説明

ノンフライ揚げ物様食品の製造方法

【課題】
本発明は、衣のサクサク感と衣に包まれた具材のジューシー感という揚げ物食品の食味・食感を保持し、かつ薄衣でも剥がれにくいノンフライ揚げ物様食品及び厚衣で製品歩留がよい、ノンフライ揚げ物様食品を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、具材に衣液及び/又は粉粒状衣材を付着させる工程、衣液及び/又は粉粒状衣材を付着させた具材を茹でる工程、及び茹でた具材を焼成する工程を含むノンフライ揚げ物様食品を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンフライ揚げ物様食品の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、具材に衣液及び/又は粉粒状衣材を付着させる工程、衣液及び/又は粉粒状衣材を付着させた具材を茹でる工程、及び茹でた具材を焼成する工程を含む、ノンフライ揚げ物様食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
から揚げ、フリッターあるいはフライなどのいわゆる揚げ物食品は、衣のサクサクとした食感と衣に包まれた具材のジューシー感とを楽しむことのできる、嗜好性に優れた食品である。しかし、揚げ物食品の衣には油揚げによって油が多量にしみ込むため、高カロリー食品の典型例として、近年の健康志向において揚げ物食品の摂取は避けられる傾向にある。
【0003】
一方で、その優れた嗜好性のために、揚げ物食品の需要は依然として高い。この為、油で揚げずに揚げ物と同等の食味・食感を持つ、揚げ物食品に代わるいわゆるノンフライ揚げ物様食品の開発が行われてきており、例えば、α化澱粉を含有するミックスをまぶした具材を蒸熱処理して焼成する方法(特許文献1)、α化澱粉と油脂を含む衣材をまぶした具材をオーブン及び/又はスチームで熱処理し、さらにオーブン又は電子レンジで熱処理する方法(特許文献2)等が報告されている。
しかし、特許文献1及び2に記載の方法で得られるノンフライ揚げ物様食品は、具材に対する衣の割合(以下、「衣率」ということがある。)が低く、また具材もジューシー感が不足し、パサついた食感を与えるものである。
【0004】
また、熱凝固性蛋白質、食用油脂及びセルロースを用いて、電子レンジで加熱するだけで喫食可能になるノンフライ揚げ物様食品(特許文献3)、ベーキング(オーブン加熱)処理のみで天ぷらを調製することができるベーキング用天ぷらころも組成物(特許文献4)、及びO/W/Oの二重乳化構造を有する油脂を配合したオーブンフライ用バッターミックス(特許文献5)などが報告されている。
しかし、特許文献3に記載の食品は、粒状物を表面に塗布した揚げ物様食品、例えばコロッケ、トンカツ、フライ等に限定されるものであり、また使用する油脂の量が多いという問題がある。特許文献4及び5に記載のものでは、加熱中に具材の水分が過度に失われやすいため、具材はパサつくなど食感に劣るものとなりやすく、また衣は舌触りがざらざらして口溶けが悪い食感(粉っぽい食感)を呈するなど、衣のサクサク感と具材のジューシー感という揚げ物食品に求められる食味・食感の再現は十分にはなされていない。
【0005】
揚げ物食品では、衣率が比較的低く、軽い食感の揚げ物食品が好まれる一方、衣率が比較的高い揚げ物食品も、製品歩留が良く、好まれる傾向がある。しかし、衣率が低い(薄衣)ノンフライ揚げ物様食品では衣が剥がれやすく、粉っぽい食感となりやすい。また、衣率が高い(厚衣)ノンフライ揚げ物様食品では、衣がべとついたり、硬くヒキのある食感となったり、あるいは粉っぽい食感になりやすいという問題が生じやすく、しかも、衣に色むらがあり外観に劣るものとなり易い。
これまでに具材のジューシー感と衣のサクサク感の両方を満足し、かつ衣の外観に優れ、衣が比較的薄にもかかわらず剥がれにくいノンフライ揚げ物様食品や、厚衣で製品歩留のよいノンフライ揚げ物様食品を製造し得る方法は知られていない。
【特許文献1】特開2003−274872号公報
【特許文献2】特開2004−208531号公報
【特許文献3】特開2003−102402号公報
【特許文献4】特開昭58−67155号公報
