説明

ネックインの幅を計算する計算方法及び計算装置

【課題】押出ラミネート加工等における樹脂の熱劣化による粘弾性変化を考慮し、ネックイン幅を精度よく計算する計算方法を提供する。
【解決手段】押出加工によって押し出された樹脂におけるネックインの幅を計算する計算方法であって、樹脂を加工機1から押し出す際の幅方向の粘弾性分布を取得する粘弾性取得ステップと、この粘弾性分布に基づいて、単一の粘弾性を示す層を複数備えた層構成を有し且つ幅方向の位置に応じて異なる粘弾性を示す多層モデルによって樹脂をモデル化するのに用いる複数の層のうち一の層の幅方向の層比分布を算出する層比算出ステップと、層比に基づいた多層モデルによって樹脂をモデル化するモデル化ステップと、モデル化された樹脂を有限要素法を用いて解析し、該解析によってネックインの幅を算出するネックイン算出ステップと、算出されたネックインの幅を出力する出力ステップと、を含む

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネックインの幅を計算する計算方法及び計算装置に関するものである。特に、本発明は、押出ラミネート加工やキャストフィルム加工等の押出加工によって加工機から押し出された対象物におけるネックインの幅を計算する計算方法及び計算装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムやアルミ箔や紙等の基材に対して熱可塑性樹脂を押出ラミネート加工する場合やTダイフィルム加工機によりプラスチックフィルムを加工する場合、熱可塑性樹脂を押し出すダイの出口幅に対し、当該熱可塑性樹脂のコート幅が短くなる現象が発生することがある。このように、ダイ幅に対してフィルム幅が短縮することをネックイン現象といい、この短縮幅をネックインの幅NIという。ネックイン現象が発生すると、製品幅が制限されたり、収率が低下してしまったりする。
【0003】
ネックイン現象によるフィルム幅短縮の対策として、押出ダイの設計にネックイン現象の影響を事前に反映させる方法や、あるいは、押出加工時にディッケルによるダイ幅の調整やエアギャップの調整等を行う方法がある。しかしながら、熱可塑性樹脂の種類や押出加工条件に制限がある場合、ネックイン現象によるネックインの幅NIを適切に制御することは難しいといった現状がある。
【0004】
このようなネックインの幅NIを適切に制御しがたい理由として、加工機内で加熱処理される熱可塑性樹脂の滞留時間が長くなるにつれて、その樹脂が劣化しやすくなったり、押出ラミネート加工のように高温条件で行われることによりその樹脂が劣化したりすることがある。このような樹脂の劣化による影響が比較的大きいことが、例えば、非特許文献1に記載されている。この非特許文献1には、押出ラミネート加工において加工機から押出された樹脂を回収して粘弾性を測定したところ、未加工状態の樹脂と比較して、粘弾性が変化していることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】佐藤直基、「フィルムキャスト成形の数値解析について」、「成形加工」、社団法人プラスチック成形加工学会、2000年11月、第12巻、第11号、689〜694頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ネックインの幅NIを適切に制御するために熱可塑性樹脂等の劣化を均一にして樹脂の押出加工を行おうとしても、加工機の構造上、例えば、押出ダイの中央部と端部とでは滞留時間が大きく異なるといったように、加工機内の樹脂の滞留時間にはどうしてもバラツキが発生してしまう。つまり、樹脂の粘弾性が押出ダイの幅方向の位置に応じて異なってしまうことを防止するのは難しかった。例えば、熱可塑性樹脂としてポリエチレンを用いた押出ラミネート加工では、樹脂と基材間の接着力向上のために、300〜340℃の高温条件で樹脂が押し出されるようにすることがあるが、このように積極的に樹脂を熱劣化させた場合、粘弾性のバラツキが大きくなることが想定される。
【0007】
一方、ネックイン現象によるネックインの幅NIの計算は、例えば、有限要素法等を用いて押出加工された樹脂を解析することによって行われるが、上述したような幅方向の位置に応じて異なる粘弾性を有限要素法による解析にどのように反映させるかといった方法は従来、提供されていなかった。その結果、非特許文献1には粘弾性が変化することまでは開示されているものの、その適用方法の示唆がなく、ネックインの幅NIを適正に計算することが難しいといった問題は解決されないままであった。
【0008】
そこで、本発明は、押出ラミネート加工やTダイフィルム加工等における、樹脂の熱劣化による粘弾性の変化を考慮して、ネックインの幅を精度よく計算する計算方法及び計算装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の解決のため、本発明者は、鋭意研究を重ねる過程で、対象となる樹脂が単一の粘弾性からなる層であれば、有限要素法に適用できる点に着眼した。そして、この単一の粘弾性からなる層について、更に考察すると、この単一の粘弾性からなる層を複数設けて多層モデルとする際、所定の比率を乗じれば、幅方向に粘弾性が変化する加工対象物を多層モデルでモデル化して表せることがわかってきた。そこで、本発明者は、有限要素法に適用可能な単一の粘弾性からなる層に所定の比率を乗じた多層モデルとすることにより、樹脂の熱劣化による粘弾性の変化を考慮してネックインの幅を計算できるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0010】
