ハイブリダイゼーション検出に適する反応部などを有する流路系、該流路系を用いるハイブリダイゼーション検出装置
【課題】 反応効率がよく、しかも繰り返しの利用が可能なハイブリダイゼーション検出用の流路系及び装置を提供すること。
【解決手段】 ビーズ2が充填された反応部111を所定箇所に備える細管11からなる流路系1aであって、前記ビーズ2には、同種塩基配列を有するリンカーが固定されているとともに、該リンカーの同種塩基配列に相補結合したターゲット核酸が保持されている流路系を提供する。並びに、このような構成の流路系と、反応部111でのハイブリダイゼーションを検出するための検出部を備えるハイブリダイゼーション検出装置を提供する。
【解決手段】 ビーズ2が充填された反応部111を所定箇所に備える細管11からなる流路系1aであって、前記ビーズ2には、同種塩基配列を有するリンカーが固定されているとともに、該リンカーの同種塩基配列に相補結合したターゲット核酸が保持されている流路系を提供する。並びに、このような構成の流路系と、反応部111でのハイブリダイゼーションを検出するための検出部を備えるハイブリダイゼーション検出装置を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリダイゼーション検出に係わる技術に関する。より詳しくは、流路系に設けられた所定の反応部においてハイブリダイゼーションを進行させて、これを検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロアレイ技術によって所定のDNAが微細配列された、いわゆるDNAチップ又はDNAマイクロアレイ(以下、本願では「DNAチップ」と総称。)と呼ばれるバイオアッセイ用の集積基板が開発され、遺伝子の変異解析、SNPs(一塩基多型)分析、遺伝子発現頻度解析、遺伝子ネットワーク解明等に利用されるようになり、さらには、創薬、臨床診断、薬理ジェノミクス、テーラーメイド医療、進化の研究、法医学その他の分野において、幅広い応用が期待されている。
【0003】
このDNAチップやタンパク質を集積したプロテインチップなどに代表されるようなセンサーチップ技術は、固層基板上に固定された検出用物質(プローブと称されることが多い。)とターゲット物質との間の特異的な相互作用を利用して、対象物の存在量を定量化する。
【0004】
DNAチップを例に挙げると、分析対象の遺伝子配列の一部をもつ一本鎖DNA断片を予め固定しておき、試料中に、そのDNA断片と相補的な配列をもつ遺伝子が存在すると、両者は特異的に結合し(即ちハイブリダイゼーション)、二本鎖DNAを形成する。この二本鎖DNAを蛍光標識法などで検出することで、その遺伝子が試料溶液中で発現しているかどうかを判定する。異なる遺伝子配列の一本鎖DNA断片を多数固定しておくことにより、一つの試料に対して、複数の遺伝子の発現解析を効率的に行い、あるいは、一つの遺伝子の発現解析に冗長性をもたせて解析の精度を上げることが可能である。
【0005】
最近では、DNAチップなどにおいて、流路やキャピラリーを利用する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、基板上に形成された流路中で相互作用分析を行うようにすることで、分析に要する液体検体の量を少量に抑えることができる技術が提案されている。また、特許文献2には、キャピラリーの周辺に光学的な検出手段を形成し、このキャピラリー自体を検出用のセルとして利用する技術が開示されている。特許文献3には、毛細管通路内で相互作用を進行させ、その流れ特性を検出する技術が開示されている。
【0006】
これらの先行技術は、本発明との関係では特に重要ではないが、物質間の相互作用の検出技術において、細い流路を用いる一般的技術を示すことを目的として掲げる。
【特許文献1】特開2005−030906号公報。
【特許文献2】特開平10−170427号公報。
【特許文献3】特開06−094722号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
基板上に反応場を形成し、この反応場内でオリゴヌクレオチドをプローブ核酸として用いる構成である既存のDNAチップなどのデバイス、あるいはハイブリダイゼーション検出システムでは、基板上に設けられた反応場の空間容積が比較的大きい。このため、自然のブラウン運動に委ねられながら進行するハイブリダイゼーションの効率が悪く、ハイブリダイゼーションに要する時間が長くなるという技術的課題あった。また、基板の汚れ等のために、繰り返し利用することが難しいという技術的課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、反応効率がよく、また繰り返しの利用が可能な新規ハイブリダイゼーション検出技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ビーズが充填された反応部を所定箇所に備える細管からなる流路系であって、充填された前記ビーズには、同種塩基配列を有するリンカーが固定されているとともに、該リンカーの同種塩基配列に相補結合したターゲット核酸が保持されている流路系、更には、この流路系が複数経路設けられているマルチ流路系を提供する。
【0010】
なお、本発明において、「塩基配列」とは、重合している2以上の塩基を意味し、「リンカー」とは、ビーズに対してターゲット核酸を保持するために利用される所定配列の核酸である。「ターゲット核酸」とは、流路系内の反応部へ送り込まれてくる溶液中に存在するプローブ核酸との間での相補鎖形成を確認するために反応部内に待ち受けている核酸であり、本発明では、前記リンカーを介してビーズに保持されている。
【0011】
この流路系に設けられた「反応部」は、例えば、前記ターゲット核酸の一本鎖部分と前記反応部に送り込まれてくるプローブ核酸との間のハイブリダイゼーションを進行させる場として機能する。
【0012】
なお、本発明において「プローブ核酸」とは、ハイブリダイゼーション検出に有用な情報を提供できる核酸であって、例えば、蛍光物質が標識された一本鎖核酸、あるいは放射性物質が標識された一本鎖核酸などを挙げることができ、前者では励起蛍光を検出し、後者では放射線を検出することによって、ハイブリダイゼーションを検出できる。
【0013】
前記リンカーの同種塩基配列は、例えば、ポリTであって、前記プローブ核酸は、例えば、このポリTに相補結合するポリAテール部分を有するmRNAである。このmRNAは、例えば、流路系へ注入された細胞を、該流路系の所定箇所で溶解することにより得られるmRNAである。なお、「ポリ」とは、塩基が2以上重合した塩基配列を有する核酸分子を意味し、「ポリT」とは塩基チミン(T)が2以上重合した塩基配列を有する核酸分子を意味する。「ポリAテール(poli(A)tail)」は、mRNAの3’末端に付加されているアデニル酸残基(ATPの鎖)である。
【0014】
また、前記プローブ核酸は、目的のハイブリダイゼーションを検出するための情報を提供できる機能を有する核酸であれば採用でき、一例を挙げれば、蛍光物質で標識されている核酸や放射性物質でラベルされた核酸である。
【0015】
また、本発明に係る流路系では、前記反応部の下流側領域に、送液の高速化に寄与する送液促進部を設けてもよい。この送液促進部は、例えば、パフュージョンクロマトグラフィー粒子が充填されている構成を採用できる。また、反応部とそれに続く送液促進部が、2以上繰り返した形態構成を採用することもできる。この送液促進部では、反応部を通過してきた物質、例えば、ハイブリダイゼーションに関与しなかったプローブ核酸や有害物質をトラップするようにしてもよい。
【0016】
次に、上記したような構成の流路系と、該流路系の反応部に存在する前記ターゲット核酸と該反応部に送り込まれてくるプローブ核酸との間のハイブリダイゼーションを検出する検出部と、を備えることを特徴とするハイブリダイゼーション検出装置を提供する。
【0017】
