説明

ナフトールポリマー及びナフトールポリマーの製造方法

【課題】ヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとを有する、低分子量のナフトールポリマー及び低分子量のナフトールポリマーを、酵素を用いて製造する方法を提供する。
【解決手段】1−ナフトール及び/又は2−ナフトールを原料とし、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に酸化重合する工程と、得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程と、を有する、ヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとを有するナフトールポリマーの製造方法であって、質量平均分子量が3000以下であることを特徴とするナフトールポリマーの製造方法、及び該製造方法で得られるナフトールポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとの構成比率が制御された低分子量のナフトールポリマー、及び酸化還元酵素を用いたナフトール類を原料とする低分子量のナフトールポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナフトール類を重合して得られるナフトールポリマーは、エンジニアリングプラスチックとして有用であり、他のポリマー、添加剤等と混合することで、さらに機械的強度、耐熱性、電気的特性及び化学的特性に優れた樹脂とすることができる。このようにして得られた樹脂は、加工適性に優れており、電子部品材料、電気部品材料、機械部品材料等、広範な用途に用いられる。
【0003】
一方、酵素を用いた化合物の重合は、酵素の高い基質特異性を利用した反応であることから目的物を効率よく製造でき、コスト低減に有利である。また、温和な条件下での反応であるため、消費するエネルギーが少なくてすみ、環境負荷を低くすることができるなど優れた方法である。
【0004】
そこで、酵素を用いてナフトールポリマーを製造する方法として、例えば、1−ナフトール又は2−ナフトールを、メタノールとリン酸緩衝液との混合溶媒中で重合する方法が提案されている(非特許文献1参照)。
【0005】
このようなナフトールポリマーは、通常、モノマーであるナフトール類がその芳香環上の炭素原子間で結合し、その結果できた分子中にフェノール性水酸基を有するナフタレンユニット(以下、ヒドロキシナフタレンユニットと略記)と、モノマーである一方のナフトール類の芳香環上の炭素原子と他方のナフトール類のフェノール性水酸基との間で結合が生じ、その結果できた分子中にフェノール性水酸基を有しないオキシナフタレンユニット(以下、オキシナフタレンユニットと略記)の両方を構成単位とするものである。
分子中にヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとが存在するナフトールポリマーは酵素法によってのみ特異的に生成されるもので、芳香族環同士が酸素原子を介して結合しているため柔軟性を有するポリマーとなる。
【非特許文献1】エネルギー使用合理化生物触媒等技術開発 要素技術の研究開発 脱ホルマリン樹脂の酵素触媒重合技術の研究開発 平成13年度成果報告書,新エネルギー・産業技術総合開発機構
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1に記載の方法で得られる1−ナフトールの重合反応生成物は、質量平均分子量が15000〜20000と大きく、また、2−ナフトールの重合反応生成物も、質量平均分子量が4500〜5000と比較的大きなものであった。その結果、溶媒溶解性や流動性が低く、例えば、接着剤用途として用いるエポキシ樹脂などに用いることができなかった。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、ヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとを有する、低分子量のナフトールポリマー及び低分子量のナフトールポリマーを、酵素を用いて製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、1−ナフトール及び/又は2−ナフトールを原料として特定の条件下で重合反応を行い、得られた重合反応生成物を溶媒抽出等により取り出すことで、低分子量のナフトールポリマーを製造できること、さらにこの時、ヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとの構成比率が制御された低分子量のナフトールポリマーが好適に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第一の発明は、下記一般式(1)及び(3)並びに/又は一般式(2)及び(4)で表される繰返し単位を有し、質量平均分子量が3000以下であることを特徴とするナフトールポリマーである。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【0014】
また、本発明の第二の発明は、下記一般式(5)及び/又は(6)で表される化合物を、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で重合する工程と、得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程と、を有する、下記一般式(1)及び(3)並びに/又は一般式(2)及び(4)で表される繰返し単位を有するナフトールポリマーの製造方法であって、質量平均分子量が3000以下であることを特徴とするナフトールポリマーの製造方法である。
【0015】
【化3】