上記課題の解決のため、本発明にかかる計算方法は、加熱しながらの押出加工によって加工機から押し出された対象物におけるネックインの幅を計算する計算方法であって、対象物を加工機から押し出す際の幅方向の粘弾性分布を取得する粘弾性取得ステップと、粘弾性取得ステップで取得された粘弾性分布に基づいて、単一の粘弾性を示す層を複数備えた層構成を有すると共に幅方向の位置に応じて異なる粘弾性を示す多層モデルによって対象物をモデル化するのに用いる複数の層のうち少なくとも一の層の幅方向の層比分布を算出する層比算出ステップと、押出加工によって加工機から押し出される対象物を層比算出ステップで算出された層比に基づいた多層モデルによってモデル化するモデル化ステップと、モデル化ステップでモデル化された対象物を有限要素法を用いて解析し、該解析によって対象物におけるネックインの幅を算出するネックイン算出ステップと、ネックイン算出ステップで算出されたネックインの幅を出力する出力ステップと、を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる計算装置は、加熱しながらの押出加工によって加工機から押し出された対象物におけるネックインの幅を計算する計算装置であって、対象物を加工機から押し出す際の幅方向の粘弾性分布を取得する粘弾性取得手段と、粘弾性取得手段で取得された粘弾性分布に基づいて、単一の粘弾性を示す層を複数備えた層構成を有すると共に幅方向の位置に応じて異なる粘弾性を示す多層モデルによって対象物をモデル化するのに用いる複数の層のうち少なくとも一の層の幅方向の層比分布を算出する層比算出手段と、押出加工によって加工機から押し出される対象物を層比算出手段で算出された層比に基づいた多層モデルによってモデル化するモデル化手段と、モデル化手段でモデル化された対象物を有限要素法を用いて解析し、該解析によって対象物におけるネックインの幅を算出するネックイン算出手段と、ネックイン算出手段で算出されたネックインの幅を出力する出力手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る計算方法及び計算装置では、単一の粘弾性を示す層を複数備えた層構成を有すると共に幅方向の位置に応じて異なる粘弾性を示す多層モデルで対象物をモデル化する際、幅方向の粘弾性分布に基づいて層比算出ステップ又は層比算出手段で算出された層比に基づいた多層モデルによってモデル化しており、樹脂の熱劣化による幅方向の粘弾性の変化を考慮して、有限要素法による解析を行うことができる。このため、ネックインの幅を精度よく計算することが可能となる。なお、ここで用いる「幅方向」は、加工機から対象物を押し出す押出口の長手方向であり、対象物を押し出す押出方向に対して交差する方向である。
【0013】
また、本発明に係る計算方法では、粘弾性取得ステップは、対象物に対する加熱時間に応じた対象物の粘弾性変化を示す熱挙動情報を取得する取得ステップと、対象物を押出加工する際に対象物が加工機内に滞留する幅方向の滞留時間分布を算出する滞留時間算出ステップと、滞留時間算出ステップで算出された滞留時間分布における滞留時間に対し、取得ステップで取得された熱挙動情報における加熱時間を対応させることで、対象物を加工機から押し出す際の幅方向の粘弾性分布を算出する算出ステップと、を含むことが好ましい。対象物の粘弾性の変化に影響を与える熱挙動情報や幅方向の滞留時間分布に基づいて幅方向の粘弾性分布を算出しているため、幅方向の粘弾性分布を精度よく算出することができる。その結果、ネックインの幅を一層、精度よく計算することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るネックインの計算方法によれば、押出加工、特に押出ラミネート加工等において、ネックインの幅を精度高く予測できる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】押出ラミネート加工に用いられる加工機を示す図であり、(a)は斜視図であり、(b)は側面図である。
【図2】本実施形態に係る計算装置の機能構成を示す図である。
【図3】本実施形態に係るネックインの幅NIの計算方法を示すフローチャートである。
【図4】樹脂の熱劣化挙動を示す図である。
【図5】加工機内の滞留時間分布の算出方法を示すフローチャートである。
【図6】加工機内の滞留時間分布の算出に用いる有限要素メッシュを示す図である。
【図7】加工機内の滞留時間分布の算出に用いたせん断粘度を示す図である。
【図8】加工機内の滞留時間分布をダイ出口の位置に応じて示す図である。
【図9】加工機内の相対粘度分布をダイ出口の位置に応じて示す図である。
【図10】多層モデルにおける中央層の層比をダイ出口の位置に応じて示す図である。
【図11】ネックイン計算に用いる有限要素メッシュ図であり、(a)は、解析開始時の図であり、(b)は、解析終了時の図である。
【図12】多層モデルにおける中央層と端層の樹脂の粘弾性を示す図である。
【図13】比較例でのネックインの幅NIの計算方法を示すフローチャートである。
【図14】比較例での樹脂の粘弾性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るネックインの幅NIの計算装置及び計算方法について詳細に説明する。
【0017】
まず、計算装置及び計算方法にかかる押出ラミネート加工機1及び押出ラミネート加工機1(以下「加工機1」とも記す)による押出加工について、図1を参照して簡単に説明する。押出ラミネート加工機1は、単軸スクリュ2、押出ダイ3、ニップロール4、チルロール5、及び基材供給ロール6を備えている。単軸スクリュ2は、樹脂を溶融する溶融部(不図示)から溶融樹脂を押出ダイ3に送るための部分であり、押出ダイ3の図示上面の中央部に接続される。押出ダイ3は、送られてきた溶融樹脂Rを所定の加熱温度に維持したまま、図示下面に形成されたダイ出口3aから押し出す装置である。ダイ出口3aと対向する領域には、ニップロール4とチルロール5とが水平方向に略並列に配置され、ニップロール4とチルロール5とが協働して回転するように両者は一部が当接するようになっている。このニップロール5から水平方向に所定距離離れた位置には、基材を供給する基材供給ロール6が配置されている。