【特許文献5】特開平4−131048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、衣のサクサク感と衣に包まれた具材のジューシー感に優れるという揚げ物食品の食味・食感を保持し、かつ薄衣でも剥がれにくいノンフライ揚げ物様食品や、厚衣で製品歩留がよいノンフライ揚げ物様食品を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、衣のサクサク感と衣に包まれた具材のジューシー感に優れるという揚げ物食品に独特な食味・食感を保持しつつ、健康志向に優れたノンフライ揚げ物様食品の製造方法を種々検討してきたところ、意外なことに、衣材を付着させた具材を焼成する前に「茹でる」という処理を行うことにより、揚げ物食品の好ましい食味・食感を保持することができることを見出した。さらに、衣液及び粉粒状衣材のいずれか一方のみでも本発明のノンフライ揚げ物食品を製造することができることを見出した。
即ち、本発明は、ノンフライ揚げ物様食品の製造方法において、衣液及び/又は粉粒状衣材を付着させた具材を熱水中で茹でる処理を行うことを特徴とするノンフライ揚げ物様食品の製造方法に関する。
本発明の方法をより詳細に説明すれば以下のとおりとなる。
(1)具材に衣液及び/又は粉粒状衣材を付着させる工程、衣液及び/又は粉粒状衣材を付着させた具材を茹でる工程、及び茹でた具材を焼成する工程を含む、ノンフライ揚げ物様食品の製造方法。
(2)具材に衣液及び粉粒状衣材を付着させる場合に使用する粉粒状衣材において、粉粒状衣材全質量に対して、ハイアミロース澱粉及び/又は架橋澱粉30〜70量%、油脂15〜30質量%、及び大豆蛋白質10〜25質量%を含む粉粒状衣材を使用する、前記(1)に記載の製造方法。
(3)具材に衣液及び粉粒状衣材を付着させる場合に使用する粉粒状衣材において、粉粒状衣材全質量に対して、加熱処理小麦粉10〜60質量%を含む粉粒状衣材を使用する前記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)具材に衣液のみを付着させる工程、衣液のみを付着させた具材を茹でる工程、及び茹でた具材を焼成する工程を含む、前記(1)に記載のノンフライ揚げ物様食品の製造方法。
(5)具材に衣液のみを付着させる場合に使用する衣液において、衣液用組成物の乾物全質量に対して、熱凝固性蛋白質を2〜25質量%含み、且つ粘度が25,000〜120,000mPa・sになるように調整されている衣液を使用する前記(1)又は(4)に記載の製造方法。
(6)具材に粉粒状衣材のみを付着させる工程、粉粒状衣材のみを付着させた具材を茹でる工程、及び茹でた具材を焼成する工程を含む、前記(1)に記載のノンフライ揚げ物様食品の製造方法。
(7)具材に粉粒状衣材のみを付着させる場合に使用する粉粒状衣材において、粉粒状衣材全質量に対して、加熱処理小麦粉10〜60質量%を含む粉粒状衣材を使用する前記(1)又は(6)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、衣は粉っぽさが無く、サクサクとした食感(サクミ)を有し、具材は水分の損失が少なくジューシー感に富むという揚げ物食品の好ましい食感を保持し、かつ色むらなどが無く、油揚げしたような良好な外観を呈するノンフライ揚げ物様食品が提供される。
また、本発明の粉粒状衣材及び/又は衣液を用いれば、歯切れの良好な衣が得られるのみならず、本発明の粉粒状衣材及び/又は衣液は具材への付着が良好で、本発明の製造方法で製造されたノンフライ揚げ物様食品は、薄衣及び厚衣のいずれにしても衣が剥がれにくく、しっとり感のあるものとなる。したがって、本発明の製造方法によれば、衣率が比較的低く軽い食感のノンフライ揚げ物様食品のみならず、衣率が高く、製品歩留のよいノンフライ揚げ物様食品をも提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のノンフライ揚げ物様食品としては、一般的には、油で揚げる以外の手段で調理され、揚げ物食品とほぼ同じか、あるいは揚げ物食品にきわめて近い外観や食味・食感を有する食品が挙げられ、好ましい「ノンフライ揚げ物様食品」としては、表面の凹凸が少なく比較的になめらかな表面を有する食品、例えば唐揚げ、竜田揚げ、フリッター、ナゲット、フライドチキンなどが挙げられる。また、本発明のノンフライ揚げ物様食品に用いる具材としては、通常の油揚げ食品の具材として用いられるものであれば特に限定されない。
【0010】
