説明

ニコチン経皮吸収製剤及びその製造方法

【課題】含量均一性に優れ、貼付時の固定性とソフト感を両立し、剥離時の皮膚刺激が低減された粘着物性に優れたニコチン経皮吸収製剤の提供。製造工程においてニコチン塗布均一性に優れ、上記製剤を提供できる、簡便かつ経済的なニコチン経皮吸収製剤の製造方法の提供。
【解決手段】支持体上に、ニコチン及び粘着剤と相溶する液状成分を含む粘着剤層が形成されたニコチン経皮吸収製剤の製造方法であって、(1)粘着剤と相溶する液状成分を含有する粘着剤層であって、ニコチン含有前の粘着剤層に対するニコチンの接触角が20〜60°である粘着剤層を提供する工程、及び、(2)ニコチンを該粘着剤層に塗布し、ニコチンを粘着剤層中に含浸させる工程を含む方法。支持体上に、ニコチン及び粘着剤と相溶する液状成分を含有する粘着剤層が形成されたニコチン経皮吸収製剤であって、ニコチン含有前の粘着剤層に対するニコチンの接触角が20〜60°である製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外皮に貼付してニコチンを体内へ経皮吸収させるニコチン経皮吸収製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
煙草中に含まれるニコチンが習慣的喫煙に大きく影響することはよく知られている。世界中で禁煙の機運が高まるとともに、種々のニコチン投与方法が提案されてきており、喫煙を減少させる1つの方法として、喫煙以外の形でニコチンを生体内に投与することによって習慣的喫煙を抑制することが提案されている。これらの方法はいわゆるニコチン補充療法と呼ばれ、具体的には以下に述べる方法がある。
【0003】
一つはチューインガム(Chewing gum)や薬用ドロップ(Lozenge)中にニコチンを含有させ、口腔内より体内に投与する方法である。この投与方法は、実際は唾液に伴って多量のニコチンが嚥下される結果、通常の薬物を経口投与したのと同じように肝臓通過に際してニコチンがほとんど代謝され血中から除去されるため、大きな効力は望めない。また、この方法は、一時的な投与方法であるため、頻繁な適用が必要となる上、ニコチンが口中や食道の内壁に直接触れるために不味感、胸焼け、吐き気、しゃっくりといった不快な副作用を引き起こすことがある。
【0004】
次にニコチン含有溶液をプラスチック製の一単位容器又は多数回容器に入れ、これを鼻孔内に挿入して容器内のニコチン溶液を鼻粘膜から直接投与する方法がある。しかし、この方法は、容器が鼻粘膜と直接接触するため衛生上好ましくなく、しかも取り扱いや管理が困難であるほか、先の方法と同様に一時的な効果しかないため、頻繁に投与する必要がある。また、特にこの方法は容器を鼻孔内に挿入するものであるから、人前での投与がはばかられる等の問題もある。
【0005】
上記の2つの投与方法に対し、近年、経皮的にニコチンを投与する経皮吸収製剤が種々開発されている。経皮吸収製剤に関する様々な特許が出願されており、すでに製剤として実用化されているものもある。
【0006】
経皮吸収製剤の一般的長所は既に広く知られているところであるが、特にニコチンの投与に応用した場合、上記2つの投与方法で指摘した短所をほぼ解決しうる。製剤を貼付後長時間に亘って血中濃度を一定に保つことができることで投与の煩雑さが減少できる点が最大の利点であると考えられる。
【0007】
しかしながら、ニコチンの既存の経皮吸収製剤には、以下に述べるような問題点がある。
ニコチン経皮吸収製剤には、禁煙を達成するため、禁煙プログラムが設定されており、一般にこの禁煙プログラムでは数週間にわたって一日一回の貼付が求められている。この投与方法の主要な副作用として、そう痒、紅斑等の局所性副作用があげられる。そこで、添付文書には、皮膚刺激を避けるため、製剤の貼付部位を毎回変えることが注意書きとして記載されている。また、毎日新しい製剤に貼りかえることから、製剤の剥離時に発生する皮膚刺激も無視することができない。従って、刺激が少ない製剤の開発が望まれている。
【0008】
現在、ニコチン経皮吸収製剤で用いられている粘着剤としては、ポリイソブチレン(PIB)やスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)系に代表されるゴム系粘着剤や、アクリルモノマーの共重合体から構成されたアクリル系粘着剤があげられる。このうち、PIB系粘着剤においては、ヒト皮膚に対する良好な粘着性と凝集力を付与するため、高分子量成分と低分子量成分とを混合させる技術(例えば、特許文献1参照)があるが、良好な皮膚接着性を得るためには幾分凝集力を犠牲にしなければならないことが分かっている。すなわち、この技術では、凝集力の低下によって、保存時に製剤のエッジから粘着剤が流れ出る、いわゆるコールドフロー(低温流れ)が発生するという問題がある。このコールドフローにより粘着剤が包装材内で付着し、包材からの取り出し性が非常に悪くなる。特にニコチンは粘着剤に対して強力な可塑化作用を呈するものであるので、ニコチン経皮吸収製剤においては上記コールドフロー現象は顕著に発生する。また、ゴム系の粘着剤は、乾いた皮膚とはよく接着するが、粘着剤の親水性が低いため、貼付している最中に皮膚と粘着面の界面に汗がたまり、浮きが生じて剥がれやすくなり、使用中に製剤が脱落する危険性がある。さらに、汗によるムレによる刺激が発生しやすく、貼付感は必ずしも良好とは言えなかった。
【0009】
一方、アクリル系粘着剤を用いたニコチン経皮吸収製剤では、貼り替え時の剥離の際に皮膚刺激が生じるという問題があった。また、該製剤は製造時に液体のニコチンを粘着剤層に適用する際の補助材料として、不織布や紙が製剤の粘着剤層内に挿入されているので、製剤全体が分厚くなっており、製剤のゴワゴワ感により貼付時に物理的刺激が起こりやすく、貼付感は必ずしも良好とは言えなかった。
【0010】
ニコチンは非常に揮散性及び毒性の強い薬物であり、ニコチンの揮散は人体への安全性のリスクや環境への負荷を増大するリスクがある。従って、この点を考慮した様々なニコチン経皮吸収製剤の製造方法が知られている。
【0011】
特許文献2には、低沸点のヘキサン溶媒を用いてシリコーン粘着剤の塗工液を調製し、低温で塗工することでニコチンなどの液体薬剤の分解又は損失を減少させた経皮パッチの製造方法が開示されている。しかし、該方法は、低温で塗工を行うものの、ニコチン損失のリスクを完全に排除することはできず、目標量のニコチンを得るためには増し仕込みなどが必要となる場合が考えられる。また、シリコーン粘着剤は高価であり、この方法は経済的側面からも不利である。
【0012】
特許文献3には、液体を含む塗布媒体とポリマー基層とを組み合わせることにより、該液体を含有する感圧皮膚接着剤シート材料を連続的に製造する方法が開示されており、該液体に含まれる液状薬剤としてニコチンが例示されている。しかし、この場合の液体塗布では、塗布媒体中にポリマー成分を含有することを特徴としており、ニコチンの液体をそのまま、すなわち、0%ポリマー含有量で均一塗布しようとしたが、うまくいかなかったとの記載がある。この記載は、当業者であってもニコチンをそのままで粘着剤層に塗布することの困難さを示唆している。
【0013】
特許文献4には、揮発性の高いニコチンを不織布のような吸収物質に含浸し、粘着剤層で挟み込む皮膚透過性投与具の製造方法が開示されている。用いられる主体層である不織布は、ニコチンをプリントすることを可能とするものであり、薬物貯蔵部として機能するものではないことが文献には記載されている。この方法を用いると、膏体中に挟む不織布の分製剤が厚くなってしまい、製剤にソフト感もなくなり、製剤の貼付性に影響を及ぼす懸念がある。また、製造コストも高くなるため経済的にも不利である。
【0014】
特許文献5では、ニコチン等の活性物質を含有するデポ剤を粘着剤等のリザーバマトリックスに導入して治療品を製造する方法を開示している。この文献の例では、ニコチンを含有するデポ剤にはEUDRAGIT E100を含有している。このデポ剤を不織布に加えてプラスタを製造しており、このとき不織布は、不活性補助物質として、ニコチンを均一に分散させる助けをしている。本文献には、不織布などの不活性補助物質を使用せずにニコチンを塗布する技術は開示されていない。
