説明

ニットウエアの編成方法

【課題】 前身頃と後身頃とが非対称でかつ袖を有するニットウエアを横編機によって無縫製で簡単に編成する方法を提供する。
【解決手段】 前身頃12および後身頃18のうち、幅広の方の身頃を対称軸線で山折りに折り返した2層の外編地とし、幅狭の方の身頃を谷折りに折り返した2層の内編地とする。山折り部30および谷折り部32を針床の左右方向の一方側に配置し、前身頃12と後身頃18との身幅方向両端部28を他方側で重なるように配置する。身頃の袖ぐり部20に連結する両袖16は身頃から離反する方向に延在されることになる。編地の配置は針床に前後方向に対称で、かつ最大層数が4層の編地が重なるように配置できるので、公知の針抜き編成を用いて容易に編成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機を用いて袖付きのニットウエアを無縫製で編成する編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本件出願人は、横編機を用いてニットウエアを無縫製で編成する方法を種々提案している。筒状の編地を無縫製で編成するには、少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用い、前身頃は前針床の針、後身頃は後針床の針に付属させ、これら前後の編地に周回で給糸して前後の編地を両端で連続させる編成方法を用いる。さらに、この方法に組み合わせて、いわゆる針抜き編成によって筒状の編地をリブ編みで編成したり(たとえば、特許文献1参照)、複数の編地の接合や伏せ目をしたり(たとえば、特許文献2参照)、編成途中で新規の編み出しを開始したり(たとえば、特許文献3参照)など、種々の編成を行うことができる。
【0003】
しかし、たとえば、胸幅を背幅より幅広にしたデザインや、後身頃にダーツを入れて絞ったデザインといった前身頃と後身頃が非対称なデザインのニットウエアを無縫製で編成するのは、技術的に困難である。その理由は、前針床で編成する前編地と後針床で編成する後編地との編幅が異なると、前後の編地の境界である編地の端で編針に係止されない部分が生じて編目が間延びしてしまうからである。また、編成途中で前後の編幅に差が生じてから、幅広側の編地の端部を対向する針床へ移動して前後の編幅を揃えると、捻れ目が生じて、編成された編地の外観が損なわれるからである。
【0004】
本件出願人は、これまで、前後非対称なニットウエアで捻れ目を生じさせることのない編成方法を開示している(たとえば、特許文献4,5参照)。特許文献4に開示する技術では、予め捻った状態で編目を形成することによって、前後の編幅を揃えるために対向する針床に移動したときに捻れが解消するようにしている。また、特許文献5に開示する技術では、互いに身幅が異なる前身頃および後身頃を両端で連結して編成するときに、前後の身頃を連結する境界線が編幅の側端部に位置するように、一方の針床から他方の針床へと編地を左右交互に回し込ませてから編成している。
【0005】
【特許文献1】特開平3−75656号公報
【特許文献2】特開平8−158209号公報
【特許文献3】国際公開第WO2002/101133号パンフレット
【特許文献4】特開平5−9851号公報
【特許文献5】特開2006−188776号公報
【特許文献6】国際出願PCT/JP2006/314669号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献4,5に示される技術によれば捻れ目の問題は解消するものの、編成が複雑化する。また、前身頃と後身頃とをそれぞれ異なる給糸口を使用して編成する場合には、一方の編地を編成するための給糸口が他方の編地の編幅内に停止することになるので、他方の編地を編成するときに、一方の編地用の給糸口から編針に延びる編糸を編み込まないように手当てする必要も生じる。
【0007】
本件出願人は、前後非対称なニットウエアをより簡単に編成する方法について提案している(特許文献6参照)。特許文献6の編成方法では、前身頃および後身頃のそれぞれを左右対称に分割する対称軸線を針床における編幅の両側端部に位置させて編地の編成を行う。前後の身頃の連結部分は編幅の中央付近に位置することになる。この方法によれば、前身頃と後身頃とが非対称にデザインされたニットウエアであっても、前後の針床に対称形で配置して編成されるので、特許文献4,5に記載される従来の技術のように、一方の針床での編成時に他方の針床での編成を考慮して編成する必要はなくなる。しかし、この技術で容易に編成できるものは、タンクトップおよびキャミソールなどのノースリーブのウエアに限られ、袖付きのニットウエアを編成することは困難である。