また、本発明における「粉粒状衣材」とは、粉末、又は粉末と比較的粒子の細かい粒状成分が配合された形態の衣材を意味する。パン粉、クラッカー粉砕物又はシリアルなどを配合してもよいが、その量は衣材の全量に対して5〜50質量%、好ましくは10〜30質量%である。
【0011】
本発明は、具材に衣液及び/又は粉粒状衣材を付着させる工程、衣液及び/又は粉粒状衣材を付着させた具材を茹でる工程、及び茹でた具材を焼成する工程を含む、ノンフライ揚げ物様食品の製造方法である。
【0012】
具材に衣液及び/又は粉粒状衣材を付着させる工程としては、具材に衣液と粉粒状衣材を付着させる工程、具材に衣液のみを付着させる工程、具材に粉粒状衣材のみを付着させる工程のいずれかを行い、衣液及び/又は粉粒状衣材がほぼ均一に付着される方法であれば特に限定されるものではなく、常法に従って行うことができる。
【0013】
本発明の一態様である具材に衣液及び粉粒状衣材を付着させる工程において、衣率を高くする目的のため、具材に衣液を付着させた後、粉粒状衣材を付着させるのが好ましい。衣率をより高くして、製品歩留をよくすることが所望される場合には、具材に衣液を付着させた後、粉粒状衣材を付着させ、再度これらの操作を繰り返すこともできる。また、具材に衣液と粉粒状衣材を付着させる工程を繰り返す場合には、使用する粉粒状衣材として異なる種類の粉粒状衣材を使用することもできる。
【0014】
具材に衣液及び粉粒状衣材を付着させる場合に使用する粉粒状衣材において、粉粒状衣材全質量に対して、ハイアミロース澱粉及び/又は架橋澱粉30〜70質量%、油脂15〜30質量%、及び大豆蛋白質10〜25質量%を含む粉粒状衣材を使用することが好ましい。このような粉粒状衣材を用いることで、厚衣でありながら、歯切れがよく、適度なサクミがあり口どけがよく、具材は十分にジューシーな、ノンフライ揚げ物様食品が得られる。
【0015】
本発明のこの態様において使用するハイアミロース澱粉は、アミロース含量が60〜70%と高く、糊化(α化)温度が非常に高い澱粉であり、具体的には例えば、ハイアミロースコーンスターチやその湿熱加工品が好ましい。また、架橋澱粉としては、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉等の架橋澱粉が挙げられる。架橋澱粉は市販されており、これらの市販品を適宜用いることができる。ハイアミロース澱粉及び/又は架橋澱粉の配合量は、衣のサクサク感を高め、またべたつきやヒキのある食感を抑えるという点から、粉粒状衣材全質量に対して30質量%〜70質量%とすることが好ましい。
【0016】
また、本発明のこの実施態様において使用する油脂としては、液状油脂、固形油脂、粉末油脂のいずれも使用可能であるが、粉末油脂が好ましい。粉末油脂としては、市販品を適宜使用することができる。また、液状油脂及び固形油脂としては各種動植物油を用いることができるが、この場合、常法に従ってこれらを一旦液状化したものにデキストリン等の賦形剤を加えて混合し、粉末化した油脂として使用することが好ましい。油脂の配合量は、衣の歯切れを良くし、またサクミを付与するという点から、15質量%〜30質量%とすることが好ましい。
【0017】
大豆蛋白質としては、脱脂大豆から調製される蛋白質、全脂大豆から調製される蛋白質のいずれも利用することができ、その形態としては、粉粒状衣材を調製する目的から、粉末状又は比較的粒子の小さい顆粒状に加工された大豆蛋白質が好ましい。これらの粉末又は顆粒状の大豆蛋白質は広く市販されており、本発明では、これらの市販品を適宜使用することができる。大豆蛋白質の配合量は、ベタついてヒキのある食感や重く固い食感を抑え、歯切れのよい食感にするという点から、10質量%〜25質量%とすることが好ましい。
【0018】
一方、衣の食感が柔らかなノンフライ揚げ物様食品を所望するときには、本発明の別の一態様として、具材に衣液及び粉粒状衣材を付着させる工程における粉粒状衣材として、粉粒状衣材全質量に対して加熱処理小麦粉10〜60質量%を含む粉粒状衣材を使用することが好ましい。当該粉粒状衣材において、加熱処理小麦粉を用いることで、得られるノンフライ揚げ物様食品は、衣の食感が柔らかになるだけでなく、さらに衣が歯切れ良く、口溶けにも優れる。
【0019】
本発明の方法で使用する加熱処理小麦粉とは、小麦粉を加熱処理したものであれば特に限定されず、例えば、軽度に湿熱処理した加熱処理小麦粉、小麦粉を密封容器中で撹拌しながら間接加熱処理して得られる間接加熱処理小麦粉、小麦粉を焙煎処理したローストフラワーなどが挙げられる。
