説明

ノイズキャンセルヘッドホン

【課題】環境騒音を集音するための孔に直接手を触れることができず、かつ、風が直接入ることができない構造になるように工夫して、耳障りな騒音が生じないようにしたノイズキャンセルヘッドホンを得る。
【解決手段】フィードフォワード制御型ノイズキャンセルヘッドホンであって、ヘッドホン本体10は外周に沿って溝14が形成された溝形成部材11を有し、溝形成部材11には集音孔15が開口を上記溝14に向けて形成され、集音孔15に向けて環境騒音集音用マイクロホン22が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズキャンセルヘッドホン、特に、ヘッドホン本体の外側の環境騒音を直接集音するためにマイクロホンをヘッドホン本体の外側に向けて配置したフィードフォワード制御型といわれるノイズキャンセルヘッドホンにおける上記マイクロホンの取り付け構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境騒音をマイクロホンで集音し、環境騒音信号の逆位相のキャンセル信号を生成し、キャンセル信号を楽音信号と混合してスピーカユニット(ヘッドホンユニットという場合もある)に入力することにより、スピーカユニットから放音されるキャンセル信号に基づく音声が環境騒音を打ち消し、ユーザーは楽音信号のみを聞くことができるようにしたアクティブ型ノイズキャンセルヘッドホンが普及している。
アクティブ型ノイズキャンセルヘッドホンは、環境騒音を集音するマイクロホンの設置位置によって、フィードフォワード制御型とフィードバック制御型に分類することができる。フィードフォワード制御型はマイクロホンをヘッドホン本体の外側に向けて取り付け、ヘッドホン本体内に進入する前の環境騒音を集音してキャンセル信号を生成する。フィードバック制御型ヘッドホンはマイクロホンをヘッドホン本体内に配置し、ヘッドホン本体内に進入してきた騒音を集音してキャンセル信号を生成する。
【0003】
本発明にかかるノイズキャンセルヘッドホンは、フィードフォワード制御型に関する。従来の耳覆い型あるいは耳載せ型ヘッドホンで、フィードフォワード制御型ヘッドホンにおけるマイクロホンは、ヘッドホン本体に直接、集音方向をヘッドホン本体外側に向けて取り付けられている。例えば、特許文献1、特許文献2に記載されているヘッドホンなどはその例である。
図5、図6は従来のフィードフォワード制御型ヘッドホンの外観例を示す。図5、図6において、ヘッドホン1は、左右一対のヘッドホンハウジング2と、左右のヘッドホンハウジング2を連結するヘッドバンド3を備えている。ヘッドバンド3は適度の弾性を有して逆U字状に形成され、その両端部は半円形のハンガー4の中間部に連結されている。各ハンガー4の両端部にはヘッドホン本体2が軸を介して回転可能に連結されている。
【0004】
従来の耳覆い型あるいは耳載せ型でありかつフィードフォワード制御型ヘッドホンにおける環境騒音集音用マイクロホンは、その集音孔がユーザーの手によって触れることができる位置に配置されている。例えば、図6に示す従来例のように、カップ状に形成されているヘッドホンハウジング2のカップの底面に相当する面に集音孔5を開口させ、あるいは、ヘッドホンハウジング2の周面に集音孔6を開口させ、これら集音孔5または6の背後に直接対向させてマイクロホンが配置されている。図5に示す矢印Aは、ヘッドホンハウジング2の面に設けられたマイクロホンに、上記ヘッドホンハウジング2の面に対して直交する方向から進入する環境騒音を示している。矢印Bは、ヘッドホンハウジング2の面に平行な方向から進入する環境騒音を示している。
【0005】
以上の説明からわかるように、従来の耳覆い型あるいは耳載せ型のフィードフォワード制御型ヘッドホンは、ユーザーの手が触れやすい位置にマイクロホンの集音孔が設けられている。そのため、ユーザーが上記集音孔周辺に手を触れることによって生じる振動雑音をマイクロホンが集音して電気信号に変換し、ハンドノイズといわれる雑音信号を発生する。また、上記集音孔5,6は外気に直接接しているため、これらの集音孔5,6から風が直接マイクロホンに入り、風雑音といわれる雑音信号を発生する。マイクロホンで生成されるこれらの雑音信号に基づいてキャンセル信号が生成され、キャンセル信号に対応した音声がスピーカユニットから発せられる。この音声は環境騒音に基づく音声とは異なってキャンセルされないため、ユーザーにとっては耳障りな騒音となる。
【0006】