【0018】
押出ラミネート加工機1としては、例えば、住友重機械モダン株式会社製の加工機があり、この加工機では、単軸スクリュ2の直径が65mm、出口幅Wが600mm、ギャップ長さHが0.8mm、ダイ出口3aとニップロール4/チルロール5との間のエアギャップLが160mmとなっている。
【0019】
上述した構成を備えた加工機1では、例えば、対象物としてポリエチレンを用いる場合、溶融部において約320℃に溶融された溶融樹脂Rが60kg/hの押出量で単軸スクリュ2から押出ダイ3に送り出され、送り出された溶融樹脂Rは、押出ダイ3内において320℃程度で加熱されながら幅方向に広がり、ダイ出口3aから押し出される。押し出された溶融樹脂Rは、ニップロール4/チルロール5によって、例えば、引取速度が120m/min、ギャップ長さHと引取後の樹脂の厚さとの比であるドロー比が40となるように引き取られ、基材供給ロール6から供給される基材上に接着され、樹脂Rがラミネートされた基材が得られる。なお、ダイ出口3aから押し出された樹脂Rは、ネックイン現象により、図1に示されるように、ダイの出口幅Wからウェブ幅Wに短縮される。本実施形態では、ダイの出口幅Wとニップロール4におけるウェブ幅Wの差の半分である(W−W)/2を、ネックインの幅NI(mm)とするが、ネックインの幅NIを他の式で定義してもよい。
【0020】
続いて、上述した押出ラミネート加工機1におけるネックインの幅NIを計算する計算装置の構成について図2を参照しながら、簡単に説明する。なお、この計算装置による詳細な計算方法等については後述する。
【0021】
計算装置10は、加熱しながらの押出加工によって加工機1から押し出された溶融樹脂におけるネックインの幅NIを計算する計算装置であり、機能的には、粘弾性取得部11、層比算出部12、モデル化部13、ネックイン算出部14、及び出力部15を備えて構成される。このような計算装置10は、ハードウェア的には、例えば、ワークステーションやPC(Personal Computer)等の情報処理装置から構成され、CPUやメモリ等の構成要素が動作することにより、下記の各機能やこれら各機能による後述する詳細な計算方法が実行される。
【0022】
粘弾性取得部11は、溶融樹脂を加工機1から押し出す際の幅方向の粘弾性分布η(x)の情報を取得する。ここで用いる「幅方向」は、加工機1から溶融樹脂を押し出すダイ出口3aの長手方向(出口幅Wの方向)を意味し、溶融樹脂を押し出す押出方向に対して直交する。なお、本実施形態では、粘弾性取得部11が取得する粘弾性を示す情報として、せん断粘度を用いるが、粘弾性を示す情報は、これに限定されない。
【0023】
層比算出部12は、粘弾性取得部11で取得された幅方向の粘弾性分布η(x)の情報に基づいて、溶融樹脂を多層モデルによってモデル化するのに用いる複数の層のうち少なくとも一の層の幅方向の層比分布h(x)を算出する。この多層モデルとは、それぞれ異なる単一の粘弾性を示す層を複数備えた層構成(例えば2層構成)を有し、各層の厚みを幅方向の位置に応じて変えることで、幅方向の位置に応じて異なる粘弾性を示すようにしたものである。つまり、有限要素法による解析では、パラメータとして、溶融樹脂の粘弾性を幅方向の位置に応じて直接変更することは難しいが、幅方向の位置に応じた粘弾性の変化を仮想の層構成における各層の厚み変化で置き換えることでパラメータとすることができ、その結果、幅方向の位置に応じた粘弾性の変化を有限要素法による解析に取り込むことができる。
【0024】
ここで用いる「層比」は、上述した粘弾性の変化を置き換えるための各層の厚みを増減させるための比率係数であり、例えば、0〜1の間の値で表される(図10参照)。また、層比分布h(x)は、この層比を、幅方向の位置に応じて示した分布であり、幅方向の位置に応じた粘弾性の変化に対応している。
【0025】
モデル化部13は、押出加工によって加工機1から押し出される溶融樹脂を層比算出部12で算出された層比分布h(x)に基づいた多層モデルによってモデル化する。ネックイン算出部14は、モデル化部13でモデル化された対象物を有限要素法を用いて解析し、該解析によって溶融樹脂におけるネックインの幅NIを算出する。出力手段15は、ネックイン算出部14で算出されたネックインの幅NIを出力する。
【0026】
続いて、上記各構成を備えた計算装置10による、ネックインの幅NIの計算方法について図3を参照しながら説明する。なお、本実施形態では、上述したように、樹脂の熱劣化による粘弾性の変化を考慮した計算方法を採用することにより、ネックインの幅NIを精度よく計算することができるようになっている。
【0027】
まず、粘弾性取得部11は、押出加工に用いられる対象樹脂の熱劣化挙動を示す熱挙動情報を取得する(取得ステップ、ステップS01)。熱挙動情報とは、樹脂に対する加熱時間に応じた樹脂の粘弾性変化を示す情報であり、例えば、図4に示されるような加熱時間と相対粘度との関係を示すデータである。この熱挙動情報は、例えば、以下のような測定を事前に行うことで得られ、得られた測定結果は、ユーザによって計算装置10に入力されて、計算装置10の記憶部等に記憶されるようになっている。
【0028】
熱挙動情報を取得するため、測定装置としては、例えば、キャピラリー型レオメータ(東洋精機社、キャピログラフII)を用い、測定温度を加工温度と同じ320℃、キャピラリーの長さを40mm、直径を1mm、リザーバーからキャピラリーへの流入角度を90°といった測定条件で、対象樹脂の熱劣化挙動の測定を行う。測定される樹脂としては、例えば、未加工状態の低密度ポリエチレン(住友化学株式会社製、商品名:スミカセン CE4009)を用いる。