軽度に湿熱処理した加熱処理小麦粉の好ましい例としては、例えば、特開2001−120162号公報に記載された方法で調製されたものであり、澱粉が実質的にα化されず、グルテンバイタリティーが70〜95%になっているものが挙げられる。
ローストフラワーは、常法で得られるものであれば特に限定されるものではなく、市販されているローストフラワーを適宜用いることができる。市販品としては、例えば「ローストフラワーRD」(日清製粉株式会社製)などが挙げられる。
【0020】
また、間接加熱処理小麦粉の好ましい例としては、例えば特開2004−9022号公報に記載の加熱装置で加熱処理されたものなどが挙げられる。これら小麦粉の間接加熱処理は、加熱手段を有する回転シャフトからなる撹拌装置を有する密閉系容器中において当該小麦粉を撹拌しながら行うことが好ましい。
上記した間接加熱処理は、品温80〜150℃、好ましくは100〜130℃で、5〜120分間、好ましくは30〜80分間行うのが好ましい。撹拌の条件は、容器の大きさ、処理すべき小麦粉の量によって異なるが、通常は10〜60rpm、好ましくは20〜50rpm程度である。上記した間接加熱処理粉は、未処理の小麦粉に対し、アミロース溶出量が10〜80%に抑制され、かつ蛋白質溶出量が30〜80%に抑制されているという特徴を有する。
また小麦粉を間接加熱処理する際に、乳化剤を添加して処理することが好ましい。斯かる乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチンなどが挙げられ、これらの中でもグリセリン脂肪酸エステルが好ましく、特にステアリン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリドが好ましい。これらの乳化剤は単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0021】
また、衣の食感がふっくら柔らかで口溶けがよく、ボリューム感に優れるノンフライ揚げ物様食品を所望する場合、本発明の別の一態様として、具材に特定の衣液のみを付着させることが好ましい。ここで用いる衣液は、その衣液用組成物の乾物全質量に対して、熱凝固性蛋白質を2〜25質量%、好ましくは10〜15質量%含み、且つ粘度が25,000〜120,000mPa・s、好ましくは60,000〜90,000mPa・sになるように調整されているものを用いる。熱凝固性蛋白質の量が2質量%未満であると衣のふっくら感が十分でなく、ネチャついた食感となる可能性があり、25質量%を超えると衣が均一に付着せず、食感にばらつきがでる可能性がある。また、粘度が25,000mPa・s未満であると衣液を付着させた具材を茹でる工程で付着させた衣が溶け出しやすく、その粘度が120,000mPa・sを超えると衣の付着が不均一になりやすい。
熱凝固性蛋白質としては、通常食品に用いられる熱凝固性蛋白質であれば特に限定されないが、例えば大豆蛋白、卵白粉、全卵、乳蛋白、小麦蛋白などが挙げられるが、大豆蛋白、卵白粉が好ましい。これらの熱凝固性蛋白質は、2種以上のものを混合して使用することもできる。
【0022】
さらに、薄衣で、しかも衣の食感が柔らかなノンフライ揚げ物様食品を所望するときには、本発明の別の一態様として、具材に粉粒状衣材のみを付着させることが好ましい。この場合において、具材と粉粒状衣材の結着性を良くするために、粉粒状衣材に特定量の加熱処理小麦粉を配合することが重要であり、さらに具材を調味液で処理して具材表面に調味液が存在する状態で粉粒状衣材を付着させることが好ましい。この態様における加熱処理小麦粉は、上記した加熱処理小麦粉を好適に用いることができ、当該粉粒状衣材全質量に対して、10〜60質量%含むものである。
【0023】
本発明において、「衣率」とは、先述してきたとおり、具材の質量に対する衣の質量の割合を意味するものであり、衣率が低いことはより衣が薄いこと(薄衣)を示し、衣率が高いことはより衣が厚いこと(厚衣)を示す。また、「製品歩留」は、具材の質量に対する製品の質量の割合を意味するものであり、具材100質量部としたときの製造された製品(揚げ物様食品)の質量部の割合で示される。この製品歩留に優れるということは、同じ量の具材を用いてもより多くの製品が得られることを意味するだけでなく、製品歩留については、前述の衣率のみならず、加工・調理過程で具材から失われる水分量が影響するため、製品歩留に優れるということは、ノンフライ揚げ物様食品中の具材がジューシー感を保持し、食味・食感に優れることも意味する。