【特許文献1】特開2000−228759号公報
【特許文献2】特開平11−38281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上に述べたような従来のフィードフォワード制御型ヘッドホンの問題点を解消することを目的とする。すなわち、環境騒音を集音するための孔に直接手を触れることができず、かつ、風が直接入ることができない構造になるように工夫して、耳障りな騒音が生じないようにしたノイズキャンセルヘッドホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、フィードフォワード制御型ノイズキャンセルヘッドホンであって、ヘッドホン本体は外周に沿って溝が形成された溝形成部材を有し、上記溝形成部材には集音孔が開口を上記溝に向けて形成され、上記集音孔に向けて環境騒音集音用マイクロホンが配置されていることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
環境騒音は、ヘッドホン本体に形成された周方向の溝から進入し、さらに集音孔からマイクロホンに進入するため、マイクロホンで環境騒音を集音し、キャンセル信号を生成し、ヘッドホン本体内に進入してきた環境騒音をキャンセルすることができる。上記集音孔に直接手を触れることはできず、また、風が直接集音孔を通ることもないから、集音孔に直接手を触れることによってマイクロホンが感知する摩擦音や風雑音のレベルが低減され、摩擦音や風雑音を原因とする耳障りな騒音の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明にかかるノイズキャンセルヘッドホンの実施例について図面を参照しながら説明する。
図1乃至図3において、ヘッドホン本体10は、バッフル板11を有し、バッフル板11の中心部には図示されないスピーカユニットが取り付けられている。スピーカユニットは、周知のとおり、ヨーク、磁石などからなる磁気回路構成部材と、磁気回路構成部材で形成される磁気ギャップ内に配置されたボイスコイルと、このボイスコイルが固着されたダイヤフラム状の振動板などを有してなる。バッフル板11の前面側(図1において右面、図2において左面側)にはイヤパッド16が装着され、バッフル板11の背面側には図示されないハウジングが固着されている。イヤパッド16はリング状に形成され、ユーザーの耳を囲むことができ、ユーザーがヘッドホンを使用するとき、ユーザーの耳をヘッドホン全体で覆うことができるようになっている。上記ハウジングは、スピーカユニットその他の内部構造を覆ってバッフル板11の背面側に後部空気室を形成している。
【0011】
バッフル板11は、その前後方向すなわち厚さ方向の両端部にフランジ12,13を有し、これらのフランジ12,13間に全周にわたって溝14が形成されている。したがって、バッフル板11は周方向の溝形成部材ということもできる。上記溝14は、バッフル板11の半径方向、すなわちヘッドホン本体10の前後方向に対して直交する方向から環境騒音を導き入れるための溝である。バッフル板11の背面側のフランジ13には、このフランジ13を前後方向に貫いて集音孔15が形成されている。したがって、集音孔15の一端は上記溝14に向かって開口しており、集音孔15の他端の開口に対向させて環境騒音の集音用マイクロホン22が配置されている。マイクロホン22はその前後方向をヘッドホンの前後方向に合わせ、また、前面を上記集音孔15の開口に対向させてバッフル板11または図示されないハウジングなどに取り付けられている。
【0012】
バッフル板11はイヤパッド取り付け部材を兼ねている。図3に示すように、イヤパッド16は、主としてクッション部材17と、このクッション部材17の表面を覆う表面部材18からなる。表面部材18は、柔らかくて肌触りの良好な素材からなり、縫い合わせ、接着、溶着などの適宜の手段で固着されることによりクッション部材17を包み込んでいる。また、イヤパッド16の背面側には表面部材18の一部が伸び出てバッフル板11への装着片19を形成している。この装着片19はリング状のイヤパッド16の外周側において、イヤパッド16の全周にわたり形成されていて、例えば、端縁部がゴムなどの弾性紐で絞られることにより袋状に形成されている。この袋状の装着片19がバッフル板11のフランジ12、13のうち集音孔15形成側とは反対側のフランジ12にその外周側から被せられている。こうして、上記装着片19とイヤパッド16の本体部分とでフランジ12を挟み込み、イヤパッド16がバッフル板11に装着されている。なお、イヤパッド16はバッフル板11に接着その他適宜の固着手段によって固着するようにしてもよい。
