説明

ニッケルめっき浴

【課題】均一電着性に優れ、めっきコストの低廉なニッケルめっき浴を提供する。
【解決手段】本発明のニッケルめっき浴は、塩化ニッケル・六水和物を4g/L〜100g/L含み、クエン酸ナトリウム・二水和物を50g/L〜300g/L含み、ホウ酸等のpH緩衝剤を含まないか又は飽和濃度以下とされており、硫酸ニッケル・六水和物を含まないか又は30g/L以下とされており、pHが6.5〜10とされていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は均一電着性に優れたニッケルめっき浴に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より実用化されているニッケルめっき浴として、ワット浴(硫酸ニッケル240〜300 g/L、塩化ニッケル45〜50 g/L、ホウ酸30〜40 g/Lの組成からなるニッケルめっき浴)やスルファミン酸浴(スルファミン酸ニッケル300〜450 g/L、塩化ニッケル0〜15g/L、ホウ酸30〜40 g/Lからなるニッケルめっき浴)がある。ワット浴は電流効率に優れ、光沢剤や応力緩和剤についても開発が進んでいるため、装飾めっきとして好適に用いることができる。また、スルファミン酸浴はめっき皮膜の応力が小さいという特徴があるため、電鋳等の厚いめっきを行うのに適している。
【0003】
しかし、これらワット浴やスルファミン酸浴を用いたニッケルめっきは、均一電着性において問題が生じていた。例えば、深絞りのプレス製品などにニッケルめっきを施す場合には、ワット浴やスルファミン酸浴を用いた場合、深く絞られた内部までめっきが付き難く、ニッケルめっき皮膜が薄くなってしまい、耐食性が不十分となりやすい。その一方、被めっき物の凸部には電流が集中しやすく、めっきが厚くなりすぎて、寸法精度が悪くなる等の問題を生じていた。
【0004】
ニッケルめっきの均一電着性を向上させるための方法として、深く絞られた内部に補助電極を挿入したり、凸部付近に遮蔽物を設置したりすることが行われている。しかし、補助電極や遮蔽物を設置するのは手間がかかることであり、生産性が低下し、ひいてはめっきにかかるコストの高騰化を招来することとなる。
【0005】
この点、均一電着性に優れている無電解ニッケルめっき浴を用いれば、均一な膜厚のニッケルめっき層を形成させることができる。しかし、無電解ニッケルめっきのめっき速度は遅く、めっき浴に長い時間入れておかなければならないため、生産性が悪いという欠点を有する。また、ニッケルイオンを還元して金属とするために還元剤が必要となるため、めっきコストが高くなり、さらには、使用済みのめっき浴を廃棄するための廃液処理も必要となるという問題がある。特に、還元剤として次亜リン酸を用いる場合には、廃液に多量のリンが含まれることとなり、河川や湖沼の富栄養化等、環境汚染の原因となるおそれがある。
【0006】
このため、被めっき物の形状に関わらず、どの部分にも均一な厚さのニッケルめっき皮膜が得られるような、均一電着性に優れたニッケルめっき浴が求められていた。そして、そのようなめっき浴として、クエン酸やその塩を含むニッケルめっき浴が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0007】
【特許文献1】特開2001−172790号公報
