説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】非走行レンジから走行レンジへの切替があった場合に、車両を速やかに発進させるとともに、変速段の設定時のショックを解消することができるようにした、ハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】変速機4が非走行レンジに設定されてエンジン1の出力が車両の走行に用いられない状態で、制御指令に応じてクラッチ2を接続してエンジン1の出力回転を用いた特定制御を実施する特定制御手段54と、特定制御時に、変速機4が非走行レンジから走行レンジに切替えられる車両の発進操作があると、予め設定された所定時間だけプリチャージ制御を禁止するプリチャージ禁止手段55と備え、モータ制御手段52は、発進用の走行レンジの設定完了後、モータ3を作動させてモータ単体走行を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行駆動源と変速機との間に動力を自動で断接する油圧式クラッチをそなえたハイブリッド車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車(以下、車両ともいう)には、その駆動源としてのエンジン(内燃機関)と、このエンジンの出力を変速する変速機との間に、エンジンの出力を自動で断接する油圧式(液圧式)クラッチが装備されたものがある。このような油圧式クラッチには、電気信号により作動して油圧を給排し、クラッチを断接するアクチュエータが付設される。
このアクチュエータが、変速機のシフトレバーの設定状態や車両の走行状態に応じて適宜作動して、クラッチを遮断状態又は接続状態とする。例えば、シフトレバーが走行レンジに設定されて車両が走行している時にはクラッチは基本的に接続状態とされ、この走行時に変速機の変速段を切替える際や、シフトレバーが非走行レンジに設定されている場合には通常は遮断状態とされる。
【0003】
このような自動で断接する油圧式クラッチを備えた車両の変速機としては、機械式自動変速機(以下、単に変速機ともいう)を適応したものがある。この変速機では、シフトレバーにより非走行レンジが選択されれば、変速段を設定する各係合要素をいずれも解放状態にすることにより、変速機の出力軸が回転を拘束されないニュートラル状態、又は、変速機の出力軸が回転を停止されるパーキング状態といった、非走行状態とする。
【0004】
また、シフトレバーにより非走行レンジから走行レンジへの切替操作がされ車両の発進を行なう時には、変速機は、発進用の変速段を設定すべく所要の係合要素を締結し、走行状態に切替わる。その後の走行時には、変速機では、車両の走行状態に応じた何れかの変速段に切替えられ、この切替えに際してはアクチュエータにより油圧式クラッチが断接される。
【0005】
このような油圧式クラッチは、摩擦係合要素である単数又は複数のクラッチプレートを入力側及び出力側にそなえ、クラッチを遮断状態から接続状態にするには、アクチュエータは、油圧室に油圧(クラッチ圧)を供給されこの油圧によりピストンを駆動して相互のクラッチプレートを圧接するように押圧し、両クラッチプレートを離隔状態から接近させて係合させる。例えば、発進時には、非走行レンジから走行レンジへの切替に応じて、離隔していた両クラッチプレートを接近させて係合させるが、この際の離隔から係合への切替を迅速に行なうため、アクチュエータの無効油圧分を補填し、離隔状態のクラッチプレートをガタ詰めするクラッチ圧のプリチャージが通常行なわれている。このクラッチ圧のプリチャージにより、変速機の変速段の設定完了後にクラッチを接続状態にするまでの時間を短縮することができる。
【0006】
ところで、車両の走行駆動源として、エンジンに加えて電動発電機(以下、モータともいう)及びバッテリを搭載したハイブリッド車両が実用化されている。このようなハイブリッド車両としては、エンジンとモータとの間にクラッチが設けられ、変速機の入力軸部分にモータが設けられる構成のものがある。この車両では、モータは変速機の入力軸に常時接続し、クラッチが接続されればエンジンの出力は変速機に伝達される。
【0007】
このようなハイブリッド車両においては、停車時にエンジンの出力回転を用いてモータを発電機として作動させてバッテリを充電する停車発電や、バッテリの充電状態(以下、SOC: State Of Chargeともいう)を一定に維持するSOCバランス制御や、エンジンの出力回転を用いて車両の架装物を作動させるPTO(Power Take Off)制御等の特定制御が実施される場合、非走行レンジが選択されている際にもクラッチが接続状態にされる。
【0008】
この非走行レンジにおいてクラッチが接続状態にされる場合には、発進時に非走行レンジから走行レンジへの切替指示があると、非走行レンジにおいて係合状態とされていたクラッチプレートへのクラッチ圧をいったん低下させクラッチプレートを離隔状態として特定制御を終了した後に、発進用の変速段の設定と並行してクラッチ圧のプリチャージが行なわれる。
【0009】
特許文献1には、ハイブリッド車両におけるクラッチ圧のプリチャージにかかる技術が開示されている。この技術では、車両の発進時にクラッチを接続する際に、車輪を制動する。これにより、クラッチ接続時にショックが発生したとしても、車両の飛び出し感が発生することがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−111220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、非走行レンジから走行レンジへの切替操作があった場合に、クラッチの接続を速やかに且つショックを招くことなく行なって速やかに発進できるようにしたいという要望がある。
特許文献1に開示の技術では、クラッチの接続完了まで車輪が制動されるため、運転者の意図した発進タイミングよりも車両の発進タイミングが遅れてしまうおそれがある。
【0012】
一方、非走行レンジに設定されながらクラッチが接続されている車両の停止状態で、発進のために非走行レンジから走行レンジへの切替操作があった場合には、前述のように、接続状態のクラッチをいったん遮断して、その後、変速段の設定と並行して油圧のプリチャージを行なうことになるが、車両の発進タイミングを早めるためには、プリチャージの開始を早めることが考えられる。
【0013】
しかし、プリチャージの開始を早めると、クラッチ圧を十分に低下させきらないうちにプリチャージを開始することがあり、プリチャージ中に必要以上にクラッチ圧が高くなりクラッチプレートの係合を招いてしまい、変速機の変速段の設定時にショックが発生するおそれがある。
もちろん、クラッチ圧を監視しながらプリチャージ等を実施すれば必要以上にクラッチ圧が高くなることは回避できるが、この場合、クラッチ圧を検出するセンサが必要となり、コスト増を招く。そこで、こうした、センサに頼ることなくかかる課題を解決したい。
【0014】
本発明は、かかる課題に鑑み創案されたものであり、非走行レンジから走行レンジへの切替があった場合に、車両を速やかに発進させるとともに、変速段の設定時のショックを解消することができるようにした、ハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明のハイブリッド車両の制御装置は、エンジンと、モータと、前記エンジンと前記モータとの間に介装され、液圧が供給されて接続するクラッチと、前記モータが設けられた入力軸をそなえ、前記エンジン及び前記モータの少なくとも何れかの出力回転を変速して駆動輪に伝達する走行レンジ(複数の変速段)と、該出力回転を該駆動輪に伝達しない非走行レンジとを有する変速機と、前記クラッチの作動を制御し、前記クラッチを遮断状態から接続する際に、前記クラッチへの液圧をプリチャージするプリチャージ制御を実施するクラッチ制御手段と、前記モータの作動を制御するモータ制御手段と、前記変速機を何れかの前記走行レンジ又は前記非走行レンジに切替制御する変速制御手段と、を有するハイブリッド車両の制御装置であって、前記変速機が前記非走行レンジに設定されて前記エンジンの出力が前記車両の走行に用いられない状態で、制御指令に応じて前記クラッチを接続して前記エンジンの出力回転を用いた特定制御を実施する特定制御手段と、前記特定制御時に、前記変速機が前記非走行レンジから前記走行レンジに切替えられる前記車両の発進操作があると、予め設定された所定時間だけ前記プリチャージ制御を禁止するプリチャージ禁止手段とを備え、前記モータ制御手段は、発進用の前記走行レンジの設定完了後、前記モータを作動させてモータ単体走行を実施させることを特徴としている。
