説明

ニンニクエキス含有物質の製造方法

【課題】ニンニク臭を備えたニンニクエキス含有物質を製造する方法、及びニンニク臭を備えた製品などを提供する。
【解決手段】(1)ニンニク抽出液を30℃〜95℃及び0.00001気圧〜0.1気圧の条件下で処理することにより蒸留物を得る減圧蒸留工程S120、(2)前記蒸留物をpH9〜pH14の範囲のアルカリで処理するアルカリ処理工程S150、(3)アルカリ処理後の前記蒸留物に活性炭を加えて、吸着させる活性炭吸着工程S170を備えたことを特徴とするニンニクエキス含有物質の製造方法によって達成される。必要に応じて、(4)活性炭吸着工程後の前記活性炭から、前記活性炭に吸着された物質を脱離させS180、ニンニク臭を備えた物質を回収する回収工程S190を備えることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニンニクエキス含有物質の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ニンニクは栄養価が高く、各種の効果を有することが知られており、健康増進・滋養強壮を目的として食されてきた。近年には、その効果に注目が集まり、医薬品・健康食品・入浴剤などとして、幅広く利用されている。
一方、ニンニクを摂食すると、しばらく後まで特有の刺激臭を発するために、ニンニクの摂取については、時と場所を考慮する必要があった。ニンニクに特有の刺激臭は、生ニンニク中のアリイン(無臭成分)が、ニンニク中の酵素アリナーゼによって変化させられ、アリシン(有臭成分)が生じることによって起こる。生ニンニクをすり潰すと、アリインから数十万ppm以上のアリシンが生成されて、強烈な刺激臭を発する事が知られている。このため、「無臭ニンニク」という文言が付された商品については、大部分のアリシンを取り除くことによって、その製造が行われている。
例えば、特許文献1には、アリシンを含有するニンニク抽出液に活性炭を加えて、アリシンを除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−103622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、アリシンを除去することにより「無臭ニンニク」を得ることに主眼が置かれている。但し、アリシンは水に溶解しやすいため、主として油性物質を吸着する活性炭を用いても、効率的に除去することは難しい。また、アリシンの回収に対する観点は欠けているため、アリシンを吸着させた活性炭は、産業廃棄物として廃棄されていた。
また、アリシンを加熱して除去する場合には、すさまじい悪臭が放出されたり、悪臭物質が沈澱することとなり、周辺環境に対して好ましくない影響を与えることがあった。
また、生ニンニクを粉砕し、水蒸気蒸留することでガーリックオイルが得られているが、その回収量は0.2%〜0.5%と低いものであるため、非常に高価となっている。
このように、従来の技術では、ニンニクから除去されたアリシンを製品として利用することについては、考慮されていなかった。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ニンニク臭を備えたニンニクエキスを製造する方法、及びニンニク臭を備えた製品などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討の結果、ニンニク抽出液を減圧蒸留して得られた蒸留物をアルカリ処理することにより、効率よく活性炭に吸着させられることを見出し、基本的には本発明を完成するに至った。
こうして、第1の発明に係るニンニクエキス含有物質の製造方法は、(1)ニンニク抽出液を30℃〜95℃(好ましくは40℃〜85℃、更に好ましくは50℃〜80℃)及び0.00001気圧〜0.1気圧(好ましくは0.0001気圧〜0.05気圧、更に好ましくは0.001気圧〜0.05気圧)の条件下で処理することにより蒸留物を得る減圧蒸留工程、(2)前記蒸留物をpH8〜pH14(好ましくは、pH9〜pH14、更に好ましくはpH10〜pH14)の範囲のアルカリで処理するアルカリ処理工程、(3)アルカリ処理後の前記蒸留物に活性炭を加えて、吸着させる活性炭吸着工程を備えたことを特徴とする。