【0024】
衣液及び/又は粉粒状衣材を付着させた具材は、熱湯中で茹でられる。茹でる条件としては、沸騰しているか又はこれに近い状態の熱湯中において、衣の表面がα化して固化し、具材と衣が固定される(衣が剥がれないようになる)程度であればよく、具体的には例えば、通常は90℃以上、好ましくは95℃以上の熱湯中で、茹で時間は15秒〜3分間、好ましくは30秒〜2分間の範囲である。これらの条件であれば、衣の食感が粉っぽくならず、また衣材の溶出による衣の剥がれが起きない。
【0025】
従来のノンフライ揚げ物様食品の製造方法では、具材に衣材を付着させた後、そのまま焼成するか、あるいは水蒸気で処理した後、焼成されていた。しかし、これらの方法では、揚げ物様食品の衣が粉っぽくなり、また衣の表面に色むらが生じやすく、揚げ物様食品として、具材のジューシー感等の食感及び外観において劣るものであった。これに対して本発明の方法では、従来行われていた焼成前に水蒸気で蒸すという手段とは全く異なる発想に基づき、衣液や粉粒状衣材を付着させた具材を熱湯中で茹でることを特徴とするものであり、衣液や粉粒状衣材として各種の素材を使用すること可能となり、目的の食感や食味を有するノンフライ揚げ物様食品を適宜製造することが可能となる。また、「茹でる」という手段は通常は常圧で行うことができるので、「蒸す」よりも簡便かつ安全な操作である。
【0026】
前記工程で茹でられた具材は、次に焼成する工程に付される。この焼成工程は、ノンフライ揚げ物様食品を喫食可能な状態にしうる条件であれば特に限定されないが、好ましい焼成条件は、焼成温度が160℃〜250℃、焼成時間は5〜10分間である。また、この工程は、市販されている種々のオーブン等を適宜使用して行うことができる。
【0027】
本発明の方法において、具材に衣液及び粉粒状衣材を付着させる場合に用いる衣液としては、通常、唐揚げ、竜田揚げ、フリッター、ナゲット、フライドチキン等に用いられる衣液用組成物を水等で溶いたもの(バッター)であれば特に限定されない。この場合においては、衣液用組成物は小麦粉等の穀粉類や各種澱粉を主体とするものであり、さらに、油脂加工澱粉、卵白等の熱凝固性蛋白質、油脂、増粘多糖類、食塩、糖類、調味料、香辛料、膨張剤、乳製品等の副原料を配合してもよいが、卵白及び油脂加工澱粉の少なくとも一つを配合することが好ましい。
また、具材に衣液のみを付着させる場合に用いる衣液用組成物は、前記してきたように熱凝固性蛋白質と、小麦粉等の穀粉類や各種澱粉を主体とするものであるが、必要に応じて、上記副原料を適宜配合することができる。
【0028】
本発明の方法における粉粒状衣材は、その効果を損なわない限度において、各粉粒状衣材が必須とする成分以外に、通常の衣材に使用される成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、小麦粉等の穀粉、各種澱粉、パン粉、クラッカー粉砕物、シリアル、増粘多糖類、調味料、香辛料、粉乳、全卵、卵白、乳蛋白質等の蛋白質、乳化剤、着色料、香辛料、膨張剤等が挙げられ、これらの成分を適宜、適量配合させることもできる。
【0029】
本発明の方法により製造されたノンフライ揚げ物様食品は、そのまま食してもよいが、冷蔵又は冷凍保存し、冷蔵品、チルド品又は冷凍品として市場に流通させ、喫食時に電子レンジ等で再加熱してもよい。あるいは本発明の別の態様として、具材に衣液及び/又は粉粒状衣材を付着させて茹でる処理を施した後に冷凍保存し、店舗又は家庭においてオーブンなどで焼成して本発明のノンフライ揚げ物様食品としてもよい。また、本発明の方法において、畜肉等の具材は衣液及び粉粒状衣材を付着させる前又は後に、慣用される手段で殺菌、着色、味付け等の処理を施してもよい。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1〜7]
下記の表1に示される組成からなる衣液用組成物及び粉粒状衣材組成物を常法に従って調製した。
次に、具材としてカットした鶏モモ肉20gをマリネーションした後、表1に示した各衣液用組成物100gを150mlの水に溶いた衣液に漬け、次いで各粉粒状衣材を付着させた後、100℃の熱湯中で30秒間茹でた。湯から衣付き具材を取り出し、そのまま200℃、5分間オーブン中で焼成を行って、実施例1〜7のノンフライ鶏唐揚げ様食品を製造した。
