説明

ニット製品のデザイン装置とデザイン方法、およびそのプログラム

【構成】 目立てエリアを編地の外形に対応付けて記憶し、外形が変更されると目立てエリアも連動して変更する。そして目立てエリア内に単位柄を上下に繰り返してコピーする。前後の編地の境界で、周回編成のスタート点となる境界の両側に目立て柄が存在する場合、スタート部側の目立て柄を1コース分上へシフトさせる。
【効果】 編地の外形の変更に対して目立て柄を設ける範囲を自動的に変更できる。また前後の編地の境界で、目立て柄がコース方向に不連続にならない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は横編機を用いた筒状のニット製品のデザインに関する。
【背景技術】
【0002】
セーターやベスト、ワンピースなどのニット製品では、編地の端部に目立てを施す場合が多い。目立ては組織柄からなり、編地の端部から数ウェール程度の幅で、編地の他の部分とは異なる組織にデザインしてある。例えば筒状に周回編成しながら前身頃と後身頃を同時に編成する場合や、前後の身頃と前後の両袖を同時に編成する場合、目立ては前後の身頃のアームホール、ウエスト、襟、袖の内側や外側などに施す。この場合、ウエスト、袖の内側や外側などは、前後の編地の接続部でもある。
【0003】
出願人は、特許文献1で目立てのデザインを容易にすることを提案した。目立てを行うエリアは編地のエッジから数ウェール程度の幅なので、この部分を仮想的にウェール方向が垂直になるように揃えると、例えば上下に長い長方形になる。この部分を目立てエリアとして、上下1〜数コース程度の単位柄を目立てエリアを埋めるようにコピーすると、目立てのデザインが容易になる。
【0004】
ニット製品の外形デザインが変更されると、目立てエリアの形状を変化させるのが望ましい。しかしながら、発明者は特許文献1の手法ではこれに対応していないことに着目した。またニット製品を周回編成する場合、周回編成の開始点は例えば前身頃と後身頃との境界などに置かれる。この境界は両側に目立てを施すことが多い場所である。そして周回編成の開始点の両側で、編成を行った後のニット製品での目立て柄が、ニットのデザインデータとは異なってしまうことに着目した。即ち、デザインデータ上で同じコースに配置した目立て柄が、現物のニット製品では、周回開始点の両側で1コース分上下にずれてしまうのである。目立て柄のデザインがウェール方向に沿って異なるような場合、例えばコース毎に編目の種類が変化するような場合、周回開始点の両側で編目の種類が不揃いになり、デザイン上好ましくない。
【特許文献1】WO 04/088022A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、
1) ニット製品の外形が変更されると、目立てエリアもそれに応じて容易に変更できるようにすると共に、
2) ニット製品を周回編成する際に、周回開始点の両側で目立て柄が上下にずれることを防止することにより、
目立て柄のデザインを容易にすることにある。
この発明での補助的な課題は、
3) 目立て柄が上下にずれることを防止する際に、編目の種類のデータが無い領域が発生しないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のデザイン装置は、糸のキャリヤを周回させながら、前後の編地からなる筒を横編機により編成すると共に、編地の端部に目立て柄を形成するようにした、ニット製品のデザインデータを作成するための装置において、目立てエリアの指定を受け付けると共に、指定された目立てエリアを編地の外形に対応づけて記憶するための指定手段と、編地の外形デザインの変更に対応して、前記目立てエリアを修正するための修正手段と、目立て柄のデータを記憶して、前記目立てエリア全体に展開するための展開手段と、キャリヤの周回開始部の両側の周回方向スタート部とエンド部との双方に、かつスタート部とエンド部との間をコース方向に沿って連続するように、目立てエリアが存在することを検出するための検出手段と、前記検出時に、スタート部側の目立て柄のデータをエンド部側に対して、1コース分相対的に上側へ移動させるための補正手段、とを設けたことを特徴とする。
【0007】
