説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】変速時に変速機がニュートラル状態になったか否か迅速に判定することが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】シンクロ機構が設けられたマニュアル式の変速機10を備え、変速機10の入力軸11にエンジンクラッチ30を介して内燃機関2が、MGクラッチ31を介してMG3がそれぞれ接続されたハイブリッド車両に適用される制御装置において、MGクラッチ31が入力軸係合状態のときにエンジンクラッチ30が解放状態に切り替えられた場合に、入力軸11にトルクが印加されるようにMG3を制御し、トルクが印加されているときの入力軸11の回転数に基づいて変速機10がニュートラル状態に切り替わったか否か判定し、変速機10がニュートラル状態に切り替わったと判定した場合にMGクラッチ31を電動機解放状態に切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マニュアル式の変速機と、その変速機の入力軸にクラッチを介して接続された電動機とを備えたハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行用動力源として内燃機関及び電動機が搭載されたハイブリッド車両が知られている。また、マニュアル式の変速機が搭載され、内燃機関及び電動機の回転を変速機で変速して駆動輪に伝達するハイブリッド車両も知られている。このような変速機が搭載されたハイブリッド車両に適用される変速制御装置として、運転者が変速機の変速操作をしたときに変速機の入力軸の回転数と変速機の出力軸の回転数とを電動機で同期させ、これにより変速機に設けられているシンクロ機構の負荷を軽減する装置が知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2、3が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−335152号公報
【特許文献2】特開2008−074197号公報
【特許文献3】特開2007−261491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
変速機に設けられているシンクロ機構の負荷を軽減する方法としては、電動機と変速機との間にクラッチを設け、変速時にはこのクラッチを解放する方法が考えられる。しかしながら、変速機の入力軸と出力軸とが動力伝達可能な状態のときにこのクラッチを解放すると入力軸の慣性が急に変化するため、車速等に影響を与える可能性がある。そのため、このクラッチを解放するタイミングとしては、変速機が入力軸と出力軸との間の動力伝達が遮断されたニュートラル状態になったときが適切と考えられる。この場合、クラッチを解放する前に変速機がニュートラル状態になったか否か判定する必要がある。判定方法としては車速と入力軸の回転数とを比較して判定する方法が考えられるが、この判定方法では判定に時間がかかる。
【0005】
そこで、本発明は、変速時に変速機がニュートラル状態になったか否か迅速に判定することが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド車両の制御装置は、互いに大きさが異なる変速比が設定された複数のギア段を有し、シフトレバーの操作にてギア段が切り替えられるマニュアル式の変速機と、前記変速機の入力軸と第1クラッチ手段を介して接続された内燃機関と、前記入力軸と第2クラッチ手段を介して接続された電動機と、前記変速機の出力軸と動力伝達可能に接続された駆動輪と、を備え、前記第1クラッチ手段は、クラッチペダルにて操作されることにより前記内燃機関と前記入力軸との間の動力伝達を許容する係合状態とその動力伝達を阻止する解放状態とに切り替えられ、前記変速機には、ギア段の切替時に切替後に使用されるギアとそのギアが設けられた軸とを摩擦力を利用して同期させるシンクロ機構が設けられているハイブリッド車両に適用される制御装置において、前記第2クラッチ手段が前記電動機と前記入力軸とを動力伝達可能に接続する入力軸係合状態のときに前記第1クラッチ手段が前記