説明

ノイズ抑制シート評価装置及びノイズ抑制シート評価方法

【課題】同一装置において伝導ノイズ抑制効果と放射ノイズ抑制効果とを評価することができ、総合的なノイズ抑制効果を評価することができるノイズ抑制シート評価装置及びノイズ抑制シート評価方法を提供すること。
【解決手段】本発明においては、評価基板11に形成された導電パターン16上にノイズ抑制シート12を配置した状態で、前記導電パターン16に信号を出力したときに前記導電パターン16を通る信号のノイズ抑制効果を測定すると共に、前記ノイズ抑制シート12が存在していない領域及び前記ノイズ抑制シート12が存在している領域のそれぞれのノイズ抑制効果を測定することにより、同一装置において伝導ノイズ抑制効果と放射ノイズ抑制効果とを評価することができ、総合的なノイズ抑制効果を評価することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズ抑制シートの評価装置及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなどに代表される携帯電子機器が普及している。このような携帯電子機器においては、電磁波干渉の問題があり、特に高周波の不要電波を防止する必要が生じてきている。この不要電波を抑制するためには、使用周波数帯域における複素透磁率の虚数部μ”が大きい磁性複合体を用いるのが好ましい。このため、Fe−Al−Si系合金やFe−Ni系合金などの軟磁性合金で構成された粉末を分散した材料からなる磁気シートがノイズ抑制シートとして開発されている。
【0003】
このようなノイズ抑制シートの評価方法においては、導体パターンを形成した評価基板の導体パターン上にノイズ抑制シートを載せ、導体パターンに信号を伝送させたときの伝導ノイズの抑制効果を評価し、図2に示すように、発振用ループアンテナ22aと受信用ループアンテナ22bとの間にノイズ抑制シートを配置し、スペクトラムアナライザ23で放射ノイズの抑制効果を評価する(特許文献1、段落番号[0059]、[0060]、図7)。
【特許文献1】特開2006−93412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の評価方法のように、伝導ノイズ抑制効果と放射ノイズ抑制効果とを個別に評価する方法では、それぞれ異なる専用装置を用いて評価するため、それぞれのノイズ抑制効果を再現性良く評価することはできるが、専用装置が異なるために、評価サンプル毎の測定条件(例えば、ノイズ抑制シートと評価基板との間の接触状態で決まる反射係数など)が異なってしまい、伝導ノイズ抑制効果と放射ノイズ抑制効果とを合わせた総合的なノイズ抑制効果を正確に評価することができない。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、同一装置において伝導ノイズ抑制効果と放射ノイズ抑制効果とを評価することができ、総合的なノイズ抑制効果を評価することができるノイズ抑制シート評価装置及びノイズ抑制シート評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のノイズ抑制シート評価装置は、導体パターンを有する評価基板と、前記導体パターン上にノイズ抑制シートを配置した際に、前記ノイズ抑制シートが存在していない領域及び前記ノイズ抑制シートが存在している領域のそれぞれのノイズ抑制効果を測定する放射ノイズ測定手段と、前記導体パターンに電気的に接続され、前記導体パターンに出力された信号のノイズ抑制効果を測定する伝導ノイズ測定手段と、を具備することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、放射ノイズ抑制効果と伝動ノイズ抑制効果とを同一条件下で共に測定することができるので、正確にそれぞれのノイズ抑制効果を求めることができ、また総合的なノイズ抑制効果を評価することができる。
【0008】
本発明のノイズ抑制シート評価装置においては、前記放射ノイズ測定手段は、前記ノイズ抑制シートが存在していない領域の反射依存分のノイズ抑制効果と、前記ノイズ抑制シートが存在している領域の透過減衰分のノイズ抑制効果とからノイズ抑制効果を測定することが好ましい。この構成によれば、ノイズ抑制シートが存在しない領域での放射ノイズ抑制効果の反射依存分(反射係数悪化により放射が増加する分)も測定するので、より正確なノイズ抑制効果を評価することができる。
【0009】
本発明のノイズ抑制シート評価方法は、評価基板に形成された導体パターン上にノイズ抑制シートを配置した状態で、前記導体パターンに信号を出力したときに前記導体パターンを通る信号のノイズ抑制効果を測定する工程と、前記ノイズ抑制シートが存在していない領域及び前記ノイズ抑制シートが存在している領域のそれぞれのノイズ抑制効果を測定する工程と、を具備することを特徴とする。
【0010】