好ましくは、前記指定手段では、目立てエリアの両端部の指定を受け付けると共に、指定された両端部を編地の外形に対応づけて記憶し、さらに指定された両端部間で、編地のエッジから内側に所定のウェール数分のエリアを、目立てエリアとして記憶し、前記修正手段では、編地の外形デザインの変更に対応して、前記両端部を移動させ、前記展開手段では、目立て柄の単位となる柄のデータを記憶して、前記目立てエリア全体に拡がるようにコピーすることにより展開する。
【0008】
特に好ましくは、前記補正手段では、スタート部側で、目立て柄での最上段のコースのデータを、目立て柄の最下段のコースに移動させると共に、他のコースの目立て柄のデータを、1コース分ずつ上側へシフトさせる。
【0009】
この発明のデザイン方法では、糸のキャリヤを周回させながら、前後の編地からなる筒を横編機により編成すると共に、編地の端部に目立て柄を形成するようにした、ニット製品のデザインデータを作成する方法において、目立てエリアの指定を受け付けると共に、指定された目立てエリアを編地の外形に対応づけて記憶し、編地の外形デザインの変更に対応して、前記目立てエリアを修正し、目立て柄のデータを記憶して、前記目立てエリア全体に展開し、キャリヤの周回開始部の両側の周回方向スタート部とエンド部との双方に、かつスタート部とエンド部との間をコース方向に沿って連続するように、目立てエリアが存在することを検出した際に、スタート部側の目立て柄のデータをエンド部側に対して、1コース分相対的に上側へ移動させる、ことを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記指定では、目立てエリアの両端部の指定を受け付けると共に、指定された両端部を編地の外形に対応づけて記憶し、さらに指定された両端部間で、編地のエッジから内側に所定のウェール数分のエリアを、目立てエリアとして記憶し、前記修正では、編地の外形デザインの変更に対応して、前記両端部を移動させ、前記展開では、目立て柄の単位となる柄のデータを記憶して、前記目立てエリア全体に拡がるようにコピーすることにより展開する。
【0011】
特に好ましくは、前記1コース分の上側への移動では、スタート部側で、目立て柄での最上段のコースのデータを、目立て柄の最下段のコースに移動させると共に、他のコースの目立て柄のデータを、1コース分ずつ上側へシフトさせる。
【0012】
この発明のデザインプログラムは、糸のキャリヤを周回させながら、前後の編地からなる筒を横編機により編成すると共に、編地の端部に目立て柄を形成するようにした、ニット製品のデザインデータを作成するためのプログラムにおいて、目立てエリアの指定を受け付けると共に、指定された目立てエリアを編地の外形に対応づけて記憶するための指定命令と、編地の外形デザインの変更に対応して、前記目立てエリアを修正するための修正命令と、目立て柄のデータを記憶して、前記目立てエリア全体に展開するための展開命令と、キャリヤの周回開始部の両側の周回方向スタート部とエンド部との双方に、かつスタート部とエンド部との間をコース方向に沿って連続するように、目立てエリアが存在することを検出するための検出命令と、前記検出時に、スタート部側の目立て柄のデータをエンド部側に対して、1コース分相対的に上側へ移動させるための補正命令、とを設けたことを特徴とする。
【0013】
好ましくは、前記指定命令では、目立てエリアの両端部の指定を受け付けると共に、指定された両端部を編地の外形に対応づけて記憶し、さらに指定された両端部間で、編地のエッジから内側に所定のウェール数分のエリアを、目立てエリアとして記憶し、前記修正命令では、編地の外形デザインの変更に対応して、前記両端部を移動させ、前記展開命令では、目立て柄の単位となる柄のデータを記憶して、前記目立てエリア全体に拡がるようにコピーすることにより展開する。
【0014】
特に好ましくは、前記補正命令では、スタート部側で、目立て柄での最上段のコースのデータを、目立て柄の最下段のコースに移動させると共に、他のコースの目立て柄のデータを、1コース分ずつ上側へシフトさせる。
【0015】
この発明はニット製品のデザインに関するものなので、編地の外形、目立てエリア、目立て柄、目立てエリアなどの概念は、ニット製品のデザインデータ上の概念である。またコースは編地の横方向に並んだ編目の列を指し、ウェールは編地の上下方向に並んだ編目の列を指す。1コース分相対的に移動とは、一方を上側へ移動させることの他に、他方を下側へ移動させることも含んでいる。この明細書で、ニット製品のデザイン装置に関する記載はそのままデザイン方法やデザインプログラムに当てはまり、逆にデザイン方法に関する記載はそのままデザイン装置やデザインプログラムに当てはまる。目立てエリアの両端部を指定とは、例えば両端部にある特徴的な点を指定することである。