係合状態から前記解放状態に切り替えられた場合に、前記入力軸に前記電動機からトルクが印加されるように前記電動機を制御するトルク印加手段と、前記トルク印加手段によりトルクが印加されているときの前記入力軸の回転数に基づいて前記変速機が前記入力軸と前記出力軸との間の動力伝達が遮断されたニュートラル状態に切り替わったか否か判定するニュートラル判定手段と、前記ニュートラル判定手段により前記変速機が前記ニュートラル状態に切り替わったと判定された場合に前記第2クラッチを前記入力軸から前記電動機が切り離される電動機解放状態に切り替える制御手段と、を備えた(請求項1)。
【0007】
入力軸と出力軸とが動力伝達可能に接続されている場合、電動機から入力軸にトルクを印加しても入力軸の回転数は殆ど変化しない。一方、変速機がニュートラル状態になった場合には入力軸にトルクを印加すれば入力軸の回転数は大きく変化する。このように変速機がニュートラル状態か否かでトルク印加時の入力軸の回転数の変化は異なる。本発明の制御装置によれば、運転者が変速操作を行った場合に電動機から入力軸にトルクを印加するので、そのトルク印加時の入力軸の回転数の変化で変速機がニュートラル状態か否か判定できる。また、入力軸にトルクを印加して入力軸の回転数を積極的に変化させるので、変速機がニュートラル状態か否か迅速に判定できる。また、これにより電動機が入力軸と接続されたまま変速機が変速後のギア段に切り替えられることを防止できる。そのため、変速機のシンクロ機構の負荷を軽減できる。
【0008】
本発明の制御装置の一形態において、前記ニュートラル判定手段は、前記トルク印加手段によりトルクが印加されているときの前記入力軸の回転数が予め設定した所定の回転数範囲外になった場合に前記変速機が前記ニュートラル状態に切り替わったと判定してもよい(請求項2)。上述したように入力軸と出力軸とが動力伝達可能に接続されている場合には入力軸にトルクを印加しても入力軸の回転数が殆ど変化しない。そのため、トルクを印加しているときの入力軸の回転数が所定の回転数範囲外になったか否かに基づいて変速機がニュートラル状態に切り替わったか否か判定できる。
【0009】
この形態においては、前記第1クラッチ手段が前記解放状態に切り替えられる直前の前記変速機のギア段に基づいて前記入力軸の回転数を推定する入力軸回転数推定手段をさらに備え、前記回転数範囲は、前記入力軸回転数推定手段により推定された回転数に基づいて設定されてもよい(請求項3)。変速時に変速機がニュートラル状態になるまでは入力軸と出力軸とが変速前のギア段を介して動力伝達可能に接続されている。そのため、入力軸はその変速前のギア段の変速比に応じた回転数で回転する。従って、入力軸にトルクを印加したときの入力軸の回転数がこの変速前のギア段の変速比に応じた回転数に対して大きく変化した場合に、変速機がニュートラル状態になったと判定できる。この形態では、変速前のギア段に基づいて入力軸の回転数を推定し、その推定した回転数に基づいて回転数範囲を設定するので、回転数範囲を適切に設定できる。
【0010】
本発明の制御装置の一形態において、前記ニュートラル判定手段は、前記トルク印加手段によりトルクが印加されているときの前記入力軸の回転数の時間微分値が所定の判定値以上の場合に前記変速機が前記ニュートラル状態に切り替わったと判定してもよい(請求項4)。上述したように入力軸と出力軸とが動力伝達可能に接続されている場合には入力軸にトルクを印加しても入力軸の回転数が殆ど変化しない。すなわち、このような場合には単位時間当たりの入力軸の回転数の変化量、すなわち入力軸の回転数の時間微分値が小さい。一方、変速機がニュートラル状態に切り替わった場合にはトルクを印加すると入力軸の回転数が大きく変化する。この場合、入力軸の回転数の時間微分値が大きくなる。従って、入力軸の回転数の時間微分値に基づいて変速機がニュートラル状態になったか否か判定できる。
【発明の効果】
【0011】
以上に説明したように、本発明の制御装置によれば、変速時に入力軸にトルクを印加して入力軸の回転数を積極的に変化させるので、変速機がニュートラル状態か否か迅速に判定できる。これにより電動機が入力軸と接続されたまま変速機が変速後のギア段に切り替えられることを防止できるので、変速機のシンクロ機構の負荷を軽減できる