該検出装置の検出部としては、プローブ核酸から発せられる情報を捕捉できる構成の検出手段を有するものであれば、特に限定されない。例えば、前記プローブ核酸にラベルされた蛍光物質を励起させるための励起光照射部と、前記反応部から得られる励起蛍光を捕捉する光ディテクタ部と、を少なくとも備えるものを採用できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、流路系の狭小な空間においてハイブリダイゼーションを進行させる構成であるので、反応効率がよく、ハイブリダイゼーション検出の高速化を達成できる。反応部の後段に送液促進部を設けることで、送液の高速化を達成できる。また、反応部のビーズは、洗浄を行うことで繰り返し利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好適な形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる物や方法の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0020】
まず、図1は、本発明に係る流路系の好適な実施形態の一例を示す図である。
【0021】
この図1に符号1aで示す流路系は、大別して、サンプル溶液の流路となる口径500μm程度の細管11と、該細管11の一端に形成された導入部12と、該細管11の他端側に形成された排出部13と、から構成されている。なお、図1に示された矢印Wは、サンプル溶液の流れる方向を示している。
【0022】
この図示された流路系1aには、導入部12に近接する細管11部分の内部に微少粒径のビーズ2が多数充填されている構成である反応部111が、少なくとも設けられている。この反応部111は、ハイブリダイゼーションなどの所望の相互作用が進行する部分(領域)として機能する。
【0023】
図2は、反応部111内に充填されているビーズ2の表面上の物質構成を模式的に示す図である。
【0024】
ビーズ2は、ポリスチレンなどの材料で形成された微少なマイクロビーズであって、その表面は、ポリT配列を有するリンカーLの一末端を、化学的に結合させるのに好適な構成を備えている。
【0025】
このビーズ2は、該ビーズ2の表面に対して、例えば、アビジン-ビオチン結合やカップリング反応(例えば、ジアゾカップリング反応)などを介して結合されたオリゴ核酸であるリンカーLを備えている。そして、ビーズ2は、該リンカーLのポリT塩基配列部分に対し、ポリAセレクションプロセスに基づいてポリA部位が相補結合したターゲット核酸Xを保持している。なお、ターゲット核酸Xの好適例の一つは、ポリAテールを有するmRNAである。
【0026】
前記ターゲット核酸Xは、リンカーLを介してビーズ2に保持された状態で、反応部111において待ち受けており、該反応部111に送液されてくるサンプル溶液中の相補的なプローブ核酸Yとのハイブリダイゼーションを進行するという役割を果たす。
【0027】
図3は、ビーズ2に保持された状態のターゲット核酸Xの一本鎖部分に対して、プローブ核酸Yがハイブリダイゼーションし、二本鎖を形成している様子が模式的に示されている。
【0028】
この図3に示されているように、プローブ核酸Yには、予めハイブリダイゼーション検出に利用できる蛍光物質F、あるいは放射性物質(図示せず)などを標識(ラベル)しておくことで、該標識物質から得られる光情報や放射線情報を捕捉することによって、前記ハイブリダイゼーションを検出することが可能となる。
【0029】
このようなハイブリダイゼーションアッセイは、例えば、被験者の細胞から抽出されたmRNAを予めビーズ2に(リンカーLを介して)保持しておき、このmRNAに対して、公知の疾病発現原因遺伝子に係わる塩基配列を有するプローブ核酸Yがハイブリダイズするか否かを判定する目的の検査などに利用できる。
【0030】
以上のアッセイは、例えば、図4の工程図に示された方法に基づいて実施できる。具体的には、まず、流路系1を構成する細管11の所定位置に向けて、リンカーLが固定化されているビーズ2を充填し、カラム状の反応部111を形成する第一工程を行う(図4中の(1)工程)。
【0031】
次に、ビーズ2が充填されている反応部111に向けて、ターゲット核酸Xを含む第1サンプル溶液S1を送液し(図4中の(2)工程)、さらに、ビーズ2に固定化されたリンカーLのポリT配列部分に対して、前記ターゲット核酸XのポリA配列をハイブリダイゼーションさせる工程(ポリAセレクションプロセス、図4中の(3)工程)を行う。
【0032】
続いて、プローブ核酸Yを含有する第2サンプル溶液S2を反応部111へ向けて送液し(図4中の(4)工程)、所定温度、pH条件で所定時間、ターゲット核酸Xとプローブ核酸Yとの間のハイブリダイゼーションを進行させる(図4中の(5)工程)。そして、プローブ核酸Yから得られる情報(例えば、標識された蛍光物質からの励起蛍光情報)により、ハイブリダイゼーションを検出する。
【0033】
図5は、本発明に係る流路系の第2実施形態を示す図である。
【0034】
この図5に示された第2実施形態である流路系1bは、反応部111の下流側(即ち、排出部13側)に送液促進部112が設けられていることが特徴である。即ち、この流路系1bには、導入部12、反応部111、送液促進部112、排出部13が、上流側からこの順番で設けられている。
【0035】
この送液促進部112は、反応部111へ向けて送液されてくるサンプル溶液S1、S2や洗浄用のバッファー溶液などの送液速度を促進するための役割を担う部分であって、例えば、パフュージョンクロマトグラフィー粒子を充填することによって好適に形成することができる。
【0036】
このパフュージョンクロマトグラフィー粒子の典型的なものは、貫通孔(Through pore)と称される大きなポアと吸着孔(Diffusive pore)と称される小さなポアを持っている。これにより、バッファー溶液に溶け込んだ分子は、前記貫通孔を通りぬけ、吸着孔の隅々まで運ばれる。このため、分子と充填材表面の官能基との接触面積が大きくなり、バッファーの流れと官能基との距離は充填材の粒径に関係がなく非常に小さくなる(1μm以下)ので、高流速で、かつ低圧の送液を行うことができる。
【0037】
また、導入部12や排出部13の近傍の細管部分では、外部ポンプ等との接続のためのナットなどの諸部材が設けられることから、この部分に反応部111を設けると観察や測定が困難となる。しかし、送液促進部112を反応部111の下流側に設けることによって、検出・測定の対象となる反応部111が流路系1bの中央部近くに配置できるようになるので、検出が容易になるという利点が生まれる。
【0038】
さらには、パフュージョンクロマトグラフィー粒子の種類を選択することによって、余剰物質や有害物質(例えば、放射性物質)を吸着させてトラップし、外部へ排出されないようにできるので、流路系1bを廃棄する時に同時に廃棄することができるという利点が生まれる。
【0039】
以上で説明した流路系1a、あるいは1bを単独で使用してもより、多数本セットした構成のマルチ流路系(図示せず。)を採用してもよい。例えば、導入部12を共通にして、同一のサンプル溶液を同時に多数の流路系1a(1b)へ送液できるようにし、さらには、各流路系の反応部111には、異なる種類のターゲット核酸Xを保持させておくことによって、網羅的なハイブリダイゼーション検出を同時一斉に行うようにしてもよい。
【0040】
次に、図6は、流路系1aあるいは1bを用いるハイブリダイゼーション検出装置の検出部の好適な実施形態の一例を示す図である。
【0041】
図6に示された検出部3は、ハイブリダイゼーションを蛍光検出する場合の典型的な構成を備える。反応部111においてハイブリダイゼーションした状態で存在するプローブ核酸Yには、予め蛍光物質が標識されている。
【0042】
流路系1a(1b)の反応部111へ向けて、所定波長の蛍光励起光Pを図示しない光源から出射して平行光に途中変換し、反応部111の近傍に配置されたレンズ31によって反応部111へ向けて絞り込んで照射する。
【0043】
これにより、反応部111内で励起された蛍光fを、前記レンズ31で平行光に変換し、さらに後方に配置されたレンズ32で絞り込み、その後方に配置された光ディテクタ33で検出し、蛍光強度を測定する。なお、本発明に係わる検出部は、この蛍光検出手段に限定されず、プローブ核酸Yが提供する情報種に応じて、これを検出できる構成を採用すればよい。
【実施例1】
【0044】
<流路系デバイスの作製に係わる実施例>。
まず、流路系を構成する細管として、内径0.53mm、外径0.68mm、長さ6cmのフューズド・シリカ・キャピラリー・チューブ(ジーエルサイエンス社製)を用意した。
【0045】
そして、送液の下流側端部に、孔径1μmのフィルタをセットした排出部、上流側にはフィルタをセットしない導入部を、それぞれチュービングスリーブ、フェラル、ナットを用いて取り付けた。また、上流側の導入部には、レオダイン型シリンジに対応するフィルポートを取り付け、下流側の排出部にはルアー・ロック・ニードルを取り付けた。
