説明

ハイブリッド作業機械

【課題】蓄電器の過放電を防止しながら、通常作業時の作業の安定性を確保する。
【解決手段】発電電動機10と油圧ポンプ11とをエンジン9に接続し、発電電動機10の発電機作用によって蓄電器18に充電するとともに、この蓄電器18の放電作用により発電電動機10に電動機作用を行わせて油圧ポンプの駆動をアシストするように構成されたハイブリッドショベルにおいて、充電は行われずに放電のみが行われる走行操作が設定時間継続して行われ、かつ、蓄電器SOCの検出値が、過放電に至る値として予め設定された基準値以下となったときに、この基準値と検出値の差に応じてポンプ流量を減少側に調整する調整制御を行うように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンと蓄電器とを動力源として併用するハイブリッド作業機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
ショベルは、図5に示すようにクローラ式の下部走行体1上に上部旋回体2を縦軸Oまわりに旋回自在に搭載し、この上部旋回体2に作業アタッチメントAを装着して構成される。
【0004】
この作業アタッチメントAは、起伏自在なブーム3と、このブーム3の先端に取付けられたアーム4と、このアーム4の先端に取付けられたバケット5と、これらを駆動する油圧アクチュエータであるブーム、アーム、バケット各シリンダ6,7,8とによって構成される。
【0005】
また、別の油圧アクチュエータとして、下部走行体1の左右のクローラを駆動する走行モータ、及び上部旋回体2を旋回駆動する旋回モータ(いずれも図示しない)が設けられる。
【0006】
一方、ハイブリッドショベルは、油圧アクチュエータを駆動する油圧ポンプと、発電機作用と電動機作用とを行う発電電動機とがエンジンに接続され、発電電動機の発電機作用によって蓄電器が充電されるとともに、この蓄電器の放電力により発電電動機が電動機作用を行って油圧ポンプの駆動をアシストするように構成される。
【0007】
すなわち、油圧アクチュエータを駆動するのに必要な動力が小さいときは余剰動力を電気エネルギーとして蓄電器に蓄え(充電し)、必要動力が大きいときに蓄電力を放出(放電)してエンジンをアシストし、燃費を良くする。
【0008】
このハイブリッドシステムにおいて、蓄電器の過放電を防止する技術として、蓄電器の充電状態であるSOC(State Of Charge)を検出し、このSOC値の低下時にポンプ流量を減少させる技術が公知である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−247230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ショベルにおいては、通常作業として掘削→旋回→排土という一連の作業を行い、この通常作業の中で蓄電器の充電と放電が繰り返されることによって、最終的に蓄電器SOCが適正範囲に保たれる。
【0011】
いいかえれば、通常作業中に一時的にSOCが低下しても、その後の充電によってSOCが回復する。
【0012】
ところが、上記公知技術によると、SOCが低下すればポンプ流量を減少させる制御が常時行われるため、SOC低下の都度、出力制限(ポンプ流量の調整)が行われる。
【0013】
この結果、通常作業中に油圧アクチュエータの速度(作業スピード)とトルク(作業能力)が頻繁に変化するため、安定した作業が行えないという弊害が生じる。
【0014】
一方、蓄電器の過放電は、走行時(とくに登坂走行時)のように充電は行われずに放電のみが行われる放電側操作が一定時間以上、継続した場合に起こり易く、この放電側継続操作時にこそ出力制限を加える必要性が高い。
【0015】
