説明

ネイル挿入型人工膝関節

【課題】 人工関節置換後に骨折を起こした場合に人工関節を取り外すことなく骨折治療用のネイルが挿入できるようにする。
【解決手段】 脛骨骨端に装着される脛骨側部材と大腿骨骨端に装着される大腿骨側部材とを転動可能に組み合わせた人工膝関節において、大腿骨側部材の内面にボックスを突設し、ボックスに、大腿骨側部材を脛骨側部材に対して後方に屈曲させたとき、その外面から大腿骨にネイルを回転不能に挿入できるネイル挿入孔を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膝関節に人工膝関節を置換した後に大腿骨が骨折したような場合、当該人工膝関節を取り外すことなく、骨折治療用のネイルが挿入できるネイル挿入型人工膝関節に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症、関節リウマチ等に代表される関節疾患に対し、疼痛の低減、関節機能再建及び歪み是正を目的として人工関節置換術が適用されている。この人工関節は種々の関節で置換されているが、もっとも多いのは膝関節である。膝疾患で人工膝関節を置換した後は、日常生活動作には制約もあるが、激しい運動を伴わない範囲での活動性は担保されており、この意味で、生活の質を向上させる手段として有用である。
【0003】
ところが、その適用となる患者はほとんどが高齢者であるため、人工膝関節に起因しない問題の発生もある。その代表例として、歩行中等における転倒が挙げられる。高齢者が転倒すると、骨折の危険を伴い、下肢に着目すると、大腿骨上顆骨折、骨幹部骨折を発生する頻度が非常に高い。これらの骨折は、人工膝関節を置換した後にも当然ながら発生する。
【0004】
骨折治療の基本は、骨折個所を固定することであり、大腿骨上顆骨折や骨幹部骨折であっても同様である。一般に、骨折個所の固定は、骨折個所を通過させてネイル(ピン)を髄腔内に挿入し、ネイルを骨幹部からスクリューで止める内固定法と、皮質骨の外周に骨折個所を挟んでプレートを当て、プレートを皮質骨にスクリューで止める外固定法とがあるが、内固定法の方が動作の制約が少ないことや固定が強固になって治癒が早い。このため、内固定法が多く採用されている。
【0005】
大腿骨上顆骨折や骨幹部骨折に内固定法を適用しようとすると、既に置換されている人工膝関節の大腿骨側部材が障害となってそのままではネイルが挿入できない。したがって、大腿骨側部材を一旦取り外し、ネイルを挿入して骨折が治癒した後に再度人工膝関節を装着する等しなければならない。
【0006】
人工膝関節は、大腿骨に装着される大腿骨側部材と脛骨に装着される脛骨側部材とが対をなすものであるが、このうち、大腿骨側部材としては、特許文献1及び2に示されるように、外面(遠位側)に内側顆部と外側顆部とを有する側面視略C形をしている。そして、その内面(近位側)を大腿骨の遠位端に装着したものであるが、時間が経つと、遠位端では骨が成長して内面と十分に固定されている。したがって、これをわざわざ剥離することは正常な骨組織を破壊することになって損失であるとともに、患者に多大な負担を強いることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−028170号公報
【特許文献2】特開2003−230582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、人工膝関節を置換した後に大腿骨が骨折した場合、人工膝関節を取り外さなくても、ネイルが挿入できるようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、脛骨骨端に装着される脛骨側部材と大腿骨骨端に装着される大腿骨側部材とを転動可能に組み合わせた人工膝関節において、大腿骨側部材の内面にボックスを突設し、ボックスに、大腿骨側部材を脛骨側部材に対して後方に屈曲させたとき、その外面から大腿骨にネイルを回転不能に挿入できるネイル挿入孔を形成したことを特徴とするネイル挿入型人工膝関節を提供したものである。
【0010】
そして、これにおいて、請求項2に記載した、ネイル挿入孔にキー溝を形成し、ネイルにこのキー溝に嵌入できるキーを設けた手段、請求項3に記載した、キーを設けた部分とネイル挿入孔を上方が径細のテーパ形状とした手段、請求項4に記載した、ネイルの頭部を胴径よりも大きな径を有する多角形にし、ネイル挿入孔に頭部の形状に応じてこのヘッドが陥没できるザグリ穴を陥設した手段を提供する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によると、大腿骨側部材に適宜ボックスを形成しておくだけで、いざ、骨折というときには、このボックスを利用してネイルを挿入でき、この場合、大腿骨側部材を取り外す必要はない。したがって、正常な骨組織を破壊することもなければ、患者の負担もそれほどではない。なお、挿入したネイルは回転(自転)が不能であるから、スクリューで止めたとしても、過度の荷重がかかることはなく、安定した固定ができる。請求項2の手段によると、ネイルの回転抑止機構が簡単であるし、請求項3の手段によると、ネイル挿入孔とネイルの嵌合が緊くなって緩みの防止及び回転抑止につながる。請求項4の手段によると、更なる回転抑止機能を付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る人工膝関節の大腿骨側部材の斜視図である。