【0008】
本発明の目的は、前身頃と後身頃とが非対称でかつ袖を有するニットウエアを横編機によって無縫製で簡単に編成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(a)少なくとも前後一対の針床を備え、前後の針床間での目移しおよびラッキングが可能な横編機を用いて、前身頃と後身頃とが非対称でかつ左右の袖を有するニットウエアを無縫製で編成するニットウエアの編成方法であって、
(b)前記前身頃および後身頃のうち身幅の大きい一方の身頃は、この一方の身頃を左右対称に分割するように山折りして2層に折り返した状態で、
(b1)前記山折りによって形成される山折り部が、各針床における前記一方の身頃の編地の一側端に配置され、
(b2)前記一方の身頃の身幅方向両端部が、各針床における前記一方の身頃の編地の他側端に配置されて編成され、
(c)前記前身頃および後身頃のうち身幅の小さい他方の身頃は、この他方の身頃を左右対称に分割するように谷折りして2層に折り返した状態で、
(c1)前記他方の身頃の各層が、各針床における前記一方の身頃の前記2層を成す編地の内側に配置され、
(c2)前記谷折りによって形成される谷折り部が、前記一方の身頃の編地の前記一側端側に配置され、
(c3)前記他方の身頃の身幅方向両端部が、前記一方の身頃の編地の他側端側に配置され、この他方の身頃の身幅方向両端部のうち、前記一方の身頃の身幅方向両端部に連なる領域が、各針床における前記一方の身頃の身幅方向両端部の編地に、前後方向にほぼ対向して配置されて編成され、
(d)前記左右の袖は、前後方向にそれぞれ2層の編地が重なった状態で、各針床における前記各身頃の編地に前記他側端側で隣接、または前記各身頃の編地から前記他側端側に離間して配置されて編成され、
(e)前記前身頃、後身頃および各袖の針床上での編地の配置において、前後の針床に4層の編地が重なって配置される領域は、針抜き編成されることを特徴とするニットウエアの編成方法である。
【0010】
また本発明は、前記前身頃、後身頃および各袖の針床上での編地の配置において、針床上で前後方向に外側の2層の外編地および内側の2層の内編地から成る4層の編地が重なって配置される領域では、前側の外編地と内編地とは、針床上で表目と裏目とが逆転するように編成され、後側の外編地と内編地とは、針床上で表目と裏目とが逆転するように編成されることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記前後の身頃と前記各袖とは、連続した編地となるように並行して編成され、袖開口部が形成される領域では、一方の身頃と袖とを編成する編糸と、他方の身頃と袖とを編成する編糸とが、異なる給糸口から個別に給糸されて編成されることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、前記前後の身頃を裾部から編出し、前記各袖を袖口部から編出して、前記前後の身頃と前記各袖とを個別に編成を進行し、前記各身頃の袖ぐり部で前記各袖を接続しながら各身頃を編成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前身頃および後身頃のうち、幅広の方の身頃を対称軸線で山折りに折り返して2層の外編地を構成し、幅狭の方の身頃を対称軸線で谷折りして2層の内編地を構成した状態で、針床上で内編地が外編地の内側になるように配置する。このとき、山折り部および谷折り部を針床の左右方向一方側に配置し、前身頃および後身頃の身幅方向両端部を他方側で重なるように配置する。また、両袖は針床上で前記各身頃に隣設される。したがって、前後非対称で袖付きのニットウエアであっても、前後の針床に最大層数が4層の編地が重なった状態で前後方向に対称形で配置して編成することができるので、公知の針抜き編成を用いて容易に編成できる。
【0014】
また本発明によれば、前後の針床に4層の編地が重なって編成される領域では、前側の外編地と内編地とで、および後側の外編地と内編地とで、針床上で表目と裏目が逆転するように各編地を編成することが好ましい。この結果、編成された前身頃の編組織と後身頃の編組織とを前身頃および後身頃の境界で連続して一様にすることができる。