【0006】
ニンニク臭を備えたほとんどの物質は、ニンニク抽出液から得られる蒸留物に含有されている。蒸留物質には、無臭のアリイン、アリイン由来のアリシン、アリシン由来のジアリルジスルフィド(DADS)などの有機硫黄化合物が含まれている。本願発明の「ニンニク臭を備えた物質」には、主として上記有機硫黄化合物が含まれる。
DADSは、ネギ属植物に見られる有機硫黄化合物であり、ジアリルトリスルフィド・ジアリルテトラスルフィドとともにニンニクの蒸留油の主成分の一つである。DADSには、疲労回復・滋養強壮・殺菌・血栓予防・動脈硬化予防・ガン予防などの効果があることが知られている。
上記(1)減圧蒸留工程によって、ニンニク抽出液から得られる蒸留物には、ニンニク臭を備えた物質(主として、アリシン)が多量に含まれている。特許文献1では、アリシンを除去するために、活性炭処理を行っているが、この方法ではアリシンの脱離に対する観点が欠けているため、ニンニク臭を備えた物質を効率よく回収することができない。そこで、蒸留物に上記(2)アルカリ処理工程を施すことにより、アリシンをDADSに変化させる。本発明者の検討によれば、活性炭に対する吸着能は、DADSがアリシンに比べて、数倍以上優れている。
【0007】
こうして、DADSに変化させた後に、上記(3)活性炭吸着工程を実施することにより、ニンニク臭を備えた物質(主として、DADS)を効率よく吸着させられる。なお、アルカリ処理工程の後に、(2’)アルカリ処理工程後の蒸留物に酸を加えて中和する中和工程を設けることができる。
次に必要に応じて、(4)活性炭吸着工程後の前記活性炭から、前記活性炭に吸着された物質を脱離させ、ニンニク臭を備えた物質を回収する回収工程を備えることができる。活性炭に吸着されたニンニク臭を備えた物質を脱離するために、上記(4)回収工程を実施することにより、ニンニク臭を備えた物質を得る。
上記発明において、(2)アルカリ処理工程に用いるアルカリは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、またはアンモニアから選択される少なくとも1つのものであることが好ましい。また、アルカリは、複数種類のものを混合して使用することもできる。
本発明によれば、従来の製法に比べると、DADSの純度が高く、かつそのニンニク臭も極めて少ないものが得られる。従来の製法では、主として、熱によりアリシンがDADSに変化し、更に分解して悪臭を発する成分が発生する一方、本発明では、なるべく熱をかけないでDADSを製造するためであると考えられる。
第2の発明に係るニンニクエキス含有物質は、上記第1の発明によって製造されたものであることを特徴とする。このとき、ジアリルジスルフィド(DADS)を含むことが好ましい。
また、第3の発明に係るニンニクエキス含有物質を含む組成物は、上記第1の発明によって製造されたものを含有するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、容易かつ短時間に、ニンニク臭を備えた物質を吸着させたニンニクエキス含有物質、或いは単独で回収したニンニクエキスが得られる。ニンニクエキスは、ガーリックオイルの原料として用いることができる。また、ニンニクエキスを各種のもの(例えば、食品、医薬品、サプリメント、シクロデキストリンなど)に混合することにより、ニンニク臭を備えた組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態のニンニクエキスの製造手順を簡単に説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
図1には、本実施形態におけるニンニクエキスの製造手順を簡単に示した。
(1)減圧蒸留工程
減圧蒸留工程を実施するための準備として、生ニンニクの皮をむき、洗浄した後に適当な大きさ(約3mm〜1mm程度の幅)にスライスする(S100)。次に、適当量の水を添加し、常温(約15℃〜25℃)にて適当時間(約30分間〜約2時間)だけ浸漬し、ニンニク成分を浸出させた後に、適当なメッシュ(例えば、ステンレス50〜100メッシュ)を用いて、ろ過する(S110)。