【図2】本発明に係る人工膝関節の側面図である。
【図3】本発明に係る人工膝関節の断面側面図である。
【図4】本発明に係る人工膝関節の断面背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明するが、図1は本発明に係る人工膝関節の大腿骨側部材の斜視図、図2は大腿骨側部材と脛骨側部材の組合せを示す側面図、図3は大腿骨にネイルを挿入する状態を示す断面側面図、図4は大腿骨にネイルを挿入した状態の断面背面図である。人工膝関節は、大腿骨側部材1と脛骨側部材2との組み合わせからなり、これらは互いに摺動及び回転(転動)ができ、膝を伸展、屈曲できるようになっている。
【0014】
このうち、大腿骨側部材1は、チタン合金やコバルトクロムモリブデン合金又は医療用セラミクスといった生体適合材料で構成され、側面視略半円形、すなわち、略C形に形成されたものである。半円形の内面3は多角形(本例では五角形)に形成されているとともに、中央に後端に開口した入江状の欠落部4を設けてその両側に断面の外周が略半円形をした内側顆部5と外側顆部6とを形成したものである。
【0015】
この大腿側骨部材1は大腿骨7の骨端に装着されるもので、大腿骨7の遠位端を内面3の形状に合わせて骨切りし、骨切り面を内面3に密着して装着する。このとき、内面3をポーラスにして成長した骨がこの間に充填するようにして固着性を高めている。また、遠位端との間に骨セメントを介在させることもある。
【0016】
これに対して、脛骨側部材2は、大腿骨側部材1を受ける関節プレート8と、脛骨9に装着されて関節プレート8を支持するベースプレート10とからなる。このうち、関節プレート8は、超高分子量ポリエチレン等の医療用樹脂材から構成され、上面に内側顆部5を受ける内側関節面11と外側顆部6を受ける外側関節面12とが形成され、下面を関節面部13としている。これにおいて、内側関節面11と外側関節面12とは、内側顆部5と外側顆部6の外面形状に合わせた断面形状をしたものが前後に条状に続いており、それぞれ内側顆部5と外側顆部6とを関節適合面率の高い状態で収受している。
【0017】
ベースプレート10は、大腿骨側部材1と同じく金属やセラミックスといった生体適合材料で構成されており、上部に関節面部13を受ける支持部14を有している。ベースプレート10の脛骨9に対する装着も大腿骨側部材1と同様であり、脛骨9の近位端を平に骨切りし、支持部14の下面を骨切り面に沿わせている。このとき、支持部14の下面にステム15を突設し、このステム15を脛骨9に挿入して固定の強化を図っている。この状態のペースプレート10に関節プレート8を上から重ねると、脛骨側部材2が構成される。
【0018】
以上の人工膝関節は、膝の伸展、屈曲に伴って内側及び外側顆部5、6は内側及び外側関節面11、12上を転動するが、屈曲の終端では内旋(大腿骨7に対して脛骨9の先端が内方に回旋する)、伸展では外旋するように設定されている。また、大腿骨側部材1は脛骨側部材2に対して外側方向に傾けて設けられている。いずれも、生体の膝関節がそうなっているからであり、前者では、主として内側及び外側関節面11、12をその方向に誘導していることで果たしており、後者では、内側顆部5の径を外側顆部6の径より小さくすることで果たしている。なお、屈曲は、生体の膝と同様に脛骨9が大腿骨7に対して0〜160°程度で許容されている。
【0019】
次に、本発明では、大腿骨側部材1の内面3の内外の真ん中で中央位置か少し前方位置の欠落部4より前方に上方に突出するボックス16を形成し、このボックス16にネイル挿入孔17を形成している。なお、これに伴って、大腿骨7の遠位端は、このボックス16を収容できる形状に整形する必要がある。本例のネイル挿入孔17は、下端に多角形(一般的には四角形)をしたザグリ穴17aを形成し、それに続いてザグリ穴17aの径よりも小さい径で上方が径細になったテーパ孔17bを形成している。さらに、テーパ孔17bの部分には上下に向けてキー溝18を彫設している。
【0020】
ネイル挿入孔17にはネイル19が挿入されるのであるが、このネイル19は、ネイル孔17の形状に応じて下端にザグリ穴17aに嵌合する多角形の頭部19aと、テーパ孔17bに挿入されるテーパ部19bとが形成され、テーパ部19bから上方に先端部19cが続いているものである。さらに、テーパ部19bにはキー溝18に嵌入するキー20を設けており、先端部19cには固定用のスクリュー(図示省略)が螺入できる複数の止め孔21が形成されている。