本発明のノイズ抑制シートの評価方法においては、前記ノイズ抑制シートが存在していない領域の反射依存分のノイズ抑制効果と、前記ノイズ抑制シートが存在している領域の透過減衰分のノイズ抑制効果とからノイズ抑制効果を測定することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のノイズ抑制シート評価装置は、導体パターンを有する評価基板と、前記導体パターン上にノイズ抑制シートを配置した際に、前記ノイズ抑制シートが存在していない領域及び前記ノイズ抑制シートが存在している領域のそれぞれのノイズ抑制効果を測定する放射ノイズ測定手段と、前記導体パターンに電気的に接続され、前記導体パターンに出力された信号のノイズ抑制効果を測定する伝導ノイズ測定手段と、を具備するので、同一装置において伝導ノイズ抑制効果と放射ノイズ抑制効果とを評価することができ、総合的なノイズ抑制効果を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者は、評価基板にノイズ抑制シートを装着した後に、評価基板に同じノイズ抑制シートを貼り直すと、評価基板とノイズ抑制シートとの間の接触状態が変わり反射係数が変わることに着目した。すなわち、伝導ノイズ抑制効果と放射ノイズ抑制効果とを異なる装置で評価すると、必然的にノイズ抑制シートの貼り直しの状態が発生してしまい、評価基板とノイズ抑制シートとの間の接触状態が変わり反射係数が変わってしまう。これでは、同じ条件で伝導ノイズ抑制効果と放射ノイズ抑制効果を評価していることにならない。また、伝導ノイズ抑制効果と放射ノイズ抑制効果では反射係数の影響度が異なるために、結果として正確なノイズ抑制効果を評価したことにならない。
【0013】
そこで、本発明者は上記問題点に鑑みて、同一基板上で伝導ノイズ抑制効果と放射ノイズ抑制効果を評価することにより、ノイズ抑制シートの貼り直しの状態をなくし、正確に伝導ノイズ抑制効果と放射ノイズ抑制効果を評価し、さらに総合的なノイズ抑制効果を評価できることを見出し本発明をするに至った。
【0014】
すなわち、本発明の骨子は、評価基板に形成された導体パターン上にノイズ抑制シートを配置した状態で、前記導体パターンに信号を出力したときに前記導体パターンを通る信号のノイズ抑制効果を測定すると共に、前記ノイズ抑制シートが存在していない領域及び前記ノイズ抑制シートが存在している領域のそれぞれのノイズ抑制効果を測定することにより、同一装置において伝導ノイズ抑制効果と放射ノイズ抑制効果とを評価することができ、総合的なノイズ抑制効果を評価することである。
【0015】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るノイズ抑制シート評価装置を示す図である。図1に示すノイズ抑制シート評価装置は、導電パターン16を有する評価基板11と、導電パターン16に信号を送出する信号源13と、放射ノイズを受信する受信用ループアンテナ14a,14bと、放射ノイズ抑制効果及び伝導ノイズ抑制効果を評価する制御部15とから主に構成されている。
【0016】
評価基板11上には、導電パターン16を覆うようにノイズ抑制シート12が配置される。導電パターン16上にノイズ抑制シート12を配置した際に、ノイズ抑制シート12が存在していない領域及びノイズ抑制シート12が存在している領域ができるので、受信用ループアンテナ14a,14bはそれぞれの領域の放射ノイズを受信する。図1においては、受信用ループアンテナ14aでノイズ抑制シート12が存在していない領域の放射ノイズを受信し、受信用ループアンテナ14bでノイズ抑制シート12が存在している領域の放射ノイズを受信する。これにより、受信用ループアンテナ14aで受信した放射ノイズにより、ノイズ抑制シート12が存在していない領域の反射依存分のノイズ抑制効果を評価することができ、受信用ループアンテナ14bで受信した放射ノイズにより、ノイズ抑制シート12が存在している領域の透過減衰分のノイズ抑制効果を評価することができる。
【0017】
制御部15は、放射ノイズ抑制効果と伝導ノイズ抑制効果とを評価する処理部である。例えば、放射ノイズ抑制効果は、スペクトルアナライザにより評価し、伝導ノイズ抑制効果は、ネットワークアナライザにより評価することができる。したがって、制御部15は、放射ノイズ抑制効果評価用のスペクトラムアナライザと伝導ノイズ抑制効果評価用のネットワークアナライザとを有する。そして、受信用ループアンテナ14a,14bがスペクトラムアナライザに電気的に接続されており、評価基板11の導電パターン16がネットワークアナライザに電気的に接続されている。
【0018】
上記構成においては、信号源13及びネットワークアナライザにより伝導ノイズ測定手段を構成し、受信用ループアンテナ14a,14b及びスペクトラムアナライザにより放射ノイズ測定手段を構成する。
【0019】
このような構成の評価装置においては、評価基板に形成された導電パターン16上にノイズ抑制シート12を配置した状態で、導電パターン16に信号を出力したときに導電パターン16を通る信号の伝導ノイズ抑制効果を測定すると共に、ノイズ抑制シート12が存在していない領域及びノイズ抑制シートが存在している領域のそれぞれの放射ノイズ抑制効果を測定する。
【0020】
この場合においては、まず、評価基板11にノイズ抑制シート12を配置しない状態で受信用ループアンテナ14aにより放射ノイズ抑制効果の反射依存分を測定し、受信用ループアンテナ14bにより放射ノイズ抑制効果の透過減衰分を測定する。次いで、評価基板11にノイズ抑制シート12を配置した状態で受信用ループアンテナ14aにより放射ノイズ抑制効果の反射依存分を測定し、受信用ループアンテナ14bにより放射ノイズ抑制効果の透過減衰分を測定する。そして、ノイズ抑制シート12がある場合の反射依存分の放射ノイズ抑制効果からノイズ抑制シート12がない場合の反射依存分の放射ノイズ抑制効果を差し引いて反射依存分の放射ノイズを求め、ノイズ抑制シート12がある場合の透過減衰分の放射ノイズ抑制効果からノイズ抑制シート12がない場合の透過減衰分の放射ノイズ抑制効果を差し引いて透過減衰分の放射ノイズ抑制効果を求め、求められた反射依存分の放射ノイズ抑制効果と求められた透過減衰分の放射ノイズ抑制効果を加えて放射ノイズ抑制効果とする。また、信号源13から送出された信号を制御部15で受信することにより伝動ノイズ抑制効果を測定する。