【0029】
測定手順としては、まず、上述した樹脂をレオメータのリザーバーへ充填後、5分間予熱する。そして、予熱完了後を測定開始時間として、せん断速度が60.8s−1のせん断速度でせん断粘度ηを測定する。その後、樹脂をレオメータ内に放置して、30分間隔でせん断粘度ηを測定する。このようにして、せん断粘度ηの経時変化を測定する。ここでは、時刻0におけるせん断粘度(つまり、未加工樹脂のせん断粘度に相当)を基準値1とした相対粘度ηに換算し、経時変化を示す相対粘度η(t)を得る。ここで、tは時間(s)を表す。得られた相対粘度η(t)を最小二乗法で近似したものを下記の式(1)に示す。
【数1】


この式(1)に示されるように、計算装置10に入力されて記憶部に記憶されている熱挙動情報は、二次関数で示される情報となる。また、粘弾性取得部11が、相対粘度と経過時間との複数のデータを入力して、最小二乗法により、上記の式のパラメータを求めてもよい。なお、図4に、低密度ポリエチレンの相対粘度η(t)と式(1)で回帰される曲線とを示す。粘弾性取得部11によって取得されて計算装置10に記憶される情報は、他の機能部からも利用可能である(以降の情報についても同様である)。ステップS01における対象樹脂の熱挙動情報の取得が終了したら、ステップS02に進む。
【0030】
続いて、粘弾性取得部11は、加工機1(押出ダイ3)の出口における幅方向の滞留時間分布t(x)のデータを算出する(滞留時間算出ステップ、ステップS02)。滞留時間とは、溶融樹脂を押出加工する際に溶融樹脂が加工機1(押出ダイ3)内に滞留している時間である。ステップS02における滞留時間分布t(x)の算出は、図5に示されるように、ステップS11で、従来技術と同様の手法で、まず有限要素メッシュを作成し、次に、ステップS12で、加工機1(押出ダイ3)内の流動解析用のデータファイルを作成し、最後に、ステップS13で、設定した条件に基づき、加工機1(押出ダイ3)内の流動状態を計算し、加工機内の滞留時間分布t(x)のデータを得るものである。以下、詳細に説明する。なお、流動解析を行うために必要な情報及びソフトウェアは、以下に示す内容で予めユーザの入力等により計算装置10に記憶されている(以降の別の演算についても、本実施形態の各機能により算出される情報以外については同様である)。
【0031】
まず、ステップS11で、有限要素メッシュが作成される。メッシュの作成には、例えば、モデリングソフトウェアGambit バージョン2.4.6(ANSYS Inc.社製)が用いられる。具体的には、押出ラミネート加工機1の単軸スクリュ2の先端から押出ダイ3の出口までがモデル化される。幅方向および厚さ方向への対称性を考慮して、幅方向および厚さ方向における構成がそれぞれ半分となった1/4モデルとすることが好ましい。なお、この1/4モデルとしては、例えば、図6に示されるようなモデルがあり、計算装置10の表示部などに表示される。図6に示す1/4モデルでは、単軸スクリュ2の先端から押出ダイ3までのアダプターパイプ(Adapter)は、直径が20mm、長さが600mmであり、押出ダイ3(Die)は長さが125mm、出口幅WD1が300mm、ギャップ長さHが0.4mmとなっている。
【0032】
ステップS11で有限要素メッシュが作成されると、次に、加工機1内の流動解析用のデータファイルが作成される(ステップS12)。データファイルの作成には、例えば、有限要素法に基づいた熱流動解析ソフトウェアPolyflow バージョン3.11.0(ANSYS Inc.社製)が用いられる。最初に以下の境界条件が設定される。なお、境界条件は、事前に計算装置1に入力されて記憶されている。
境界1:加工機の入口(Inlet)に相当する。樹脂の押出量60kg/hに相当する流量として、5447mm/sが与えられている。温度は320℃とされる。
境界2:ダイ出口(Outlet)に相当する。本境界では樹脂が完全発達流れの条件が与えられる。
境界3:壁面(図6のDie右端面)に相当する。この境界では速度として0m/sの条件が与えられる。温度は320℃とされる。
境界4:対称面(図6のDie左端面)に相当する。この境界では幅方向速度として0m/sを、引取方向応力として0Paを与え、断熱条件とする。
【0033】
また、解析に用いる樹脂は粘性流体として扱い、流動モデルとして、Carreau−Yasudaモデル(以下、「CYモデル」という。)が用いられる。このCYモデルは計算装置10の記憶部に予め記憶されている。CYモデルを式(2)に示す。
【数2】


ここで、ηは第二Newton粘度を、ηはゼロせん断粘度を、λは特性時間を、上にドットが付いたγはせん断速度を,aおよびnはモデルパラメータをそれぞれ表す。ηには0Pa・s、ηには28.85Pa・s、λには0.2755s、aには0.32836、nには0.1096がそれぞれ設定されている。
【0034】
また、CYモデルの温度依存性として、式(3)に示すArrhenius approximate shear stressモデルを用いる。このモデルも予め記憶されている。
【数3】


ここで、Tは温度を、Tαは基準温度を、αは温度依存パラメータをそれぞれ表す。αには0.0288、Tαには130℃がそれぞれ与えられている。このような、式(2)、(3)によって特定される低密度ポリエチレンの320℃におけるCYモデルのせん断粘度データ(図7参照)は、計算装置10の記憶部に予め記憶されている。
【0035】