【0016】
(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【0017】
【化4】

【0018】
(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【0019】
【化5】

【0020】
(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【0021】
さらに、本発明の第三の発明は、下記一般式(5)及び/又は(6)で表される化合物を、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に酸化重合する工程を有する、下記一般式(1)及び(3)並びに/又は一般式(2)及び(4)で表される繰返し単位を有するナフトールポリマーの製造方法であって、質量平均分子量が3000以下であることを特徴とするナフトールポリマーの製造方法である。
【0022】
【化6】

【0023】
(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【0024】
【化7】

【0025】
(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【0026】
【化8】

【0027】
(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【0028】
さらに、本発明の第四の発明は、下記一般式(5)及び/又は(6)で表される化合物を、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に酸化重合する工程と、得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程と、を有する、下記一般式(1)及び(3)並びに/又は一般式(2)及び(4)で表される繰返し単位を有するナフトールポリマーの製造方法であって、質量平均分子量が3000以下であることを特徴とするナフトールポリマーの製造方法である。
【0029】
【化9】

【0030】
(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【0031】
【化10】

【0032】
(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【0033】
【化11】

【0034】
(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、低分子量のナフトールポリマーを、好ましくは該ポリマー中のヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとの構成比率を制御して、簡便且つ低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明のナフトールポリマーは、前記一般式(1)及び(3)並びに/又は一般式(2)及び(4)で表される繰返し単位を有し、質量平均分子量が3000以下であることを特徴とする。
ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。
【0037】
炭素数1〜4のアルキル基もしくは炭素数1〜4のアルコキシ基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでも良い。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基及びシクロブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基、あるいは、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基及びtert−ブトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基を挙げることができる。なかでも、メチル基及びメトキシ基が好ましい。
【0038】
また、Rが炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基である場合は、その置換位置は、置換可能な水素原子が結合している芳香環上の炭素原子であれば特に限定されず、芳香環上の1位〜8位の炭素のいずれでも良い。
【0039】
本発明のナフトールポリマーは、一般式(1)及び/又は(2)で表される繰返し単位の数と一般式(3)及び/又は(4)で表される繰返し単位の数との比は、特に限定されないが、5/95〜30/70であることが好ましい。
また、質量平均分子量は300〜3000であることが好ましく、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、その用途に応じて求められる比も異なることから、特にその範囲が限定されるものではないが、より均質な分子量を有するものとして、例えば、好ましいものは3.0以下の範囲のものが挙げられ、より好ましいものは1.05以上3.0以下の範囲のものが挙げられ、特に好ましいものとして1.05以上2.0未満のものが挙げられる。
【0040】
本発明のナフトールポリマーが有する一般式(1)〜(4)で表される繰返し単位の、該ポリマー中における結合順序は、特に限定されない。
【0041】
本発明のナフトールポリマーにおいては、前記一般式(5)又は(6)で表されるモノマー同志が結合する位置は特に限定されず、繰り返し単位が前記一般式(1)又は(2)で表されるものである場合には、フェノール性水酸基の酸素原子と、フェノール性水酸基及びRが結合していない1位〜8位のいずれか一つの炭素原子がモノマー同士の結合に関与する。また、繰り返し単位が前記一般式(3)又は(4)で表されるものである場合には、フェノール性水酸基及びRが結合していない1位〜8位のいずれか二つの炭素原子がモノマー同士の結合に関与する。
【0042】
以下、本発明のナフトールポリマーの製造方法について説明する。
◎製造方法1