【0016】
また、前記クラッチは、第1クラッチと第2クラッチとを有し、前記変速機は、第1変速機構と第2変速機構とを有し、前記第1変速機構は、前記エンジンと前記第1クラッチを介して接続され且つ前記モータが設けられた第1入力軸を備え、前記第2変速機構は、前記エンジンと前記第2クラッチを介して接続された第2入力軸を備えていることが好ましい。
【0017】
また、ドライバの要求トルクを検出する要求トルク検出手段と、前記要求トルク検出手段により検出された要求トルクに応じて前記エンジン及び前記モータの出力トルクを設定する出力トルク設定手段とを備え、前記出力トルク設定手段は、前記プリチャージの完了前には、前記エンジンの出力トルクをアイドリング状態を維持するアイドリングトルクに設定し、前記要求トルク検出手段により検出された要求トルクが前記モータの最大出力トルク以下の場合には、前記モータの出力トルクを前記要求トルク検出手段により検出された要求トルクに設定し、前記要求トルク検出手段により検出された要求トルクが前記モータの最大出力トルクよりも大きい場合には、前記モータの出力トルクを前記モータの最大出力トルクに設定し、前記プリチャージの完了後には、前記エンジンの出力トルクと前記モータの出力トルクとの合計出力トルクを前記要求トルク検出手段により検出された要求トルクに設定し、前記クラッチ制御手段は、前記出力トルク設定手段により前記エンジンの出力トルクが前記アイドリングトルクに設定されると、前記クラッチを遮断し、前記モータ制御手段は、前記モータの出力トルクを前記出力トルク設定手段により設定された出力トルクに制御することが好ましい。
【0018】
また、前記モータを電動機として作動させると放電され、前記モータを発電機として作動させると充電されるバッテリを備え、前記特定制御は、前記車両の停車時に、前記エンジンの出力回転を用いて前記モータを発電機として作動させて前記バッテリを充電する停車発電制御と、前記モータを発電機又は電動機として作動させて前記バッテリの充電状態を一定に維持するSOCバランス制御と、前記エンジンの出力回転を用いて前記車両の架装物を作動させるPTO制御との少なくとも何れかであることが好ましい。
【0019】
また、前記バッテリの充電状態を検出するバッテリ状態検出手段と、前記バッテリ状態検出手段により検出された前記バッテリの充電状態に基づき、前記車両の走行モードとして、エンジン単体走行モードと、エンジン・モータ併用走行モードと、モータ単体走行モードとの何れかを選択する走行モード選択手段とを備え、前記プリチャージの完了後に、前記バッテリ状態検出手段により検出された前記バッテリの充電状態が所定充電状態よりも低い場合に、前記クラッチ制御手段により前記クラッチを接続状態にするとともに、前記走行モード選択手段によりエンジン単体走行モード又はエンジン・モータ併用走行モードを選択することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
(1)本発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、プリチャージ禁止手段は、特定制御時に、変速機が非走行レンジから走行レンジに切替えられると、予め設定された所定時間だけプリチャージ制御を禁止するため、クラッチ圧を十分に低下させる時間を確保することができ、プリチャージ制御開始時のクラッチ圧を適切に低下させることができる。プリチャージ開始時のクラッチ圧は十分に低下されているため、クラッチ圧を検出することなくクラッチ圧を適切にプリチャージすることができ、プリチャージ中にクラッチプレートの係合を招いてしまうことがない。これにより、変速段の設定時のショックを招いてしまうおそれを解消することができる。
【0021】
モータ制御手段は、発進用の走行レンジの設定完了後、即ち走行レンジのうち発進用の変速段の設定完了後にモータを作動させてモータ単体走行を実施するため、クラッチ圧を十分に低下させる時間やプリチャージ時間の経過を待つことなく車両を速やかに発進させることができる。
これらより、非走行レンジから走行レンジへの切替があった場合に、車両を速やかに発進させるとともに、変速段の設定時のショックを解消することができる。
【0022】
(2)第1変速機構はエンジンと第1クラッチを介して接続され且つモータが設けられた第1入力軸を備え、第2変速機構はエンジンと第2クラッチを介して接続された第2入力軸を備えるように構成すれば、いわゆるDCT(Dual Clutch Transmission)が装備されたハイブリッド車両においても、非走行レンジから走行レンジへの切替があった場合に、車両を速やかに発進させるとともに、プリチャージ中にクラッチプレートの係合を招いてしまうことがなく、これによる変速段の設定時のショックを招いてしまうおそれを解消することができる。
【0023】
(3)プリチャージの完了前には、要求トルクがモータの最大出力トルクよりも大きい場合であっても、モータの最大出力トルクでモータ単体走行が実施されるように構成すれば、エンジンの出力トルクを用いることがないため、クラッチの接続を待つことなく車両を速やかに発進させることができる。また、車両の発進時において、モータの最大出力トルクよりも大きい出力トルクが要求される場合には、例えばアクセルペダルを急激に踏込む等の要求トルクが急増している場合が多く、このような要求トルクの急増に対しては要求トルクの変化を鈍化させるなまし処理を行なうことがある。つまり、要求トルクが急増するタイミングに遅延して駆動輪に伝達される出力トルクを増加させる処理が行なわれる。なまし処理された要求トルクは、所要時間が経過するまではモータの最大出力トルク以下であり、所要時間の経過後にモータの最大出力トルクよりも大きくなる場合が多いため、車両の発進時の出力トルク不足による違和感を抑制又は防止することができる。
プリチャージの完了後には、要求トルクに応じた出力トルクでエンジン又はモータによる車両の走行が実施されるように構成すれば、車両走行時の出力トルク不足による違和感を防止することができる。
【0024】
(4)変速機が非走行レンジに設定されてエンジンの出力が車両の走行に用いられない状態で、クラッチを接続し、停車発電制御と、SOCバランス制御と、PTO制御との少なくとも何れかを行なっていても、非走行レンジから走行レンジへの切替があった場合に、車両を速やかに発進させるとともに、プリチャージ中にクラッチプレートの係合を招いてしまうことがなく、これによる変速段の設定時のショックを招いてしまうおそれを解消することができる。
【0025】
(5)プリチャージの完了後に、バッテリの充電状態が所定充電状態(所定充電量)よりも低い場合に、クラッチ制御手段によりクラッチを接続状態にするとともに、走行モード選択手段によりエンジン単体走行モード又はエンジン・モータ併用走行モードを選択するように構成すれば、バッテリの充電状態に応じて適切な駆動源を選択することにより、過度な放電を防止してバッテリの充電状態を適切にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態にかかるハイブリッド車両の制御装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる制御装置が適用されるハイブリッド車両における各部の作動を示すタイムチャートであり、(a)はクラッチの油圧を示し、(b)はシフト部のポジションを示し、(c)は変速機のレンジを示し、(d)はモータにより出力されるトルクを示す。
【図3】本発明の一実施形態にかかるハイブリッド車両の制御装置による発進時の制御を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態にかかるハイブリッド車両の制御装置による発進後の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。
【0028】
〈一実施形態〉
[構成]
