説明

ノズル面洗浄装置および液滴吐出装置

【課題】洗浄液によるワイピング時のウエット状態を複数の条件で行なうことができ、最適な条件でメンテナンスを行なうことができるノズル面洗浄装置および液滴吐出装置を提供する。
【解決手段】液体を吐出するノズルが設けられるノズル面72Aを有するインクジェットヘッド72と、ノズル面72Aに対向して配置され洗浄液を供給する洗浄液供給手段162と、洗浄液供給手段162またはインクジェットヘッド72を移動させる移動手段168と、を備え、移動手段168は、洗浄液供給手段162とノズル面72Aとを平行に相対移動させ、ノズル面72Aの汚れ状態、あるいは、稼働履歴に応じて、洗浄液供給手段162またはインクジェットヘッド72を移動させて、ノズル面72Aへの洗浄液の供給量を調整することを特徴とするノズル面洗浄装置、および、これを備える液滴吐出装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル面洗浄装置および液滴吐出装置に係り、特に、吐出ヘッドの汚れ、稼働状況により、洗浄液の量を変更することができるノズル面洗浄装置および液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置で用いられるインクジェットヘッドのノズル面およびノズルエッジには、使用によりインクの残渣、紙粉など様々な異物が付着する。ノズル面に異物が付着していると、ノズルから吐出されるインク液滴が影響を受けて、インク液滴の吐出方向にばらつきが生じ、記録媒体上の所定の位置にインク液滴を着弾させることが困難となり、画像品質が劣化する原因となる。そこで、ノズル面への付着物に起因する吐出異常を回避するために、ノズル面の洗浄が適宜行われるように構成されている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、払拭動作の際に、所定の条件に基づいて洗浄液の供給ないし非供給の選択を行う供給選択手段を備える液滴吐出装置が記載されている。また、特許文献2には、700kHz以上の周波数の超音波を発振し、洗浄液を励振させる超音波発振手段と、洗浄液を加圧してノズルとはノズルからのインク噴射方向とは逆方向に洗浄液を噴流する洗浄液噴流手段を有するインクジェット記録ヘッド洗浄装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−7977号公報
【特許文献2】特許第4389499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている液滴吐出装置は、吐出ヘッドに対して洗浄液による供給ないし非供給を選択可能な方法であるため、ドライ状態のワイピングと、ウエット状態でのワイピングとの切り替えしかできていなかった。2種類のワイピング方法では、より詳細な吐出ヘッドの稼働履歴に対応することは困難であり、最適な払拭状態を実現しているとは言えなかった。また、特許文献2に記載されている洗浄装置は、洗浄液をノズル近傍に直接吹きかける構成であるが、吐出ヘッドの稼働履歴に基づくメンテナンス条件の切り替えに関することは検討されていなかった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、洗浄液によるワイピング時のウエット状態を複数の条件で行うことができ、最適な条件でメンテナンスを行うことができるノズル面洗浄装置および液滴吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前記目的を達成するために、液体を吐出するノズルが設けられるノズル面を有するインクジェットヘッドと、前記ノズル面に対向して配置され洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、前記洗浄液供給手段または前記インクジェットヘッドの少なくともいずれか一方を移動させる移動手段と、を備え、前記移動手段は、前記洗浄液供給手段と前記ノズル面とを平行に相対移動させ、前記ノズル面の汚れ状態、あるいは、稼働履歴のいずれかに応じて、前記洗浄液供給手段または前記インクジェットヘッドの少なくともいずれか一方を移動させて、前記ノズル面への前記洗浄液の供給量を調整することを特徴とするノズル面洗浄装置を提供する。
【0008】
本発明によれば、洗浄液供給手段またはインクジェットヘッドの少なくともいずれか一方を移動させることにより、洗浄液供給手段から洗浄液を供給し、洗浄液が付与されるノズル面の面積を小さくすることができ、付与される洗浄液の量を調整することができる。したがって、ノズル面を清掃する洗浄液の量をノズル面の汚れ状態、稼働履歴に応じて洗浄液の量を変更することができるため、ワイピング条件を変更することなく、メンテナンス条件を変更することができ、クリーニング性能を向上させることができる。
【0009】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置は、前記洗浄液供給手段は、前記ノズル面との間に所定の距離を有し、前記ノズル面と略平行に設けられた洗浄液保持面を具備し、前記洗浄液保持面に洗浄液を供給する洗浄液ノズルを有することが好ましい。
【0010】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置によれば、ノズル面と略平行に設けられた洗浄液保持面に洗浄液を供給する洗浄液ノズルを有し、洗浄液保持面に洗浄液を供給することで、ノズル面に洗浄液を付与することができる。
【0011】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置は、前記ノズル面と前記洗浄液保持面との間に洗浄液を満たすことが好ましい。
【0012】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置によれば、ノズル面と洗浄液保持面との間で洗浄液の膜を形成することができるので、洗浄液の膜とノズル面とを接触させることで、均一に洗浄液を付与することができる。
【0013】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置は、前記ノズル面は水平面に対して傾斜して設けられていることが好ましい。
【0014】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置によれば、ノズル面を水平に対して傾斜して設けることにより、洗浄液供給手段も傾斜して設ける。したがって、洗浄液供給手段の洗浄液保持面の上部から洗浄液を供給することで、洗浄液保持面の傾斜を用いて洗浄液の膜を洗浄液保持面に容易に形成することができる。
【0015】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置は、前記ノズル面に隣接し、前記ノズル面を支持する支持部材を設け、前記支持部材に付与する洗浄液の量を調整することが好ましい。
【0016】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置によれば、ノズル面に隣接し、ノズル面を支持する支持部材を設け、指示部材に付着させる洗浄液の量を調整することにより、ノズル面に付与する洗浄液の量を調整するとともに、ノズル面には、確実に洗浄液を付与することができる。
【0017】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置は、前記ノズル面および前記支持部材と、前記洗浄液保持面と、が対向して重なる位置を相対的に変化させることで、洗浄液の量を調節することが好ましい。