【発明の効果】
【0016】
この発明では、目立てエリアを編地の外形データに対応させて記憶するので、編地の外形が変更されると目立てエリアも変更される。このため編地の外形の変更に応じて、目立て柄を再デザインする必要がない。
またこの発明では、キャリヤの周回開始部の両側に目立てエリアが存在する場合、開始部側の目立て柄をエンド部側に対して相対的に1コース分上側へスライドさせる。これに伴って、前後の目立て柄がコース方向に不連続になることを防止できる。
【0017】
ここで、スタート部側の目立て柄での最上段のコースのデータを、目立て柄の最下段のコースに移動させると共に、他のコースの目立て柄のデータを、1コース分ずつ上側へシフトさせると、目立てエリア自体は上下に移動しないので、目立てエリアの最下段のコースに、編目の種類のデータがなくなるのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0019】
図1〜図11に、実施例を示す。図において、2はニットデザイン装置で、4はバスである。入出力系を説明すると、6はカラーモニタで、8はキーボード、10はスタイラスで、12はデジタイザである。スタイラス10とデジタイザ12とにより、デザインデータ上の位置を指定して、図形入力を行う。14はカラースキャナ、16はディスクドライブ、18はカラープリンタで、20は通信インターフェースである。
【0020】
デザイン対象の編地は筒状編地で、例えば前身頃と後身頃、あるいはこれらに前後の両袖を加えたものなどである。またニット製品の種類は、セーターやベスト、ワンピース、パンツ、スラックスなどである。外形データ記憶部22はニット製品の外形データを前後の編地単位で記憶し、単位となる編地は例えば前身頃や後身頃、右前袖と右後袖及び左前袖と左後袖などである。
【0021】
目立てデータ記憶部24は、目立てエリア毎に、目立て柄のデータと目立てエリアとを記憶する。目立てエリアには例えば、前身頃や後身頃のアームホールやウエスト、襟、後肩などの部分がある。また前後の両袖には、袖下や袖山などに目立てを行う。目立てエリア毎にデザイン上のレイヤを設けて、目立てデータを各レイヤのデータとして記憶する。また目立てエリアはこのレイヤ内のエリアである。単位柄展開部26は目立て柄の単位となる単位柄を、目立てエリア内に上下にコピーして展開する。単位柄は1コース〜数コース程度の高さで、編地のエッジから内側に数ウェール程度の幅があり、単位柄を周期的に繰り返したものが目立て柄である。また単位柄はそれよりも小さな柄に分解できないものとする。単位柄は、目立てデータ記憶部24あるいは単位柄展開部26等に記憶する。
【0022】
外形データ記憶部22で記憶している外形データの変更に対応して、エリア修正部28は目立てエリアを変更する。目立てデータ記憶部24では、目立てエリアを編地の外形上の特徴点を用いて記憶している。そこで外形データが変更されると特徴点も移動するので、これに応じて目立てエリアを変更できる。目立てエリアは編地の外形データの変更に連動して変化する外形状の特徴を用いて記憶すれば良く、必ずしも特徴点を記憶する必要はない。編成手順処理部30は、編地のどの部分の編成にどのキャリヤを割り当て、キャリヤをどの向きに周回させ、これに伴って横編機のキャリッジをどのように移動させるか、などの編成手順を決定する。編成手順は、例えば標準的な条件を記憶して自動的に当てはめれば良く、特殊な手順を用いる場合のみ、ユーザが指定すると良い。実施例では筒状編地を編成し、キャリヤは編地に沿って周回移動するものとし、このような編成を周回編成という。
【0023】
段差検出部32は、前後の編地の境界で目立て柄の間に生じる段差を検出する。一般に周回編成は前後の編地の境界から開始し、段差は周回開始点のウェールのスタート側とエンド側との間に生じる。このため段差は例えば前後の編地の境界に生じる。また段差が生じる場所は、周回開始部のスタート側とエンド側との間である。前後補正部34は、段差が生じる個所に対して、周回のスタート側の目立て柄を1コース分上側にシフトさせて、編地の前後での目立て柄の間の段差を補正し、前後の目立て柄をコース方向に連続した柄に変化させる。編成データ作成部36は、デザインされたニット製品に対する編成データを作成し、シミュレーション部38は、作成した編成データに基づいてニット製品に対するビジュアルなシミュレーションを行う。また編成データは、通信やディスクなどにより横編機40へ入力されて、横編機40でセーターなどを編成する。