得られたノンフライ鶏唐揚げ様食品は、衣の表面に色むら等は認められず、外観に優れていた。
【0031】
【表1】

【0032】
[比較例1]
下記の表2に示される組成からなる粉粒状衣材を常法に従って調製した。
次に、具材としてカットした鶏モモ肉20gをマリネーションした後、粉粒状衣材をまぶして付着させた後、蒸し器に入れて3分間、スチーム処理した。これをそのまま175℃のオーブン中で7分間焼成を行って、比較例1のノンフライ鶏唐揚げ様食品を製造した。
得られたノンフライ鶏唐揚げ様食品は、衣の色合い等の点で外観に劣るものであった。
【0033】
【表2】

【0034】
[比較例2]
表2に示される組成からなる粉粒状衣材及び衣液用組成物を常法に従って調製した。
次に、具材としてカットした鶏モモ肉20gをマリネーションした後、表2に示した粉粒状衣材を付着させた後、衣液用組成物100gを180mlの水に溶いた衣液に漬け、次いで再度、粉粒状衣材を付着させた。これを4分間スチーム処理した後、175℃のオーブン中で8分間焼成して、比較例2のノンフライ鶏唐揚げ様食品を製造した。
得られたノンフライ鶏唐揚げ様食品は、衣に色むらがあり外観に劣るものであった。
【0035】
[試験例1]
上記の実施例1、比較例1及び比較例2の各ノンフライ鶏唐揚げ様食品について、10名のパネラーにより下記の表3に示した基準による点数評価を行うとともに、衣率と製品歩留を算出した。これらの結果を下記の表4に示す。
なお、衣と具材の食味・食感については各評価値の平均値を求め、また、衣率及び製品歩留は下記の式により算出した。
衣率(%)=[衣の質量(g)]/[具材の質量(g)]×100
製品歩留(%)=「揚げ物様食品の質量(g)」/[具材の質量(g)]×100
【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
これらの結果、粉粒状衣材のみを具材に付着させてスチーム処理した比較例1では、衣の食感が適度な硬さでやや歯切れよいが、具材の鶏肉についてはジューシー感がやや不足しており、衣率、製品歩留はともに低いものであった。粉粒状衣材及び衣液を具材に付着させた後、再度粉粒状衣材を付着させてスチーム処理した比較例2では、具材はジューシーで柔らかく、衣率及び製品歩留も高かったが、衣は歯切れが悪くガミーであり、衣の食感において著しく劣るものであった。また、これら比較例1及び2のノンフライ鶏唐揚げ様食品では、いずれも衣が粉っぽい食感であった。
これに対して、衣液及び粉粒状衣材を具材に付着させた後、茹で処理した実施例1では、衣の食感と具材の食感が共に優れ、かつ衣率及び製品歩留も高いものであった。さらに、揚げ物様食品として外観にも優れ、また衣も粉っぽさは感じられず、きわめて良好なノンフライ揚げ物様食品であることが確認された。
【0039】
[実施例8〜9]
下記の表5に示される組成からなる衣液用組成物及び粉粒状衣材を、それぞれ調製した。 次に、実施例8では、具材としてチキンナゲット用成形肉20gを、衣液用組成物100gを150mlの水に溶いた衣液に漬け、次いで粉粒状衣材を十分に付着させた。実施例9では、同量の成形肉を衣液に浸けてから粉粒状衣材を付着させるという操作を再度繰り返した。衣を付着させた具材を、実施例8では30秒間、実施例9では1分間それぞれ100℃の熱湯中で茹でた。湯から具材を取り出し、200℃のオーブン中で5分間焼成を行って、実施例8〜9のノンフライチキンナゲット様食品を製造した。
得られたチキンナゲット様食品では、衣の表面に色むら等は認められず、外観に優れていた。
【0040】
【表5】

【0041】
[実施例10]
下記の表6に示される組成からなる衣液用組成物及び粉粒状衣材をそれぞれ調製した。
次に、具材として鶏モモ肉20gを、表6に示す衣液用組成物100gを150mlの水に溶いた衣液に漬け、次いで再度、粉粒状衣材を具材に十分に付着させた後、100℃の熱湯中で30秒間茹でた。湯から具材を取り出し、200℃のオーブン中で5分間焼成を行ってノンフライ唐揚げ様食品を製造した。これを−30℃で冷凍し、1週間後に電子レンジ(600w、50秒間)で再加熱した。
オーブンで焼成した後、及び電子レンジで再加熱した後で、ノンフライ唐揚げ様食品の外観を観察したが、衣には色むら等は認められず、外観に優れていた。
【0042】
【表6】

【0043】
