説明

ニッケル水素蓄電池

【課題】正極1と、負極2と、正極1及び負極2の間に配置されるセパレータ3aとを備えるニッケル水素蓄電池において、サイクル進行後の保存特性を改善する。
【解決手段】負極2がその片面においてのみ正極1と対向している領域において、セパレータ3a及び3bの目付を他の領域よりも大きくすることを特徴としており、例えば正極1、セパレータ3a及び負極2がスパイラル状に巻き付けられたニッケル水素蓄電池においては、その最外周において、セパレータ3aの上にセパレータ3bを重ねて用いることにより、セパレータの目付を大きくすることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ニッケル水素蓄電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の密閉型ニッケル水素蓄電池は、密閉型ニッケルカドミウム蓄電池に比べ、高温保存時の自己放電が大きいことが知られている。
【0003】
このような保存特性を改善するため、特開昭62−115657号公報においては、正極と負極の間に設けられるセパレータとして、スルホン化したオレフィン系樹脂からなるセパレータを用いることが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、スルホン化したオレフィン系樹脂からなるセパレータを用いることにより、サイクル初期における保存特性は改善されるものの、充放電サイクルが進行した後の保存特性が不充分であるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、サイクル進行後の保存特性を改善することができるニッケル水素蓄電池を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のニッケル水素蓄電池は、正極と、負極と、正極及び負極の間に配置されるセパレータとを備え、負極がその片面においてのみ正極と対向している領域において、セパレータの目付を他の領域よりも大きくしたことを特徴としている。本発明において目付とは単位面積当たりの重量のことである。
【0007】
本発明者は、サイクル進行後の保存特性が悪くなる原因について検討した結果、負極がその片面においてのみ正極と対向している領域において、負極から溶出したコバルト等の化合物がセパレータに局部的に多量に析出し、このためセパレータの絶縁性が低下することが原因であることを見出した。本発明では、このような領域におけるセパレータの目付を他の領域よりも大きくすることにより、セパレータにおける絶縁性の低下を防止し、これによって保存特性を改善させている。
【0008】
正極、セパレータ、及び負極が、負極を外側に位置させてスパイラル状に巻き付けられた、スパイラル構造を有するニッケル水素蓄電池においては、その最外周において、セパレータの目付を大きくすることが好ましい。
【0009】
最も外側に位置する電極が負極となるように、正極、セパレータ、及び負極が積層された電極積層タイプのニッケル水素蓄電池の場合には、最も外側に位置する負極及びこれと対向する正極の間で、セパレータの目付を大きくすることが好ましい。
【0010】
本発明において、セパレータの目付を他の領域よりも大きくする方法としては、この領域においてのみセパレータを複数積み重ねて用いる方法が挙げられる。また、他の方法としては、この領域においてのみ厚みを厚くしたセパレータを用いる方法が挙げられる。
【0011】
セパレータが占める厚みを厚くすることにより、正極と負極の間の距離を長くすることができ、セパレータにコバルト等の化合物が析出しても、セパレータの絶縁性が低下するのを抑制することができる。
【0012】
また、セパレータの目付を大きくする他の方法としては、セパレータのこの領域における空隙率を小さくし、セパレータの素材が占める空間占有率を高めたセパレータを用いる方法が挙げられる。空隙率を小さくすることにより、コバルト等の化合物の析出を防ぎ、セパレータの絶縁性が低下するのを抑制できる。
【0013】
本発明によれば、ニッケル水素蓄電池において、サイクル進行後の保存特性を改善することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、サイクル進行後の保存特性が悪くなる原因について見出した実験について説明する。
【0015】
〔負極の作製〕
組成式MmNi3.2Co1.0Al0.6Mn0.2(ここで、Mmは、La:Ce:Pr:Nd=25:50:6:19(重量比)からなるミッシュメタルである。)で表される水素吸蔵合金粒子(平均粒子径50μm)100重量部に、結着剤としてのPEO(ポリエチレンオキシド)1.0重量部と少量の水を加え、均一に混合してペーストを調製し、このペーストをニッケルめっきしたパンチングメタル(集電体)の両面に均一に塗布し、乾燥し、圧延して、水素吸蔵合金電極を作製した。
【0016】
〔正極の作製〕
まず、多孔度85%のニッケル焼結基板に、硝酸コバルトと硝酸亜鉛を加えた硝酸ニッケル水溶液を化学含浸法により含浸させて、正極活物質を充填した。この後、これを3重量%の硝酸イットリウム水溶液に浸漬させた後、80℃の25重量%NaOH水溶液中に浸漬させて、ニッケル焼結基板に充填された活物質の上に水酸化イットリウムの被覆層を形成し、ニッケル正極を作製した。この時の水酸化イットリウムの量は、活物質と合わせた全充填量に対し約3重量%であった。