【0015】
ニコチン経皮吸収製剤には、このように種々の文献が公知であるが、粘着物性や取り扱い性に関する開示はない。
【特許文献1】特許第3035346号公報
【特許文献2】特表2002−531488号公報
【特許文献3】特表平11−502840号公報
【特許文献4】特許第2708391号公報
【特許文献5】特許第2763773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、高精度な含量均一性を保持しつつ、連続的に、簡便に、かつ経済的にニコチン経皮吸収製剤を製造することが可能なニコチン経皮吸収製剤の製造方法であって、かつ、貼付時の固定性と貼付感(ソフト感)を両立し、剥離時の皮膚刺激が低減された粘着物性に優れた製剤を提供することが可能なニコチン経皮吸収製剤の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、含量均一性に優れており、また、粘着物性に優れ、かつ貼付時の固定性と貼付感(ソフト感)を両立し、剥離時の皮膚刺激が低減されたニコチン経皮吸収製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、ニコチン含有前(すなわちニコチン塗布前)の粘着剤層に対するニコチンの接触角を20〜60°に調節することによって、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 支持体上に、ニコチン及び粘着剤と相溶する液状成分を含有する粘着剤層が形成されたニコチン経皮吸収製剤であって、ニコチン含有前の粘着剤層に対するニコチンの接触角が20〜60°である、ニコチン経皮吸収製剤。
〔2〕 粘着剤層に対する粘着剤と相溶する液状成分の含有量が、20〜65重量%である、上記〔1〕に記載の製剤。
〔3〕 粘着剤層がアクリル系粘着剤層であり、かつ、架橋されている、上記〔1〕又は〔2〕に記載の製剤。
〔4〕 ニコチン含有前の粘着剤層において、ニコチン滴下1秒後の接触角に対するニコチン滴下3分後の接触角の変化率が15%以上である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の製剤。
〔5〕 支持体上に、ニコチン及び粘着剤と相溶する液状成分を含む粘着剤層が形成されたニコチン経皮吸収製剤の製造方法であって、
粘着剤と相溶する液状成分を含有する粘着剤層であって、ニコチン含有前の粘着剤層に対するニコチンの接触角が20〜60°である粘着剤層を提供する工程、及び
ニコチンを該粘着剤層に塗布し、ニコチンを粘着剤層中に含浸させる工程
を含む、ニコチン経皮吸収製剤の製造方法。
〔6〕 粘着剤層に対する粘着剤と相溶する液状成分の含有量が、20〜65重量%である、上記〔5〕に記載の方法。
〔7〕 粘着剤層がアクリル系粘着剤層であり、かつ、架橋されている、上記〔5〕又は〔6〕に記載の方法。
〔8〕 粘着剤層を提供する工程において提供される粘着剤層が、ニコチン滴下1秒後の接触角に対するニコチン滴下3分後の接触角の変化率が15%以上の粘着剤層である、上記〔5〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のニコチン経皮吸収製剤の製造方法によれば、ニコチン適用前の粘着剤層に対するニコチンの接触角を20〜60°の範囲内に調節することによって、ニコチンが粘着剤表面上ではじかれることなく、ニコチンを粘着剤層に直接、均一に塗布することができ、高精度な含量均一性を保持しつつ連続的にニコチン経皮吸収製剤を製造することができる。また、本発明の方法は、従来の不織布の挿入等の複雑な工程を必要とせず、簡便である。さらに、本発明の方法は、従来のシリコーン粘着剤のような高価な材料を必ずしも必要とせず、経済的に有利である。また、このようにして得られる本発明のニコチン経皮吸収製剤は、含量均一性に優れ、また、貼付感(ソフト感)の点で粘着物性に優れ、かつ剥離時の皮膚刺激が従来の製剤より少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のニコチン経皮吸収製剤は、支持体上に、ニコチン、及び粘着剤と相溶する液状成分を含有する粘着剤層が形成されており、ニコチン含有前の粘着剤層に対して、ニコチン液滴を接触させたときの接触角が20〜60°であることを特徴とする。
【0021】
本明細書において「接触角」とは、特に限定する場合を除き、粘着剤面上に液滴量1.1μLのニコチン液滴を接触させ、1秒後の接触角を室温23±2℃、相対湿度60±10%RHの条件下で測定したときの接触角をいう。
ここにいう粘着剤層に対するニコチンの接触角は、具体的には、以下のように測定する:
ガラス製のスライドグラスに、試料を粘着剤層の粘着面を上にして固定し、装置に装着する。粘着剤面上にニコチン液滴1.1μLを接触させ、上記条件下、1秒後の接触角を測定する。また、引き続き9秒ごとの接触角の経時変化を3分まで測定する。
簡便には、上記接触角は、協和界面科学株式会社製の接触角測定装置モデルDropMaster 700を用いて測定する。
【0022】
本発明のニコチン経皮吸収製剤は、後述するように、支持体または剥離ライナー上に、粘着剤と相溶する液状成分を含有する粘着剤層が形成された後に、該粘着剤層の粘着面にニコチンを塗布して製造される。塗布したニコチンは該粘着剤層に含浸する結果、支持体または剥離ライナー上に、ニコチン、及び粘着剤と相溶する液状成分を含有する粘着剤層が形成される。「ニコチン含有前の粘着剤層」とは、製剤の製造工程におけるニコチンを塗布する前の粘着剤層、言い換えれば、粘着剤と相溶する液状成分と、所望により製薬的に許容される添加剤とを含有する粘着剤層である。
【0023】
前述のように、本発明のニコチン経皮吸収製剤は、ニコチン含有前の粘着剤層に対して、ニコチン液滴を接触させたときの接触角が20〜60°であることを特徴とする。
接触角が60°より大きいと塗布したニコチンが粘着面上ではじかれ、均一に塗布することができない。その結果、製剤の良好な含量均一性が得られない。接触角が20°より小さいと、液状成分の比率を非常に大きくする必要があり、その結果、粘着力や凝集力、タックなどの粘着物性のバランスが悪くなり、剥れや糊残りが生じる原因となる。接触角は25〜55°の範囲であることがより好ましく、25〜50°の範囲であることが特に好ましい。40〜55°の範囲がさらに好ましい。
【0024】
ここで、ニコチンを粘着剤層に均一に塗布してニコチン経皮吸収製剤を安定して製造するためには、塗布されたニコチンが粘着剤層中に急速に吸収されていくことが好ましい。粘着剤面上に滴下したニコチンは粘着剤中に吸収されるため、その接触角は経時変化(低下)する。この接触角の経時的な低下率(変化率)は、一般には、大きいほどニコチンの塗布の均一性のためには好ましい。
本発明においては、ニコチン含有前の粘着剤層において、ニコチン滴下1秒後の接触角に対するニコチン滴下3分後の接触角の変化率が15%以上であることが好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。ニコチン滴下1秒後の接触角に対するニコチン滴下3分後の接触角の変化率は、以下の式で定義される。
接触角の変化率(%)={(接触角の変化量)/(1秒後の接触角)}×100
ここで、接触角の変化量=(1秒後の接触角)−(3分後の接触角)
接触角の変化率が、15%に満たない場合は、ニコチン経皮吸収製剤の製造において、ニコチンを粘着剤層に均一に塗布することが困難となる可能性があり、その結果製剤の良好な含量均一性が得られない可能性がある。
【0025】
一方、ニコチンが粘着剤層に吸収されるには、一定の時間を要する場合がある。その場合、製造工程において、操作上、ニコチンが塗布後すぐに粘着剤層面上から流れ落ちることなく、ニコチンがニコチン塗布開始後3分間粘着剤層面上にとどまることが望ましい。本発明では、ニコチンの、粘着剤層に対する接触開始1秒後〜180秒後のそのような接触角に着目する。接触開始後1秒後〜180秒後の任意の時点のいずれにおいても、接触角が上記範囲に入ることが好ましい。これによって、ニコチンを粘着剤層面にきわめて容易に塗布することが可能となる。