【0024】
図2に実施例の目立てプログラム42を示す。目立てプログラム42はニットデザインプログラムの一部である。目立てデータ記憶命令43は単位柄および目立て柄のデータと目立てエリアとを記憶する命令で、単位柄展開命令44は目立てエリア内に単位柄を展開し、エリア修正命令45は編地の外形の変化を検出して目立てエリアを修正する。編成手順処理命令46は、編成手順に関する処理を行う命令で、特にキャリヤの周回方向を検出する。段差検出命令47は、前後の目立て柄間で段差が生じるか否かを検出する。前後補正命令48は、段差が生じる際に、前後いずれかの目立て柄を1コース分上下に移動させて段差を解消する。
【0025】
図3に、目立て柄のデザインを中心にニット製品の全体的なデザインを示す。最初に筒状編地の外形データを作成し、例えばスキャナ14で既存のニット製品の形状を読み込み、あるいはディスクドライブ16などから外形データを読み込む。そしてスタイラス10などにより外形データを修正する。またリブなどの組織柄やインターシャやジャカードなどのパターンを入力し、目立て柄の作成を行うかどうかの判断へと進む。
【0026】
目立て柄の作成では、目立てエリアを決定し、各目立てエリアの単位柄を入力する。目立てエリアが編地の左右対称に入力されている場合、例えば右のアームホールと左のアームホール、右のウエストと左のウエストなどのように、左右対称に入力されている場合、一方の目立てエリアに単位柄を入力すると、他方の目立てエリアに単位柄を左右反転して入力する。また前後のウエストや前後の袖下や前後の袖山などのように、前後の編地の端部に目立てエリアが連続して設けられている場合、一方の目立てエリアに入力された単位柄を他方の目立てエリアへコピーする。このコピーでは、単位柄を前後の編地の境界から折り返すようにコピーする。即ち前後の編地の境界から同じウェール数の位置には、同じ種類の編目が表れるようにコピーする。
【0027】
目立てエリア内で単位柄を上下に展開するようにコピーする。例えば目立てエリアの最下段のコースから始めて上側に単位柄を周期的に繰り返してコピーし、目立てエリア全体を単位柄で埋め尽くす。なお目立てエリアは前後の編地に対し、原則として同じコース番号で始まり同じコース番号で終わるようにデザインされている。
【0028】
前後の編地間で目立て柄に段差が生じるかどうかを検出し、段差が生じる場合には前後の目立て柄間での段差補正を行う。続いてモニタにデザインを表示することにより、ユーザがデザインを評価できるようにし、デザインを修正する場合、2番目の結合子へ戻り、修正しない場合には編成データを作成してデザインを終了する。
【0029】
図4に目立てエリアの決定アルゴリズムを示す。デザインの初期で、ニット製品の外形データの修正を考慮しなくても良い場合、ユーザはスタイラスなどにより目立てエリアの両端の2隅(特徴点)を指定する。続いてユーザは、編地のエッジから内側に目立て柄を展開するウェール数を入力する。このウェール数を目立て本数という。そして2つの特徴点の間で、編地のエッジから目立て本数分内側へのエリアを目立てエリアとする。編地の外形が修正された場合、特徴点がどこに移動したかを抽出し、移動した特徴点と入力済みの目立て本数を用いて目立てエリアを修正する。
【0030】
図5に前後補正のアルゴリズムを示す。前後の目立て柄が筒状につながっており、また目立て柄の単位柄が2コース以上で構成されている場合が前後補正の対象となる。そして前後の編地の目立て柄の間に周回開始位置が存在する場合に、前後補正を行う。この場合周回のスタート側をスライド対象とし、最上段の目立て柄を1コース分バックアップし、他のコースの目立て柄を下から上に1コースずつスライドさせる。そしてバックアップした目立て柄を最下段のコースに描画する。
【0031】
図6にセーター50の例を示すと、53〜64は目立てエリアで、55,56は前編地のウエスト側の目立てエリア、57,58も同様の目立てエリアである。61,62は袖下側の目立てエリア、63,64は袖山側の目立てエリアである。襟に対応する目立てエリア53,54などを除き、これらの目立てエリアは前後の編地で例えば対称になるようにする。また目立てエリアの形状は、ユーザがスタイラスなどにより入力する。これ以外にアームホールの周囲などに目立てエリアを設けても良いが、前後の目立てエリアは袖で分離されるので段差は発生しない。このためアームホールの周囲の目立てエリアの説明を省略する。
