一の実施形態に記載のナノ繊維110の製造方法を用いることができる。具体的には、図2〜図5を参照して前述した口金100を用いて作製することができる。
【0065】
(第二の実施形態)
第一の実施形態においては、多層構造を有するナノ繊維について説明したが、コア131部分は中空領域であってもよい。
【0066】
図8は、本実施形態のナノ繊維の構成を示す斜視図である。図8に示したナノ繊維120は、断面円環状のシェル層133の内部に、ナノ繊維120の中心軸方向に延在する中空領域(中空部135)が設けられた構成である。シェル層133は、中空部135の周囲を取り囲む環状の領域である。シェル層133の材料は、たとえばエレクトロスピニング可能な無機材料とする。また、エレクトロスピニング可能な各種有機高分子材料としてもよい。シェル層133の材料としては、たとえば第一の実施形態において前述したものが挙げられる。
【0067】
ナノ繊維120は、たとえば、第一の実施形態のナノ繊維110の製造方法を用いて製造される。このとき、内層に用いる流体Aに熱分解性高分子、外層に用いる流体Bにシリカゾルゲルを用いる。そして、上述したエレクトロスピニング法でナノ繊維110を作製する。その後、ナノ繊維110を所定の条件で加熱して、コア131の熱分解性高分子を蒸発させて、中空部135とする。これにより、中空チューブ状のナノ繊維120が得られる。
【0068】
本実施形態によれば、繊維直径および中空部135の径の制御性に優れた中空状のナノ繊維120が得られる。
得られたナノ繊維120は、たとえば、生体高分子の単一分子検出用流路等に応用することができる。
【0069】
(第三の実施形態)
第一の実施形態では、コア131の外側にシェル層133が設けられたナノ繊維を例示したが、コア131に配置された領域は、シェル層状の領域には限られず、たとえば、複数のナノ粒子からなる領域とすることもできる。本実施形態では、こうした構成のナノ繊維について説明する。
【0070】
図9は、本実施形態のナノ繊維の構成を示す斜視図である。図9に示したナノ繊維130は、コア141と、ナノ粒子145とから構成される。
第一の相であるコア141は、第一材料により構成された領域である。また、第二の相は、コア141に付着した微粒子(ナノ粒子145)から構成された領域である。
【0071】
コア141およびナノ粒子145の材料としては、たとえば、第一の実施形態において前述したものが挙げられる。コア141は、たとえば無機材料により構成される。また、ナノ粒子145の材料は、ナノ繊維130に付与する機能に応じて選択することができる。たとえば、ナノ繊維130として、光触媒等の触媒機能を有する材料を用いることができる。こうした材料がコア141の表面に固定化されたナノ繊維は、光触媒機能を有する繊維材料として好適に用いることができる。
【0072】
また、ナノ粒子145の直径は、光活性の観点では、たとえば1nm以上、好ましくは5nm以上とする。また、ナノ粒子145の直径は、ナノ粒子145の比表面積を大きくする観点では、たとえば20nm以下、好ましくは10nm以下とする。
【0073】
ナノ繊維130の製造は、たとえば第一の実施形態に記載の方法を用いて行うことができる。たとえば、シリカからなるコア141の表面に酸化チタンのナノ粒子145が付着したナノ繊維130を製造する場合、以下のようにする。すなわち、内層に用いる流体Aにシリカゾルゲル、外層に用いる流体Bに、酸化チタンを混入したポリビニルピロリドン(PVP)の水溶液を用いる。そして、前述したエレクトロスピニング法でナノ繊維を作製する。図10は、得られたナノ繊維140の構成を示す斜視図である。ナノ繊維140は、コア141と、コア141の側面外周を被覆する被覆層143からなる。
【0074】
つづいて、ナノ繊維140を所定の条件で加熱して、PVPを蒸発させる。これにより、水溶液中の酸化チタンの粒子が析出し、無機材料であるシリカからなるナノ繊維すなわちコア141上に吸着する。こうして、図9に示したナノ繊維130が得られる。
【0075】
得られたナノ繊維130は、酸化チタンによる光触媒反応性を有している。このため、ナノ繊維130に紫外線を照射することで、有機物を分解する機能を有する。こうした光触媒ナノファイバーは、たとえば非常に高い反応性を持った有害物質分解フィルター等に応用することができる。
【0076】
(第四の実施形態)
以上の実施形態においては、図2〜図5に示した口金100を用いてナノ繊維を製造する場合を例に説明したが、エレクトロスピニング法でナノ繊維を作製する際に用いられる口金の構成は、以下の構成とすることもできる。
【0077】
図11(a)および図11(b)は、口金の別の構成を示す図である。図11(a)は、口金を側面から見た図である。図11(b)は、図11(a)の突出部115近傍を拡大して示す図である。
【0078】