【0026】
ニコチン含有前の粘着剤層に対するニコチンの接触角が20〜60°であるニコチン経皮吸収製剤、特に、該接触角が20〜60°であって、ニコチン滴下1秒後の接触角に対するニコチン滴下3分後の接触角の変化率が15%以上であるニコチン経皮吸収製剤は、粘着剤層に粘着剤と相溶する液状成分を含有させることで得ることができる。
ニコチンは常温で水と同程度の粘度を示すため、通常の粘着剤層ではニコチンが粘着剤層に反発され接触角が大きくなる。本発明では、粘着剤層に液状成分を含有させることで、上記好ましい範囲の接触角に調製することができる。
【0027】
本発明に用いるニコチンは、経皮吸収性及び直接塗布の観点から、常温で液体であることが望ましく、ニコチンフリー塩基であることが好ましい。
粘着剤層に含有させるニコチンの量は、投与目的に応じて適宜設定することができるが、通常粘着剤層の10〜40重量%程度が好ましく、15〜30重量%程度がより好ましい。含有量が10重量%に満たない場合には充分な治療効果を得るために必要な量のニコチン放出が期待できない可能性があり、また、40重量%を超えると治療効果に限界が生じると共に経済的に不利となり、さらには、ニコチンによる皮膚刺激が発現する可能性がある。
【0028】
また、本発明においては、所期の用途や本発明の実施に悪影響を与えないのであれば、ニコチン以外の薬物を粘着剤層中に含有させてもよい。そのような薬物としては、例えば、ニコチン拮抗薬としてのメカミラミンやペンピジンなどが挙げられる。
【0029】
本発明に用いる粘着剤は、ゴム系粘着剤、ビニル系粘着剤、アクリル系粘着剤等の経皮吸収製剤の分野で一般に用いられている粘着剤を用いることができるが、架橋処理を施すことができる性質を持っている粘着剤が好ましい。
【0030】
ゴム系粘着剤としては、例えば、シリコーンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体ゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体ゴム等を主成分とした粘着剤が挙げられる。
【0031】
ビニル系粘着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルキルエーテル、ポリ酢酸ビニル等を主成分とした粘着剤が挙げられる。
【0032】
アクリル系粘着剤としては、特に限定されないが、架橋処理のしやすさの点からは(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分として共重合した共重合体を用いることが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アルキル基の炭素数が4〜18の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基(例えば、ブチル、ペンチル、へキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル等)である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは1種もしくは2種以上を併せて用いることができる。これらのうち、常温で粘着性を与えるためにガラス転移温度を低下させるモノマーが好ましく、アルキル基は、炭素数が4〜8の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基(例えば、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル等、好ましくはブチル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシル、特に好ましくは2−エチルヘキシル)である(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましい。アルキル基の炭素数が4〜8の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸シクロへキシルが好ましく、なかでもアクリル酸2−エチルへキシルが最も好ましい。
【0033】
また、上記モノマーと共重合する第二の成分として、架橋剤を用いる際の架橋点となりうる官能基を有したモノマーを用いてもよい。本発明では、官能基として水酸基又はカルボキシル基を含有するビニルモノマーを用いることが好ましい。第二の成分のモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例、アクリル酸2−ヒドロキシエチル)、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸などが挙げられる。これらの第二のモノマー成分は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
上記第二のモノマー成分以外に第三のモノマー成分を共重合してもよい。これらは、粘着剤層の凝集力調整やニコチンや併用薬物の溶解性や放出性の調整のために用いることができる。このような第三のモノマー成分としては、例えば、酢酸ビニルやプロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等のビニルアミド類、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルエステル、α−ヒドロキシメチルアクリレート等のヒドロキシル基含有モノマー、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー、(メタ)アクリル酸メトキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルエステル等のアルコキシル基含有モノマー、スチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルモルホリン等のビニル系モノマーなどが挙げられる。これらの第三のモノマー成分は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
本発明において、アクリル系粘着剤として、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルと上記第二のモノマー成分との共重合体を用いる場合、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル:第二のモノマー=40〜99.9:0.1〜10程度の重量比で配合した共重合体が挙げられる。
さらに、上記第三のモノマー成分を用いる場合は、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル:第二のモノマー:第三のモノマー=40〜99.9:0.1〜10:0〜50程度の重量比で配合した共重合体が挙げられる。
このような共重合体は、自体公知の重合方法により得ることができる。例えば、上記のモノマーを、重合開始剤(例えば、過酸化ベンゾイル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等)を添加して、溶媒(例えば、酢酸エチル等)中で、50〜70℃で5〜48時間反応させて得ることができる。
【0036】
粘着剤としては、架橋剤を用いて架橋処理が容易に行えるという点から、シリコーンゴム及びアクリル系粘着剤が好ましい。
本発明においては、粘着剤として架橋されたアクリル系粘着剤を用いることが好ましい。
【0037】