【0046】
<パフュージョンクロマトグラフィー粒子の調整>。
パフュージョンクロマトグラフィー粒子として、POROS 20 R1(アプライド・バイオシステムズ社製)を用いた。これを10%エタノール溶液に分散させて、粒子分散溶液(以下、「POROS溶液」)を調製した。
【0047】
<オリゴヌクレオチド結合マイクロビーズの調製>。
次に、Streptavidin Coated Microsphere plain(Polysciences)の水溶液に、5'末端にビオチンを修飾したデオキシチミジンのオリゴヌクレオチド(21mer)を加えて、アビジン−ビオチン結合によりオリゴdTが固定されたビーズ(以下、「オリゴdTビーズ」)を調製した。
【0048】
<カラム(溶液促進部と反応部)の形成>。
流路系デバイスの排出部のルアー・ロック・ニードルにシリンジを取り付けた。POROS溶液を吸い込んだレオダイン型シリンジを、導入部のフィルポートに取り付け、ルアー・ロック・ニードルに取り付けた前記シリンジを吸引し、前記チューブ内に、パフュージョンクロマトグラフィー粒子である「POROS粒子」を注入した。
【0049】
続いて、上記手順で調整した「オリゴdT結合ビーズ」を同様の方法で、チューブ内へ注入した。これにより、送液促進部(パフュージョンクロマトグラフィー粒子充填部)と反応部(オリゴdTビーズ充填部)の二段カラム構造を備える、図5同様の流路系デバイスを形成した。
【0050】
次に、この流路系デバイスからルアー・ロック・ニードルとフィルポートを取り外し、蛍光顕微鏡のステージであるヒートプレート上に固定した。フェラルとナットを両側に取り付け、導入部と連結できる細管、片側のみフェラルとナットを取り付けた細管、シリンジ・ポンプ、排液瓶を用意した。
【0051】
次に、両側にフェラルとナットを持つ細管を準備し、前記流路系デバイスの上流側の導入部に取り付けた。この細管の反対側のフェラルとナットをルアー・ロック・ニードルに取り付け、シリンジ・ポンプにセットされるシリンジと接続した。流路系デバイスの下流側には、片側のみフェラルとナットを取り付けた細管を取り付け、この細管の反対側は排液瓶に導入した。
【実施例2】
【0052】
<オリゴヌクレオチド溶液の調製>。
まず、ターゲット核酸として、5'末端に蛍光色素Cy3を標識した21mer デオキシグアノシンに21merデオキシアデノシンを連結した計42merのオリゴヌクレオチド(以下「Cy3-oligo dG+oligo-dA」と表す)用意した(表1参照)。
【0053】
【表1】
【0054】
次に、プローブ核酸として、5'末端に蛍光色素Cy3を標識した21-merオリゴデオキシグアノシン(Cy3-oligo dG)と、これと同様に標識した21-merオリゴデオキシシチジン(Cy3-oligo dC)のオリゴヌクレオチドの2種類を用意した(表2参照)。
【0055】
【表2】
【0056】
用意された各オリゴヌクレオチドは、0.5M塩化ナトリウム水溶液中5μM濃度に溶解した。なお、塩化ナトリウム0.5Mの条件では、オリゴヌクレオチド同士のハイブリッド形成が生じることが知られている(真壁和裕「バイオ実験イラストレイテッド 4 苦労なしのクローニング」第1章、第2節(秀潤社, 1997,東京))。
【0057】
<実験手順と結果>。
本実験は、上記の通りの方法で作製した流路系デバイスを用いて行った。この流路系デバイスの温度制御は、ヒートプレートを用いて行った。流路系へ送り込まれる各オリゴヌクレオチド溶液の送液量は、200μLで送液速度は50μ/minとした。ハイブリダイゼーション確認のためのCy3の蛍光観察は、蛍光顕微鏡に接続された顕微分光システム(大塚電子社製)で行った。
【0058】
本実験の各工程での反応部(オリゴdTビーズ充填部)において測定された蛍光強度の測定結果を図7に示した。なお、この図7中では、横軸には工程を順番に示し、縦軸には各工程を実施した直後の蛍光強度値を示している。
【0059】
まず、本実験では、上記プローブ核酸(表1参照)をデバイスへ送液する前に、0.5M塩化ナトリウム水溶液でカラムのコンディショニングを37℃の温度条件で行った(図7の1(Wash NaCl 37)の棒グラフ参照)。なお、このときの送液量は800μLであった。この段階では、蛍光強度はほとんど測定されなかった。
【0060】
次に、42merのターゲット核酸である「Cy3-oligo dG + oligo-dA」(表1参照)をデバイス中へ200μL送液した(温度条件37℃)。この時の蛍光強度は、図7中の2(PolyG-PolyA 37)の棒グラフに示すように、蛍光強度が0.2を超える程度に上昇した。
【0061】
その後、37℃の温度条件に保ち、洗浄のために800μLの0.5M塩化ナトリウム水溶液を送液した(図7の3(Wash NaCl 37)の棒グラフ参照)。このとき、蛍光強度は低下したものの0.1強の値を示したことから、ビーズに固定されたオリゴdT(リンカー)とプローブ核酸との間のポリAセレクションを確認できた。即ち、ビーズに固定されたオリゴdTとターゲット核酸の3'側のoligo-dAとの間でのハイブリダイズを確認した。
【0062】
次に、第1プローブ核酸であるCy3-oligo dG(表2参照)を含有するサンプル溶液を200μL送液してみたところ(温度条件37℃)、蛍光強度が0.17程度に上昇した(図7の4(PolyG 37)の棒グラフ参照)。
【0063】
しかし、次に、温度条件を37℃に保って、800μLの0.5M塩化ナトリウム水溶液を洗浄のために送液したところ、蛍光強度は低下した(図7の5(Wash NaCl 37)の棒グラフ参照)。この時の蛍光強度は、ターゲット核酸(表1参照)を送液した後の最初の洗浄工程後の蛍光強度と同等であった(図7参照)。これは、第1プローブ核酸Cy3-oligo dGを含有するサンプル溶液を送液した後の蛍光強度の上昇は、完全なハイブリッド形成によってもたらされたものではなく、非特異的な吸着が発生したことが原因と考えられた。
【0064】
次に、用意した第2プローブ核酸であるCy3-oligo dCを含有するサンプル溶液を、温度条件37℃でデバイス中へ200μL送液した。このとき、再び蛍光強度は0.25を超える程度に上昇し、先の第1プローブ核酸Cy3-oligo dGを送液した場合よりも高い値を示した(図7の6(polyC37)の棒グラフ参照)。
【0065】
続いて、温度条件を37℃に保ち、洗浄のため800μLの0.5M塩化ナトリウム水溶液を送液したところ、蛍光強度は低下した(図7の7(Wash NaCl 37)の棒グラフ参照)。しかし、二回目の洗浄後の蛍光強度(図7の5の棒グラフを比較参照)よりも高かったことから、第2プローブ核酸Cy3-oligo dCが、反応部(オリゴdTビーズ充填部)に依然として残っていることが明らかであった。
【0066】
念のため、真壁和裕「バイオ実験イラストレイテッド4 苦労なしのクローニング」第1章,第2節(秀潤社, 1997,東京)に準拠し、ビーズへの非特異的吸着の排除に効果があると言われる0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む0.5 M 塩化ナトリウム水溶液800μLを用いた洗浄を、温度条件37℃で行った(図7の8(Wash SDS 37)の棒グラフ参照)。
【0067】
このときの蛍光強度に殆ど変化なかった。したがって、蛍光強度の増加は、ビーズのオリゴdTとポリA部分(oligo dA部分)で相補結合している状態のターゲット核酸の一本鎖ポリG部分(oligodG部分)と第2プローブ核酸であるCy3-oligo dCとが、相補的なG-C結合を形成してハイブリダイズしたことによるものと考えられた。即ち、オリゴdTビーズ上に保持されたターゲット核酸(表1参照)と第2プローブ核酸(表2参照)との間のハイブリダイゼーションを確認した。
【0068】
次に、温度条件を37℃に保ちつつ、純水800μLを送液したところ、蛍光強度が激減した(図7の9(Wash Water 37)の棒グラフ参照)。これは、塩濃度の低下によりハイブリッドが1本鎖に分離し、蛍光物質Cy3で標識されたオリゴヌクレオチドが送液によって廃液されたためと考えられる。
【0069】