そこで本発明は、蓄電器の過放電を防止しながら、通常作業時の作業の安定性を確保することができるハイブリッド作業機械を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、油圧アクチュエータを駆動する油圧ポンプと、発電機作用と電動機作用を行う発電電動機とがエンジンに接続され、上記発電電動機の発電機作用によって蓄電器が充電されるとともに、この蓄電器の放電作用により上記発電電動機が電動機作用を行って油圧ポンプの駆動をアシストするように構成され、かつ、上記油圧ポンプが吐出する流量であるポンプ流量を制御するポンプレギュレータと、上記油圧ポンプの吐出圧力であるポンプ圧に応じたポンプ流量を上記ポンプレギュレータに指令する制御手段とを備えたハイブリッド作業機械において、上記蓄電器の充電状態であるSOC値を検出するSOC検出手段と、上記油圧アクチュエータを操作する操作手段と、この操作手段の操作を検出する操作検出手段とを設け、上記制御手段は、上記蓄電器の充電は行われずに放電のみが行われる放電側操作が予め設定された時間継続する放電側継続操作が行われ、かつ、上記SOC検出手段によって検出される蓄電器SOCの値が、蓄電器の過放電に至る値として予め設定された基準値以下になったときに、この基準値と上記検出値の差に応じて上記ポンプ流量を減少側に調整する調整制御を行うように構成したものである。
【0017】
この場合、下部走行体を備え、この下部走行体が上記油圧ポンプを油圧源とする走行モータによって駆動されるハイブリッド作業機械において、走行操作が設定時間継続する操作を放電側継続操作として上記調整制御を行うように構成するのが望ましい(請求項2)。
【0018】
上記構成によれば、走行操作(請求項2)のような放電側操作が設定時間継続して行われ、かつ、蓄電器SOCが基準値以下になったときのみに、ポンプ流量を減少側に調整する調整制御を行うため、いいかかえれば、充放電が繰り返される通常作業時には調整制御は行わないため、通常作業時にアクチュエータのスピードと能力を保った安定した作業を行うことができる。
【0019】
一方、放電側継続操作が行われ、かつ、これによって蓄電器SOCが基準値以下に低下して過放電の危険が生じたときには、調整制御によって放電を抑えるため、急に過放電状態となって作業のスピードや能力が急激にダウンする事態を回避することができる。
【0020】
この場合、蓄電器SOCの基準値以下の低下と、設定時間の継続操作とを条件としているため、SOCが基準値を超える間は放電側継続操作であってもフル出力での作業を確保できるとともに、二つの条件が揃った後はSOCの低下に応じてスピード、能力が徐々にダウンすることでオペレータにSOCの低下を知らせ、過放電回避手段をとることを促すことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、蓄電器の過放電を防止しながら、通常作業時の作業の安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態にかかるハイブリッドショベルのシステム構成図である。
【図2】実施形態での制御内容を説明するためのフローチャートである。
【図3】実施形態による制御結果としてのポンプ圧力/ポンプ流量の関係を示す図である。
【図4】蓄電器の放電特性を示す図である。
【図5】ショベルの概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態を図1〜図4によって説明する。実施形態はハイブリッドショベルを適用対象としている。
【0024】
図1はこのハイブリッドショベルにおける制御システム全体のブロック構成を示し、油圧系を実線、電気系を破線でそれぞれ表している。
【0025】
エンジン9に、発電機作用と電動機作用とを行う発電電動機10と油圧ポンプ11とが接続される。
【0026】
なお、図ではエンジン9、発電電動機10、油圧ポンプ11が同軸上で接続された場合を示すが、本発明は、エンジン9に対しパワーデバイダを介して発電電動機10と油圧ポンプ11をパラレルに接続した場合にも以下同様に実施することができる。
【0027】
油圧ポンプ11は、制御手段としてのコントローラ12で制御されるポンプレギュレータ13により傾転が変化して吐出量(ポンプ流量)が変化する可変容量ポンプとして構成され、この油圧ポンプ11からの圧油がコントロールバルブ(方向切換弁)14を介して複数の油圧アクチュエータ(図5中のブーム、アーム、バケット各シリンダ6〜8や走行モータ等)に供給される。
【0028】
実施形態は、放電側操作の代表例が走行操作であることから、油圧アクチュエータ回路として走行モータ15の駆動回路のみを図示し、かつ、これを制御の対象としている。
【0029】
なお、走行モータ15は、左右のクローラに対応して左用と右用に二つ設けられ、油圧ポンプ11も左右別々に設けられるが、制御の内容は同一であるため、図では一つずつ示している。
【0030】