【0032】
図7に、袖全体に大きな目立て柄51,52を設けた半袖のセーター60を示し、この図では袖の部分を身頃に付けて表示する。目立てエリア51,52は左右対称で、かつ後身頃側にも図示しない目立てエリアを、目立てエリア51,52とコース方向に連続するようにかつ同じコース数設ける。目立てエリア51,52の単位柄を、エリア51,52のサイズよりも大きくする場合、単位柄中で目立てエリア51,52内にある部分を有効とし、他を無効とする。また小さな単位柄を用いる場合、単位柄をコース方向とウェール方向の双方にコピーして、目立てエリア51,52全体に展開する。目立てエリア51,52の指定では、例えば三角形状の目立てエリア51,52の3頂点を指定する。
【0033】
セーター60は脇下から上の部分を全体として1つの筒として周回編成し、周回開始点のある側で、前後の目立てエリア間に段差が生じる。そこで例えば周回開始点から周回をスタートした側の目立て柄を1コース分上側へスライドさせ、柄のなくなった最下段のコースには例えばその下のコースの編成データをコピーする。なお一方の目立て柄を1コース分上へスライドさせる代わりに、他方の目立て柄を1コース分下へスライドさせても良い。なお段差が生じるのは左右の目立てエリア51,52の一方のみで、周回編成の開始点を含む側で段差が生じる。
【0034】
図8に、外形の変更に伴う目立てエリアの変更の例を示す。目立てエリア57を指定する場合、例えばウェストの上端と下端とに特徴点P1,P2を指定し、特徴点P1,P2を結ぶ編地のエッジ68から目立て本数分内側に拡がるエリアを、目立てエリア57とする。そして目立てエリア57を含むように目立てレイヤ66を定め、目立てエリアの形状や目立てエリア内に展開した目立て柄のデータは、レイヤ66内のデータとする。ここで編地の外形が変更され、特徴点P1がP1’へ移動したとする。エリア修正部28は、特徴点P1がP1’へ移動し、エッジ68’のようにエッジが変化したことを検出し、目立てエリア57’やレイヤ66’のようにデータを修正する。特徴点は編地の外形上の特徴と対応する点なので、外形が変化すると特徴点の変化も抽出できる。
【0035】
図9に、段差の発生個所を示す。例えばスタート点Aからエンド点Bへの向きで周回編成70を行うものとする。スタート点Aやエンド点Bは、前編地と後編地の境界にあり、反対側の境界が半周点Cとなる。これに対する編成データは図9の下から2段目のようになり、74は後編地データ、75は前編地データで、ここではスタート点Aから後編地側を半周点Cまで編成した後、前編地側を編成するものとする。編成データ上の編目配列76では、1周分の編目が筒状につながっている。しかしながら実際の編地では、エンド点Bはスタート点Aよりも1コース上の編目に接続され、自然な状態での編目配列72,73は図9の上段に示すようになり、Aの部分の目立て柄とBの部分の目立て柄に1コース分の段差が生じる。
【0036】
スタート点やエンド点について説明すると、編成の途中で周回方向を反転しない限り、スタート点Aやエンド点Bはウェール方向に上下につながる。そこでスタート点Aは周回編成を開始した際のスタート点で、エンド点Bは最初の1周の周回編成でのエンド点である。これに対して編成の途中で周回方向を反転すると、スタート点やエンド点の関係が反転する。例えば図10のDで周回編成を開始し、Eで周回方向を反転したとする。するとDからEまでの区間とEよりも上側の区間とでは、どちら側の目立て柄が下側に沈み込むかが反転する。言い換えると周回方向を途中で反転すると、反転後の周回方向に沿ってスタート点やエンド点を定めると良い。
【0037】
図11に段差の発生個所での補正を示す。デザインデータ上で目立て柄90,91が周回スタート点の両側に連続して存在するとする。またハッチングは編目の種類などの1コース分の柄を示す。ここで編成を終了し自然な状態におかれた編地では、スタート点側の目立て柄90がエンド点側の目立て柄91に対して、1コース分下に沈み込む。これに対する補正として、最上段の1コース分のデータをバックアップし、それ以外のデータ93を1コース分上へスライドし、バックアップした最上段のデータ92を最下段のコースにコピーする。