更に、温度条件を65℃に昇温して純水800μLを送液したところ、蛍光強度は最初の洗浄工程のレベルまで低下した(図7の10(Wash Water 65)の棒グラフ参照)。これは、その後37℃に温度を低下させ、純水800μLを送液しても変わらなかった(図7の11(Wash Water 37)の棒グラフ参照)。これは、二本鎖が完全に1本鎖に解離し、廃液されたからと考えられる。
【0070】
以上の実験の結果から、相補的なオリゴヌクレオチドのみが流路系内でハイブリッド形成を生じることを確認した。即ち、ポリAセレクションによりオリドdTビーズに保持されたターゲット核酸の一本鎖部分が、この一本鎖部分と相補的な塩基配列を有するプローブ核酸とハイブリダイゼーションをすることを確認できた。
【0071】
図7に示された蛍光強度のデータに基づいて、ハイブリッド形成による蛍光量をオリゴヌクレオチドに結合している蛍光物質Cy3の吸光度で補正した結果を図8に示した。
【0072】
この図8に示された結果から、ターゲット核酸とプローブ核酸との間のハイブリダイゼーションによる補正後蛍光値(図8のpolyCで示す棒グラフ参照)は、約0.02である。一方、ポリAセレクションによるリンカー(ビーズに固定されたオリゴdT)とターゲット核酸との間のハイブリダイゼーションによる補正後蛍光値(図8のPolyG-PolyAで示す棒グラフ参照)は、約1.0である。したがって、ターゲット核酸とプローブ核酸との間のハイブリダイゼーションは、ポリAセレクションによるハイブリダイゼーションの2割程度であることが分かった。
【実施例3】
【0073】
実施例1で作製した流路系デバイスを用いて、ターゲット核酸である「42mer Cy3-oligo dG +oligodA」(表1参照)の濃度を、20μM、2μM、0.2μM、0.02μMの計4段階に変化させて、オリゴdTビーズ上のポリAセレクションによるターゲット核酸の捕捉感度を検証した。
【0074】
反応部カラムのコンディショニングは、0.5M塩化ナトリウム水溶液(温度37℃)を、800μLを送液することにより行った。前記プローブ核酸の送液量は200μLとした。洗浄は、0.1%SDSを含む0.5M塩化ナトリウム水溶液(温度37℃)を、800μLを送液することにより行った。更に、反応部カラムに残るプローブ核酸を除く工程では、温度65℃条件の純水を800μL送液することにより行った。
【0075】
本実験の結果を図9に示した。図9中の横軸の「C」はコンディショニング,「Wash」は洗浄,「Ext」は65度Cでの純水送液をそれぞれ示している。濃度はターゲット核酸(Cy3-oligo dG + oligo dA)の濃度を示している。
【0076】
この図9に示された結果に示すように、洗浄後の蛍光強度をみたところ、ターゲット核酸(Cy3-oligo dG + oligodA)の濃度に応じて変化することが確認できた。また、本実験で作成したオリゴdTビーズの繰り返し利用が可能であることも分かった。
【0077】
図10は、図9の蛍光強度値をターゲット核酸の濃度に対してプロットした図面代用グラフである。
【0078】
この図10に示したように、測定したターゲット核酸の濃度範囲で蛍光強度が片対数でリニアに変化した。これに対して、図8に示したように、ターゲット核酸に対してプローブ核酸がハイブリダイズすることを考えると、プローブ核酸の蛍光強度はターゲット核酸の濃度に応じて変化するので、プローブ核酸の蛍光強度からターゲット核酸を定量できることも分かった。
【実施例4】
【0079】
本実験中に、流路系デバイスにおける「送液促進部」の蛍光観察を行った。
【0080】
その結果、実験の工程で蛍光が増大した。その結果を図11に示した。図11には、本実験前(Pre)と本実験後(Post)の蛍光強度が棒グラフで示されている。これは、パフュージョンクロマトグラフィー粒子(POROS粒子)へのCy3-オリゴヌクレオチドの吸着によるものと考えられる。
【0081】
パフュージョンクロマトグラフィー粒子を選択することで、該粒子への吸着物を選ぶことができる。これにより,送液する液相中に有害物質(例えば、放射性物質)が含まれている場合、反応部の後段の送液促進部に存在するパフュージョンクロマトグラフィー粒子に吸着させることで、該デバイス内に前記有害物質を閉じ込め、デバイス廃棄時にいっしょに廃棄することができる。
【0082】
ビーズが充填された細管の送液は、ビーズの抵抗により20μL/min以上にすることが難しい。今回作製した流路系デバイスでその流量を調べたところ、送液促進部を設けた効果によって、10mL/minまで問題がなかった。したがって、パフュージョンクロマトグラフィー粒子を充填した送液促進部を流路系に設けることによって、流速を上昇させることができることを検証できた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、ハイブリダイゼーション検出技術として利用できる。より詳しくは、反応効率がよく、短時間でハイブリダイゼーション検出を実施できるハイブリダイゼーション検出技術として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明に係る流路系の好適な実施形態の一例を示す図である。
【図2】反応部(111)内に充填されているビーズ(2)の表面上の物質構成を模式的に示す図である。
【図3】ビーズ(2)に保持された状態のターゲット核酸(X)の一本鎖部分に対して、プローブ核酸(Y)がハイブリダイゼーションしている様子を模式的に示した図である。
【図4】本発明に係る流路系を用いたアッセイの工程例を示す図である。
【図5】本発明に係る流路系の第2実施形態を示す図である。
【図6】流路系(1a、1b)を用いるハイブリダイゼーション検出装置の検出部の好適な実施形態の一例を示す図である。
【図7】実施例2係わる実験の各工程での反応部(オリゴdTビーズ充填部)において測定された蛍光強度の測定結果を示す図面代用グラフである。
【図8】図7に示された蛍光強度のデータに基づいて、ハイブリッド形成による蛍光量をオリゴヌクレオチドに結合している蛍光物質Cy3の吸光度で補正した結果を示す図面代用グラフである。
【図9】実施例3に係わる実験の結果を示す図面代用グラフである。
【図10】図9の蛍光強度値をターゲット核酸の濃度に対してプロットした図面代用グラフである。
【図11】実施例4に係わる実験(流路系デバイスにおける「送液促進部」の蛍光観察実験)の結果を示す図面代用グラフである。
【符号の説明】
【0085】
1a,1b 流路系
2 ビーズ
3 検出部
11 細管
111 反応部
112 送液促進部
L リンカー
X ターゲット核酸
Y プローブ核酸
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリダイゼーション検出に係わる技術に関する。より詳しくは、流路系に設けられた所定の反応部においてハイブリダイゼーションを進行させて、これを検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロアレイ技術によって所定のDNAが微細配列された、いわゆるDNAチップ又はDNAマイクロアレイ(以下、本願では「DNAチップ」と総称。)と呼ばれるバイオアッセイ用の集積基板が開発され、遺伝子の変異解析、SNPs(一塩基多型)分析、遺伝子発現頻度解析、遺伝子ネットワーク解明等に利用されるようになり、さらには、創薬、臨床診断、薬理ジェノミクス、テーラーメイド医療、進化の研究、法医学その他の分野において、幅広い応用が期待されている。
【0003】
このDNAチップやタンパク質を集積したプロテインチップなどに代表されるようなセンサーチップ技術は、固層基板上に固定された検出用物質(プローブと称されることが多い。)とターゲット物質との間の特異的な相互作用を利用して、対象物の存在量を定量化する。
【0004】
DNAチップを例に挙げると、分析対象の遺伝子配列の一部をもつ一本鎖DNA断片を予め固定しておき、試料中に、そのDNA断片と相補的な配列をもつ遺伝子が存在すると、両者は特異的に結合し(即ちハイブリダイゼーション)、二本鎖DNAを形成する。この二本鎖DNAを蛍光標識法などで検出することで、その遺伝子が試料溶液中で発現しているかどうかを判定する。異なる遺伝子配列の一本鎖DNA断片を多数固定しておくことにより、一つの試料に対して、複数の遺伝子の発現解析を効率的に行い、あるいは、一つの遺伝子の発現解析に冗長性をもたせて解析の精度を上げることが可能である。
【0005】