【0018】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置によれば、ノズル面および支持部材と洗浄液保持面との位置を相対的に変化させることで、ノズル面および支持部材と洗浄液保持面との重なる位置を変更させることができる。したがって、洗浄液保持面との重なる位置を調整することにより洗浄液の付与量を調整することができるとともに、ノズル面には確実に洗浄液を付与することができる。
【0019】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置は、前記洗浄液ノズルの位置を相対的に変化させることにより前記洗浄液の量を調節することが好ましい。
【0020】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置によれば、洗浄液ノズルの位置を相対的に変化させることにより、洗浄液保持面に形成される洗浄液の膜の位置の調整することができる。したがって、洗浄液の膜と塗布面の接触面積を調節することができるので、塗布面に付与する洗浄液の量を調整することができる。
【0021】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置は、前記洗浄液ノズルは、前記ノズル面に対向する洗浄液保持面側に設けられていることが好ましい。
【0022】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置によれば、洗浄液ノズルをノズル面と対向する側に設け、洗浄液を付与しているので、洗浄液の膜が形成されやすく、ノズル面に均一に洗浄液を付与することができる。
【0023】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置は、前記ノズルの放置時間に応じて前記洗浄液の付与量を変化させ、前記放置時間が長いほど前記洗浄液の量を増やすことが好ましい。
【0024】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置によれば、ノズルの使用後の放置時間に応じて洗浄液の付与量を変化させているので、メンテナンス後から次回の使用までのノズル面の状態を考慮してメンテナンスを行うことができる。
【0025】
ウエブの湿潤状態により、ノズル面からのインクの引き出し状態や印字品質の安定に必要な時間が異なってくるため、ノズルの状態により洗浄液付与量を増減させることが好ましい。例えば、ウエブ湿潤度の低いメンテナンスは、ノズル面にワイプ痕が残るが印字品質が安定するため、印字途中のすぐに印字を再開する場合などに行うことが好ましい。また、ウエブ湿潤度の高いメンテナンスは、ノズル面は非常に清潔にすることができるが、印字品質の安定に時間がかかる。したがって、一日の就業時などの放置する時間が長い場合などに行うことが好ましい。
【0026】
このように、使用後の待機時間の長さにより、洗浄液の付与量を調整し、ワイプ条件を変更することで、最適な条件でメンテナンスを行うことができる。
【0027】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置は、形成された画像の印字パターンに応じて、前記洗浄液の付与量を変化させることが好ましい。
【0028】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置によれば、形成された印字パターンに応じて、ウエブの湿潤度を調整することにより、使用により汚れ状態のひどいノズルを選択的に洗浄することができる。
【0029】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置は、印刷枚数に応じて前記洗浄液の付与量を変化させ、前記印刷枚数が多いほど前記洗浄液の量を増やすことが好ましい。
【0030】
本発明の他の態様に係るノズル面洗浄装置によれば、印刷枚数が多くなるほど、印字に使用され、汚れが付着していると考えられる。したがって、印刷枚数が多くなるほど洗浄液の付着量を多くすることができ、ノズル面の汚れにより効率的に最適な条件で洗浄することができる。
【0031】
本発明は前記目的を達成するために、液滴を吐出する液滴吐出ヘッドと、前記液滴吐出ヘッドのノズル面を清掃する上記に記載のノズル面洗浄装置と、を備えたことを特徴とする液滴吐出装置を提供する。
【0032】
上記記載のノズル面洗浄装置を用いることで、ノズル面が清掃された常にきれいな状態で液滴の吐出を行うことができるので、液滴塗布装置として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明のノズル面洗浄装置および液滴吐出装置によれば、ノズル面の汚れ状態、あるいは、稼働履歴に応じてノズル面への洗浄液の供給量を調節しているので、メンテナンスを行う際に複数の異なる湿潤度でメンテナンスを行うことができる。したがって、効果的かつ効率的にノズル面の洗浄を行うことができ、クリーニング品質を向上させることができる。また、洗浄液付与後のワイピング条件を変更しなくても、洗浄液の付与量を変更することで、異なる条件でメンテナンスを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施形態のノズル面洗浄装置が適用されたインクジェット記録装置の全体構成図である。
【図2】図1に示すインクジェットヘッドの構成例を示す平面図である。
【図3】図2の一部拡大図である。
【図4】図2に示すヘッドモジュールの平面透視図である。
【図5】メンテナンス処理部の全体構成図である。
【図6】本実施形態のノズル面洗浄装置が適用された洗浄処理部の全体構成図である。
【図7】図6に示した洗浄処理部とヘッドとの配置関係を示した図である。
【図8】洗浄処理部をヘッドの吐出面と平行に移動させた後の配置関係を示した図である。
【図9】洗浄液付与量と、吐出面端部と洗浄液供給ノズルとの距離と、の関係を示すグラフ図である。
【図10】図1に示すインクジェット記録装置のシステム構成を示す要部ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0036】
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
まず、本発明が適用されるインクジェット記録装置の全体構成について説明する。図1は、インクジェット記録装置の全体構成を示した構成図である。
【0037】
このインクジェット記録装置10は、描画部16の圧胴(描画ドラム70)に保持された記録媒体24(便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)にインクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成する圧胴直描方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体24上に処理液(ここでは凝集処理液)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体24上に画像形成を行う2液反応(凝集)方式が適用されたオンデマンドタイプの画像形成装置である。
【0038】
図示のように、インクジェット記録装置10は、主として、給紙部12、処理液付与部14、描画部16、乾燥部18、定着部20、および排出部22を備えて構成される。
【0039】
(給紙部)