【0013】
ヘッドホン本体10は、周知のように、2個を一組として図示されないヘッドバンドで連結され、ユーザーがヘッドホンを使用するときは、ヘッドバンドの弾性力で左右一対のヘッドホン本体10のイヤパッド16がユーザーの側頭部に密着するようになっている。上記ヘッドバンドと各ヘッドホン本体10との間にはハンガー24(図2参照)が介在している。ハンガー24はヘッドホン本体10の外周とほぼ同心の円弧に沿って半円形に形成されていて、その長さ方向両端部の軸を介してヘッドホン本体10と連結されている。上記両端部の軸は、同一の仮想線上にあり、この仮想線を中心としてハンガー24とヘッドホン本体10が相対回転することができるようになっている。ハンガー24の長さ方向中央部には図示されないヘッドバンドを連結するための軸26が形成されている。この軸26に対してヘッドバンドの端部に形成されている軸受け部が相対回転可能に連結されている。
【0014】
上記ヘッドホンをユーザーが頭部に装着して使用しているとき、ハンガー24が集音孔15形成部の溝14を覆うように構成されている。したがって、集音孔15形成部の周辺に手を触れることはできなくなり、集音孔15形成部の周辺に手を触れることによってマイクロホン22が検知する振動雑音のレベルを低減することができる。環境騒音は、ハンガー24とヘッドホン本体10との間に生じている隙間から溝14に進入し集音孔15からマイクロホン22に至る。
【0015】
以上の説明から明らかなとおり、ヘッドホン本体10の外部の環境騒音は、ヘッドホン本体10に形成された周方向の溝14にヘッドホン本体10の半径方向から進入し、さらに集音孔15からマイクロホン22に進入するため、マイクロホン22で環境騒音を集音し、キャンセル信号を生成し、ヘッドホン本体に進入してきた環境騒音をキャンセルすることができる。上記集音孔15に直接手を触れることはできず、また、風が直接集音孔15を通ることもないから、集音孔15に直接手を触れることによってマイクロホン22が感知する摩擦音や風雑音のレベルが低減され、摩擦音や風雑音を原因とする耳障りな騒音の発生を抑制することができる。
【0016】
図4は、本発明にかかるノイズキャンセルヘッドホンによる出力電圧周波数特性を、試験音の入射方向を90度変えて測定した結果を示す。破線は「内側取付鉛直入射」の場合、実線は「内側取付水平入射」の場合を示す。「内側取付」とは、図1乃至図3に示す実施例のように、周方向の溝14を形成し、その内側に集音孔15を形成してマイクロホン22を配置していることを意味している。「鉛直入射」とは、図1に矢印Aで示すように、試験音をマイクロホンの振動膜面に対し直交方向から入射させた場合である。「水平入射」とは、図1に矢印Bで示すように、マイクロホンの振動膜面に対し平行方向から試験音を入射させた場合である。
【0017】
図7は、本発明にかかるノイズキャンセルヘッドホンによって得られる効果を確認するために、従来のヘッドホンによる出力電圧周波数特性を測定してその結果を示したものである。測定対象のヘッドホンおよびマイクロホンは同一の構成とし、マイクロホンの配置位置のみを従来のようにハウジングに直接外向きにして配置し測定した。図7において「外側取付」とは、マイクロホンがハウジングに直接外向きにして取り付けられていることをいう。破線で示す「鉛直入射」、実線で示す「水平入射」とは、図4の例の場合と同様に、マイクロホンの振動膜面に対し直交する方向Aから入射した場合と、マイクロホンの振動膜面に対し平行な方向Bから入射させた場合をいう。
【0018】
図4、図7を対比すると、本願発明によれば、1KHz以下の周波数帯域では、両者ともマイクロホン出力電圧はほぼ平坦で、出力電圧も接近してほぼ同じレベルである。環境騒音を検出して能動的にノイズキャンセルする本願発明のようなヘッドホンでは、一般的に1KHz以下の周波数帯域をノイズキャンセルの対象としているので、1KHz以下の周波数帯域で図4に示すような特性が得られる本願発明によれば、能動型ノイズキャンセルヘッドホンにおいてなんら支障なくノイズキャンセル効果を得ることができることがわかる。
また、1KHzから2KHzの周波数帯域では、従来のノイズキャンセルヘッドホンよりも本願発明にかかるノイズキャンセルヘッドホンの方が、試験音の入射方向の違いによるマイクロホン出力電圧の差が少なくなっているため、環境騒音の入射方向の違いによる能動的な雑音低減効果の違いも少なくすることができる利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0019】