【特許文献2】特開2002−212775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、均一電着性に優れ、めっきコストの低廉なニッケルめっき浴を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ニッケルめっき浴の均一電着性を向上させることについて鋭意研究を行なった。その結果、ニッケルイオン源としての塩化ニッケル及び/又は硫酸ニッケルをニッケルイオン濃度換算で1g/L〜20g/L含み、クエン酸をクエン酸・一水和物換算で50g/L〜300g/L含み、pHがアンモニアによって6.5〜10に調節されたニッケルめっき浴が優れた均一電着性を示すことを見出し、既に特許出願を行なった(特願2007−231095)。そして、さらに優れた均一電着性を有するニッケルめっき浴について、鋭意研究を行なった結果、塩化ニッケル−クエン酸ナトリウム−ホウ酸等のpH緩衝剤の系のニッケルめっき浴において、優れた均一電着性を備えためっき浴の組成範囲を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のニッケルめっき浴は、塩化ニッケル・六水和物を4g/L〜100g/L含み、クエン酸ナトリウム・二水和物を50g/L〜300g/L含み、pH緩衝剤を含まないか又は飽和濃度以下とされており、硫酸ニッケル・六水和物を含まないか又は30g/L以下とされており、pHが6.5〜10とされていることを特徴とする。
【0011】
本発明のニッケルめっき浴では、クエン酸ナトリウム・二水和物が50g/L〜300g/Lと多量に含まれており、従来のクエン酸ニッケルめっき浴(上記特許文献1に記載のクエン酸ニッケルめっき浴のクエン酸濃度は12g/L〜21g/L)と比較して、クエン酸イオンの濃度が高くされている。また、めっき浴中の塩化ニッケル・六水和物の濃度は4g/L〜100g/L(ニッケルイオン濃度換算で0.89〜22.3g/L)であり、上記特許文献1に記載されて従来のクエン酸ニッケルめっき浴中のニッケルイオン濃度や、上記特許文献2のクエン酸ニッケルめっき浴中の好適なニッケルイオン濃度範囲(15g/L〜80g/L)よりも低めとなっている。さらに、従来のワット浴等にニッケルイオン源として多量に含まれている硫酸ニッケルは30g/L以下と低くされている。また、pHが6.5〜10とされており、上記特許文献1に記載されて従来のクエン酸ニッケルめっき浴のpHが3〜5であるのに対して、高くされている。
【0012】
このように、本発明のニッケルめっき浴と、従来のクエン酸ニッケルめっき浴とは、浴組成に大きな違いがある。本発明のニッケルめっき浴に含まれているクエン酸ナトリウムの役割は、pH緩衝剤としてよりも、ニッケルイオンの錯化剤として機能していると考えられる。すなわち、従来のクエン酸ニッケルめっき浴では、クエン酸に対するニッケルイオンの濃度が高く、pHも低いため、クエン酸はニッケルイオンの錯化剤としてよりも、pH緩衝剤として添加されているといえる。これに対して、本発明のニッケルめっき浴では、ニッケルイオン濃度が低く、クエン酸の添加量が極めて多く、しかもpHが高くされているため、クエン酸がニッケルイオンの錯化剤として機能していると考えられる。このため、本発明のニッケルめっき浴では、ニッケルイオンが錯化された状態からのニッケルが析出することとなり、このことが、従来のクエン酸ニッケルめっき浴とは異なり、極めて均一電着性に優れたニッケルめっき皮膜が形成される要因となっているものと推定される。
【0013】
また、本発明のニッケルめっき浴では、pH緩衝剤を含まないか又は飽和濃度以下とされている。pH緩衝剤を含まなくてもニッケルめっきが可能なのは、クエン酸ナトリウム・二水和物がpH緩衝剤としての役割をするためであると考えられる。なお、ここでpH緩衝剤とは、ニッケルめっき表面近傍が水の電気化学的還元によって生じたOHイオンによってアルカリに移行するのを防止して、正常なニッケルめっき皮膜を得るために添加される薬剤をいう。このようなpH緩衝剤としては、めっき業界において広く用いられているものを用いることができる。例えばホウ酸、リンゴ酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、グリコール酸、グルタル酸、L−グルタミン酸、酢酸、プロピオン酸、及びそれらの塩類が挙げられる。