次に、減圧蒸留機を用いて、減圧蒸留工程を実施する(S120)。温度を上げすぎるとアリシンが分解するおそれがあるので、なるべく低い温度条件を用いるために、圧力を下げることが好ましい。但し、産業レベルで実施可能な圧力を用いることが好ましい。そのような、温度および圧力の条件として、30℃〜95℃(好ましくは40℃〜85℃、更に好ましくは50℃〜80℃)及び0.00001気圧〜0.1気圧(好ましくは0.0001気圧〜0.05気圧、更に好ましくは0.001気圧〜0.05気圧)の条件で設定することができる。
この工程により、ニンニクは非蒸留物(S140)と蒸留物(S150)とに分離される。なお、非蒸留物を加工することにより、無臭ニンニク製品を製造できるが、本願発明とは関係が薄いため、詳細な記述は省略する。
【0011】
(2)アルカリ処理工程
次に、蒸留物にアルカリを添加することにより、アルカリ条件下として、アリシンをDADSに変換する(S150)。アルカリ処理工程に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが例示されるが、これらには限られない。蒸留物に適当なアルカリを添加し、pH8〜pH14(好ましくはpH9〜pH14、更に好ましくはpH10〜pH14)の範囲のアルカリ条件とする。室温(約15℃〜約25℃)にて、適当な時間(約5分間〜約20分間)を経過させてアルカリ処理工程を完了する。
次いで、酸を添加して中和する(S160)。なお、本発明では、必ずしも中和を行う必要はないが、後の処理が簡易となるために、中和することが好ましい。中和のために用いられる酸としては、塩酸が例示されるが、これには限られない。
【0012】
(3)活性炭吸着工程
次に、活性炭を添加し、DADSを主とするニンニク臭を備えた物質を吸着させる(S170)。活性炭の添加量については、活性炭の種類・生ニンニクの使用量・ニンニク臭を備えた物質の回収量にも依るが、生ニンニクの使用量に対して、約1/2000〜約1/500程度が例示されるが、これには限られない。この工程により、ニンニク臭を吸着させた活性炭(ニンニクエキス含有物質)が得られる。この活性炭をこのまま用いることもできる。
(4)回収工程
次に、活性炭を取り出して乾燥させた後、活性炭に吸着した物質を脱離させ(S180)、ニンニク臭を備えた物質(ニンニクエキス)を回収する(S190)。
活性炭に吸着した物質を脱離させる(S180)には、一般に生化学的に用いられる方法が使用される。そのような方法として、例えば(i)有機溶媒を用いる方法、(ii)加熱する方法、(iii)アルカリを添加する方法、(iv)シクロデキストリン(CD:例えば、α-CD、β-CD、γ-CD)を用いる方法、(v)超臨界条件を用いた液状二酸化炭素を用いる超臨界液体抽出方法などが例示されるが、これらには限られない。
【0013】
(i)有機溶媒を用いる方法としては、活性炭に適当量(例えば、活性炭の質量に対して、5倍容〜20倍容の量)の有機溶媒(例えば、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、ヘキサンなど)を添加した後、室温で適当な時間だけ静置して活性炭に吸着した物質を脱離させ、有機溶媒と活性炭とに分離した後、有機溶媒を減圧濃縮することで、ニンニク臭を備えた物質を回収する(S190)。
(ii)加熱する方法としては、活性炭を密封状態として高温環境(例えば、100℃〜200℃)におき、気相中に脱離してきたニンニク臭を備えた物質を回収する(S190)。
(iii)アルカリを添加する方法としては、活性炭に適当なアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなど)を添加して、pH9〜pH14(好ましくはpH10〜pH14)として活性炭に吸着した物質を脱離させ(S180)、適当な酸を添加して中和した後、脱塩処理して、ニンニク臭を備えた物質を回収する(S190)。