まず、一実施形態にかかる制御装置が適用されるハイブリッド車両の構成を説明する。本実施形態にかかるハイブリッド車両は、例えばトラック又はバスといったいわゆる大型又は中型の自動車である。
【0029】
図1に示すように、本実施形態のハイブリッド車両(単に車両ともいう)は、車両の駆動源としてのエンジン(内燃機関)1と、このエンジン1の出力を断接するクラッチ2と、車両の駆動源としての電動機又は発電機として作動するモータ(電動発電機)3と、車両の駆動源であるエンジン1或いはモータ3の出力回転を変速して伝達する変速機4と、駆動輪9と、これら変速機4と駆動輪9との間に介装されて回転動力を伝達する動力伝達部材5とを装備している。
【0030】
エンジン1の回転トルクを出力する出力軸(クランクシャフト)1Aは、クラッチ2の入力軸に接続される。
出力軸1Aの近傍には、その回転角を検出するクランク角センサ32が付設される。このクランク角センサ32により検出される回転角の単位時間あたりの変化量はエンジン1の回転数Neに比例する。したがって、クランク角センサ32はエンジン1の回転数Neを検出するエンジン回転数センサとして機能する。
【0031】
また、クランク角センサ32は、車両ECU50に接続され、クランク角センサ32により検出された出力軸1Aの回転角の情報(検出信号)は、車両ECU50に伝達される。車両ECU50は、クランク角センサ32により検出された回転角に基づいて、エンジン1の回転数Neを算出する。
クラッチ2は、エンジン1の出力を断接するものである。このクラッチ2は、アクチュエータ6が付設される油圧式(液圧式)のクラッチであり、アクチュエータ6の作動により接続状態と遮断状態とを切替えられる。クラッチ2が接続状態にされるとエンジン1の出力は伝達され、クラッチ2が遮断状態にされるとエンジン1の出力は伝達されない。
【0032】
また、本車両のクラッチ2及び変速機(変速ギヤ機構)4は、いわゆるDCT(Dual Clutch Transmission,デュアルクラッチ変速機)として構成され、エンジン1の出力は、DCTとして構成されたクラッチ2及び変速機4を介して動力伝達部材5から駆動輪9に伝達される。クラッチ2は、第1クラッチ2Aと第2クラッチ2Bとを有している。アクチュエータ6は、第1クラッチ1Aに付設された第1アクチュエータ6Aと第2クラッチに付設された第2アクチュエータ6Bとを有している。
【0033】
また、変速機4は、2つの入力系統と1つの出力系統を有し、第1クラッチ2Aによりエンジン1の出力軸1Aと接続される第1変速機構4Aと、第2クラッチ2Bによりエンジン1の出力軸1Aと接続される第2変速機構4Bとを有する。第1変速機構4Aの入力軸(第1入力軸)40Aには第1クラッチ2Aの出力軸が接続され、第1入力軸40Aにはモータ3が装備される。ここでは、第1変速機構4Aは、例えば2速,4速,6速といった偶数段の変速段のギヤ対を装備し、第2変速機構4Bは、例えば1速,3速,5速といった奇数段の変速段のギヤ対を装備する。
【0034】
以下、クラッチ2A,2B及び変速機構4A,4Bを含む動力伝達系の構成を詳細に説明する。
第1クラッチ2Aは、摩擦係合要素として単数又は複数のクラッチプレートをその入力側及び出力側に有する。これらの入力側及び出力側のクラッチプレートは、付設の第1アクチュエータ6Aによって油圧(液圧)に応じて断接駆動され、油圧供給を遮断されると、入力側のクラッチプレートと出力側のクラッチプレートとが相互に離隔し、エンジン1の出力軸1Aと第1変速機構4Aの第1入力軸40Aとを遮断する遮断状態となり、油圧を供給されると、入力側のクラッチプレートと出力側のクラッチプレートとが圧接され係合し、エンジン1の出力軸1Aと第1変速機構4Aの第1入力軸40Aとを接続する接続状態となる。
【0035】
第1アクチュエータ6Aは、詳細を図示しないが、例えば、油圧室と、これに隣接するピストンと、ピストンを所定位置に戻すリターンスプリングとをそなえている。その油圧室に油圧(クラッチ圧)が供給されると、これに応じてピストンがリターンスプリングに抗して移動し、第1クラッチ2Aの入力側及び出力側のクラッチプレートを押圧する。このとき、クラッチ圧が増加するに連れて第1クラッチ2Aの入力側及び出力側のクラッチプレートは相互に接近し係合する。一方、クラッチ圧が低下するとリターンスプリングによりピストンが戻され第1クラッチ2Aの入力側及び出力側のクラッチプレートは押圧されなくなり離隔する。
【0036】
エンジン1の出力を伝達しない第1クラッチ2Aの遮断状態には、両クラッチプレートが一定のクリアランスをもって離隔した離隔状態と、両クラッチプレートが係合直前まで接近するようにクラッチ圧を与えるプリチャージ状態との2つの状態がある。
離隔状態の場合は、第1アクチュエータ6Aのクラッチ圧を十分に低くして略ゼロにすればよい。一方、プリチャージ状態は、離隔状態の第1クラッチ2Aのクラッチプレートのクリアランスをゼロに近づけるいわゆるガタ詰めに相当する状態である。第1アクチュエータ6Aの無効液圧分を補填したクラッチ圧にすれば、第1クラッチ2Aはプリチャージ状態とされる。
【0037】
したがって、第1アクチュエータ6Aのクラッチ圧に応じて、第1クラッチ2Aは離隔状態若しくはプリチャージ状態の遮断状態、又は接続状態となる。
また、第1アクチュエータ6Aは、制御用の信号線を介して車両ECU50に接続され、車両ECU50により作動を制御される。
モータ3は、電動機として作動すれば車両の駆動源として機能する。また、モータ3は、発電機として作動すれば、エンジン1の出力回転や車両の制動による回生エネルギーを回収する発電装置として機能する。このモータ3のロータ(回転子)は、第1クラッチ2Aの出力軸、即ち、第1変速機構4Aの第1入力軸40Aに固設される。
【0038】
また、モータ3は、インバータ20を介してバッテリ10と電力送給線で接続される。これにより、バッテリ10からモータ3に給電してモータ3を電動機として作動させることができ、モータ3を発電機として作動させてモータ3による発電電力でバッテリ10を充電することができる。この充放電は、インバータ20の作動状態を切替えることにより行なわれる。
【0039】
バッテリ10は、制御用の信号線を介してバッテリECU11に接続され、その充電状態(以下SOCともいう)をバッテリECU11により管理される。
インバータ20は、制御用の信号線でインバータECU21を介して車両ECU50に接続され、インバータECU21を介して車両ECU50にその作動を制御される。
第1変速機構4Aは、その入力軸である第1入力軸40Aに入力される出力回転を変速して出力するものであり、偶数段の変速段のギヤ対を装備し、変速段のギヤ対を係合又は解放させるスリーブやクラッチギヤといった各係合要素を有する。この第1変速機構4Aは、所要の係合要素が係合されると走行レンジが設定され、係合要素の何れもが解放(非係合)されると非走行レンジが設定される。
【0040】
また、第1変速機構4Aの第1入力軸40Aにモータ3のロータが装備され、第1変速機構4Aの出力軸には動力伝達部材5が接続される。
第1変速機構4Aの係合要素が係合されると、係合する係合要素に対応するギヤ対が係合され対応する変速段が設定される。変速段が設定されると、第1変速機構4Aは、第1入力軸40Aに入力されるエンジン1及びモータ3の何れか又は両方の出力回転を設定された変速段に応じた変速比で変速し出力軸に出力する。なお、エンジン1或いはモータ3の出力回転を走行に用いる際に設定される変速段は、走行レンジにおいて設定される。
【0041】
また、第1変速機構4Aの係合要素が解放(非係合)されると、何れの変速段も設定されない。この変速段が設定されない状態では、第1変速機構4Aは、第1入力軸40Aに入力されるエンジン1及びモータ3の出力回転を出力軸に伝達しない。この場合、第1変速機構4Aの出力軸の回転が拘束されないNレンジ(ニュートラルレンジ)、又は、第1変速機構4Aの出力軸の回転が拘束されるPレンジ(パーキングレンジ)が設定されることになり、これらのNレンジやPレンジは、エンジン1及びモータ3の出力回転を走行に用いない非走行レンジにおいて設定される。なお、第1変速機構4AにおいてNレンジが設定されると、その第1入力軸40Aと出力軸とは動力伝達を遮断され、出力軸及び動力伝達部材5の回転は拘束されない。また、第1変速機構4AにおいてPレンジが設定されると、第1入力軸40Aと出力軸とは動力伝達を遮断され、出力軸及び動力伝達部材5の回転が拘束される。