発明者らは、pH緩衝剤としてホウ酸を用いることにより、優れた均一電着性を有するニッケルめっきが可能となることを確認している。
【0014】
また、本発明のめっき浴では、従来のワット浴やスルファミン酸浴と同様、電気めっきによってニッケルを析出させるため、無電解ニッケルめっき浴のように、還元剤を添加する必要もない。また、補助電極や遮蔽物を設置しなくても、均一な厚みのニッケルめっき皮膜を形成することができる。このため、めっきコストも低廉なものとなる。
【0015】
なお、クエン酸ナトリウムは二水和物として加える他、無水物として加えても良いし、クエン酸を水酸化ナトリウムで中和しても良い。これらの場合には、クエン酸ナトリウム・二水和物換算で50g/L〜300g/L含まれていればよい。
【0016】
また、本発明のニッケルめっき浴では、光沢剤及び/又は応力緩和剤が添加されていることも好ましい。光沢剤が添加されれば、広い電流密度の範囲で均質な外観のニッケルめっきとすることができるため、装飾用のニッケルめっきとして用いることができる。また、応力緩和剤を添加すれば、ニッケルめっき皮膜の応力が緩和され、割れ等の異常なめっきとなることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のニッケルめっき浴はニッケル源として塩化ニッケルを用いているため、ニッケル陽極の溶解性は良好となる。塩化ニッケル・六水和物の添加量は4g/L〜100g/Lの範囲とすることを要す。塩化ニッケル・六水和物の添加量は4g/L未満では、連続してニッケルめっきを行なう場合、ニッケルイオン濃度の変動割合が大きくなり、ニッケルイオン濃度の浴管理が難しくなる。また、塩化ニッケル・六水和物の添加量が100g/Lを超えると、陽極をニッケルにした場合、塩素イオンの影響でニッケルが過剰に溶け、ニッケルイオン濃度が上昇し、やはりニッケルイオン濃度の浴管理が難しくなる。さらに好適な塩化ニッケル・六水和物の濃度範囲は、8g/L〜80g/Lである
【0018】
また、クエン酸ナトリウム・二水和物は50g/L〜300g/L含であることが好ましい。クエン酸ナトリウム・二水和物の添加量が50g/L未満の場合には、ニッケルの錯体化が進まず、均一電着性が低下する。一方、クエン酸ナトリウム・二水和物が300g/Lを超えると、溶解度の限界に近づくため、冬場等において、クエン酸が溶解しきれずに、析出するおそれがある。
【0019】
また、本発明のニッケルめっき浴では、硫酸ニッケルが六水和物換算で30g/L以下とする必要がある。本発明者らの試験結果によれば、硫酸ニッケルが六水和物換算で30g/Lを越えると、めっき被膜が黒変して異常な析出となったり、沈殿物が生じたりする。特に、塩化ニッケル・六水和物が80g以上の場合には、硫酸ニッケルが六水和物換算で30g/Lを越えると均一電着性が極端に低下する。
【0020】
また、pH緩衝剤としての役割を果たすべく、ホウ酸を添加しても良いが、本発明のめっき浴では、クエン酸イオンがpH緩衝剤としての役割を果たすため、ホウ酸をまったく添加しなくても、良好なニッケルめっき皮膜を得ることができる。
【0021】
また、本発明のニッケルめっき浴のpHは6.5〜10が好ましい。6.5未満では電流密度の小さい部分が正常なめっき皮膜ができずに、焦げたような外観となる。また、pHが10を超えるとめっき液に沈殿物が生じるという問題がある。なお、本発明のニッケルめっき浴では、電気めっきを行うとpHが若干高くなるという傾向にあるが、pHを調節するために、塩酸などの酸を用いることも可能である。
【0022】