【0015】
また本発明によれば、前後の身頃と袖とが連続した編地となるように同時進行的に編成することもできるし、また、前後の身頃と袖との編成を個別に開始してから、身頃の袖ぐり部で袖の編地を接続するように編成することもできる。本発明は、このような種々の編成方法と組み合わせることによって、様々なデザインのニットウエアの製造が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の編成方法が適用される一例である前後非対称な袖付きニットウエア10の正面および背面のデザイン型紙を示す平面図である。図1(1)は、前身頃12ならびに前身頃12に連結される右袖14rおよび左袖14lの正面側の形状を示し、図1(2)は、後身頃18ならびに後身頃18に連結される右袖16rおよび左袖16lの背面側の形状を示す。前後の袖ぐり部20f,20bでくり違いは無いものとする。図1の例で、前身頃12の身幅w1と後身頃18の身幅w2とを比較すると、w2>w1であり、後身頃18の身幅w2の方が広い。
【0017】
図2は、図1に示す型紙によって編成されたニットウエアの外観を示す正面図である。図3は、図2の切断面線3a−3a、3b−3bおよび3c−3cから見たニットウエアの断面形状を模式的に示す断面図である。図3では、後身頃18の部分を太い実線で示している。後身頃18の身幅w2のほうが、前身頃12の身幅w1よりもw2−w1だけ幅広なので、後身頃18の一部が正面側に回り込んでいる。なお、編成されたニットウエア10では裾22、衿24および左右の袖口26r,26lに開口がある。
【0018】
図4は、本発明の編成方法を用いて、図1〜図3に示すニットウエア10を編成するときの横編機での編地の配置を示す図である。図5は、図4の切断面線5a−5a、5b−5bおよび5c−5cから見た形状を模式的に示す断面図である。本発明の編成方法が用いられる横編機は、少なくとも前後一対の針床を有する2枚ベッドまたは4枚ベッドの横編機であり、前後の針床間での目移しと針床が延びる左右方向へのラッキング(振り)が可能なものである。図4において、図面の左右方向が横編機の左右方向に対応し、図面に垂直な方向が横編機の前後方向に対応する。以下、図1に示すニットウエア10のデザインの型紙が与えられたとして、図4に示す編成時の編地に配置する方法、ならびに編成の手順について具体的に説明する。ここで、以下の説明で用いる「山折り」および「谷折り」の用語は、筒状に編成されるニットウエアの編成中で、筒状編地の内側から外側に向かう方向を基準にして、凸に折り曲げるときを「山折り」といい、凹に折り曲げるときを「谷折り」という。図1に示す型紙の図面では、紙面奥から手前側に向かう方向を基準にし、手前側を凸に折り返すときを「山折り」といい、手前側を凹に折り返すときを「谷折り」という。
【0019】
最初に、針床における編地の配置と編針の割り当てについて説明する。図1において、前身頃12および後身頃18のうち、身幅w2が広い後身頃18を左右対称に分割する対称軸線s2に沿って背面側の型紙を山折りに折り返し、身幅w1が狭い前身頃12を左右対称に分割する対称軸線s1に沿って正面側の型紙を谷折りに折り返した状態を想定する。この状態で、後身頃18の対称軸線s2近傍である山折り部30を、針床の左右方向の一方側(図4では右側)に配置し、後身頃18が山折りに折り返された状態で互いに重なり合う身幅方向両端部28bを、針床の左右方向の他方側(図4では左側)に配置する。谷折りに折り返された前身頃12は、山折りに折り返された後身頃18の内側に配置される。このとき、前身頃12の対称軸線s1近傍である谷折り部32を山折り部30寄りの前記一方側に配置し、前身頃12の身幅方向両端部28fを後身頃18の身幅方向両端部28bと針床の前後方向で重なるように配置する。右袖14r,16rと左袖14l,16lとは、身頃12,18の袖ぐり部20f,20bに連続して、各身頃12,18から離反する方向に延在することになるので、右袖14r,16rと左袖14l,16lとは針床の前後方向に重なるように配置される。
【0020】