そして、最後に、上述したPolyflow バージョン3.11.0を用いて計算が行われる(ステップS13)。粘弾性取得部11による計算には、図6に示す有限要素メッシュが用いられる。境界条件として上記境界1〜4の条件が与えられている。また、樹脂データとしては、式(1)に示すCYモデルが用いられる。樹脂粘度の温度依存性としては、式(2)に示すArrhenius approximate shear stressモデルが用いられる。これらの条件の下に、従来技術と同様の方法を用いて計算が行われる。そして、この計算によって得られる加工機1(押出ダイ3)内の滞留時間から、押出ダイ3の出口での幅方向への滞留時間の分布t(x)のデータが算出される。図8に、このようにして算出された滞留時間の分布t(x)のデータを示す。この滞留時間分布t(x)のデータとは、ダイ幅の幅方向の位置(例えば、0.02m間隔程度毎の位置)に応じた樹脂の滞留時間を示すデータの集合である。滞留時間の分布t(x)のデータにおけるxは幅方向への座標を表し、ダイ中心をxの原点とする。これにより、ステップS02における加工機1(押出ダイ3)内の滞留時間分布t(x)のデータの算出が終了し、ステップS03に進む。
【0036】
続いて、粘弾性取得部11は、ダイ出口3aの粘度分布を算出する(算出ステップ、ステップS03)。具体的には、粘弾性取得部11は、ステップS01で得られた相対粘度η(t)を示す式(1)に対して、ステップS02で得られたダイ出口3aにおける幅方向への滞留時間の分布t(x)を代入して、押出ダイ3の幅方向への相対粘度分布η(x)を得る。得られた相対粘度分布η(x)を、図9に示す。ステップS03でダイ出口3aの粘度分布の計算が終了すると、ステップS04に進む。
【0037】
続いて、層比算出部12は、ステップS03で取得された幅方向の相対粘度分布η(x)の情報に基づいて、溶融樹脂を多層モデルによってモデル化するのに用いる複数の層のうち少なくとも一の層の幅方向の層比分布h(x)を算出する(層比算出ステップ、ステップS04)。ここで用いる多層モデルは、上述したように、それぞれ異なる単一の粘弾性を示す層を複数備えた層構成(例えば2層構成)を有し、各層の厚みを幅方向の位置に応じて変えることで、幅方向の位置に応じて異なる粘弾性を示すようにしたものである。本実施形態では、例えば、多層モデルは、押出ダイ3の中央と端から押出された2つの層(それぞれ「中央層」、「端層」と記す)から構成されるように設定されている。ステップS04では、具体的には、押出ダイ3の幅方向への相対粘度分布η(x)を用いて、多層モデルの相対せん断粘度の幅方向分布ηML(x)を式(4)で表すようにする。この式(4)は、計算装置10の記憶部に記憶されている。
【数4】


ここで、層比h(x)は中央側から押出された樹脂からなる層(中央層)の層比の幅方向分布を、ηrCは中央層の未加工樹脂に対する相対粘度を、ηrEは端側から押出された樹脂からなる層(以下、「端層」と略する。)の未加工樹脂に対する相対粘度を、それぞれ表す。具体的には、ηrCは、図9におけるダイ中央での滞留時間tRCに相当する、図4における相対粘度ηを表す。またηrEは、図8においてダイ端部側の幅50mmの範囲で平均した滞留時間tREに相当する、図4における相対せん断粘度ηを表す。層比算出部12は、式(4)を用いて、中央層の層比分布h(x)を式(5)より求める。ここで、幅方向分布ηML(x)を、ステップS03で取得された相対粘度分布η(x)の値とし、ダイ幅の幅方向の位置(上述した一定間隔の位置と同様)毎に層比分布h(x)を求める。
【数5】


このようにステップS04で得られた、中央層の幅方向への層比分布h(x)のデータを図10に示す。ステップS04で中央層の幅方向への層比h(x)が算出されたら、ネックインの幅NIの計算の準備段階が終了し、ネックインの幅NIを算出するステップS05以降に進む。
【0038】
続いて、モデル化部13は、押出加工によって加工機1から押し出される溶融樹脂をステップS04で算出された層比分布h(x)に基づいた多層モデルによってモデル化する(モデル化ステップ、ステップS05)。具体的には、ステップS05では、最初に、エアギャップにおけるウェブがモデル化され、従来方法を用いて有限要素メッシュが作成される。メッシュの作成にはモデリングソフトウェアGambit バージョン2.4.6(ANSYS Inc.社製)が用いられる。ウェブの厚さ方向への物理量の変化を平均化した擬3次元モデルが用いられる。また、幅方向への対称性を考慮して、幅方向における構成が半分となった1/2モデルを用いる。以上の有限要素メッシュを後述の境界条件とともに図11(a)に示す。押出ダイ3の出口幅Wは600mm、押出ダイ3のギャップ長さHは0.8mm、エアギャップLは160mmに設定されている。解析方法は後述するが、有限要素メッシュは繰り返し計算を行い、図11(b)に示すモデルへと変形させる。なお、図11(a)には、計算初期状態の有限要素メッシュが示され、図11(b)には、変形後の有限要素メッシュが示されており、両図における原点(X=0,Y=0)は、押田ダイ3のダイ出口3aの中央部分に相当する。
【0039】
続いて、押出加工解析用のデータファイルの作成が行われる(モデル化ステップ、ステップS06)。計算には、有限要素法に基づいた熱流動解析ソフトウェアPolyflow バージョン3.11.0(ANSYS Inc.社製)が用いられる。以下の境界条件が設定されている。
境界1:ダイの出口(X=0であるY軸に沿った線、Inlet)に相当する。引取方向速度Vとして0.05m/sが、幅方向速度Vとして0m/sが、温度Tとして320℃が、厚さHとしてギャップ長さH0.8mmがそれぞれ与えられている。
境界2:ウェブの端部(Free Surface)に相当する。自由表面として扱い、法線方向速度Vとして0m/sが、法線方向応力Fとして0Paが、また、断熱条件がそれぞれ与えられている。