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一形態に係る制御装置が組み込まれた車両を模式的に示す図。
【図2】変速機のシフトレバーのシフトパターンを示す図。
【図3】制御装置が実行するMG接続制御ルーチンを示すフローチャート。
【図4】変速機が5速から4速に変速されたときのMGクラッチの状態、MGのトルク、及び実入力軸回転数のそれぞれの時間変化の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一形態に係る制御装置が組み込まれた車両を模式的に示している。この車両1は、走行用動力源として内燃機関(以下、エンジンと称することがある。)2及び電動機としてのモータ・ジェネレータ(以下、MGと略称することがある。)3を備えている。すなわち、この車両1はハイブリッド車両として構成されている。エンジン2は、4つの気筒を有する周知の火花点火式内燃機関である。エンジン2には、エンジン2を始動するためのスタータ2aが設けられている。MG3は、ハイブリッド車両に搭載されて電動機及び発電機として機能する周知のものである。MG3は、バッテリ4と電気的に接続されている。車両1には1速〜5速のギア段を有する変速機10が搭載され、エンジン2及びMG3は変速機10と接続されている。また、変速機10には、車両1の駆動輪5に動力を出力するための出力部6も接続されている。出力部6は、出力ギア7と、駆動輪5に連結されたデファレンシャル機構8とを備えている。出力ギア7は、変速機10の出力軸12に一体回転するように取り付けられている。また、出力ギア7は、デファレンシャル機構8のケースに設けられたリングギア8aと噛み合っている。デファレンシャル機構8は、伝達された動力を左右の駆動輪5に分配する周知のものである。
【0014】
変速機10は、入力軸11と、出力軸12とを備えている。入力軸11と出力軸12との間には、第1〜第5変速ギア対G1〜G5及び後進ギア群GRが設けられている。第1変速ギア対G1は互いに噛み合う第1ドライブギア13及び第1ドリブンギア14にて構成され、第2変速ギア対G2は互いに噛み合う第2ドライブギア15及び第2ドリブンギア16にて構成されている。第3変速ギア対G3は互いに噛み合う第3ドライブギア17及び第3ドリブンギア18にて構成され、第4変速ギア対G4は互いに噛み合う第4ドライブギア19及び第4ドリブンギア20にて構成されている。第5変速ギア対G5は互いに噛み合う第5ドライブギア21及び第5ドリブンギア22にて構成されている。第1〜第5変速ギア対G1〜G5は、ドライブギアとドリブンギアとが常時噛み合うように設けられている。各変速ギア対G1〜G5には互いに異なる変速比が設定されている。変速比は、第1変速ギア対G1、第2変速ギア対G2、第3変速ギア対G3、第4変速ギア対G4、第5変速ギア対G5の順に小さくなるように設定されている。後進ギア群GRは、後進ドライブギア23、中間ギア24、及び後進ドリブンギア25にて構成されている。
【0015】
第1〜第5ドライブギア13、15、17、19、21は、入力軸11に対して相対回転可能なように入力軸11に支持されている。後進ドライブギア23は、入力軸11と一体に回転するように入力軸11に固定されている。この図に示したようにこれらのギアは、後進ドライブギア23、第1ドライブギア13、第2ドライブギア15、第3ドライブギア17、第4ドライブギア19、第5ドライブギア21の順番で軸線方向に並ぶように配置されている。第1〜第5ドリブンギア14、16、18、20、22及び後進ドリブンギア25は、出力軸12と一体に回転するように出力軸12に固定されている。
【0016】
入力軸11には第1〜第4スリーブ26〜29が設けられている。第1〜第3スリーブ26〜28は、入力軸11と一体に回転し、かつ軸線方向に移動可能なように入力軸11に支持されている。第4スリーブ29は、入力軸11に対して相対回転可能かつ軸線方向に移動可能なように入力軸11に支持されている。第1スリーブ26及び第4スリーブ29は、第1ドライブギア13と後進ドライブギア23との間に設けられている。第2スリーブ27は、第2ドライブギア15と第3ドライブギア17との間に設けられている。第3スリーブ28は、第4ドライブギア19と第5ドライブギア21との間に設けられている。