最近では、DNAチップなどにおいて、流路やキャピラリーを利用する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、基板上に形成された流路中で相互作用分析を行うようにすることで、分析に要する液体検体の量を少量に抑えることができる技術が提案されている。また、特許文献2には、キャピラリーの周辺に光学的な検出手段を形成し、このキャピラリー自体を検出用のセルとして利用する技術が開示されている。特許文献3には、毛細管通路内で相互作用を進行させ、その流れ特性を検出する技術が開示されている。
【0006】
これらの先行技術は、本発明との関係では特に重要ではないが、物質間の相互作用の検出技術において、細い流路を用いる一般的技術を示すことを目的として掲げる。
【特許文献1】特開2005−030906号公報。
【特許文献2】特開平10−170427号公報。
【特許文献3】特開06−094722号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
基板上に反応場を形成し、この反応場内でオリゴヌクレオチドをプローブ核酸として用いる構成である既存のDNAチップなどのデバイス、あるいはハイブリダイゼーション検出システムでは、基板上に設けられた反応場の空間容積が比較的大きい。このため、自然のブラウン運動に委ねられながら進行するハイブリダイゼーションの効率が悪く、ハイブリダイゼーションに要する時間が長くなるという技術的課題あった。また、基板の汚れ等のために、繰り返し利用することが難しいという技術的課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、反応効率がよく、また繰り返しの利用が可能な新規ハイブリダイゼーション検出技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ビーズが充填された反応部を所定箇所に備える細管からなる流路系であって、充填された前記ビーズには、同種塩基配列を有するリンカーが固定されているとともに、該リンカーの同種塩基配列に相補結合したターゲット核酸が保持されている流路系、更には、この流路系が複数経路設けられているマルチ流路系を提供する。
【0010】
なお、本発明において、「塩基配列」とは、重合している2以上の塩基を意味し、「リンカー」とは、ビーズに対してターゲット核酸を保持するために利用される所定配列の核酸である。「ターゲット核酸」とは、流路系内の反応部へ送り込まれてくる溶液中に存在するプローブ核酸との間での相補鎖形成を確認するために反応部内に待ち受けている核酸であり、本発明では、前記リンカーを介してビーズに保持されている。
【0011】
この流路系に設けられた「反応部」は、例えば、前記ターゲット核酸の一本鎖部分と前記反応部に送り込まれてくるプローブ核酸との間のハイブリダイゼーションを進行させる場として機能する。
【0012】
なお、本発明において「プローブ核酸」とは、ハイブリダイゼーション検出に有用な情報を提供できる核酸であって、例えば、蛍光物質が標識された一本鎖核酸、あるいは放射性物質が標識された一本鎖核酸などを挙げることができ、前者では励起蛍光を検出し、後者では放射線を検出することによって、ハイブリダイゼーションを検出できる。
【0013】
前記リンカーの同種塩基配列は、例えば、ポリTであって、前記プローブ核酸は、例えば、このポリTに相補結合するポリAテール部分を有するmRNAである。このmRNAは、例えば、流路系へ注入された細胞を、該流路系の所定箇所で溶解することにより得られるmRNAである。なお、「ポリ」とは、塩基が2以上重合した塩基配列を有する核酸分子を意味し、「ポリT」とは塩基チミン(T)が2以上重合した塩基配列を有する核酸分子を意味する。「ポリAテール(poli(A)tail)」は、mRNAの3’末端に付加されているアデニル酸残基(ATPの鎖)である。
【0014】
また、前記プローブ核酸は、目的のハイブリダイゼーションを検出するための情報を提供できる機能を有する核酸であれば採用でき、一例を挙げれば、蛍光物質で標識されている核酸や放射性物質でラベルされた核酸である。
【0015】
また、本発明に係る流路系では、前記反応部の下流側領域に、送液の高速化に寄与する送液促進部を設けてもよい。この送液促進部は、例えば、パフュージョンクロマトグラフィー粒子が充填されている構成を採用できる。また、反応部とそれに続く送液促進部が、2以上繰り返した形態構成を採用することもできる。この送液促進部では、反応部を通過してきた物質、例えば、ハイブリダイゼーションに関与しなかったプローブ核酸や有害物質をトラップするようにしてもよい。
【0016】
次に、上記したような構成の流路系と、該流路系の反応部に存在する前記ターゲット核酸と該反応部に送り込まれてくるプローブ核酸との間のハイブリダイゼーションを検出する検出部と、を備えることを特徴とするハイブリダイゼーション検出装置を提供する。
【0017】
該検出装置の検出部としては、プローブ核酸から発せられる情報を捕捉できる構成の検出手段を有するものであれば、特に限定されない。例えば、前記プローブ核酸にラベルされた蛍光物質を励起させるための励起光照射部と、前記反応部から得られる励起蛍光を捕捉する光ディテクタ部と、を少なくとも備えるものを採用できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、流路系の狭小な空間においてハイブリダイゼーションを進行させる構成であるので、反応効率がよく、ハイブリダイゼーション検出の高速化を達成できる。反応部の後段に送液促進部を設けることで、送液の高速化を達成できる。また、反応部のビーズは、洗浄を行うことで繰り返し利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好適な形態について、添付図面を参照しながら説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる物や方法の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0020】
まず、図1は、本発明に係る流路系の好適な実施形態の一例を示す図である。
【0021】
この図1に符号1aで示す流路系は、大別して、サンプル溶液の流路となる口径500μm程度の細管11と、該細管11の一端に形成された導入部12と、該細管11の他端側に形成された排出部13と、から構成されている。なお、図1に示された矢印Wは、サンプル溶液の流れる方向を示している。
【0022】
この図示された流路系1aには、導入部12に近接する細管11部分の内部に微少粒径のビーズ2が多数充填されている構成である反応部111が、少なくとも設けられている。この反応部111は、ハイブリダイゼーションなどの所望の相互作用が進行する部分(領域)として機能する。
【0023】
図2は、反応部111内に充填されているビーズ2の表面上の物質構成を模式的に示す図である。
【0024】
ビーズ2は、ポリスチレンなどの材料で形成された微少なマイクロビーズであって、その表面は、ポリT配列を有するリンカーLの一末端を、化学的に結合させるのに好適な構成を備えている。
【0025】
このビーズ2は、該ビーズ2の表面に対して、例えば、アビジン-ビオチン結合やカップリング反応(例えば、ジアゾカップリング反応)などを介して結合されたオリゴ核酸であるリンカーLを備えている。そして、ビーズ2は、該リンカーLのポリT塩基配列部分に対し、ポリAセレクションプロセスに基づいてポリA部位が相補結合したターゲット核酸Xを保持している。なお、ターゲット核酸Xの好適例の一つは、ポリAテールを有するmRNAである。
【0026】
前記ターゲット核酸Xは、リンカーLを介してビーズ2に保持された状態で、反応部111において待ち受けており、該反応部111に送液されてくるサンプル溶液中の相補的なプローブ核酸Yとのハイブリダイゼーションを進行するという役割を果たす。
【0027】
図3は、ビーズ2に保持された状態のターゲット核酸Xの一本鎖部分に対して、プローブ核酸Yがハイブリダイゼーションし、二本鎖を形成している様子が模式的に示されている。
【0028】
この図3に示されているように、プローブ核酸Yには、予めハイブリダイゼーション検出に利用できる蛍光物質F、あるいは放射性物質(図示せず)などを標識(ラベル)しておくことで、該標識物質から得られる光情報や放射線情報を捕捉することによって、前記ハイブリダイゼーションを検出することが可能となる。
【0029】