【0042】
このような第1変速機構4Aの各係合要素の係合又は解放は、図示しないギヤシフトユニットにより油圧を用いて行なわれ、かかるギヤシフトユニットは車両ECU50により制御される。
第2クラッチ2Bは、その入力側及び出力側にクラッチプレートを有する。これらのクラッチプレートは、付設の第2アクチュエータ6Bによって油圧(液圧)に応じて断接駆動される。第2クラッチ2Bのその他の構成は、第1クラッチ2Aの構成と同様であり、第2アクチュエータ6Bのその他の構成は、第1アクチュエータ6Aの構成と同様である。
【0043】
第2変速機構4Bは、その入力軸である第2入力軸40Bに入力される出力回転を変速して出力するものであり、奇数段の変速段のギヤ対とPTO装置を駆動するPTO装置用のギヤ対とを装備し、変速段又はPTO装置用のギヤ対を係合又は解放させるスリーブやクラッチギヤといった各係合要素を有する。なお、PTO装置は、PTO装置用のギヤ対が係合されると作動する。この第2変速機構4Bは、第1変速機構4Aと同様に、所要の係合要素が係合されると走行レンジが設定され、PTO装置用のギヤ対のみが係合され又は係合要素の何れもが解放(非係合)されると非走行レンジが設定される。
【0044】
また、第2変速機構4Bの出力軸には動力伝達部材5が接続される。
第2変速機構4Bの係合要素が係合されると、係合する係合要素に対応するギヤ対が係合され対応する変速段又はPTO装置のギヤ段が設定される。変速段又はPTO装置のギヤ段が設定されると、第2変速機構4Bは、第2入力軸40Bに入力されるエンジン1の出力回転を設定された変速段等に応じた変速比で変速し出力軸又はPTO装置に出力する。なお、エンジン1の出力回転を走行に用いる変速段は、走行レンジにおいて設定される。
【0045】
また、第2変速機構4Bの係合要素が解放(非係合)されると、変速段及びPTO装置のギヤ段の何れも設定されない。この変速段及びPTO装置のギヤ段が設定されない状態では、第2変速機構4Bは、第2入力軸40Bに入力されるエンジン1の出力回転を出力軸に伝達しない。この場合、第2変速機構4BにはNレンジ又はPレンジが設定されることになり、これらのNレンジやPレンジは、エンジン1の出力回転を走行に用いない非走行レンジにおいて設定される。
【0046】
このような第2変速機構4Bの各係合要素の係合又は解放は、車両ECU50により制御される。
その他の第2変速機構4Bの構成は、第1変速機構4Aの構成と同様である。
動力伝達部材5は、プロペラシャフト,差動装置及びドライブシャフト等から構成され、第1変速機構4A及び第2変速機構4Bの出力軸と駆動輪9との間に介装され、変速機構4A,4Bと駆動輪9との間の動力伝達を双方向に行なう。
【0047】
本車両には、運転者により操作されるシフト部(シフトレバー)30が装備される。このシフト部30は、複数のレンジが設けられ、運転者によりシフトポジションを切替えることにより何れかのレンジを選択可能に構成される。この複数のレンジとしては、Pレンジ(パーキングレンジ),Rレンジ(リバースレンジ),Nレンジ(ニュートラルレンジ),Dレンジ(ドライブレンジ)といったレンジが挙げられる。このうち、Pレンジ,Nレンジは非走行レンジに含まれ、Rレンジ,Dレンジは走行レンジに含まれる。
【0048】
なお、ここではシフト部30にPレンジ,Rレンジ,Nレンジ,Dレンジが設定されるものを示すが、これに限らずLレンジ等の走行レンジをさらに備えてもよい。また、走行レンジ及び非走行レンジとして設定される具体的なレンジ数は、これに限定されない。
また、シフト部30は車両ECU50に接続され、このシフト部30において選択されたレンジの情報は、車両ECU50に伝達される。
【0049】
本車両には、アクセルペダルの踏込量に対応するアクセル開度θACCを検出するアクセルポジションセンサ(要求トルク検出手段,APS)31が設けられる。このアクセル開度θACCは、運転者の加速要求に対応するパラメータであり、車両の駆動源であるエンジン1,モータ3への要求トルクに対応する。
このアクセルペダルセンサ31は車両ECU50に接続され、アクセルペダルセンサ31により検出されたアクセル開度θACCの情報は車両ECU50に伝達され、車両ECU50は、アクセル開度θACCの情報に基づいて運転者の要求トルクを算出する。
【0050】
次に、ハイブリッド車両の制御装置にかかる制御系の構成を説明する。
エンジン1,クラッチ2,モータ3,変速機4,バッテリ10及びインバータ20の制御又は管理は、コンピュータを用いた電子制御により行なわれるようになっており、バッテリ10を管理するバッテリECU11と、インバータ20の作動を制御するインバータECU21とがそれぞれ設けられる。
【0051】
これらのバッテリECU11,インバータECU21,エンジン1,クラッチ2,モータ3及び変速機4を制御する車両ECU50が設けられる。これらの各ECU11,21,50は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM,入出力回路等からなる電子制御装置である。
バッテリECU11は、バッテリ10の温度,充放電される電流及び電圧等の情報を取得し、これらの情報に基づいてバッテリ10の充電状態(SOC)を演算し検出する。このSOCは、バッテリ10の充電率やこの充電率に基づいて算出される充電量により表すことができる。バッテリECU11により検出されたバッテリ10のSOCは車両ECU50に伝達される。
【0052】
車両ECU50は、クラッチ2の作動を制御するクラッチ制御部(クラッチ制御手段)51と、モータ3の作動を制御するモータ制御部(モータ制御手段)52と、変速機4を制御する変速制御部(変速制御手段)53と、後述する特定制御を実施する特定制御部(特定制御手段)54と、特定条件下においてクラッチ圧のプリチャージ制御を禁止するプリチャージ禁止部(プリチャージ禁止手段)55と、車両の走行駆動源としてエンジン1及びモータ3の少なくとも何れかを選択する走行モード選択部(走行モード選択手段)56と、車両の走行駆動源としてのエンジン1及びモータ3の出力トルクをそれぞれ設定する出力トルク設定部(出力トルク設定手段)57とを有する。
【0053】
クラッチ制御部51は、車両の運転状況に応じてクラッチ2の作動を制御する。詳細には、クラッチ制御部51は、第1クラッチ2Aに付設された第1アクチュエータ6Aのクラッチ圧と、第2クラッチ2Bに付設された第2アクチュエータ6Bのクラッチ圧とのそれぞれを制御する。以下、第1クラッチ2Aを例示して、クラッチ制御部51によるクラッチ圧の制御を説明する。
【0054】
クラッチ制御部51による第1アクチュエータ6Aのクラッチ圧制御には、第1クラッチ2Aを接続状態から遮断状態に切替える際に実施する離隔制御と、第1クラッチ2Aを遮断状態から接続状態に切替える際に実施する接続制御と、離隔制御から接続制御への過渡時に実施するプリチャージ制御とに分類することができる。
離隔制御では、クラッチ圧を略ゼロの離隔圧に低下させ、接続制御では、クラッチ圧を第1クラッチ2Aのクラッチプレートが係合する係合圧まで増大させ、プリチャージ制御は、クラッチ圧を離隔圧状態から無効液圧分を補填するプリチャージ圧まで増大させる。離隔制御から接続制御への過渡時には、必ずプリチャージ制御が実施され、プリチャージ制御が実施されずに接続制御を実施することはない。
【0055】
例えば、第1クラッチ2Aを接続状態から遮断状態とした後、再び接続状態にする場合、クラッチ制御部51は、離隔制御を実施してプリチャージ制御を実施し、その後接続制御を実施する。
このような場合の各制御の切替は、クラッチ制御部51により制御されるクラッチ圧の状態に基づいて行なうことができ、この場合のクラッチ圧は、圧力センサがあれば直接的に把握できるが、本装置では圧力センサに頼らずに、各制御の継続時間からクラッチ圧を推定し、各制御を実施するようにしている。例えば、接続制御から遮断制御に切替えられると第1アクチュエータ6Aの油圧室から作動油の排出が開始されるが、この排出開始から十分に時間が経過していれば、クラッチ圧は十分に低下し略ゼロの離隔圧になったものと確定することができる。この離隔圧の状態から油圧室に作動油を供給しクラッチ圧を上昇させていくと、クラッチ圧は作動油の供給時間と対応して増加するので、離隔圧状態からの作動油の供給時間から、クラッチ圧がプリチャージ圧まで達したことを推定することもできる。そして、プリチャージ圧まで達したらこの状態を保持し、その後は、適当なタイミングで接続制御に移行する。