【0017】
第1スリーブ26は、入力軸11と第1ドライブギア13とが一体に回転するように第1ドライブギア13と噛み合う1速位置と、その噛み合いが解除される解放位置とに切り替え可能に設けられている。第2スリーブ27は、入力軸11と第2ドライブギア15とが一体に回転するように第2ドライブギア15と噛み合う2速位置と、入力軸11と第3ドライブギア17とが一体に回転するように第3ドライブギア17と噛み合う3速位置と、第2ドライブギア15及び第3ドライブギア17のいずれとも噛み合わない解放位置とに切り替え可能に設けられている。第3スリーブ28は、入力軸11と第4ドライブギア19とが一体に回転するように第4ドライブギア19と噛み合う4速位置と、入力軸11と第5ドライブギア21とが一体に回転するように第5ドライブギア21と噛み合う5速位置と、第4ドライブギア19及び第5ドライブギア21のいずれとも噛み合わない解放位置とに切り替え可能に設けられている。なお、図示は省略したが入力軸11には、第1〜第3スリーブ26〜28と第1〜第5ドライブギア13、15、17、19、21とを噛み合わせる際にこれらの回転を同期させる複数のシンクロ機構が設けられている。これらシンクロ機構には、摩擦係合により回転を同期させるシンクロ機構、例えば周知のキー式シンクロメッシュ機構を用いればよい。そのため、シンクロ機構の詳細な説明は省略する。
【0018】
第4スリーブ29は、中間ギア24を回転可能に支持している。中間ギア24は、第4スリーブ29とともに軸線方向に移動する。第4スリーブ29は、中間ギア24が後進ドライブギア23及び後進ドリブンギア25のそれぞれと噛み合うリバース位置と、中間ギア24と各ギア23、25との噛み合いが解除される解放位置とに切り替え可能に設けられている。
【0019】
この図に示すように入力軸11には、第1クラッチ手段としてのエンジンクラッチ30を介してエンジン2が接続されている。エンジンクラッチ30は、エンジン2と入力軸11との間で動力が伝達される係合状態と、その動力伝達が遮断される解放状態とに切り替え可能な周知のものである。エンジンクラッチ30はクラッチペダル9にて操作される。エンジンクラッチ30は、クラッチペダル9が踏まれた場合に解放状態に切り替わり、その踏み込みが解除されると係合状態に切り替わる。
【0020】
MG3のロータ軸3aには、第2クラッチ手段としてのMGクラッチ31と、中間部材32とが設けられている。中間部材32は、ロータ軸3aに相対回転可能に支持されている。中間部材32と出力軸12との間には、常時噛み合い式のギア対33が設けられている。ギア対33は、出力軸12に固定された第1ギア34と、中間部材32に固定されて第1ギア34と噛み合う第2ギア35とを備えている。MGクラッチ31は、ロータ軸3aと入力軸11とが一体に回転するようにこれらを係合する入力軸係合状態と、ロータ軸3aと中間部材32とが一体に回転するようにこれらを係合する出力軸係合状態と、ロータ軸3aが入力軸11及び出力軸12のいずれとも係合しない電動機解放状態とに切り替え可能に構成されている。MGクラッチ31としては、例えばロータ軸3aに一体回転するスリーブを設け、そのスリーブの位置を切り替えて係合先を切り替える周知のクラッチを使用すればよい。
【0021】
変速機10の各スリーブ26〜29は、運転者が操作するシフトレバー36と接続されている。図2は、シフトレバー36のシフトパターン37を示している。シフトパターン37は、この図の左右方向に延びるセレクト経路38と、そのセレクト経路38から図の上下方向に延びる7つのシフト経路39とを備えている。シフトレバー36は、これらセレクト経路38及び各シフト経路39を移動可能に設けられている。この図に示すように7つのシフト経路39には、1速〜5速、後進R、及びEV走行EVが設定されている。なお、1速〜5速については周知のシフトパターンと同様に数字のみを示す。セレクト経路38には、ニュートラルNが設定されている。
【0022】