本発明に用いられる光沢剤としては、ブチンジオール等のアセチレン誘導体、サッカリン、ヘキシンジオール等が挙げられる。また、本発明に用いられる応力緩和剤としては、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸等が挙げられる。
【0023】
本発明のニッケルめっき浴を用いてニッケルめっきを行う場合、陽極としてはニッケルを用いることが好ましい。こうであれば、めっき浴中のニッケルイオンが、ニッケル陽極から補充され、変動し難くなる。また、めっき浴の浴温は適宜選択すればよいが、30〜50℃が好ましい。50℃を超えると、液の蒸発が促進され、エネルギーの消費量も多くなり、作業環境も悪くなる。また、30℃未満では、季節によって冷却装置が必要となる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明のニッケルめっき浴を具体化した実施例について、さらに詳述する。
(実施例1)
以下に示す手順に従ってニッケルめっき浴を建浴した。すなわち、水にクエン酸ナトリウム・二水和物を200g/L、塩化ニッケル・六水和物を80g/L、ホウ酸を40g/Lとなるように添加して加温溶解し、実施例1のニッケルめっき浴とした。このめっき浴のpHは5.8であり、ニッケルイオン濃度換算で19.77g/Lのニッケルイオンが含まれている。
【0025】
(実施例2)
実施例2では、塩化ニッケル・六水和物の濃度を40g/Lとした。このめっき浴にはニッケルイオン濃度換算で9.89g/Lのニッケルイオンが含まれている。その他は実施例1のニッケルめっき浴と同じであり、説明を省略する。
【0026】
(実施例3)
実施例3ではクエン酸ナトリウム・二水和物を100g/L、塩化ニッケル・六水和物の濃度を40g/Lとした。このめっき浴にはニッケルイオン濃度換算で9.88g/Lのニッケルイオンが含まれている。その他は実施例1のニッケルめっき浴と同じであり、説明を省略する。
【0027】
(実施例4)
実施例4ではクエン酸ナトリウム・二水和物を300g/L、塩化ニッケル・六水和物の濃度を80g/Lとした。このめっき浴にはニッケルイオン濃度換算で19.77g/Lのニッケルイオンが含まれている。その他は実施例1のニッケルめっき浴と同じであり、説明を省略する。
【0028】
(実施例5)
実施例5ではクエン酸ナトリウム・二水和物を200g/L、塩化ニッケル・六水和物の濃度を60g/Lとした。このめっき浴にはニッケルイオン濃度換算で14.84g/Lのニッケルイオンが含まれている。その他は実施例1のニッケルめっき浴と同じであり、説明を省略する。
【0029】
(実施例6〜10)
実施例6〜10では下記組成のニッケルめっき液とし、硫酸ニッケル・六水和物の添加量は実施例12で1g/L、実施例13で5g/L、実施例14で10g/L、実施例15で20g/L、実施例16で30g/Lとした。
クエン酸カリウム・一水和物・200g/L
塩化ニッケル・六水和物・・・・80g/L
硫酸ニッケル・六水和物・・1〜30g/L
ホウ酸・・・・・・・・・・・・40g/L
【0030】
(実施例11〜14)
実施例11〜14では下記組成のニッケルめっき液とし、ホウ酸の添加量は実施例11で10g/L、実施例12で20g/L、実施例13で30g/L、実施例14で40gとした。
クエン酸カリウム・一水和物・200g/L
塩化ニッケル・六水和物・・・・80g/L
ホウ酸・・・・・・・・・10〜40g/L
【0031】
(実施例15)
実施例15では下記組成のニッケルめっき液とし、ホウ酸は添加量しなかった。
クエン酸カリウム・一水和物・200g/L
塩化ニッケル・六水和物・・・・40g/L
pH・・・・・・・・・・・・・・・9.0
【0032】
(実施例16)