[実施例11〜12]
実施例1における粉粒状衣材組成物中のハイアミロースコーンスターチを、架橋小麦澱粉(実施例11)又は架橋タピオカ澱粉(実施例12)に置き換えて粉粒状衣材を調製し、これを用いて実施例1と同様にして、ノンフライ鶏唐揚げ様食品を製造した。
得られたノンフライ鶏唐揚げ様食品は、衣の表面に色むら等は認められず、外観に優れていた。
【0044】
[試験例2]
実施例2〜12のノンフライ揚げ物様食品について、衣の食感及び具材の食感を表3に示した評価基準に従って、試験例1と同様に10名のパネラーにより評価を行った。得られた評価値の平均値を下記の表7に示す。
【0045】
【表7】

【0046】
これらの結果から、本発明の製造方法によって製造されるノンフライ揚げ物様食品では、衣は歯切れがよく、かつサクミがあって口溶けがよく、具材はジューシーで柔らかい等、衣の食感及び具材の食感ともに極めて良好であることが確認された。また、製品歩留と衣率についても、実施例1のものと同等であり、さらに前述のように衣の表面に色むら等は認められず、外観に優れることから、これらのノンフライ揚げ物様食品は製品として非常に優れることがわかる。
【0047】
[実施例13〜16] 間接加熱処理小麦粉を用いたノンフライ揚げ物様食品の製造
間接加熱処理小麦粉を配合した衣液用組成物及び粉粒状衣材を用いてノンフライ揚げ物様食品を製造した。
具体的には、次の表8に示される組成からなる衣液用組成物及び粉粒状衣材を、それぞれ調製した。次に、具材としてカットした鶏モモ肉肉20gをマリネーションした後、衣液用組成物100gを150mlの水に溶いた衣液に漬け、次いで粉粒状衣材を十分に付着させた。次いで、表8に示される茹で時間(ボイル時間)及び焼成条件でノンフライ揚げ物様食品を調製した。表8中の「加熱処理小麦粉1」は、特開2004−9022号公報に記載の加熱装置を用いて、品温110℃で60分間、間接加熱処理したものである。
得られた実施例13〜16のノンフライ揚げ物様食品について、衣の食感を下記に示した評価基準に従って、10名のパネラーにより評価を行った。得られた評価値の平均値を下記の表8に示す。
【0048】
表8における「衣の食感」は次の5段階の点数として評価した。
5 : 歯切れ良く、柔らかで口溶けに優れる。
4 : やや柔らかで口溶け良く、歯切れ良い。
3 : やや柔らかさに欠けるが、口溶けも悪くない。
2 : 歯切れ・口溶け共にやや悪くやや硬い。
1 : ヒキがあり歯切れ悪く、硬く口溶け悪い。
【0049】
【表8】

【0050】
[実施例17〜18] 軽度に湿熱処理した加熱処理小麦粉を用いたノンフライ揚げ物様食品の製造
軽度に湿熱処理した加熱処理小麦粉を配合した衣液用組成物及び粉粒状衣材を用いてノンフライ揚げ物様食品を製造した。
具体的には、表9に示される組成からなる衣液用組成物及び粉粒状衣材を、それぞれ調製した。次に、具材としてカットした鶏モモ肉20gをマリネーションした後、衣液用組成物100gを150mlの水に溶いた衣液に漬け、次いで粉粒状衣材を十分に付着させた。次いで、表9に示される茹で時間(ボイル時間)及び焼成条件でノンフライ揚げ物様食品を調製した。なお、表9中の「加熱処理小麦粉2」は、特開2001−120162号公報に開示された方法で調製されたものであり、澱粉が実質的にα化されず、グルテンバイタリティーが70〜95%になっているものである。
得られた実施例17〜18のノンフライ揚げ物様食品について、衣の食感を実施例13〜16と同じ評価基準に従って、10名のパネラーにより評価を行った。得られた評価値の平均値を下記の表9に示す。
【0051】
【表9】

【0052】
[実施例19] ローストフラワーを用いた揚げ物様食品の製造
ローストフラワーを配合した粉粒状衣材を用いて、ノンフライ揚げ物様食品を製造した。
具体的には、表10に示される組成からなる衣液用組成物及び粉粒状衣材組成物を、それぞれ調製した。次に、具材としてカットした鶏モモ肉20gをマリネーションした後、衣液用組成物100gを150mlの水に溶いた衣液に漬け、次いで粉粒状衣材を十分に付着させた。次いで、表10に示される茹で時間(ボイル時間)及び焼成条件でノンフライ揚げ物様食品を調製した。なお、本実施例において、ローストフラワーは、「ローストフラワーRD」(日清製粉株式会社製)を用いた。
得られたノンフライ揚げ物様食品について、衣の食感を実施例13〜16と同じ評価基準に従って、10名のパネラーにより評価を行った。得られた評価値の平均値を下記の表10に示す。