上記方法によって、針床の前後方向に4層または2層の編地が重なって対称に配置されることになる。ここで、針床の前方側から後方側に向かって、第1層が後側左袖16lと左後身頃18lであり、第2層が前側左袖14lと左前身頃12lであり、第3層が前側右袖14rと右前身頃12rであり、第4層が後側右袖16rと右後身頃18rである。第1層と第4層とが外側の外編地を構成し、第2層と第3層とが内側の内編地を構成することになる。外編地だけで内編地が存在しない領域もある。すなわち、上記方法では、前後の針床に2層の内編地および2層の外編地の計4層の編地が重なる4層領域と、前後の針床に2層の外編地が重なる2層領域とが存在する。
【0021】
ここで、4枚ベッドの横編機を用いて4層領域の編地を編成するには、たとえば前側下針床の編針に、前側外編地のループと前側内編地のループとを交互に割り当てて、後側下針床の編針に、後側外編地のループと後側内編地のループとを交互に割り当てる針抜き編成を行う必要がある。このとき、2層領域の各編地については、総針編成でもよいが、4層領域の編地と風合いを合わせるために、前後の各針床の編針に1つ置きに各編地のループを割り当てる針抜き編成を行うのが好ましい。
【0022】
2枚ベッドの横編機を用いて4層領域の編地を編成するには、前後の各針床の編針に交互に割り当てられた外編地と内編地との間にさらに目移し用の空針を割り当てる必要があるので、各層の編地のループを針床上で3つ置きの編針に割り当てる必要がる。このとき、2層領域の各編地については、目移し用の空針を考慮すると針床上で1つ置きの編針に割り当てれば十分であるが、4層領域の編地と風合いを合わせるために、針床上で3つ置きの編針に各編地のループを割り当てるのが好ましい。
【0023】
図6および図7は、4枚ベッドの横編機で、針床の前後方向に4層の編地が重なって編成される場合に、針抜き編成の方法を示す編成図である。針抜き編成では、各編地のループが予め定める針数毎の編針に割り当てられる。図6および図7において、図中の白丸は前側外編地50のループを表し、図中の黒丸は前側内編地52のループを表し、図中の白四角は後側外編地56のループを表し、図中の黒四角は後側内編地54のループを表す。初期状態では、図6(1)および図7(1)に示すように、前側下針床FDの左から奇数番目の編針に白丸で示される前側外編地50のループが割り当てられ、前側下針床FDの左から偶数番目の編針に黒丸で示される前側内編地52のループが割り当てられ、後側下針床BDの左から奇数番目の編針に白四角で示される後側外編地56のループが割り当てられ、後側下針床BDの左から偶数番目の編針に黒四角で示される後側内編地54のループが割り当てられる。
【0024】
図6を用いて図中の白丸で示される前側外編地50を平編みで編成する方法について説明する。図6(1)に示す初期状態のままで前側外編地50を編成すると、図中の黒丸の前側内編地52を一緒に編み込んでしまうことになるので、先ず、図6(2)に示すように、黒丸で示される前側内編地52のループを対向する後側上針床BUの編針に目移しする。その後、図6(3)に示すように、前側下針床FDに付属している図中の白丸で示される前側外編地50を編成し、編成後に、図6(4)に示すように、対向する後側上針床BUから前側下針床FDに図中の黒丸で示される前側内編地52のループを戻す。
【0025】
同様に、図7を用いて図中の白四角で示される後側外編地56を平編みで編成する場合には、図中の黒四角で示される後側内編地54のループを対向する前側上針床FUの編針に目移ししてから(図7(2))、後側下針床BDに付属している白四角の後側外編地56を編成し(図7(3))、編成後に黒四角の後側内編地54のループを後側下針床BDに戻す(図7(4))。
【0026】
図中の黒丸で示される前側内編地52および黒四角で示される後側内編地54については、外編地の存在は編成の障害とならないので、図6(1)および図7(1)に示す初期状態のままで、これらの内編地52,54を平編みで編成することが可能である。しかし、初期状態のままで編成を行うと、前後に同じ側の外編地と内編地とが、同じ針床の編針を使用することになるので、編成後の編地の前身頃と後身頃とで表目と裏目とが逆転することになる。そこで、黒丸で示される前側内編地52の編成については、図6(2)に示すように対向する後側上針床BUの編針に目移ししてから、後側上針床BUの編針を用いて編成を行う。黒四角で示される後側内編地54についても同様に、図7(2)に示すように対抗する前側上針床FUの編針に目移ししてから編成を行う。
【0027】