【0021】
このように、本実施の形態に係るノイズ抑制シート評価装置においては、放射ノイズ抑制効果と伝動ノイズ抑制効果とを同一条件下で共に測定することができるので、正確にそれぞれのノイズ抑制効果を求めることができ、また総合的なノイズ抑制効果を評価することができる。また、ノイズ抑制シートが存在しない領域での放射ノイズ抑制効果の反射依存分も測定するので、より正確なノイズ抑制効果を評価することができる。
【0022】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
図1に示す構成を有する評価装置により、導体パターン上にノイズ抑制シートを配置したときのノイズ抑制効果を求めた。なお、ノイズ抑制シートとしては、シリコーン樹脂にFe基非晶質合金を混合してなる厚さ0.1mmの磁性シートを用い、受信用ループアンテナとして、φ4mmのマイクロループアンテナを用い、ネットワークアナライザとして、N3383A(アジレントテクノロジ社製)を用い、スペクトラムアナライザとして、8595E(アジレントテクノロジ社製)を用いた。
【0023】
上記のような評価装置において、まず、ノイズ抑制シート12を配置しない状態で受信用ループアンテナ14aにより放射ノイズ抑制効果の反射依存分を測定したところ−39.23dB(1GHz)であり、受信用ループアンテナ14bにより放射ノイズ抑制効果の透過減衰分を測定したところ−39.20dB(1GHz)であった。次いで、ノイズ抑制シート12を配置した状態で受信用ループアンテナ14aにより放射ノイズ抑制効果の反射依存分を測定したところ−38.85dB(1GHz)であり、受信用ループアンテナ14bにより放射ノイズ抑制効果の透過減衰分を測定したところ−39.89dB(1GHz)であった。したがって、反射依存分の放射ノイズ抑制効果は0.38dB(1GHz)であり、透過減衰分の放射ノイズ抑制効果は−0.69dB(1GHz)であった。また、信号源13から送出された信号を用いて測定された伝動ノイズ抑制効果(伝送減衰率)は0.323であった。
【0024】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。例えば、ノイズ抑制シート材質や制御部の構成などについては、上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することができる。その他、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々変更して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係るノイズ抑制シート評価装置を示す図である。
【図2】ノイズ抑制効果を評価する従来の装置を説明するための図である。
【符号の説明】
【0026】
11 評価基板
12 ノイズ抑制シート
13 信号源
14a,14b 受信用ループアンテナ
15 制御部
16 導電パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体パターンを有する評価基板と、前記導体パターン上にノイズ抑制シートを配置した際に、前記ノイズ抑制シートが存在していない領域及び前記ノイズ抑制シートが存在している領域のそれぞれのノイズ抑制効果を測定する放射ノイズ測定手段と、前記導体パターンに電気的に接続され、前記導体パターンに出力された信号のノイズ抑制効果を測定する伝導ノイズ測定手段と、を具備することを特徴とするノイズ抑制シート評価装置。
【請求項2】
前記放射ノイズ測定手段は、前記ノイズ抑制シートが存在していない領域の反射依存分のノイズ抑制効果と、前記ノイズ抑制シートが存在している領域の透過減衰分のノイズ抑制効果とからノイズ抑制効果を測定することを特徴とする請求項1記載のノイズ抑制シート評価装置。
【請求項3】
評価基板に形成された導体パターン上にノイズ抑制シートを配置した状態で、前記導体パターンに信号を出力したときに前記導体パターンを通る信号のノイズ抑制効果を測定する工程と、前記ノイズ抑制シートが存在していない領域及び前記ノイズ抑制シートが存在している領域のそれぞれのノイズ抑制効果を測定する工程と、を具備することを特徴とするノイズ抑制シート評価方法。
【請求項4】
前記ノイズ抑制シートが存在していない領域の反射依存分のノイズ抑制効果と、前記ノイズ抑制シートが存在している領域の透過減衰分のノイズ抑制効果とからノイズ抑制効果を測定することを特徴とする請求項3記載のノイズ抑制シート評価方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−211422(P2008−211422A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45017(P2007−45017)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】