【0021】
今、大腿骨7に上顆骨折(22は骨折面)が起こったとすると、まず、大腿骨7を少なくとも90°以上相対的に後方に屈曲させて内側及び外側顆部5、6を露出させる。この状態になると、膝蓋骨(図示省略)をずらせてネイル19をネイル挿入孔17から挿入することができる。このとき、ネイル19の頭部19aはザグリ穴17aに完全に没して下方に覗かないものにするし、キー20はキー溝18に嵌入されて回転が不能になる状態になる。もちろん、ネイル19の先端部19cは骨折面22を通過するように挿入し、骨折個所の違いに応じて先端部19cの長さが違うものを種々用意しておく。
【0022】
次いで、止め孔22にスクリュー23を皮質骨(図示省略)から螺入すると、手術は終了する。このとき、ネイル19は回転が不能の状態になっているから、スクリュー23に過度の荷重はかからず、折れ、位置のずれ、外れといった虞はない。なお、キー20を設けておれば、回転する虞はないから、テーパ孔17bやテーパ部19cは必ずしも必要ないが、このようなテーパ嵌合にすれば、嵌合が緊くなって緩みを防止する利点がある。また、テーパ嵌合が緊くできれば、その嵌合で回転は抑止されるから、キー20は必ずしも必要ない場合もある。
【0023】
以上によれば、骨折治療用のネイル19を挿入するに際し、大腿骨側部材1を取り外す必要がないのが本発明の特徴である。このことから、ボックス16はあくまで骨折に備えてのものであり、骨折がなければネイル19は挿入しない。なお、大腿骨部材1にボックス16を形成することは、大腿骨の遠位端との接触面積を増し、固定の強化に寄与する。固定の強化のため、従来は、内面3に大腿骨に挿入されるピンのようなものを突設したりしているが、ボックス16はこれに代わるものといえる。
【0024】
このように、骨折治療用のネイル19を挿入する際、大腿骨側部材1を取り外さなくてもよいことは、せっかく形成された大腿骨側部材1の内面3と大腿骨7の遠位端との骨組織を破壊しなくても済み、患者の肉体的負担の小さい手術といえる。また、切開面も小さくて済むから、患者の負担の少ない低侵襲手術でもある。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上は、本発明を人工膝関節の大腿骨側部材に適用した場合の説明であるが、脛骨側部材に対しても同様に適用できる。さらに、本発明は、膝関節に限らず、関節部が関節面から露出する程度まで屈曲できる関節であれば、すべての関節に適用できる。具体的には、人工的な肘関節、手関節、足首関節、足指関節等が考えられる。
【符号の説明】
【0026】
1 大腿骨側部材
2 脛骨側部材
3 大腿骨側部材の内面
4 欠落部
5 内側顆部
6 外側顆部
7 大腿骨
8 関節プレート
9 脛骨
10 ベースプレート
11 内側関節面
12 外側関節面
13 関節面部
14 支持部
15 ステム
16 ボックス
17 ネイル挿入孔
17a 〃 のザグリ穴
17b 〃 のテーパ孔
18 キー溝
19 ネイル
19a 〃 の頭部
19b 〃 のテーパ部
19c 〃 の先端部
20 キー
21 止め孔
22 骨折面
23 スクリュー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脛骨骨端に装着される脛骨側部材と大腿骨骨端に装着される大腿骨側部材とを転動可能に組み合わせた人工膝関節において、大腿骨側部材の内面にボックスを突設し、ボックスに、大腿骨側部材を脛骨側部材に対して後方に屈曲させたとき、その外面から大腿骨にネイルを回転不能に挿入できるネイル挿入孔を形成したことを特徴とするネイル挿入型人工膝関節。
【請求項2】
ネイル挿入孔にキー溝を形成し、ネイルにこのキー溝に嵌入できるキーを設けた請求項1のネイル挿入型人工膝関節。
【請求項3】
キーを設けた部分とネイル挿入孔を上方が径細のテーパ形状とした請求項2のネイル挿入型人工膝関節。
【請求項4】
ネイルの頭部を胴径よりも大きな径を有する多角形にし、ネイル挿入孔に頭部の形状に応じてこのヘッドが陥没できるザグリ穴を陥設した請求項1〜3いずれかのネイル挿入型人工膝関節。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−139785(P2011−139785A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1856(P2010−1856)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(508282465)ナカシマメディカル株式会社 (22)
【Fターム(参考)】