このシフトパターン37において、シフトレバー36が1速に操作された場合、第1スリーブ26が1速位置に、第2〜第4スリーブ27〜29がそれぞれ解放位置に切り替わる。シフトレバー36が2速に操作された場合、第2スリーブ27が2速位置に、第1、第3、第4スリーブ26、28、29がそれぞれ解放位置に切り替わる。シフトレバー36が3速に操作された場合、第2スリーブ27が3速位置に、第1、第3、第4スリーブ26、28、29がそれぞれ解放位置に切り替わる。シフトレバー36が4速に操作された場合、第3スリーブ28が4速位置に、第1、第2、第4スリーブ26、27、29がそれぞれ解放位置に切り替わる。シフトレバー36が5速に操作された場合、第3スリーブ28が5速位置に、第1、第2、第4スリーブ26、27、29がそれぞれ解放位置に切り替わる。シフトレバー36が後進Rに操作された場合、第4スリーブ29がリバース位置に、第1〜第3スリーブ26〜28がそれぞれ解放位置に切り替わる。シフトレバー36がEV走行EV又はニュートラルNに操作された場合、第1〜第4スリーブ26〜29が解放位置に切り替わる。この場合、入力軸11と出力軸12との間の動力伝達が遮断される。以降、この状態をニュートラル状態と称する。このようにシフトレバー36と各スリーブ26〜29とは連動するように接続されている。そのため、変速機10は運転者がシフトレバー36を操作して変速を行う、いわゆるマニュアル式の変速機として構成されている。
【0023】
この車両1では、エンジン2、MG3、及びMGクラッチ31の動作を制御することにより複数の走行モードが実現される。複数の走行モードとしては、エンジン2の動力で走行する内燃機関走行モード、エンジン2及びMG3の両方の動力で走行するHV走行モード、MG3の動力のみで走行するEV走行モードが設定されている。内燃機関走行モード及びHV走行モードは、シフトレバー36が1速〜5速又は後進Rに操作された場合に実行される。なお、内燃機関走行モードとHV走行モードの切り替えは、車両1に要求される速度やトルク等に応じて適宜に行われる。EV走行モードは、シフトレバー36がEV走行EVの位置に操作された場合に実行される。
【0024】
内燃機関走行モードでは、エンジン2が運転状態に切り替えられ、MGクラッチ31が電動機解放状態に切り替えられる。そして、変速機10が運転者によって1速〜5速又は後進Rに適宜に切り替えられる。HV走行モードでは、内燃機関走行モードの状態からMGクラッチ31が入力軸係合状態又は出力軸係合状態に切り替えられる。そして、MG3を電動機として機能させる。EV走行モードでは、シフトレバー36がEV走行EVに操作されるため上述したように第1〜第4スリーブ26〜29が解放位置に切り替えられる。また、エンジン2を停止させる。MGクラッチ31は出力軸係合状態に切り替えられ、MG3を電動機として機能させる。
【0025】
エンジン2、MG3、及びMGクラッチ31の動作は、制御装置50にて制御される。制御装置50は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータユニットとして構成されている。制御装置50は、車両1を適切に走行させるための各種制御プログラムを保持している。制御装置50は、これらのプログラムを実行することによりエンジン2、MG3等の制御対象に対する制御を行っている。制御装置50には、車両1に係る情報を取得するための種々のセンサが接続されている。例えば、クラッチペダル9が踏み込まれているときに信号を出力するクラッチペダルセンサ51、車両1の速度に対応した信号を出力する車速センサ52、及び入力軸11の回転数に対応した信号を出力する入力軸回転数センサ53等が接続されている。この他にも制御装置50には種々のセンサが接続されているが、それらの図示は省略した。
【0026】
変速機10のギア段の切替時に入力軸11にMG3が接続されていると、入力軸11の慣性質量が大きくなるためシンクロ機構の負荷が増加する。そこで、制御装置50は、運転者によって変速機10のギア段が切り替えられているときに入力軸11からMG3が切り離されるようにMGクラッチ31を制御する。図3は、制御装置50がMGクラッチ31をこのように制御するために実行するMG接続制御ルーチンを示している。この制御ルーチンは、車両1の走行中に所定の周期で繰り返し実行される。また、この制御ルーチンは、制御装置50が実行する他のルーチンと並行に実行される。