このようなハイブリダイゼーションアッセイは、例えば、被験者の細胞から抽出されたmRNAを予めビーズ2に(リンカーLを介して)保持しておき、このmRNAに対して、公知の疾病発現原因遺伝子に係わる塩基配列を有するプローブ核酸Yがハイブリダイズするか否かを判定する目的の検査などに利用できる。
【0030】
以上のアッセイは、例えば、図4の工程図に示された方法に基づいて実施できる。具体的には、まず、流路系1を構成する細管11の所定位置に向けて、リンカーLが固定化されているビーズ2を充填し、カラム状の反応部111を形成する第一工程を行う(図4中の(1)工程)。
【0031】
次に、ビーズ2が充填されている反応部111に向けて、ターゲット核酸Xを含む第1サンプル溶液S1を送液し(図4中の(2)工程)、さらに、ビーズ2に固定化されたリンカーLのポリT配列部分に対して、前記ターゲット核酸XのポリA配列をハイブリダイゼーションさせる工程(ポリAセレクションプロセス、図4中の(3)工程)を行う。
【0032】
続いて、プローブ核酸Yを含有する第2サンプル溶液S2を反応部111へ向けて送液し(図4中の(4)工程)、所定温度、pH条件で所定時間、ターゲット核酸Xとプローブ核酸Yとの間のハイブリダイゼーションを進行させる(図4中の(5)工程)。そして、プローブ核酸Yから得られる情報(例えば、標識された蛍光物質からの励起蛍光情報)により、ハイブリダイゼーションを検出する。
【0033】
図5は、本発明に係る流路系の第2実施形態を示す図である。
【0034】
この図5に示された第2実施形態である流路系1bは、反応部111の下流側(即ち、排出部13側)に送液促進部112が設けられていることが特徴である。即ち、この流路系1bには、導入部12、反応部111、送液促進部112、排出部13が、上流側からこの順番で設けられている。
【0035】
この送液促進部112は、反応部111へ向けて送液されてくるサンプル溶液S1、S2や洗浄用のバッファー溶液などの送液速度を促進するための役割を担う部分であって、例えば、パフュージョンクロマトグラフィー粒子を充填することによって好適に形成することができる。
【0036】
このパフュージョンクロマトグラフィー粒子の典型的なものは、貫通孔(Through pore)と称される大きなポアと吸着孔(Diffusive pore)と称される小さなポアを持っている。これにより、バッファー溶液に溶け込んだ分子は、前記貫通孔を通りぬけ、吸着孔の隅々まで運ばれる。このため、分子と充填材表面の官能基との接触面積が大きくなり、バッファーの流れと官能基との距離は充填材の粒径に関係がなく非常に小さくなる(1μm以下)ので、高流速で、かつ低圧の送液を行うことができる。
【0037】
また、導入部12や排出部13の近傍の細管部分では、外部ポンプ等との接続のためのナットなどの諸部材が設けられることから、この部分に反応部111を設けると観察や測定が困難となる。しかし、送液促進部112を反応部111の下流側に設けることによって、検出・測定の対象となる反応部111が流路系1bの中央部近くに配置できるようになるので、検出が容易になるという利点が生まれる。
【0038】
さらには、パフュージョンクロマトグラフィー粒子の種類を選択することによって、余剰物質や有害物質(例えば、放射性物質)を吸着させてトラップし、外部へ排出されないようにできるので、流路系1bを廃棄する時に同時に廃棄することができるという利点が生まれる。
【0039】
以上で説明した流路系1a、あるいは1bを単独で使用してもより、多数本セットした構成のマルチ流路系(図示せず。)を採用してもよい。例えば、導入部12を共通にして、同一のサンプル溶液を同時に多数の流路系1a(1b)へ送液できるようにし、さらには、各流路系の反応部111には、異なる種類のターゲット核酸Xを保持させておくことによって、網羅的なハイブリダイゼーション検出を同時一斉に行うようにしてもよい。
【0040】
次に、図6は、流路系1aあるいは1bを用いるハイブリダイゼーション検出装置の検出部の好適な実施形態の一例を示す図である。
【0041】
図6に示された検出部3は、ハイブリダイゼーションを蛍光検出する場合の典型的な構成を備える。反応部111においてハイブリダイゼーションした状態で存在するプローブ核酸Yには、予め蛍光物質が標識されている。
【0042】
流路系1a(1b)の反応部111へ向けて、所定波長の蛍光励起光Pを図示しない光源から出射して平行光に途中変換し、反応部111の近傍に配置されたレンズ31によって反応部111へ向けて絞り込んで照射する。
【0043】
これにより、反応部111内で励起された蛍光fを、前記レンズ31で平行光に変換し、さらに後方に配置されたレンズ32で絞り込み、その後方に配置された光ディテクタ33で検出し、蛍光強度を測定する。なお、本発明に係わる検出部は、この蛍光検出手段に限定されず、プローブ核酸Yが提供する情報種に応じて、これを検出できる構成を採用すればよい。
【実施例1】
【0044】
<流路系デバイスの作製に係わる実施例>。
まず、流路系を構成する細管として、内径0.53mm、外径0.68mm、長さ6cmのフューズド・シリカ・キャピラリー・チューブ(ジーエルサイエンス社製)を用意した。
【0045】
そして、送液の下流側端部に、孔径1μmのフィルタをセットした排出部、上流側にはフィルタをセットしない導入部を、それぞれチュービングスリーブ、フェラル、ナットを用いて取り付けた。また、上流側の導入部には、レオダイン型シリンジに対応するフィルポートを取り付け、下流側の排出部にはルアー・ロック・ニードルを取り付けた。
【0046】
<パフュージョンクロマトグラフィー粒子の調整>。
パフュージョンクロマトグラフィー粒子として、POROS 20 R1(アプライド・バイオシステムズ社製)を用いた。これを10%エタノール溶液に分散させて、粒子分散溶液(以下、「POROS溶液」)を調製した。
【0047】
<オリゴヌクレオチド結合マイクロビーズの調製>。
次に、Streptavidin Coated Microsphere plain(Polysciences)の水溶液に、5'末端にビオチンを修飾したデオキシチミジンのオリゴヌクレオチド(21mer)を加えて、アビジン−ビオチン結合によりオリゴdTが固定されたビーズ(以下、「オリゴdTビーズ」)を調製した。
【0048】
<カラム(溶液促進部と反応部)の形成>。
流路系デバイスの排出部のルアー・ロック・ニードルにシリンジを取り付けた。POROS溶液を吸い込んだレオダイン型シリンジを、導入部のフィルポートに取り付け、ルアー・ロック・ニードルに取り付けた前記シリンジを吸引し、前記チューブ内に、パフュージョンクロマトグラフィー粒子である「POROS粒子」を注入した。
【0049】
続いて、上記手順で調整した「オリゴdT結合ビーズ」を同様の方法で、チューブ内へ注入した。これにより、送液促進部(パフュージョンクロマトグラフィー粒子充填部)と反応部(オリゴdTビーズ充填部)の二段カラム構造を備える、図5同様の流路系デバイスを形成した。
【0050】
次に、この流路系デバイスからルアー・ロック・ニードルとフィルポートを取り外し、蛍光顕微鏡のステージであるヒートプレート上に固定した。フェラルとナットを両側に取り付け、導入部と連結できる細管、片側のみフェラルとナットを取り付けた細管、シリンジ・ポンプ、排液瓶を用意した。
【0051】
次に、両側にフェラルとナットを持つ細管を準備し、前記流路系デバイスの上流側の導入部に取り付けた。この細管の反対側のフェラルとナットをルアー・ロック・ニードルに取り付け、シリンジ・ポンプにセットされるシリンジと接続した。流路系デバイスの下流側には、片側のみフェラルとナットを取り付けた細管を取り付け、この細管の反対側は排液瓶に導入した。
【実施例2】
【0052】
<オリゴヌクレオチド溶液の調製>。
まず、ターゲット核酸として、5'末端に蛍光色素Cy3を標識した21mer デオキシグアノシンに21merデオキシアデノシンを連結した計42merのオリゴヌクレオチド(以下「Cy3-oligo dG+oligo-dA」と表す)用意した(表1参照)。
【0053】
【表1】
【0054】
次に、プローブ核酸として、5'末端に蛍光色素Cy3を標識した21-merオリゴデオキシグアノシン(Cy3-oligo dG)と、これと同様に標識した21-merオリゴデオキシシチジン(Cy3-oligo dC)のオリゴヌクレオチドの2種類を用意した(表2参照)。
【0055】
【表2】
【0056】