給紙部12は、記録媒体24を処理液付与部14に供給する機構であり、当該給紙部12には、枚葉紙である記録媒体24が積層されている。給紙部12には、給紙トレイ50が設けられ、この給紙トレイ50から記録媒体24が一枚ずつ処理液付与部14に給紙される。
【0040】
本例のインクジェット記録装置10では、記録媒体24として、紙種や大きさ(用紙サイズ)の異なる複数種類の記録媒体24を使用することができる。給紙部12において各種の記録媒体をそれぞれ区別して集積する複数の用紙トレイ(不図示)を備え、これら複数の用紙トレイの中から給紙トレイ50に送る用紙を自動で切り換える態様も可能であるし、必要に応じてオペレータが用紙トレイを選択し、若しくは交換する態様も可能である。なお、本例では、記録媒体24として、枚葉紙(カット紙)を用いるが、連続用紙(ロール紙)から必要なサイズに切断して給紙する構成も可能である。
【0041】
(処理液付与部)
処理液付与部14は、記録媒体24の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部16で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
【0042】
図1に示すように、処理液付与部14は、給紙胴52、処理液ドラム54、および処理液塗布装置56を備えている。処理液ドラム54は、記録媒体24を保持し、回転搬送させるドラムである。処理液ドラム54は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)55を備え、この保持手段55の爪と処理液ドラム54の周面の間に記録媒体24を挟み込むことによって記録媒体24の先端を保持できるようになっている。処理液ドラム54は、その外周面に吸着穴を設けるとともに、吸着穴から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体24を処理液ドラム54の周面に密着保持することができる。
【0043】
処理液ドラム54の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置56が設けられる。処理液塗布装置56は、処理液が貯留された処理液容器と、この処理液容器の処理液に一部が浸漬されたアニックスローラと、アニックスローラと処理液ドラム54上の記録媒体24に圧接されて計量後の処理液を記録媒体24に転移するゴムローラとで構成される。この処理液塗布装置56によれば、処理液を計量しながら記録媒体24に塗布することができる。
【0044】
処理液付与部14で処理液が付与された記録媒体24は、処理液ドラム54から中間搬送部26を介して描画部16の描画ドラム70へ受け渡される。
【0045】
(描画部)
描画部16は、描画ドラム(第2の搬送体)70、用紙抑えローラ74、およびインクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yを備えている。描画ドラム70は、処理液ドラム54と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)71を備える。描画ドラム70に固定された記録媒体24は、記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面にインクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yからインクが付与される。
【0046】
インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yはそれぞれ、記録媒体24における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)とすることが好ましい。インク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yは、記録媒体24の搬送方向(描画ドラム70の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。
【0047】
描画ドラム70上に密着保持された記録媒体24の記録面に向かって各インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部14で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体24上での色材流れなどが防止され、記録媒体24の記録面に画像が形成される。
【0048】
なお、本例では、CMYKの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組合せについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
【0049】
描画部16で画像が形成された記録媒体24は、描画ドラム70から中間搬送部28を介して乾燥部18の乾燥ドラム76へ受け渡される。
【0050】
(乾燥部)
乾燥部18は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、図1に示すように、乾燥ドラム76、および溶媒乾燥装置78を備えている。
【0051】
乾燥ドラム76は、処理液ドラム54と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)77を備え、この保持手段77によって記録媒体24の先端を保持できるようになっている。
【0052】
溶媒乾燥装置78は、乾燥ドラム76の外周面に対向する位置に配置され、複数のIRヒータ82と、各IRヒータ82の間にそれぞれ配置された温風噴出しノズル80とで構成される。
【0053】
各温風噴出しノズル80から記録媒体24に向けて吹き付けられる温風の温度と風量、各IRヒータ82の温度を適宜調節することにより、様々な乾燥条件を実現することができる。
【0054】
また、乾燥ドラム76の表面温度は50℃以上に設定されている。記録媒体24の裏面から加熱を行うことによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができる。なお、乾燥ドラム76の表面温度の上限については、特に限定されるものではないが、乾燥ドラム76の表面に付着したインクをクリーニングするなどのメンテナンス作業の安全性(高温による火傷防止)の観点から75℃以下(より好ましくは60℃以下)に設定されることが好ましい。
【0055】
乾燥ドラム76の外周面に、記録媒体24の記録面が外側を向くように(即ち、記録媒体24の記録面が凸側となるように湾曲させた状態で)保持し、回転搬送しながら乾燥することで、記録媒体24のシワや浮きの発生を防止でき、これらに起因する乾燥ムラを確実に防止することができる。
【0056】
乾燥部18で乾燥処理が行われた記録媒体24は、乾燥ドラム76から中間搬送部30を介して定着部20の定着ドラム84へ受け渡される。
【0057】
(定着部)
定着部20は、定着ドラム84、ハロゲンヒータ86、定着ローラ88、およびインラインセンサ90で構成される。定着ドラム84は、処理液ドラム54と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)85を備え、この保持手段85によって記録媒体24の先端を保持できるようになっている。
【0058】