【0056】
このように、クラッチ制御手段51は、油圧室からの作動油の排出時間や油圧室への作動油の供給時間からクラッチ圧を推定して上記の三段階のクラッチ圧制御の切替を実現するようになっている。
なお、クラッチ制御部51は、第2クラッチ2Bについても同様に制御し、第2クラッチ2Bを離隔状態にする離隔制御と、第2クラッチ2Bをプリチャージ状態にするプリチャージ制御と、第2クラッチ2Bを接続状態にする接続制御とを実施する。
【0057】
また、クラッチ制御部51は、後述する出力トルク設定部57によりエンジン1の出力トルクを走行に用いない場合、即ちモータ単体走行する場合には、変速段が設定される変速機構4A,4Bの何れか一方に接続されるクラッチ2A,2Bの一方のクラッチ圧をプリチャージ圧に保持し、他方のクラッチ2A,2Bのクラッチ圧を離隔圧にして遮断状態にする。
【0058】
モータ制御部52は、車両の運転状況に応じてモータ3の作動を制御する。つまり、モータ制御部52は、インバータECU21を介してインバータ20の作動を制御することにより、バッテリ10からモータ3への給電とモータ3からバッテリ10への充電とを制御する。
また、モータ制御部52は、後述する出力トルク設定部57により設定された出力トルクにモータ3の出力トルクを制御する。
【0059】
変速制御部53は、車両の運転状況に応じて変速機4を制御する。詳細には、変速制御部53は、第1変速機構4A及び第2変速機構4Bのそれぞれを制御する。
変速制御部53は、変速機構4A,4Bの各係合要素の係合及び解放を制御する。これにより、変速制御部53は、変速機構4A,4Bを走行レンジの設定状態と非走行レンジの設定状態との切替制御を実施することができる。
【0060】
変速制御部53は、運転者により走行レンジが選択されると、変速段の切替時を除いては所要の係合要素を係合し、車両の運転状況に応じた変速段を設定する。また、変速制御部53は、走行レンジが選択されており変速段を切替える際には、係合要素の係合を解放して非走行レンジであるNレンジを設定した後に、切替後の変速段に対応する係合要素を係合する。
【0061】
また、変速制御部53は、運転者により非走行レンジから走行レンジへの切替操作があると、通常レンジ切替制御と特定レンジ切替制御とを実施する。
通常レンジ切替制御は、クラッチ2A,2Bが遮断状態であって変速機構4A,4Bにおいて非走行レンジが設定される場合に実施される。つまり、通常レンジ切替制御は、運転者により非走行レンジが選択されている際に、変速機構4A,4Bの係合要素の何れもが解放され、クラッチ2A,2Bの何れもが遮断状態とされる場合に実施される。
【0062】
この通常レンジ切替制御では、変速制御部53は、解放された係合要素のうち車両の運転状況に応じた変速段に対応する係合要素を係合する。
また、通常レンジ切替制御下において、例えば車両の発進時にPレンジ又はNレンジ(非走行レンジ)からDレンジ(走行レンジ)への切替操作がされると、変速制御部53は、発進段の変速段に対応する係合要素を係合する。
【0063】
特定レンジ切替制御は、クラッチ2A,2Bの少なくとも何れか一方が接続状態である場合に実施される。つまり、特定レンジ切替制御は、運転者により非走行レンジが選択されて、第1変速機構4Aにおいて非走行レンジが設定され、第2変速機構4Bにおいて非走行レンジ(PTO作動状態を含む)が設定される場合に実施される。
この特定レンジ切替制御では、変速制御部53は、非走行レンジが選択されている際に係合された係合要素があれば、この係合要素の係合を解放した後、車両の運転状況に応じた変速段に対応する係合要素を係合する。例えば、特定レンジ切替制御においては、例えば、車両の発進時にPレンジ又はNレンジ(非走行レンジ)からDレンジ(走行レンジ)への切替操作がされると、変速制御部53は、後述する第2所定時間経過後に発進段の変速段に対応する係合要素を係合する。
【0064】
特定制御部54は、停車発電制御と、SOCバランス制御と、PTO制御との少なくとも何れかの特定制御を実施する。この特定制御は、クラッチ2A,2Bの少なくとも何れか一方を接続状態にして実施される。つまり、特定制御の実施中は、非走行レンジが選択されている際に、クラッチ2A,2Bの少なくとも何れかが接続状態とされる。
停車発電制御は、SOCが基準値まで低下した場合、車両の停車時に、エンジン1の出力回転を用いてモータ3を発電機として作動させ、バッテリ10を充電するものである。
【0065】
この停車発電制御は、車両の停車時であって非走行レンジが選択されている際に特定制御部54により実施され、クラッチ制御部51を介して第1クラッチ2Aを接続状態とし、モータ制御部52を介してモータ3を発電機として作動させる。これにより、車両の停車時にバッテリ10を発電することができる。
SOCバランス制御は、モータ3を発電機又は電動機として作動させ、バッテリ10のSOCを一定に維持するものである。
【0066】
このSOCバランス制御は、非走行レンジが選択されている際に特定制御部54により実施され、クラッチ制御部51を介して第1クラッチ2Aを接続状態とし、モータ制御部52を介してモータ3を発電機又は電動機として作動させることにより、バッテリ10のSOCを一定に維持して管理する。これにより、バッテリ10のSOCを一定に維持することができる。
【0067】
なお、これらの停車発電制御又はSOCバランス制御が実施されている際には、変速機構4A,4Bにおいては非走行レンジが設定される。
PTO制御は、エンジン1の出力回転を用いて車両の架装物を作動させるものである。
このPTO制御は、非走行レンジが選択されている際に特定制御部54により実施され、クラッチ制御部51を介して第2クラッチ2Bを接続状態とし、変速制御部53により第2変速機構4BのPTO装置用のギヤ対に対応する係合要素を係合する。これにより、エンジン1の動力を用いて車両の架装物を作動させることができる。なお、このPTO制御が実施されている際には、第1変速機構4Aにおいては非走行レンジが設定される。
【0068】
プリチャージ禁止部55は、特定条件下において第1所定時間(所定時間)だけクラッチ制御部51によるプリチャージ制御を禁止するプリチャージ禁止制御を実施する。
この第1所定時間は、クラッチ2A,2Bを接続状態から遮断状態とするのに要する時間が予め実験的又は経験的に定められたものである。例えば、第1所定時間は、クラッチ2A,2Bに付設されたアクチュエータ6A,6Bの油圧室から作動油の排出を開始し、クラッチ圧が十分に低下し略ゼロのクラッチ圧(離隔圧)となるまでの時間が予め実験的又は経験的に設定されたものである。
【0069】
特定条件は、非走行レンジにおいてクラッチ2A,2Bの何れかが接続状態とされる場合に、かかる非走行レンジから走行レンジへの切替操作があった場合に成立する。
つまり、プリチャージ禁止部55は、クラッチ2A,2Bの何れかが接続状態とされる非走行レンジから走行レンジへの切替操作があると、第1所定時間だけ、クラッチ制御部51によるプリチャージ制御を禁止する。
【0070】
走行モード選択部56は、後述する出力トルク設定部57で設定された要求出力トルクと、バッテリECU11により検出されるバッテリ10のSOCとに基づき、車両の走行モードとして、エンジン単体走行モードと、エンジン・モータ併用走行モードと、モータ単体走行モードとの何れかを選択する。
ただし、この走行モード選択部56は、車両の始動時にはモータ単体走行モードを基本的に選択し、また、車両の始動時におけるクラッチ制御部51によるプリチャージ制御の完了前にはモータ単体走行モードを選択する。また、走行モード選択部56は、クラッチ制御部51によるプリチャージ制御の完了後には、バッテリECU11により検出されたバッテリ10のSOCと予め設定された所定充電量(所定充電状態)とに基づいて車両の走行モードを選択する。
【0071】