本発明では、粘着剤と相溶する液状成分を粘着剤層に含有させる。該液状成分は、粘着剤を可塑化させてソフト感を付与し、ニコチン経皮吸収製剤を皮膚から剥離する時に皮膚接着力に起因する痛みや皮膚刺激性を低減する役割を有するものであり、かつ、粘着剤に対するニコチンの濡れ性を調整し、接触角を低下させることにより、粘着剤層へのニコチンの直接塗布を可能とするために添加するものである。従って、液状成分としては、可塑化作用を有し、ニコチンの粘着剤への接触角を低下させる作用のあるものであればよく、本発明を実施可能である限り、如何なる液状物質を使用してもよい。粘着剤との相溶性の観点からは、有機液状成分が好ましく、親油性の有機液状成分がより好ましい。薬物を併存させる場合には、経皮吸収性を向上させるため吸収促進作用を有するものを用いることも可能である。液状成分としては、例えば、オリーブ油、ヒマシ油、スクワレン、ラノリン等の油脂類;ジメチルデシルスルホキシド、メチルオクチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルラウリルアミド、メチルピロリドン、ドデシルピロリドン等の有機溶剤類;液状の界面活性剤類;アジピン酸ジイソプロピル、フタル酸(ジ)エステル(例、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)など)、セバシン酸ジエチル等の可塑剤類;流動パラフィン等の炭化水素類;脂肪酸アルキルエステル(例、アルキル部分が炭素数が1〜13の直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキルであるアルコールと、炭素数8〜18の飽和又は不飽和の脂肪酸とのエステルなど、具体的には、オレイン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソトリデシル、ラウリン酸エチルなど)、グリセリン脂肪酸エステル(例、グリセリンと炭素数8〜16の飽和又は不飽和の脂肪酸とのエステルなど、具体的には、カプリル酸・カプリン酸トリグリセリドなど)、プロピレングリコール脂肪酸エステル(例、プロピレングリコールと炭素数8〜16の飽和又は不飽和の脂肪酸とのエステルなど、具体的には、ジカプリル酸プロピレングリコールなど)、ピロリドンカルボン酸アルキルエステルなどの脂肪酸エステル類;脂肪族ジカルボン酸アルキルエステル(例、アルキル部分が炭素数1〜4の直鎖状、分岐鎖状又は環状アルキルであるアルコールと、炭素数6〜16の飽和又は不飽和の脂肪族ジカルボン酸とのエステルなど、具体的には、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチルなど);グリセリン等の多価アルコール;オクチルドデカノール等の高級アルコール;シリコーン油;エトキシ化ステアリルアルコールなどが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を配合して使用する。ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル及びグリセリン脂肪酸エステルの使用が好ましく、グリセリン脂肪酸エステルの中でもカプリル酸・カプリン酸トリグリセリドが特に好ましい。
カプリル酸・カプリン酸トリグリセリドは、カプリル酸及びカプリン酸とグリセリンとのトリエステルであり、本発明においてカプリル酸とカプリン酸の割合は特に限定はないが、好ましくはカプリル酸:カプリン酸が約5:5〜約9:1程度(重量比)である。カプリル酸・カプリン酸トリグリセリドは、市販品(例えばココナードMT(花王製)など)を用いてもよい。
【0038】
当該液状成分としては、特に良好な経皮吸収性の観点からは、脂肪酸アルキルエステル、なかでも、ミリスチン酸イソプロピルが好ましい。特に良好な接着性を得る観点からは、グリセリン脂肪酸エステル、なかでもカプリル酸・カプリン酸トリグリセリドが好ましい。特に、良好な接着性が得られ、かつ、例えば前述のような禁煙プログラム(特に、1日1回貼付プログラム)において、高すぎることなく、低すぎることもない適度な経皮吸収性が得られ、その結果1回の貼付により長時間にわたってニコチンの血中濃度を一定に保つことができる観点からは、ミリスチン酸イソプロピルとカプリル酸・カプリン酸トリグリセリドの共存系が好ましい。
ミリスチン酸イソプロピルとカプリル酸・カプリン酸トリグリセリドを共存させる場合の配合割合は、特に限定はないが、適度な経皮吸収性と良好な接着性を得る観点からは、ミリスチン酸イソプロピル:カプリル酸・カプリン酸トリグリセリド=1:8〜2:1程度(重量比)とすればよい。
【0039】
液状成分の配合割合(含有割合)は、粘着剤層全体に対し、20〜65重量%が好ましく、皮膚刺激の観点からは30〜60重量%がより好ましい。
特に、液状成分の配合割合(含有割合)を上記の好ましい範囲とすることで、前述の、ニコチン含有前の粘着剤層に対するニコチンの接触角が、接触開始後1秒後〜180秒後の任意の時点のいずれにおいても、前述の好ましい範囲に入る、ニコチン経皮吸収製剤を得ることができる。また、液状成分の配合割合(含有割合)を上記の好ましい範囲とすることで、粘着力、凝集力、タックなどの粘着物性のバランスが良い、言い換えれば皮膚接着性が非常に良好でありかつ剥離時の痛みが少ない、ニコチン経皮吸収製剤を得ることができる。
【0040】
また、粘着剤に添加する液状成分と同じものを一部ニコチンに混合して塗布することでも、粘着剤に対するニコチンの接触角が低下することも本発明者らにより見出された。液状成分を添加する量が多いほど接触角を低下させることができるが、極端に多いとニコチンを規定量塗布するために、多くの液を塗布する必要が生じ、好ましくない。また、添加する液状成分が極端に少ないと接触角を低下させる効果が少ない。従って、液状成分をニコチンに添加する割合には、ニコチンと液状成分の混合液全体に対し、液状成分を1〜50重量%添加するのが好ましく、5〜30重量%添加するのがより好ましく、10〜20重量%添加するのがさらにより好ましい。
【0041】
粘着剤層の厚みは、60〜240μmが好ましく、皮膚接着性やニコチンの経皮吸収性の点から80〜120μmがより好ましい。
【0042】
本発明では、ヒトなどの皮膚に適応される際に適度な凝集力を提供するために、および粘着剤層に液状成分を容易に保持するために、粘着剤層に架橋処理を施すのが好ましい。架橋処理としては、例えば、イソシアネート系化合物(例えば、コロネートHL(商品名、日本ポリウレタン製)など)、金属キレート化合物(例えば、チタン、ジルコニウム、亜鉛又はアルミニウムからなる金属キレート化合物、具体的にはアルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(例えば、ALCH(商品名、川研ファインケミカル製)など))、有機過酸化物、エポキシ化合物、メラミン樹脂等の架橋剤を用いた化学的架橋処理や、UV、γ線、電子線等を用いた架橋処理が挙げられる。中でも、反応性や取り扱い性の観点から、イソシアネート化合物、チタン、ジルコニウム、亜鉛又はアルミニウムから構成される金属アルコラート或いは金属キレート化合物等の架橋剤を用いた化学的架橋処理が好ましい。これらの架橋剤は、塗布、乾燥までは溶液の増粘現象を起こさず、極めて作業性に優れている。
架橋剤の配合量は、粘着剤100重量部に対し、0.01〜5重量部程度である。あまりに架橋剤が少なすぎると架橋点が少なすぎるため、粘着剤層に所望の凝集力が付与できず、剥離時に凝集破壊に起因する糊残りや強い皮膚刺激が発現する。一方、架橋剤が多すぎると、凝集力は大きくなるが、充分な皮膚接着力が得られなくなったり、未反応の開始剤の残留によって皮膚刺激や、ニコチンや併用薬物の分解が起こったりする可能性がある。
【0043】