定着ドラム84の回転により、記録媒体24は記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ86による予備加熱と、定着ローラ88による定着処理と、インラインセンサ90による検査が行われる。
【0059】
ハロゲンヒータ86は、所定の温度(例えば、180℃)に制御される。これにより、記録媒体24の予備加熱が行われる。
【0060】
定着ローラ88は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性熱可塑性樹脂微粒子を溶着し、インクを皮膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体24を加熱加圧するように構成される。具体的には、定着ローラ88は、定着ドラム84に対して圧接するように配置されており、定着ドラム84との間でニップローラを構成するようになっている。これにより、記録媒体24は、定着ローラ88と定着ドラム84との間に挟まれ、所定のニップ圧(例えば、0.15MPa)でニップされ、定着処理が行われる。
【0061】
また、定着ローラ88は、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラによって構成され、所定の温度(たとえば60〜80℃)に制御される。この加熱ローラで記録媒体24を加熱することによって、インクに含まれる熱可塑性樹脂微粒子のTg温度(ガラス転移点温度)以上の熱エネルギーが付与され、熱可塑性樹脂微粒子が溶融される。これにより、記録媒体24の凹凸に押し込み定着が行われるとともに、画像表面の凹凸がレベリングされ、光沢性が得られる。
【0062】
なお、図1の実施形態では、定着ローラ88を1つだけ設けた構成となっているが、画像層厚みや熱可塑性樹脂微粒子のTg特性に応じて、複数段設けた構成でもよい。
【0063】
一方、インラインセンサ90は、記録媒体24に定着された画像について、チェックパターンや水分量、表面温度、光沢度などを計測するための計測手段であり、CCDラインセンサなどが適用される。
【0064】
上記の如く構成された定着部20によれば、乾燥部18で形成された薄層の画像層内の熱可塑性樹脂微粒子が定着ローラ88によって加熱加圧されて溶融されるので、記録媒体24に固定定着させることができる。また、定着ドラム84の表面温度を50℃以上に設定することで、定着ドラム84の外周面に保持された記録媒体24を裏面から加熱することによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができるとともに、画像温度の昇温効果によって画像強度を高めることができる。
【0065】
また、インク中にUV硬化性モノマーを含有させた場合は、乾燥部で水分を充分に揮発させた後に、UV照射ランプを備えた定着部で、画像にUVを照射することで、UV硬化性モノマーを硬化重合させ、画像強度を向上させることができる。
【0066】
(排出部)
図1に示すように、定着部20に続いて排出部22が設けられている。排出部22は、排出トレイ92を備えており、この排出トレイ92と定着部20の定着ドラム84との間に、これらに対接するように渡し胴94、搬送ベルト96、張架ローラ98が設けられている。記録媒体24は、渡し胴94により搬送ベルト96に送られ、排出トレイ92に排出される。
【0067】
また、図には示されていないが、本例のインクジェット記録装置10には、上記構成の他、各インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yにインクを供給するインク貯蔵/装填部、処理液付与部14に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各インクジェットヘッド72M,72K,72C,72Yのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行うヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体24の位置を検出する位置検出センサ、装置各部の温度を検出する温度センサなどを備えている。
【0068】
図2は、ヘッド72の構造例を示す平面図であり、ヘッド72をノズル面72A側から見た図である。また、図3は図2の一部拡大図である。
【0069】
図4に示すように、ヘッド72はn個のヘッドモジュール72−i(i=1,2,3,…,n)を長手方向(記録媒体24(図1参照)の搬送方向と直交する方向)に沿ってつなぎ合わせた構造を有し、記録媒体の全幅に対応する長さにわたって複数のノズル(図2中不図示)が設けられている。
【0070】
各ヘッドモジュール72−iは、ヘッド72における短手方向の両側からヘッドモジュール支持部材72Bによって支持されている。また、ヘッド72の長手方向における両端部はヘッド支持部材72Cによって支持されている。
【0071】
図3に示すように、各ヘッドモジュール72−i(n番目のヘッドモジュール72−n)は、複数のノズルがマトリクス状に配列された構造を有している。図3において符号151Aを付して図示した斜めの実線は、複数のノズルが一列に並べられたノズル列を表している。
【0072】
図4(a)は、ヘッドモジュール72−iの平面透視図であり、図4(b)はその一部の拡大図である。
【0073】
記録媒体24上に形成されるドットピッチを高密度化するためには、ヘッド72におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のヘッドモジュール72−iは、図4(a)、(b)に示すように、インク吐出口であるノズル151と、各ノズル151に対応する圧力室152等からなる複数のインク室ユニット(記録素子単位としての液滴吐出素子)153を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(記録媒体24の搬送方向と直交する方向;主走査方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0074】
各ノズル151に対応して設けられている圧力室152は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部の一方にノズル151が設けられ、他方に供給口154が設けられている。なお、圧力室152の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
【0075】
かかる構造を有するインク室ユニット153を図4(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向および主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。
【0076】
即ち、主走査方向に対してある角度θの方向に沿ってインク室ユニット153を一定のピッチdで複数配列する構造により、主走査方向に並ぶように投影されたノズルのピッチPはd×cosθとなり、主走査方向については、各ノズル151が一定のピッチPで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。このような構成により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能になる。
【0077】
なお、本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されず、副走査方向に一列のノズル列を有する配置構造など、様々なノズル配置構造を適用できる。
【0078】
〔メンテナンス部の説明〕