【0038】
目立て柄90の全体を1コース分上側にスライドさせても良いが、そのようにすると、目立て柄90の最下段のコースに編目の種類が指定されていないエリアが残る。そこでこの部分に編目の種類を入力する作業などが必要になる。これを避けるため、最上段のデータ92を最下段にコピーする。なお目立て柄90は単位柄を周期的に繰り返したもので、最上段のコースの柄の上に最下段のコースの柄がつながると美観を損ねることがない。また図11の処理では、単位柄が1コースから成る場合、処理を行う意味がないので処理を行わない。
【0039】
実施例では、編地の外形の変化を意識せずに目立て柄をデザインでき、また前後の編地の境界で目立て柄が不連続に並ぶことがない。実施例では、目立て柄作成の段階で、前後の目立て柄間で段差が生じる場合に段差補正を行う。そしてユーザはモニタにデザインを表示して、段差補正後のデザインを評価する。このためユーザは、段差を意識せずに目立て柄をデザインできる。しかし段差の補正は、デザインが決定した時点で行っても良い。

【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例のニットデザイン装置のブロック図
【図2】実施例のニットデザインプログラムの要部ブロック図
【図3】実施例でのニットデザインの概要を示すフローチャート
【図4】実施例での目立てエリアの決定アルゴリズムを示すフローチャート
【図5】実施例での目立て柄の前後補正アルゴリズムを示すフローチャート
【図6】目立てエリアの例を模式的に示す図
【図7】目立てエリアの変形例を模式的に示す図
【図8】外形変更に伴う、実施例での目立てエリアの変更を模式的に示す図
【図9】筒状編成で前後の目立て柄間に段差が生じる機構を示す図
【図10】途中で周回方向を変更した際の段差の向きを模式的に示す図
【図11】実施例での目立て柄の前後補正を模式的に示す図
【符号の説明】
【0041】
2 ニットデザイン装置
4 バス
6 カラーモニタ
8 キーボード
10 スタイラス
12 デジタイザ
14 カラースキャナ
16 ディスクドライブ
18 カラープリンタ
20 通信インターフェース
22 外形データ記憶部
24 目立てデータ記憶部
26 単位柄展開部
28 エリア修正部
30 編成手順処理部
32 段差検出部
34 前後補正部
36 編成データ作成部
38 シミュレーション部
40 横編機
42 目立てプログラム
43 目立てデータ記憶命令
44 単位柄展開命令
45 エリア修正命令
46 編成手順処理命令
47 段差検出命令
48 前後補正命令
50 セーター
51〜64 目立てエリア
66,66' 目立てレイヤ
68,68' エッジ
70 周回編成
72,73 自然な状態での編目配列
74 後編地データ
75 前編地データ
76 編成データ上の編目配列
90,91 目立て柄
92 最上段のデータ
93 最上段以外のデータ

P1,P2,P2' 特徴点
A スタート点
B エンド点
C 半周点
D スタート点
E 反転個所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸のキャリヤを周回させながら、前後の編地からなる筒を横編機により編成すると共に、編地の端部に目立て柄を形成するようにした、ニット製品のデザインデータを作成するための装置において、
目立てエリアの指定を受け付けると共に、指定された目立てエリアを編地の外形に対応づけて記憶するための指定手段と、
編地の外形デザインの変更に対応して、前記目立てエリアを修正するための修正手段と、
目立て柄のデータを記憶して、前記目立てエリア全体に展開するための展開手段と、
キャリヤの周回開始部の両側の周回方向スタート部とエンド部との双方に、かつスタート部とエンド部との間をコース方向に沿って連続するように、目立てエリアが存在することを検出するための検出手段と、
前記検出時に、スタート部側の目立て柄のデータをエンド部側に対して、1コース分相対的に上側へ移動させるための補正手段、とを設けたことを特徴とする、デザイン装置。
【請求項2】
前記指定手段では、目立てエリアの両端部の指定を受け付けると共に、指定された両端部を編地の外形に対応づけて記憶し、さらに指定された両端部間で、編地のエッジから内側に所定のウェール数分のエリアを、目立てエリアとして記憶し、