図示の実施例は耳覆い型ヘッドホンとして構成されているが、本発明は耳載せ型ヘッドホンにも適用可能であり、また、スピーカユニットの背後の空間が密閉されている密閉型であるか、または上記空間が開放されている開放型であるかを問わない。
また、ヘッドホン本体の外周に沿って形成される溝は、必ずしも周方向全周に形成する必要はなく、溝形成部材の周方向の一部に形成され、この溝に向けて集音孔の開口が形成されていればよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るノイズキャンセルヘッドホンの実施例であってそのヘッドホン本体をハウジングの描写を省略しかつバッフル板とイヤパッドの一部を切断して示す背面側からの斜視図である。
【図2】上記ヘッドホン本体にハンガーを付加した状態を正面側から示す斜視図である。
【図3】上記ヘッドホン本体の一部を切断して示す縦断面図である。
【図4】本発明の実施例に係るノイズキャンセルヘッドホンのマイクロホン出力電圧の周波数特性を試験音の入射方向を変えて測定した結果を示すグラフである。
【図5】従来のノイズキャンセルヘッドホンの本体部分を示す斜視図である。
【図6】従来のノイズキャンセルヘッドホンの使用例とマイクロホン配置位置の各種例を示す斜視図である。
【図7】従来のノイズキャンセルヘッドホンのマイクロホン出力電圧の周波数特性測定結果を図4に示す測定結果に準じて示すグラフである。
【符号の説明】
【0021】
10 ヘッドホン本体
11 バッフル板
12 フランジ
13 フランジ
14 溝
15 集音孔
16 イヤパッド
17 クッション材
18 表面部材
19 装着片
20 スピーカユニット
22 マイクロホン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィードフォワード制御型ノイズキャンセルヘッドホンであって、
ヘッドホン本体は外周に沿って溝が形成された溝形成部材を有し、
上記溝形成部材には集音孔が開口を上記溝に向けて形成され、
上記集音孔に向けて環境騒音集音用マイクロホンが配置されているノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項2】
集音孔形成部の溝は、ヘッドホンの使用状態において一対のヘッドホン本体とこれを連結するヘッドバンドとの間に介在するハンガーで覆われる請求項1記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項3】
溝形成部材に形成されている溝は、溝形成部材の全周にわたって形成されている請求項1記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項4】
溝形成部材は、イヤパッド取り付け部材を兼ねていて厚さ方向両端にフランジを有することによりこれらのフランジ間に上記溝が形成され、上記フランジのうち集音孔形成側とは反対側のフランジにイヤパッドが取り付けられている請求項3記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項5】
イヤパッドはクッション部材とこのクッション部材の表面を覆う表面部材を有してリング状に形成され、表面部材で形成された装着片が溝形成部材のフランジを覆うことによってイヤパッドが装着されている請求項4記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項6】
溝形成部材は、スピーカユニットが取り付けられたバッフル板であり、イヤパッド取り付け面の反対側の面にヘッドホンハウジングが取り付けられている請求項4または5記載のノイズキャンセルヘッドホン。
【請求項7】
溝形成部材に形成されている溝は、溝形成部材の周方向の一部に形成されている請求項1記載のノイズキャンセルヘッドホン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−109799(P2010−109799A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280847(P2008−280847)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】