このように、編成後の内編地52,54の編組織と外編地50,56の編組織が一様になるように、たとえば、針床上で前後方向に2層の外編地50,56および2層の内編地52,54から成る4層の編地が重なって編成される領域では、前側外編地50および後側内編地54を編成する針床と前側内編地52および後側外編地56を編成する針床とを前後に異ならせて各編地50,52,54,56が編成される。すなわち、前側の外編地50と内編地52とで、および後側の外編地56と内編地54とで、針床上で表目と裏目が逆転するように各編地50,52,54,56を編成する。リブ編みなど他の編組織の編地についても、外編地50,56および内編地52,54の編成に使用する針床を編組織に応じて考慮すれば、一様な編地とすることができる。
【0028】
次に、図4および図5に戻り、ニットウエア10の編成方法について説明する。ニットウエア10の編成では、裾22から編み出し、衿24に向かって編成を行う。
【0029】
裾22から袖下端34までの第1区間40では、断面形状として図5(c)に示されるように、開口部のない筒状の編地が編成される。この第1区間40では、1個の給糸口から給糸される編糸を用いて、たとえば、左後身頃18l、左前身頃12l、右前身頃12r、右後身頃18rの順に周回で連続して編成することが可能である。無論、複数の編糸を用いてインターシャなどの柄を編み込むこともできる。
【0030】
袖下端34からは、公知の編み出し方法(たとえば、特許文献3参照)を用いて両袖14r,14l,16r,16lの編み出しを開始する。いわゆる捨て編みを用いて、両袖14r,14l,16r,16lの編み出しを身頃12,18の編み出しと並行して行うことも可能である。袖下端34から袖口上端38までの第2区間42では、図5(b)に示されるように、左右の袖口26r,26lの開口があるために1個の給糸口で連続した周回編成を行うことはできない。少なくとも2個の給糸口を用いて、外編地と内編地とで個別に編成を行うことになる。たとえば、外編地は、後側左袖16l、左後身頃18l、右後身頃18r、後側右袖16rの順およびその逆順で往復して編成され、内編地は、前側左袖14l、左前身頃12l、右前身頃12r、前側右袖14rの順およびその逆順で往復して編成される。
【0031】
袖口上端38から衿24までの第3区間44では、断面形状として図5(a)に示されるように、開口部のない筒状の編地が編成される。この第3区間44では、1個の給糸口から給糸される編糸を用いて、たとえば、後側左袖16l、左後身頃18l、右後身頃18r、後側右袖16r、前側右袖14r、右前身頃12r、左前身頃12l、前側左袖14lの順に周回で連続して編成することが可能である。また、この第3区間44では、衿24に向かって編成が進むにつれて次第に編幅を減少させる。最後の衿24の部分で、最終コースを伏せ目処理して、編針から衿24の部分の編目を開放する。
【0032】
図8は、ニットウエア10の編成用として図4に示す横編機における編地の配置とは、異なる編地の配置を示す図である。また、図9は、図8の切断面線9a−9aおよび9b−9bから見た形状を模式的に示す断面図である。図8の配置は、図4と同様に、図面の左右方向が横編機の針床の左右方向に対応し、図面に垂直な方向が横編機の前後方向に対応し、編成は図面の下から上へと行われる。
【0033】
図8および図9に示す編地の配置は、図4に示す編地の配置と前身頃12および後身頃18については同じである。両袖14r,14l,16r,16lについては、身頃12,18から離反する方向に延在して配置される点では図4と共通するが、前身頃12および後身頃18とは連続せずに個別に編成される点で図4と異なる。
【0034】
図8および図9において、前身頃12および後身頃18によって構成される筒状の編地は、裾22から編み出しが開始される。そして、前後の身頃12,18の編み出しとは別に、右袖14r,16rおよび左袖14l,16lの筒状編地の編み出しをそれぞれ袖口26r、26lから開始する。右袖14r,16rおよび左袖14l,16lの筒状編地の編成が完了し、前身頃12と後身頃18とで構成される筒状の編地の編成が袖ぐり部下端46まで終了した時点で、右袖14r,16rおよび左袖14l,16lの筒状編地を、目移しとラッキングを用いて編成中の身頃12,18の編地に近接する位置まで移動する。その後、袖ぐり部下端46から衿24まで、前身頃12および後身頃18を編成しながら、両袖14r,14l,16r,16lを左右の袖ぐり部20f、20bにそれぞれ接続する。このとき、図9(a)に示すように、袖ぐり部20f、20bには開口があるので、前身頃12とは後身頃18とは異なる編糸を用いて編成する。