所定充電量には、第1所定充電量と第2所定充電量とが予め設定されており、クラッチ制御部51のプリチャージ制御の完了後に、例えば、バッテリ10のSOCが第1所定充電量よりも大きい場合には、走行モード選択部56は、運転者の要求トルクがモータ3の最大出力トルクよりも大きければエンジン・モータ併用走行モードを選択し、運転者の要求トルクがモータ3の最大出力トルク以下であればモータ単体走行モードを選択する。また、バッテリ10のSOCが第1所定充電量以下であって第1所定充電量より小さく設定された第2所定充電量よりも大きければ、走行モード選択部56は、エンジン・モータ併用走行を選択する。また、バッテリ10のSOCが第2所定充電量以下であれば、走行モード選択部56は、エンジン単体走行を選択する。
【0072】
これらの第1及び第2所定充電量は予め実験的又は経験的に設定される。
出力トルク設定部57は、運転者の要求に応じてエンジン1及びモータ3に要求される出力トルク(要求出力トルク)Tdを設定する。そして、出力トルク設定部57では、要求出力トルクTdとバッテリ10のSOCとに基づいて走行モード選択部56において設定された何れかの走行モードにしたがって、要求出力トルクTdからエンジン1及びモータ3の各出力トルクを設定配分する。この設定されたエンジン1の出力トルクは、車両ECU50によりエンジン1の出力トルクとして実現され、設定されたモータ3の出力トルクは、モータ制御部52によりモータ3の出力トルクとして実現される。
【0073】
詳細には、出力トルク設定部57は、特定条件下において、プリチャージ制御が完了するまでは、エンジン1の出力トルクをアイドリング状態を維持するトルク(アイドリングトルク)に設定し、運転者の要求トルクがモータ3の最大出力トルク以下の場合には、モータ3の出力トルクを運転者の要求トルクに設定する。また、プリチャージ制御が完了するまでは、運転者の要求トルクがモータ3の最大出力トルクよりも大きい場合には、モータ3の出力トルクを最大出力トルクに設定し、エンジン1の出力トルクはアイドリング状態を維持するトルクに設定する。また、プリチャージ制御が完了後には、出力トルク設定部57は、エンジン1の出力トルクとモータ3の出力トルクとの合計出力トルクを運転者の要求出力トルクに設定する。
【0074】
また、出力トルク設定部57は、例えばアクセルペダルの急激な踏込みのように運転者の要求トルクが急変する場合、制御安定性を確保するため、要求トルクの変化を鈍化させるいわゆるなまし処理を行なうことが好ましい。つまり、出力トルク設定部57は、要求トルクの増加率が予め設定された限度値以上となる急増時には、要求トルクの増加を所定の増加率(限度値又は限度値以内)に抑えて、要求トルクが急増するタイミングに遅延してエンジン1或いはモータ3の出力トルクを設定することが好ましい。
【0075】
[作用・効果]
本発明の一実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置は、上述のように構成されるため、特定制御時に運転者による非走行レンジから走行レンジへの切替操作があると、以下のような制御が実施される。かかる制御について図2を用いて説明する。
図2(a)は、縦軸にクラッチ圧、横軸に時間を規定し、クラッチ圧の時間変化の例を示すタイムチャートであり、図2(b)〜(d)は図2(a)のクラッチ圧の時間変化に対応した各部の作動を示す。ここでは、図2のクラッチ圧は、停車発電制御(特定制御)又はSOCバランス制御(特定制御)が実施される場合における第1クラッチ2Aのクラッチ圧を例示する。
【0076】
図2(a)に示すように、クラッチ圧Pは、時点t0まで圧力P3(係合圧)に維持される。この圧力P3は、第1クラッチ2Aを接続状態にするのに必要な圧力である。すなわち、時点t0までは、クラッチ制御部51によりクラッチ圧Pが圧力P3にされる接続制御により、第1クラッチ2Aのクラッチプレートは係合状態とされ、第1クラッチ2Aは接続状態を維持している。また、図2(b)に示すように、時点t0までは、運転者により操作されるシフト部30のポジションは非走行レンジが選択されている。
【0077】
つまり、時点t0までは、少なくとも第1クラッチ2Aが接続状態にされる特定制御が特定制御部54により実施されている。
図2(b)に示すように、時点t0では、特定制御が実施されている際に、運転者によりシフト部30が操作され、非走行レンジから走行レンジへの切替操作がされる。これと同時に、プリチャージ禁止部55により第1所定時間だけクラッチ制御部51によるプリチャージ制御が禁止される。
【0078】
図2(a)に示すように、時点t0から時点t2までは、クラッチ制御部51により第1クラッチ2Aに付設されるアクチュエータ6Aの油圧室の作動油を排出する離隔制御により、クラッチ圧Pを略ゼロ(離隔圧)まで低下させる。この時点t0から時点t2までの時間が、第1所定時間として予め実験的又は経験的に設定され、この第1所定時間だけプリチャージ禁止部55によりクラッチ制御部51によるプリチャージ制御が禁止される。
【0079】
時点t0から時点t2までの期間のうち時点t0から時点t1では、クラッチ圧Pが低下して圧力P3から圧力P2となる。この圧力P2は、エンジン1がストールしない又は第1変速機構4Aの係合要素を係合してもショックが発生しないクラッチ圧Pの上限値である。この時点t0から時点tまでの期間は第2所定時間として、予め実験的又は経験的に設定される。
【0080】
図2(c)に示すように、時点t1では、変速制御部53により第1変速機構4Aの変速段の設定が開始される。ここでは、変速制御部53は、車両を発進させるべく選択された変速段(発進段)に対応する第1変速機構4Aの係合要素を係合する。時点tの後であって時点t2よりも前に変速段の設定が完了し、その後に、図2(d)に示すように、モータ制御部52によりモータ3を作動させてモータ単体走行を実施させる。つまり、時点t1ではモータ単体で車両を発進させるべく第1変速機構4Aの変速段が設定され、その後、モータ制御部52によりモータ単体走行を実施する。
【0081】
図2(a)に示すように、時点t1から時点t2では、クラッチ圧Pが低下して圧力P2から略ゼロとなる。
時点t2では、クラッチ圧Pは略ゼロであり、クラッチ制御部51によるプリチャージ制御が開始される。
時点t2から時点t3までは、クラッチ制御部51によるプリチャージ制御が実施され、クラッチ圧Pが略ゼロから圧力P1(プリチャージ圧)へと上昇される。
【0082】
時点t3では、クラッチ圧Pが圧力P1であり、第1クラッチ2Aはプリチャージ状態となる。すなわち、時点t3において第1クラッチ2Aのプリチャージが完了する。
この時点t0から時点t3までは、出力トルク設定部57によりエンジン1の出力トルクはアイドリング状態を維持するトルクに設定され、走行モード選択部56によりモータ単体走行モードが選択される。
【0083】
時点t3以降は、バッテリ10のSOCに基づいて走行モード選択部56により車両の走行モードが選択される。図2には、時点t3以降において、モータ制御部52によりモータ単体走行を継続して実施する場合を示し、クラッチ圧Pは圧力P1に維持される。なお、時点t3以降において、走行モード選択部56によりエンジン・モータ併用走行モード又はエンジン単体走行モードのエンジン1を用いた走行モードが選択される場合には、出力トルク設定部57によりエンジン1,モータ3のそれぞれの出力トルクが適宜設定され、クラッチ制御部51により車両の運転状態に応じてクラッチ4A,4Bの何れかを接続する接続制御が実施され、クラッチ圧Pは圧力P3に上昇される。
【0084】
ここでは、時点t0以前に、特定制御として停車発電制御又はSOCバランス制御が実施される場合を例示して説明したが、時点t0以前にPTO制御(特定制御)のみが実施された場合も同様に、第2クラッチ2Bのクラッチ圧の低下開始時点から第2所定時間経過後に発進用の変速段が設定される。
【0085】
次に、本発明のハイブリッド車両の制御装置における制御フローを図3及び図4を用いて説明する。図3は特定条件下における車両の発進時の制御フローを示し、図4は図3の制御フローのサブルーチンである発進後制御の制御フローを示す。
【0086】
図3の制御フローは、非走行レンジにおいてクラッチ2A,2Bの何れかが接続状態とされる特定制御の実施中に、車両ECU50により周期的に行なわれる。
ステップS10では、非走行レンジから走行レンジへの切替えが有るか否かを判定する。非走行レンジから走行レンジへの切替が有ればステップS20へ移行し、非走行レンジから走行レンジへの切替が無ければ制御終了(エンド)する。
【0087】