(iv)CDを用いる方法としては、活性炭に適当量のCD(例えば、活性炭1gあたり、0.5g〜10gを用いる)と水を添加し、適当な温度(40℃〜80℃)で処理することにより、活性炭に吸着した物質を脱離させ(S180)た後、ニンニク臭を備えた物質を回収する(S190)。
(v)超臨界条件を用いた液状二酸化炭素を用いる超臨界液体抽出方法としては、臨界点(31.1℃、7.48MPa)を超えて液体とした二酸化炭素を抽出溶媒として用いて、活性炭に吸着した物質を脱離させ(S180)た後、二酸化炭素を飛ばすことで、ニンニク臭を備えた物質を回収する(S190)。
上記(i)〜(v)の方法のいずれを用いても良いが、回収率の点からは、(i)有機溶媒を用いる方法、(iv)CDを用いる方法、または(v)液状二酸化炭素を用いる方法を使用することが好ましい。CDを用いる方法によれば、DADSが包接されることにより、DADSの揮散が抑制されてニンニク臭がなくなることに加え、DADSが安定化される、及び粉末化できるなどの効果がある。
【0014】
<本発明に係るニンニクエキスを含有する組成物>
本発明に係るニンニクエキスを含有する組成物の形態は特に限定されず、例えば、ニンニクエキスそのもの、またはニンニクエキスに通常用いられている賦形剤または添加剤を配合し、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉剤、カプセル剤、水和剤、乳剤、液剤、またはエキス剤などの剤型に、当業者に周知の手法によって製剤化できる。上記剤型のうち、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉剤およびカプセル剤などの固形投与可能な剤型が好ましい。また、液剤は、ニンニクの非蒸留物と混合できるので好ましい。
通常用いられる賦形剤としては、例えば、結合剤(例えば、シロップ、アラビアゴム、ショ糖、乳糖、粉末還元麦芽糖、セルロース糖、マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン類、ゼラチン、ソルビット、トラガント、ポリビニルピロリドンなど)、滑沢剤(例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ポリエチレングリコールなど)、崩壊剤(例えば、ジャガイモ澱粉など)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなど)、固結防止剤(例えば、シリカなど)などを例示できる。添加剤としては、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などを例示できる。
【0015】
上記製剤形態を有するサプリメントに加え、前記ニンニクエキスを飲食物の原料の一つとして用いて調製される食品、保健機能食品、医薬品なども含まれる。
また、本願発明に係るニンニクエキスは、飲料(炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、アルコール飲料、粉末飲料、スポーツ飲料、サプリメント飲料、ゼリー入り飲料、茶飲料など)、菓子類(プリン・ゼリー・ババロア・ヨーグルトなどのデザート、アイスクリーム・ソフトクリーム・アイスキャンディーなどの冷菓、板ガム・粒ガムなどのガム、チョコレート、キャンディ、キャラメル、ビスケット・クッキー・おかき・煎餅などの焼き菓子、パン、スープ、ハム・ソーセージ・かまぼこなどの魚肉および畜肉加工品、うどん・そば・中華そば・スパゲティ・マカロニ・ビーフン・はるさめ・ワンタンなどの麺類、ドレッシング・ケチャップ・ソース・醤油などのソース類、総菜などを例示できる。
また、本発明に係るニンニクエキスを含有する組成物は、その他の剤、乳液、石鹸、洗顔料、入浴剤、クリーム、乳液、化粧水、オーデコロン、ひげ剃り用クリーム、ひげ剃り用ローション、化粧油、日焼け・日焼け止めローション、おしろいパウダー、ファンデーション、香水、パック、爪クリーム、エナメル、エナメル除去液、眉墨、ほお紅、アイクリーム、アイシャドー、マスカラ、アイライナー、口紅、リップクリーム、シャンプー、リンス、染毛料、分散液、洗浄料などの皮膚外用剤が含まれる。なお、この皮膚外用剤には、本発明に係るニンニクエキスに加えて、一般に皮膚外用剤に配合される成分、油分、高級アルコール、脂肪酸、紫外線吸収剤、粉体、顔料、界面活性剤、多価アルコール・糖、高分子、生理活性成分、溶媒、酸化防止剤、香料、防腐剤などを配合できる。