ポンプレギュレータ13は、コントローラ12からの電気信号によって直接作動するものを用いてもよいし、コントローラ12からの信号で電磁弁を作動させ、この電磁弁からの油圧によってレギュレータ作動するものを用いてもよい。
【0031】
16は走行操作手段としてのリモコン弁で、このリモコン弁16の操作量に応じたパイロット圧によってコントロールバルブ14が作動し、走行モータ15に対する圧油の給排(油圧アクチュエータの動作方向と速度)が制御される。
【0032】
発電電動機10は、インバータ17を介して蓄電器((キャパシタ、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池等の二次電池)18に接続されている。
【0033】
インバータ17は、発電電動機10の発電機作用と電動機作用の切換え、発電機、電動機としての電流またはトルクを制御するとともに、蓄電器18の充・放電を制御する。
【0034】
一方、検出手段として、リモコン弁16から出力されるパイロット圧(走行操作)を検出する操作検出手段としてのパイロット圧センサ19と、ポンプ圧に応じてポンプ流量を制御(馬力制御)するためにポンプ圧を検出するポンプ圧検出手段としてのポンプ圧センサ20とが設けられている。
【0035】
コントローラ12は、この両センサ19,20からの信号に基づいて、走行操作が行われたか、この走行操作が予め設定された時間継続して行われたかを判断するとともに、蓄電器18の電圧、電流等から算出される蓄電器SOC値が、蓄電器の過放電に至る値として予め設定された基準値以下になったか否かを判断し、この判断に基づいたポンプ流量をポンプレギュレータ13に指令する。
【0036】
コントローラ12の制御内容を含めたこのハイブリッドショベルの作用を図2のフローチャートを用いて説明する。
【0037】
制御開始後、図2のステップS1で走行操作が設定時間継続して行われたか否かを判断し、NO、つまり走行操作が無い場合や、有っても設定時間継続しなかった場合は、通常指令としてステップS2でポンプ圧に応じたポンプ流量をポンプレギュレータ13に指令する。
【0038】
図3はポンプ圧とポンプ流量の関係を示し、ステップS1でNOとなった通常指令の場合は、特性Iに従ってポンプ流量を求め、これをポンプレギュレータ13に指令する。
【0039】
詳しくは、ポンプ流量はポンプ回転数とポンプ傾転の積で求められるため、ポンプ圧に対応するポンプ流量を得るためのポンプ傾転をポンプレギュレータ13に指令する。
【0040】
なお、図3中の特性Iは、ポンプ出力(ポンプ圧力×ポンプ流量)が、エンジン動力と、蓄電器動力(正確には蓄電器18で駆動される発電電動機10のアシスト力)の和である機械の総供給動力を超えないように設定される。
【0041】
ステップS1でYESの場合、つまり走行操作が設定時間継続して行われた場合は、ステップS3に移行し、そのときの蓄電器SOCの検出値Erが基準値Esと比較される。
【0042】
なお、蓄電器18の時間Tsの間でのエネルギー変化量ΔEは、電流Iと電圧Vとから、
ΔE=〔Σ(I×V×Ts〕/3600
によって算出(積算)される。
【0043】
そして、電流の充電方向をプラスとして、定格充電量αに上記ΔEを加算した値の、定格充電量αに対する比率を%で表したものが蓄電器SOCである。
【0044】
すなわち、
SOC=(α+ΔE)/α×100
となる。
【0045】
ステップS3でNO、つまりSOC検出値Erが基準値Esを超えていれば、蓄電器18の過放電の危険がないとしてステップS2で通常指令を出す。
【0046】
これに対しYES、つまり検出値Erが基準値Es以下に低下した場合は、ステップS4において図3中の特性IIに基づいた調整流量を求める。
【0047】
特性IIは、特性Iに基づく本来のポンプ流量から、SOC値の差(Es−Er)にゲインKを乗じた流量分を減じた流量の特性であり、この調整流量がポンプレギュレータ13に指令される。
【0048】
これにより、ポンプ流量が減少して走行出力が減少し、蓄電器18の放電が抑えられる。
【0049】
図4は二次電池(蓄電器)の放電特性を示し、一定電流出力状態で、放電に応じた電圧変化ΔV及び出力変化は少なく、長時間に亘ってフル放電が可能となる半面、過放電になると急激に電圧、出力がダウンする。この特性は高出力、大容量のものほど顕著となる。
【0050】
上記設定時間は、この放電特性に基づいて、電圧、出力が急激にダウンするよりも十分前の時点で上記調整制御が開始されるように設定される。
