説明

ニッケル・金属水素化物電池

【課題】高率放電時のセパレータに起因する電池の分極の増大を抑制し、放電電圧の低下、電池の出力の低下を抑制する。
【解決手段】親水性を有するポリオレフィン製不織布セパレータを備え、前記セパレータが正極板と負極板とによって圧迫された状態で電池ケース収納されたニッケル・金属水素化物電池であって、前記正極板と前記負極板とによって圧迫された状態の前記セパレータにおける孔径40μm以下の空孔の累積空孔体積が全空孔体積に対し10〜30パーセントであるものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル・金属水素化物電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水酸化ニッケルを主体とする正極と水素吸蔵合金を主体とする負極を備えたニッケル・金属水素化物電池は、エネルギー密度が高く、高率放電性能に優れることから、携帯機器や電気自動車用などの電源として商用されている。一般的なニッケル・金属水素化物電池の構成では、正極と負極の間に不織布製のセパレータが配置されている。セパレータの材質としては耐アルカリ性に優れたポリオレフィン樹脂に親水化処理を施したものが好適である。このような親水化ポリオレフィン製不織布をセパレータとして用いると、正極と負極とを電気的に絶縁して内部短絡を防止するとともに、不織布の繊維間の空孔に電解液が保持されて、充放電反応を進行させることができる。繊維間の空孔は、その孔径が小さくなるほど電解液の保持力が高くなり、セパレータ内の液枯れを防止することができる。しかしながら、特に電池を高率で放電した場合には、正極と負極との間に介在したセパレータが電池の分極を増大させて放電電圧が下がり、電池の出力が低下することがあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、従来の技術においては、セパレータによって電池の分極が増大するという問題があった。今後、ニッケル・金属水素化物電池の出力を向上させるには、不織布セパレータに起因する分極を抑制しなければならない。そこで本発明は、セパレータによる電池の分極を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明では、上述の課題を解決するために、アクリル酸グラフト重合処理またはフッ素ガス処理の内の少なくとも一つの方法によって親水化処理を施したポリオレフィン製不織布セパレータを備えるニッケル・金属水素化物電池であって、前記セパレータにおける孔径40μm以下の空孔の累積空孔体積が全空孔体積に対し10〜30パーセントであることを特徴とするニッケル・金属水素化物電池を提供する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によればセパレータによる電池の分極を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】水銀圧入法により測定したセパレータ中の孔径分布を示す図である。
【図2】ニッケル・金属水素化物電池の放電容量の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のニッケル・金属水素化物電池は、アクリル酸グラフト重合処理またはフッ素ガス処理の内の少なくとも一つの方法によって親水化処理を施したポリオレフィン製不織布セパレータを備えるニッケル・金属水素化物電池であって、前記セパレータにおける孔径40μm以下の空孔の累積空孔体積が全空孔体積に対し10〜30パーセントであることを特徴とするものであって、セパレータとしてこのようなものを用いることによって、サイクル寿命性能を低下させることなく、アルカリ蓄電池の高率放電時の出力を向上させることができる。
【0008】
その理由については種々考えられるが、概ね次のように説明できる。すなわち、充放電反応の際には正極と負極との間のイオン移動が不可欠であるが、それは一般的なアルカリ蓄電池においては、不織布セパレータの空孔に保持された電解液を通じて行われる。不織布内に細孔が数多く存在すると、正極と負極の間の電解液の経路が長くなり、イオン移動が困難になって、分極が大きくなると考えられる。また、電解液の経路が長くなると正極と負極の間の電気抵抗が増大し、これも分極を大きくする要因になると考えられる。
【0009】