【0017】
〔ニッケル水素蓄電池の作製〕
上記の負極と正極を使用し、またセパレータとして、スルホン化したポリオレフィン樹脂製の不織布を用いて、正極、セパレータ、及び負極をスパイラル状に巻き付けた渦巻き電極体を作製し、この渦巻き電極体を電池缶内に挿入し、30重量%水酸化カリウム水溶液を電池缶内に注入し、その後封口して、容量約1000mAhの円筒密閉型のニッケル水素蓄電池を作製した。
【0018】
〔ニッケル水素蓄電池の活性化〕
上記のニッケル水素蓄電池を、25℃の温度条件下で、100mAで15時間充電した後、1000mAで1.0Vまで放電させ、これを1サイクルとして、5サイクルの充放電を繰り返して、活性化させた。
【0019】
以上のようにして得られたニッケル水素蓄電池について、活性化直後及び2万サイクル後の保存特性の測定を行った。サイクル条件及び保存特性の測定条件は以下の通りである。
【0020】
(サイクル試験条件)
1000mAにて、400mAh(充電深度40%)まで充電した。その後、10Aにて200mAh充電した後、200mAh放電を行い、この10Aでの充放電を1サイクルとして、サイクルを繰り返した。但し、充電効率は、放電効率と比較して低いため、最初の充電で達成した充電深度は、サイクルとともに低下する。そこで、1000サイクル毎に、電池電圧が1Vとなるまで放電し、再び400mAh(充電深度40%)まで充電するという充電深度調整を実施した後、再び10Aでのサイクルを繰り返した。
【0021】
(保存特性の測定)
上記のサイクル試験前及びサイクル試験後の各電池について、以下のようにして保存特性を測定した。
【0022】
25℃にて500mAで1.6時間充電させた後、500mAで1.0Vまで放電させた。その後、再度25℃にて500mAで1.6時間充電させた後、45℃雰囲気中に7日間放置し、その後25℃にて500mAで1.0Vまで放電させた。45℃雰囲気中の放置前後の放電容量について、以下の式のように容量維持率を定義し、この容量維持率を比較することによって、電池の保存特性を評価した。
【0023】
容量維持率=(45℃雰囲気中放置後放電容量)/(45℃雰囲気中放置前放電容量)
サイクル前及びサイクル後の各電池の保存特性(容量維持率)を表1に示す。
【0024】
【表1】



【0025】
表1に示す結果から明らかなように、サイクル後の容量維持率は、サイクル前に比べ急激に低下している。従って、サイクルの進行により、保存特性が著しく悪くなることがわかる。
【0026】
上記の原因を調べるため、サイクル前後のセパレータの観察を行った。サイクル前及びサイクル後のいずれのセパレータにおいても、黒茶色の析出物が存在していたが、サイクル前においては、その析出物がほぼ均一に存在していたのに対し、サイクル後においては、渦巻き電極体の内部(以下、「巻き内部」という)のセパレータ部分に比べ、最外周のセパレータ部分に、多量の析出物が存在していることが目視で確認された。そこで、以下のセパレータの各部分について、Co(コバルト)の蛍光X線測定を行った。
【0027】
・サイクル前:巻きの内部(負極が両面において正極と対向している部分)
・サイクル前:最外周負極とそれに対向する正極との間の部分(負極が片面においてのみ正極と対向している部分)
・サイクル後:巻きの内部(負極が両面において正極と対向している部分)
・サイクル後:最外周負極とそれに対向する正極との間の部分(負極が片面においてのみ正極と対向している部分)
測定結果を表2に示す。この測定では、数値が高いほどコバルトの存在量が多い。
【0028】
【表2】



【0029】
表2に示す結果から明らかなように、最外周負極とそれに対向する正極との間の部分において、多量のコバルトがセパレータに付着していることが確認された。このコバルトは、サイクル進行とともに、アルカリ電解液によって負極の合金が酸化され、合金から溶出したものであると考えられる。この溶出したコバルトが、セパレータの上に析出することにより、多量のコバルトが付着し、セパレータの絶縁性が低下することによって、保存特性が悪くなっていたものと考えられる。
【0030】
負極がその片面においてのみ正極と対向している領域において、多量のコバルトが付着する理由は、以下の通りであると考えられる。負極がその両面において正極と対向している領域においては、負極の両面でコバルトが析出するため、析出物も両面に分散すると考えられる。これに対し、負極がその片面においてのみ正極と対向している部分では、合金の溶出は他の部分と同様に起こるが、充放電反応は片面でのみ起こるため、この部分に析出物が集中すると考えられる。
【0031】
析出物によるセパレータの絶縁性低下を防ぐためには、セパレータの目付を大きくするとよい。例えば、セパレータの厚みを大きくすることによって、正極と負極の間の距離を長くするか、あるいはセパレータ素材の空間占有率を大きくすることによって析出物が付着しにくくすることが考えられる。
【0032】