【0016】
次に、実施例について説明することで、本発明の実施形態について、更に詳細に説明する。
<実施例1> 活性炭へのDADSの吸着
10kgの生ニンニクの皮をむき、洗浄した後に、約2mm幅のスライスを作成した。スライスされたニンニクに12kgの水を加えて、25℃にて60分間浸漬し、ニンニク成分を浸出させた。Brix濃度を測定したところ、3.5%〜4.5%であった。
次いで、ステンレス50〜100メッシュを用いて、上記ニンニク浸出液をろ過し、約12kgのろ液を得た。
上記ろ液を加熱温度80℃(蒸発温度40℃)、0.05気圧以下の条件とし、全液量が2kg以下になるまで、遠心式薄膜真空蒸発装置(大川原製作所製)で約10分間の減圧蒸留処理を行った。非蒸留物(濃縮液)のBrix濃度を測定したところ、20%以上であった。
一方、約10kgの蒸留物(留液)に、5mLの6N水酸化ナトリウムを添加・混合し、pHを10以上とした後、室温にて5分間処理した。次いで、10mLの希塩酸を添加・混合することで、溶液を中和した。
ここに、10gの活性炭(太閤SGP粒状活性炭:食添適合品)を添加し、室温にて60分間撹拌し、ニンニク臭を備えた物質(主としてDADS)を活性炭に吸着させた。
活性炭を加えた液を100mesh篩にてろ過し、活性炭を取り出した後、水洗し、25℃〜60℃にて3時間乾燥させた。
こうして、DADSを吸着させた活性炭を得た。
【0017】
<実施例2> 減圧蒸留条件の検討
実施例1の減圧蒸留工程における加熱温度、蒸発温度及び減圧度が異なる条件で、アリシンの回収率を検討した。なお、以下に説明する条件以外は実施例1と同様の方法を用いた。加熱温度を60、70および80℃(いずれも減圧度0.05気圧)の条件並びに減圧度を0.05、0.1、0.2及び0.3気圧(いずれも加熱温度80℃)の条件に設定し、それぞれの条件において得られる留液のアリシン量を、HPLCを用いて、以下条件で定量した。
<HPLC分析条件>
HPLC:島津製作所(株)製LC−10A
カラム:野村化学 Develosil 3.0μm C18 3.0×100mm
カラム温度:40℃
移動相:0.01%リン酸/メタノール=4:1
流量:0.5mL/min
検出波長:UV 230nm、0.1AUFS
注入量:10μL
結果を表1に示した。
【0018】
【表1】

その結果、減圧度が0.1気圧以下であれば、蒸発温度が50℃以下となり、50%以上のアリシンを回収できることが分かった。品温(蒸発温度)が低い方が、アリシンを安定して回収できるので好ましい。このため、品温を30℃〜50℃の低温に抑えておくことが好ましい実施形態となる。
また、蒸留速度は、ΔT(加熱温度−蒸発温度)が大きいほど早くなることから、加熱温度を70℃以上(蒸発温度が50℃以下)に設定すると望ましいことがわかった。
【0019】
<実施例3> アルカリ処理条件の検討
実施例1のアルカリ処理工程におけるpHが異なる条件で、DADSの回収率を検討した。なお、以下に説明する条件以外は実施例1と同様の方法を用いた。6N水酸化ナトリウムの添加量を調整し、pHを8、9、10及び11に設定し、それぞれの条件において活性炭に吸着するアリシン量及びDADS量をHPLCにより定量した。DADS定量時のHPLC条件は、実施例2に記載の条件において、移動相を「0.01%リン酸/メタノール=2:3」とした以外は、同じ条件とした。
結果を表2に示した。
【0020】
【表2】

その結果、pH9以上のアルカリ処理によって、70%以上のDADSが回収できることが分かった。
また、活性炭に対する吸着量はDADSの100%に対しアリシンは10.5%であり、活性炭に対する吸着能は、DADSがアリシンに比べて約10倍優れていた。
【0021】
<実施例4> 活性炭に吸着されたDADSの安定性確認試験
実施例1で得た活性炭中のDADSの安定性を確認した。