境界3:ウェブをチルロール4およびニップロール5にて引取る位置(Outlet)に相当する。引取方向速度Vとして2m/sが、幅方向応力Fとして0Paが、断熱条件がそれぞれ与えられる。
境界4:ウェブの幅方向の対称線(Axis of symmetry)に相当する。幅方向速度Vとして0m/sが、引取方向応力Fとして0Paが、断熱条件がそれぞれ与えられている。また、ウェブ表面において熱流速f=60W/(mK2)が与えられている。
【0040】
本実施例では、解析に用いる樹脂を粘弾性流体として扱う。粘弾性モデルとして、Phan−Thien/Tannerモデル(以下、「PTTモデル」という。)を用いる。PTTモデルは、例えば、Phan−Thien、Journalof Rheology、22巻、259〜283頁(1978年)に記載されている。PTTモデルを式(6)に示す。このモデルは、記憶部に記憶されている。
【数6】


ここで、ηは粘度を、τは異方性応力テンソルを、Dは変形速度テンソルを、λは緩和時間を、ξ及びεは非線形パラメータを表す。△はlower−convected時間微分を、▽はupper−convected時間微分をそれぞれ表す。本実施形態で用いた中央層のPTTモデルのパラメータを表1に、端層のパラメータを表2にそれぞれ示す。これらのパラメータも記憶部に記憶されている。
【表1】


【表2】

【0041】
【数7】


ここで、Tは温度を、Tは摂氏温度の絶対温度への換算値を、Tαは基準温度を、αは温度依存パラメータをそれぞれ表す。本実施形態では、Tαとして130℃が、αとして6000がそれぞれ与えられている。本ステップS06で得られる、130℃におけるPTTモデルの粘弾性データを実線及び点線で図12に示す。物性値として、密度d=735kg/m、熱伝導度k=0.15W/m・K、比熱C=3000J/(kg・℃)が中央層、端層に設定されている。
【0042】
なお、取得される粘弾性データとしては、上述した式(7)に基づくものの他、下記に示すように実際に事前に測定しておき、これらの測定値を記憶部に記憶させておく。このような測定値は、例えば、図12のプロットされたデータとして示される。
【0043】
このような実測方法としては、まず、押出ラミネート加工機1による押出加工における押出樹脂の回収を行う。加工条件は、上述したものと同様である。この加工条件にて溶融樹脂を押出し、PETフィルムにコートする。コートした低密度ポリエチレンを、ダイ中央部は幅5cm、ダイの両端部はそれぞれ3cmをはく離して回収する。次に、押出ラミネート加工機1から押出した後に回収した樹脂の、溶融状態における粘弾性測定の実測を行う。回収した樹脂には、酸化防止のためにジブチルヒドロキシトルエンを10,000ppm添加した後に、温度が150℃にて熱プレスしてシートを作成する。得られたシートを裁断してペレット化し、粘弾性測定に供する。
【0044】
この粘弾性測定には、回転型レオメータ(TA Instruments社、ARES)を用いて、複素粘度η*、貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’を測定する。試料のフィクスチャーとして直径が25mmの平行円盤を用いる。粘弾性は温度が130〜190℃、角周波数が0.01〜100rad/sの範囲で測定する。得られた粘弾性は、Cox−Merzの経験則に従い、角周波数をせん断速度に単位換算して用いる。一軸伸長粘度の測定にはキャピラリー型レオメータ(Bohlin社、Flowmaster RH7)を用いる。図12には、このような実測によって求められた、低密度ポリエチレンの130℃における粘弾性データが示されている。実測値と計算値は、図12から明らかなとおり、ほぼ一致するようになっており、以下の各工程では、例えば、実測値を用いて計算を行う。
【0045】
続いて、130℃におけるPTTモデルの粘弾性データが求められると、多層モデルの層構成の設定が行われる(モデル化ステップ)。本実施形態では、上述したように、層の数は、各有限要素メッシュに対して中央層と端層との2層が設定されており、片方の層に中央層のPTTモデルおよびArrheniusモデルのパラメータ、物性値および厚さが設定される。有限要素メッシュにおける中央層の幅方向の厚さ分布としては、幅方向の位置に応じて全体厚さの0.8mmにステップS04で得られた幅方向の層比分布h(x)が乗じられた厚さ分布が設定される。もう一方の層には、端層のPTTモデルおよびArrheniusモデルのパラメータ、物性値および厚さが設定される。有限要素メッシュにおける端層の幅方向の厚さ分布としては、幅方向の位置に応じて全体厚さの0.8mmから中央層の厚さを減じた厚さ分布が設定される。つまり、各有限要素メッシュにおいて、それぞれの層にかかる情報(上述した物性値や厚さ等)が対応付けられるようになっている。このようにして、押出ダイ内の流動における粘弾性変化による、ダイ出口での幅方向への粘弾性分布を、単一の粘弾性である層を複数備えた多層モデルにより表現する。これにより、有限要素法を用いた解析において、粘弾性分布のネックインへ与える影響を考慮できる。このように、押出加工解析用のデータファイルの作成(ステップS06)が終了すると、ステップS07に進む。
【0046】