用意された各オリゴヌクレオチドは、0.5M塩化ナトリウム水溶液中5μM濃度に溶解した。なお、塩化ナトリウム0.5Mの条件では、オリゴヌクレオチド同士のハイブリッド形成が生じることが知られている(真壁和裕「バイオ実験イラストレイテッド 4 苦労なしのクローニング」第1章、第2節(秀潤社, 1997,東京))。
【0057】
<実験手順と結果>。
本実験は、上記の通りの方法で作製した流路系デバイスを用いて行った。この流路系デバイスの温度制御は、ヒートプレートを用いて行った。流路系へ送り込まれる各オリゴヌクレオチド溶液の送液量は、200μLで送液速度は50μ/minとした。ハイブリダイゼーション確認のためのCy3の蛍光観察は、蛍光顕微鏡に接続された顕微分光システム(大塚電子社製)で行った。
【0058】
本実験の各工程での反応部(オリゴdTビーズ充填部)において測定された蛍光強度の測定結果を図7に示した。なお、この図7中では、横軸には工程を順番に示し、縦軸には各工程を実施した直後の蛍光強度値を示している。
【0059】
まず、本実験では、上記プローブ核酸(表1参照)をデバイスへ送液する前に、0.5M塩化ナトリウム水溶液でカラムのコンディショニングを37℃の温度条件で行った(図7の1(Wash NaCl 37)の棒グラフ参照)。なお、このときの送液量は800μLであった。この段階では、蛍光強度はほとんど測定されなかった。
【0060】
次に、42merのターゲット核酸である「Cy3-oligo dG + oligo-dA」(表1参照)をデバイス中へ200μL送液した(温度条件37℃)。この時の蛍光強度は、図7中の2(PolyG-PolyA 37)の棒グラフに示すように、蛍光強度が0.2を超える程度に上昇した。
【0061】
その後、37℃の温度条件に保ち、洗浄のために800μLの0.5M塩化ナトリウム水溶液を送液した(図7の3(Wash NaCl 37)の棒グラフ参照)。このとき、蛍光強度は低下したものの0.1強の値を示したことから、ビーズに固定されたオリゴdT(リンカー)とプローブ核酸との間のポリAセレクションを確認できた。即ち、ビーズに固定されたオリゴdTとターゲット核酸の3'側のoligo-dAとの間でのハイブリダイズを確認した。
【0062】
次に、第1プローブ核酸であるCy3-oligo dG(表2参照)を含有するサンプル溶液を200μL送液してみたところ(温度条件37℃)、蛍光強度が0.17程度に上昇した(図7の4(PolyG 37)の棒グラフ参照)。
【0063】
しかし、次に、温度条件を37℃に保って、800μLの0.5M塩化ナトリウム水溶液を洗浄のために送液したところ、蛍光強度は低下した(図7の5(Wash NaCl 37)の棒グラフ参照)。この時の蛍光強度は、ターゲット核酸(表1参照)を送液した後の最初の洗浄工程後の蛍光強度と同等であった(図7参照)。これは、第1プローブ核酸Cy3-oligo dGを含有するサンプル溶液を送液した後の蛍光強度の上昇は、完全なハイブリッド形成によってもたらされたものではなく、非特異的な吸着が発生したことが原因と考えられた。
【0064】
次に、用意した第2プローブ核酸であるCy3-oligo dCを含有するサンプル溶液を、温度条件37℃でデバイス中へ200μL送液した。このとき、再び蛍光強度は0.25を超える程度に上昇し、先の第1プローブ核酸Cy3-oligo dGを送液した場合よりも高い値を示した(図7の6(polyC37)の棒グラフ参照)。
【0065】
続いて、温度条件を37℃に保ち、洗浄のため800μLの0.5M塩化ナトリウム水溶液を送液したところ、蛍光強度は低下した(図7の7(Wash NaCl 37)の棒グラフ参照)。しかし、二回目の洗浄後の蛍光強度(図7の5の棒グラフを比較参照)よりも高かったことから、第2プローブ核酸Cy3-oligo dCが、反応部(オリゴdTビーズ充填部)に依然として残っていることが明らかであった。
【0066】
念のため、真壁和裕「バイオ実験イラストレイテッド4 苦労なしのクローニング」第1章,第2節(秀潤社, 1997,東京)に準拠し、ビーズへの非特異的吸着の排除に効果があると言われる0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む0.5 M 塩化ナトリウム水溶液800μLを用いた洗浄を、温度条件37℃で行った(図7の8(Wash SDS 37)の棒グラフ参照)。
【0067】
このときの蛍光強度に殆ど変化なかった。したがって、蛍光強度の増加は、ビーズのオリゴdTとポリA部分(oligo dA部分)で相補結合している状態のターゲット核酸の一本鎖ポリG部分(oligodG部分)と第2プローブ核酸であるCy3-oligo dCとが、相補的なG-C結合を形成してハイブリダイズしたことによるものと考えられた。即ち、オリゴdTビーズ上に保持されたターゲット核酸(表1参照)と第2プローブ核酸(表2参照)との間のハイブリダイゼーションを確認した。
【0068】
次に、温度条件を37℃に保ちつつ、純水800μLを送液したところ、蛍光強度が激減した(図7の9(Wash Water 37)の棒グラフ参照)。これは、塩濃度の低下によりハイブリッドが1本鎖に分離し、蛍光物質Cy3で標識されたオリゴヌクレオチドが送液によって廃液されたためと考えられる。
【0069】
更に、温度条件を65℃に昇温して純水800μLを送液したところ、蛍光強度は最初の洗浄工程のレベルまで低下した(図7の10(Wash Water 65)の棒グラフ参照)。これは、その後37℃に温度を低下させ、純水800μLを送液しても変わらなかった(図7の11(Wash Water 37)の棒グラフ参照)。これは、二本鎖が完全に1本鎖に解離し、廃液されたからと考えられる。
【0070】
以上の実験の結果から、相補的なオリゴヌクレオチドのみが流路系内でハイブリッド形成を生じることを確認した。即ち、ポリAセレクションによりオリドdTビーズに保持されたターゲット核酸の一本鎖部分が、この一本鎖部分と相補的な塩基配列を有するプローブ核酸とハイブリダイゼーションをすることを確認できた。
【0071】
図7に示された蛍光強度のデータに基づいて、ハイブリッド形成による蛍光量をオリゴヌクレオチドに結合している蛍光物質Cy3の吸光度で補正した結果を図8に示した。
【0072】
この図8に示された結果から、ターゲット核酸とプローブ核酸との間のハイブリダイゼーションによる補正後蛍光値(図8のpolyCで示す棒グラフ参照)は、約0.02である。一方、ポリAセレクションによるリンカー(ビーズに固定されたオリゴdT)とターゲット核酸との間のハイブリダイゼーションによる補正後蛍光値(図8のPolyG-PolyAで示す棒グラフ参照)は、約1.0である。したがって、ターゲット核酸とプローブ核酸との間のハイブリダイゼーションは、ポリAセレクションによるハイブリダイゼーションの2割程度であることが分かった。
【実施例3】
【0073】
実施例1で作製した流路系デバイスを用いて、ターゲット核酸である「42mer Cy3-oligo dG +oligodA」(表1参照)の濃度を、20μM、2μM、0.2μM、0.02μMの計4段階に変化させて、オリゴdTビーズ上のポリAセレクションによるターゲット核酸の捕捉感度を検証した。
【0074】
反応部カラムのコンディショニングは、0.5M塩化ナトリウム水溶液(温度37℃)を、800μLを送液することにより行った。前記プローブ核酸の送液量は200μLとした。洗浄は、0.1%SDSを含む0.5M塩化ナトリウム水溶液(温度37℃)を、800μLを送液することにより行った。更に、反応部カラムに残るプローブ核酸を除く工程では、温度65℃条件の純水を800μL送液することにより行った。
【0075】
本実験の結果を図9に示した。図9中の横軸の「C」はコンディショニング,「Wash」は洗浄,「Ext」は65度Cでの純水送液をそれぞれ示している。濃度はターゲット核酸(Cy3-oligo dG + oligo dA)の濃度を示している。
【0076】
この図9に示された結果に示すように、洗浄後の蛍光強度をみたところ、ターゲット核酸(Cy3-oligo dG + oligodA)の濃度に応じて変化することが確認できた。また、本実験で作成したオリゴdTビーズの繰り返し利用が可能であることも分かった。
【0077】
図10は、図9の蛍光強度値をターゲット核酸の濃度に対してプロットした図面代用グラフである。
【0078】