本発明のナフトールポリマーの製造方法は、前記一般式(5)及び/又は(6)で表される化合物を、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で重合する工程と、得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程と、を有しており、得られるナフトールポリマーは、前記一般式(1)及び(3)並びに/又は一般式(2)及び(4)で表される繰返し単位を有し、質量平均分子量が3000以下であることを特徴とする。ここで、Rは、前記と同一である。
【0043】
(重合工程)
本製造方法においては、反応溶媒として、水又は水溶液、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒を用いるが、水溶液としては緩衝液を好ましいものとして挙げることができる。
緩衝液としては、例えば、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、マロン酸緩衝液、シュウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、酢酸緩衝液及びコハク酸緩衝液等が挙げられるが、なかでも、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液が好ましい。
また、有機溶媒としては、例えば、アセトン及びアルコール類等が挙げられるが、なかでも、アセトンが好ましい。
【0044】
本製造方法において、反応溶媒として水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合には、該混合溶媒中の有機溶媒の量は特に限定されないが、5体積%以下が好ましく、1体積%以下がより好ましい。
【0045】
本製造方法においては、その他の重合反応の条件は特に限定されず、従来公知の方法に従って行うことができる。
【0046】
(抽出工程)
本製造方法においては、重合工程に続いて、該工程で得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程を行う。溶媒抽出を行うことにより、質量平均分子量が3000以下である低分子量のナフトールポリマーを効率よく得ることができる。
重合工程で得られた反応生成物は、目的物であるナフトールポリマーとその他の不純物との混合物である。抽出工程では、この混合物を含む反応液中からナフトールポリマーを溶媒抽出する。
抽出工程で用いる抽出溶媒は、有機溶媒が好ましい。なかでも、アセトンがより好ましい。
【0047】
ナフトールポリマーの抽出は、例えば、重合工程終了後の反応生成物に、前記抽出溶媒を添加して撹拌し、有機層を分離することで行うことができる。
この時の抽出溶媒の添加量は特に限定されるものではないが、通常、得られるナフトールポリマーに対して5〜100倍量(v/w)であることが好ましく、抽出温度は室温であることが好ましい。
また、抽出溶媒添加後の溶液の撹拌方法は特に限定されず、振盪、回転子又は攪拌翼を用いた攪拌のいずれでもよい。
【0048】
一方、重合工程終了後に反応液が二層分離する場合は、有機層をそのまま抽出液としてもよい。すなわち、反応に用いた有機溶媒をそのまま抽出溶媒とすることができる。
この場合の抽出温度、抽出時の撹拌方法等の抽出条件は、重合工程終了後に抽出溶媒を添加した場合と同じ条件を適用すればよい。
【0049】
本発明の低分子量のナフトールポリマーは、有機溶媒への溶解度が大きいため、上記のように、重合工程で得られた反応生成物から溶媒抽出する際は、抽出溶媒として用いる有機溶媒量を少なくすることができ、低分子量のナフトールポリマーを効率よく抽出することができる。
また、前記一般式(1)又は(2)で表される繰返し単位を多く有するナフトールポリマーの方が、前記一般式(3)又は(4)で表される繰返し単位を多く有するナフトールポリマーよりも、前記抽出溶媒、特にアセトンに対する溶解度が大きいため、低分子量のナフトールポリマーとしてより効率よく得ることができる。
【0050】
◎製造方法2
また、本発明のナフトールポリマーの製造方法は、前記一般式(5)及び/又は(6)で表される化合物を、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に酸化重合する工程を有しており、得られるナフトールポリマーは、前記一般式(1)及び(3)並びに/又は一般式(2)及び(4)で表される繰返し単位を有し、質量平均分子量が3000以下であることを特徴とする。ここで、Rは、前記と同一である。
本製造方法で、酸化還元酵素の存在下にモノマーを酸化重合することで、質量平均分子量が3000以下である低分子量のナフトールポリマーを効率よく得ることができる。
【0051】
本製造方法で用いる酸化還元酵素は、酸化重合能を有する酵素であり、オキシダーゼ又はペルオキシダーゼが好ましい。これらオキシダーゼ、ペルオキシダーゼは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
オキシダーゼとしては、例えば、ラッカーゼ、カテコールオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、チロシナーゼ及びポリフェノールオキシダーゼ等を挙げることができ、これらの中でも、ラッカーゼが好ましい。本発明において、用いるオキシダーゼは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
ラッカーゼは、植物、動物及び微生物に広く存在することが知られており、種々の起源のものを用いることができるが、植物由来、微生物由来のラッカーゼが好ましい。
植物由来のラッカーゼとしては、漆の木由来のラッカーゼが好ましい。また、微生物由来のラッカーゼとしては、細菌、真菌(糸状菌及び酵母を含む)に由来するものが好ましいものとして挙げられるが、真菌のうち白色腐朽菌等の担子菌類や子のう菌類に由来するラッカーゼが、特に好ましいものとして挙げられる。
【0054】