40℃、60℃、および70℃のそれぞれの温度で3時間放置した後、活性炭中のDADS量を、温度処理前の活性炭中のDADS量と比較して、残存率を求めた。
結果を表3に示した。
【0022】
【表3】

【0023】
これらの結果より、60℃3時間以内の条件であれば、DADSの揮散割合は10%以下であり、90%以上のDADSが得られることが分かった。
<実施例5> 活性炭からのDADSの脱離・回収試験−1
実施例1で得た活性炭1gについて10mLのエタノールを添加・撹拌し、活性炭に吸着したDADSを脱離させた。フィルタを用いてろ過し、エタノールを活性炭から分離した後、減圧濃縮装置(エコクレール:株式会社テクノシグマ製)を用いてエタノールを濃縮した。この操作によって、DADSを含む油状物質を得た。この物質には、ニンニク臭があった。
活性炭からの脱離・回収率は、約50%であった。
【0024】
<実施例6> 活性炭からのDADSの脱離・回収試験−2
実施例1で得た活性炭1gをフラスコに添加し、120℃としたオイルバスを用いて、熱処理を行った。フラスコから発生する物質を回収したところ、油状の物質が得られた。この物質には、ニンニク臭があった。
溶媒回収装置の冷却壁面に相当量の物質が付着したため、活性炭からの脱離・回収率は、1〜2%であった。但し、回収方法を改良することで、回収率の増加は見込めると考えられた。
<実施例7> 活性炭からのDADSの脱離・回収試験−3
実施例1で得た活性炭1gについて20gのα-CDを添加し、約100mLの水を添加した後、60℃〜70℃にて、活性炭に吸着したDADSを脱離・抽出し、α-CDに含有させた。100mesh篩にてろ過し、ろ液を冷却後、α-CDを析出させることで、DADSを含有するα-CDを得た。これをろ過、及び乾燥し、DADS粉末及びDADS溶液として得た。液状及び粉末状の物質は、無臭であった。
活性炭からの脱離・回収率は、約40%であった。
【0025】
<実施例8> ニンニクエキス含有物質の成分比較試験
本実施形態により製造されるニンニクエキス含有物質の成分を、市販のガーリックオイル及びサプリメントと比較した。比較は、ガーリックオイルの主成分であるDADSで実施した。
検体として、下記1)〜5)を用いた。
1)ガーリックオイル:ニュージーランドのLotus社製の精油(水蒸気蒸留)
2)ガーリックオイルサプリメント:ネイチャーメイドガーリック(大塚製薬)
含量:1粒(348mg)中 ガーリックオイル1mg
原材料:大豆油、ゼラチン、にんにく油、グリセリン
3)活性炭吸着物(活性炭吸着工程(S170)で得られた物質を乾燥させたもの)
4)エタノール抽出物(油状)(回収工程(S190)において、エタノールを用いて抽出されたもの)
5)シクロデキストリン包接体(回収工程(S190)において、CDを用いたもの)
上記3)〜5)については、日本製薬工業にて製造したものを用いた。
DADSの純度は、HPLCを用いて行い、全ピーク面積に対するDADSのピーク面積を純度として計算した。結果を表4に示した。
【0026】
【表4】

活性炭吸着物、シクロデキストリン包接体のDADS純度は約60%で、エタノール抽出物(油状)のDADS純度は約40%であった。これに対し、市販ガーリックオイルのDADS純度は13%、ガーリックオイルサプリメントのDADS純度は7.3%と低かった。
ガーリックオイルは、水蒸気蒸留により製造する際に、DADSが加熱により分解し、純度が低下するのに対し、本実施形態で得られた物質は、低温で処理するため高いDADS純度のニンニクエキスが得られるものと考えられた。
また、市販ガーリックオイル及びガーリックオイルサプリメントにはニンニクの強烈なにおいがあるのに対し、本実施形態で得られた物質は、DADS純度が高く、ほとんど臭いがないか、無臭であった。
【0027】
<実施例9> ガーリックオイルの製造
10kgの生ニンニクの皮をむき、洗浄した後に、約2mm幅のスライスを作成した。スライスされたニンニクに20kgの水を加えて、25℃にて60分間浸漬し、ニンニク成分を浸出させた。Brix濃度を測定したところ、3.5%〜4.5%であった。