【0035】
以上に述べたように、本発明のニットウエアの編成方法によれば、前身頃12と後身頃18とが非対称でかつ袖を有するニットウエアであっても、簡単な方法で編成を行うことができる。また、従来の公知の編成技術と組み合わせれば多様なニットウエアを容易に製造することが可能になる。
【0036】
図10〜図12は、本発明の編成方法が適用される他のニットウエア100,110,120のデザインの型紙、および横編機での編成時の編地の配置を示す図である。各図の(1)は、前身頃12、右袖14rおよび左袖14lを含む正面側の形状を示し、各図の(2)は、後身頃18、右袖16rおよび左袖16lを含む背面側の形状を示す。また、各図の(3)は本発明の編成方法によって編成するときに横編機における編地の配置を示す。各図の(3)は、図4と同様に、図面の左右方向が横編機の針床の左右方向に対応し、図面に垂直な方向が横編機の前後方向に対応し、編成は図面の下から上へと行われる。図10〜図12において、図1〜図8に示すニットウエア10と対応する構成については、同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0037】
図10に示すニットウエア100は、前首にドレープ60を有するセーターのデザイン例を示すものである。前身頃12の身幅w1は、ドレープ60の幅を含めて決定されるので、後身頃18の身幅w2よりも広い。したがって、前身頃12は、対称軸線s1で山折りされた2層の外編地として編成され、後身頃18は対称軸線s2で谷折りされた2層の内編地として編成される。
【0038】
図11に示すニットウエア110は、腹部が突出したマタニティウエアのデザイン例を示すものである。この例も、前身頃12の身幅w1は、後身頃18の身幅w2よりも広いので、前身頃12は、対称軸線s1で山折りされた2層の外編地として編成され、後身頃18は対称軸線s2で谷折りされた2層の内編地として編成される。
【0039】
図12に示すニットウエア120は、背部が丸みを帯びて突出したニットウエアのデザイン例を示すものである。この例では、前身頃12の身幅w1は、後身頃18の身幅w2よりも狭いので、前身頃12は、対称軸線s1で谷折りされた2層の内編地として編成され、後身頃18は対称軸線s2で山折りされた2層の外編地として編成される。
【0040】
上述の実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲内において構成を変更することができる。たとえば、図4,図10(3),図11(3),図12(3)に示す針床での編地の配置を示す図において、山折り部30および谷折り部32の形状は、ニットウエアのデザインに応じて、増やしおよび減らしの成形編みを用いることによって自由に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の編成方法が適用される一例である前後非対称な袖付きニットウエア10の正面および背面のデザインの型紙を示す平面図である。
【図2】図1に示す型紙によって編成されたニットウエアの外観を示す正面図である。
【図3】図2の切断面線3a−3a、3b−3bおよび3c−3cから見たニットウエアの断面形状を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の編成方法を用いて、図1〜図3に示すニットウエア10を編成するときの横編機での編地の配置を示す図である。
【図5】図4の切断面線5a−5a、5b−5bおよび5c−5cから見た形状を模式的に示す断面図である。
【図6】4枚ベッドの横編機で、針床の前後方向に4層の編地が重なって編成される場合に、針抜き編成の方法を示す編成図である。
【図7】4枚ベッドの横編機で、針床の前後方向に4層の編地が重なって編成される場合に、針抜き編成の方法を示す編成図である。
【図8】ニットウエア10の編成用として図4に示す横編機における編地の配置とは、異なる編地の配置を示す図である。
【図9】図8の切断面線9a−9aおよび9b−9bから見た形状を模式的に示す断面図である。