このような、特に好ましいラッカーゼとしては、アスペルギルス(Aspergillus)属;ニューロスポラ(Neurospora)属;ピリキュラリア・オリザエ(P.oryzae)等のピリキュラリア(Pyricularia)属;トラメテス・ビローサ(T.villosa)、トラメテス・バーシカラー(T.versicolor)等のホウロクタケ(Trametes)属;リゾクトニア・ソラニ(R.solani)等のリゾクトニア(Rhizoctonia)属;コプリヌス・シネレウス(C.cinereus)等のコプリヌス(Coprinus)属;コリオルス・ヒルスツス(C.hirsutus)、コリオルス・バーシカラー(C.versicolor)等のコリオルス(Coriolus)属に由来するものが挙げられる。
また、市販されているラッカーゼとしては、例えば、「ラッカーゼダイワ EC−Y120」(商品名;大和化成株式会社製)等が挙げられる。
本発明において、これらのラッカーゼは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
ペルオキシダーゼとしては、前記と同様種々の起源のものを用いることできるが、植物由来、細菌由来あるいは担子菌由来のものが好ましく、西洋ワサビ由来又は担子菌由来のものが特に好ましい。このようなペルオキシダーゼとして、マンガンペルオキシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、大豆ペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼが好ましく、マンガンペルオキシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼが特に好ましい。
また、本発明において、これらのペルオキシダーゼは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0056】
マンガンペルオキシダーゼとしては、例えば、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、ファネロカエテ・ソルディダ(Phanerochaete sordida)、カイガラタケ(Lenzites betulinus)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、シイタケ(Lentinus edodes)等の担子菌類が生産するリグニン分解酵素を挙げることができる。これらのマンガンペルオキシダーゼは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
本製造方法において、酸化還元酵素としてマンガンペルオキシダーゼを用いる場合には、重合反応時に2価マンガンを用いる必要がある。
2価マンガンとしては、マンガンの酸化数が+2であるマンガン化合物を用いればよく、特に限定されない。このようなものとして、例えば、硫酸マンガンを挙げることができる。
また、2価マンガンの添加量は、用いる基質の種類に応じて適宜調整すればよい。
【0058】
西洋ワサビペルオキシダーゼとしては、例えば、SIGMA−ALDRICH社製P6140,P9568,P2649,P2088等、Fluka社製77330,77332等、和光純薬株式会社製169−10791等を挙げることができる。これらの西洋ワサビペルオキシダーゼは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
これらの酸化還元酵素のなかで、より均質な分子量のナフトールポリマーが得られる点で、オキシダーゼが、さらにラッカーゼが好ましいものとして挙げられる。
【0060】
これら酸化還元酵素の使用量は、用いる該酵素の酵素活性により適宜調整すればよいが、原料であるモノマーに対して、過剰量使用することが、後述する工程2における抽出分が多くなるため好ましい。酸化還元酵素の反応液中での濃度は2μmol/l以上が好ましく、20μmol/l以上が特に好ましい。
【0061】
また、反応条件は、基質濃度、酸化還元酵素の種類及び濃度に応じて適宜調整すればよいが、反応温度は比較的低温に設定することができ、5〜70℃とすることが好ましく、20〜60℃とすることが特に好ましい。pHは酸化還元酵素の種類に応じて適宜調整すればよいが、pH3.0〜8.0が好ましく、pH3.5〜7.0がより好ましい。また反応時間は30分〜24時間が好ましく、1時間〜20時間がより好ましい。また、反応時の撹拌方法は特に限定されず、振盪、回転子又は攪拌翼を用いた攪拌のいずれでもよい。本工程は、前記の条件を満たす攪拌条件であれば、水浴中又は気流中のいずれでおこなってもよい。
【0062】
本製造方法において、重合反応に用いる溶媒の種類は、製造方法1で述べたものと同様である。
また、反応溶媒として水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合には、該混合溶媒中の有機溶媒の量がごく少量でも、モノマーの重合反応を行うことができる。前記混合溶媒中の有機溶媒の量は、5体積%以下が好ましく、1体積%以下がより好ましい。
【0063】
本製造方法においては、重合反応後の反応液の後処理の方法は特に限定されず、従来公知の方法を適用すれば良い。例えば、不溶物を除去した後、溶媒を留去してナフトールポリマーを取り出しても良いし、反応液に新たに溶媒を添加してナフトールポリマーを析出させて取り出しても良い。
【0064】
◎製造方法3
さらに本発明のナフトールポリマーの製造方法は、下記一般式(5)及び/又は(6)で表される化合物を、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に酸化重合する工程と、得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程と、を有しており、得られるナフトールポリマーは、前記一般式(1)及び(3)並びに/又は一般式(2)及び(4)で表される繰返し単位を有し、質量平均分子量が3000以下であることを特徴とする。ここで、Rは、前記と同一である。
本製造方法では、酸化還元酵素の存在下にモノマーを酸化重合し、反応後に溶媒抽出を行うことにより、質量平均分子量が3000以下である低分子量のナフトールポリマーを、より効率よく得ることができる。
各工程の条件は、製造方法1及び2で述べた条件を適用すれば良い。
【0065】
◎還元工程