本発明に用いる支持体は、特に限定されないが、粘着剤層に含有されるニコチンが支持体を通って粘着剤層形成面の反対の面から失われて含量低下を起こさないもの、即ちニコチンが不透過性の材質からなるものが好ましい。また、粘着剤層にニコチン以外の薬物を含有させる場合には、支持体が、その薬物も不透過性の材質からなるものが好ましい。支持体としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、サラン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、金属箔、ポリエチレンテレフタレート等の単独フィルム、およびこれらの1又は2種以上が積層したラミネートフィルムなどを用いることができる。これらのうち、支持体と粘着剤層との間の接着性(投錨性)を向上させるために、支持体を例えば上記材質からなる無孔シートと多孔シートとのラミネートシートとし、多孔シート側に粘着剤層を形成することが好ましい。このような多孔シートとしては、支持体と粘着剤層との投錨性が向上するものであれば特に限定されず、例えば、紙、織布、不織布(例えば、ポリエステル不織布、ポリエチレンテレフタレート不織布など)、機械的に穿孔処理したシートなどが挙げられ、紙、織布、不織布が特に好ましい。支持体の厚みは投錨性向上や製剤全体の柔軟性を考慮すると、10〜500μmの範囲とするのが好ましい。
また、多孔シートとして織布や不織布を用いる場合、目付量を5〜50g/mとすることが好ましく、投錨力の向上の点からは8〜40g/mとすることがより好ましい。
【0044】
本発明では、粘着剤層を剥離ライナー上に形成してもよい。この場合、剥離ライナー上に粘着剤層を形成し、ニコチンを該粘着剤層に含浸させた後、粘着剤層の該剥離ライナーと反対の面に支持体を貼り合わせてもよい。
本発明のニコチン経皮吸収製剤は、以下に詳述する本発明のニコチン経皮吸収製剤の製造方法により製造することができる。
【0045】
本発明の方法は、支持体上に、ニコチン及び粘着剤と相溶する液状成分を含む粘着剤層が形成されたニコチン経皮吸収製剤の製造方法であって、
(1)粘着剤と相溶する液状成分を含有する粘着剤層であって、ニコチン含有前の粘着剤層に対するニコチンの接触角が20〜60°である粘着剤層を提供する工程(以下、工程(1)という。)、及び
(2)ニコチンを該粘着剤層に塗布し、ニコチンを粘着剤層中に含浸させる工程(以下、工程(2)という。)
を含むことを特徴とする。
工程(1)
「粘着剤と相溶する液状成分を含有する粘着剤層」は、例えば、粘着剤及び液状成分、ならびに必要に応じ架橋剤の混合溶液をよく攪拌した後、支持体又は剥離ライナー上に該溶液を塗布し、乾燥する。その後、必要に応じ加熱などの架橋処理を行うことで得ることができる。「粘着剤」、「粘着剤と相溶する液状成分」として前述の好ましいものを用いることで、ニコチン含有前の粘着剤層に対するニコチンの接触角が20〜60°である粘着剤層を得ることができる。
工程(2)
粘着剤層の粘着面に、ニコチンを塗布する。その後、ニコチンは、速やかに粘着剤層中に含浸する。
ニコチンは常温で水と同程度の粘度を示すため、ニコチンの粘着剤層への塗布には、従来からある液体の塗布手法を適宜使用することが可能である。従って、本発明ではニコチンを含まない粘着剤層を予め調製しておき、揮発性の高いニコチンを加熱することなく、公知の印刷的手法などによって粘着剤層にニコチンを直接塗布又は含浸して、ニコチン経皮吸収製剤を製造することを可能としている。
本発明の方法によれば、ニコチンを粘着剤層に塗布した後、ニコチンは速やかに粘着剤層に含浸するので、製造される本発明の製剤の原反の各箇所におけるニコチン含有量のバラツキが少なく、その結果、含量均一性に優れた本発明のニコチン経皮吸収製剤を連続的に製造することが可能となる。
【0046】
本発明のニコチン経皮吸収製剤の製造方法の好ましい態様としては、以下の方法が挙げられる。粘着剤及び液状成分、ならびに必要に応じ架橋剤の混合溶液をよく攪拌した後、支持体又は剥離ライナー上に該溶液を塗布し、乾燥する。その後、剥離ライナー又は支持体を貼り合わせ、必要に応じ加熱などの架橋処理を行う。次いで、はじめの剥離ライナーを剥離してニコチンを粘着剤層上に直接塗布した後、別の剥離ライナーを適宜貼り合わせる。この剥離ライナーを貼り合せる時に、別途粘着剤層付きの剥離ライナーを用意しておき、ニコチンを含有する粘着剤層上に積層させることも可能である。この時積層する別の粘着剤層は、ニコチンを含有する粘着剤層と同一の組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。
また、ニコチンを粘着剤に直接塗布する方法としては、薄膜塗布、特に印刷分野で用いられている印刷的手法も利用できる。
【0047】
ニコチン(特にニコチンフリー塩基)は、揮散性の高い薬物であり、加熱による乾燥は行い難い。しかしながら、本発明の方法では、ニコチン又はニコチンと液状成分との混合物を粘着剤層に塗布すれば速やかに含浸することから、塗布後に加熱乾燥の必要がなく、ニコチン揮散の心配がない。
【0048】
ニコチンを塗布する方法としては、例えば、グラビアコーター、フレキソコーター、カレンダーコーター、スプレーコーター、カーテンコーター、ファウンテン式コーター、ダイコーター、スリットダイコーター、インクジェットなどを用いる方法が挙げられる。
これらの方法は一般に高い精度が要求される薄膜塗布に適応できる方法であり、本発明のように薬物の含量均一性が要求される場合には塗布精度の高い塗布方法を用いることが有利である。さらに、本発明ではニコチンを塗布液として用いるので、低粘度の塗布液でも高い塗布精度が達成できる塗布方式であることが好ましい。さらに、ニコチンは非常に毒性が高いので製造作業者に対して安全性の高い塗布方式が望ましく、開放系ではない塗布方式が望ましい。これらの点を考慮すると、ダイコーターやピエゾ方式のインクジェットプリンターを用いる方法が、塗布精度に優れ、閉鎖系にすることが容易であるため、特に好ましい。
【0049】
本発明において最も好ましいニコチンを塗布する方法としては、以下に示すようなダイコーターを用いる方法が挙げられる。
【0050】
図1A及び図1Bに本発明に用いることが可能なダイ塗布の一例の概略図を示す。
ニコチン供給用タンク1から計量ポンプ2を用いてダイ3へニコチンを供給する。支持体又は剥離ライナーに支持された液状成分を含有する粘着剤層5はバックアップロール4とダイ3の間の隙間を通過し、ダイ3よりニコチンが粘着剤層5上に均一に塗布される。
ダイとしては、例えば、カーテンダイ、ウルトラダイ、リップダイ、スロットダイなどが挙げられ、低粘度溶液を用いて高精度の塗布が可能な点から、スロットダイが好ましい。
計量ポンプとしては、例えば、シリンジポンプ、ギアポンプ、モーノポンプ、ダイヤフラムポンプなどが挙げられる。精度の高さなどの点からシリンジポンプが好ましく、また、ギアポンプも好ましい。
ポンプの計量精度は、ニコチン塗布の均一性に影響する要因として重要である。
計量ポンプの種類はもちろんであるが、ポンプを駆動させるモーターも重要であり、外乱により回転数の変化の少ないサーボ方式のモーターを使用するのが好ましい。
また、ニコチンを塗布する際の粘着剤層5のライン速度の精度も重要である。ニコチンの塗布量や塗布精度は計量ポンプの回転数及び回転精度とライン速度の比率のみで大まかに決定することができる。本発明の製造方法によれば、ニコチンの吸収速度が十分に速いため、計量ポンプの回転数とライン速度の比率の精度がそのまま塗布精度となりうる。
【0051】
そのほかにニコチン塗布の均一性に影響する因子としては、ニコチン供給ライン内部の圧力変動やダイ内部のニコチンの流動特性が挙げられる。ニコチン供給ライン内部の圧力変動は計量ポンプの精度によるもの以外に供給ラインへの気泡の混入によるものがあり、ニコチン供給ライン内部の気泡は除去しておくことが望ましい。ニコチンの供給は気泡が抜けやすいように、回転軸が水平になるようにバックアップロール4が設置されている場合、バックアップロール4の回転軸を通る水平面とバックアップロール4の外周面とが交わる点又はそれよりもバックアップロール4の回転方向に対してより下流からニコチンを供給するのが望ましく(図1A及び図1B参照)、気泡トラップ装置(図示せず)をライン中に設置するのが望ましい。ニコチン供給ライン6の配管は、気泡が抜けやすいように細い配管を使用するのが望ましい。配管の径の設計はニコチンの供給量により異なるので一概には言えないが、ニコチン供給量が約3mL/分の場合は配管の内径は2〜4mmが望ましい。配管の材質は、ニコチンにより腐食されなければ如何なる材質であってもよいが、ニコチンが毒物であることを考慮するとステンレスが望ましい。配管の材質がニコチンにより腐食されるような材質であっても、配管内部にニコチンに対して耐腐食性を有するコーティングを施せばよい。配管内部の気泡を確認する意味ではテフロン(登録商標)配管を用いることも好ましい。