本発明においては、負極がその片面においてのみ正極と対向している領域において、セパレータの目付を他の領域よりも大きくしているので、電池全体においてセパレータの目付を大きくする場合に比べ、電池内における活物質量の減少により容量等を低下させることがない。また、電池全体においてセパレータのガスの透過性が悪くなることもないので、電池の内圧上昇も抑制することができる。従って、本発明によれば、電池特性を大幅に低下させることなく、保存特性を改善することができる。
【0033】
(実施例1)
図1は、本発明に従う一実施例のニッケル水素蓄電池における正極、負極、及びセパレータの状態を示す断面図である。本実施例においては、図1に示すように、正極1、セパレータ3a、及び負極2が、スパイラル状に巻き付けられており、負極2が外側に位置するように巻き付けられている。負極2は、最外周において、その片面においてのみ正極1と対向している。そして、この領域において、セパレータ3aの上に、別のセパレータ3bが重ねられており、セパレータが二重に配置されている。このため、最外周において、セパレータ3a及び3bが占める厚みは、他の領域よりも大きくなっており、目付も同様に他の領域より大きくなっている。
【0034】
従って、本実施例によれば、最外周におけるセパレータ3a及び3bへのコバルト等の化合物の析出による絶縁性の低下を抑制することができ、サイクル進行後の保存特性を改善することができる。
【0035】
(実施例2)
図2は、本発明に従う他の実施例のニッケル水素蓄電池における正極、負極、及びセパレータの状態を示す断面図である。図2に示すように、本実施例では、正極1、負極2、及びセパレータ3aが積層されている。最も外側に位置する電極は、負極2となるように積層されている。また、最も外側に位置する負極2とこれと対向する正極1との間には、セパレータ3aの上に、さらに別のセパレータ3bが重ねられており、セパレータが占める厚みが他の領域に比べ大きくなるようにされている。
【0036】
従って、負極2がその片面においてのみ正極1と対向する領域において、セパレータ3a及び3bの占める厚みが大きくなっており、目付が大きくなっている。これにより、セパレータに析出するコバルト等の化合物によりセパレータの絶縁性が低下するのを抑制することができる。従って、サイクル進行後の保存特性を改善することができる。
【0037】
上記各実施例においては、セパレータの目付を高めるためセパレータが占める厚みを大きくする方法として、セパレータを2枚積み重ねて用いる方法を示したが、積み重ねるセパレータは例えば3枚以上としてもよい。
【0038】
また、セパレータの目付を高めるためセパレータが占める厚みを厚くする方法としては、セパレータを複数積み重ねる方法に代えて、セパレータ自体の厚みを厚くしてもよい。
【0039】
さらには、セパレータの目付を高める方法として、セパレータの素材の占める空間占有率を大きくする方法を採用してもよい。例えば、セパレータの空隙率を小さくし、素材の存在密度を高めることによって、セパレータの目付を大きくしてもよい。
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、サイクル進行後の保存特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に従う一実施例のニッケル水素蓄電池における正極、負極、及びセパレータの状態を示す断面図。
【図2】本発明に従う他の実施例のニッケル水素蓄電池における正極、負極、及びセパレータの状態を示す断面図。
【符号の説明】
1…正極
2…負極
3a,3b…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、正極及び負極の間に配置されるセパレータとを備えるニッケル水素蓄電池であって、
前記負極がその片面においてのみ前記正極と対向している領域において、前記セパレータの目付を他の領域よりも大きくしたことを特徴とするニッケル水素蓄電池。
【請求項2】
前記正極、前記セパレータ、及び前記負極が、前記負極を外側に位置させてスパイラル状に巻き付けられており、その最外周において、前記セパレータの目付を大きくしたことを特徴とする請求項1に記載のニッケル水素蓄電池。
【請求項3】
最も外側に位置する電極が負極となるように、前記正極、前記セパレータ、及び前記負極が積層されており、最も外側に位置する負極及びこれと対向する正極の間で、前記セパレータの目付を大きくしたことを特徴とする請求項1に記載のニッケル水素蓄電池。
【請求項4】
セパレータを複数積み重ねて用いることにより、前記セパレータの目付を大きくしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のニッケル水素蓄電池。
【請求項5】
前記負極がコバルトを含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のニッケル水素蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2004−71497(P2004−71497A)
【公開日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−232704(P2002−232704)
【出願日】平成14年8月9日(2002.8.9)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】