ニッケル・金属水素化物電池内の不織布においては、孔径40μm以下の累積空孔体積を全空孔体積に対し30パーセント以下になるように設定すると、高率放電時においても充分にイオン移動ができ、分極の増大を抑制することができる。また、孔径40μm以下の累積空孔体積を全空孔体積に対し10パーセント以上になるように設定すると、充放電サイクルを繰り返した後も、細孔が充分な電解液を保持することから、液枯れに起因する内部抵抗上昇を抑制することができると考えられる。なお、本発明で言う孔径とは、水銀圧入法により算出される孔径である。
【0010】
本セパレータの材料としては、繊維径が10〜30μmの範囲にあるポリオレフィン繊維を用いるのが、上述の孔径分布を有する不織布の製造に好適であるので好ましい。また、不織布の構成としては、目付重量45〜75g/m2厚さ130〜200μmの不織布とすると、充分な通気性が得られ、かつ内部短絡が防止できるので好適である。また、ニッケル・金属水素化物電池のセパレータの材質としてポリオレフィン樹脂を用いる際は、親水化処理をおこなうことが必要であり、この手段としてアクリル酸グラフト重合処理やフッ素ガス処理をおこなうことが、耐久性および経済性に優れているという理由で好適である。
【実施例】
【0011】
本発明を実施例によって説明する。正極は次の方法で作製した。すなわち、ニッケル、コバルトおよび亜鉛を共沈して得られた水酸化ニッケル粉末に対し、金属コバルト粉末およびメチルセルロース水溶液を加えて混練し、ペーストにした。そして、ペーストを発泡状ニッケル多孔体に充填、プレス、乾燥し、所定のサイズに切断して正極板を得た。負極は次の方法で作製した。すなわち、ミッシュメタル(以後Mmと表記する。主要成分は、La:約45重量%、Ce:約5重量%、Pr:約10重量%、Nd:約40重量%)、Ni、Co、MnおよびAlの金属材料を所望の組成となるように高周波誘導炉にて融解し、金型に鋳込んで凝固させた。得られた合金の組成は、MmNi3.6Co0.8Al0.4Mn0.2である。合金塊表面の酸化物層は研磨して除去した。その後、合金塊を粉砕し、ふるい分けて、平均粒径が数十μmの水素吸蔵合金粉末とした。この水素吸蔵合金粉末と金属ニッケル粉末およびポリビニルアルコール水溶液とを混練し、ペーストにした。そして、このペーストをニッケルメッキした穿孔鋼板に塗着、乾燥、プレスし、所定のサイズに切断して負極板を得た。
【0012】
(実施例電池1)セパレータは、平均繊維径約20μmのポリオレフィン繊維からなる不織布に対しアクリル酸グラフト重合にて親水化処理したものを用いた。ここで、アクリル酸グラフト重合は、アクリル酸(ビニルモノマー)および重合開始剤の水溶液に不織布を浸漬し、窒素雰囲気中で紫外線を照射することによりおこなった。得られたセパレータの厚さは約0.18mm、目付は約65g/m2である。セパレータにて包んだ正極板3枚と負極板4枚とを交互に積層して、エレメントを構成した。ニッケルメッキした鉄製の電池ケース(高さ67mm、幅17mm、厚さ5.6mm)にこのエレメントを挿入し、6mol/lのKOH水溶液を注液して、密閉型電池とした。次いで、数回の充放電からなる化成をおこなった。
【0013】
(実施例電池2)セパレータは、平均繊維径約10μmのポリオレフィン繊維からなる不織布に対しアクリル酸グラフト重合にて親水化処理をおこなったものを用いた。得られたセパレータの厚さおよび目付は、実施例電池1とほぼ同じである。セパレータの他は、実施例電池1と同様に電池を構成し、化成充放電をおこなった。
【0014】
(実施例電池3)セパレータは、実施例電池1と同様の不織布に対しフッ素ガスにて親水化処理をおこなったものを用いた。ここで、フッ素ガスの処理は、フッ素ガスと酸素ガスの混合気中に不織布を放置することによりおこなった。セパレータの他は、実施例電池1と同様に電池を構成し、化成充放電をおこなった。
【0015】
(比較例電池1)セパレータは、平均繊維径約50μmのポリオレフィン繊維からなる不織布に対しアクリル酸グラフト重合にて親水化処理をおこなったものを用いた。セパレータの他は、実施例電池1と同様に電池を構成し、化成充放電をおこなった。
【0016】
(比較例電池2)セパレータは、平均繊維径約5μmのポリオレフィン繊維からなる不織布に対しアクリル酸グラフト重合にて親水化処理をおこなったものを用いた。セパレータの他は、実施例電池1と同様に電池を構成し、化成充放電をおこなった。
【0017】
(比較例電池3)セパレータは、本発明電池1と同様の不織布を、ノニオン系界面活性剤の水溶液に浸漬して親水化処理をおこなったものを用いた。セパレータの他は、実施例電池1と同様に電池を構成し、化成充放電をおこなった。
【0018】