図5は、描画部16に隣接して設けられているメンテナンス処理部199の斜視図である。図示のように、描画部16の圧胴70の軸方向に隣接して、当該圧胴70の外側にヘッド72M,72K,72C,72Yのメンテナンス処理を行うためのメンテナンス処理部199が設けられている。
【0079】
メンテナンス処理部199には、圧胴70に近い方から、洗浄処理部160、払拭部274、およびノズルキャップ276が、この順に並んで配置されている。
【0080】
各色に対応したヘッド72M,72K,72C,72Yを搭載したヘッドユニット280は、圧胴70の回転軸282と平行に配置されたボールネジ284に取り付けられている。ボールネジ284の下側には、ボールネジ284と平行にガイド軸284Gが配置されており、ヘッドユニット280はこのガイド軸284Gに摺動自在に係合している。また、ヘッドユニット280の下側には当該ヘッドユニット280の移動を案内するガイド溝286Aを有するガイドレール部材286がボールネジ284と平行に配設されている。
【0081】
ヘッド72M,72K,72C,72Yを一体的に保持するヘッドユニット280の筐体288の下面には、ガイド溝286Aに係合する係合部(不図示)が突出して形成されており、この係合部がガイド溝286Aに摺動自在に係合した構造によって、ヘッドユニット280はガイド溝286Aに案内されて移動可能となっている。
【0082】
ボールネジ284、ガイド軸284G、ガイドレール部材286は、図5に示すように、ヘッドユニット280を圧胴70の上部の画像形成位置P1から、ノズルキャップ276と対向する位置(メンテナンス位置P2)まで移動させることができるように、所要の長さで圧胴70の軸方向に沿って延設されている。
【0083】
ボールネジ284は、不図示の駆動手段(例えば、モータ)により回転され、この回転により、ヘッドユニット280は、画像形成位置P1とメンテナンス位置P2との間を移動する。また、ヘッドユニット280は、図示せぬ上下移動機構により、圧胴70から遠ざかる方向、または圧胴70に近づく方向に移動させることができる。
【0084】
使用する記録媒体24の厚さに応じて、圧胴70表面に対するヘッドユニット280の高さ(記録媒体24の記録面と各ヘッド72M,72K,72C,72Yとのクリアランス)が制御される。また、用紙搬送時にジャムなどが発生した場合には、ヘッドユニット280を図5の上方向に移動させ、画像形成時の所定高さ位置から退避させることができる。
【0085】
なお、ヘッドユニット280の筐体288と、ボールネジ284およびガイド軸284Gとの連結部289は、図4に示すように、ヘッドユニット280の上下方向の移動を案内する直動可能な係合構造289Aが採用されている。
【0086】
〔洗浄処理部の説明〕
図5に図示した洗浄処理部160について、さらに詳細に説明する。
【0087】
(洗浄処理部の全体構成)
図6は、洗浄処理部160の概略構成図である。同図はフルライン型のヘッド72の幅送方向(副走査方向)から見た図であり、同図における紙面を貫く方向はヘッド72の短手方向(記録媒体搬送方向、副走査方向)である。
【0088】
洗浄処理部160は、洗浄液を吐出面に付与するために、洗浄液の液膜を形成し洗浄液を吐出面に付与する洗浄液塗布ユニット162と、洗浄液塗布ユニット162に供給される洗浄液を貯留する洗浄液タンク165と、洗浄液の供給を切り替えるバルブ166と、洗浄液を洗浄液塗布ユニット162に供給する洗浄液供給管167と、ヘッド72または洗浄液塗布ユニット162から落下した洗浄液を回収するか回収トレイ169と、洗浄液塗布ユニット162を移動させる移動手段168と、を具備して構成される。
【0089】
図7は、洗浄液塗布ユニット162の概略構成を示す全体構成図である。洗浄液塗布ユニット162は、ヘッド72の吐出面272に塗布する洗浄液が保持される洗浄液保持面162Aを有し、洗浄液保持面162Aに洗浄液を供給する洗浄液供給口163が洗浄液保持面162Aの傾斜の上部162Bに設けられている。なお、ヘッド72の吐出面272とは、ノズル面72A、および、ノズル面72Aの記録媒体搬送方向の両側に配置されているヘッドモジュール支持部材72Bのウイングカバー(ノズル面側)72Dを合わせた面である。
【0090】
ヘッド72の吐出面272と洗浄液保持面162Aの間に、洗浄液供給口163から流し込まれたわずかな量の洗浄液は、吐出面272の撥液性を利用して濡れ広がるとともに、吐出面272と洗浄液保持面162Aとの間にメニスカスを形成しながら傾斜面を滑り落ちる。図7に符号Fを付した白抜き矢印線は、洗浄液のコート層161の移動方向(図7における左下方向)を示している。
【0091】
洗浄液保持面162Aの傾斜面を滑り落ちた洗浄液は、洗浄液保持面162Aの傾斜の下部162Cに設けられた回収トレイ(図7中不図示、図6に符号169を付して図示)に落下する。回収トレイに集められた使用済みの洗浄液は、ポンプ(図示せず)を動作させると、フィルタ(図示せず)を介して洗浄液タンク165に送液され、再利用される。
【0092】
洗浄液が、吐出面272と洗浄液保持面162Aとの間にメニスカスを形成しながら傾斜面を滑り落ちるためには、吐出面の表面性(接触角)、洗浄液保持面の表面性(接触角)、洗浄液の物性(粘度)、洗浄液の流速(単位時間あたりの供給量)、洗浄液供給口の形状、サイズ、を適宜最適化する必要がある。
【0093】
本例では、ノズル面の接触角90度、ウイングカバーの接触角80度、洗浄液の粘度2.3cP、洗浄液の単位時間あたりの流量45mL/min、洗浄液供給口の形状φ1.7mm、ノズル面72Aと洗浄液保持面162AとのクリアランスH1mmとしている。
【0094】
上記条件において、洗浄液を吐出面272と洗浄液保持面162Aとの間に供給すると、洗浄液は吐出面72Aと洗浄液保持面162Aとの間を濡れ広がりながら移動する。
【0095】
洗浄液の流速が30mm/min以上60mm/min以下となるよう洗浄液の供給量を制御することで、洗浄液は吐出面272と洗浄液保持面162Aとの間を濡れ広がりながら移動し、少量の洗浄液でノズル面の洗浄が可能となる。
【0096】
また、吐出面272と洗浄液保持面162AとのクリアランスHを0.5mm以上1.5mm以下とすれば、洗浄液は上記と同様の流速でノズル面72Aと洗浄液保持面162Aとの間を濡れ広がりながら移動する。
【0097】
洗浄液保持面162Aは、金属材料(例えば、ステンレス)や樹脂材料が適用される。さらに、洗浄液保持面162Aに対する洗浄液の接触角が60度以上となる表面性を有する態様が好ましい。なお、洗浄液保持面162Aは吐出面272との間に所定のクリアランスを維持することができれば吐出面272に対して傾いていてもよいし、平面だけでなく球面や湾曲面としてもよい。
【0098】
洗浄液供給口163から洗浄液保持面162Aの傾斜の下部162Cまでの長さは、ノズル面と両側のウイングカバー72Dの長さW2を足した長さ(W1+W2×2)を超えることが好ましい。
【0099】
洗浄液は、ノズル面72Aに付着した固化インクを溶解しうる物性を有し、洗浄液保持面162Aに洗浄液のコート層161を形成し得る物性を有し、洗浄効果のより高い専用の液体が適用される。例えば、DEGmBE(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)などの溶剤が含まれている洗浄液を適用することが可能である。
【0100】
図7では、洗浄液供給口163はヘッド72の長手方向について少なくとも1つ設けられていればよいが、ヘッド72の長手方向について複数の洗浄液供給口163を備える態様も可能である。