ステップS20では、タイマtをゼロにセットしてスタートする。このタイマのスタート時点は図2の時点t0に対応し、タイマtの値はステップS10のレンジの切替からの経過時間である。そしてステップS30へ移行する。
ステップS30では、レンジの切替から第2所定時間が経過したか否かを判定する。第2所定時間が経過していればステップS40へ移行し、第2所定時間が経過していなければ、タイマtの値が第2所定時間よりも大きくなるまでステップS30の判定を行なう。
【0088】
ステップS40では、変速段の設定及びモータ単体走行を実施する。すなわち、変速制御部53により第1変速機構4Aの発進段に対応する係合要素を係合して変速段を設定し、モータ制御部52によりモータ単体走行を実施する。なお、本ステップS40の時点は、第2所定時間が経過した図2の時点t1に対応する。
ステップS50では、レンジの切替から第1所定時間が経過したか否かを判定する。第1所定時間が経過していればステップS60へ移行し、第1所定時間が経過していなければ、タイマtの値が第1所定時間よりも大きくなるまで本ステップS50の判定を行なう。
【0089】
ステップS60では、クラッチ2のプリチャージを行なう。すなわち、車両の運転状況に応じてクラッチ2A,2Bの何れか一方のプリチャージ制御がクラッチ制御部51により開始される。なお、本ステップS60の時点は、図2の時点t2に対応する。
ステップS70では、プリチャージ制御が完了したか否かを判定する。プリチャージ制御が完了していればステップS80へ移行し、プリチャージ制御が完了していなければプリチャージ制御が完了するまでステップS70の判定を行なう。
【0090】
ステップS80では、タイマtをゼロにリセットする。本ステップS80の時点は、図2の時点t3に対応する。
ステップS90では、発進後制御のサブルーチンを行なって、制御終了(エンド)する。
【0091】
次に、図3のステップS90に示される発進後制御を、図4のフローチャートを用いて説明する。
【0092】
ステップS110では、バッテリECU11により検出されるバッテリ10のSOC及びアクセルポジションセンサ(APS)31により検出されるアクセル開度θACCの情報を取得する。車両ECU50は、取得したアクセル開度θACCの情報に基づいて運転者の要求トルクTdを算出する。
ステップS120では、バッテリ10のSOCが第1所定充電量SOC1よりも大きいか否かを判定する。バッテリ10のSOCが第1所定充電量SOC1よりも大きければステップS130へ移行し、バッテリ10のSOCが第1所定充電量SOC1以下であればステップS150へ移行する。
【0093】
ステップS130では、アクセル開度θACCに基づいて算出される運転者の要求トルクTdがモータ3の最大出力トルクTmよりも大きいか否かを判定する。運転者の要求トルクTdがモータ3の最大出力トルクTmよりも大きければステップS140へ移行し、要求トルクTdがモータ3の最大出力トルクTm以下であればステップS145へ移行する。
ステップS140では、走行モード選択部56によりエンジン・モータ併用走行モードが選択され、エンジン1及びモータ3による併用走行が実施される。また、本ステップS140では、出力トルク設定部57によりモータ3の出力トルクとエンジン1の出力トルクとの合計出力トルクが運転者による要求出力トルクTdとなるように設定される。そして、本サブルーチンを終了(リターン)して、図3の制御フローへ戻る。
【0094】
ステップS145では、走行モード選択部56によりモータ単体走行モードが選択され、モータ3による単体走行が実施される。また、本ステップS145では、出力トルク設定部57によりモータ3の出力トルクが運転者による要求出力トルクに設定されるとともにエンジン1の出力トルクはアイドリング状態を維持するトルクに設定され、クラッチ制御部51により変速段が設定される変速機構4A,4Bの何れか一方に接続されるクラッチ2A,2Bの何れか一方のクラッチ圧をプリチャージ圧に保持し、クラッチ2A,2Bの他方のクラッチ圧を離隔圧として遮断状態に制御される。そして、本サブルーチンを終了(リターン)して、図3の制御フローへ戻る。
【0095】
また、ステップS150では、バッテリ10のSOCが第2所定充電量SOC2よりも大きいか否かを判定する。バッテリ10のSOCが第2所定充電量SOC2よりも大きければステップS160へ移行し、バッテリ10のSOCが第2所定充電量SOC2以下であればステップS170へ移行する。
ステップS160では、走行モード選択部56によりエンジン・モータ併用走行モードが選択され、エンジン1及びモータ3による併用走行が実施される。また、本ステップS160では、S140と同様、出力トルク設定部57によりモータ3の出力トルクとエンジン1の出力トルクとの合計出力トルクが運転者による要求出力トルクTdとなるように設定される。そして、本サブルーチンを終了(リターン)して、図3の制御フローへ戻る。
【0096】
また、ステップS170では、走行モード選択部56によりエンジン単体走行モードが選択され、エンジン1による単体走行が実施される。また、本ステップS170では、出力トルク設定部57によりモータ3の出力トルクがゼロに設定され、エンジン1の出力トルクが運転者による要求出力トルクTdとなるように設定される。そして、本サブルーチンを終了(リターン)して、図3の制御フローへ戻る。
【0097】
したがって、プリチャージ禁止部55は、特定制御時に、変速機4が非走行レンジから走行レンジに切替えられると、即ち運転者により非走行レンジから走行レンジへの切替操作がされると、予め設定された所定時間だけプリチャージ制御を禁止するため、クラッチ圧を十分に低下させる時間を確保することができ、クラッチ制御部51によるプリチャージ制御開始時のクラッチ圧Pを適切に低下させることができる。プリチャージ開始時のクラッチ圧Pは十分に低下されているため、クラッチ圧Pを検出することなくクラッチ圧Pを適切にプリチャージ圧P1にすることができ、プリチャージ中のクラッチプレートの係合を招いてしまうことがない。これにより、変速段の設定時のショックを招いてしまうおそれを解消することができる。
【0098】
モータ制御部52は、変速機4において発進用の変速段の設定完了後、モータ3を作動させてモータ単体走行を実施するため、クラッチ圧Pを十分に低下させる時間(第1所定時間)やプリチャージの完了を待つことなく車両を速やかに発進させることができる。
これらより、非走行レンジから走行レンジへの切替があった場合に、車両を速やかに発進させるとともに、変速段の設定時のショックを解消することができる。
【0099】
第1変速機構4Aはエンジン1と第1クラッチ2Bを介して接続され且つモータ3が設けられた第1入力軸40Aを備え、第2変速機構4Bはエンジン1と第2クラッチ2Bを介して接続された第2入力軸40Bを備えるように構成されるため、いわゆるDCTが装備されたハイブリッド車両において、非走行レンジから走行レンジへの切替があった場合に、車両を速やかに発進させるとともに、プリチャージ中のクラッチプレートの係合を招いてしまうことがないため、変速段の設定時のショックを解消することができる。
【0100】
プリチャージの完了前には、要求トルクTdがモータ3の最大出力トルクTmよりも大きい場合であっても、モータ3の最大出力トルクTmでモータ3による単体走行が実施されるように構成されるため、エンジン1の出力トルクを用いることがなく、クラッチ2A,2Bの接続を待つことなく車両を速やかに発進させることができる。また、車両の発進時において、モータ3の最大出力トルクTmよりも大きい出力トルクが要求される場合には、例えばアクセルペダルを急激に踏込む等の要求トルクが急増している場合が多く、このような要求トルクの急増に対して出力トルク設定部57は、要求トルクの変化を鈍化させるなまし処理を行なうことがある。つまり、要求トルクが急増するタイミングに遅延して駆動輪に伝達される出力トルクTdを増加させる処理が行なわれる。なまし処理された要求トルクTdは、第1所定時間が経過するまではモータ3の最大出力トルクTm以下であり、第1所定時間の経過後にモータ3の最大出力トルクTmよりも大きくなる場合が多いため、車両の発進時の出力トルク不足による違和感を抑制又は防止することができる。
【0101】