セパレータの孔径分布は、次のようにして測定した。まず、電池内におけるセパレータの孔径分布を再現するため、セパレータを2枚の樹脂板ではさみ圧迫を加えた。圧迫度は、完備電池において、セパレータが極板から受ける圧迫と同程度に設定してある。そして、このように圧迫を加えた状態のセパレータについて、水銀圧入式の孔径分布測定装置(島津ポアサイザー9310)にて、孔径分布を測定した。
【0019】
結果を図1に示す。実施例電池1では、孔径40μm以下の累積空孔体積が全空孔体積に対し約12%であり、実施例電池2では、孔径40μm以下の累積空孔体積が全空孔体積に対し約26%であった。また、図には示していないが、実施例電池1と実施例電池3と比較例電池3とは、いずれも同じ基布のセパレータを用いているため、ほぼ同じ孔径分布を示した。
【0020】
電池の放電出力特性は、次のようにして測定した。すなわち、化成終了後の電池について、1サイクル目は、1CmA(1000mA)にて66分間充電し、30分間休止した後、0.2CmA(200mA)にて1.0Vまで放電をおこない、低率放電時の放電中間電圧を求めた。そして、2サイクル目は、1サイクル目と同様に、充電および休止をおこなった後、3CmA(3000mA)にて電圧が1.0Vになるまで放電をおこない、高率放電時の放電中間電圧を求めた。なお、充放電試験時の雰囲気温度は25℃である。0.2CmA放電時および3CmA放電時の放電中間電圧を下記表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
比較例電池2では、高率放電時の放電中間電圧が低かったが、これは比較例電池2のセパレータにおいては、孔径の小さい空孔が多く、セパレータ中のイオン移動が低下したこと等が影響していると考えられる。
【0023】
電池のサイクル寿命は、次のようにして測定した。まず、高率放電試験をおこなった電池について、0.2CmAにて1.0Vまで残存放電した。そして、1CmAにて66分間充電し、1CmAにて1.0Vまで放電するという条件で充放電サイクルをおこなった。放電容量は、100サイクルごとに、1CmAにて66分間充電し、0.2CmAにて1.0Vまで放電するという条件で確認した。
【0024】
図2に、放電容量の推移を示す。実施例電池1〜3に比べて、比較例電池1の寿命が短かかったが、これは比較例電池1のセパレータにおいては、孔径の大きい空孔が多く、セパレータ中の電解液が減少しやすかったこと等が影響していると考えられる。また、比較例電池3は著しく寿命が短かった。これは、界面活性剤による親水化の効果が長続きしなかったためと考えられ、ポリオレフィン製不織布を親水化するには耐久性に優れたアクリル酸グラフト処理またはフッ素処理が好適であることがわかる。
【0025】
なお、上記の実施例では、特定の径の繊維からなる不織布を例にして示したが、どのような繊維径の繊維を用いても、セパレータの孔径分布が、本願請求項1にて示される範囲になるのであれば、同様の効果が得られる。また、上記の実施例では、化成後の電池内におけるセパレータの孔径分布を例に示したが、充放電サイクルが進行した後の電池内においても、セパレータの孔径分布が、本請求項にて示される範囲になるのであれば、同様の効果が得られる。また、電池は充電状態であっても構わないし、放電状態であっても構わない。
【0026】
不織布の製造方法は、湿式、乾式、メルトブロー等何であっても構わない。また、上記の実施例では、親水化処理の方法について具体的な例を挙げて示したが、アクリル酸グラフト重合の条件およびフッ素ガス処理の条件については、適宜変更することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性を有するポリオレフィン製不織布セパレータを備え、前記セパレータが正極板と負極板とによって圧迫された状態で電池ケース収納されたニッケル・金属水素化物電池であって、前記正極板と前記負極板とによって圧迫された状態の前記セパレータにおける孔径40μm以下の空孔の累積空孔体積が全空孔体積に対し10〜30パーセントであることを特徴とするニッケル・金属水素化物電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−23358(P2011−23358A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194699(P2010−194699)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【分割の表示】特願平11−150240の分割
【原出願日】平成11年5月28日(1999.5.28)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】