【図10】本発明の編成方法が適用される他のニットウエア100のデザインの型紙、および横編機での編成時の編地の配置を示す図である。
【図11】本発明の編成方法が適用される他のニットウエア110のデザインの型紙、および横編機での編成時の編地の配置を示す図である。
【図12】本発明の編成方法が適用される他のニットウエア120のデザインの型紙、および横編機での編成時の編地の配置を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10,100,110,120 ニットウエア
12,12r,12l 前身頃
14r,14l,16r,16l 袖
18,18r,18l 後身頃
20f,20b 袖ぐり部
22 裾
24 衿
26r,26l 袖口
28f,28b 身幅方向両端部
30 山折り部
32 谷折り部
50 前側外編地
52 前側内編地
54 後側内編地
56 後側外編地
BD 後側下針床
BU 後側上針床
FD 前側下針床
FU 前側上針床

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも前後一対の針床を備え、前後の針床間での目移しおよびラッキングが可能な横編機を用いて、前身頃と後身頃とが非対称でかつ左右の袖を有するニットウエアを無縫製で編成するニットウエアの編成方法であって、
(b)前記前身頃および後身頃のうち身幅の大きい一方の身頃は、この一方の身頃を左右対称に分割するように山折りして2層に折り返した状態で、
(b1)前記山折りによって形成される山折り部が、各針床における前記一方の身頃の編地の一側端に配置され、
(b2)前記一方の身頃の身幅方向両端部が、各針床における前記一方の身頃の編地の他側端に配置されて編成され、
(c)前記前身頃および後身頃のうち身幅の小さい他方の身頃は、この他方の身頃を左右対称に分割するように谷折りして2層に折り返した状態で、
(c1)前記他方の身頃の各層が、各針床における前記一方の身頃の前記2層を成す編地の内側に配置され、
(c2)前記谷折りによって形成される谷折り部が、前記一方の身頃の編地の前記一側端側に配置され、
(c3)前記他方の身頃の身幅方向両端部が、前記一方の身頃の編地の他側端側に配置され、この他方の身頃の身幅方向両端部のうち、前記一方の身頃の身幅方向両端部に連なる領域が、各針床における前記一方の身頃の身幅方向両端部の編地に、前後方向にほぼ対向して配置されて編成され、
(d)前記左右の袖は、前後方向にそれぞれ2層の編地が重なった状態で、各針床における前記各身頃の編地に前記他側端側で隣接、または前記各身頃の編地から前記他側端側に離間して配置されて編成され、
(e)前記前身頃、後身頃および各袖の針床上での編地の配置において、前後の針床に4層の編地が重なって配置される領域は、針抜き編成されることを特徴とするニットウエアの編成方法。
【請求項2】
前記前身頃、後身頃および各袖の針床上での編地の配置において、針床上で前後方向に外側の2層の外編地および内側の2層の内編地から成る4層の編地が重なって配置される領域では、前側の外編地と内編地とは、針床上で表目と裏目とが逆転するように編成され、後側の外編地と内編地とは、針床上で表目と裏目とが逆転するように編成されることを特徴とする請求項1記載のニットウエアの編成方法。
【請求項3】
前記前後の身頃と前記各袖とは、連続した編地となるように並行して編成され、袖開口部が形成される領域では、一方の身頃と袖とを編成する編糸と、他方の身頃と袖とを編成する編糸とが、異なる給糸口から個別に給糸されて編成されることを特徴とする請求項1または2記載のニットウエアの編成方法。
【請求項4】
前記前後の身頃を裾部から編出し、前記各袖を袖口部から編出して、前記前後の身頃と前記各袖とを個別に編成を進行し、前記各身頃の袖ぐり部で前記各袖を接続しながら各身頃を編成することを特徴とする請求項1または2記載のニットウエアの編成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−163528(P2008−163528A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356721(P2006−356721)
【出願日】平成18年12月29日(2006.12.29)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】