本発明のナフトールポリマーの製造方法では、製造方法1〜3のいずれにおいても、重合反応終了後に引き続き、重合反応生成物を還元する工程を行うことが好ましい。
重合反応に用いる原料が、1−ナフトール又は2−ナフトールのような芳香族ヒドロキシ化合物である場合、特に、酸化重合により得られた重合反応生成物中には、酸化反応によりフェノール性水酸基がカルボニル基に変換されたものが含まれていることがある。このようなものはそのままでは副生成物となってしまうため、これらを還元することで、ナフトールポリマーの収率をより向上させることができる。
この時用いる還元剤は特に限定されず、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0066】
本発明のナフトールポリマーの製造方法では、製造方法1〜3のいずれにおいても、分子中の前記一般式(1)及び/又は(2)で表される繰返し単位の数と、前記一般式(3)及び/又は(4)で表される繰返し単位の数との比が5/95〜30/70であるナフトールポリマーを好適に得られる。
【0067】
また、本発明のナフトールポリマーの製造方法では、製造方法1〜3のいずれにおいても、質量平均分子量が3000以下である低分子量のナフトールポリマーが得られるが、前記一般式(5)及び/又は(6)で表されるモノマーの2量体もしくは3量体を好適に得られる。
【実施例】
【0068】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下において、単位「M」は「mol/L」を、単位「mM」は「mmol/L」を、単位「nM」は「nmol/L」をそれぞれ示す。
【0069】
(実施例1)
◎ラッカーゼを用いた製造方法2による1−ナフトールポリマーの製造
反応溶媒として、50mMリン酸緩衝液(pH4.5)にアセトンを1体積%となるように混合した混合溶媒600mLを調製した。この混合溶媒に、原料として1−ナフトールを961mg(10mM)、ラッカーゼを12g添加して、反応温度30℃で6時間重合反応を行った。この時の1−ナフトールの反応率は99.8%であった。反応終了後、遠心分離により沈殿を回収、水洗の後、沈殿を凍結乾燥した後、アセトン100mlに室温にて溶解し、アセトンを留去して、目的物である1−ナフトールポリマーを960mg得た(収率100%)。
得られた1−ナフトールポリマー100mgをアセトン10mlに溶解し、解析を行ったところ、質量平均分子量(Mw)が940、質量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.686で、分子中のヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとの構成比率は60/40であった。
【0070】
(実施例2)
◎マンガンペルオキシダーゼを用いた製造方法2による1−ナフトールポリマーの製造
反応溶媒として、50mMリン酸緩衝液(pH4.5)1000mLを用い、この反応溶媒に、原料として1−ナフトールを144.2mg(1mM)、マンガンペルオキシダーゼを180g(400nM)、30%過酸化水素水を0.113g(1mM)添加して、反応温度30℃で1時間重合反応を行った。反応終了後、濾過にて不溶物を回収し、水洗後、濾物を凍結乾燥した後、アセトン100mlに室温にて溶解し、アセトンを留去して、目的物である1−ナフトールポリマーを107mg得た(収率74.3%)。
得られた1−ナフトールポリマー100mgを36%のアセトン/水の混合溶媒に溶解し、解析を行ったところ、質量平均分子量(Mw)が940、質量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が2.804で、分子中のヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとの構成比率は85/15であった。
【0071】
(実施例3)
◎ラッカーゼを用いた製造方法2による2−ナフトールポリマーの製造
反応溶媒として、50mMリン酸緩衝液(pH4.5)にアセトンを1体積%となるように混合した混合溶媒600mLを調製した。この混合溶媒に、原料として2−ナフトールを865mg(10mM)、ラッカーゼを12g添加して、反応温度30℃で21時間重合反応を行った。この時の2−ナフトールの反応率は94.0%であった。反応終了後、遠心分離により沈殿を回収、水洗の後、沈殿を凍結乾燥した後、アセトン100mlに室温にて溶解し、アセトンを留去して目的物である2−ナフトールポリマーを570mg得た(収率66%)。
得られた2−ナフトールポリマー100mgをアセトン10mlに溶解し、解析を行ったところ、質量平均分子量(Mw)が620、質量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.2で、分子中のヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとの構成比率は50/50であった。
【0072】
以上述べたように、本発明の製造方法により、質量平均分子量が3000以下であるナフトールポリマーを、好ましくは分子中のヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとの構成比率を制御して、簡便に製造できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の製造方法により、質量平均分子量が3000以下であるナフトールポリマーを、好ましくは分子中のヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとの構成比率を制御して提供できるため、本発明は、エンジニアリングプラスチックの開発に有用である。また、温和な条件下で、高い基質特異性に基づき、省エネルギーでナフトールポリマーを製造できるため、本発明は、低コストでかつ環境負荷の小さい優れた製造方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)及び(3)並びに/又は一般式(2)及び(4)で表される繰返し単位を有し、質量平均分子量が3000以下であることを特徴とするナフトールポリマー。
【化1】