実施例16ではpH緩衝剤としてDL−リンゴ酸を用いて、下記組成のニッケルめっき液とした。
クエン酸カリウム・一水和物・200g/L
塩化ニッケル・六水和物・・・・80g/L
DL−リンゴ酸・・・・・・・・40g/L
【0033】
(比較例1)
比較例1は下記組成のワット浴である。
硫酸ニッケル・六水和物・・240g/L
塩化ニッケル・六水和物・・・45g/L
ホウ酸・・・・・・・・・・・30g/L
pH・・・・・・・・・・ 3.38(塩基性炭酸ニッケルを加えてろ過後、希硫酸
で調整)
【0034】
(比較例2)
比較例2ではクエン酸ナトリウムの代わりにクエン酸カリウムを用い、下記組成のめっき液とした。
クエン酸カリウム・一水和物・200g/L
塩化ニッケル・六水和物・・・・80g/L
ホウ酸・・・・・・・・・・・・40g/L
pH・・・・・・・・・・ 5.5
【0035】
(比較例3)
比較例3ではクエン酸カリウム・一水和物を100g/L、塩化ニッケル・六水和物を40g/Lとした。その他については比較例2と同様であり、説明を省略する。
【0036】
(比較例4)
比較例4では下記浴組成のニッケルめっき浴であり、硫酸ニッケル・六水和物の添加量が40g/Lと多くされている。
クエン酸ナトリウム・二水和物・200g/L
塩化ニッケル・六水和物・・・・・80g/L
硫酸ニッケル・六水和物・・・・・40g/L
ホウ酸・・・・・・・・・・・・・40g/L
pH・・・・・・・・・・ 4.7
【0037】
(比較例5)
比較例5では、硫酸ニッケル・六水和物の添加量が80g/Lと、さらに多くされており、pHは4.4である。その他については比較例4と同様であり、説明を省略する
【0038】
<均一電着性の評価>
均一電着性の評価はハルセル試験で行った。すなわち、図1に示すように、断面が台形形状の四角柱容器のめっき槽1を用い、図2に示すように、互いに非平行で対面する面2、面3のうち、幅が短い面2に接するようにニッケル陽極板4を挿入し、幅が長い面3に接するように黄銅板5を挿入する。黄銅板5は100mm×65mm、ニッケル陽極板4は63.5mmである。また、めっき槽1の互いに平行で対面する面の短辺側の幅Xは47.6mm、長辺側の幅Yは127mmである、深さDは63.5mmである。めっき槽1にめっき浴を267mL入れた。めっき用電源として、定電流電源6を用意し、陽極側をニッケル陽極板4に接続し、陰極側を黄銅板5に接続した。
【0039】
ハルセル試験では、めっき槽1にニッケルめっき浴を267mL入れ、図示しない電気ヒータ及び温度調節装置により、浴温度を50℃とし、所定の定電流により所定の時間電気めっきを行った。そして、蛍光X線膜厚計によってめっき皮膜の膜厚を測定した。測定箇所は、図2に示すA地点、B地点及びC地点の3箇所(端からの距離OA=5mm、OB=20mm、OC=81mm)とし、(B地点の膜厚)/(C地点の膜厚)及び(A地点の膜厚)/(C地点の膜厚)の値で、均一電着性を評価した。ハルセル試験においては、陽極と陰極との距離が短いほど電流密度が大きくなり、(B地点の膜厚)/(C地点の膜厚)及び(A地点の膜厚)/(C地点の膜厚)の値が1に近いほど均一電着性が良いことになる。ハルセル試験において、陰極側の黄銅板5の各地点からニッケル陽極板4までの距離をLとした場合、その地点での過電圧を考慮しない理論的な電流密度iは、全体の電流をIとした場合、
i=I(5.10−5.24logL)
で計算することができる。こうして計算された各地点の電流密度は、定電流が3AにおいてA地点で20.0A/dm2、B地点で10.5A/dm2、C地点で1.0A/dm2となる。
【0040】
<結 果>
実施例1のニッケルめっき浴について、めっき時間を変えて行なったハルセル試験の結果を表1に示す。
【表1】