【0053】
【表10】

【0054】
[実施例20] 粉粒状衣材組成物のみを用いたノンフライ揚げ物様食品の製造
前記した加熱処理小麦粉1を配合した粉粒状衣材組成物のみを用いて、ノンフライ揚げ物様食品を製造した。
具体的には、具材としてカットした鶏モモ肉20gをマリネーションした後、次の表11に示される粉粒状衣材組成物のみを十分に付着させた。次いで、表11に示される茹で時間(ボイル時間)及び焼成条件でノンフライ揚げ物様食品を調製した。
得られたノンフライ揚げ物様食品について、衣の食感を実施例13〜16と同じ評価基準に従って、10名のパネラーにより評価を行った。得られた評価値の平均値を下記の表11に示す。
【0055】
【表11】

【0056】
[実施例21〜22] 衣液のみを用いたノンフライ揚げ物様食品の製造
熱凝固性蛋白質として大豆蛋白又は卵白粉を配合し、且つ特定の粘度に調整した衣液のみを用いて、ノンフライ揚げ物様食品を製造した。
具体的には、具材としてカットした鶏モモ肉20gをマリネーションした後、次の表12に示される衣液用組成物100gを80mlの水に溶いて、表12に示される粘度に調整した衣液を調製し、当該衣液に付着させた。次いで、表12に示される茹で時間(ボイル時間)及び焼成条件でノンフライ揚げ物様食品を調製した。
実施例21〜22のノンフライ揚げ物様食品について、衣の外観及び食感を下記の評価基準に従って、10名のパネラーにより評価を行った。得られた評価値の平均値を下記の表12に示す。
【0057】
表12における「衣の外観及び食感」は次の5段階の点数として評価した。
衣の外観
5 : 衣付きが均一でふっくらしていてボリューム感ある
4 : 大部分が膨らみボリューム感ある
3 : 部分的に膨らみがありふっくらしている
2 : ほとんど膨らまずボリューム感がない
1 : 膨らみがなくへたっている
衣の食感
5 : 非常に柔らかで歯切れ・口溶けに優れる
4 : 柔らかで歯切れ・口溶け良い
3 : 柔らかさにやや欠けるが歯切れ・口溶けは悪くない
2 : やや硬く、歯切れ・口溶け共にやや悪い。
1 : 硬くヒキがあり歯切れ・口溶けが悪い。
【0058】
【表12】

【0059】
このように、本発明の方法では、衣液のみでも実施することができ、外観及び食感ともに優れたノンフライ揚げ物様食品を製造することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、衣は粉っぽさが無く、サクサクとした食感(サクミ)を有し、具材は水分の損失が少なくジューシー感に富むという揚げ物食品の好ましい食感を保持し、かつ衣の付き具合や色にむらなどが無く、油揚げしたような良好な外観を呈するノンフライ揚げ物様食品の製造方法を提供するものであり、食品産業などにおける利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
具材に衣液及び/又は粉粒状衣材を付着させる工程、衣液及び/又は粉粒状衣材を付着させた具材を茹でる工程、及び茹でた具材を焼成する工程を含む、ノンフライ揚げ物様食品の製造方法。
【請求項2】
具材に衣液及び粉粒状衣材を付着させる場合に使用する粉粒状衣材において、粉粒状衣材全質量に対して、ハイアミロース澱粉及び/又は架橋澱粉30〜70量%、油脂15〜30質量%、及び大豆蛋白質10〜25質量%を含む粉粒状衣材を使用する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
具材に衣液及び粉粒状衣材を付着させる場合に使用する粉粒状衣材において、粉粒状衣材全質量に対して、加熱処理小麦粉10〜60質量%を含む粉粒状衣材を使用する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
具材に衣液のみを付着させる場合に使用する衣液において、衣液用組成物の乾物全質量に対して熱凝固性蛋白質を2〜25質量%含み、且つ粘度が25,000〜120,000mPa・sになるように調整されている衣液を使用する請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
具材に粉粒状衣材のみを付着させる場合に使用する粉粒状衣材において、粉粒状衣材全質量に対して、加熱処理小麦粉10〜60質量%を含む粉粒状衣材を使用する請求項1に記載の製造方法。