【0051】
このハイブリッドショベルによると、上記のように充電はされずに放電のみが行われる放電側操作である走行操作が設定時間継続して行われ、かつ、蓄電器SOCの検出値Erが基準値Es以下になったときのみに、ポンプ流量を減少側に調整する調整制御を行う。
【0052】
いいかかえれば、充放電が繰り返される通常作業時には調整制御は行わないため、通常作業時にアクチュエータのスピードと能力を保った安定した作業を行うことができる。
【0053】
一方、走行操作が設定時間継続して行われ、かつ、これによって蓄電器SOCの検出値Erが基準値Es以下に低下して過放電の危険が生じたときには、ポンプ流量を減少側に調整する調整制御によって放電を抑えるため、急に過放電状態となってスピードダウンや能力が急激にダウンする事態を回避することができる。
【0054】
この場合、蓄電器SOCの検出値Erが基準値Ea以下に低下したことと、設定時間の継続操作とを条件としているため、SOCが基準値を超える間はフル出力での作業を確保できるとともに、二つの条件が揃った後はSOCの低下に応じてスピード、能力が徐々にダウンすることでオペレータにSOCの低下を知らせ、過放電回避手段をとることを促すことができる。
【0055】
他の実施形態
(1) 蓄電器の過放電は、とくに登坂走行時に起こり易いため、車体の傾き等から登坂走行時であることを検出し、この登坂走行時に限り、設定時間継続とSOC低下を条件として上記調整制御を行うようにしてもよい。
【0056】
(2) 本発明はショベルに限らず、ショベルと同じベースマシンに異なるアタッチメントを取付けて構成される他の作業機械(解体機や破砕機)等にも適用することができる。
【0057】
この場合、走行と同様の放電側操作が行われる機械にあってはその操作を監視して調整制御を行う構成をとってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 下部走行体
2 上部旋回体
9 エンジン
10 発電電動機
11 油圧ポンプ
12 SOC検出手段を兼ねる制御手段としてのコントローラ
13 ポンプレギュレータ
14 コントロールバルブ
15 走行モータ
16 操作手段としてのリモコン弁
17 インバータ
18 蓄電器
19 操作手段としてのパイロット圧センサ
20 ポンプ圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧アクチュエータを駆動する油圧ポンプと、発電機作用と電動機作用を行う発電電動機とがエンジンに接続され、上記発電電動機の発電機作用によって蓄電器が充電されるとともに、この蓄電器の放電作用により上記発電電動機が電動機作用を行って油圧ポンプの駆動をアシストするように構成され、かつ、上記油圧ポンプが吐出する流量であるポンプ流量を制御するポンプレギュレータと、上記油圧ポンプの吐出圧力であるポンプ圧に応じたポンプ流量を上記ポンプレギュレータに指令する制御手段とを備えたハイブリッド作業機械において、上記蓄電器の充電状態であるSOC値を検出するSOC検出手段と、上記油圧アクチュエータを操作する操作手段と、この操作手段の操作を検出する操作検出手段とを設け、上記制御手段は、上記蓄電器の充電は行われずに放電のみが行われる放電側操作が予め設定された時間継続する放電側継続操作が行われ、かつ、上記SOC検出手段によって検出される蓄電器SOCの値が、蓄電器の過放電に至る値として予め設定された基準値以下になったときに、この基準値と上記検出値の差に応じて上記ポンプ流量を減少側に調整する調整制御を行うように構成したことを特徴とするハイブリッド作業機械。
【請求項2】
下部走行体を備え、この下部走行体が上記油圧ポンプを油圧源とする走行モータによって駆動されるハイブリッド作業機械において、上記制御手段は、走行操作が設定時間継続する操作を放電側継続操作として上記調整制御を行うように構成したことを特徴とする請求項1記載のハイブリッド作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−233312(P2012−233312A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100811(P2011−100811)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】