続いて、ネックイン算出部14が、ステップS05,06でモデル化された溶融樹脂を有限要素法を用いて解析し、該解析によって溶融樹脂におけるネックインの幅を算出する(ネックイン算出ステップ、ステップS07)。具体的には、上述したPolyflow バージョン3.11.0により、図11に示す有限要素メッシュを用いて、計算が行われる。境界条件としては、ステップS06における境界1〜4の条件が与えられる。また、樹脂データとしては、記憶されている式(6)に示すPTTモデルが用いられる。PTTモデルのパラメータとして、表1に示す値が与えられている。樹脂の温度依存性としては、式(7)に示すArrheniusモデルが用いられる。また、樹脂の物性値として、上記物性値が与えられる。これらの有限要素メッシュ、樹脂データを用いて、与えられた境界条件の下に、従来同様の解析方法によって有限要素計算を行う。計算初期は、境界3における引取速度Vとして、境界1と同一の値が与えられ、境界3の引取速度Vの値を大きくしながら繰り返し計算が行われる。有限要素メッシュは、計算を繰り返すごとに境界条件を満足するように変形させ、図11(b)に示されるような最終的なウェブの形状が得られるようにする。このような解析の実行により、ウェブにおける速度、応力、温度、厚みが得られる。また、有限要素メッシュ形状からネックインの幅NIが算出される。
【0047】
ステップS07でネックインの幅NIが算出されると、出力部15は、算出されたネックインの幅NIを表示する等して出力する(出力ステップ、ステップS08)。
【0048】
以上、本実施形態によれば、単一の粘弾性を示す層を2層備えた層構成を有すると共に幅方向の位置に応じて異なる粘弾性を示す多層モデルで溶融樹脂をモデル化する際、幅方向の粘弾性分布に基づいて層比算出ステップで算出された層比分布h(x)に基づいた多層モデルによってモデル化しており、樹脂の熱劣化による幅方向の粘弾性の変化を考慮して、有限要素法による解析を行うことができる。このため、ネックインの幅NIを精度よく計算することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態では、幅方向の粘弾性分布を取得する際、樹脂に対する加熱時間に応じた樹脂の粘弾性変化を示す熱挙動情報を取得する取得ステップと、樹脂を押出加工する際に樹脂が加工機1内に滞留する幅方向の滞留時間分布を算出する滞留時間算出ステップと、滞留時間算出ステップで算出された滞留時間分布における滞留時間に対し、取得ステップで取得された熱挙動情報における加熱時間を対応させることで、樹脂を加工機1から押し出す際の幅方向の粘弾性分布を算出する算出ステップを行うようになっている。このように、樹脂の粘弾性の変化に影響を与える熱挙動情報や幅方向の滞留時間分布に基づいて幅方向の粘弾性分布を算出しているため、幅方向の粘弾性分布を精度よく算出することができる。その結果、ネックインの幅を一層、精度よく計算することができる。なお、幅方向の粘弾性分布を事前に測定して記憶部に記憶しておき、上記の計算をする際、記憶されている粘弾性分布を呼び出して使用してももちろんよい。
【実施例1】
【0050】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【0051】
〔実施例1〕
実施例1として、上述した実施形態で説明した各条件に基づいて、計算装置10による計算方法によって、ネックインの幅NIを計算した。計算結果を表4に示す。
【0052】
〔実施例2〕
実施例1におけるエアギャップLを190mmに変えて有限要素メッシュを作成し、実施例1と同様に計算装置10で計算した。以上の計算で得られた、実施例2のネックインの幅NIを表4に示す。
【0053】
〔実施例3〕
実施例1におけるエアギャップLを220mmに変えて有限要素メッシュを作成し、実施例1と同様に計算装置10で計算した。以上の計算で得られた、実施例3のネックインの幅NIを表4に示す。
【0054】
〔比較例1〕
続いて、比較例によるネックインの幅NIの算出について説明する。まず、図13を用いて比較例における計算手順について説明する。本計算方法では、最初に、ステップS21で、押出加工に用いた樹脂の未加工状態における粘弾性の測定を行う。そして、未加工状態の低密度ポリエチレンCE4009の粘弾性を測定した。低密度ポリエチレンの130℃における粘弾性データを、後述するPTTモデルによる粘弾性の予測とともに図14に示す。
【0055】
続いて、エアギャップにおけるウェブをモデル化し、有限要素メッシュを作成した(ステップS22)。メッシュの作成にはモデリングソフトウェアGambit バージョン2.4.6(ANSYS Inc.社製)を用いた。具体的には、ウェブの厚さ方向への物理量の変化を平均化した擬3次元モデルを用いた。また、幅方向への対称性を考慮して、1/2モデルを用いた。以上の有限要素メッシュを後述の境界条件とともに図11に示す(なお、境界条件等は、実施形態と同様である)。押出ダイ3の出口幅Wを600mm、押出ダイ3のギャップ長さHを0.8mm、エアギャップLを160mmとした。その後、有限要素メッシュを繰り返し計算を行い所定の周期で変形させた。
【0056】
続いて、ステップS23に進み、押出加工解析用のデータファイルの作成を行った。計算には有限要素法に基づいた熱流動解析ソフトウェアPolyflow バージョン3.11.0(ANSYS Inc.社製)を用いた。 次に、以下の境界条件を設定した。
境界1:ダイの出口に相当する。引取方向速度Vとして0.05m/sを、幅方向速度Vとして0m/sを、温度Tとして320℃を、厚さHとしてギャップ長さH0.8mmをそれぞれ与えた。
境界2:ウェブの端部に相当する。自由表面として扱い、法線方向速度Vに0m/sを、法線方向応力Vに0Paを、また、断熱条件をそれぞれ与えた。
境界3:ウェブをチルロール4およびニップロール5にて引取る位置に相当する。引取方向速度Vとして2m/sを、幅方向応力Fとして0Paを、断熱条件をそれぞれ与えた。
境界4:ウェブの幅方向の対称線に相当する。幅方向速度Vとして0m/sを、引取方向応力Fとして0Paを、断熱条件をそれぞれ与えた。また、ウェブ表面において熱流速f=60W/(mK2)を与えた。
【0057】
粘弾性モデルとしてPTTモデルを用いた。比較例1で用いたPTTモデルのパラメータを表3に示す。
【表3】

【0058】