【0052】
ニコチンのように低粘度の塗布液では、粘着剤面の凹凸やバックアップロールの微妙な変動はほとんど影響がないと考えられる。従って、ニコチンを塗布する表面は少なくとも±5μm程度の凹凸を有していてもよい。
【0053】
本発明ではニコチンを溶媒等の従来の溶解補助物質(例、オイドラギットE−100(アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE)、Rohm社製)に溶解せずそのまま塗布液として用いるため、塗布液が低粘度であり、塗布のライン速度を大きくすることが可能である。従って、本発明は、生産性の向上や塗布精度の向上に非常に有利である。
【0054】
ダイの中での塗布液の流動特性も均一塗布には重要である。特に幅広いダイでの幅方向の均一性はダイ内部の構造に依存するので、ニコチン塗布用に十分設計されたダイ(一般的な低粘度用として設計可能な範囲のもの)を用いるのが望ましい。
【0055】
ニコチンを塗布するためのダイの隙間(シム)はニコチンに対して不活性な金属フィルム又はプラスチックフィルムにより調節できる。ニコチンに対して不活性な金属フィルムとしては、ステンレスフィルム、亜鉛箔フィルム、チタン箔フィルムなどが挙げられる。ニコチンに対して不活性なプラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、テフロン(登録商標)フィルム、酢酸セルロースフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアミドフィルムなどが挙げられる。最も好ましいシムの材質としてはポリエチレンテレフタレートフィルム及びステンレスフィルムが挙げられる。シムの厚みは塗布厚や塗布ラインの速度に影響されるが、塗布厚15〜20μmの場合は、20μm〜100μmが好ましい。
【0056】
ダイシステムの具体例としては、米国リバティー社(LIBERTY)、米国クローレン社(CLOEREN)のスロットダイシステムを挙げることができるが、本発明で使用可能なダイシステムがこれらに限定されるわけではない。また、計量ポンプを含め中外炉工業(株)や東レエンジニアリング(株)製のスロットダイシステムなども好適に用いることができる。
【0057】
本発明におけるニコチンの塗布では既に述べたように、計量ポンプの回転数とライン速度の比率のみで塗布精度が決まるので、計量ポンプとライン速度の間の電気的な信号を制御したり、回転数をフィードバックする機構を持たせ、ライン速度を増加させれば自動的にポンプの回転速度が一定の比率で増加するように設計したりすることが望ましい。
【0058】
また、ニコチンが毒物であることを考慮すれば、ダイヘッドやダイの内部、配管、タンクを自動で洗浄する機構が備えてあり、ニコチンの露出部分からの揮発があった場合を考慮して、ニコチンの露出部分に安全カバーを施したり、作業を行う部屋に排気装置を備え付けたりすることが望ましい。
【0059】
本発明においてニコチンの塗布は通常、室温下で実施するが、室内の温度変化により、ニコチンの比重が変化し、塗布量の変動につながるので塗布するニコチンの温度は一定に保つことが好ましい。ニコチンの温度を一定に保つために、ダイや配管、タンクに温度を一定に保つ装置を付属させてもよい。ニコチンを高温にして塗布すれば、粘着剤層へのニコチンの浸透速度は速くなるが、ニコチンの揮散により作業者に危険が及ぶようになる。従って、作業者の安全性の観点からは、低温のニコチンの塗布が好ましく、0〜40℃、好ましくは5〜30℃、さらに好ましくは10〜25℃にニコチンの温度を保つのがよい。温度変化は±2℃以内であるのが好ましい。
ニコチンは吸湿性があるので、湿度管理がされていない高湿度の場所で長時間保存することは避けた方がよい。しかしながら、極端に低湿度下では静電気スパークによるニコチンへの引火爆発の危険がある。従って、相対湿度で40〜60%の一定湿度に湿度管理された場所で塗布するのが望ましい。
【0060】
本発明のニコチン経皮吸収製剤の形状、大きさは、特に限定されず、貼付部位等に合わせて任意の形状、大きさとすればよい。形状としては、例えば、テープ状、シート状等を含む。製剤の大きさは、例えば5〜30cmが挙げられる。
本発明のニコチン経皮吸収製剤は、喫煙者(特に、禁煙希望者)に対し、習慣的禁煙を抑制するための、従来実施されている又は将来実施される禁煙プログラムに沿ったニコチン補充療法などに用いることができる。
本発明のニコチン経皮吸収製剤によるニコチンの投与量は、患者の年齢、体重、疾患の重症度等により異なるが、通常、成人に対してニコチン5〜120mgを含有した経皮吸収製剤を、皮膚5〜30cmに、0.5〜2日あたり1回程度貼付する。
【実施例】
【0061】
以下に本発明の実施例を示し、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお特に断りのない限り以下において部および%は重量部および重量%を示す。
【0062】
(実施例1)
窒素雰囲気下でアクリル酸2−エチルへキシルエステル95部と、アクリル酸5部、酢酸エチル100部、過酸化ベンゾイル0.2部を還流冷却器、攪拌機、温度計、滴下漏斗、窒素導入管付きのセパラブルフラスコ中にて60℃で15時間反応させ粘着剤溶液(アクリル1と略す)を調製した。
上記粘着剤溶液を粘着剤固形分59.92部換算の量を反応容器に量りとり、ミリスチン酸イソプロピルを粘着剤固形分に対し40部添加し、さらに架橋剤としてコロネートHL(日本ポリウレタン製)を0.08部(粘着剤に対し0.14%)添加し、よく攪拌した。
得られた溶液を片面に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナーの剥離処理を施した面に、乾燥後の厚みが240μmとなるように塗布し、60℃3分乾燥、80℃3分乾燥、95℃3分乾燥して粘着剤層を形成した。形成した粘着剤層の粘着面と、ポリエステル不織布(目付け量12g/m)上に2μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムを押出成形により積層して作製した支持体の不織布側とを貼り合せて積層体を作製した。その後、該積層体を密封して60℃で48時間放置し、架橋粘着剤層を調製した。
その後、はじめの剥離ライナーを剥がして粘着面を露出させながらダイコーターを用いて、ニコチンフリー塩基を粘着剤層の粘着面に塗布した。ニコチン塗布面上に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナーの剥離処理を施した面を貼り合わせ、幅100mm、長さ15mのニコチン経皮吸収製剤の原反を得た。
【0063】
(実施例2〜4)
窒素雰囲気下でフラスコ内にアクリル酸2−エチルヘキシルエステル72部、N−ビニル−2−ピロリドン25部、アクリル酸3部を仕込み、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.3部を添加し重合を開始させた。攪拌速度と外浴温度の調節、および酢酸エチルの滴下によって、内浴温度を58〜62℃に制御し、重合反応を行い、粘着剤溶液(アクリル2と略す)を調製した。
実施例2、3および4において、表1に示すように上記粘着剤溶液を粘着剤固形分69.79、59.82、49.85部換算の量をそれぞれ反応容器に量りとり、パルミチン酸イソプロピルを粘着剤固形分に対しそれぞれ30部、40部、50部添加し、さらに架橋剤としてALCH(川研ファインケミカルズ製、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)を粘着剤に対し0.3%添加し、よく攪拌した。得られた溶液を、片面に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナーの剥離処理を施した面に、乾燥後の厚みが120μmとなるように塗布し、70℃2分乾燥後、さらに90℃2分乾燥して粘着剤層を形成した。ポリエステル不織布(目付け量12g/m)上に2μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムを押出成形により積層して作製した支持体の不織布側を、粘着剤層の粘着面に貼り合せて積層体を作製した。その後、該積層体を密封して60℃で48時間放置し、実施例2〜4の架橋粘着剤層を調製した。