【0027】
この制御ルーチンにおいて制御装置50は、まずステップS11で車両1の走行状態を取得する。走行状態としては、例えば車両1の速度(車速)、入力軸11の回転数、及び現在選択されているギア段等が取得される。次のステップS12において制御装置50はMGクラッチ31が入力軸係合状態か否か判定する。MGクラッチ31が出力軸係合状態又は電動機解放状態と判定した場合には、今回の制御ルーチンを終了する。
【0028】
一方、MGクラッチ31が入力軸係合状態と判定した場合にはステップS13に進み、制御装置50はエンジンクラッチ30が解放状態か否か判定する。この判定はクラッチペダルセンサ51の出力信号に基づいて行えばよい。エンジンクラッチ30が係合状態と判定した場合には、今回の制御ルーチンを終了する。
【0029】
一方、エンジンクラッチ30が解放状態と判定した場合にはステップS14に進み、制御装置50は推定入力軸回転数Nin_eを算出する。この処理では、変速前のギア段に対応する変速ギア対にて入力軸11と出力軸12とが動力伝達可能に接続されていると仮定し、この状態で出力軸12にて入力軸11が回転駆動された場合の入力軸11の回転数を推定入力軸回転数Nin_eとして算出する。上述したように出力軸12と駆動輪5とは動力伝達可能に接続されているため、出力軸12の回転数は車速と相関している。そのため、推定入力軸回転数Nin_eは車速及びギア段の変速比に基づいて算出される。
【0030】
続くステップS15において制御装置50は、MG3から入力軸11に微小トルクを印加する微小トルク印加制御を実行する。なお、微小トルクとしては、例えば運転者が入力軸11から変速前のギア段のドライブギアを切り離すシフト操作、いわゆるギア抜けシフト操作をする際に運転者が違和感を感じない程度のトルクが設定される。また、この微小トルクの回転方向には、入力軸11がエンジン2にて回転駆動される際の回転方向が設定される。
【0031】
次のステップS16において制御装置50は、変速機10がニュートラル状態になったか否か判定する。入力軸11と変速前のギア段のドライブギアとが動力伝達可能に接続されている場合は、入力軸11が出力軸12によって回転駆動される。そのため、入力軸11に微小トルクを印加しても実際の入力軸11の回転数(以降、実入力軸回転数と称する。)Ninは推定入力軸回転数Nin_eに対して殆ど変化しない。一方、変速機10がニュートラル状態になっている場合には入力軸11と出力軸12との間の動力伝達が遮断されているので、実入力軸回転数Ninは推定入力軸回転数Nin_eに対して大きく変化する。そのため、例えば実入力軸回転数Ninが推定入力軸回転数Nin_e−C1を下限値とし、推定入力軸回転数Nin_e+C1を上限値とした回転数範囲から所定の判定時間T1以上の間外れた場合に変速機10がニュートラル状態になったと判定できる。すなわち、以下に示す式(1)が判定時間T1の間満たされなかった場合にニュートラル状態になったと判定すればよい。
【0032】
Nin_e−C1≦Nin≦Nie_e+C1 ・・・(1)
【0033】
なお、判定閾値C1は、例えば入力軸11に印加する微小トルクの大きさ等に応じて適宜に設定すればよい。また、判定時間T1は、実入力軸回転数Ninが瞬間的にこの回転数範囲外になったときにニュートラル状態になったと誤判定しないように適宜に設定すればよい。
【0034】
変速機10がニュートラル状態ではないと判定した場合にはステップS15に戻り、制御装置50は変速機10がニュートラル状態になるまでステップS15、S16を繰り返し実行する。一方、変速機10がニュートラル状態と判定した場合にはステップS17に進み、制御装置50はMG3から入力軸11への微小トルクの印加を停止する。次のステップS18において制御装置50は、MGクラッチ31を電動機解放状態に切り替える。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0035】