PTTモデルの温度依存性として、Arrheniusモデルを用いた。比較例1では、Tαとして130℃を、αとして6000をそれぞれ与えた。本ステップS41で得られた、130℃におけるPTTモデルの粘弾性データを図14に示す。なお、物性値として、密度d=735kg/m、熱伝導度k=0.15W/m・K、比熱Cp=3000J/(kg・℃)と設定した。
【0059】
最後に、上述したPolyflow バージョン3.11.0を用いて計算を行なった(ステップS24)。図11に示す有限要素メッシュを用いた。境界条件として上記境界1〜4の条件を与えた。また、樹脂データとして、式(6)に示すPTTモデルを用いた。PTTモデルのパラメータとして、表3に示す130℃における値を与えた。樹脂の温度依存性として、式(7)に示すArrheniusモデルを用いた。また、樹脂の物性値として、上記物性値を与えた。これらの有限要素メッシュ、樹脂データを用いて、与えられた境界条件の下に有限要素計算を行った。計算初期は境界3における引取速度として、境界1と同一の値を与えた。徐々に境界3の引取速度の値を大きくしながら繰り返し計算を行った。有限要素メッシュは、計算を繰り返すごとに境界条件を満足するように変形させ、最終的なウェブの形状を得た。このような解析の実行により、比較例による、ネックインの幅NIが算出される。
【0060】
以上の計算で得られた、比較例1のネックインNIを表4に示す。
【0061】
〔比較例2〕
比較例1におけるエアギャップLを190mmに変えて有限要素メッシュを作成し、比較例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、比較例2のネックインNIを表4に示す。
【0062】
〔比較例3〕
比較例2におけるエアギャップを220mmに変えて有限要素メッシュを作成し、比較例1と同様に計算した。以上の計算で得られた、比較例3のネックインNIを表4に示す。
【表4】

【0063】
上述した表4から明らかなとおり、実施例1〜3によれば、粘弾性の変化を考慮しない比較例1〜3に比べ、ネックインの幅NIを精度よく計算することができた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る計算方法を用いた押出加工におけるネックインの予測値は精度が高いので、押出ラミネート加工等に好適に適用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱しながらの押出加工によって加工機から押し出された対象物におけるネックインの幅を計算する計算方法であって、
前記対象物を前記加工機から押し出す際の幅方向の粘弾性分布を取得する粘弾性取得ステップと、
前記粘弾性取得ステップで取得された前記粘弾性分布に基づいて、単一の粘弾性を示す層を複数備えた層構成を有すると共に前記幅方向の位置に応じて異なる粘弾性を示す多層モデルによって前記対象物をモデル化するのに用いる前記複数の層のうち少なくとも一の層の幅方向の層比分布を算出する層比算出ステップと、
押出加工によって前記加工機から押し出される前記対象物を前記層比算出ステップで算出された前記層比に基づいた前記多層モデルによってモデル化するモデル化ステップと、
前記モデル化ステップでモデル化された前記対象物を有限要素法を用いて解析し、該解析によって前記対象物におけるネックインの幅を算出するネックイン算出ステップと、
前記ネックイン算出ステップで算出された前記ネックインの幅を出力する出力ステップと、
を含むことを特徴とするネックインの幅の計算方法。
【請求項2】
前記粘弾性取得ステップは、
前記対象物に対する加熱時間に応じた前記対象物の粘弾性変化を示す熱挙動情報を取得する取得ステップと、
前記対象物を押出加工する際に前記対象物が前記加工機内に滞留する前記幅方向の滞留時間分布を算出する滞留時間算出ステップと、
前記滞留時間算出ステップで算出された前記滞留時間分布における滞留時間に対し、前記取得ステップで取得された前記熱挙動情報における前記加熱時間を対応させることで、前記対象物を前記加工機から押し出す際の前記幅方向の粘弾性分布を算出する算出ステップと、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のネックインの幅の計算方法。
【請求項3】
加熱しながらの押出加工によって加工機から押し出された対象物におけるネックインの幅を計算する計算装置であって、
前記対象物を前記加工機から押し出す際の幅方向の粘弾性分布を取得する粘弾性取得手段と、
前記粘弾性取得手段で取得された前記粘弾性分布に基づいて、単一の粘弾性を示す層を複数備えた層構成を有すると共に前記幅方向の位置に応じて異なる粘弾性を示す多層モデルによって前記対象物をモデル化するのに用いる前記複数の層のうち少なくとも一の層の幅方向の層比分布を算出する層比算出手段と、
押出加工によって前記加工機から押し出される前記対象物を前記層比算出手段で算出された前記層比に基づいた前記多層モデルによってモデル化するモデル化手段と、
前記モデル化手段でモデル化された前記対象物を有限要素法を用いて解析し、該解析によって前記対象物におけるネックインの幅を算出するネックイン算出手段と、
前記ネックイン算出手段で算出された前記ネックインの幅を出力する出力手段と、
を備えることを特徴とする計算装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2010−280083(P2010−280083A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133423(P2009−133423)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】