次いで、ステンレス50〜100メッシュを用いて、上記ニンニク浸出液をろ過し、約15kgのろ液を得た。
上記ろ液を80℃、0.05気圧以下の条件とし、全液量が3kg以下になるまで、約200分間の減圧蒸留処理を行った。非蒸留物(濃縮液)のBrix濃度を測定したところ、20%以上であった。
一方、約12kgの蒸留物(留液)に、5mLの6N水酸化ナトリウムを添加・混合し、pHを10以上とした後、室温にて5分間処理した。次いで、10mLの希塩酸を添加・混合することで、溶液を中和した。
ここに、4gの活性炭(太閤SGP粒状活性炭:食添適合品)を添加し、室温にて60分間撹拌し、ニンニク臭を備えた物質を活性炭に吸着させた。
活性炭を加えた液を100mesh篩にてろ過し、活性炭を取り出した後、洗浄し、25℃〜60℃にて3時間乾燥させた。乾燥した活性炭に50mLのエタノールを添加・撹拌し、活性炭への吸着物を脱離した。1μmのフィルタを用いてエタノールをろ過した後、エタノールをエバポレータで濃縮することで、約5mLの油状物質(以下、ニンニクエキスという)を得た。この物質には、ニンニク臭が備えられていた。こうして、本実施例の方法により、市販のガーリックオイルと同様のものが得られた。
【0028】
<実施例10> ニンニクエキスを含有する食品
実施例8で得たニンニクエキスを用いて、各種の食品を調製した。各種の食品(例えば、スパゲティ、肉と野菜の炒め物、ステーキ、チャーハン、ガーリックトーストなど)に使用したところ、いずれの食品についても良好な味覚であった。また、上記以外にも、一般にニンニクを用いる食品については、実施例8で得たニンニクエキスを用いることができる。
【0029】
<実施例11> ニンニクエキスを含有する組成物の配合例
次に、実施例9で得たニンニクエキスを含有する組成物の配合例を挙げる。なお、本発明は、下記配合例に限られず、実施できる。
配合例1:チューインガム(単位は、wt%)
砂糖 54.0、ガムベース 20.0、グルコース 10.0、水飴 15.0、香料 0.5、ニンニクエキス 0.5を含有するチューインガム。
配合例2:柔らかいキャンディ(単位は、wt%)
還元水飴 40.0、グラニュー糖 20.0、ブドウ糖 20.0、ゼラチン 4.7、レモン果汁 4.0、レモンフレーバー 0.5、色素 0.02、ニンニクエキス 1.0に水を加えて、100.0とした柔らかいキャンディ。
配合例3:ハードキャンディ(単位は、wt%)
砂糖 50.0、水飴 30.0、有機酸 2.0、香料 0.2、ニンニクエキス 0.4に水を加えて、100.0としたハードキャンディ。
配合例4:ヨーグルト(単位は、wt%)
牛乳 40.0、脱脂粉乳 6.0、砂糖 8.0、寒天 0.15、ゼラチン 0.1、乳酸菌 0.005、ニンニクエキス 0.5、香料 0.2に水を加えて、100.0としたヨーグルト。
【0030】
配合例5:カプセル(単位は、wt%)
米胚芽油 85.0、乳化剤 14.0、ニンニクエキス 1.0を含有するソフトカプセル。
配合例6:清涼飲料(単位は、wt%)
果糖ブドウ糖液糖 30.0、乳化剤 0.5、ニンニクエキス 0.05、香料 0.2に水を加えて100.0とした清涼飲料。
配合例7:錠剤(単位は、wt%)
乳糖 54.0、セルロース 30.0、澱粉分解物 10.0、グリセリン脂肪酸エステル 5.0、ニンニクエキス 1.0を含有する錠剤。
配合例8:錠菓(単位は、wt%)
砂糖 75.0、グルコース 20.0、ショ糖脂肪酸エステル 0.2、ニンニクエキス 0.5に水を加えて100.0とした錠菓。
【0031】
配合例9:化粧クリーム(単位は、wt%)
スクワラン 20.0、ミツロウ 5.0、精製ホホバ油 5.0、グリセリン 5.0、グリセリンモノステアレート 2.0、ポリオキシエチレン(20)ソルビタン-モノステアレート 2.0、ニンニクエキス 2.0に防腐剤 0.2、香料 0.2に水を加えて100.0とした化粧クリーム。
配合例10:化粧水(単位は、wt%)
エタノール 5.0、グリセリン 2.0、1,3−ブチレングリコール 2.0、ポリエチレンオレイルエーテル 0.5、クエン酸ナトリウム 0.1、クエン酸 0.1、ニンニクエキス 0.1に水を加えて100.0とした化粧水。