図4は、車両1において変速機10が5速から4速に変速されたときのMGクラッチ31の状態、MG3のトルク、及び実入力軸回転数Ninのそれぞれの時間変化の一例を示している。また、この図には、エンジンクラッチ30の状態、変速機10の状態、及びMG3の回転数Nmgのそれぞれの時間変化の一例も示した。なお、この図中のNin_4thは変速機10が4速のときの入力軸11の回転数を示し、Nin_5thは変速機10が5速のときの入力軸11の回転数を示している。そして、この図では5速から4速に変速されるので、推定入力軸回転数Nin_eには、Nin_5thが設定される。
【0036】
この図では時刻t1においてエンジンクラッチ30が解放状態に切り替えられている。その後、時刻t2において図3のステップS15が実行され、入力軸11に微小トルクが印加されている。しかしながら、この時刻t2ではまだ変速機10が5速の状態にあるため、実入力軸回転数Ninは推定入力軸回転数Nin_5thに対して殆ど変化しない。その後、時刻t3において変速機10がニュートラル状態になると実入力軸回転数Ninが推定入力軸回転数Nin_5thに対して大きく変化する。そのため、図3のステップS16が肯定判定され、時刻t4において入力軸11への微小トルクの印加が停止される。続いて時刻t5では、MGクラッチ31が電動機解放状態に切り替えられる。そして、MG3が停止される。なお、この図において時刻t5まではMGクラッチ31が入力軸係合状態であるため、MG3の回転数Nmgは実入力軸回転数Ninと同じ値となる。その後、時刻t6において変速機10が4速に切り替えられ、時刻t7においてクラッチペダル9の踏み込みが解除されてエンジンクラッチ30が解放状態から係合状態に切り替わり始める。
【0037】
以上説明したように本発明によれば、運転者が変速機10の変速操作を行ったときに入力軸11に微小トルクを印加し、入力軸11の回転数を積極的に変化させるので、変速機10がニュートラル状態になったか否か迅速に判定することができる。また、これによりMGクラッチ31を迅速に電動機解放状態に切り替えることができる。そのため、MGクラッチ31が入力軸係合状態のまま変速機10が変速後のギア段に切り替えられることを防止できる。そのため、変速機10のシンクロ機構の負荷を軽減できる。
【0038】
なお、図3のステップS12〜S15を実行することにより制御装置50が本発明のトルク印加手段として機能し、図3のステップS16を実行することにより制御装置50が本発明のニュートラル判定手段として機能する。また、図3のステップS18を実行することにより制御装置50が本発明の制御手段として機能し、図3のステップS14を実行することにより制御装置50が本発明の入力軸回転数推定手段として機能する。
【0039】
なお、図3のステップS16で変速機10がニュートラル状態か否か判定する方法は、上述した判定方法に限定されない。例えば、判定に使用する回転数範囲を設定する方法は、推定入力軸回転数Nin_eを用いた方法に限定されない。車速及びギア段と判定に使用する回転数範囲との関係を予め実験や数値計算等で求めて制御装置50のROMにマップとして記憶させておき、そのマップを参照して回転数範囲を設定してもよい。
【0040】
また、図4に示したように入力軸11と変速前のギア段のドライブギアとが動力伝達可能に接続されている場合は入力軸11に微小トルクを印加しても実入力軸回転数Ninは殆ど変化しない。これに対して変速機10がニュートラル状態の場合には微小トルクを印加すると実入力軸回転数Ninが大きく変化する。そのため、単位時間当たりの実入力軸回転数Ninの変化量、すなわち実入力軸回転数Ninの時間微分値に基づいて変速機10がニュートラル状態か否か判定することもできる。具体的には、入力軸11に微小トルクを印加しているときの実入力軸回転数Ninの時間微分値が所定の判定時間T2以上の間予め設定した判定閾値C2以上になった場合に変速機10がニュートラル状態になったと判定できる。なお、判定閾値C2は、例えば微小トルクの大きさに基づいて適宜に設定すればよい。また、判定時間T2は誤判定が生じないように適宜に設定すればよい。このように実入力軸回転数Ninの時間微分値に基づいて判定する場合には推定入力軸回転数Nin_eを使用しないので、図3のステップS14を省略してもよい。
【0041】