【0041】
結果を表1に示す。この表から、実施例1では、ワット浴を用いた比較例1と比較して、B/C及びA/Cの値が1に近く、均一電着性が極めて優れていることが分かる。また、実施例1のニッケルめっき浴では、めっき時間を長くすることにより厚さも厚くなり、10μm以上の厚めっきも可能であることが分かった。
【0042】
また、実施例1のニッケルめっき浴を用いて、ハルセル試験(3A、3分間)を連続して10回行なった。その結果、表2に示すように、優れた均一電着性が安定して得られ、膜厚も安定していた。
【表2】

【0043】
また、実施例1〜5及び比較例1のニッケルめっき液について3A(比較例1では2A)、40分間(ただしの実施例1では3分間、実施例5では20分間、比較例1では3分間)のハルセル試験を行なった。その結果、表3に示すように、実施例1〜5のニッケルめっき浴では、比較例1のワット浴と比較して、遥かに優れた均一電着性が示された。その中でも、クエン酸ナトリウム・二水和物を200g/Lとした実施例1,2,5及び300g/Lとした実施例4,は、クエン酸ナトリウム・二水和物を100g/Lと少なくした実施例3よりも優れた均一電着性を示した。
【表3】

【0044】
また、比較例2及び比較例3のニッケルめっき液について3A、10分間のハルセル試験を行なった。その結果、表4に示すように、均一電着性は良好であったが、電流密度の大きな部分では正常なめっきが形成されず、析出物が剥がれ落ちた。このことから、クエン酸ナトリウムの替わりにクエン酸カリウムを用いることはできないことが分かった。
【表4】

【0045】
さらに、比較例4及び比較例5のニッケルめっき液について3A、10分間のハルセル試験を行なった。その結果、表5に示すように均一電着性は悪い結果となり、硫酸ニッケル・六水和物の添加量を多くすると、均一電着性が悪くなることが分かった。めっき液に沈殿物が生じるという問題も生じた。
【表5】

【0046】
一方、クエン酸ナトリウム・二水和物200g/L、塩化ニッケル・六水和物を40g/L、ホウ酸40g/Lとし、硫酸ニッケル・六水和物を1〜30g/Lの範囲で変化させて、その影響をみた実施例6〜10の結果を表6に示す。この表から、上記比較例4,5の場合と比較して、塩化ニッケル・六水和物の添加量が40g/Lと少ない場合には、硫酸ニッケル・六水和物の添加量が30g/L以下であれば、良好な均一電着性が得られることが分かった。
【表6】

【0047】
また、クエン酸ナトリウム・二水和物200g/L、塩化ニッケル・六水和物を80g/Lとし、ホウ酸を10〜30g/Lの範囲で変化させて、その影響をみた実施例11〜14の結果を表7に示す。この表から、ホウ酸が10〜30g/Lの範囲であれば、良好な均一電着性が得られることが分かった。
【表7】

【0048】
さらにホウ酸を添加しなかった実施例15においても、表8に示すように、良好な均一電着性を示した。これは、本発明のニッケルめっき液が、クエン酸ナトリウムを多量に添加されているため、このクエン酸ナトリウムによる緩衝作用が、ホウ酸の緩衝作用の代替としての役割を果たしているためと推定される。
【表8】

【0049】
また、pH緩衝剤としてDL−リンゴ酸を用いた実施例16においても、表9に示すように、良好な均一電着性が得られた。
【表9】

【0050】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、深絞りのプレス成形品等のように、特に均一電着性の要求されるニッケルめっきに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】ハルセルの斜視図である。
【図2】ハルセルを定電流電源に接続した状態での平面図である。
【符号の説明】
【0053】
1…めっき槽
4…ニッケル陽極板
5…黄銅板
6…定電流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ニッケル・六水和物を4g/L〜100g/L含み、クエン酸ナトリウム・二水和物を50g/L〜300g/L含み、pH緩衝剤を含まないか又は飽和濃度以下とされており、硫酸ニッケル・六水和物を含まないか又は30g/L以下とされており、pHが6.5〜10とされていることを特徴とするニッケルめっき浴。
【請求項2】
前記pH緩衝剤はホウ酸であることを特徴とする請求項1記載のニッケルめっき浴。
【請求項3】
塩化ニッケル・六水和物の濃度は8g/L〜80g/Lの範囲であることを特徴とする請求項1又は2記載のニッケルめっき浴。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−31329(P2010−31329A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195951(P2008−195951)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人 中小企業基盤整備機構の委託事業、戦略的基盤技術高度化支援事業『次世代防錆めっきシステムの開発』、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(507300216)太陽電化工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】