その後、はじめの剥離ライナーを剥がして粘着面を露出させながらダイコーターを用いて、ニコチンフリー塩基を粘着剤層の粘着面に塗布した。その後、ニコチン塗布面上に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナーの剥離処理を施した面を貼り合わせ、幅100mm、長さ15mのニコチン経皮吸収製剤の原反を得た。
【0064】
(実施例5〜8)
アクリル酸2−エチルヘキシル/酢酸ビニル/アクリル酸2−ヒドロキシエチル=78/16/6(重量比)(DURO−TAK 2196、ナショナルスターチ製;アクリル3と略す)を粘着剤固形分79.68部、69.72部、59.76部、49.80部換算の量をそれぞれ反応容器に量りとり、各反応容器に、ココナードMT(花王製、カプリル酸・カプリン酸トリグリセリド)を粘着剤固形分に対しそれぞれ20部、30部、40部、50部添加し、さらに架橋剤としてALCH(川研ファインケミカルズ製、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)を粘着剤に対し0.4%添加し、よく攪拌した。
得られた溶液を、片面に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナーの剥離処理を施した面に、乾燥後の厚みが80μmとなるように塗布し、70℃2分乾燥後、さらに90℃2分乾燥して粘着剤層を形成した。ポリエステル不織布(目付け量12g/m)上に2μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムを押出成形により積層して作製した支持体の不織布側を、粘着剤層の粘着面に貼り合せて積層体を作製した。その後、該積層体を密封して60℃で48時間放置し、実施例5〜8の架橋粘着剤層を調製した。
その後、はじめの剥離ライナーを剥がして粘着面を露出させながらダイコーターを用いて、ニコチンフリー塩基を粘着剤層の粘着面に塗布した。その後、ニコチン塗布面上に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナーの剥離処理を施した面を貼り合わせ、幅100mm、長さ14mのニコチン経皮吸収製剤の原反を得た。
【0065】
(実施例9)
実施例2のパルミチン酸イソプロピル(粘着剤固形分に対し30部)の代わりにミリスチン酸イソプロピル(粘着剤固形分に対し30部)に置き換えた以外は実施例2と同様にして、ニコチン経皮吸収製剤を得た。
【0066】
(実施例10及び11)
窒素雰囲気下でフラスコ内にアクリル酸2−エチルヘキシルエステル72部、N−ビニル−2−ピロリドン25部、アクリル酸3部を仕込み、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.3部を添加し重合を開始させた。攪拌速度と外浴温度の調節、および酢酸エチルの滴下によって、内浴温度を58〜62℃に制御し、重合反応を行い、粘着剤溶液(アクリル2)を調製した。
実施例10及び11において、表1に示すように上記粘着剤溶液を粘着剤固形分39.88、29.91部換算の量をそれぞれ反応容器に量りとり、ミリスチン酸イソプロピルを粘着剤固形分に対しそれぞれ60部、70部添加し、さらに架橋剤としてALCH(川研ファインケミカルズ製、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)を粘着剤に対し0.3%添加し、よく攪拌した。得られた溶液を、片面に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナーの剥離処理を施した面に、乾燥後の厚みが70μmとなるように塗布し、70℃2分乾燥後、さらに90℃2分乾燥して粘着剤層を形成した。ポリエステル不織布(目付け量12g/m)上に2μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムを押出成形により積層して作製した支持体の不織布側を、粘着剤層の粘着面に貼り合せて積層体を作製した。その後、該積層体を密封して60℃で48時間放置し、実施例10および11の架橋粘着剤層を調製した。
その後、剥離ライナーを剥がして粘着面を露出させ、フレキソ印刷用コーター(RK Print Coat Instruments Ltd.製,商品名:K-ロックスプルーフア)に彫刻ローラー(塗布量:計算値30mg/cm2)をセットし、ニコチンフリー塩基(Sigma製)を粘着剤層の粘着面に直接塗布し、ニコチン含有経皮吸収製剤を得た。塗工速度は0.1m/分の一定速度とした。
【0067】
(比較例1)
実施例1において得られた粘着剤溶液(アクリル1)をそのまま(すなわち、液状成分を含ませずに)、片面に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナーの剥離処理を施した面に、乾燥後の厚みが240μmとなるように塗布し、60℃3分乾燥、80℃3分乾燥、95℃3分乾燥して粘着剤層を形成した。形成した粘着剤層の粘着面と、ポリエステル不織布(目付け量12g/m)上に2μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムを押出成形により積層して作製した支持体の不織布側とを貼り合せ、粘着剤層を調製した。
【0068】
(比較例2)
実施例2において得られた粘着剤溶液(アクリル2)をそのまま(すなわち、液状成分を含ませずに)、片面に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナーの剥離処理を施した面に、乾燥後の厚みが120μmとなるように塗布し、70℃2分乾燥後、さらに90℃2分乾燥して粘着剤層を形成した。形成した粘着剤層の粘着面と、ポリエステル不織布(目付け量12g/m)上に2μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムを押出成形により積層して作製した支持体の不織布側とを貼り合せ、粘着剤層を調製した。
その後、はじめの剥離ライナーを剥がして粘着面を露出させながらダイコーターを用いて、ニコチンフリー塩基を粘着剤層の粘着面に塗布した。その後、ニコチン塗布面上に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナーの剥離処理を施した面を貼り合わせ、幅100mm、長さ11mのニコチン経皮吸収製剤の原反を得た。
【0069】
(比較例3)
実施例5で使用したDURO−TAK 2196(アクリル3)をそのまま(すなわち、液状成分を含ませずに)、片面に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナーの剥離処理を施した面に、乾燥後の厚みが80μmとなるように塗布し、70℃2分乾燥後、さらに90℃2分乾燥して粘着剤層を形成した。形成した粘着剤層の粘着面と、ポリエステル不織布(目付け量12g/m)上に2μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムを押出成形により積層して作製した支持体の不織布側を貼り合せ、粘着剤層を調製した。
【0070】
(比較例4)
接着剤溶液(イソオクチルアクリレート:アクリルアミド:酢酸ビニル共重合体(74部:6部:20部)、エチルアセテート:メタノール(91部:9部)中の固形分22%、インヘレント粘度=1.21dl/g)を、片面に剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート製の剥離ライナーの剥離処理を施した面に、押出ダイを用いて塗布した。ダイは20mil(500μm)のシムを備えていた。塗布された剥離ライナーを150°F(65℃)で1分間、275°F(135℃)で1分間、さらに350°F(177℃)で1分間オーブン乾燥した。幅7インチ(17.8cm)の4000線ヤード(3640線メートル)のウェブが得られた。