(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【化2】

(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【請求項2】
前記ナフトールポリマー中の、一般式(1)及び/又は(2)で表される繰返し単位の数と、一般式(3)及び/又は(4)で表される繰返し単位の数との比が5/95〜30/70である請求項1に記載のナフトールポリマー。
【請求項3】
下記一般式(5)及び/又は(6)で表される化合物を、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で重合する工程と、
得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程と、
を有する、下記一般式(1)及び(3)並びに/又は一般式(2)及び(4)で表される繰返し単位を有するナフトールポリマーの製造方法であって、
質量平均分子量が3000以下であることを特徴とするナフトールポリマーの製造方法。
【化3】

(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【化4】

(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【化5】

(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【請求項4】
下記一般式(5)及び/又は(6)で表される化合物を、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に酸化重合する工程を有する、下記一般式(1)及び(3)並びに/又は一般式(2)及び(4)で表される繰返し単位を有するナフトールポリマーの製造方法であって、
質量平均分子量が3000以下であることを特徴とするナフトールポリマーの製造方法。
【化6】

(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【化7】

(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【化8】

(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【請求項5】
下記一般式(5)及び/又は(6)で表される化合物を、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に酸化重合する工程と、
得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程と、
を有する、下記一般式(1)及び(3)並びに/又は一般式(2)及び(4)で表される繰返し単位を有するナフトールポリマーの製造方法であって、
質量平均分子量が3000以下であることを特徴とするナフトールポリマーの製造方法。
【化9】

(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【化10】

(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【化11】

(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)
【請求項6】
前記ナフトールポリマー中の、一般式(1)及び/又は(2)で表される繰返し単位の数と、一般式(3)及び/又は(4)で表される繰返し単位の数との比が5/95〜30/70である請求項3〜5のいずれか一項に記載のナフトールポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記酸化還元酵素が、オキシダーゼ及び/又はペルオキシダーゼである請求項4〜6のいずれか一項に記載のナフトールポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記酸化還元酵素が、マンガンペルオキシダーゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ及びラッカーゼからなる群より選ばれる一種以上である請求項4〜6のいずれか一項に記載のナフトールポリマーの製造方法。
【請求項9】
重合反応後に引き続き、重合反応生成物を還元する工程を行う請求項3〜8のいずれか一項に記載のナフトールポリマーの製造方法。
【請求項10】
前記混合溶媒に用いる有機溶媒がアセトンである請求項3〜9のいずれか一項に記載のナフトールポリマーの製造方法。
【請求項11】
前記溶媒抽出に用いる溶媒がアセトンである請求項3及び5〜10のいずれか一項に記載のナフトールポリマーの製造方法。
【請求項12】
前記ナフトールポリマーが、下記一般式(5)及び/又は(6)で表される化合物の2量体又は3量体である請求項3〜11のいずれか一項に記載のナフトールポリマーの製造方法。
【化12】

(式中Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はカルボキシ基を表す。)


【公開番号】特開2007−169483(P2007−169483A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369557(P2005−369557)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】