【0101】
洗浄液供給口163の開口部の平面形状は、直径1.7mmの円形状が適用される。なお、洗浄液供給口163の平面形状は、だ円、四角形、多角形など円形状以外の形状を適用することも可能である。また、洗浄液供給口163のサイズは洗浄液の物性等に対応して適宜決められる。したがって、洗浄液塗布ユニット162に異なる形状の複数の洗浄液供給口163を設け、付与する洗浄液の量、洗浄液の物性により、所望の洗浄液量を吐出面に付与することができる洗浄液供給口163を選択して用いることができる。
【0102】
なお、本実施形態においては、洗浄液供給口としてノズルで洗浄液を付与する方法について説明したが、ノズルではなく、スプレーを用いて吐出面272に対向する面から洗浄液を付与することも可能である。
【0103】
洗浄液供給口163は洗浄液塗布ユニット162の内部に形成される不図示の内部流路と連通している。該流路は洗浄液塗布ユニット162の底面に設けられる不図示の洗浄液流入口および該洗浄液流入口と連通する所要の洗浄液供給管167、バルブ166を介して、洗浄液タンク165と接続される。洗浄液タンク165は、洗浄液塗布ユニット162より高い位置に設けることにより、水頭圧差で洗浄液を供給することができ、洗浄液の供給の有無をバルブ166により変更することができる。バルブを開放することにより、洗浄液タンク165から洗浄液供給口163に所定量の洗浄液が供給される。図7に符号Sを付して図示した白抜き矢印線は、洗浄液塗布ユニット162の内部における洗浄液の移動方向を表している。なお、洗浄液タンク165内にはフロートセンサを設けることで、洗浄液タンク165内の洗浄液を一定に維持することができる。
【0104】
かかる構造を有する洗浄液塗布ユニット162を、ノズル面72Aと洗浄液保持面162Aとの間に洗浄液のコート層161を保持した状態を維持しながらヘッド72を長手方向(図7における紙面を貫く方向)に移動させることで、ヘッド72の吐出面272に塗布液が塗布される。
【0105】
ヘッド72の移動速度としては、例えば、40(mm/sec)とすることができ、吐出面272の全面にわたって均一に洗浄液が付与され、吐出面272と洗浄液保持面162Aとの間の洗浄液の流速は上記と同程度とすることができる。
【0106】
洗浄液塗布ユニット162は、ヘッド72がメンテナンス位置P2と画像形成位置P1とを移動する方向と垂直方向で、洗浄液保持面162Aを吐出面272に沿って、平行に移動させる移動手段168を具備している。
【0107】
移動手段168は、ヘッド72の吐出面272の傾斜方向に沿って、平行に洗浄液塗布ユニット162を移動させる。ヘッド72の吐出面272は、上述したように、ノズル面72Aとヘッドの短手方向両端に設けられたヘッドモジュール支持部材72Bにより形成されたウイングカバー72Dとから構成されている。
【0108】
本実施形態によれば、移動手段168により洗浄液塗布ユニット162を移動させ、吐出面272に付与する洗浄液の量を調整する。洗浄液の量を調整することにより、洗浄液付与後に払拭部材で払拭する際の湿潤度を調節することができる。
【0109】
洗浄液の調整は、吐出面272と洗浄液保持面162Aの重なりを調整することで行うことができる。すなわち、吐出面272全面と洗浄液保持面162A全面が重なっている状態が最も洗浄液の量が多くなる。洗浄液塗布ユニット162を移動させることで、吐出面272と洗浄液保持面162Aの重なりを制御し、ウイングカバー72Dに付与される洗浄液の量を制御することで、吐出面272全面としての洗浄液の付与量を調整する。
【0110】
図8は、移動手段168により洗浄液塗布ユニットを傾斜方向下方に移動し、洗浄液のコート層161が、ヘッド72の傾斜方向上方のウイングカバー72Dと接していない図である。
【0111】
図8に示すように、洗浄液のコート層161がノズル面72A全面に接するまでを、洗浄液塗布ユニット162の移動の下限の範囲とする。洗浄液のコート層161がノズル面72Aに接触しないと、払拭部274によるワイプ時に、洗浄液が付与されていない状態でワイプが行われる場合があるため、ノズル面72Aを傷つける可能性がある。したがって、洗浄液塗布ユニット162の移動は、洗浄液のコート層161が、吐出面272の傾斜方向上方のウイングカバー72D全面と接触する、あるいは、接触しない範囲で移動させることが好ましい。ウイングカバー72Dと洗浄液のコート層161の接触面積を調整することで、洗浄液の付与量を調整することができる。
【0112】
洗浄液塗布ユニットの移動手段168としては、レールを用いて移動させることもできるし、上述したヘッドをメンテナンス部に移動する装置と同様に、ボールネジ、ガイド軸、ガイドレール部材を用いて移動させることもでき、移動手段については特に限定されない。また、図7、8においては洗浄液塗布ユニット162に移動手段168を設けているが、ヘッド72に移動手段を設けることで、吐出面272と洗浄液保持面162Aの重なりを調整することも可能である。また、洗浄液塗布ユニット162およびヘッド72の両方に移動手段を設け、相対的に移動させることも可能である。
【0113】
また、洗浄液の付与量の調整は、吐出面272と洗浄液保持面162Aの重なりを変更することに限定されず、洗浄液供給口163を吐出面272に対して相対的に移動させることで、吐出面272に付与する洗浄液の量を調整することもできる。また、洗浄液保持面162Aに複数の洗浄液供給口163を設け、最適な洗浄液の付与量になるように、洗浄液供給口163を選択することで調整することも可能である。
【0114】
洗浄液の付与量の調整は、ノズルの放置時間、画像のカバレッジ(印字パターン)、印刷枚数により洗浄液の付与量の調整をする。
【0115】
洗浄液の付与量によりワイピング時のメンテナンス条件(ウエブの湿潤状態)を決定することができる。ウエブの湿潤状態によりメンテナンス性能(ノズル面からのインクの引き出し状態、メンテナンス後の印字品質の安定に必要な時間など)が大きく異なってくる。例えば、洗浄液の付与量が少ない湿潤度が低いメンテナンスでは、ノズル面にワイプ痕が残るが、印字の品質は安定するため、印字途中でのメンテナンスに使用することができる。また、洗浄液の付与量が多い湿潤度が高いメンテナンスでは、ノズル面を非常に清潔にすることができるが、印字品質の安定に時間がかかる。したがって、洗浄液の付与量は、ノズル面の汚れ状態、稼働履歴、あるいは、メンテナンス後の印字再開までの時間に応じて調節することが好ましい。ノズル面の汚れ状態については、カメラなどにより、目視により確認し、洗浄液の付与量を調整することも可能である。印刷枚数が多い場合、印字パターンにより多くの液滴を塗布した場合には、ノズル面が汚れていると考えられるので、多くの洗浄液を付与してワイピングを行うことが好ましい。
【0116】
図9は、洗浄液付与量と吐出面272の端部から洗浄液供給口163までの距離Lとの関係を示したグラフである。図9に示すデータは、吐出面272の水平面に対する傾斜角度を8度、24度とした場合の図である。吐出面272の端部から洗浄液供給口163までの距離を長くすることにより、洗浄液付与量を少なくすることが確認できる。なお、図9は、洗浄液粘度2.3cp、ノズル面の接触角90度、ウイングカバーの接触角は80度で測定を行った。また、測定に用いたヘッドおよび洗浄液塗布ユニット162は、吐出面272の端部から洗浄液供給口163までの距離Lが13mmを越えた点で、ノズル面72Aに洗浄液のコート層161が接しなくなった。