本発明は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、本発明が適用される変速機は最高段が5速の変速機に限定されない。本発明は例えば4速又は6速等の5速以外のギア段が最高段の変速機に適用してもよい。また、本発明が適用される変速機は、複数のスリーブが全て入力軸に設けられた変速機に限定されない。例えば、複数のスリーブの一部が入力軸に設けられ、残りのスリーブが出力軸に設けられた変速機、及び複数のスリーブが全て出力軸に設けられた変速機に本発明を適用してもよい。
【0042】
本発明が適用される変速機のシンクロ機構は、キー式シンクロメッシュ機構に限定されない。本発明に設けられる変速機には、変速時に摩擦力を利用して回転軸とギアとの同期を行う種々のシンクロ機構を設けてよい。
【符号の説明】
【0043】
1 車両
2 内燃機関
3 モータ・ジェネレータ(電動機)
5 駆動輪
9 クラッチペダル
10 変速機
11 入力軸
30 エンジンクラッチ(第1クラッチ手段)
31 MGクラッチ(第2クラッチ手段)
36 シフトレバー
50 制御装置(トルク印加手段、ニュートラル判定手段、制御手段、入力軸回転数推定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに大きさが異なる変速比が設定された複数のギア段を有し、シフトレバーの操作にてギア段が切り替えられるマニュアル式の変速機と、前記変速機の入力軸と第1クラッチ手段を介して接続された内燃機関と、前記入力軸と第2クラッチ手段を介して接続された電動機と、前記変速機の出力軸と動力伝達可能に接続された駆動輪と、を備え、
前記第1クラッチ手段は、クラッチペダルにて操作されることにより前記内燃機関と前記入力軸との間の動力伝達を許容する係合状態とその動力伝達を阻止する解放状態とに切り替えられ、
前記変速機には、ギア段の切替時に切替後に使用されるギアとそのギアが設けられた軸とを摩擦力を利用して同期させるシンクロ機構が設けられているハイブリッド車両に適用される制御装置において、
前記第2クラッチ手段が前記電動機と前記入力軸とを動力伝達可能に接続する入力軸係合状態のときに前記第1クラッチ手段が前記係合状態から前記解放状態に切り替えられた場合に、前記入力軸に前記電動機からトルクが印加されるように前記電動機を制御するトルク印加手段と、前記トルク印加手段によりトルクが印加されているときの前記入力軸の回転数に基づいて前記変速機が前記入力軸と前記出力軸との間の動力伝達が遮断されたニュートラル状態に切り替わったか否か判定するニュートラル判定手段と、前記ニュートラル判定手段により前記変速機が前記ニュートラル状態に切り替わったと判定された場合に前記第2クラッチを前記入力軸から前記電動機が切り離される電動機解放状態に切り替える制御手段と、を備えた制御装置。
【請求項2】
前記ニュートラル判定手段は、前記トルク印加手段によりトルクが印加されているときの前記入力軸の回転数が予め設定した所定の回転数範囲外になった場合に前記変速機が前記ニュートラル状態に切り替わったと判定する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記第1クラッチ手段が前記解放状態に切り替えられる直前の前記変速機のギア段に基づいて前記入力軸の回転数を推定する入力軸回転数推定手段をさらに備え、
前記回転数範囲は、前記入力軸回転数推定手段により推定された回転数に基づいて設定される請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記ニュートラル判定手段は、前記トルク印加手段によりトルクが印加されているときの前記入力軸の回転数の時間微分値が所定の判定値以上の場合に前記変速機が前記ニュートラル状態に切り替わったと判定する請求項1に記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−86542(P2013−86542A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225956(P2011−225956)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】