直接グラビア塗布[グラビアロールパラメータ:パターン−三重螺旋形;45ライン毎インチ(18ライン毎cm);体積因子−3.0×10−3in/in(7.6×10−3cm/cm)を使用して、ニコチンをそのまま、すなわち0%ポリマー含有量で均一塗布しようとしたが、うまくいかなかった。
【0071】
【表1】

【0072】
(実験例)
実施例及び比較例で得られたニコチン経皮吸収製剤のサンプルについて以下の評価を行った。
【0073】
ニコチンの接触角の測定
実施例及び比較例で作製した粘着剤層(実施例1〜11については、ニコチン塗布前の架橋粘着剤層、比較例2については、ニコチン塗布前の粘着剤層、比較例1、3については、得られた製剤の粘着剤層)に対するニコチンの接触角を協和界面科学株式会社製の接触角測定装置モデルDropMaster 700を用いて測定した。
測定方法 接触角(液滴法)
測定範囲 接触角:0〜180°
測定精度 接触角:±1°
表示分解能 接触角:0.1°
測定位置決定 PC画面にて操作
定量液滴作製 自動
着液制御/着液認識 自動
接触角解析 自動
ガラス製のスライドグラスに実施例又は比較例で作製した(架橋)粘着剤層を剥離ライナーの面を上向きに固定し、装置に装着した。剥離ライナーを剥がして、露出した粘着剤層の粘着面上にニコチン液滴を接触させ、1秒後の接触角を室温23±2℃、相対湿度60±10%RHの条件下で測定した。ニコチンの液滴量は1.1μLに調整した。
また、引き続き9秒ごとの接触角の経時変化を3分まで測定した。
結果を図2及び表2に示す。これらの結果より、実施例1〜11の粘着剤層に対するニコチンの接触角の変化率は、比較例1〜3の粘着剤層に対するニコチンの接触角の変化率に比べて顕著に大きいことが示された。
【0074】
【表2】

【0075】
ニコチン含有量
実施例1、3及び6ならびに比較例2で得られたニコチン経皮吸収製剤の原反より、幅方向にはニコチンを塗布した範囲の両端から25mmの位置を中心に2点(表3〜5における手前・奥)、塗布方向には0.5m置きに18〜21点サンプリングした。サンプリングは10cmの正方形の打ち抜き型を用いてニコチン経皮吸収製剤を打抜いて取り出し、これをメタノール中で室温、120分間、振盪(約90rpm)抽出し、抽出液中のニコチン含有量をHPLC法を用いて定量した。
結果を表3〜6に示す。これらの結果より明らかなように、実施例1、3、6の製剤のニコチン含有量のバラツキは、比較例2の製剤のニコチン含有量のバラツキに比べて、顕著に少なく、本発明の製剤は、含量均一性に優れている。
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
接着性評価
接着力:
実施例1、3、6、9〜11ならびに比較例2のニコチン経皮吸収製剤の原反を24mm幅に切断してサンプルを作製し、被着体としてベークライト板を用いて、引張試験機(島津製作所製,EZTest)によりサンプルの接着性を評価した。
剥離時の痛みの評価:
実施例1、3、6、9〜11ならびに比較例2のニコチン経皮吸収製剤の原反を10cmに成型してサンプルを作製し、健全なボランティア6名の上腕部にサンプルを24時間貼付した後、製剤を剥離する時の痛みを以下に示す5段階のスコアで評価した。
1:全く痛くない 2:ごく僅かに痛い
3:僅かに痛い 4:少し痛い
5:非常に痛い
結果を表7に示す。
【0081】
【表7】

【0082】
皮膚透過性の評価
実施例1、3及び6で作製したニコチン経皮吸収製剤の薬物透過性を、ヘアレスマウス摘出皮膚を用いて以下の条件により試験し、評価した。
透過装置:全自動フロースルー拡散セル装置(バンガードインターナショナル製)
サンプル面積:0.2826cm
レセプター溶液:リン酸緩衝液(pH=7.4)、0.02%アジ化ナトリウム含む
流量:約10mL/4時間/セル(ポンプ回転数:2.0rpm)
サンプリングポイント:1、2、3、4、5、6、7、8、12、16、20、24時間サンプル:実施例1、3及び6のニコチン経皮吸収製剤、n=3
なお、比較対象として、市販のニコチン経皮吸収製剤ニコチネルTTS10(ノバルティス製)を用いた。
レセプター溶液に流入したニコチン含有量をHPLC法を用いて定量した。結果を図3に示す。
【0083】
上記で示されたように、本発明の製剤は皮膚接着性が良好であった。また、剥離時の痛みが少なく、刺激が非常に少ないため、毎日貼付するニコチン経皮吸収製剤としては好適である。使用時の脱落もないため、非常に経済的である。さらに、皮膚透過性試験の結果、既存のニコチン経皮吸収製剤と同等か又はそれ以上の透過性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1A】図1Aは、ニコチンの粘着剤層への塗布の好ましい一実施態様を示す概略図である。
【図1B】図1Bは、ニコチンの粘着剤層への塗布の好ましい一実施態様を示す概略図である。
【図2】図2は、実験例における、実施例1〜11、比較例1〜3の粘着剤層に対するニコチンの接触角の測定の結果(経時変化)を示すグラフである。
【図3】図3は、実験例における、実施例1、3、6および比較対照(ニコチネルTTS10)の皮膚透過性試験(Flux)の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0085】
1 ニコチン供給用タンク
2 計量ポンプ
3 ダイ
4 バックアップロール
5 粘着剤層
6 ニコチン供給ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、ニコチン及び粘着剤と相溶する液状成分を含有する粘着剤層が形成されたニコチン経皮吸収製剤であって、ニコチン含有前の粘着剤層に対するニコチンの接触角が20〜60°である、ニコチン経皮吸収製剤。
【請求項2】
粘着剤層に対する粘着剤と相溶する液状成分の含有量が、20〜65重量%である、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
粘着剤層がアクリル系粘着剤層であり、かつ、架橋されている、請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
ニコチン含有前の粘着剤層において、ニコチン滴下1秒後の接触角に対するニコチン滴下3分後の接触角の変化率が15%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項5】
支持体上に、ニコチン及び粘着剤と相溶する液状成分を含む粘着剤層が形成されたニコチン経皮吸収製剤の製造方法であって、
粘着剤と相溶する液状成分を含有する粘着剤層であって、ニコチン含有前の粘着剤層に対するニコチンの接触角が20〜60°である粘着剤層を提供する工程、及び
ニコチンを該粘着剤層に塗布し、ニコチンを粘着剤層中に含浸させる工程
を含む、ニコチン経皮吸収製剤の製造方法。
【請求項6】
粘着剤層に対する粘着剤と相溶する液状成分の含有量が、20〜65重量%である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
粘着剤層がアクリル系粘着剤層であり、かつ、架橋されている、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
粘着剤層を提供する工程において提供される粘着剤層が、ニコチン滴下1秒後の接触角に対するニコチン滴下3分後の接触角の変化率が15%以上の粘着剤層である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−131618(P2007−131618A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276913(P2006−276913)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】