【0117】
本実施形態によれば、洗浄液の付与量を変更することで、ワイピング条件を変更することなく、ワイピング時のノズル面の湿潤度を調節することができ、クリーニング品質を向上させることができる。
【0118】
ワイピング行う払拭部材としては、ウエブを好ましく用いることができ、その際のワイピング条件としては、ウエブ押付圧力は20kPa、ウエブ送り速度は20mm/secの条件で行うことができる。また、他にブレードでワイピングを行うこともできる。
【0119】
なお、上記実施形態においては、吐出ヘッドのノズル面が水平方向に対して傾斜している形状で説明したが、本発明はこれに限定されず、ノズル面が傾斜していない吐出ヘッドに対しても行うことができる。この場合、洗浄液供給口163は、洗浄液保持面162Aの全面に洗浄液を保持できるように、配置することが好ましく、洗浄液供給口163の数は限定されない。他の構成については、上記ノズル面が傾斜している場合と、同様の構成とすることができる。
【0120】
〔制御系の説明〕
図10は、インクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース170、システムコントローラ172、メモリ174、モータドライバ176、ヒータドライバ178、プリント制御部180、画像バッファメモリ182、ヘッドドライバ184等を備えている。
【0121】
通信インターフェース170は、ホストコンピュータ186から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース170にはUSB(Universal Serial Bus)、IEEE1394、イーサネット(登録商標)、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ186から送出された画像データは通信インターフェース170を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦メモリ174に記憶される。
【0122】
メモリ174は、通信インターフェース170を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ172を通じてデータの読み書きが行われる。メモリ174は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
【0123】
システムコントローラ172は、中央演算処理装置(CPU)およびその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置10の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。即ち、システムコントローラ172は、通信インターフェース170、メモリ174、モータドライバ176、ヒータドライバ178、処理液付与制御部196、乾燥制御部197、定着制御部198等の各部を制御し、ホストコンピュータ186との間の通信制御、メモリ174の読み書き制御等を行うとともに、上記の各部を制御する制御信号を生成する。
【0124】
メモリ174には、システムコントローラ172のCPUが実行するプログラムおよび制御に必要な各種データなどが格納されている。なお、メモリ174は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。メモリ174は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域およびCPUの演算作業領域としても利用される。
【0125】
プログラム格納部190には各種制御プログラムが格納されており、システムコントローラ172の指令に応じて、制御プログラムが読み出され、実行される。プログラム格納部190はROMやEEPROMなどの半導体メモリを用いてもよいし、磁気ディスクなどを用いてもよい。外部インターフェースを備え、メモリカードやPCカードを用いてもよい。もちろん、これらの記録媒体のうち、複数の記録媒体を備えてもよい。なお、プログラム格納部190は動作パラメータ等の記録手段(不図示)と兼用してもよい。
【0126】
モータドライバ176は、システムコントローラ172からの指示に従ってモータ188を駆動するドライバである。図10には、装置内の各部に配置されるモータを代表して符号188で図示されている。例えば、図10に示すモータ188には、図1に示す給紙胴52、処理液ドラム54、描画ドラム70、乾燥ドラム76、定着ドラム84、渡し胴94などの回転を駆動するモータ、第1〜第3中間搬送部26、28、30の中間搬送体32の回転を駆動するモータなどが含まれている。
【0127】
ヒータドライバ178は、システムコントローラ172からの指示に従って、ヒータ189を駆動するドライバである。図10には、装置内の各部に配置されるヒータを代表して符号189で図示されている。例えば、図10に示すヒータ189には、図1に示す乾燥部18に設けられる溶媒乾燥装置78のハロゲンヒータ86などが含まれている。さらに、図1に示す乾燥ドラム76、定着ドラム84の表面を加熱するヒータも含まれている。
【0128】
さらに、このインクジェット記録装置10は、処理液付与制御部196、乾燥制御部197、および定着制御部198を備えており、システムコントローラ172からの指示に従って、それぞれ、処理液塗布装置56、溶媒乾燥装置78、および定着ローラ88などの各部の動作を制御する。
【0129】
プリント制御部180は、システムコントローラ172の制御に従い、メモリ174内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッドドライバ184に供給する制御部である。プリント制御部180において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいて、ヘッドドライバ184を介してヘッド72の吐出液滴量(打滴量)や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
【0130】
また、プリント制御部180には画像バッファメモリ182が備えられており、プリント制御部180における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ182に一時的に格納される。また、プリント制御部180とシステムコントローラ172とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
【0131】
ヘッドドライバ184は、プリント制御部180から与えられる画像データに基づいてヘッド72の圧電素子158に印加される駆動信号を生成するとともに、該駆動信号を圧電素子158に印加して圧電素子158を駆動する駆動回路を含んで構成される。なお、図9に示すヘッドドライバ184には、ヘッド72の駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
【0132】
センサ185は、装置内の各部に設けられる各種センサ類であり、図1に示したインラインセンサ90の他、温度センサ、位置検出センサ、圧力センサ等が含まれている。センサ185の出力信号はシステムコントローラ172に送られ、システムコントローラ172は該出力信号に基づいて装置各部に対して制御信号を送り、装置各部の制御が行われている。
【0133】
メンテナンス制御部179は、システムコントローラ172から送られた制御信号に基づいて、図6〜図8に図示した洗浄処理部160を含むメンテナンス処理部199(図5参照)の制御を行う処理ブロックである。