プリチャージの完了後には、要求トルクTdに応じた出力トルクでエンジン1又はモータ3による車両の走行が実施されるように構成されるため、車両走行時の出力トルク不足による違和感を防止することができる。
変速機4が非走行レンジに設定されてエンジン1の出力が車両の走行に用いられない状態で、クラッチ2A,2Bの少なくとも何れかを接続し、停車発電制御と、SOCバランス制御と、PTO制御との少なくとも何れかを行なっていても、非走行レンジから走行レンジへの切替があった場合に、車両を速やかに発進させるとともに、プリチャージ中のクラッチプレートの係合を招いてしまうことがないため、変速段の設定時のショックを解消することができる。
【0102】
プリチャージの完了後に、バッテリ10のSOCが第1所定充電量よりも低い場合に、クラッチ制御部51によりクラッチ2A,2Bの何れか一方を接続制御するとともに、走行モード選択部56によりエンジン単体走行モード又はエンジン・モータ併用走行モードを選択するように構成されるため、バッテリ10のSOCに応じて適切な駆動源を選択することにより、過度な放電を防止してバッテリ10のSOCを適切にすることができる。
【0103】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
上述の実施形態では、いわゆるDCTが装備される車両を示したが、これに限らず第2構成要素(第2クラッチ2B及び第2変速機構4B)を備えず、単数のクラッチを備えるハイブリッド車両に本発明の制御装置を適用してもよい。
【0104】
また、第1変速機構4Aに偶数段の変速段のギヤ対を装備し、第2変速機構4Bに奇数段の変速段のギヤ対を装備するものを示したが、これに限らず、これらの変速機構のそれぞれに、重複しない変速段又はPTO装置用のギヤ対を任意に装備するように構成してもよい。
また、クラッチ制御部51は、離隔制御及びプリチャージ制御を、アクチュエータ6の油圧室に油圧を供給する時間を切替えることで実現するものを示したが、これに限らず、クラッチ圧センサをさらに備え、このクラッチ圧センサにより検出されるクラッチ圧が離隔圧及びプリチャージ圧となるようにクラッチを制御してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のハイブリッド車両の制御装置は、トラック又はバスといった大型又は中型の自動車のみならず乗用車等の小型自動車にも適用することができる。
【符号の説明】
【0106】
1 エンジン
1A 出力軸
2 クラッチ
2A 第1クラッチ
2B 第2クラッチ
3 モータ
4 変速機
4A 第1変速機構
4B 第2変速機構
5 動力伝達部材
6 アクチュエータ
6A 第1アクチュエータ
6B 第2アクチュエータ
9 駆動輪
10 バッテリ
11 バッテリECU(バッテリ状態検出手段)
20 インバータ
21 インバータECU
30 シフト部
31 アクセルポジションセンサ(要求トルク検出手段)
32 クランク角センサ
50 車両ECU
51 クラッチ制御部(クラッチ制御手段)
52 モータ制御部(モータ制御手段)
53 変速制御部(変速制御手段)
54 特定制御部(特定制御手段)
55 プリチャージ禁止部(プリチャージ禁止手段)
56 走行モード選択部(走行モード選択手段)
57 出力トルク設定部(出力トルク設定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
モータと、
前記エンジンと前記モータとの間に介装され、液圧が供給されて接続するクラッチと、
前記モータが設けられた入力軸をそなえ、前記エンジン及び前記モータの少なくとも何れかの出力回転を変速して駆動輪に伝達する走行レンジと、該出力回転を該駆動輪に伝達しない非走行レンジとを有する変速機と、
前記クラッチの作動を制御し、前記クラッチを遮断状態から接続する際に、前記クラッチへの液圧をプリチャージするプリチャージ制御を実施するクラッチ制御手段と、
前記モータの作動を制御するモータ制御手段と、
前記変速機を前記走行レンジ又は前記非走行レンジに切替制御する変速制御手段と、
を有するハイブリッド車両の制御装置であって、
前記変速機が前記非走行レンジに設定されて前記エンジンの出力が前記車両の走行に用いられない状態で、制御指令に応じて前記クラッチを接続して前記エンジンの出力回転を用いた特定制御を実施する特定制御手段と、
前記特定制御時に、前記変速機が前記非走行レンジから前記走行レンジに切替えられる前記車両の発進操作があると、予め設定された所定時間だけ前記プリチャージ制御を禁止するプリチャージ禁止手段とを備え、
前記モータ制御手段は、発進用の前記走行レンジの設定完了後、前記モータを作動させてモータ単体走行を実施する
ことを特徴とする、ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記クラッチは、第1クラッチと第2クラッチとを有し、
前記変速機は、第1変速機構と第2変速機構とを有し、
前記第1変速機構は、前記エンジンと前記第1クラッチを介して接続され且つ前記モータが設けられた第1入力軸を備え、
前記第2変速機構は、前記エンジンと前記第2クラッチを介して接続された第2入力軸を備えている
ことを特徴とする、請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
ドライバの要求トルクを検出する要求トルク検出手段と、
前記要求トルク検出手段により検出された要求トルクに応じて前記エンジン及び前記モータの出力トルクを設定する出力トルク設定手段とを備え、
前記出力トルク設定手段は、
前記プリチャージの完了前には、前記エンジンの出力トルクをアイドリング状態を維持するアイドリングトルクに設定し、前記要求トルク検出手段により検出された要求トルクが前記モータの最大出力トルク以下の場合には、前記モータの出力トルクを前記要求トルク検出手段により検出された要求トルクに設定し、前記要求トルク検出手段により検出された要求トルクが前記モータの最大出力トルクよりも大きい場合には、前記モータの出力トルクを前記モータの最大出力トルクに設定し、
前記プリチャージの完了後には、前記エンジンの出力トルクと前記モータの出力トルクとの合計出力トルクを前記要求トルク検出手段により検出された要求トルクに設定し、
前記クラッチ制御手段は、前記出力トルク設定手段により前記エンジンの出力トルクが前記アイドリングトルクに設定されると、前記クラッチを遮断し、
前記モータ制御手段は、前記モータの出力トルクを前記出力トルク設定手段により設定された出力トルクに制御する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記モータを電動機として作動させると放電され、前記モータを発電機として作動させると充電されるバッテリを備え、
前記特定制御は、
前記車両の停車時に、前記エンジンの出力回転を用いて前記モータを発電機として作動させて前記バッテリを充電する停車発電制御と、
前記モータを発電機又は電動機として作動させて前記バッテリの充電状態を一定に維持するSOCバランス制御と、
前記エンジンの出力回転を用いて前記車両の架装物を作動させるPTO制御との少なくとも何れかである
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記バッテリの充電状態を検出するバッテリ状態検出手段と、
前記バッテリ状態検出手段により検出された前記バッテリの充電状態に基づき、前記車両の走行モードとして、エンジン単体走行モードと、エンジン・モータ併用走行モードと、モータ単体走行モードとの何れかを選択する走行モード選択手段とを備え、
前記プリチャージの完了後に、前記バッテリ状態検出手段により検出された前記バッテリの充電状態が所定充電状態よりも低い場合に、前記クラッチ制御手段により前記クラッチを接続状態にするとともに、前記走行モード選択手段によりエンジン単体走行モード又はエンジン・モータ併用走行モードを選択する
ことを特徴とする、請求項4記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−52807(P2013−52807A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193081(P2011−193081)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】