図11(a)および図11(b)に示した口金の基本構成は、図2〜図5に示した口金100と同様である。ただし、本実施形態では、液溜117を設ける代わりに、ブロック102の前端面119をブロック102内部側に後退させている。そして、第二キャピラリー121および第一キャピラリー106が、いずれも前端面119から突出している。また、本実施形態では、第一接続部103が設けられておらず、第一流路105が直接第一供給部101に接続されている。
【0079】
本実施形態においても、第一の実施形態にて前述した口金100と同様の効果が得られる。このため、本実施形態の口金を用いた場合にも、多層構造を有するナノ繊維を高い歩留まりで安定的に製造することができる。このため、上述した各実施形態に記載のナノ繊維の製造に好適に用いることができる。また、本実施形態によれば、第二キャピラリー121についても前端面119から突出させるため、突出部115から噴出された流体のスピニングをより一層確実に生じさせることが可能な構成となっている。
【0080】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0081】
たとえば、以下の実施形態において、繊維径は、たとえば電子顕微鏡の観察により測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施の形態におけるナノ繊維の構成を示す斜視図である。
【図2】実施の形態におけるナノ繊維の製造に用いる口金の構成を示す斜視図である。
【図3】図2の口金のA−A’断面図である。
【図4】図2の口金の噴出部近傍の構成を示す図である。
【図5】図4のB−B’断面図である。
【図6】図2の口金の使用方法を説明する図である。
【図7】実施の形態におけるナノ繊維の製造方法を説明する図である。
【図8】実施の形態におけるナノ繊維の構成を示す斜視図である。
【図9】実施の形態におけるナノ繊維の構成を示す斜視図である。
【図10】実施の形態におけるナノ繊維の構成を示す斜視図である。
【図11】実施の形態におけるナノ繊維の製造に用いる口金の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0083】
100 口金
101 第一供給部
102 ブロック
103 第一接続部
105 第一流路
106 第一キャピラリー
107 第二供給部
109 第二接続部
110 ナノ繊維
111 第二流路
112 第一噴出口
113 噴出口
114 第二噴出口
115 突出部
117 液溜
119 前端面
120 ナノ繊維
121 第二キャピラリー
123 後端面
125 側面
127 ニードルアダプタ
129 ルアーアダプタ
130 ナノ繊維
131 コア
133 シェル層
135 中空部
140 ナノ繊維
141 コア
143 被覆層
145 ナノ粒子
151 第二チューブ
153 第二シリンジポンプ
155 第一チューブ
157 第一シリンジポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスピニング法により得られる、異相構造を有するナノ繊維。
【請求項2】
請求項1に記載のナノ繊維において、
前記異相構造が、
繊維の中心軸に沿って延在する第一の相と、
前記第一の相の延在方向に対する垂直断面において、前記第一の相の外側に配置された第二の相と、を含み、
前記第一の相が、中空領域または第一材料により構成された領域であるとともに、
前記第二の相が前記第一材料と異なる第二材料により構成されたナノ繊維。
【請求項3】
請求項2に記載のナノ繊維において、
前記第一の相が中空領域であって、
前記第二の相が、前記第一の相の周囲を取り囲む環状の領域であるナノ繊維。
【請求項4】
請求項3に記載のナノ繊維において、
前記第二の相が無機材料により構成されるナノ繊維。
【請求項5】
請求項2に記載のナノ繊維において、
前記第一の相が、前記第一材料により構成された領域であって、
前記第二の相が、前記第一の相を被覆する領域であるナノ繊維。
【請求項6】
請求項2に記載のナノ繊維において、
前記第一の相が、前記第一材料により構成された領域であって、
前記第二の相が、前記第一材料に付着した微粒子から構成された領域であるナノ繊維。
【請求項7】
請求項5または6に記載のナノ繊維において、
前記第一材料が無機材料を含むナノ繊維。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【図5】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−197859(P2007−197859A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16591(P2006−16591)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(506027941)株式会社ESPINEX (6)
【出願人】(506027871)株式会社吉田鋳造研究所 (2)
【Fターム(参考)】