【0134】
メンテナンス制御部179の詳細な構成の図示は省略するが、メンテナンス制御部179は、システムコントローラ172の制御信号に基づいて、洗浄処理部160の処理領域におけるヘッド72の移動タイミングや移動速度を制御するとともに、バルブ166の開閉、払拭部274のウエブの搬送駆動、ウエブの上下機構などの動作を制御する。
【0135】
すなわち、メンテナンス制御部179は、以下の手順によりヘッド72のメンテナンス(ノズル面72Aの洗浄処理)が実行されるようにメンテナンス処理部199を制御する。
【0136】
まず、ヘッド72をメンテナンス処理部199の処理領域に移動させる。次に、洗浄液塗布ユニット162を吐出面272の副走査方向と平行に移動させ、吐出面への洗浄液付与量を調整する。洗浄液の付与量の調整方法は、上述したように、吐出面と洗浄液保持面との重なりを調節することで行うことができる。また、洗浄液塗布ユニット162を上下方向に移動させて、洗浄液保持面162A(図7参照)とノズル面72Aとのクリアランスを調整する。
【0137】
ヘッド72と洗浄液塗布ユニット162との位置が決められると、洗浄液供給口163から洗浄液保持面162Aに洗浄液が供給される。洗浄液供給口163から洗浄液保持面162Aへ供給される単位時間あたりの洗浄液量は、使用する洗浄液供給口163のサイズ、形状により決定することができ、洗浄液の供給は、バルブ166を開閉することにより水頭圧差で行うことができる。
【0138】
吐出面272と洗浄液保持面162Aとの間の洗浄液のコート層161が全体に濡れ広がった後に、吐出面272と洗浄液保持面162Aとのクリアランスを維持しながらヘッド72を長手方向に移動させて、吐出面272に洗浄液を塗布する。ヘッド72の移動中は、吐出面272と洗浄液保持面162Aとの間の洗浄液のコート層161がなくならないように、洗浄液供給口163から洗浄液が補充される。
【0139】
吐出面272に洗浄液が塗布されてから所定の時間が経過した後に、ヘッド72を払拭部274の処理領域に移動させ、払拭部274によってノズル面72Aの洗浄液が拭き取られる。さらに、ヘッド72をノズルキャップ276の処理領域に移動させて、ヘッド72の予備吐出が行われる。ヘッド72のメンテナンス処理が終了した後は、ヘッド72は所定の描画位置へ移動する。
【0140】
上記の如く構成された洗浄処理部160によれば、吐出面272と略平行に傾けられて配置された洗浄液保持面162Aと吐出面272との間に、洗浄液を供給すると、吐出面272と洗浄液保持面162Aとの間において洗浄液が濡れ広がるので、非接触で吐出面272に洗浄液を塗布することができる。特に、ノズル面が水平面に対して傾斜している場合は、傾斜の上部から下部へ移動させることができるので、洗浄液を容易に濡れ拡げることができる。また、洗浄液塗布ユニット162を、メンテナンス時のヘッド72の移動方向と直行する方向に、吐出面272と平行に移動させることで、吐出面272と洗浄液保持面162Aとが対向する面を減らし、付与する洗浄液量を少なくすることができる。したがって、最適な湿潤状態でワイピングを行うことができるので、クリーニング性能を向上させることができる。
【符号の説明】
【0141】
10…インクジェット記録装置、72,72M,72K,72C,72Y…インクジェットヘッド、72A…ノズル面、72D…ウイングカバー、160…洗浄処理部、161…洗浄液のコート層、162…洗浄液塗布ユニット、162A…洗浄液保持面、163…洗浄液供給口、165…洗浄液タンク、166…バルブ、167…洗浄液供給管、168…移動手段、169…回収トレイ、179…メンテナンス制御部、199…メンテナンス処理部、272…吐出面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルが設けられるノズル面を有するインクジェットヘッドと、前記ノズル面に対向して配置され洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、前記洗浄液供給手段または前記インクジェットヘッドの少なくともいずれか一方を移動させる移動手段と、を備え、
前記移動手段は、前記洗浄液供給手段と前記ノズル面とを平行に相対移動させ、
前記ノズル面の汚れ状態、あるいは、稼働履歴のいずれかに応じて、前記洗浄液供給手段または前記インクジェットヘッドの少なくともいずれか一方を移動させて、前記ノズル面への前記洗浄液の供給量を調整することを特徴とするノズル面洗浄装置。
【請求項2】
前記洗浄液供給手段は、前記ノズル面との間に所定の距離を有し、前記ノズル面と略平行に設けられた洗浄液保持面を具備し、前記洗浄液保持面に洗浄液を供給する洗浄液ノズルを有することを特徴とする請求項1に記載のノズル面洗浄装置。
【請求項3】
前記ノズル面と前記洗浄液保持面との間に洗浄液を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のノズル面清掃装置。
【請求項4】
前記ノズル面は水平面に対して傾斜して設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のノズル面洗浄装置。
【請求項5】
前記ノズル面に隣接し、前記ノズル面を支持する支持部材を設け、前記支持部材に付与する洗浄液の量を調整することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のノズル面洗浄装置。
【請求項6】
前記ノズル面および前記支持部材と、前記洗浄液保持面と、が対向して重なる位置を相対的に変化させることで、洗浄液の量を調節することを特徴とする請求項5に記載のノズル面洗浄装置。
【請求項7】
前記洗浄液ノズルの位置を相対的に変化させることにより前記洗浄液の量を調節することを特徴とする請求項2から6のいずれか1項に記載のノズル面洗浄装置。
【請求項8】
前記洗浄液ノズルは、前記ノズル面に対向する洗浄液保持面側に設けられていることを特徴とする請求項2から7のいずれか1項に記載のノズル面洗浄装置。
【請求項9】
前記ノズルの放置時間に応じて前記洗浄液の付与量を変化させ、前記放置時間が長いほど前記洗浄液の量を増やすこと特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のノズル面洗浄装置。
【請求項10】
形成された画像の印字パターンに応じて、前記洗浄液の付与量を変化させることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のノズル面洗浄装置。
【請求項11】
印刷枚数に応じて前記洗浄液の付与量を変化させ、前記印刷枚数が多いほど前記洗浄液の量を増やすことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のノズル面洗浄装置。
【請求項12】
液滴を吐出する液滴吐出ヘッドと、
前記液滴吐出ヘッドのノズル面を清掃する請求項1から11のいずれか1項に記載のノズル面洗浄装置と、
を備えたことを特徴とする液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−22845(P2013−22845A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160136(P2011−160136)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】