前記修正手段では、編地の外形デザインの変更に対応して、前記両端部を移動させ、
前記展開手段では、目立て柄の単位となる柄のデータを記憶して、前記目立てエリア全体に拡がるようにコピーすることにより展開するようにしたことを特徴とする、請求項1のデザイン装置。
【請求項3】
前記補正手段では、スタート部側で、目立て柄での最上段のコースのデータを、目立て柄の最下段のコースに移動させると共に、他のコースの目立て柄のデータを、1コース分ずつ上側へシフトさせることを特徴とする、請求項1または2のデザイン装置。
【請求項4】
糸のキャリヤを周回させながら、前後の編地からなる筒を横編機により編成すると共に、編地の端部に目立て柄を形成するようにした、ニット製品のデザインデータを作成する方法において、
目立てエリアの指定を受け付けると共に、指定された目立てエリアを編地の外形に対応づけて記憶し、
編地の外形デザインの変更に対応して、前記目立てエリアを修正し、
目立て柄のデータを記憶して、前記目立てエリア全体に展開し、
キャリヤの周回開始部の両側の周回方向スタート部とエンド部との双方に、かつスタート部とエンド部との間をコース方向に沿って連続するように、目立てエリアが存在することを検出した際に、
スタート部側の目立て柄のデータをエンド部側に対して、1コース分相対的に上側へ移動させる、ことを特徴とする、デザイン方法。
【請求項5】
前記指定では、目立てエリアの両端部の指定を受け付けると共に、指定された両端部を編地の外形に対応づけて記憶し、さらに指定された両端部間で、編地のエッジから内側に所定のウェール数分のエリアを、目立てエリアとして記憶し、
前記修正では、編地の外形デザインの変更に対応して、前記両端部を移動させ、
前記展開では、目立て柄の単位となる柄のデータを記憶して、前記目立てエリア全体に拡がるようにコピーすることにより展開することを特徴とする、請求項4のデザイン方法。
【請求項6】
前記1コース分の上側への移動では、スタート部側で、目立て柄での最上段のコースのデータを、目立て柄の最下段のコースに移動させると共に、他のコースの目立て柄のデータを、1コース分ずつ上側へシフトさせることを特徴とする、請求項4または5のデザイン方法。
【請求項7】
糸のキャリヤを周回させながら、前後の編地からなる筒を横編機により編成すると共に、編地の端部に目立て柄を形成するようにした、ニット製品のデザインデータを作成するためのプログラムにおいて、
目立てエリアの指定を受け付けると共に、指定された目立てエリアを編地の外形に対応づけて記憶するための指定命令と、
編地の外形デザインの変更に対応して、前記目立てエリアを修正するための修正命令と、
目立て柄のデータを記憶して、前記目立てエリア全体に展開するための展開命令と、
キャリヤの周回開始部の両側の周回方向スタート部とエンド部との双方に、かつスタート部とエンド部との間をコース方向に沿って連続するように、目立てエリアが存在することを検出するための検出命令と、
前記検出時に、スタート部側の目立て柄のデータをエンド部側に対して、1コース分相対的に上側へ移動させるための補正命令、とを設けたことを特徴とする、デザインプログラム。
【請求項8】
前記指定命令では、目立てエリアの両端部の指定を受け付けると共に、指定された両端部を編地の外形に対応づけて記憶し、さらに指定された両端部間で、編地のエッジから内側に所定のウェール数分のエリアを、目立てエリアとして記憶し、
前記修正命令では、編地の外形デザインの変更に対応して、前記両端部を移動させ、
前記展開命令では、目立て柄の単位となる柄のデータを記憶して、前記目立てエリア全体に拡がるようにコピーすることにより展開するようにしたことを特徴とする、請求項7のデザインプログラム。
【請求項9】
前記補正命令では、スタート部側で、目立て柄での最上段のコースのデータを、目立て柄の最下段のコースに移動させると共に、他のコースの目立て柄のデータを、1コース分ずつ上側へシフトさせることを特徴とする、請求項7または8のデザインプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−225809(P2006−225809A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42498(P2005−42498)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】