配合例11:ボディジェル(単位は、wt%)
マカデミアナッツ油 2.0、ミリスチン酸オクチルドデシル 10.0、メチルフェニルポリシロキサン 5.0、ベヘニルアルコール 3.0、ステアリン酸 3.0、バチルアルコール 1.0、モノステアリン酸グリセリル 1.0、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット 2.0、水素添加大豆リン脂質 1.0、セラミド 0.1、パルミチン酸レチノール 0.1、防腐剤 0.1、ツボクサ抽出物 1.0、1,3−ブチレングリコール 5.0、ニンニクエキス 1.0に水を加えて100.0としたボディジェル。
配合例12:乳液(単位は、wt%)
スクワラン 4.0、ワセリン 2.5、セタノール 2.0、グリセリン 2.0、親油型モノステアリン酸グリセリン 1.0、ステアリン酸 1.0、L−アルギニン 1.0、水酸化カリウム 0.1、香料 0.1、ニンニクエキス 0.5に水を加えて100.0とした乳液。
配合例13:液状入浴剤(単位は、wt%)
プロピレングリコール 50.0、エタノール 20.0、硫酸ナトリウム 5.0、ラノリン 0.5、アボガド油 0.5、色素 1.5、香料 22.0、ニンニクエキス 0.5を含有する液状入浴剤。
【0032】
このように本実施形態によれば、容易かつ短時間に、ニンニク臭を備えたニンニクエキスが得られた。このニンニクエキスは、ガーリックオイルの原料として用いることができた。また、ニンニクエキスを各種のもの(例えば、食品、医薬品、サプリメント、シクロデキストリンなど)に混合することにより、ニンニク臭を備えた組成物を提供できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ニンニク抽出液を30℃〜95℃及び0.00001気圧〜0.1気圧の条件下で処理することにより蒸留物を得る減圧蒸留工程、(2)前記蒸留物をpH9〜pH14の範囲のアルカリで処理するアルカリ処理工程、(3)アルカリ処理後の前記蒸留物に活性炭を加えて、吸着させる活性炭吸着工程を備えたことを特徴とするニンニクエキス含有物質の製造方法。
【請求項2】
更に、(4)活性炭吸着工程後の前記活性炭から、前記活性炭に吸着された物質を脱離させ、ニンニク臭を備えた物質を回収する回収工程を備えたことを特徴とする請求項1に記載のニンニクエキス含有物質の製造方法。
【請求項3】
前記(2)アルカリ処理工程の後に、(2’)アルカリ処理工程後の蒸留物に酸を加えて中和する中和工程を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のニンニクエキス含有物質の製造方法。
【請求項4】
前記(4)回収工程において、前記活性炭に吸着された物質を脱離させる方法は、有機溶媒を用いる方法、シクロデキストリンを用いる方法、加熱する方法、またはアルカリを添加する方法からなる群から選択される1つの方法であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のニンニクエキス含有物質の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の製造方法によって製造されたニンニクエキス含有物質。
【請求項6】
請求項5に記載のニンニクエキス含有物質を含む組成物。
【請求項7】
ジアリルジスルフィド(DADS)を含む請求項5に記載のニンニクエキス含有物質。

【図1】
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【公開番号】特開2011−254755(P2011−254755A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132201(P2010−132201)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(399087433)日本製薬工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】