この図10に示したように、測定したターゲット核酸の濃度範囲で蛍光強度が片対数でリニアに変化した。これに対して、図8に示したように、ターゲット核酸に対してプローブ核酸がハイブリダイズすることを考えると、プローブ核酸の蛍光強度はターゲット核酸の濃度に応じて変化するので、プローブ核酸の蛍光強度からターゲット核酸を定量できることも分かった。
【実施例4】
【0079】
本実験中に、流路系デバイスにおける「送液促進部」の蛍光観察を行った。
【0080】
その結果、実験の工程で蛍光が増大した。その結果を図11に示した。図11には、本実験前(Pre)と本実験後(Post)の蛍光強度が棒グラフで示されている。これは、パフュージョンクロマトグラフィー粒子(POROS粒子)へのCy3-オリゴヌクレオチドの吸着によるものと考えられる。
【0081】
パフュージョンクロマトグラフィー粒子を選択することで、該粒子への吸着物を選ぶことができる。これにより,送液する液相中に有害物質(例えば、放射性物質)が含まれている場合、反応部の後段の送液促進部に存在するパフュージョンクロマトグラフィー粒子に吸着させることで、該デバイス内に前記有害物質を閉じ込め、デバイス廃棄時にいっしょに廃棄することができる。
【0082】
ビーズが充填された細管の送液は、ビーズの抵抗により20μL/min以上にすることが難しい。今回作製した流路系デバイスでその流量を調べたところ、送液促進部を設けた効果によって、10mL/minまで問題がなかった。したがって、パフュージョンクロマトグラフィー粒子を充填した送液促進部を流路系に設けることによって、流速を上昇させることができることを検証できた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、ハイブリダイゼーション検出技術として利用できる。より詳しくは、反応効率がよく、短時間でハイブリダイゼーション検出を実施できるハイブリダイゼーション検出技術として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明に係る流路系の好適な実施形態の一例を示す図である。
【図2】反応部(111)内に充填されているビーズ(2)の表面上の物質構成を模式的に示す図である。
【図3】ビーズ(2)に保持された状態のターゲット核酸(X)の一本鎖部分に対して、プローブ核酸(Y)がハイブリダイゼーションしている様子を模式的に示した図である。
【図4】本発明に係る流路系を用いたアッセイの工程例を示す図である。
【図5】本発明に係る流路系の第2実施形態を示す図である。
【図6】流路系(1a、1b)を用いるハイブリダイゼーション検出装置の検出部の好適な実施形態の一例を示す図である。
【図7】実施例2係わる実験の各工程での反応部(オリゴdTビーズ充填部)において測定された蛍光強度の測定結果を示す図面代用グラフである。
【図8】図7に示された蛍光強度のデータに基づいて、ハイブリッド形成による蛍光量をオリゴヌクレオチドに結合している蛍光物質Cy3の吸光度で補正した結果を示す図面代用グラフである。
【図9】実施例3に係わる実験の結果を示す図面代用グラフである。
【図10】図9の蛍光強度値をターゲット核酸の濃度に対してプロットした図面代用グラフである。
【図11】実施例4に係わる実験(流路系デバイスにおける「送液促進部」の蛍光観察実験)の結果を示す図面代用グラフである。
【符号の説明】
【0085】
1a,1b 流路系
2 ビーズ
3 検出部
11 細管
111 反応部
112 送液促進部
L リンカー
X ターゲット核酸
Y プローブ核酸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーズが充填された反応部を所定箇所に備える細管からなる流路系であって、前記ビーズには、同種塩基配列を有するリンカーが固定されているとともに、該リンカーの同種塩基配列に相補結合したターゲット核酸が保持されている流路系。
【請求項2】
前記反応部では、前記ターゲット核酸の一本鎖部分と前記反応部に送り込まれてくるプローブ核酸との間のハイブリダイゼーションを進行させることを特徴とする請求項1記載の流路系。
【請求項3】
前記リンカーの同種塩基配列はポリTであり、前記ターゲット核酸はポリAテール部分を有するmRNAであることを特徴とする請求項1記載の流路系。
【請求項4】
前記mRNAは、流路系へ注入された細胞を、該流路系の所定箇所で溶解することにより得られるmRNAであることを特徴とする請求項3記載の流路系。
【請求項5】
前記プローブ核酸は、蛍光物質で標識されていることを特徴とする請求項1記載の流路系。
【請求項6】
前記反応部の下流側領域に、送液の高速化に寄与する送液促進部が設けられたことを特徴とする請求項1記載の流路系。
【請求項7】
前記送液促進部には、パフュージョンクロマトグラフィー粒子が充填されていることを特徴とする請求項1記載の流路系。
【請求項8】
前記反応部とそれに続く前記送液促進部が、2以上繰り返して設けられていることを特徴とする請求項6に記載の流路系。
【請求項9】
ハイブリダイゼーションに関与しなかった前記プローブ核酸を、前記送液促進部でトラップすることを特徴とする請求項6記載の流路系。
【請求項10】
請求項1記載の流路系が、複数経路設けられていることを特徴とするマルチ流路系。
【請求項11】
請求項1記載の流路系と、
該流路系の反応部に存在する前記ターゲット核酸と、該反応部に送り込まれてくるプローブ核酸との間のハイブリダイゼーションを検出する検出部と、
を備えることを特徴とするハイブリダイゼーション検出装置。
【請求項12】
前記検出部は、前記プローブ核酸にラベルされた蛍光物質を励起させるための励起光照射部と、前記反応部から得られる励起蛍光を捕捉する光ディテクタ部と、を少なくとも備えることを特徴とする請求項11記載のハイブリダイゼーション検出装置。
【請求項1】
ビーズが充填された反応部を所定箇所に備える細管からなる流路系であって、前記ビーズには、同種塩基配列を有するリンカーが固定されているとともに、該リンカーの同種塩基配列に相補結合したターゲット核酸が保持されている流路系。
【請求項2】
前記反応部では、前記ターゲット核酸の一本鎖部分と前記反応部に送り込まれてくるプローブ核酸との間のハイブリダイゼーションを進行させることを特徴とする請求項1記載の流路系。
【請求項3】
前記リンカーの同種塩基配列はポリTであり、前記ターゲット核酸はポリAテール部分を有するmRNAであることを特徴とする請求項1記載の流路系。
【請求項4】
前記mRNAは、流路系へ注入された細胞を、該流路系の所定箇所で溶解することにより得られるmRNAであることを特徴とする請求項3記載の流路系。
【請求項5】
前記プローブ核酸は、蛍光物質で標識されていることを特徴とする請求項1記載の流路系。
【請求項6】
前記反応部の下流側領域に、送液の高速化に寄与する送液促進部が設けられたことを特徴とする請求項1記載の流路系。
【請求項7】
前記送液促進部には、パフュージョンクロマトグラフィー粒子が充填されていることを特徴とする請求項1記載の流路系。
【請求項8】
前記反応部とそれに続く前記送液促進部が、2以上繰り返して設けられていることを特徴とする請求項6に記載の流路系。
【請求項9】
ハイブリダイゼーションに関与しなかった前記プローブ核酸を、前記送液促進部でトラップすることを特徴とする請求項6記載の流路系。
【請求項10】
請求項1記載の流路系が、複数経路設けられていることを特徴とするマルチ流路系。
【請求項11】
請求項1記載の流路系と、
該流路系の反応部に存在する前記ターゲット核酸と、該反応部に送り込まれてくるプローブ核酸との間のハイブリダイゼーションを検出する検出部と、
を備えることを特徴とするハイブリダイゼーション検出装置。
【請求項12】
前記検出部は、前記プローブ核酸にラベルされた蛍光物質を励起させるための励起光照射部と、前記反応部から得られる励起蛍光を捕捉する光ディテクタ部と、を少なくとも備えることを特徴とする請求項11記載のハイブリダイゼーション検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−266692(P2006−266692A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81033(P2005−81033)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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